『Strikevent』

「メタルホォオオオン!」

妙に大袈裟な掛け声を張り上げている重装の戦士。

無骨なその装甲には、左肩と額の角以外に装飾は見受けられない。

空から降ってきた手甲を左手に装着し、モンスターと対峙する。

手甲の先端には高速回転する金色のドリル。

「メタルホォオオオン・クラァアアアアッシュ!!」

いちいち掛け声を上げ、一旦手甲を天に掲げてから突進。

「いっけええええええ!!」

「グオオオ・・・・・・オオ!」

胸を貫かれたモンスターは、爆炎とともにあっさりと砕け散った。

「正義は勝つのよ!!!あはははははははははははは」

右腕を体の前に突き出して決めポーズ。

「正義・・・・・・か」

「ははは・・・・・・!」

「碇ゲンドウも、ずいぶんふざけた奴をライダーに選んだものだな」

どこからともなく響いてくる声。

地獄の底から響くような、空の果てから響くような。

「ねー、ライダーでしょ?やる気なの?まぁ私には勝てないけどね。あははは」

あくまで軽い口調で、重装のライダーは空に向けて言う。

「とりあえず、お前に興味はない。先に殺さなければならない奴がいてな・・・・・・」

「ふーん。ま、どっちでもいいよ。順番が変わるだけだしぃ」

「ふ・・・・・・奴を殺したら、次はお前だ」

声―――ライダーの気配は、共鳴音とともに遠ざかっていく。

「わたしに勝てるわけなーいじゃん」

重装のライダーもまた、その場から姿を消した。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

朝焼けに包まれて 走り出した 

行くべき道を 

情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく 

どんな危険に傷つくことがあっても 



夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 

憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 

夢に向かえ まだ不器用でも 

生きている激しさを 体中で確かめたい 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 


仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮   
          第十七話話七十第 



『Swordvent』

『Guardvent』

「くうっ!」

龍騎の口から呻き声が漏れた。

ドラグシールドを両手に装備し、頭上からの斬り下ろしを止める。

「とりゃあっ!」

ナイトは素早く、それでいて緩やかな、例えれば流れる水のごとき動きで剣を引き、水平に薙ぎ払う。

「ととっ!」

ドラグシールドの防御が甘くなった一瞬を、ナイトは見逃さなかった。

「面!」

「うわあっ!」

高校時代、剣道部所属の彼女が得意としていた技。

作った隙を確実に攻め、己の隙が生まれるより先に倒す。彼の剣はそういう剣だった。

一歩踏み込んで龍騎の頭部を打ち据える。

「突き!」

連続して、胸に向けてウイングランサーの先端が突き出された。

剣道における有効打突部位ではないが、実戦にそんなルールはない。

「とととっ!」

龍騎は直撃を受けた・・・・・・ように見せかけ、突きの勢いを利用して後ろに跳ぶ。

『Swordvent』

それまで持っていたドラグシールドを肩のジベット・スレッドに装着し、ドラグセイバーを手にする龍騎。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ナイトの方から、じりじりと間合いを詰めていく。

