「わし達のせいじゃない・・・・・・」

ぶつぶつと呟きながら、どこか薄汚れたスーツ姿のまま歩き続けるバイザーの老人。

髪はボサボサで、髭が無秩序に伸び、目は赤く腫れていた。

「逃げないと・・・・・・扉が開く前に・・・・・・」

前を見ているのかどうかすら分からない虚ろな目で、ただ歩き続けている。

その手にあるのは、『SEAL』・・・・・・封印のカード。

キイイイイン。

ガードミラーに映る、頭部に触手を持つモンスターの姿。

「ひっ!」

「グル・・・・・・」

男が『SEAL』のカードをかざすと、モンスターは忌々しげに去っていく。

そんなことの繰り返しだった。

「わし達のせいじゃない・・・・・・」









 
 
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


   仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
           第十四話話四十第 










花鶏のドアが叩かれる。

「今日はもう閉店です」

皿洗い中のユイが発する無感情な声に対し、ドア越しに明るい声が響いた。

「ちわー、宅配便でーす」

「・・・・・・あの声は」

エプロンを脱ぎ、ドアを開けるユイ。

「よっ、ユイ。元気してる?」

「優紀さん・・・・・・それに、シンジ!?」

「あら、知り合いだったのん?」

背中にシンジを背負った女性。歳はユイより少し上と見受けられる落ち着きがあった。

対照的に、口調は奇妙である。

「知り合い、っていうか・・・・・・」

「ひょっとしてユイのいい人かしらん?」

「違います・・・息子よ」

取り付く暇もない断定的口調。

「からかい甲斐の無い子ねん。ま、いいわ。とりあえず手当てしてあげてねん」

「うん・・・・・・」






花鶏の裏手にある、ユイたちの住居。

その一室でシンジは死んだように眠っている。

顔からは血の気が失せ、全身に傷を刻んだその姿は、微かな呼吸音以外は生命の息吹を感じさせない。

「・・・・・・ライダーに、やられたんだ」

薄暗い部屋、ユイの呟きが静かに響く。

「どうして・・・・・・シンジが巻き込まれなくちゃ・・・・・・」

「僕が・・・・・・」

シンジの唇が微かに動き、言葉を紡ぐ。

「シンジ!!」

「僕が選んだことだから、母さんは気にしないで」

「でも・・・・・・」

「ライダー同士の戦いは止めてみせるから」

ユイの顔を真っ直ぐに見ながら、シンジは苦痛に歪みそうになる顔で無理に笑ってみせた。

「いよっ、少年。何のことだかお姉さんにゃあ分かんないけど、男の目だねぇ」

「あなたは・・・・・・」

盆に水の入ったコップを乗せ、部屋に入ってくる・・・・・・正確には、入ってきていた女性。

「お姉さん?姓は亀井、名は優紀。年齢は乙女のヒミツよん。スリーサイズは上から・・・・・・」

「・・・・・・優紀さん」

真面目な雰囲気を一気に崩され、ユイはこめかみを押さえる。

「いや〜、若いっていいわねん。若いうちはどんどんムチャしなきゃダメだぞ、少年」

「はぁ・・・・・・」

体を起こし、差し出された水を喉に通す。

「ときに少年。アパートの家賃滞納して追い出されそう・・・・・・なーんて境遇じゃないかね?」

「ぶっ!」

シンジの口から水が噴出する。

ごほごほと咳き込むシンジに向けて、優紀は何を考えているか分からない微笑を浮かべながら続けた。

「いや〜、実は取り立てのバイトに少年の顔があってねん。そのトシで借金なんかしちゃあいかんよ、少年。す
