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フィクション
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りーん・・・りーん・・・
薄暗い部屋に、遠くから聞こえてくる虫の声だけが小さく響いている。

肩を寄せ合ってベッドに腰掛けている、私とシンジ。

窓から差し込む現実味のない月の明かりが、シンジのギリシャ彫刻のように端正な面立
ちに、ぼんやりとしたコントラストを作り出していた。

じっと見つめ合う私達。

吸い込まれてしまいそうな程に深い漆黒の瞳が、私を見つめている。そこに宿る光は、
この世の全ての宝石を一点に凝縮してもまだ足りないほどに美しかった。

私がこの世に存在したときから、あなたに見つめられていたように思える。

私がこの世から消えてしまうまで、あなただけを見つめているに違いない。

一瞬が永遠。永遠が一瞬。温かくて心地よい、重力の感じられない世界の中、ゆらゆら
としている私の心で唯一確かなものは、目の前の人を想う気持ちだけだった。

求める心は満たされているようで、満たされていない。

触れ合っている二人の肩。そこから伝わってくるシンジの体温。
膝に置いた私の左手は、シンジの大きくて乾いた右手に包まれていて、じんわりとした
温もりを私に伝える。

それらはまるで、シンジの優しさが私の心に流れ込んで来るかのよう。

でも、それだけじゃ嫌なの。もっとあなたを感じたい。もっと私を感じて欲しい。

「愛してるよ、アスカ・・・」

「シンジ・・・」

それは声になったのか、自分でもわからない。

シンジは左手をそっと伸ばしてくると、手の甲で髪をかき分け、手の平を私のうなじへ
とあてがう。

その手からますます吸い取られていく現実感。

熱いのは、シンジの手? 私のうなじ?

シンジの唇が近づいて来ているの? 私の唇が近づいて行ってるの?

夢と現実ともつかぬ淡い時間の中、瞼がゆっくり降りてきて、私を闇の世界へと導く。

シンジの唇は、私の震える唇の先にちょこんと一瞬、生暖かく湿った感触だけを与える
と、少し距離を置いた。

どうしたの? 早くあなたが欲しいのに。私の心を分けてあげたいのに。

けれど、その願いは言葉にならない。

私にできるのは、薄く目を開くことだけ。

すぐ目の前にあるシンジの優しい瞳。

心の奥で、とても熱い何かが激しく渦巻く。
これは愛しさ? それとも切なさ? よくわからない。
ただ、火傷しそうなほどに胸が熱い。

ああ、シンジ・・・。

微かに震えている瞼を、再び閉じる。

溢れる想いは1つの雫となり、目からこぼれて頬を伝う。

そして、私達は唇を重ねた。今度は深く、とても深く・・・。

                                  <終>
-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -













その小説のクライマックス・・・シンジとの熱いキスシーン・・・を書き終えたアタシ
は、静かにペンを置いた。
そして、原稿用紙に汚い字で殴り書きされたそれを、じっくりと読み返してみる。

・・・。

ハァ。
深いため息を付いて、余韻に浸るアタシ。

す・・・。

素晴らしいぃっっ!

素晴らしすぎるわよ! この作品ってば! ま・さ・に、芸術だわ!
やっぱアタシって天才よ! なんかこう、感性がほとばしってるわよね!
くぅー、身体の震えが止まんない! キてる! キてるわっ!
ああん、もう、頭の中が火事になっちゃってるわよアタシ!
んもー! んもぅぅーー!! やってみたいー、こんな感じのキスシーン!!
キスー、キスー、キスゥゥーー!!!
んんーーしんじいいぃぃーー! ちゅーしてええぇぇぇ!!!

