「幸せの青い鳥・・・・・・?」

「そう。いると思う?」

「くだらないわね」

女性―――は苦笑する。

足元に感じる砂の流れは、微かに温かい。

夏。

砂浜。

波打ち際。

白いワンピースを着た彼女。

本人は太っていると主張して譲らないが、客観的に見ればむしろやせ気味である。

「アスカちゃんはそればっかりね」

「ね、頼みがあるんだけど・・・・・・」

「何よ?」

「今度、危ない実験するみたいなんだ」

「危ない実験・・・・・・?」

「うん。なんか最近、教授も、碇さんも、何考えてるか分からなくて・・・・・・ちょっと怖いのよねぇ」

波打ち際から離れ、乾いた砂の上に並んで腰を下ろす2人。

静かに響く波の音。

「だから、ちょっと早く迎えに来てくれないかな?そうしたら抜け出せるから」

「無理」

「そんなこと言わないでさぁ〜ねぇアスカちゃん」

両手を合わせ、片目を閉じ、アスカに身体を摺り寄せる。

「お願い。ね、待ってるからさ」

「・・・・・・」

無論、アスカがこれに弱いのを知ってのことだ。

アスカは照れているのだろう、視線を逸らし何も言わずに海を見ている。






この世に『青い鳥』はいない。

いるわけがない。

分かっているはずなのに。






アスカの胸にだけ、もう一度その羽ばたきが聴こえてくる・・・・・気がした。












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朝焼けに包まれて 走り出した

行くべき道を

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど

夢に向かえ まだ不器用でも

生きている激しさを 体中で確かめたい
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪















仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍―ダイラ面仮
     第十一話 話十一第






「委員長」

「"ヒカリ"、と何回言えばわかるの?」

彼女は厳格である。

仕事上、上司であるトウジから『委員長』で呼ばれることをよしとしない。(まぁヒカリがトウジのことを好き
と言うことの方が大きいのだが)

