―――時は、バイザーの老人キールが息を引き取る数分前に遡る。






「ここが・・・・・・」

厳重に封印されていたのであろう部屋。

その扉は鎖で雁字搦めに縛られ、加えて鎖自身に多重の錠がぶら下がっている。

・・・・・・が、今となっては、無意味なことだった。

溶けている。

高熱でなのか酸によるものなのか、それは分からない。

しかし、扉の下部に開いた醜い穴は、内部から何か大きな力が放出されたのだろうことを感じさせている。

「・・・・・・」

ともかく、ユイにとっては好都合だ。

モンスターが開けた穴だとしても、退くつもりはない。

「危険は承知・・・よね・・・・・・」

自分に言い聞かせるように、呟く。

身を屈め、扉の中へ入るユイ。

「・・・・・・」

頭を上げた瞬間に広がる、異様な・・・・・・

しかし、どこか懐かしい光景。

黴臭い匂いと舞い散る埃の中、ユイは身体を起こした。

鏡。まずはそれが目につく。

部屋の中央に向かって放射状に所狭しと並べられた鏡。

しかし、そのほとんどは割れており、枠に僅かに欠片がこびりついている程度である。

破片が辺りに飛び散っているため、歩くのに気を遣う。

「・・・・・・」

爆発事故で閉鎖された研究室。

事故が起きたのは、ユイの夫・・・・・・カードデッキの創造者である碇ゲンドウの実験中だったらしい。

実験の内容を知る者は大学内にはおらず、また、所属ゼミの人間もほぼ全員大学を辞めている。

唯一消息が知れるのはキョウコという女性のみだった。

もう1人・・・・・・

キール、という男が、近辺で何度か目撃されている。

何かに憑かれたように虚ろな眼差しで、ふらふらと歩き回り、突然顔色を変えて奇声を上げながら元来た道を戻
る・・・・・・

常軌を逸したその行動が、ゲンドウの実験によるものだとしたら、彼は実験の中で何を見たのか。

ともかく、手掛かりはその2人と、今は閉ざされているこの実験室だけである。

「ゲンドウさん・・・・・・」

呟いた時、微かにノイズが走った。

意識が裂ける。

揺れ動く視界の中に見える、二人の男女。

白い画用紙に2人で絵を描いている。

コウモリ、カニ、ヘビ、クモ・・・・・・

唐突に視点が切り替わり、砕け散るガラスが見えた。

洋館。

窓ガラスが内側に向けて飛散してくる。

大きな衝撃。

世界が揺れ・・・・・・

そこで、ユイの意識は現実に還った。

背中にはびっしょりと汗が滲んでいる。

「・・・・・・何?何なの?」

頭を締め付けられる感覚。

膝をつきそうになるユイの中に、別の感覚が入って来た。

涼やかな、それでいて耳障りな共鳴音。

「モンスター・・・・・・!」

行って何が出来るわけではない。

が、行かなければならない気がしてユイは走った。

そして・・・・・・

キールの死を、彼女は看取ることになる。

『みんな・・・・・・あんたのせいだ』

その言葉とともに。












朝焼けに包まれて 走り出した

行くべき道を

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
          第十五話話五十第
どんな危険に傷つくことがあっても 














「おはようございまーす」

新居・・・・・・花鶏に移り、久し振りに気分よく眠ることが出来たシンジはテンション高く朝の挨拶をする。

が、対照的にネルフの空気は重い。

「シンジ君・・・・・・」

「はい?」

トウジはヒカリの方に一瞬だけ視線を移し、シンジに告げる。

「今日もカヲルの取材行ってこいや」

「は?」

「お前をご指名や」

「はぁ・・・・・・」

要するにカヲルから呼び出しがあったということなのだろう。シンジは重い空気の原因をやっと悟った。

「・・・・・・結構なことね。取材に託けて悪徳弁護士の金で豪遊なんて」

ヒカリの厭味が飛ぶ。

1人で場の雰囲気を凍りつかせる威厳というか、有無を言わせぬ迫力を持った人間である。

「は、はは・・・・・・豪遊なんてそんな・・・・・・」

「せいぜい楽しんでいらっしゃい。なんなら助手にでもしてもらったらどう?もう帰って来なくていいわよ」

「それもいいかもしれないね」

「!」

ヒカリをはじめ、全員の表情が驚きに固まった。

シンジの背後に、スーツにサングラス姿のカヲルがいる。

「それじゃあ、借りてくよ」

「ああ・・・・・・」

シンジの手を引くカヲル。

「さ、行こう」

「は、はぁ・・・・・・」

「女のヤキモチはみっともないね、ご立派なジャーナリストさん」

カヲルに向けてひらひらと空いている手を振り、ウインクとともに去っていく。

「・・・・・・」

「お、抑えて、ヒカリはん。な?」

顔を引き攣らせるヒカリ。体が怒りに打ち震えている。

「・・・・・・あんな女の戯言くらいで怒るほど、心が狭くありませんから」

「ムリはよくないですよ、ヒカリさん」

マユミはいたってマイペースである。

「ムリなんてしてません」

と言うヒカリのこめかみには青い血管が浮き出ている。

「それをムリっていうんですよ」

(頼むからこれ以上怒らせないでくれや・・・・・・)

