キイイイイン・・・・・・と、耳障りな音が聴こえてくる。

「またか・・・・・・」

「何が『またか』なの?」

「い、いえ、なんでも」

首を傾げるヒカリに、愛想笑いを浮かべてごまかすシンジ。

「さっさと原稿上げなさいよ。締め切り明日なんだから」

「わかってます。けど、ちょっとトイレに」

頭を掻きながらさりげなく編集部を出る。






『Finalvent』

「はあああああ・・・・・・」

腰を深く落として気合を溜める龍騎。

その周りを飛翔するドラグレッダー。

「とっ!」

空高く跳躍、炎ととともに急降下する。

「と―――っ!!」

モンスターからすれば、炎の弾丸が降って来たことを認識した瞬間に身体が消滅するのだ。避けられる速度では
ない。

爆炎とともに、発光するエネルギーが宙に浮かんだ。ドラグレッダーはそれを喰らうと空へと消えていく。

「ふう・・・・・・」

『戦わなければ生き残れない』

アスカの言葉の意味が、なんとなくシンジにも分かり始めていた。

ドラグレッダーは、人間を襲うことを諦めていない。

契約によって、その代わりにモンスターのエネルギーを与えているからなんとか抑えられているだけだ。

もしシンジが戦うことを止めたなら、真っ先に狙われるのはシンジ自身。

「やっべ、早く戻らないと!」

そんな状況でも、シンジにはまるで緊張感がなかった。







ケンスケとシンジが出会ってから、つまりシンジとアスカが戦ってから3日。

その間、行方不明事件―――おそらくはモンスターによる―――は起こり続けている。

シンジは現場に向かい、モンスターを何体か倒していたが、事件が減る気配はない。

ただ、モンスターを倒すごとにドラグレッダーも、シンジ自身も、強くなっていることだけは、はっきりと自覚
出来た。






「・・・・・・さて、と。急に呼び出してすまないな」

小さな公園。

砂場があり、滑り台があり、ブランコがあり、シーソーがあり。何の変哲も無いただの公園だ。

放課後になれば子供たちがここで遊ぶのだろう。

「いや、別に。でどうしたの?」

「ああ・・・・・・」

ケンスケはポケットに手を入れ、ふう、と息を吐いた。

「単刀直入に言うけどよ・・・・・・仮面ライダーなんだろう、おまえも」

ポケットから出て来たものは、カードデッキ。

裏側なので紋章は見えないが、形状はシンジのものと全く同じだった。

「・・・・・・ってことは、ケンスケも?」

シンジは自分のデッキを見せながら、おずおずと訊く。

「ああ。モンスターの気配を追って来たんだけど・・・・・・あのナイトに襲われてね」

「・・・・・・一体何のつもりなんだ?・・・・・・」

自分を襲った友人。

『戦わなければ生き残れない』という言葉。

もう1つ・・・・・・自分に宿った力が、あまりに強大なこと。

デッキを手にして以来、シンジの頭は疑問に支配され続けている。

「!」

キイイイイン、と涼やかに響く音。

「モンスターか!」

「遠いな・・・・・・変身してから向かったのでは時間が勿体無い。オレの車を使おう」

ケンスケの顔から笑顔が消える。

アスカと同じ、敵を正面から見据える甘えのない表情を浮かべながら、ケンスケは歩き始めた。

















♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪  

朝焼けに包まれて 走り出した 行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪  




仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
          第七話話七第 








ひびきの市内にある、商店街にほど近い小学校。

車はそこで止まった。

小学校にはそぐわない高級車がもう1台止まっているが、気にするでもなく2人は昇降口に向かう。

「ここから・・・・・・か」

気配とともに流れる音は、学校のどこかから響いている。正確な場所はシンジには掴めない。

動いているのかもしれないし、複数存在するのかもしれない。

「二手に分かれよう。モンスターの気配が無くなったら校門のところで」