「小手っ!」

否、一瞬で距離が詰められた。

「ぐっ!」

ウイングランサーが龍騎の左手を打ち据え、ドラグセイバーを離れさせる。

「胴!」

「くうっ!」

流れるように、更に間合いを詰めての右胴払い。

そのまま足を止めず龍騎の背後に回り、振り上げたウイングランサーをそのまま頭に落とす。

「面!」

「でいっ!」

金属同士が衝突するような音とともに、火花が散った。

「ぎぎぎぎぎ・・・・・・」

龍騎はウイングランサーを素手で止め、離さない。

「く・・・・・・」

引き離そうとするナイトだが、もともとパワー自体は龍騎に遠く及ばないのだ。

そのまま振り下ろすことも、離れることも出来ない。

「うおりゃあっ!」

「ああっ!」

龍騎の拳が腹部にめり込み、一瞬だがウイングランサーに込めていたナイトの力が抜ける。

「ていっ!」

その隙をついて、龍騎はウイングランサーを奪い取り、後方へ放り投げた。

「このぉおおお!」

「ぐっ!」

今度はナイトの顔面を、龍騎の拳が打った。

『Advent』

「ギ―――ッ!」

「しまった!」

考えなくても分かることなのだが・・・・・・

ナイトの契約モンスターは、飛翔タイプのダークウイング。

つまり、武器を遠くに投げても意味はないのである。

投げ捨てられたウイングランサーを足で掴み、ダークウイングが飛来する。

「うああああああああああ!!」

龍騎がダークウイングに気を取られた刹那、立場が逆となり、ナイトの拳が龍騎の顔面を打つ。

「あああああああああ!!」

正に鬼気迫る勢いで、ナイトは拳を振るい続ける。

己の手甲がヒビ割れ、裂傷が刻まれていくのも構わず。

「ああああああああああああぁぁぁぁりゃああああっ!!」

手が止まった直後、渾身の力を込めたナイトのハイキックが龍騎の即頭部に叩き込まれた。

「ギ―――ッ!!」

衝撃で吹き飛んだ龍騎をダークウイングが受け止め、急降下して地面に叩き付ける。

「ぐはっ・・・・・・」

漆黒のコウモリの着弾とともにコンクリートに巨大な穴が穿たれ、龍騎の姿は完全に埋もれてしまう。

飛び散ったコンクリートの破片を避けつつ、ダークウイングはナイトの側へ向かった。

「なんで・・・・・・なんでよ!!本気で戦いなさいよ!!」

背後にダークウイングを従わせ、ナイトが呟く。

「ぼ・・・・・・」

地が吹き飛んだ。

破片を撒き散らしながら、埃とともに龍騎が姿を現す。

装甲は汚れてはいるが、ほとんど傷付いた様子はない。

「僕が本気になったら、簡単にアスカを殺せるんだ・・・・・・」

憐れむように、龍騎は呟く。

「自惚れもいい加減にしろ!」

激昂するナイトにも動じず、龍騎はただ立ち尽くしている。

「・・・・・・そんなに死にたいなら、望み通りこの手で、この場で・・・・・・殺してやる!!」

『Trickvent』

『Finalvent』

続けて2枚のカードが装填される。

「ギ―――ッ!!」

「とっ!!」

ダークウイングとともに空高く舞い上がり、黒い帳に包まれて巨大な槍となるナイト。

「八連飛翔斬っ!!」

漆黒の、八本の槍が四方八方から降り注ぐ。

・・・・・・それでも、龍騎は動かなかった。

全ての槍に身体を打たれ、そのまま倒れる。

「ぐ・・・・・・うっ」

「・・・・・・」

地に降り立つと同時に、ウイングランサーを手に近付いていくナイト。

『Shootvent』

「ぐっ!?」

その身体を、凄まじい爆炎と衝撃が吹き飛ばした。

「潰し合ってくれてたんだ。じゃ、2人まとめてとどめと行こうか」

冷酷な声とともに現れたのは、両肩に砲門を装備した緑色の戦士・・・・・・ゾルダ。

「ちっ・・・・・・!」

衝撃で身体が言う事を聞かないナイトに向け、ゾルダは狙いを定める。

『Copyvent』

が、次の瞬間には自らの武器で身体を撃たれ、その場に崩れ落ちた。

「何・・・・・・?」

