P 2 A

by 敏芳祥

 

「いや......僕は戻るよ。

ここにいれば、確かに傷つくことはない。みんな一つなんだから。

でも.........それじゃあ寂しいよ。他人だからこそ、分かり合えないからこそお互いを求めるんだ。

たとえ傷つき傷つけあったとしても、僕はみんなに会いたい。」

 

「後悔、しないのね?」

 

「......うん。僕はみんなと(.......なによりも彼女と)生きて行きたいんだ。」

 

そして少年は、世界の再生を願った。

たとえ、不完全な群体であったとしても。

傷つけることでしか、心を確かめ合えない哀れな存在であったとしても。

 

(みんな、一緒に生きて行くんだ!!)

 

少年の強い想いは、奇跡を起こした。

世界中のあらゆる人々が、再びヒトのカタチを取り戻した。

少しだけ、優しくなった世界で.......。

 

それは、少年の周りとて例外ではない。

死んだ筈の男が、女が、目を覚ました。

妄執にとりつかれていた少年の父は、不器用ながらも人の情を思い出しつつあった。

そして、消えゆく運命だった紅い眼の少年少女もまた、人としての生を手に入れていた。

 

すべて、少年の望んだ通りの世界に。

 

 

..............ただ、

 

 

たったひとつ、少年が何よりも望んだモノを除いて。

 

 

(アスカ.................)

 

 

ただ独り華やぐ世界に背を向け、眠り続ける少女。惣流・アスカ・ラングレー。

 

「どうして? どうして戻ってきてくれないの?
......もうアスカを苦しめるものは、何もないんだよ。」

 

少女は、応えない。

来る日も、来る日も、少年は欠かさず病室を訪れ、語りかけた。

少女の好きだった本を持ってきた。花を飾った。好物で毎日弁当を作った。

でも、少女は起きようとしない。

 

(これが、奇跡の代償?............だとしたら、酷すぎるよ!)

少年は日増しに、落胆と憔悴の色を濃くしていった。

 

「碇君............」

 

見かねた蒼髪の少女が言った。

 

「碇君も倒れてしまうわ。あとはお医者様に任せて......」

 

少年は、力無く首を横に振る。

 

「そんなに、気に病むことはないのよ。貴方のせいではないわ。」

「そうじゃない......僕が、ここにいたいんだ。こうしているのが、僕の望みなんだ。」

「..................私では、ダメなの?」

「ゴメン............同情や、義務感なんかじゃないんだ。やっと気づいたんだ、自分の気持ちに。
もう僕は、二度と彼女......アスカから離れない!」

「そう............後悔、しないのね?」

 

少年は、力強く首を縦に振る。

それを見た蒼髪の少女〜綾波レイは、一瞬寂しそうな微笑みを浮かべながらもすぐに打ち消し、こう言った。

「そう............ならそうすれば?」

ぶっきらぼうな物言いの中に、かつては見られなかった、ヒトとしての暖かみがあった。

 

「ありがとう......綾波。」

久々に見る、少年の会心の笑み。

綾波レイはポッと頬を染め、後ろ髪を引かれる思いながらも、2人を見守る決意を固めた。

 

 


 

シンジ達の世代にとって、初めて経験する冬が訪れた。

慣れぬ寒さに震えながら、今まで見たことのなかった「マフラー」を編むシンジ。

病室の床に引きずるまで、長くなってしまったそれを見て、フッとため息をつく。

窓に目を向けると、これも知識としてしか知らなかった、「雪」が見えた。

 

白いカタマリが、街を包んで行く。

ビルや道路から、ほのかな光が発せられているかのようだ。

しばしその幻想的な光景に見とれていたシンジは、興奮した口調で語りかけた。

「ほらほら、アスカ見てごらんよ! とってもキレイだよ!」

 

しかし、少女は目を開けようとしない。

今ひとたびの奇跡は、起こらないのか?

 

「アスカ......お願いだから目を覚ましてよ..................
君の誕生日プレゼント、もうこんなになってしまったよ............。」

12月4日を大分過ぎて尚編み続けたため、すっかり長くなってしまったマフラーを、彼女の首にかける。

その手で、艶やかさを失っていない彼女の赤みがかった髪を梳く。

(こんなに、キレイなのに............)

