『Trickvent』 

『Finalvent』 

2つの声が続けて響いた。 

「とっ!」 

地を蹴り、ダークウイングとともに空高く飛翔するナイト。 

その体が、黒い帳に包まれ、巨大な漆黒の槍へと変じていく。 

「八連飛翔斬っ!!」 

「そう来るのね・・・・・・」 

迫り来る黒い槍に対し、ライアは慌てることなく構えを取る。 

やや重心を落とし、全身の筋肉を臨戦態勢に持ち込む構え。 

「ふっ!」 

軽く後ろに跳ぶライア。 

刹那の後、ライアが直前までいた地点を、急降下してきた漆黒の槍が貫く。 

「はっ!」 

続けて、横に跳躍し、正面から迫って来た槍を避ける。 

「とっ!」 

連続してライアを狙う槍。 

しかし、最後の一撃―――背後から左腕を掠めた一撃以外は、無為のまま回避される。 

「読めているとはいえ、完全にかわせるわけじゃないのね」 

左腕の掠り傷に手を当てながら、ライアが呟いた。 

「くっ・・・・・・」 

マントをはためかせながら地上に戻るナイト。 

「じゃあ・・・・・・そろそろ、終わりにしましょうか」 

ライアが鞭で地面を叩く。 

ピシッ、という乾いた音とともに、青い火花が散った。 

『Guardvent』 

ナイトの装填したカードにより、背中に纏ったマントがダークウイングの翼へと変わった。 

翼はナイトを守るように胸の前で閉じる。 

「無駄よ」 

ライアの鞭・・・・・・エビルウィップが、翼の鎧を打ち据えた瞬間。 

衝撃自体は防がれたが、青い閃光とともに高圧の電流がナイトの身体を駆け巡った。 

「ああああっ!!」 

一瞬、全身が麻痺する感覚。 

体中の力が抜け、ナイトはその場に膝をついた。 

「・・・・・・帰るわよ」 

「ま・・・・・・待て・・・・・・!」 

剣型のバイザー・・・・・・ダークバイザーを支えにしてどうにか立ち上がるナイト。 

装甲のところどころが焦げ、煙を噴出している。 

ライアの姿は既に無かった。 











♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


   仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮
           第十六話話六十第 









第16話 












「待て・・・・・・!」 

「待つのはかまわないわよ」 

よろけながらリツコを追うアスカ。 

その呼び掛けに答え、リツコは足を止めて振り返る。 

「戦う気は、もうないけど」 

「何のつもり!?」 

「あなたこそ、何のつもり?強いフリして戦って、それで生き残れると本当に思ってるの?」 

タバコをふかして言うリツコ。 

どこか博士のような外見でありながらラフなその外見が、奇妙な感覚を生み出している。 

「強いフリ・・・・・・ですって?」 

「ああ。あなたには迷いが見える。本当に、誰かを殺せるつもりなの?」 

「・・・・・・殺せるわよ!!ライダーになるってのはそういうことなんだから!!」 

アスカは間を置かずに答える。 

「だけどね、あなたはシザースに止めを刺せなかった・・・・・・それがあなたの迷い。口でどう言おうとね」 

リツコの眼は、アスカを真っ直ぐに見据えていた。 

心を読み取ろうとしている・・・否、既に全てを見透かしているような瞳。 

「・・・・・・」 

「過ちを正すために、大事なものを取り戻すために、失い続けるつもり?」 

「アンタなんかに何が分かんのよ!」 

「分かるわ」 

リツコは表情を崩さない。飄々としながら威厳を湛える姿のまま、アスカを見ている。 

「あたしだって失ったから。何よりも、大事なものを」 

「・・・・・・」 

「でも、取り戻そうとは思わない。いや、取り戻せない・・・・・・あたしは生き残れない」 

「なっ・・・・・・?」 

リツコは意味ありげに目を細め、アスカに背を向けた。 

「あたしの占いは当たってしまうのよ。だから私はこの戦いで死ぬ」 

歩き始めるリツコ。 

「ま、待て!」 

「また近いうちに会うわよ」 

片手を挙げて応えると、リツコはアスカの視界から曲がり角の向こうに消える。 

「くそっ・・・・・・!」 

身体を引き摺るようにして、アスカは曲がり角に辿り着いた。 

「な・・・・・・」 

角の向こうは行き止まりだった。 

三方から建物の影になり、光の射さない場所。 

「ちっ」 

アスカは壁に拳を叩きつけると、元来た道に引き返していく。 

唇を強く噛み締めながら。 