トントン。
そのノックの音がした瞬間、アタシは突き出していた口を引っ込め、自分自身をきつく
抱きしめていた両手を膝に降ろし、目と鼻と頬の形を通常待機のそれへと戻した。
頬が赤いだろうけど、アタシはカメレオンじゃないから、これは隠しようがない。

ガチャ。
ノックの返事を聞きもせず部屋に入ってきたのは、よりにもよってそのシンジ。
もっとも、結婚して以来、アタシ達はずっと二人暮らしだから、シンジ以外の人間が入
ってきたら思いっきり困るんだけど。

恐らくみっともない姿は見られずに済んだだろうと、アタシは密かに胸をなで下ろす。

ノック不要の仲とはいえ、さすがにあんな格好を見られるのは恥ずかしすぎるわ。

「アスカ、お茶煎れたから、向こうで一緒に飲もう」

「え? あ、うん。今、行くわ」

「何してたの?」

「小説書いてたのよ。ほら、例のやつ」

「ああ、あれね。そろそろ書き終わった?」

「うん。ちょうど今、出来上がったところ。まだ清書してないけど、これ」

アタシは手元の原稿用紙数枚を、シンジに手渡した。

ただ黙ってそれを流し読みするシンジ。たまに小さく頷いたりしている。

アタシは緊張に身体を堅くして、両手を膝の上で握りしめながら、その評価を待つ。

「・・・」

「ど、どう?」

「うん。なかなかだと思うよ」

「最後のシーンとか、どう? わりとうまく書けたつもりなんだけど・・・」

「うーん、ここはちょっと、リアリティに欠けるかな?」

「そ、そう・・・」

「アスカ。キスっていうのはね、こうやってするものなのさ・・・」

シンジがくい、とアタシの顎を軽く持ち上げ、熱い眼差しで見つめてくる。

「あ・・・」

思わず漏れてしまう歓喜の声。

その綺麗な瞳の中に映っているアタシの顔が、だんだんと大きくなってゆく。

もう、強引なんだから・・・。

「好きだよ、アスカ・・・」

でも、そういうとこ、キライじゃないわよ・・・。

「シンジ・・・」

アタシはシンジを拒むことなく、その背中に両手を回す。

意識しなくても自然に瞼は落ちて行く。

アタシとシンジ唇の距離は、それからしばらくの間、ゼロのままだった。

                                  <終>
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・・・ゼロのままだった、終わり。っと。

アタシは書き上げたばかりのこの文書ファイルを、とりあえずフロッピーディスクに保
存する。淡いアクセスランプを灯し、低い唸り声を上げるディスクドライブ。

このSS、シンジとのキスシーンを書いてるアタシが、現実にシンジとキスをするって
いうオチなんだけど・・・。うーん、これじゃ、ひねりが足りないかなぁ。

おかしなところがないかと、ひとまず読み返してみる。

・・・。

よしよし。自分の作品、っていうか妄想に酔ってるアタシの愛くるしい暴走ぶりが、か
なりポイント高いわよね。ここ、なかなかうまく書けてるわ。
それに、このシンジも素敵だし。まるで、そう、加持さんみたいよね・・・。

ハァ。
思わず嘆息を洩らしてしまう。

本物のバカシンジも、これくらい積極的なヤツだったらいいのに。
ううん。こんなにキザなのも考え物だけど。ただ、もうちょっと、ほんの少しだけでい
いから、どうにかなってくれないものかしらねぇ。