知らず知らずの内に、涙がこぼれ落ちそうになる。マフラーをぎゅっと掴んでこらえる。

(泣いちゃダメだ、泣いちゃ!......僕が泣いたら............)

力がこめられたマフラーが、アスカの細い首をきゅっ、と絞めた。

 

(!..................そうか......もしかしたら!)

 

浮かび来る、あの地獄のような光景。

絶望的な溝が出来た、シンジとアスカ。

求めても、けして応えてくれないアスカに対し、シンジはその首を絞めることでしか、想いを伝えられなかった。

心の中での出来事とはいえ、いやだからこそ、その感触が、その時の愛憎が、生々しい感覚として残っている。

(そうだよね。あんなことをした僕が......何を今更ムシのいいことを。
アスカはきっと、僕がいるから......戻ってこないんだ。

 ゴメン、ゴメンね、アスカ。もう、君の前に現れないからさ。)

 

辛い決意を固めたものの、足が動かない。

 

未練。

 

諦め続けてきた彼の人生で、こんな身を切られる思いは未体験だ。

どうしようもないくらい。でも、断ち切らねばならない。

「ゴメン......さっきから謝ってばかりだけど、最後にこれだけ許してね。
卑怯だとは思うけど、僕の『まごころ』だから............。」

万感の思いを込めて、そっと唇を重ねた。

悔恨・思慕・寂寥・別離。

シンジはそのまま振り返らずに、病室を後に......しようとした。

その言葉さえ耳に入らなければ。

 

「乙女の唇奪っておいて、逃げる気?」

 

「!!!」

信じられない。信じたい。そうであって欲しい!

 

「............おはよ、バカシンジ。」

 

「あ、あ、あ............」

涙が、止まらなかった。

サードインパクト以来、強くあるために決して泣かずにいたのに。

みっともなく顔をぐちゃぐちゃにして、微笑む彼女に抱きつく。

このまま時が、止まればいいやとさえ思った。

 

「......なんなのよ、アンタって男は......。」

「うっ、うっ......相変わらず、意気地なしで卑怯者のバカシンジだよ!
でも......でも! もう2度と、離れないからね。アスカのそばにいるからね!」

「......ストーカー?」

「あ......も、もちろん、アスカさえよければ、だけど............。」

ふふふ............いいわよ。一生、アタシを守らせてあげる。

 

赤らんだ頬を隠すように、アスカは掛け布団を引き上げた。

同じくらい赤くなったシンジは、火照った顔を床に向けた。

久方ぶりに、穏やかな空気が303病室を包んでいた。

 


 

少女は、変わった。

一番にならねばならない、誰にも負けてはならない............そんなふうに、張りつめたところが無くなった。

ひたすら周りに牙を剥いていたことがウソのように、穏やかな笑みを絶やさない。

 

「アスカったら、すっかり丸くなったわねー。これも愛しのシンちゃんのおかげかな?」

「そうよ。アタシはもう一番じゃなくていいの。
だって、シンジにとっての、唯一絶対な一番が確定してるんだもん! ね、シーンジ!」

少女は変わった。自分の気持ちに素直になった。
かつては顔を真っ赤に否定していたミサトのからかいにも、惚気で返すほどに。
こっちはまだ慣れないのか、ゆでだこのようになって照れながらも、シンジは嬉しさを噛みしめていた。

 

「シーンジ、おべんと!」

「うん、これ! いっぱい食べて、早く元気になってね!」

かつてのアスカからは想像がつかない、無邪気な甘えっぷり。

幼い頃から訓練の連続で、年相応の幸せを知らなかった少女は、やっと訪れた休暇を満喫した。

決して焦ったり、無理したりしない。

最愛の少年と共に、ゆったりとした時間を過ごしてゆく。

そして冬が去り、徐々に草木が色づきはじめ、桜が咲くのにあわせるかのように、

少女は快復し、退院した。

新年度から、学校にも復帰できる。

4月から、少年少女の新しい物語の1ページが、始まるのだ。

そしてそこには、もう2度と辛い戦いが記されることはない。

誰しもが待ち望んだ平和な生活を、一足遅れで少年と少女も手に入れたのだ。

 

 

 

 

 

ただ............