「・・・・・・」 

「・・・・・・」 

水音だけが契機良く響いている。 

しかし、シンジは洗い物を手にしたまま、ユイはテーブルクロスを抱えたまま、動かない。 

「・・・・・・ねえ、母さん」 

「・・・・・・ねえ、シンジ」 

2人の声が重なった。 

「・・・・・な、何?」 

「シンジからでいいわよ」 

「いや・・・・・・なんか、元気ないみたいだなーって」 

「シンジこそ」 

「・・・・・・」 

「・・・・・・」 

水音だけが響き続ける。 

「・・・・・・仕事、しよっか」 

シンジは洗い物を片付け始める。 

水音に加え、カチャカチャと陶器の乾いた音が混じる。 

「そうね・・・・・・」 

ばさっ、という音とともに白いテーブルクロスが広がった。 






「・・・・・・」 

日中、リツコのいる通りに訪れる者は少ない。昼間からわざわざ占いに来る者がそういるわけもないが。 

リツコは、燃え、右半分が灰となった紙片を手に目を閉じている。 

描かれているのは、コウモリの・・・・・・ナイトの紋章。 




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『Finalvent』 

「飛翔・・・・・・」 

『Confinevent』 

ナイトを包んでいた黒い帳が、白い閃光とともに砕け散った。 

「なっ・・・・・・!」 

マントすら失い、無防備に落下してくるナイトに向けて『そいつ』は追撃のカードを装填する。 

『Finalvent』 

「ヘビィイイイイ・プレッシャアアアア!!」 

ライアのハイドベノンに似た、閃光に包まれながらの突進。 

右腕に装着された高速回転ドリルがナイトの胸を貫き――― 

「きゃあああああ!!」 

「そろそろしんじゃっていいよ〜〜!」 

爆炎が巻き起こる。 

カラン、と、何か軽い物が地に落ちる音。 

それは、中央から左右2つに砕けたカードデッキだった。 

炎が止んだ後もナイトの姿はどこにもない。 

「これで、あと12人ね〜ちょっち多くてめんどくさいわね」 

『そいつ』・・・・・・仮面ライダーは、満足そうに呟いた。 

ライアとは対照的に、無骨な重装。 

白い装甲版に身を包んだその姿は、確かに仮面ライダーだった。 

ジベット.スレッドと呼ばれる、モンスターにライダーの意思を伝える装置も各部に見られる。 

カードがちょうど1枚収まる窪み・・・・・・おそらくは、装甲そのものがバイザーなのだろう・・・・・が
ある左肩の装甲からは、真紅の巨大な角が突き出ている。 

額にも同じように、白い、少し小ぶりだが鋭さが見て取れる角があった。 

そして・・・・・・ 

腰のカードデッキには、サイを模したであろう金色の紋章。 

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「こいつが・・・・・・次に現れる仮面ライダーか」 

リツコは目を開き、低い声で呟いた。 

「このバカみたいなのとアスカを戦わせるわけにはいかない・・・・・・戦えば、アスカは死ぬ」 

ナイトの紋章が描かれた紙は、リツコの手から離れた瞬間に燃え尽き、黒い紙片となって風に飲み込まれた。 






「いらっしゃいまっせ〜」 

常時異様にハイテンションな優記は、客商売には最適と言える性格である。 

「タフだね、優記さん・・・・・・」 

「うん。初めて会った時からずっとあんな感じ」 

「そこ!無駄口聞いてないでさっさと仕事仕事!」 

凄まじい速さでコーヒーを準備しつつ、シンジとユイに檄を飛ばす優記。 

「は、はい!」 

花鶏の客の入りはそこそこ多い。 

ユイと優記の人気もあるのだろうが、純粋に優記の淹れるコーヒーの味や雰囲気に魅かれている客が多い。 

喫茶店にとっては『常連だが、居座らない』という客をどれだけ確保するかが命綱となる。 

が、優記の休みなく働く姿を見ていれば、良心を持つ人間は早く店を出ようとするものだ。 

必然的に回転が早くなり仕事が更に増えるのだが、優記はそれでも疲れを見せない。 

「いらっしゃいま・・・・・・せ・・・・・・」 

ユイの声が途中で途切れる。 

「いら・・・・・・」 

シンジに至っては、ほとんど言わないまま固まってしまった。 

「いらっしゃいまっせ〜」 

相変わらずなのは優記だけだ。 

「アイスコーヒー、ブラックで」 

「かっしこまりました〜」 

聞かれてもいないうちから注文を告げるその客にも、優記は満面の笑みで対応する。 

「アスカ・・・・・・」 

