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蘇る命
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いろいろなことがあった。

本当に、いろいろなことが。

あたしにも、周りのみんなにも。


あれから、もう2年が過ぎようとしている。

思ったより長くかかっちゃったけど、その間、ずっとシンジが看病してくれた
おかげで、あたしは心も体も、すっかり元気になった。

そして今日やっと、この病室からあたし達の家に帰ることができる。

荷物もまとめたし、着替えも終わった。

あとは、あいつが迎えに来てくれるのを待つだけ。


病室の窓を開け、身体を乗り出して、空を見上げる。

落ちてしまいそうになるほど深い青空。

退院するにはもってこいの日だわ。

新鮮な空気を思いっきり吸い込む。

その時、気持ちのいい風が吹いてきた。

目をつむり、髪をそよがせて、その風を体で感じる。

すると、耳元で囁き声がした。


”生きていてうれしい?”


あたしは思わず口にして応える。

「うん。とっても」


”そう。幸せになってね”


そっと、目を開ける。

風は止んでいた。

静かで優しい声だった。

今はもう聞きたくても聞くことのできない声に、どこか似ていたような気がする。

あの子が退院のお祝いに来てくれたのかしら。

ふふ、なんちゃって。

きっと、偶然、風の音が人の声みたいに聞こえたのよね。


あいつが迎えに来るまで座って待っていようと、
2年間お世話になった、でも今日でお別れをするベッドに歩み寄る。

その時、シーツの上に一枚の花びらが落ちているのに気がついた。

さっきの風で舞い込んできたのね。

そっと、それを手に取る。

小さな白い花びら。

よく見れば縁が薄く紫がかっていて、陽の光にあてるとキラキラと輝く。

「きれい・・・」


トントン。

「あ、はーい」

ガチャ。

「どう、アスカちゃん。用意はできた?」

「なんだ、シンジじゃないのかぁ」

部屋に入ってきたのは、顔馴染みの看護婦さんだった。

とても優しい人で、あたしとは友達のように付き合ってくれる。

「あはは、ごめんね。彼なら、もうすぐ来てくれるわよ」

「でも、おっそいわねぇ、なにトロトロしてんのかしら。
 あ、ねぇねぇ、これ見て。綺麗でしょ」

その花びらを手のひらに乗せて、見せてあげる。

「へぇ、綺麗ね・・・。
 あら?これって、たしか・・・。ね、この花びら、どうしたの?」

「風で飛んできたのよ」

「ふーん、不思議ねぇ」

「何が?」

「この花を咲かせる草、日本には生えていないはずなのに」

「うそ・・・。でも、なんで日本に生えないわけ?」

「その草を必要とする土地がないからよ」

「ん?どういうこと?」

「うん。その草はね、異常気象で塩がふいた土地に生えて、
 塩を吸い上げて、水と一緒に根にためておくの。
 それを動物が食べて・・・何百年もかけて、ほんの少しずつ、
 土から塩を除いてくれるんですって。
 この前、テレビでやってたのよ」

「へぇ。そうやって、その土地に緑を蘇らせてくれるのね」

「2年前に発見されてから、世界中でだんだん増えてきてる、って言ってたわ。
 でも、ここら辺に、そんな土地あったかしら」

「2年前に発見・・・って、サードインパクトの後に生まれたってこと?」


それって、もしかして・・・。


「ええ、新種の植物なのよ。
 あれのせいで、たくさんの種類が絶滅したでしょうに、
 中にはそういうのもあるのねぇ。
 名前は、えっとね、たしか・・・アヤナミ草、だったかしら」

「そう・・・」

一滴の涙が頬を伝わり落ちる。

「あ、あら、あたし何か、悪いこと言ったかしら」

「ううん。・・・嬉しいの・・・」


ファースト、あなたの願いは叶ったのね。


あたしは、手にしていた花びらを、優しく胸に抱きしめた。


                                終
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マナ:アヴィンさん、投稿ありがとうございました。

アスカ:やっと、アタシも退院できるのね。この2年長かったわぁ。

マナ:2年もよくシンジが世話をしてくれたわね。こきつかわれるシンジの姿が目に浮かぶようだわ。

アスカ:こきつかってなんかいないわよ。シンジにはこの2年間、世話になって感謝してるんだから。

マナ:あら? どうしたの? やけに穏和になったじゃない? なんだか張り合いが無いわね。

アスカ:ちょっとねぇー。

マナ:どうしたのよ。

アスカ:さっき、人の願いに込められたやさしさに触れた気がしたから・・・。

マナ:何それ?

アスカ:アンタにもきっとやさしい心があるのね・・・。

マナ:・・・・・・・・・・。なんか、今日のアスカ・・・いや・・・。(TT
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