 

 

少女は、変わった。

一番にならねばならない、誰にも負けてはならない............そんなふうに、張りつめたところが無くなった。

 

......これはもう言ったね。

 

無邪気に甘えるようになった。決して無理しなくなった。
いつでも、少年が愛してくれている、という安心感があるから。

 

............だからそのぉ............

 

体力を回復するために沢山食べて、元々間食が大好きで、
入院中だったからあんまり運動しないで、そんでもって張りつめた気持ちが無くなった〜緊張感が無くなったとも言う〜わけだからして、

要するに、早い話が......ってちっとも早くないけど、

人間が、丸くなった。

 

In Other Words,

 

アスカさんは............

 

 

 

 

太ってしまったのです!!!

 

 

Puyo Puyo Asuka-chan

 

 

ドスン、ドスン、ドスン、ドスン......

 

第壱中学の廊下にこだまする地響き。

言わずと知れた、アスカさんのおみ足から発せられる音です。

アスカさん自慢のきれいな肌が、短めのスカートから伸びています。

白くて、ふっくらしています。......ええ、まるで肉まんのように。

シンジ君と腕を組んで(.ってゆーか引きずって)、とても幸せそうに登校しています。

しかし、そんなラブラブぶりを冷やかす不粋な輩は、この学校にはいません。

みんな、アスカさんの(変わり果てた)お姿を見て、開いた口がふさがらないようです。

「............イヤーンな感じ......。」

以前とは明らかにニュアンスの違ってるセリフを、メガネ君は呟きました。

 

「ア、アスカ............」

「あ! おっはよーーーヒカリ! わー久しぶり、ねえ元気してた?」

「う、うん......あ、アスカはその............大分感じが変わったね?」

「そうなの! これからは自分に正直に生きることに決めたのよ!」

「そ、そうじゃなくてあの...........太った?

「うん、シンジのお料理美味しくてさあ、ちょっと、ね!」

 

どこが「ちょっと」だ!!!!!!

 

クラス中から無言のツッコミが浴びせられますが、アスカさんはケロッとしています。

 

「その............ダイエット、しないの?」

「うん! シンジがね、『女の子はちょっとくらいふっくらしてた方が可愛いんだよ』って言ってくれたの!
ねー、シーンジ!」

「う、うん......あはは............(だから僕は、ちょっとくらいはって言ったんだけど......)」

どうやら、ちょっとやそっとでは無いようです。なにせ《乙女の純情!》kgですからねえ。
(いちおう、恥ずかしいって気持ちはあるようです。)

こうして復帰初日、アスカさんはクラス中を縦線で染め、シンジ君に冷や汗を2リットルかかせました。

 

翌日から、ちょっとした異変が起こりました。

それまではち切れんばかりだったアスカさんのげた箱が急に涼しくなり、かわりにシンジ君のげた箱が、なにやら女生徒からのお手紙で賑やかになってきました。

「まーったく、無駄なことするわねぇ。ねえ!」

アスカさん、眼が笑っていません。

当然シンジ君には、読まずにポイ! 以外の選択肢はありませんでした。

「シーンジ! アタシ達のらぶらぶなところを見せつけてやるのよ!」

当然シンジ君には、張り子の虎のように頭コクコク! 以外の選択肢はありませんでした。

 

 

お昼休み

 

今日からお弁当が始まります。

おやおやシンジ君、弁当箱を3つ取り出しました。

もう一つは綾波さんにあげるのかな?

ギロッ!