「後で話がある・・伊集院大橋にきて」 

「・・・・・・」 

シンジに向けてそれだけ言うと、アスカは新聞を手に取って眺め始めた。 

「そこ、ぼーっとしないで働く!」 

「は、はいっ!」 

シンジは時々アスカの方を眺めたが、新聞に隠されたその表情は窺えなかった。 






「・・・・・・何だよ、話って」 

「この前の・・・・・・ゾルダとの戦い、なんで本気でやらなかったの?なめてるの?」 

伊集院大橋。 

デートの待ち合わせによく使われる場所だが、今いるのはシンジとアスカの2人だけである。 

「なんで、って・・・・・・。相手は人間だろ」 

「人間である前に、仮面ライダーよ」 

アスカはそう言うと、シンジの正面に立つ。 

「やっぱり、お前はライダーになるべきじゃなかった・・・」 

「・・・・・・なんで、ライダー同士戦わなきゃいけないんだよ」 

「お前はこの戦いに背負うものがあるの?背負うもののために誰かを殺せるつもり?」 

アスカの言葉は自らへの問いでもあった。 

背負うものは、ある。 

しかし・・・・・・ 

『本当に、誰かを殺せるつもり?』 

リツコのその言葉が、耳から離れない。 

生きながらドラグレッダーに喰われていくボルキャンサーを見て、ライダー同士の戦いがいかに壮絶であるか、思い知った。 

その時、覚悟を新たにしたのではなく、迷いにつながったのではないか・・・・・・と、今になってアスカは
思う。 

「・・・・・・借金」 

ややあって、シンジが顔を上げて答えた。 

「何?」 

怪訝な顔で訊き返すアスカ。 

「カヲル君への借金。あれ返すまでは、死ねない」 

「・・・・・・アンタ・・・ばか?」 

アスカは肩をすくめ、シンジを見下すように顎を上げる。 

「小さな約束も守れない奴が、大事なものを背負えるわけないだろ?」 

シンジの表情に冗談めいたものはない。 

「・・・・・・」 

アスカの脳裏に蘇ってくる、キョウコの言葉と、笑顔。 

『お願い。ね、待ってるから』 

「・・・・・・」 

そう。 

彼女は、待っていた。 

アスカが来るのを、待っていた。 

もし約束した時間に間に合えば、キョウコは。 

「・・・・・・目障り」 

「え?」 

アスカは今までにない迫力を持った眼でシンジを睨みつけた。 

「・・・・・・決着をつけてやるわシンジ!」 

「あ・・・・・・!」 

素早くシンジのポケットからカードデッキを奪い取ると、アスカは走り出す。 

「ま、待て!返してよ!」 

カードデッキを失ったライダーがどうなるか。 

シンジはシザースを思い出す。 

契約モンスターを失い、ブランク体となってしまったシザースのことを。 

「・・・・・・いや、それより最悪か」 

デッキがないということは、契約の証がないということ。 

つまり、もともとドラグレッダーに狙われていたシンジは、すぐにでも襲われかねないのだ。 

「冗談じゃない!」 

シンジは真っ青な顔をぶんぶんと振ると、アスカの後を追って地を蹴った。 






ミラービルの前。 

アスカは、2つのカードデッキを手に持ち、シンジの到着を待っていた。 

「戦え。戦わないなら、この場で・・・・・・殺すわ」 

「ギ―――・・・・・・」 

アスカの背後にはダークウイングの羽音と鳴き声が響いている。 

戦いを拒否した場合、即、襲う気なのだと知れた。 

「アスカ・・・・・・」 

胸元目掛けて投げられたデッキを受け取り、シンジは呟いた。 

「どうしても、戦うのか?」 

「何度も言わせないで。戦わなければ生き残れないの!」 

アスカは鏡の前に立ち、デッキを映す。 

腰にベルト・・・・・・Vバックルが生じる。 

「変身!」 

Vバックルにカードデッキを装填した時、アスカの姿は漆黒の鎧とマントに包まれる。 

「・・・・・・来なさい」 

その言葉を残し、アスカ・・・・・・否、ナイトは鏡の中へ消えた。 

「・・・・・・」 

「ギ―――ッ!」 

急かすように、ダークウイングが嘶いている。 

「・・・・・・わかったよ」 

渋々、といった感じだが、シンジはデッキを鏡に映した。 

「変身・・・」 

Vバックルに、龍の紋章を刻まれたデッキが装填される。 

真紅の装甲がシンジを包み、無双龍の力を宿すライダーへと変える。 

「・・・・・・」 

いつもの掛け声はない。 

無言のまま、シンジ・・・・・・否、龍騎もまた、ミラーホールへと飲み込まれていった。 






続く 


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