「お前の思い通りにはさせないさ・・・・・・このあたしがいる限りな」

ゾルダの視線の先には、同じように両肩にキャノン砲を装着したライアがいる。

「・・・・・・まとめて、潰すまでさ」

『Swingvent』

ライアの右手に、青い火花を散らすエンジ色の鞭が握られた。

「いちいちジャマだ!ゴチャゴチャと!」

対し、右手のマグナバイザーを連射するゾルダ。

「あたしには見える・・・・・・あなたの攻撃が」

ライアは軽く鞭を振り払っただけで、全ての弾を弾き落とした。

それだけに留まらず、鞭はそれ自身生きているかのように空を舞い、マグナバイザーに巻き付く。

「くっ!」

「離した方がいいわ、その手を」

ライアがそう呟いた直後、バイザーを握るゾルダの右手から電流が全身を駆け巡った。

「ぐううっ・・・・・・!」

麻痺し、力が抜けた隙に、マグナバイザーは釣りのごとくライアの鞭に奪い取られている。

「いけっ!」

ライアが左手をかざす。

光の魔方陣。

それは一条の光線となり、ゾルダの胸を貫いた。

「ぐぅ・・・・・・うう・・・・・」

膝をつくゾルダ。

「あたしは変えてみせる・・・・・・ライダーの運命を。戦わなければ生き残れない運命を」

マグナバイザーを左手に持ち、ライアが涼やかに響く声で言う。

その気になれば、ゾルダを瞬時に葬れる態勢で。
「・・・・・・とんだ甘ちゃんだね」

ゾルダが顔を上げるとともに、肩のギガキャノンが2門同時に火を噴いた。

「くっ!」

ライアの肩にあったギガキャノンもほぼ同時に放たれ、2人の眼前で弾丸の威力が相殺し合う。

『Advent』

「ギ―――ッ!!」

「なっ!?」

弾丸同士の衝突によって生じた熱量に、ライアが怯んだほんの一瞬。

その隙にダークウイングが背中から襲い、マグナバイザーをライアの手から空中へと放り出した。

「気に入らない・・・・・・まずアンタからよ!!!」

「アスカ・・・・・・!」

ウイングランサーを構えたナイトが、ゾルダとナイトの間に割って入っている。

カラン、と乾いた音が響き、マグナバイザーが地に落ちた。

それを拾うべく走り出したゾルダ。

しかし、バイザーを手にしたのは、龍騎だった。

「止めてみせる・・・・・・こんな戦いなんて、何の意味もない!」

「何の意味もない・・・・・・?」

ゾルダは龍騎の言葉を鼻で笑うように、顎を少し上げた。

「相変わらずキレイゴトばっかり言ってるわけか」

「・・・・・・」

「教えてあげるよ。現実ってヤツをさ」

言葉と蹴りはほぼ同時。

ゾルダの爪先が龍騎の手を打ち据え、バイザーをゾルダの手に引き戻した。

「くそっ!」

『Shootvent』

間髪入れず巨大なランチャー砲から弾丸が発射される。

「やべっ!」

『GUARDVENT』と記されたカードを装填しようとする龍騎。


ゾルダはそれを許さず、マグナバイザーの弾丸でカードを手から離させる。

「ぐっ!」

「だぁっ!」

肩のギガランチャーとギガキャノンの同時発射。

3発の弾丸が、龍騎目掛けて放たれ、その身体を炎で飲み込んだ。

「おわ―――!!」

『Strikevent』

更に、吹き飛ぶ龍騎を巨大な2本の角で打ち据える。

「がはあっ・・・・・・くっ!」

脇腹を強かに打たれながらも、龍騎はなんとか受身を取って立ち上がった。

「ちっくしょう・・・・・・やっぱ、強い・・・・・・」

肩で息をする龍騎。

少し離れた所では、ライアとナイトが死闘を繰り広げていた。

「でええええいっ!!」

「このっ!」

終始、ライアが圧倒しているのは一目瞭然だが、余裕があるわけではない。

鞭を小刻みに振るって剣の威力を殺すまでに留まり、電撃による攻撃は行っていない。

「ふっ!」

「ぐうっ・・・・・・!」

ライアの鞭が、ナイト本体の腕を捕らえた。

「りゃあっ!」

「うおおおっ!」

ナイトの腕に絡みついた鞭をそのまま振りかざすライア。

