「いらっしゃいませー」 「・・・・・・邪魔するよ」 営業スマイルで出迎えられて花鶏に入って来たのは、シンジを引き摺ったままのリツコ。 シンジは頭をだらりと下げ、身体に力を全く入れていない。 「シンジ・・・・・・あなたは?」 「あたしは赤木リツコ。仮面ライダーライア・・・・・・の方がいいかな」 「仮面ライダー・・・・・・!?それじゃ、シンジを・・・・・・」 「誤解しないで。あたしはライダー同士の戦いを止めようと思ってるのよ。ライダーの力はモンスターを倒すためだけに使うべき・・・・・・この子と同じよ」 リツコはそう言いつつ、シンジの手を離した。 「・・・・・・シンジ?」 「母さん・・・・・・僕・・・・・・」 身体を震わせながらユイの顔を見上げるシンジ。 「ライダーを、殺したんだ。僕が、この手で」 ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 朝焼けに包まれて 走り出した 行くべき道を 情熱のベクトルが 僕の胸を貫いていく どんな危険に傷つくことがあっても 夢よ踊れ この地球(ほし)のもとで 憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど 夢に向かえ まだ不器用でも 生きている激しさを 体中で確かめたい ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 仮面ライダー龍騎EVAAVE騎龍ーダイラ面仮 第十八話話八十第 「シンジ・・・・・・」 シンジは部屋に閉じこもったまま、ユイの言葉にも返答しないでいた。 「僕が・・・・・・あの人から奪ったんだ。未来も、希望も、夢も・・・・・・何もかも。あの人の家族だって友達だって泣いてる。どうしたらいいんだよ・・・・・・どうやって償えばいいんだよっ!!」 頭を抱えるシンジ。 思考は堂々巡りを繰り返し、閉じた眼に倒れた古式の姿が焼きついて離れない。 「・・・・・・シンジ、何故お前は戦いを拒む」 「!」 顔を上げたシンジの目に。 「父さん、なんでそこ・・・・・・いや、違うな・・・・・・」 「倒せ。ライダーを。最後に生き残るライダーはただ1人だ」 「あんたが・・・・・・僕の親父であり、母さんの夫そして・・・・デッキを作った張本人・・・・・・」 窓に映りこんだその姿は、サングラスをかけシンジとは程遠く似ておらず威圧感が出ている。 「なんで・・・・・・なんでライダー同士を戦わせるの?」 「考える必要はない!!戦わぬのなら死ぬだけだ!!」 「どうして殺し合いなんかさせるんだよ!」 「ライダーに出来ることは、戦い続けて生き残るか、戦いを拒んで死ぬか、どちらかだけだ」 冷たい目・・・・・・氷のように透き通り、感情のない目で、ゲンドウはそう言い放つ。 「グオオオオオ―――ン!!」 咆哮とともに、美帆を映していた窓ガラスが砕け散る。 代わりに現れるのは、その牙を露にした真紅の巨大な龍・・・・・・ドラグレッダー。 「シンジっ!!」 ドアが吹き飛ぶ。 部屋に入って来たユイの姿を見ると、ドラグレッダーは何故か大人しく割れた鏡の中へ戻った。 「今、ドラグレッダーが・・・・・・!」 「・・・・・・」 「モンスターと戦って、エネルギーを吸収させないと・・・・・・このままじゃシンジが!」 「もういいよ・・・・・・ほっといてくれ」 「何言ってるのよ!」 キイイイイン。 ごく近くで、ドラグレッダーとは別の共鳴音が響いた。 「シンジ・・・・・・!」 「僕は行かない。僕はもう・・・・・・ライダーなんか」 「行かなきゃ、また人が死ぬのよ!?守るために戦うって言ったじゃない!」 ユイはシンジの胸を掴んで揺さぶりながら、その目を真っ直ぐに見る。 「・・・・・・戦いを止める?だったらこんなところで龍に喰われて何になるの?」 いつの間にか部屋に入ってきていたリツコが呟く。 「母さん・・・・・・リツコさん・・・・・・」 「あたしは行くけど、どうする?」 「・・・戦いが・・・・・戦いが罪なのなら僕が、僕が全てを背負ってやる!!!!」 「シンジ・・・・・・」 ユイの心配げな視線。 シンジは何かを決意したように、力強く頷いた。 「行こう!」 「ああ」 「行ってらっしゃい」 「・・・・・・うん。行ってきます」 笑みを浮かべるシンジ。 その顔に、もはや迷いはなかった。 「ひ、ひいいいっ!!」 「シュシュシュシュ・・・・・・」 青白く透き通った触手が、1人の青年の身体を締め付ける。 「た・・・・・・」 一瞬。 触手は、頭頂部に口腔を持つ異様なモンスターの元へ獲物を誘い、その餌食とした。 「シュシュ・・・・・・」 脆弱さを嘲笑うような、くぐもった声がミラーワールドに響いた。 「遅かった・・・・・・!」 リツコは舌打ちし、そう呟く。 「・・・・・・ちくしょう!僕がもっと早く・・・・・・」 「『もし』なんてことは考えても仕方ないのよ。とにかく、ヤツを倒す!!」 「分かってる」 リツコとシンジは、お互いの顔を見合わせながら頷いた。 「・・・・・・こんなとこで何やってるんだい?」 「カヲル君・・・・・・?」 ひらひらと手を振りながら駆け寄って来るのは、スーツ姿のカヲル。 「そっちのは?」 