アイツ、例の2バカ達には、アタシのこと好きって言ったらしいじゃない。
何でそのことをあんな連中に言えて、アタシに言えないのよ。

トントン。
控えめなノックの音。
ミサトはまだ帰宅していないから、その音の主はアイツだ。
噂をすれば何とやら、ね。

「アスカ、入っていい?」

「いいわよ」

スー。

襖を開けたシンジは、ティーポットとティーカップ2つを乗せたトレイを私に見せる。

「お茶煎れたんだけど、どう?」

「気が利くわね。もらうわ」

「何してたの?」

「え、ちょっとね、SS書いてたのよ」

「へぇ。どんなの? 読ませてよ」

「ちょっ、だめよ!」

「い、嫌なら、別にいいんだけどさ・・・」

ああシンジ。ここですぐに退いちゃうのが、アンタなのよね。

「・・・笑わないって約束してくれるなら、いいわよ」

「え、う、うん、笑わないよもちろん」

「ホントにホントよ?」

「うん、約束する。笑わないって」

それを聞いたアタシは、笑ったら死刑よと言いながら、ノートパソコンの液晶画面をシ
ンジの方へと向ける。

心の準備は、意外にあっさりと済んだ。
どちらにしろ、いつかは何らかの方法で、これをシンジに読ませるつもりだったのだ。
アタシの気持ちに気付かせるために。そして、シンジからアタシに告白させるために。
・・・出来上がった途端に、こんな直截な方法で読ませる羽目になるとはさすがに予想
できなかったけど。

アタシは、マウス片手にそれを読み進めていくシンジの顔を、じっと見ていた。

読み進んでいくにつれ、シンジは顔をだんだんと朱に染めていく。
逃げないでね、シンジ。

・・・。

しばらくして、口をパクパクさせ、たまに生唾を飲み込みつつも何とか最後まで読み切
ったシンジは、とうとう首までをも熟れたトマトのように赤くして、液晶画面を見つめ
たまま固まっている。

放っておけばこのまま彫刻になってしまいそうなので、アタシから声をかけることにし
た。

「どうだった?」

「ど、ど、どうだったって、い、言われても・・・」

「読ませてやったんだから、ひとこと感想ぐらい言ったら?」

「ア、ア、アスカは、ボクにさ、その、こういうこと、して欲しいの?」

「本物のアンタなんかには期待してないから、SSで我慢してるのよ」

「・・・」

さあ、告白するのよ、シンジ。アタシの返事は決まってるんだから。

「・・・」

「あの、その、アスカさえいいんだったら、キ、キキ、キス、しよう」

「へ? い、いいわよ・・・」

「アスカ・・・」

シンジがアタシの両肩を、ぎこちなく、それでも優しく抱く。もっと強く抱いてくれて
も良いのに。

アタシは、そのシンジの二の腕に軽く手を添えた。

「好きだ」とか「愛してる」とかいう言葉はまだ聞いてないけど、それでもいいの。
これからたーっくさん、聞かせてもらうから。

薄く開けた瞼の向こうに、だんだんと近づいてくる真っ赤な顔が見える。

アンタからキスしようって言ってきたんだからね。
アタシがさせたわけじゃ、ないんだからね・・・。

そして、シンジが唇を重ねてくる。やっぱり、ぎこちなく。そして、とても優しく。

その唇の柔らかさと温かさを感じつつ、薄目を開けたアタシは思った。

シンジ、目をつむるのは、アタシだけでいいのよ、と。

                                  <終>
-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -













・・・アタシだけでいいのよ、と。終わり。っと。

ンフ、ンフフフ。とうとう完成したわ。

どーお? なかなかのもんでしょ。
この「LASなSSを書いてるアタシ」を書いてるアタシが主役のLASなSSは。
ん? ワケわかんないって? アタシもワケわかんないわ。

でも何となく、新鮮かつ斬新で大胆な響きよね。
そう。アタシは今この時この瞬間、SS界に新境地を開拓しちゃったに違いないのよ!
おっと、忘れないうちに保存しておかなきゃ。停電なんかがあったら一大事だからね。

・・・と、どこかの誰かに力説したアタシは、その文書データをDVDに保存する。
何だか不安になって、もう一度、上書き保存のボタンを押した。

さてと。これ、どこのホームページに投稿しよっかなぁ。
やっぱり、例のあそこかしらね。「出るかラブホース」とか「靴ぺら」っていう面白い
SSを連載してるところ。
それと、素敵なペンネームも考えなくちゃ。まさか本名で投稿するわけにはいかないか
らね。どうしよう。うーん。