「う、うん」

口を挟む間を与えないケンスケの言葉と表情が、シンジの首を縦に動かした。

廊下を駆けて行くケンスケ。

「って、学校の中にいたら思いっきり怪しまれると思うんだけどな・・・・・・」

シンジは以外と冷静に考え、ぼりぼりと頭を掻いた。

大量に人がいすぎて、誰を狙っているのかすらもわからない。それどころか不法侵入で通報されかねない。

ケンスケは捜査とでも言って手帳を見せればいいとしても、シンジにはそれもできないのだ。

「・・・・・・おにいちゃん?」

「は?」

きょろきょろと首を左右に回し、前後を振り返り、それから視線を下に向ける。

「あ、この前の」

デパートで会った少女。

シンジがドラグレッダーと契約し、龍騎となるきっかけを作った人間でもある。

「おにいちゃん、ありがとう」

「え?」

少女はぺこりと頭を下げ、それから笑みを浮かべつつシンジを見上げた。

「おにいちゃんが、やっつけてくれたんだよね?」

「な、なんで分かったの?」

「だって、こわくなくなったから。きっとおにいちゃんが、あのおばけをやっつけてくれたんだって」

別に、ミラーワールドやモンスターの存在を知っているわけではないだろう。

ただ純粋な感覚。シンジは膝を曲げ、少女の目を見た。

何の曇りもない、綺麗な瞳。

「・・・・・・そうだ。これ、おにいちゃんにあげる」

と言って、少女がシンジに手を差し出した。

握られているのは、淡いピンク色の、雪だるまのような形をしたぬいぐるみだった。

「これは?」

「ふたつあるから、ひとつはおにいちゃんがもってて」

少女のポケットから、水色の雪だるまが顔を出している。おそらくはペアになっているのだろう。

「ありがとう」

シンジは微笑むと、少女の頭を軽く撫でた。

「ひょっとしたら、ここにもおばけがいるかもしれないんだ。僕は戦うから、みんなを逃がしてくれないかな?」

一人の少女が言ったところで逃げてくれる可能性は低いが、シンジが言うよりはマシだろう。

「・・・・・・」

しばらく迷ったような表情を浮かべていたが、少女は元気よく頷く。

「うん。みんなに、にげて、っていえばいいんだね?」

「そうそう。頼むよ」

「うん。おにいちゃん、がんばってね」

「ああ」

とたとたと、廊下を駆けて行く少女。

「さて・・・・・・と。女の子の声援も受けたことだし、頑張るか」

感覚を研ぎ澄ます。

キイイイン、という音とともに、上に向かって移動する気配。

「屋上・・・・・・?」

かなり動きが早い。迷っている時間はなさそうだった。

窓ガラスに向けてデッキを映し、ベルトを発生させる。

「変身!」

腕を胸の前に伸ばしながら叫ぶ。

デッキをバックルに装填した瞬間、シンジの姿は真紅のライダー・・・・・・龍騎へと変じた。

「しゃあっ!!」

気合を入れ、ガラスに突っ込む。

ミラーワールドと現実を結ぶ境界、ミラーホール。

そこには当たり前のようにライドシューターが止まっていた。最初は疑問に感じていたが、そういうものなのだ
と龍騎は納得している。

龍騎のライドシューターは赤い。名前を付けるなら『ドラグシューター』ということになるだろうか。

ともかく、高速でミラーホールを駆け抜け、ミラーワールドへ到達する手段である。

「・・・・・・」

ミラーワールドは常に静寂に包まれている。戦いが始まるまでは。

階段を上る龍騎の感覚が、モンスターの気配を確実に捉えた。

屋上にいる。

おそらくは龍騎の侵入を知り、待ち伏せしているのだろう。

「行くぞ!」

が、そもそも猪突猛進型のシンジである。待ち伏せられているからといって退くわけもない。

屋上に辿り着く。

気配は色濃く伝わってくるが、姿は見えない。

「ギギッ!」

「うお!」

突然背後に現れた何か・・・・・・当然モンスターだが・・・・・・に驚きつつ、龍騎は素早く振り返る。

が、その姿は掻き消えていた。

「あ、あれ?」

「ギギギギギ・・・・・・」

嘲笑うかのような鳴き声。

気付けば、それは目の前にいる。あえて例えるならばレイヨウのような角を持つモンスター。

蒼い装甲と赤い眼は、もちろんレイヨウからは程遠いのだが。

「このっ!」