トウジはそう思いつつ、諦めて仕事に没入することにした。

考えても仕方のないことである。






「・・・・・・で、本気でやる気はないかい?」

「はい?」

例によってマッサージ中。

「いや、助手さ。勉強なんてしなくってもいい。どうだい?」

「ん〜・・・・・・遠慮しときます」

「敬語禁止だよ」

「あっ!・・・・・・遠慮しとくよ」

「給料も破格だよ?ボーナスだって年4回出すし、コレのどこに不満があるんだい?」

「いや、お金じゃなくて、なんていうか・・・・・・」

体が解れていく感覚を味わいながら、シンジは笑顔を浮かべる。

「夢だから」






「ふーん。あの人がねぇ」

今度はレストラン。

例によって、所狭しと並べられた豪華料理の数々。

「うん」

「あんなの目指して記者になるなんて、変わり者だね」

「まぁ、確かに見た目とか普段の言動とかは冴えないけど・・・・・・それでも、僕には最高にカッコいい人だ
から」

なにげに失礼な発言である。

「・・・・・・そう。夢か」

「うん」

笑顔のシンジ。

それを見るカヲルの顔も、いつになく穏やかに見える。






「迷いが見えるわね」

「・・・・・・」

ひびきの商店街。

白衣に身を包んだ金髪の女性が、道を歩くナイトの背中に向けて呟く。

「運命を受け入れているつもりで、翻弄されている。違う?」

「・・・・・・」

アスカは立ち止まらない。

「惣流アスカ・・・・・・か。ああ、あたしは赤木リツコよ」

「・・・・・・」

名前を言い当てられ、さすがにアスカの足が止まった。

首だけを回して女性・・・・・・リツコの顔を見る。

全てを見透かすような、強い意志を秘めた瞳。

「今朝、自分のことを占ってみたら・・・・・・新しい出会いがあると出たわ」

ポケットに手を入れるリツコ。

「あなただと思うのだけど・・・・・・」

「そういうことね」

リツコの手がポケットから出て来る。

・・・・・・エンジ色の、カードデッキとともに。

「確かに、大した占いね」

「ああ。あたしの占いは当たるわよ」

対峙する2人の耳に、聞きなれた音が響いた。

手近な鏡を見つけ、並んでデッキを構える。

「変身!」

アスカの姿は掛け声とともにナイトに変じ、鏡へと消えていく。

それを見届けた後、リツコもまた叫んだ。

「変身!」

閃光とともにリツコの姿が装甲に包まれる。

ナイトを西洋の戦士とするならば、東洋の戦士といった風貌。

全体に曲線的なシルエットであり、鎧というよりは衣を纏っているイメージに近い。

頭部装甲・・・・・・仮面には辮髪のような独特の装飾がある。

「よし・・・・・・行きましょう」

赤木リツコ―――

仮面ライダーライアの姿が、鏡の中に消えた。






遊園地。

シンジとカヲルは、巨大な観覧車のほぼ頂点に達していた。ひびきの市全体が微んでたが見渡せる高さである。
(だが男二人で乗る観覧車・・・見ていて気持ちのいいもんではない)

