「どうして・・・・・・どうして僕なんかに?」

「ん?」

「僕なんか助けたって、何にもならないのに」

「そうだな・・・・・・僕は警察官だから、かな。いや、やっぱり、人間だから、だ」

「人間だから、って・・・・・・?」

ずぶ濡れで泣きじゃくる男の子と、同じく全身を濡らした警察官。

川岸に座って話す2人を夕陽が照らし、黄金色に染めている。

「人間は、助け合うから人間なんだよ。確かに傷つけ合うこともあるけど、僕は人を助けたいと思う。打算も何
もなく、助けたいと思う気持ちが僕の中にあるんだ。君にだってあるはずだ。そういう優しい心が」

「優しい、心・・・・・・」

警察官は立ち上がり、大きく伸びをした。

「さて・・・・・・と。そろそろ帰らないとな。家まで送ろうか?」

「ううん。大丈夫。ひとりで帰れるから」

「そうか。風邪ひくなよ」

「うん」

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても

夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
          第五話話五第 


「・・・・・・で、何があったの?」

「話すと長いことになるし、信じてもらえるかどうか・・・・・・」

シンジは頭をぼりぼりと掻きながらそう言った。

「ま、いいわ。元気そうだし」

微笑むマユミの横顔を見ながら、シンジは考える。

(あのクモ・・・・・・マユミさんをまだ狙ってるんだよな・・・・・・・あとあの店員さんも・・・)

ナイト、つまりアスカが一時的に追い払っただけで、倒したわけではない。

『ミラーワールドに存在するものは、いずれ修復する』

母さんはそう言っていた。

ライダーの武装が常に万全の状態であったり、倒し損ねたモンスターが全快して現れるのもそのためだ。

ついでに言うなら、現実世界とミラーワールドのズレも少しずつ修正されていく。

現実とミラーワールドは連動しているが、ミラーワールドと現実は連動していない。現実で鏡を割るとミラーワ
ールドでも鏡が割れるが、ミラーワールドで鏡を割ったとしてもいずれ修復され、現実と同じ形に戻る。

つまり、あのクモは傷が塞がり次第マユミを狙って現れるということだ。

「仮面ライダーになれば、僕もアイツみたいに戦えるのかな」

「何?」

ヒカリが怪訝な表情を浮かべる。

「い、いえ。独り言です、独り言」

「・・・・・・独り言、ねえ。」

シンジはヒカリを追いかけ、その場でたまたま事件があった。

更衣室に入ったまま出て来ない母親を不審に思ってカーテンを開けると、母親は既に消えていた、というのが娘
の証言らしい。

(更衣室・・・・・・ってことは、鏡があるってことだよな?)

嫌な予感が走る。

「あの、ヒカリさん?」

「・・・・・・現場に行くな、って言うなら聞かないわよ」

「え?」

「私達が誰かに狙われてることぐらい知ってるわ。でも、そんなことで怖気づいてちゃ記者なんか出来ないの」

「でも・・・・・・」

ヒカリは振り返らないまま答える。

「何にでも首を突っ込むのがあなたのいいところでした。それとも、手掛けた事件が危険だからってあっさり引
っ込むような男だったんですの?」

「い、いえ、・・・そ、そんなことは・・・ない・・ですけど」

「だったら黙ってついて来なさい」

「はい・・・・・・」

「声が小さい!」

「はいッ!」

(・・・・・・誰かに狙われてる、ったって・・・・・・その『誰か』が鏡の中のモンスターだって言っても信
じないよなぁ)

シンジは溜息をつきながら、ヒカリの背中を追い続けた。








デパートの5階、婦人服売り場。

一応、問題の更衣室周辺にはまだ刑事がいるが、事件現場独特の熱は既に引いている感がある。

「・・・・・・どうにも、手掛かりなしね。突然消えた・・・・・・としか言いようがないわ」

ヒカリは肩をすくめながら、とりあえず写真を撮り始める。

(・・・・・・来てる。近付いてきてる)

シンジの中の何かが、モンスターの接近を告げている。おそらくはあのクモのモンスター。

(封印のカード・・・・・・)

シンジはポケットから『SEAL』を取り出し、眺める。

(・・・・・・)

「おにいちゃん」

「ん?」

袖を引かれ、シンジはきょろきょろと辺りを見回した。

視線を下に向けたところで、1人の少女を発見する。

「どうしたの?」

「その子よ、被害者の娘さん」

写真を撮りながらのヒカリの声が届く。

「・・・・・・おかあさんが」

「・・・・・・」

シンジは黙ったまま、中腰の姿勢になった。少女と同じ視点に立つ。

「おかあさんが、鏡の中に・・・・・・」

「え!?」

「鏡の中に、金色のおばけがいたの。おかあさん、連れて行かれちゃった・・・・・・」

少女の目に涙が滲む。

「おかあさん・・・・・・」

「・・・・・・」

シンジは何も言わない。

ただ、少女の頭を軽く撫でる。

(金色の・・・・・・あのクモ、だな)

「おにいちゃん・・・・・・?」

シンジの顔を見上げる少女。

(・・・・・逃げちゃダメだよな・・・・・逃げちゃ・・ダメ・・・・そう・・・逃げちゃダメだ・・・もう僕
は逃げない、逃げるものか!!)