龍騎が拳を振りかざすも、空を殴るだけに終わる。

「ギギギ」

また背後から声がする。

「このっ!こいつ!とりゃあああ!」

ぶんぶん、と、しばらくそんなことを繰り返す。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

「ギギギギギギ」

「くそ!」

龍騎はベルトからカードを取り出し、左手のバイザーに装填する。

『Guardvent』

「ギギギギッ!」

何をやっても無駄だ、という風に、モンスターが再び龍騎に近付いた時。

「グオオオオオオ―――ン!!」

ドラグレッダーの咆哮とともに、龍騎の周囲に竜巻が巻き起こった。

「ギイイッ!?」

モンスターは巻き上げられ、身体の自由を失う。

「人をなめるからこうなるんだ!」

『Shootvent』

龍騎の右手が、龍の口へと形を変えた。

「と―――っ!!」

炎の弾丸がモンスターをあっさりと貫き、爆散させる。

発生したエネルギーは例によってドラグレッダーが喰らい、空へと消えていく。

「ふー・・・・・・終わった、終わった」

力と裏腹にまったく緊張感のない龍騎。

龍の頭でポンポンと肩を叩きながら、屋上を後にする。






「・・・・・・なんだ?」

現実に戻ったシンジの口をついて言葉が出た。

人の気配がまるでなくなっている。学校特有の活気というかざわめきがない。

「もう放課後、ってことはないよな?」

ミラーワールドには最長でさえ、10分もいられない。

シンジが戦っている間に授業が終わり、全校生徒が帰宅した、というのは考えにくかった。

「・・・・・・誰かいないのか?」

見つかれば不審者なのだが、それを気にする余裕がなくなるほどの異常事態。

誰一人いない。

教室に残って友達とおしゃべりをする生徒も。居残りで宿題をする生徒も。職員室で仕事をする教師も。

ミラーワールドから出ていないのかと思えるほど誰もいなかった。

「おーい!誰か・・・・・・うわっ!!」

何の前触れもなく、シンジの身体は大きく後方に跳ね飛ばされた。

「新手かっ!」

巨大な、金色の蟹。第一印象はそれだった。

身体相応の巨大な鋏を両手に持ち、頭部と胴体の別が曖昧なモンスター。

幸い、学校の廊下には窓ガラスが多くある。変身は容易だ。

「変身っ!」

素早く龍騎に変身し、カードを装填しようとする龍騎に向かい、蟹が凄まじいスピードで体当たりする。

「うぉわ―――っ!!」

適当な窓ガラスにぶつかる―――ライダーに変身しているので、イコールミラーホールへの進入となる―――龍
騎を捉え、そのままミラーホールを駆け抜ける蟹。

ミラーワールド側の廊下に出て、壁に衝突したところでようやく解放する。

「いった〜・・・・・・ムチャすんな!!このカニ!」

龍騎には相変わらず緊張感がないが、ライドシューターなしでミラーワールドに進入するのは結構なダメージとなる。

そもそも、戦闘を終えたばかりで時間が回復していない。長期戦は不可能だ。

『Swordvent』

ドラグセイバーを手に、龍騎は蟹との距離を詰める。

「でりゃあっ!!」

掛け値なしの全力で振りかざす。

ごきっ。

火花とともに鈍い音が響いた。

「折れたぁー!?」

こきん。からん、からん。

折れたドラグセイバーの破片が、情けない金属音を立てて廊下に転がる。

「ちょ、ちょっ!タンマタンマ!」

鋏を振りかざす蟹。

カード装填は間に合わない。そう龍騎が認識した時。

「邪魔!」

「ぐほあっ!!」

横っ腹を思い切り殴られ、龍騎はまた後方へ吹き飛んだ。

ぶつかるべきだった窓がたまたまミラーホールへの入り口だったため、現実世界へと引き戻される。

「ぐううっ・・・・・・う・・・・・・」

シンジは現実世界の廊下で、そのまま意識を失った。






「まずはシザース・・・・・・アンタよ」

「ほざけ。お前に俺は倒せない」

場所を中庭に移し、シザースとナイトが対峙する。

『Trickvent』

ナイトの身体が8人に分裂し、蟹・・・・・・ボルキャンサーを取り囲む。

「ほう・・・・・・それで何をするつもりだ?」

シザースは全く動揺する気配もなく、その光景を黙って見ている。

「はっ!」