「・・・・・・赤木リツコよ」 リツコは露骨に警戒した表情でカヲルを見る。 「ふーん。で、シンジ君とはどういう関係で?」 「・・・・・・今日知り合ったばかりでね。貴方が心配するような関係じゃないわ」 「ふーん・・・・・・」 「あ、あの、ちょっと?」 火花を散らす・・・・・・というか、一方的に敵意を向けるカヲルと、警戒するリツコの間に挟まれ、シンジは2人の顔をおろおろと見回す。 「言っとくけど、シンジは僕ののだからね。手ぇ出さないでおくれよ」 「本人に聞くべきでしょう、そんなことは」 鼻で笑うリツコ。 「あのー・・・・・・」 はっきりシンジに好意を寄せていると聞こえたカヲルの発言よりも先に、モンスターの問題が先である。 シンジはデッキの入ったポケットに手を突っ込んだまま固まっている。 「うっ・・・・・・」 と、突然カヲルが膝をついた。 「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・ぐううっ、うう・・・・・・っ」 激しく咳き込む。 膝をついた時の衝撃で、スーツのポケットから何かが転げ落ちた。 「これは・・・・・・!?」 「やっぱり・・・・・・」 驚くシンジと、対照的に何の反応も示さないリツコ。 落ちたのは、緑色のデッキケース。 「貴方がゾルダだったんだな・・・・・・渚カヲル」 「・・・・・・君も、ライダーってわけね」 リツコと、今度は違う空気で睨み合う。 「カヲル君が・・・・・・ゾルダ?」 呟いたシンジに向けて、カヲルは驚愕の声を上げた。 「じゃあ、き、君も・・・・・・?」 シンジは言葉の代わりに、ポケットからデッキを取り出して見せる。 「龍騎・・・・・・君が!?」 キイイイイイン。 急速に接近してくる気配。 3人は全ての問題を後回しにし、それぞれ鏡に向かってデッキを掲げる。 「変身っ!」 「変身!」 「変身」 シンジは龍騎に、カヲルはゾルダに、リツコはライアに。 「しゃあっ!」 気合を入れる龍騎。 「・・・・・・」 その姿を横目で見ながら、何も言わないゾルダ。 「よし・・・・・・」 短く呟いた後、頷くライア。 それぞれ装甲に包まれ、鏡へと消えていく。 「シュシュシュ・・・・・・」 『Swordvent』 『Swingvent』 空に2つの閃光が瞬いた。 龍騎の手にドラグセイバーが、ライアの手にエビルウィップがそれぞれ握られる。 「うっし!」 龍騎はドラグセイバーを手に疾走し、モンスターとの間合いを一気に詰める。 「シュシュシュ・・・・・・」 「の、のわっ!何だこれ!」 が、あっさりと触手に両腕を巻かれ、動きを封じられてしまう。 「このっ!このっ!」 もがけばもがくほどに絞め付けが増していく。 「ぐう・・・・・・っ!」 『Shootvent』 「のわ――っ!!」 ゾルダのギガランチャーが龍騎ごと触手を撃ち、その絞め付けを少し緩くする。 「くらえっ!」 続けて、ライアの左手に生じた魔方陣から閃光が放たれ、モンスターの頭部を撃ち抜いた。 「シュウ・・・・・・!」 「このっ!!」 身体の自由を取り戻した龍騎は、ドラグセイバーの刃をもって触手を切り刻む。 「シュ・・・・・・」 『Finalvent』 隙を見せることなく次の・・・・・・そして最後のカード。 「はああああああああ・・・・・・」 腰を深く落とす龍騎の周りを、少しずつ上空に向かって旋回していくドラグレッダー。 「とっ!」 竜巻の流れに乗るかのように、龍騎もまた空高く飛翔する。 頂点できりもみ回転の運動エネルギーとドラグレッダーの炎を受け、超スピードの弾丸となってモンスターへ急降下。 「うおおおおおおおおお!!」 「オオオオオ・・・・・・!」 避けるどころか、視認する暇もなくモンスターは爆砕。 燃え上がる骸・・・・・・というよりも破片から現れた光球を、ドラグレッダーはすかさず口にする。 「・・・・・・」 ゾルダが、少しずつ龍騎に近付く。 「ふ・・・・・君は好意に値していたが・・・・・・ライダーじゃ仕方ない・・・」 マグナバイザーに手をかけたまま。 「僕はライダー同士戦う気は・・・・・・!」 龍騎とゾルダの間に、エビルウィップを手にしたライアが立ち塞がる。 「・・・・・・君は、最後にするよ」 「え・・・・・・?」 ライアに、そして龍騎に、背を向けるゾルダ。 「君は最後にする。だから、僕が他のライダーを殺す前に・・・・・・この戦いを止めてみせてくれ」 「・・・・・・」 「ライダー同士の戦いは、君が思ってるほど甘くないよ・・・・・・」 ゾルダは振り返らないまま、ミラーワールドから姿を消した。 「・・・・・・」 『Finalvent』 「いっくよお!ヘビィイイイイ・プレッシャアアアア!!」 「うあああああ!!」 「じゃあ、ねっ!」 「・・・・・・」 リツコは、同じ占いを繰り返している。 (やはり・・・・・・あいつの運命は変わっていない。このままでは・・・・・・) その手には、今まさに燃え尽きようとするナイトの紋章がある。 「あたしは運命を変えてみせる・・・・・・見てて、母さん」 デッキを見詰めながら、リツコは一人、己に言い聞かせるように呟いた。 続く
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