「大丈夫。僕がおばけをやっつけてやるから」

一瞬険しい表情になったシンジだが、すぐ笑顔に戻って少女の頭を撫でる。

「・・・・・・おばけ、こわいよ」

「大丈夫・・・・・・僕は戦えるから」

シンジは立ち上がった。それも一回り大きく成ったようだ

「すいません、ヒカリさん」

振り返ったヒカリに、自分が手にしていた封印のカードを手渡す。

「何?、これ?」

「お守りです。肌身離さず持っててください」

「こんな紙切れのどこが・・・・・・」

笑い飛ばそうとしたヒカリを、シンジの目つきが凍らせた。

「・・・・・・碇くん?」

「僕、ちょっと出て来ます。あの子のこと、よろしく」

そう言って歩いていくシンジの背中を眺める。

あの目をした後のシンジは、いつもとんでもないことをしでかしてきた。

汚職の疑いがある(実際していたのだが)政治家を思いっきり殴ったり、芸能人に執拗な取材をする同業者を怒
鳴りつけたり。

あとで非常に面倒なことになるのだが、みんなは止めようとはしなかった。

自分達だってやりたかったことだから・・・いや、やらなくてはならないことだったから

しかし、今この状況であの目をする理由が見つからない。

そして、この『お守り』。

渦巻きの絵が描かれただけの紙切れ、といった印象。

(ま、いいわ)

ヒカリはお守り―――『SEAL』のカードを懐に収め、再び撮影に戻った。

涼やかに響く接近音にも気付かないまま。












「シンジ・・・・・・何しに来たの?」

屋上に向かったシンジを待っていたわけではないだろうが、アスカとユイもまたそこにいた。

「・・・・・・契約の仕方を、教えて欲しいんだ」

「契約って・・・・・・まさか、ライダーになるつもりなの?」

「なっバカシンジ!!・・・・あんた本気なの??」

アスカとユイが、まさか、といった口調で尋ねると、シンジは力強く頷く。

「何も知らないままだったら、きっと逃げてた。でも、僕は知っちゃったから。人を襲ってる奴がいることとか
それと必死で戦ってる奴がいることとか。だから、僕も戦いたいんだ。どっちにしろ・・・・・・」

デッキを取り出し、眺める。

「もう封印のカードは持ってないから。戦わなきゃ生き残れないんだ、僕は」

「どうして・・・・・・?封印のカードさえあれば、戦わなくたって」

「おしゃべりは2人でやってて。私はもう行くわ」

アスカは冷め切った声でそう呟き、屋上の一角にある鏡にデッキを映す・・・・二人にはそう見えていたのであ
ろうだが実はアスカも驚きを隠せないでいた。その証拠に動きが少々ぎこちない。