ナイトは釣り上げられた魚の如く自由のないまま龍騎の前にまで飛び、背中を打って倒れた。

「アスカ!」

「ぐ・・・・・・うっ」

起き上がれないでいるナイト。

「・・・・・・」

ゾルダは無言のまま、バイザーにカードを入れる。

『Advent』

「あれは・・・・・・!」

ゾルダの周囲にあったキャノン砲が、ランチャーが、楯が、角が、寄り集まって人型を成していく。

「終わりにするとしよう」

マグナギガが完成するとともに、ゾルダは次のカードをデッキから引いた。

龍騎の脳裏に浮かんだのは、前回の戦いでゾルダが放ったファイナルベント・・・・・・エンドオブワールドの破壊。

辺りにあるもの全てを破壊し尽くし、滅ぼす力。

(今アレをやられたらアスカが・・・・・・!」

悩んでいる時間はなかった。

ゾルダは、最後のカードを今にも装填しようとしている。

「くそっ!」

『Shootvent』

龍騎の右手が、龍の顎となる。

「と―――っ!!」

不可視の速度で打ち出される火球が、マグナギガの装甲に着弾。

直後巻き起こる巨大な火柱。

「があああああっ!!」

その背後にいたゾルダをも巻き込んで炎が燃え上がり―――

止んだ時には、マグナギガも、ゾルダも、跡形もなく消え去っている。

「な・・・・・・!?」

龍騎の手が震える。

「まさか・・・・・・そんな・・・・・・」

「・・・・・・」

ナイトは起き上がり、つい数秒前までゾルダがいた場所に眼を向けた。

何も、ない。

焼け焦げた地面以外は。

「僕が・・・・・・?」

立ち上がり、先ほどまでゾルダがいた場所を眺めるナイト。

何もない。焼け焦げた跡以外は、何も。

「・・・・・・うわああああああああ!!」

龍騎の叫びがどこまでも響いていく。

生命の棲まないミラーワールドには、龍騎の慟哭を妨げる者も、ナイトの他に聴く者もいなかった。












現実。

ここは『現実』。

非現実ではあるが、ここ以外に『現実』はない。

「・・・・・・僕が、殺したんだ」

倒れているのは、おさげの女性。

・・・・・・古式ゆかり。

シンジの脳裏に蘇ってくる映像。

黒いスーツの男たちと対峙した時、彼女が取っていた拳法の構えのようなポーズ。

「僕が・・・・・・」

古式の手には、緑色のデッキが握られている。

「僕が・・・・・・!」

「碇・・・・・・今はこの場から離れなさい」

辛うじて残っていた冷静さで、シンジは現れた人影に問いかけた。

「あんたは・・・・・・」

「赤木リツコ。説明は後」

「でも、あの人・・・・・・!」

「どう説明するつもり?ライダーになって殺しました、とでも言うつもり?貴方が殺したことを立証するのは無理よ」

リツコは無理矢理にシンジの手を取って走り出す。

「僕が殺したんだ・・・・・・僕が・・・・・・あの人を・・・・・・」

(予想以上に単純ね、この子・・・・・・)

溜息をつくリツコ。

「いいから走る!」

「な・・・・・・!」

2人が消えた後、倒れた古式に近付く共鳴音。

(逃げたか・・・・・・どっちにしろ、ナイト以外には興味はないがな・・・・・・)

誰の耳にも聞こえない声で、誰の目にも見えない何かがそう呟いた。







「ただいま帰りました」

「おかえり、五郎君。おつかれさま」

カヲルの事務所内。

バスローブに身を包んだカヲルは、笑顔で古式を出迎えた。

「お返しします」

「うん。で、どうだったのかい?」

ゾルダのデッキを手渡す古式に、カヲルは唐突に問い掛ける。

「と、言いますと?」

「龍騎。どんなヤツだったんだい?どうせロクなヤツじゃなかったんだろう?」

「そう・・・・・・ですね・・・・・・」

返答に詰まる古式。

「―――キレイゴトで戦ってるヤツは、自分の手が汚れたら弱いのさ。これで1人、潰したよ」



続く


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