「戦え。ライダーを倒すのがおまえの役目」

「・・・・・・誰だ、お前は。俺をどうするつもりだ」

「私の名は碇ゲンドウ」

一片の光もない暗闇の中、2人は互いを見ている。

足元には血溜まり。

漂うのは死臭。

「・・・・・・戦い続けろ。さもなければ去れ!!」

男が差し出した何かを、男は操られるような仕草で手にした。

「これは・・・・・・」

何の変哲もない黒のカードケース。

男の手にそれが渡った瞬間、辺りに異様な音が響いた。

否。

先刻から、響き続けている音。

ただ男には聴こえなかっただけだ。

耳鳴りにも鈴の音にも似た涼やかな音。

何かが囁いてるようにも聴こえる冷たい響き。

「問題ない・・・」

男の呟きとほぼ同時に、闇から何かが現れる。

『何か』としか形容出来ない、何か。

「契約しろ。ライダーになれ。そして、戦え」

男の声に導かれるように、男はケースから1枚のカードを引き抜き、『何か』に差し出した。

『CONTRACT』

闇を切り裂く金色の光。

時を同じくしてケースに描かれる、同じく金色の紋章。

「―――俺は、どうなったんだ?」

「戦え。さもなくば死ぬだけだ」

男が振り向いた時、男の姿は既になかった。

最初から闇しかなかったかのように。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

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仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
          第三話話三第 