あ、そうだ。投稿するからには、失礼があってはいけないわ。
とりあえず最初からもう一度、読み返してみよっと。

・・・。

ハァ。
アタシは、しみじみとため息を洩らしてしまう。

あぁ、アタシとシンジのキスシーン、ステキだわぁ〜。
ホント、LASっていいわねぇ。エヴァのSSの王様って感じよねぇ。
自分で書くのはちょっと恥ずかしいけどさ・・・。

それに引き替え、LRSなんて・・・えーと、ほら、日本の諺で何て言ったっけ? 
・・・あぁ、思い出した。「目くそ鼻くそを笑う」ってヤツよね! LRSなんて笑っ
ちゃうわよ。ハハン、ってね。
は? LMS? 聞いたことないわ。 

でもさ。
本物のあのウルトラ鈍感バカシンジとこのアタシが、ウェブサイトにゴロゴロ転がって
るSSみたいに「甘いキス」をするなんて、どだい無理な話でしょうね。しょせん、空
想の中の出来事なのよ。

そりゃ、アタシだってしたいわよ。その、シンジとキスをさ。

でも、そんなシチュエーション、逆立ちしたって作り出せるわけないじゃない。
このアタシが、シンジと2人きりの時に「好きなの」とか「キスして」とか口にできる
ほど素直になれたら、それこそ奇跡だもの。

探せば、どこかに「素直になれない二人が成り行きでキスする」みたいなSSはあるか
もしれないけど、そんなの嘘っぱちよ。現実には、少なくともどっちかがリードしない
とキスなんてできっこない。今アタシが書いた、このSSみたいにさ。

それに、それに、シンジはアタシとキスなんて、したくないかもしれないし・・・。

「アスカー、ご飯だよー」

「わかってるわよ、うっさいわね!」

廊下からアタシを呼ぶシンジの声に、反射的にまるで愛想のない、というかそれ以下の
返事をしてしまう。

アタシは、思わず両手で頭を抱え込んだ。

あーあ、またやっちゃった。どうなってんのよ、アタシの頭。
このままじゃマズイのはわかってるのよ。けどさ、今までも頑張ってみ・・・。

グゥゥ〜。

・・・何の音かは、聞かないように。

はぁ・・・。
今日の夕御飯、何だろう? この香りはシチューかしら?
毎日毎日、ホント楽しみなのよねー、シンジの作ってくれるご飯。
一度くらい、誉めてあげよっかなぁ。勇気を振り絞ってみてさ。

そう思いつつ、パソコンの電源を落としてDVDを抜き取ると、それを机の引出しに隠
す。こんなのが見つかったら、恥ずかしさで死んでしまうだろうから。

そして、早足にキッチンへと向かった。




「あれ? ミサトは?」

キッチンへとやって来たアタシを出迎えたのは、お玉を手にするシンジ一人。

「ミサトさん、今日は徹夜で帰れないって言ってたじゃない」

「そ、そんなこと知ってたわよ」

てっきり忘れていた。そういえば、今晩は二人っきりなんだったわ。
で、でも、そんなの良くあることじゃない。
何とも思ってないわよ、アタシ。・・・うん、何ともないんだから。




・・・。

かちゃかちゃという食器の音だけが、食卓の上に微かに響く。

な、何だか、今日の夕食はやけに静かね。いつもなら他愛のない話を色々してるのに。
原因は・・・やっぱり、アタシだわ。さっきまであんなの書いてたもんだから、意識し
ちゃってるじゃない。
シンジもシンジよ。いつもアタシから話しかけられるの待ってるんじゃなくて、たまに
は自分から話題を振ってきなさいよ。

こういう空気って苦手なのに〜。・・・よ、よし、何か話しかけよう。
そうね・・・。さりげなーく、「アンタ、このシチュー、おいしいわね」とでも。
さあ、い、行くわよ、アスカ!

「アンタ、こ、ここ今晩ミサトがいないからってヘンなこと考えてたら殺すからね!」

そうじゃないでしょアタシッ!