「やりたい事をやれない人生なんて、何の意味もないと思うのさ、僕は」

カヲルが、街を眺めながら呟く。

その瞳はどこか寂しげで、口調もいつもより沈んでいる。

「だから、君は夢を追うべきなんだろう。僕の側じゃムリだろうから」

「カヲル君・・・・・・?」

「いつか、立派なジャーナリストになったら、僕の取材に来ておくれ。その時までにもっと有名になっておくか
ら」

言いつつ、シンジに笑顔を向ける。

「約束」

「う、うん・・・・・・でも、有名になったら僕の取材なんか受けてるヒマないんじゃ・・・・・・」

かぶりを振るカヲル。

「独占密着取材何でもオッケーさ。だから、とっとと立派なジャーナリストになるんだ。夢なんだろう?」

「うん・・・・・・いつになるか分からないけど、きっと」

夢。

カヲルにとって、夢と欲望の境は曖昧である。

結局は自分のやりたいことに過ぎない。そのために他の欲望を抑え、優先度を上げているというだけだ。

・・・・・・だが、シンジを見ていると、それも揺らぐ。

「夢・・・・・・か」

「カヲル君には何かないの?」

「全ての欲望を満たす・・・・・・ってのは、夢っていうか実践してることだしね」

首を捻るカヲル。

観覧車は、少しずつ下り始めていた。






『Swingvent』

ライアの左手に、何かの尻尾とも見て取れる鞭が握られる。

「ひゅっ!」

「グウウウオオオオオオッ!!」

鞭がモンスターを打った瞬間、火花が散った。

高圧電流。動きを封じるだけでなく、体内に確実なダメージを与えている。

「これで終わりよ・・・」

言葉に呼応して、掲げた右手が光を放ち始めた。

光は素早く魔方陣を描き、モンスターを貫く一筋の閃光となる。

「オオオオオオ・・・・・・ッ!!」

呻き声をミラーワールドの静寂に響かせながら、モンスターは粉々に砕け散った。

現れるエネルギーを吸収したのは、空飛ぶエイ・・・なのだろうかだがそうとしか形容できないエンジ色のモン
スター。

『Swordvent』

横で見ていたナイトが、ウイングランサーを手に距離を詰める。

「・・・・・・邪魔もなくなったことだし、始めましょうか」

「どうしてもやるの?」

振り向いたライアの目に映る、ランサーを手に迫り来るナイト。

やれやれ、といった感じで首を振ると、ライアはデッキからカードを1枚抜き出した。

「無様ね」

左手の、エイを模した手甲型バイザーにそのカードを装填する。

『Copyvent』

空から何かが舞い降り、ライアの手に握られる。

それは紛れもなく、ナイトの持つウイングランサーと同一のものだった。否、色だけはライアのカラー・・・・
・エンジ色。

「来なさい」

ライアに言われるまでもなく、ナイトは既に一太刀目を放っていた。






「僕はね・・・・・・病気なんだ。もうすぐ死ぬ運命なのさ」

「・・・・・・え?」

ジェットコースターの上で、カヲルは唐突にそう切り出した。

嵐の前の静けさ、とも言われる、落下前の上昇部分。口を開く者は少ない。

「なんかさ、君には話しときたかったんだ。別に意味はないけどね」

「カヲルく・・・・・・」

ガクン。

「ぎゃあああああああああああああああ」

喚声とコースターの加速音が高速の世界に響き渡る。






「くっ・・・・・・!」

ウイングランサーを弾き飛ばされ、自らも倒れるナイト。

『Finalvent』

「行くわよ・・」

ライアが軽く跳躍すると、ちょうど足場になる位置にエイのモンスター・・・・・・エビルダイバーが現れる。

ようやく立ち上がったナイトに向かって、青い火花を放ちながら高速接近していく。

「雷撃翔破・ハイドベノン!」

ライアの叫びが引き金となり、エビルダイバーが急加速した。

空を切り裂きながらナイトに迫り・・・・・・

衝突直前で、わずかに減速する。

しかし、それでもナイトを吹き飛ばす威力は十分に残っていた。

「きゃぁっ!!」

胸を強打したナイトは、再び地に伏せる。

電撃に打たれたのだろう、体の感覚が薄れていた。

「・・・・・・虚しいでしょ、こんな戦いは・・・」

ライアは倒れたナイトの前で、無防備な姿を晒している。

「甘く・・・・・・見ないでっ!」






夕暮れ時。

花鶏の前に、不似合いな黒い高級車が止まっている。当然、カヲルのものである。

「それじゃ・・・・・・送ってもらって、ありがとうございました」

頭を下げるシンジ。

「いいさ。もともと僕がムリに連れ出したんだしね」

カヲルが笑顔でかぶりを振ると、シンジはどこか寂しげな表情を浮かべる。

「カヲル君・・・・・・」

「夢ってほど大袈裟なもんじゃないけど―――」

何かを言おうとするシンジを遮るように、カヲルは車に戻りながら呟く。

「君みたいなのと、ずっと遊んでられたらいいと思う」

ドアが閉じる。

シンジはどうしていいか分からず、走り去る車をただ眺めていた。






「お帰りなさい」

事務所に戻ったカヲルを出迎えたのは、エプロン姿の古式。

「ただいま、五郎君。ごはん出来てるかい?」

「はい。用意してあります」

「いつもありがとう、五郎君」

「いえ」

相変わらず、笑顔を崩さない古式。

「それでは、食卓の準備をしてまいります」

「ああ」

古式はキッチンに戻っていく。

(・・・・・・僕はまだ死にたくない、いや死ねない。まだまだ、やりたいことがいっぱいあるのだから)

カヲルは自分の手を見た。

そして、その手の中にある、角を生やした牛のような刻印を持つ緑色のカードデッキを。






続く






(次回予告)

「小さな約束も守れない奴が、大事なものを背負えるわけないだろ?」

「やっぱり、あんたはライダーになるべきじゃなかったのよ」

「・・・・・・決着をつけてやるわ。シンジ!」





―――戦わなければ生き残れない。


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