他の誰でもない、彼女自身が納得しないのであろう。

「・・・・・・ヒカリはん」

「なに?」

「赤井果樹園の件、どうなったかしってまっか?」

「ええ・・・・・・戒谷製薬が建設した工場が怪しいわね・・・」

トウジはヒカリから差し出された記事を手に取り、顎をさすりながら目を通す。

「で、手は?」

「弁護士を通して・・・、取材許可は得てあるわ」

「よし。シンジ連れて行って来てくれ」

「・・・・・・」

「うん!行って来ます!」

こめかみを押さえるヒカリと、対照的に気合の入ったシンジ。

彼は取材が好きである。突撃取材を何よりのモットーとするため、ヒカリの悩みのタネにしかならないのだが。

「行ってらっしゃい」

カタカタとキーボードを叩きながら言葉をかけるマユミ。

ネルフの朝は、平凡に過ぎていく。







「あれ?君は・・・・・・」

「あ、カヲル君!」

亀貴製薬応接室に案内され、待たされていた2人の元に現れたのは、黒いスーツに身を包んだ若い男。

弁護士・渚カヲルその人だった。

「知り合いなの?こんなヤツと」

ヒカリは嫌悪の視線とともに言い放った。

「はい・・・・・・って、委員・・・ヒカリも?」

「黒を白にする自称天才弁護士・・・・・・金のためなら何でもやる、金がなければ正義も見殺し、最低の弁護
士よ。知らない人間の方が少ないんじゃないかしら?」

「スーパー弁護士さ・・」

カヲルの言葉に、間髪入れず応える。

「無意味な横文字には知性を感じないわ」

「古い人間は時代についていけないのさ・・・」

何故かいつもよりさらに邪悪な笑みを浮かべるカヲル。

「・・・・・・あなた、馬鹿にしてるの?」

「別に、ヒカリ君のこととは言ってないけど?」

2人の対面に座る。

無駄に大きいソファは、シンジにとっては居心地がすこぶる悪い。

「さて、取材だったかな?その前にこれを見てくれないかな」

カヲルが差し出したのは、数字が延々と並べられた青く薄っぺらい紙。

「何ですか、これ?」

「ここの会社が出してる廃水・・・・・・と繋がってる川の水の調査結果。全ての値が正常の範囲内・・てこと
さ」

シンジが見ても数字の羅列にしか見えず全然分からないが、どこかの大学教授のお墨付きらしい。

「・・・・・・で、訊きたいことは何かあるのかい?」

「くっ・・・・・・」

調査結果を手に、朝日奈を睨みつけるヒカリ。

先手を打たれてはどうしようもない。改めて調査をするとなればそれなりの理由が必要になってくる。

そのためにははっきりした事実が必要であり、それもまた調査しなければ因果関係を証明できないことである。

「無いなら、これで終わりにさせてもらうよ?」

余裕たっぷりなカヲルと、歯軋りが聞こえてきそうな表情のヒカリに気圧され、シンジはただ縮こまっている。

「・・・・・・この調査結果、複製していただけますか?」

「お望みなら100部ほど印刷してネルフに届けさせますよ」

「一部だけで結構よ」

「そうかい??」

カヲルはソファから立ち上がった。

「そういえば、ネルフでここの名前出したらしいですね。記事の即刻削除と明確な謝罪をよろしく」

「・・・・・・分かってます」

「発言するなら証拠揃えてからにしておくといいよ、立派なジャーナリストさん?」

去り際にシンジの肩を叩き、部屋を後にするカヲル。

「あいつ・・・・・・!」

ヒカリは怒りに震えた声でそれだけ呟くと、いつもと同じ冷静な表情に戻った。

「あ、あの、委員・・・ヒカリさん?」

「戻るわ」

「は、はい・・・・・・」

その日一日、ヒカリに話しかける者はなかった。

誰だって命は惜しい。






「いらっしゃいませー」

花鶏のドアが開くと、ユイはほとんど反射的に営業スマイルを浮かべる。

が、入って来たのはシンジ。

「あ、なんだ、シンジか」

「なんだって・・・・はぁ」

あまりの言いぐさにため息をついてしまうシンジ。

「・・・・・・その後、どう?」

「どう・・・・・・って、何が?」

「その・・・・・・ライダーになって」

ユイは俯いたまま、そこで言葉を区切る。

微かな沈黙。

「デッキを作ったのは・・・・・・」

何かを決意したかのようにまた話を続けるユイ

「私の夫・・・・ゲンドウさんよ」

「父さんが?」

「そう、碇ゲンドウ。私の夫。もう何年も会ってないけどね・・・・・・」

遠い目のユイ。

「13人の仮面ライダーは共存出来ない、戦わなくちゃ生き残れない・・・・・・アスカちゃんはそう言ってた
。何のためにか分からないけど、あの人はライダー同士を戦わせようとしてる」