8人のナイトが次々にボルキャンサーの身体を斬り付けていく。

が、僅かなかすり傷すらつかない。

「ギルッ!!」

「ぐああっ!」

鋏で打ち据えられ、ナイトは跳躍して距離を取る。

「無傷か・・・・・・」

『Swordvent』

ウイングランサーを掴むとともに呟くナイト。

「まだ諦めないか。面白い・・・・・・少しだけ、今の俺の力を見せてやろう」

『Swordvent』

シザースの左手に、ボルキャンサーのものより少し小ぶりな鋏が装着された。

『Strikevent』

ほぼ同時に、右手にはボルキャンサー以上に巨大な鋏が現れる。

「行くぞっ!!」

シザースが地を蹴った瞬間、ナイトとの距離は零になっていた。

「なっ・・・・・・」

「とうっ!!」

左手の鋏がウイングランサーを粉々に粉砕し、右手の巨大な鋏がナイトの腹部を強打する。

「ぐぎっ!」

ナイトは投げ捨てられた人形のように力なくふき飛んだ。

「ぐ・・・・・・っ!」

カードを装填しようにも、四肢に力がまるで入らない。全身が痺れてしまっている。

「今度こそ終わりだな」

シザースが右手の鋏を振り上げる。

『Swingvent』

ナイトは半ば死を覚悟していたが、いつまで経っても鋏が振り下ろされない。

「貴様・・・・・・」

ギリギリと、力が拮抗する音が聴こえる。

シザースの鋏に絡みつき、その動きを封じる鞭のようなものがあるのだ。

「お前は・・・・・・」

「・・・・・・仮面ライダーライア」

シザースとナイトが訊く前に、鞭を操る戦士・・・・・・ライダーが答える。

辮髪のような装飾が施された奇妙な鉄仮面を被り、エンジ色の装甲に身を包んだライダー。

左手には、エイを模したと思われるバイザーが備わっている。

「何のつもりだ?ライダーが減れば貴様にも都合がいいはずだろう。邪魔をするな」

ライアには、シザースの言葉に耳を貸す気配はない。

右手に持った鞭を全力で引き、鋏との均衡を保っている。

「・・・・・・ボルキャンサー!こいつを殺せ!」

『Advent』

シザースがボルキャンサーに呼び掛けたのとほぼ同時か、ややそれよりも早く、ライアは左手だけでカードを装
填する。

「ギルルウッ!!」

ボルキャンサーが振りかざした鋏が、ライアの頭部へ・・・・・・

届かない。

ライアは右手で鞭を操りながら、左手だけで衝撃音とともにボルキャンサーの鋏を止めた。

「バカな・・・・・・!!」

「無様ね・・・・・・」

ライアはそう言うと、シザースから鞭を解いた。

刹那、エイの形をしたモンスターがシザースを吹き飛ばし、ナイトから引き離す。

「ぐうっ・・・・・・!」

「まだやる?」

ライアはいつの間にかシザースの背後に回っている。

ボルキャンサーですら気付かない一瞬に。

「・・・・・・くっ!」

(今は時間がない・・・・・・)

『Trickvent』

カードが装填されると同時に地に鏡が生じ、ボルキャンサーとともにシザースを飲み込んだ。

「・・・・・・」

ライアは何も言わず、ナイトに背を向ける。

「待て・・・・・・アンタは・・・・・・」

「そろそろ動けるでしょう?早く戻った方がいいわ」

「ライダー同士の戦いを止めて、どうするつもり!?ライダーの宿命は・・・・・・!」

「変えてみせるわ」

ただそれだけを言い残し、モンスターとともに去っていくライア。

ナイトはその背中を睨みながら、心内で繰り返す。

(戦わなきゃ・・・・・・勝たなきゃ・・・・・・生き残らなきゃぁ・・・・・・ッ!!)

拳を握り締める。

強く。

「ライダーは共存出来ない・・・・・・戦わなければ生き残れない!!」

生命の波動がないミラーワールドに、虚しくナイトの叫びが響く。






続く


アスカ:そうよ。運命は変えられるのよ。

マナ:でも、アスカはその運命に忠実に生きようとしてるみたいじゃない?

アスカ:そこが問題なのよね。

マナ:運命なら、どうしようもないってば。

アスカ:運命の束縛から、飛び出すのよっ!

マナ:そのままどこか無限の彼方へ飛んで行ってしまったらぁ?
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