「・・・・・・」

もえぎの総合病院の一角。

誰も立ち寄らないように見えるが、常に清潔に保たれたその空間に、彼女は横たわっていた。

その眼は、じっと閉じたまま開かない。

『アスカちゃん・・・・・・もういいわよ・・・・・・もう泣かないで・・・・・・』

「・・・・・・わたしには、泣いている時間なんてない」

『もう・・・・・・戦わないで・・・・・・』

「戦わなければ生き残れない」

『アスカちゃん・・・・・・私は、もういいから・・・・・・』

「・・・・・・」

『もう・・・・・・諦めて』









♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


  仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
           第十三話話三十第 
 














「邪魔よ!!どっかいってなさい!!」

ナイトは首を動かさずにそう言い放つ。

「そんなわけにいかないだろ!」

「死にたいんなら勝手にするがいい」

龍騎の感情的な叫びとは対照的に、冷静なゾルダの言葉。

その両肩に装着された二門のキャノン砲が火を噴いた。

「おわー!」

『Guardvent』

ナイトの纏ったマント―――すなわちダークウイングの羽が開き、ナイトの胸の前で閉じる。

ガードベント、『ウイングウォール』。

爆炎をウイングウォールで防ぎ、ナイトはゾルダに向けて走り出す。

龍騎はというと、直撃を受けて転がっている。

「いったぁ〜・・・・・・もうアッタマ来たぞ!」

砲弾を受けた部位よりも、転倒した時に打った頭の方が痛いらしい。

頭を擦りながら立ち上がる龍騎。

『Strikevent』

その左手が、鋭い牙を持つ龍の顎と化す。

「こうなったら、力ずくで止めてみせる!」

ナイトと龍騎。

2人が同時に向かって来る中、ゾルダは冷静にカードを手に取った。

『MAGNAGIGA』。

炎の中に聳え立ち、2本の巨大な角を持つモンスターの姿が描かれている。

「あと1枚・・・・・・手間がかかるんだよねぇ・・・・・・」

呟くとともに、ゾルダは銃型のバイザー・・・・・・マグナバイザーにカードを装填する。

『Advent』

「とっ!」

「うおりゃあ!」

右からナイトのウイングランサーが、左から龍騎のドラグセイバーが振りかざされ、ゾルダの肩の砲門を吹き飛
ばした。

「・・・・・・無駄さ、もう・・・ね」

「何・・・・・・?」

ナイトが訝しげに呟いた時、大地が震えた。

落ちていたゾルダの武器が次々と空中へ浮かんでいく。

長距離砲とその放熱機関、楯、角、そして2門の大砲。

それらは変形し、人型を成していく。

肩に装着されていた大砲が脚に。

楯は胴体に。

角は頭部に。

長距離砲が右手に、放熱機関はレーザー砲となって左手に。

「な、なんだあれ・・・・・・?」

「鋼の猛牛マグナギガ・・・・・・他のモンスターと違って、エサはそう必要ない代わりに呼び出すのに手間が
かかるのさ」

『それ』・・・・・・マグナギガは、外見からして今まで龍騎たちが遭遇してきたモンスターとは明らかに異質
だった。

まさに鋼と言うべき金属質な装甲。全身に搭載された武器。

頭部には2本の角、額には砲門のような穴が開いている。おそらくは火器なのだろう。

また、胸部装甲のスリットからして、装甲が展開して何らかの武器を発射することが予想される。

両腕両脚はそのままゾルダが使っていた武器であり、同時に砲撃することも出来る。

モンスターというよりは軍事兵器といった趣だった。

「さて・・・・・・と」

ゾルダの言葉とともにマグナギガの右手が動き出す。

「その鈍い動きで、私に一撃でも加えられると思う?」

ナイトは跳躍し、一気にマグナギガの頭部目掛けて斬り下ろしを放った。

「残念だったね」

ウイングランサーが頭部を打つ直前、額に開いた穴から炎が吹き荒れ、ナイトを吹き飛ばす。

「ぐっ!」

「アスカ!」

地面に叩きつけられるより先に、龍騎がその身体を受け止めた。

「大丈夫か?」

「そんなヒマがあるなら攻撃しなさいよ!」

ナイトは素早く体勢を立て直し、再びマグナギガに視線を向ける。

「終わりにするとしよう」

マグナギガの背に隠れたゾルダが、カードを装填する。

『Finalvent』

「くっ!」

ファイナルベントが必殺技を意味することぐらいは、龍騎でも理解している。

『Guardvent』

カード装填とともにドラグレッダーが龍騎の周囲を舞い、竜巻を巻き起こす。