「そっ、なっ、考えてるわけないだろっ!! そんなこと!!」

「もうっ! そんな大声出さなくたって聞こえてるわよ! まったく・・・」

唾が飛ぶじゃないの!
たかがアレくらい、軽く受け流してやり返すくらいのこと、して欲しいわよね。
・・・ん? シンジの顔、赤いわ。コイツ、何考えてるのよ。
あれ? アタシの顔も火照って来ちゃった。
な、なんだか、ドキドキして来ちゃったわよ・・・。

アタシは、恥ずかしさで顔を伏せた。

それきり会話が無く、二人とも黙々と食事を続ける。

・・・。

・・・。

ほうれん草のお浸しに、醤油が欲しい。

アタシは俯きながら手を伸ばし、醤油入れを掴んだ。

あれ、ヘンだ。この醤油入れ、何だか温かくて柔らかい。
これって・・・シ、シンジの手!?!?

思わず顔を上げると、同時に顔を上げたらしいシンジと目が合う。

カァ〜。
また頭に血が上る。

動けない。

手は、二人で醤油入れを掴むように軽く握り合ったまま。

動けない。

手は握り合ったまま。

動けない・・・はずなのに、アタシとシンジは腰を浮かせて、ゆっくりとお互いの方へ
身を乗り出してゆく。

・・・な、なな、なんで、こんなことしてるのかしら。

でも、理由なんか見つからないわよ。だって、身体が自然に、そう動いてるんだもん。

だんだん近づく二人の顔と顔。

シンジの顔は茹でダコのように真っ赤だ。きっと、アタシもそうなんだろうな。

あ、このまま進んだら、鼻がぶつかっちゃう。

アタシは少し小首を傾げてから、また顔を近づけて行く。

心臓が、もう破裂しちゃいそうなくらいにバクバクと波打っている。

鼻息がこそばゆかったけど、何も言わない。言うことが出来ない。

そのまま食卓の上で、アタシ達は口づけをした。

シチューの味がする。

シンジの瞳にアタシの瞳が映ってる。

それを見て、うっかり目を閉じるのを忘れていたことに気が付いたアタシは、慌てて目
を閉じた。

                                  <終>
-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -













慌てて目を閉じた、か。・・・何だかハッキリしない終わり方だけど、これでいいや。
終わり、と。

四苦八苦した挙げ句、やっと書き上げたこのSSを、ボクはノートパソコンのハードデ
ィスクに保存した。念のために隠しファイルにするのも忘れない。万が一、ボクとアス
カとのキスシーンなんてものを書いてるのが当のアスカにばれたら、その日がボクの命
日になるからだ。

このSS・・・いわゆる「ループもの」に挑戦してはみたものの、あっけなくループに
失敗。結局、オチが有るんだか無いんだかわからない代物になってしまった。
やっぱり、出だしが悪かったよな・・・。

でも、こういうのも意外と面白いかもしれない。
そう思って一度、きちんと最初から読み返してみる。

・・・。

・・・つ、つまらない(汗)。

描写がヘタ。構成もヘタ。台詞にも現実味がない。不自然なキスシーンばかり。

やっぱりボクって、SSを書く才能、無いのかな・・・。

それでも少しはマシになるかと思って、何十カ所かちょこちょこと修正してみる。

これでなんとか、読めるものになっただろうか。
下手なのは仕方ないだろう。数をこなしているうちに、きっと上手くなるさ。

思い切って、これ、どこかのホームページに投稿してみようかなぁ・・・。

でも、このネタ、どこかで誰か他の人に使われてたらどうしよう?
ボクが考えつくぐらいだから、他の人達だってとっくに考えてるよね。
もし、誰もまだ書いていなかったら、それは、あまりにもくだらなすぎて書く気になら
ないからだろうな・・・。