そしてデッキをはめ込むスペースのあるベルトが、アスカの腰に装着された。

「変身!」

両手の肘を曲げ、左の腰に向けて引き寄せる仕草。

続けて、デッキをベルトに装着する。

微かな閃光とともに、アスカの身体を装甲とマントが包む。

仮面ライダーナイト。

ナイトは無言のまま鏡の中へ消えた。

「アスカ・・・・・・」

「アスカだって自分が消えそうになってるのに、逃げずに戦ってた。だから、だから!!僕だって戦えるはず」

「・・・・・・」

ユイはシンジの目を真っ直ぐに見据えた。

曇りの無い瞳。

真っ直ぐな目で見返してくる。

「・・・・・・ライダーになったら、戦い続けるしかないのよ」

「分かってる」

シンジは二度、力強く頷いた。

「オオオオオオオ・・・・・・」

その時、クモとは別に、もう1体モンスターの気配が走る。

と共に、咆哮が響き渡った。

「ドラグレッダー・・・・・・封印のカードが無いから、シンジを狙ってる」

「あいつと契約するよ、僕。仮面ライダーになる」

「・・・・・・」

ユイはもう言葉を発しなかった。

「負けたわ・・・あの龍と、契約して」

その言葉を最後に。

シンジの持つデッキから、1枚のカードを抜き出す。

『CONTRACT』と書かれた、絵柄のないカード。

「これを使えばいいんだ」

こくん、と頷く。

「来い、ドラグレッダー!僕と契約してくれ!」

シンジはカードを頭上に掲げる。

「グルウウウウ・・・・・・」

ドラグレッダーが、大気を震わせながら近付いてくる。

凄まじく大きな真紅の龍。

昨日までは触れることもなかった世界。

シンジは迷いのない動きで、カードを目の前のドラグレッダーに差し出した。

笑顔さえ浮かべながら。










「くっ・・・・・・!」

ナイトは全身を糸に巻かれ、身動きが取れなくなっていた。

「ギイ・・・・・・」

ディスパイダーの巨大な足がナイトを打ち据える。

「ぐぅぅっ!」

腕を封じられているため、カードを装填することすら出来ない。為す術無く屋上を転がる。

「ギギギギ」

嘲笑うかのような鳴き声とともに、第二撃がナイトを屋上から吹き飛ばした。

「くそっ・・・・・・!」

落下していく。

マントさえ使えればどうということもない状況。

このまま地面に叩きつけられれば、かなりのダメージを受けてしまう。いや、デッキの傷が悪化し、今度こそ砕
け散ってしまうかもしれない。

(私の力はこの程度なの・・・・・・!)

心中で歯噛みするナイト。

いちかばちか、落下してからの反撃に懸けるしかない。

ナイトは覚悟を決め、落下の衝撃に備えた。

ふっ、と、風を切る感覚が無くなった。

(・・・・・・?)

代わりに、何かに抱えられているような、妙な浮遊感がある。

「・・・・・・何!?」

首を上げたナイトの目に、紅い龍が映った。

自分を護るように包む、龍。

「こいつは・・・・・・まさか・・・・・・シンジ??」

鱗から炎が噴出し、戸惑うナイトを巻く。

糸が完全に焼き尽くされ、手もマントも自由になる。

もう自力でも落下は防げるのだが、龍はナイトごと屋上へ飛翔していく。

(契約したの・・・・・・こんなとんでもない奴と・・・・・・)

ダークウイングを遥かに凌ぐ力であることは疑いない。

ナイトは戦慄を覚えながら、ただその身を預けるしかなかった。

屋上の地を踏んだナイトが見たのは、龍と同じ紅い身体を持つ、戦士・・・・・・

仮面ライダーの姿。

龍を象った仮面の奥に光る、真紅の双眸。

左手に装着された龍の頭部型バイザー。

そして、デッキが装填されたベルト。

ナイトが見る中、そのライダーはデッキからカードを抜き出し、バイザーに装填した。

『Swrodvent』

空から降ってくる剣を受け取り、ディスパイダーへと向かっていく。

「とりゃあ!」

緊張感のない掛け声とともに、ディスパイダーの脚に斬りつけるとその強固な皮膚があっさりと裂けた。

「ギッ!」

「うおっ!」

しかし、いかんせんスキが大きすぎる。吐き出された糸がライダーの全身に巻き付いて動きを封じる。

「こんなもん!」

ギリッ、という音がしたかと思うと、ナイトには全く動かせなかった糸が引き千切れ、燃え尽きた。

「ギ・・・・・・」

『Finalvent』

すかさず装填された次のカード。

ドラグレッダーがライダーの元へ近付いていく。

「おおおおおおおお・・・・・・・」

中国拳法のような、深く腰を落とす構え・・・・・・おそらくは適当だろう・・・・・・を取るライダーの周り
を飛翔するドラグレッダー。

「とっ!」

次の瞬間、空高く跳躍するライダー。

「うあありゃあぁぁぁぁ!!」

ナイトが見たのは、炎に包まれ、弾丸と化したライダーがディスパイダーの胴体を貫く瞬間。

(飛翔斬より速い?・・・・・・そんな、馬鹿な)

ナイトは、パワーならともかく、スピードでは負けない自信があった。

だが、今の技はナイトのファイナルベントを遥かに超えた速度、それどころか、見切ることすら難しいものだっ
た。

爆炎とともに生じる光球。

ドラグレッダーはそれを喰らうと、空の彼方へと姿を消した。用は済んだ、というように。

「ふう・・・・・・」

膝を抱える真紅のライダー。

『Searchvent―Masked Rider Ryuki AP6000 GP3500』

「アスカァ!!、大丈夫?」

ナイトに問いかけてくる。

「リュウキか・・・・・・今のうちに潰しておいた方がよさそうね」

『Swordvent』

空からウイングランサーが降ってくる。

ナイトは素早くそれを手にし、身体の前に構えた。

「ア、アスカァ!?」

その言葉を意に介することもなく、ナイトが斬りかかる。

紅い龍の戦士・・・・・・

仮面ライダー龍騎に向かって。






続く


アスカ:いったい何なの? アタシはいったい何をしてるの?

マナ:シンジをライダーにしたのはいいけど、なんで攻撃するわけ?

アスカ:やっぱ、ライダー同士が会っちゃいけないのねっ。

マナ:ほぉー。これは素敵な設定だわ。

アスカ:全然素敵じゃなーーーいっ! あーん、これからどーすんのよぉ。

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