「無駄さ」

マグナギガの胸部装甲が開いた。

内部には、ミサイルが詰め込めるだけ詰め込まれている。

頭部の砲門、右手の大砲、左手のレーザー砲、両脚のキャノン砲が同時に発光し・・・・・・

全ての砲門とミサイルが一気に解き放たれた。

閃光と爆音が響き渡る。

「きゃああああっ!!」

「うおおおおおっ!!」

熱風が、その場に存在するもの全てを飲み込み焼き尽くし溶かしていく。

永遠に消えないかとすら思われる火柱が周囲数キロメートルに渡って立ち昇る。

爆発が終息しても、、余韻を楽しむかのごとく揺らめき続ける炎。

隕石の衝突が作り出すクレーターのような形に抉られた大地だけが残る。

「・・・・・・しぶといね。まだ生きてるんだ」

ゾルダはバイザーで肩をトントンと叩きながら、いかにも面倒くさそうに漏らす。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

「ぐうっ・・・・・・」

咄嗟に龍騎がドラグレッダーを向かわせたため、ナイトも無防備になることだけは免れた。

しかし、あの爆発の中では無為に等しい。

2人とも相当のダメージを負い、装甲は既に粒子となり始めている。

「・・・・・・じゃ、まずはナイトの方から始末させてもらおうか」

マグナバイザーの銃口が、膝をついたままのナイトに向けられる。

「僕は・・・・・・」

龍騎は呟きながら、1枚のカードを引く。

「僕は誰かを守るために戦う!それが、たとえライダー同士でもだ!」

『Finalvent』

「おおおおおおおおっ・・・・・・」

腰を深く落とす龍騎。

その周囲を舞うドラグレッダー。

「とっ!」

空高く跳躍し、頂点に至ったところできりもみ回転を加える。

更にドラグレッダーが吐く炎に包まれ、弾丸となって急降下する。

「と―――っ!!」

「ちっ!」

『Guardvent』

一度ファイナルベント・・・・・・『エンドオブワールド』を使ってしまうと、ゾルダのカードは全てデッキに
戻されてしまう。

再びカードを装填し、巨大な楯を呼び出して龍騎の神速の蹴りを受け止めるゾルダ。

しかし、流星の如く降った龍騎の前に、楯自体が爆砕、消滅した。

「ぐうっ・・・・・・!」

空中で回転しながら体勢を整え、着地する龍騎。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

「・・・・・・時間、か」

ゾルダの体からも粒子が漏れ始めている。

「君みたいなのが一番つまらない・・・次はキレイゴト言う余裕なんか無いよ・・・・」

「・・・・・・」

ゾルダは2人に背を向け、去っていく。

「・・・・・・戻るよ、アスカ」

「馬鹿、逃がす気?・・・・・・戦いなさいよ」

どうにか立ち上がるなり、ナイトはそう言い放つ。

「馬鹿はアスカだろ!そんな状態で戦えるかよ!」

「・・・・・・」

ナイトはそれ以上、何も言わなかった。






「あ・・・・・・あいつ、最悪に強い。強すぎる」

現実に帰還したシンジ。

変身中に全身に負ったダメージが残っているため、歩くこともままならない。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

視界が霞んでいく。

重力の働く方向が少しずつずれ、シンジの身体は支えを失った。

「ちょっと、大丈夫!?」

意識に帳が掛かる前に、そんな声が聞こえた。






「ママ・・・・・・」

口には酸素吸入器が、腕には点滴の針や生命維持装置に直結した管が何本も刺さった、無惨な姿。

かつてアスカとともに過ごし、笑顔を振り撒いていた彼女はもういない。

キイイイン。

鳴り響く共鳴音は、部屋の壁ににただ1枚だけ掛けられた鏡から出ている。

映り込んでいるのは、漆黒の蝙蝠・・・・・・ダークウイング。

「・・・・・・」

アスカは無言のまま、鏡を殴り付ける。

鏡が砕け散るとともにダークウイングの気配も消えた。

「くそっ・・・・・・くそっ・・・・・・くそおっ!!」

もはや枠を残すだけの割れた鏡に向けて、アスカは拳を振るい続けた。

赤い血が辺りに飛び散っていく。

痛みはなかった。

ただ、どうしようもない無力感がアスカを包んでいる。

「ママァッ・・・・・・!!」






続く


作者"bakuozi"様へのメール/小説の感想はこちら。
bakuozi@yahoo.co.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system