・・・。

やっぱり、ボツにしよう。
こんなSSを投稿したって、管理者の人に送り返されるのが関の山だよ。

ボクは、いっそのことハードディスクから削除してしまおうと、そのファイルをゴミ箱
のアイコンの上へとドラッグする。

本当に削除していいですかと確認してくるコンピュータ。

そして、いったんは「はい」のボタンの上にマウスカーソルを移動させるが、いったい
どこに未練があるのか、結局は「いいえ」を選択してしまうボク・・・。

ハァ。
ため息しか出ない。

心の中に虚しさが漂う。

ボクはいったい、何をやってるのだろう。
するべきこと、しなければいけないことは、他にたくさんあるに違いないのに。
わかっているんだ。こんなことをしてても何にもならない、って。
このアスカとのキスシーンだらけのSSは、全てボクの心の中にある願望。
全くの、架空の出来事。
フィクションなんだ。
現実には絶対に有りえっこない。
そう、現実は・・・。

「バッカシンジー! 早く夕飯作りなさいよ! なにグズグズしてんのよっ!!」
「シンちゃーん、おつまみもっとちょーらーい。ひっく」

・・・ほら。
リビングから、アスカとミサトさんの「エサ」を催促する声が響いてくる。

「いま行くよー」

とりあえずそう応えると、再びハァ、とため息を付く。それは、心地よいSSの世界か
ら、この茨のような現実へと戻ってくるための儀式。

そしてボクは、ノートパソコンのディスプレイを緩慢な動作で閉じ、気怠そうに椅子か
ら立ち上がるのだった。

やれやれ、と。

                                  <終>
-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -













うむ。我ながら面白いSSを書くことができた。

冒頭からラブラブLASかと思いきや、それはアスカ君が執筆したもので、実はそのア
スカ君もSS中の登場人物で・・・このパターンが続くかと読者に思わせておいて、結
局は全てがシンジの妄想SSだったというオチ・・・。
読み手は、果たしてこのオチを予想できるだろうか。ニヤリ。

さわやかな笑みを口元に浮かべた私は、この文書をMAGIの保守レベル・トリプルA
プラスのフォルダに保存し、ネルフの最重要機密に指定する。
そして、それまで酷使した十本の指を優しくいたわるように、白い手袋をした両手を揉
み合わせた。

さて、必要ないとは思うが、念のためだ。読み返してみるか。

・・・。

フゥ。
安堵のため息を付き、メガネを押し上げる。

よし、問題ない。素晴らしい仕上がりだ。
誰もケチの着けようなどなかろう。

どれどれ、もう一度、読み返してみるか。

・・・。

うむ。文句なしに面白い。

ただ、いささかストーリー展開に説得力と意外性が欠けているだろうか・・・。

しかしまぁ、そこはやむを得まい。
今回はくだらん職務のせいで、どうしても細部を検討する時間が足りなかったからな。
まったく、よりにもよって歴史に残るかもしれぬ作品の構想を練っている真っ最中に現
れおって、アラエルの奴め! おかげで私は大迷惑を被ったではないか。

さて、そろそろ時間だな。
これから、ゼーレの老人どもとの定例報告会議に行かねばならん。

おおっと、いかんいかん。
このSS、内容があまりに素晴らしいものだったから、ついうっかりタイトルを付け忘
れていた。

そうだな。・・・「タマネギの皮」・・・いや、これは安易すぎる。却下だ。

うーむ・・・。

まぁ、タイトルなんぞ何でもよかろう。重要なのは、やはり内容だからな。

・・・よし。これも少々安易だが、「フィクション」といったところにするか。
それと、ペンネームは「アヴィン」と。・・・これでよし。完成だ。

トゥルルルルル・・・

その時、電話が鳴り出した。この音は冬月からのコールだ。
私は受話器を取り、それを耳に当てる。

「何だ、冬月」

「碇、もうすぐ例の報告会が始まるぞ。『槍』を失ったことの『口実』は考えてあるの
 だろうな?」

「ああ、問題ない。・・・時計の針は元に戻すことはできない。使徒などを相手にして
 SSの執筆時間を削るわけにはいかなかった。・・・そう言ってやれば、老人どもは
 何も言えんよ」