「・・・・・・ライダーの力は、人を守るためにあるんだと思う」

別に正義感が強いわけではないのだが、シンジにはそれしか思い付かない・・・・・いや、どこかで自分の父親
を信じたいとも思ったのであろう

「でも・・・・・・」

「僕が証拠になる」

ユイの暗い表情を吹き飛ばすかのように、力強く。

「僕は、誰かを守るためだけに戦うから」

そして、笑顔を浮かべる。

「・・・・・・ありがとう」

ユイが顔を上げたのとほぼ同時に、響き渡る耳障りな音。

キイイイイン、と涼やかに鳴り響く接近音。

「モンスター・・・・・・!」

「いってくるよ」

「うん・・・・・・気を付けて」

ライダーではないユイがモンスターの気配を感じ取った・・・・・・その事実を特に気にすることもなく優しく
言い放ち、シンジは花鶏を出た。







『Swordvent』

ダークウイングが空を舞い、ナイトの元へ槍を運んで来る。

「行くわよ!」

「・・・・・・グルゥ!」

走り出したナイトの足元に、次々と穴が穿たれていく。

高速で小刻みに跳躍しつつ前進して全て避け切り、モンスターの目前にまで迫るナイト。

以前逃した、例えるならば猪のような頭部と砲台を持つモンスター。

今回は完全にナイト優勢である。

「ぬん!」

「グルウウ!!」

否、優勢だった。その瞬間までは。

迂闊に間合いに入ったナイトを逃さず、モンスターは地を蹴って突進する。

「ちっ・・・・・・!」

突進しながら放った気弾が、激突の衝撃で吹き飛んだナイトの両腕を貫いた。

地に落ちるウイングランサー。

「グルオオッ!!」

腕に受けたダメージで一瞬ベントインが遅れた。

為す術無く、追撃の気弾を全身に受ける直前。

『Guardvent』

「アスカ!」

両手に楯を携えた龍騎が飛び出してくる。気弾は真紅の楯に弾かれ力を失った。

「グルウウウウ・・・・・・」

「今度は僕が相手だ!」

ナイトを庇うかのようにモンスターの前に立ち塞がる龍騎。

『Advent』

「ギイッ!」

その龍騎を、飛来したダークウイングが弾き飛ばす。

「おわー!」

予想外の攻撃に、龍騎はごろごろと地を転がった。

「何すんだよ、アスカ!」

「そいつは私の獲物よ。邪魔はしないでもらえる?」

ナイトは体勢を立て直すと、ウイングランサーを拾い上げてモンスターに向かっていく。

「グルウ!」

だが、同じことだった。

ナイトの反応速度ですら捉え切れない速度での突進。

「きゃっ・・・・・・!」

肋骨が砕けたとも思える衝撃とともに、ナイトは再び宙を舞い、そして倒れた。

「ぐうっ・・・・・・」

立ち上がろうとするも、指一本動かせない。

ベントインすることすら出来ない。

「くそっ・・・・・・くそっ!」

「グオオオオオッ!!」

倒れたままのナイトに向けて再び放たれる気弾。

凄まじい衝撃音とともに、閃光が走る。

穴が穿たれたのは、龍騎の背中だった。

「いってぇ〜!!」

「あんた・・・・・・」

悶えながら振り向くと、龍騎はモンスターに指を指して怒鳴り散らす。

「このやろ〜!よくもやったな!」

これは生死を懸けた戦いであって、子どものケンカではないのだが。

相変わらず龍騎には緊張感がまるでない。

『Shootvent』

龍騎の右腕がまさしく龍の顎へと変貌する。

「と―――っ!!」

炎の弾丸がモンスターをかすめ、その顔を焼いた。

「グル・・・・・・オオオオッ!!」

顔を押さえながら、背を向けて逃げていくモンスター。

龍騎も深追いはしない。先程背中に受けたダメージがそう軽くはないからだ。

「・・・・・・大丈夫?」

「・・・・・・・」

ナイトは応えない。

ようやく戻った身体の感覚を駆使し、龍騎を無視して帰還する。

「何だよ、・・・・・・」

ぶつぶつ言いながらもその後を追って帰還する龍騎。

背中に穿たれた穴・・・・・・傷痕の周りが焼け焦げ、無残な様相を示していた。






既に時刻は夜。

閉店時刻を過ぎていても、花鶏のドアが開くと営業スマイルを浮かべずにいられないユイ。

「いらっしゃいませ・・・・・・って、シンジ・・・・・・アスカも?」

「ただいま・・・・・・」

「・・・・・・」

ユイは一瞬戸惑ったが、再び笑みを浮かべる。

今度は営業スマイルではなく、心からの笑みを。

「何か飲む?」

「アールグレイ」

シンジが言葉を発する前に、アスカが口を開いた。

そして、そのままユイに背中を向ける。

「アスカ?」

「フン・・・・・・おごってやるわよ・・ありがたく受け取りなさい!!!」

ドアを開け、闇へと走り去って行くアスカ。

「う・・あ、ありがと・・・・・・(礼のつもりなのかな?)」

首を傾げるユイの前で、シンジはなんとなクスっと微笑みながら席に座った。




続く


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