るのはムチャだけで十分なのよん」

びしっ、と指を突き出す。

「はぁ・・・・・・」

と言われても、給料が少ないネルフで勤務する限りは家賃を払う余裕などない。

正社員ではないため、かなりの安月給である。

「そんなこと言われても安月給で払えないんだもーん、ってとこかしらん?」

「・・・・・・人の心を読まないでください」

ユイに続き、シンジもこめかみを押さえる。

「そこでだよ少年。少年さえ良ければ、本業が休みの日だけでも手伝ってもらえないかしらん?」

「手伝う?」

「そ。この店も、お姉さんとユイだけじゃ手が足りないのよねん」

「この店って・・・・・・」

「あ、聞いてなかった?ここ、お姉さんがオーナー兼店主なのよん」

優紀が高校時代から続けてきたバイトで資金を貯め、開店した喫茶店。

それが、花鶏である。

「手伝ってくれるなら部屋貸してあげるわよん。もちろんタダで食事付き。悪い話じゃあないと思うけどねん」

「是非お願いします」

即答。

選択の余地などない、といったところだ。

「じゃ、決まりねん。さっそく次の休みからよろしく頼むよ、少年」

「はい!」

「ん、いい返事だぞ、少年」

「・・・・・・」

こめかみを押さえたままのユイ。

「ライダー同士の戦いと家賃と、どっちが大事なんだか・・・・・・」

2人の耳にその呟きは届かない。






次の日。

ネルフ編集部には、何故かユイの姿がある。

「・・・・・・碇君、その子は?」

「あ、母さんさんの碇ユイです。城北大学にお姉さんがいて・・・・・・」

シンジが紹介するまでもなく、ヒカリは理解していた。

「ああ、碇ゲンドウさんの奥さんね・・・・・・」

「夫のこと、ご存知なんですか?」

身を乗り出すユイ。

「いえ・・・・・・ただ、行方不明者リストに名前があったから」

「そうですか・・・・・・」

ユイががっくりと肩を落とす。

「期待させてごめんなさいね」

「いえ。ただ、少しでも手掛かりが欲しいんです。だから」

「取材に同行したい、というわけね」

「はい」

ヒカリは、品定めをするようにユイの瞳を見据える。

曇りは、ない。

「・・・・・・分かったわ。ただ、取材の邪魔だけはしないでね。どこかの誰かさんみたいに」

「ヒカリさん、それ誰のことですか?」

「さあね」

シンジの言葉をさらりと流し、ヒカリは取材の準備に取り掛かった。

「編集長がいないから許可は取れないけど、まあいいでしょう。碇君もぼーっとしてないで早く準備しなさい」

「は、はい」






一連の行方不明事件―――犯人はモンスターであり、捕まる筈は無いのだが―――の、最初の被害者と思われる
人間は城北大学の学生だった。

ヒカリなりに何か感じることがあったのだろう。城北大学の取材許可を取り、得られる限りの情報を収集してい
る。

いなくなった人間の交友関係から所属サークル、人柄、趣味、どこか頻繁に通っていた場所がないか、等々。

「ったく・・・・・・どこ行ったんだか」

シンジの姿はヒカリの側にはない。

気配を感じ、ミラーワールドに向かったためである。

ヒカリ自身は以前匠に渡された『SEAL』を持っているため、安全と言えば安全だった。

「キール・・・・・・キョウコ・・・・・・の2人だけ、か。あとは全員行方不明・・・・・・」

ヒカリが目を付けたのは、ゲンドウが所属していたゼミ。

最初の行方不明者を出したゼミでもあり、所属していた人間は2人を遺して全員が大学を辞め、地元に帰ったの
かどうかは定かではないが大学側にも所在が掴めないらしかった。