「うおおおおお―――!!」

回転しながら吹っ飛んでいくシンジ。

だが、隙だらけのその姿を龍は狙わない。

あの情けない蹴りでも一応のダメージはあったらしく動きを止めている。

「ぐへあっ!」

地面に叩きつけられ、跳ね、転がり、頭をさすりながら起き上がる。

「いって〜・・・・・・」

ふと、辺りを見回すと、そこは最初に飲み込まれたミラービルだった。

「・・・・・・ひょっとして、来た場所からなら帰れるのかも」

考えている余裕はない。龍は既に体勢を立て直し迫ってきている。

「よっし!ダメでもともと当たって砕けて木っ端微塵!とお―――っ!」

シンジは全速力でミラービルのガラスに突っ込む。

来た時と同じく、水面のように波打つガラス。

龍の吐く炎が迫る中、シンジの姿はガラスに吸い込まれて消えた。

後に残ったのは、咆哮する龍。

―――そして、黒いバイクに跨った、マントの騎士。

「・・・・・・どうにか逃げたようね。契約前のライダーがあんなに無様だとは思わなかったわ」

言いながら、右手の剣にカードをはめ込む。

『Swordvent』

空から飛来する槍。

騎士は左手でそれを掴み、剣を腰に収めた。

「さて・・・・・・と。久し振りの大物なのよねぇ」

龍は炎を吐かず、空中にゆっくりと漂って様子を見ている。

期を窺っているような、距離を計っているような、微妙な動きで。

それは騎士も同じである。槍を身体の前に構えながらじりじりと距離を詰めていく。

やがて、ある距離で膠着状態が訪れる。どちらも動かない。

「・・・・・・」

騎士の腕が僅かに下がった。龍が反応した時には、既に騎士は眼前に迫っている。

槍が空を切り裂き、龍の喉を捉えようとしたその時。

『Strikevent』

無機質な声。

地を蹴る音。

金属音。

衝撃。

全てが一瞬に起こった。

騎士がそれを知覚するとともに、龍は地に叩き落され、騎士はビルに叩きつけられてガラスを数枚砕きながら倒れる。

「ぐうっ・・・・・・!」

「久し振りだな、ナイト」

妙に自信ありげな、上がり調子の・・・・・・というか、人を馬鹿にした口調とともに着地音が響く。

「シザースね・・・・・・」

騎士―――ナイトは、埃を払いながら立ち上がった。

マントに付いたガラスが光を反射しながら舞い散る。

「相変わらず、姑息な手ね」

「それが戦いだ。俺たちは戦わなければ生き残れない」

「違いないわ」

ふん、と息を吐くナイト。

「・・・・・・あの龍は・・・・・・逃げたか。いや、シンジを追ったのね」

金色の装甲。

触覚らしい2本の湾曲した突起と、おそらくは蟹を模したのであろう奇妙な凹凸がある仮面。

左手には、やや小さい、蟹の鋏に似たカードホルダー。

右手には、腕よりも巨大な鋏。

「どちらでもいいわ。ここでお前を倒し、それからあの龍も倒す。それだけよ!!」

ナイトは槍を拾い、金色の仮面―――シザースに向かって歩き出す。

「こちらもそのつもりだ・・・・・・一気に決めさせてもらうぞ」

『Advent』

『Finalvent』

2つのホルダーから、同時に声が響く。

ナイトの背からマントが外れ、巨大な漆黒の蝙蝠へと姿を変えた。

対するシザースの足元に正方形状の光が生じた。

シザースは力を溜めるように身体を縮める。

「はああああああ・・・・・・」

続けて、ナイトが新たなカードを装填する。

『Finalvent』

「やっ!」

蝙蝠とともに空高く飛翔し、黒い弾丸と化して急降下。

「飛翔斬っ!!」

「シザース・アタック!!」

それを地上から迎撃する形で、シザースの身体が回転しながら急上昇する。

2つの弾丸は接触し、衝撃音とともに黒い弾丸・・・・・・ナイトは力を失う。

落ちゆくナイトの胸を叩きつける金色の鋏。

「きゃぁっ!!」

さらに、着地と同時に巨大な鋏がナイトの腹に食い込んだ。

「ぐううっ・・・・・・!まさか、ここまで力を・・・・・・」

「これで残り11人。生き残るのはこの俺だ」

馬乗りになったシザースが、ナイトを見下しながら言う。

「シザース・・・・・・あんた、まさか人間を・・・・・・」

「非情ぶっているだけの貴様とは違う。俺は自分のために戦い、生き残る。他人を何人犠牲にしてもな」

「・・・・・・ダークウイング!」

「キイッ!!」

ナイトの呼び声に応じ、蝙蝠がシザースの背中を打った。

「くっ!」

「せいっ!!」

一瞬の緩みを衝いて、ナイトはシザースの胸を蹴りつつ起き上がる。

「人間を喰わせて強化・・・・・・。ライダー以外を殺してでも生き残りたいの?」

「今更偽善ぶるな。貴様も俺と同じ、生き残るためにライダーを殺すことを選んだ者だろう」

言いながら、シザースは右手を見る。

鋏から無数に光の粒子が漏れている。

零れ落ちるようでもあり、崩れていくようでもあった。

「・・・・・・時間切れ、か。あの女を喰うのに手間取ったからな」

「好都合だ。私にはまだまだ時間が―――」

「ボルキャンサー!」

ナイトの言葉を遮って、シザースが叫んだ。

ほぼ同時に、ナイトのベルトを打つ鋏。

2本の脚で立ち、人間で言えば両手にあたる部位に巨大な鋏を持つ、金色の蟹。

「ぐ・・・・・・っ!」

「これで条件は同じだ。今回も引き分けだな」

「デッキを狙うとはね・・・・・・」

ベルトにあるカードケース・・・・・・デッキにヒビが入ったナイトの身体からも、光の粒子が漏れ始めた。

「じゃあな」

シザースはナイトに背を向け、金色のバイクに跨る。

「・・・・・・お前は私がこの手で倒す。それまで、モンスターに寝首をかかれないように気をつけなさい」

「『倒す』か・・・・・・。『殺す』と言えないのが貴様の甘さだ。今度会った時は『殺す』。覚悟しておけ」

「くっ・・・・・・」

ナイトもまた、背を向けてバイクの元へ歩き始めた。

(私は甘くなどない。目的のためなら誰とでも戦える。誰であろうと倒せる)

自分に言い聞かせるように、小さい声で呟きながら。




「フ・・・・・・甘ちゃんだね、どっちも」

「ギギィ・・・・・・」

シマウマのような縞模様を全身に持つ、人の身体と馬の頭部を持つ何か。

両脚に穿たれた穴が歩くことを不可能にしている。

「ライダー同士が会ったらどっちかが死ぬ。それが仮面ライダーなのに」

『Strikevent』

「ガアアアア!!」

巨大な、猛牛の頭部を模したような2本の角が、シマウマの胸を貫いた。

直後に起こる爆発。

爆炎の中から現れた光球は、角の中に吸い込まれて消滅する。

「僕は違うよ・・・・・・戦うからには殺す。生き残るために」

歩き去る、緑色の装甲に包まれた、ライダー。

『Searchvent』

その姿を、闇の中から見る何者か。

手にカードを携えた、何者か。

「仮面ライダーゾルダ・・・・・・ね。AP7000とは、物騒だこと」

その何者かもまた、闇の中へと消えていった。




続く


マナ:ライダー同士が会ったら、どっちかが死ぬ?

アスカ:じ、じゃ、アタシとシンジが会ったら?

マナ:きっと、どっちかが死ぬのよ。

アスカ:そ、そんなバカな。

マナ:もう。シンジには会えないわね。フフフ。

アスカ:なんで、なんでそーなんのよっ!
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