「うむ、それが一番だな。で、おまえのSSはしっかり出来上がっているのか?」

「ああ。最優先事項で処理した」

「そうか、ならばいい。・・・今度こそ、キール議長のラブラブLASを越えることは
 できそうか?」

「フッ、さぁな。なにしろヤツは手強い。おそらく、今回もゴロゴロ用のマットは必須
 だろう。・・・だが、私の今度の作品は自信作だ。少なくとも、お前のダークものよ
 りは出来が良いことを確信している」

「いや、私は今回は趣向を変えて、LRSでいくことにしたよ」

「な、なにぃ!? LRSだと!?」

ガタッ。 驚愕し、思わず椅子から立ち上がる私。

「冬月、お前、私の可愛いレイを・・・。まさか、やはりイタいのか!?」

「その点は心配せんでいい。レイは幸せにシンジ君と結ばれる。そういう結末にした」

「そ、そうか。それならばよかろう」

「ただ・・・」

「ただ、何だ?」

「ただ・・・X指定なのだ」

「冬月きさまあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!」

                               <終(本当)>
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<作者あとがき>

 さて、皆さん、いかかでしたか? (^^;;
 とりあえず読んで下さり、どうも有り難う御座いました。m(_ _)m
 よろしければ、一言でも構いませんから御感想のメールをお寄せ下さい。もちろん、
「ここがダメだ」のようなご批判も大歓迎です。とても勉強になりますから。
 自分で書いてて言うのもなんですけど、「実はSSの中のSSだった」という結末は
一種の「夢オチ」ですからね。それをいくら繰り返しても、反則であることに違いはな
いかもしれません。
 このSSはですね、私には実力が無いことだし、こういう反則技も一回くらいなら許
されるだろう、などという諦めの気持ちでやっちゃったものです。(^^;;
 もう二度と、実力の無さを反則技で補うようなことは致しません。・・・たぶん。
 では、そろそろこの辺で。いつかまた、どこかでお会いしましょう。(^_^)/~

 あ、いっけない! 私、とても大切なことを言い忘れてしまうところでした。
 最後に一言だけ、言わせて下さいね。

   このSSはフィクションであり、全て私、伊吹マヤの創作によるものです。
        実在する人物・団体名とは、一切関係ありません。

 これでよしっと。
 あら、向こうでセンパイが呼んでるわ(ハァト)。ハーイ、いま行っきまーっす。
 では、そういうわけで皆さん、さよーならー。(^^)/~~~
------------------------------------------------------------------------------
                 −お わ り−


マナ:頭がぐーーーるぐる・・・ぐーーーるぐる・・・。(@@)

アスカ:け、結局アタシはどうなったわけ????

マナ:これは・・・どんなコメントを言えばいいの?

アスカ:知らないわよっ! アタシがどうなったのか・・・LASなのかLRSなのかすらわからないんだもん。

マナ:とにかく、わかっているのはLRSはそれなりにフォローがあったけど、LMSにはフォローが無かったってことよ!

アスカ:あぁ、あのLMSってアンタじゃなくって、マヤのことよ? アンタなんて、名前も出てないわ。

マナ:な、な、なんでよ!!! ひっ、ひどいじゃない!

アスカ:決まってるでしょ! マヤがこのSSを書いたからよ。

マナ:え? ”アヴィン”というペンネームを使う碇司令が書いたんじゃないの?

アスカ:甘いわね。後書きを見なさいよ。

マナ:ということは・・・。

アスカ:そうよ! ”アヴィン”とは、マヤが作り出した人物だったのよぉぉぉぉーーーーーーー。

マナ:でも、そのマヤさんを書いたのはアヴィンさん・・・。

アスカ:違うわ、”アヴィン”は、マヤが書いたSSに出てくる司令のペンネームなのよっ!

マナ:頭がぐーーーるぐる・・・ぐーーーるぐる・・・。?(@@)?
作者"アヴィン"様へのメール/小説の感想はこちら。
avin@pop06.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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