「爆発事故で研究室が閉鎖されてすぐ、ね」

資料をめくりながら、ヒカリの頭にふと過ぎるある符合。

「行方不明事件が始まったのも、この事故のあと・・・・・・」

妙な感覚があった。

ここに真相があるのではないか、という、奇妙で、根拠のない感覚。

「・・・・・・まさかね」

ヒカリは息をひとつ吐いて、再び資料を睨み始めた。






「ちくしょう・・・・・・どこ行ったんだ、あいつ」

ミラーワールド内。

龍騎は敵を見失い、途方に暮れていた。気配の移動が早いために動きが捉えられない。

ただ、敵が人を喰らおうとすると動きが止まって追いつかれるため、それは出来ないはずだった。

近付けば逃げる膠着状態。

そうこうしているうちに、龍騎の装甲が粒子となって散り始める。

「・・・・・・仕方ない、一旦戻るか」

龍騎は入って来た鏡から現実に戻り、シンジとなってだいたいの位置を探るために駆け出した。






「ひっ!」

バイザーの老人は、突然足を掛けられて無防備に転がる。

「よう、何やってんだアンタ?クスリでも打ってんのか?」

ニヤニヤと笑いながら近寄る、足を掛けた金髪の若者。

「あ、あのカードがないと・・・・・・!」

転んだ時に手から落ちた封印のカードは、金髪の若者の手に渡っていた。

「これがどうかしたか?」

「か、返してくれ!それがないと、殺されるんだ!」

「はぁ?マジでクスリ―――」

若者の言葉はそこで途切れ、永遠に続きが紡がれることはなくなった。

背後にちょうど鏡があったのが彼の不運。

背中側から胸を貫く刃によって、彼はその一生を終えた。

「ごぶ・・・・・・」

声にならない呻きを遺して、鏡に引きずり込まれ消えていく若者の姿。

『SEAL』のカードは再び地にひらひらと舞い落ちる。

「た、助けてくれぇ!」

落ちる前になんとかカードを拾おうとする男の胸を、今度は正面から刃が貫いた。

「ぐふうっ!」

しかし、即死は免れる。

「ギ―――ッ!」

「ギルッ・・・・・・!」

ダークウイングの脚部の爪が、刃をモンスターの腕ごと斬り飛ばしたためである。

「変身!」

現れるなり、アスカの姿がナイトへと変じた。

鏡に吸い込まれていくナイト。それを追うダークウイングとモンスター。

腕を斬られたためだろうか、獲物のことはとりあえず忘れるほど怒っているらしい。

「ギルウウウ!!」

「悪いが、さっさと決めさせてもらうわ・・・」

『Finalvent』

言葉どおり、ナイトはファイナルベントを装填、ダークウイングとともに空高く飛翔する。

「おおおおおおおっ・・・・・・!」

ダークウイングが黒いマントとなり、ナイトの体を覆う。

漆黒の槍と化したナイトは、不可視の速度で一直線にモンスターを狙う。

「飛翔斬っ!!」

「ギル・・・・・・ギルウウウウウッ!!」

避けようとしたモンスターにその暇を与えず、黒い槍は爆炎のみを痕跡としてモンスターを粉々に打ち砕いた。

浮かび上がった光球を吸収するダークウイング。

「あの男・・・・・・何故封印のカードを持っていたのかな・・・・・・」

ナイトは呟きながら、入って来た鏡への道を歩き出す。

「まぁ、どちらにせよもう助からないしね・・・・・・」

拳を握り締めながら、呟く。

救えなかったことに対する無力感。

「・・・・・・もう少し早く追いついていれば・・・くそっ」

だが、『if』を語ることに意味はないとナイトは知っている。

だからこそ、彼女は力を求める。

これ以上失わないための、大いなる力を。






「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

腹を赤く染めたまま、歩き続ける男。

「キールさん・・・・・・?ゲンドウさんと・・・・・・碇ゲンドウと同じゼミの、キール・ローレンツさんで
すよね?」

「あんたが・・・・・・碇ユイか」

「・・・・・・っ!その傷・・・・・・!!」

ユイは、男―――キールの赤く染まった胸を見て一瞬言葉を失う。

「碇ユイ・・・・・・あんたさえ・・・・・・あんたさえいなければ、こんなことには・・・・・・」

「―――え?」

「みんな・・・・・・あんたのせいだ」

それが、キールの遺言となった。

血を流し終えた骸はもう何も語らない。













「あの・・・・・・」

「何?」

夜更けの路地裏。

淡いランプの灯に照らされ、簡単な机と椅子だけがある空間。

「良いことも悪いことも必ず当たる占い・・・・・・って、ここですよね」

髪の長い女性が訊く。

「ああ。あたしの占いは当たるわ」

なぜか白衣に身を包んだ、金髪の女性。

占い、という言葉に科学者を持たせる、不思議な瞳をしている。(まぁ実際博士号をもっているのでそっちの分
野のこともしているのだが・・・)

ランプの灯がゆらめきが映りこむ度、蒼い光を発しているようにも見えた。

「占ってもらえますか?」

「ああ・・・・・・いいわ。座りなさい」

促されるままに座った長髪の女性に向けて、手をかざす。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

しばらく、無音の状態が続いた。

「・・・・・・一週間以内に、事故に遭うわね。おそらくは自動車で・・・・・・」

「事故・・・・・・」

「あたしの占いは当たるわ。だけど、変えられるのよ、運命は・・・」

かざしていた手を下ろしながらそう呟き、微かに笑みを浮かべる。

「自分の運命を変えられるのは自分だけ・・・。十分気をつけなさい」

「・・・・・・はい」

不安な面持ちのまま椅子を立ち、歩いていく長髪の女性。

「そう・・・・・・変えられるはず・・・・なのよ」

一人呟く短髪の女性。

その手には、カードデッキが握られていた。



―――戦わなければ生き残れない。


続く


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