......そんな(命知らずな)こと、するわけありませんね。

案の定わき目もふらず、一直線にアスカさんのもとに向かいます。

 

「はい、アスカお弁当......。」

「アリガト、シンジ! 2人で食べましょ!」

 

ふたり仲良くランチタイムのようです。

シンジ君の前にはかわいらしいお弁当箱が一つ。

アスカさんの前にはドカ弁が2つ。

どうやら、「おかず入れ」と「ごはん入れ」だったようですね。

それはそれは幸せそうに、シンジ君お手製のハンバーグ・唐揚げ・トンカツを平らげるアスカさん。

数分後、恍惚の表情を浮かべ、お腹をぽんぽん、と叩く美............少女がいました。

「シンジ、とーーーーーっっても美味しかったわ!!!............ねーぇ?」

シンジ君は黙って、カバンから「デザート入れ」を取り出して渡しました。

 

 

昼休みも終わり間近、アスカさんがおトイレに行っているとき、シンジ君の処に綾波さんがやってきました。

「碇君............

本っっっっっっっっっっっっ当に後悔しないの?!」

 

シンジ君には、黙りこくる以外の選択肢はありませんでした。

彼は、
「うん後悔してる!」と言えるほど人でなしではなかったし、
「全然後悔してないよ!」などと言えるほど、うそつきでもなかったのです。

なんともいえないどんよりとした沈黙が、クラス中を包みました。

 


 

シンジ君は今、NERV本部に来ています。

使徒はもういないので、戦闘はありえないのですが、エヴァパイロットは貴重な研究材料(?)、そのため今でも時々呼ばれるのです。

綾波さんや渚君も、一緒にシンクロテストをしています。

本来ならアスカさんもいるべきなんですが............諸般の事情(要するに、プラグスーツを作り直す必要があるのです。それも、直しが出来るたびにリニューアルが必要で、きりがなくって)により、不参加。

久しぶりに解放されたシンジ君。たまには羽を伸ばそうとかなんとか............

ブツブツブツだいたいプラグスーツって伸縮自在のはずなのにそれでも着られないなんてブツブツブツ............

するでもなく、淡々と時は過ぎて行ったみたいです。あとはいつも通り食材を(大量に)買い込んで帰ろう......
そう目論んでいたシンジ君ですが、意外な人物に声を掛けられました。

「シンジ君、ちょっと寄っていかない?」

 

そのお誘いはリツコさんでした。反対する理由はないので、赤木研究室にお邪魔します。
赤木印のコーヒーは、家事の天才・シンジ君をしても魅力的なのでした。

あの頃の、「ミサト窟」に引けを取らない乱雑ぶりがウソのよう。ヒマになった現在では、小ぎれいでさっぱりとしたお部屋です。しかも............

にゃあーーーーーー

なんとリツコさん、このお部屋で猫を飼い始めたのです。なんとも平和というべきか。
とにかく、あの頃には考えられなかった、心の余裕が出来てきました。

シンジ君も、心からの微笑みを浮かべながら猫を抱きかかえ、撫でています。

「よしよし......はは、人なつっこくて、可愛いですね!」

「......そうね。このコのためだったら、なんだってしてあげられるわ。
それこそ、『猫可愛がり』ね。

............でも、いくら好きだからって、このコに餌をやりすぎて太らすような、無様なマネはしないわよ。」

 

ぐさっ!!!!!!!!

 

「............私の言いたいこと、わかるわね?」

「ほ、............骨身にしみるほど。」

「いい? シンジ君。厳しくするのも愛情の内よ。たまにはビシッと............」

「僕だってわかってます! だからこの前、思い切って言ったんですよ!!
..................でも、でも!

「あのさあ、アスカ。今日はちょっと、大事な話があるんだ......。」

「なあに? もしかしてプロポーズ?」

「ち、ちちち違」

「んもぉーシンジったら! 焦んなくてもあたしの気持ちは変わらないのに!
そーねえ、ウェディングケーキは全部食べられる『エタロッシ』のチーズクリーム......」

「ちがうってば! 僕の話を聞いてよ!」

「シンジは、チョコレートケーキの方がいいの?」

「そうじゃなくって!!!!!!

............だからさ。僕は、僕は実は............太ってる娘は、あんまりその......好みじゃないな、なんて............。」

「そう..................。」

「あ、あのその......」

「......うん。わかったわ。」

良かった! アスカ、理解してくれたんだ!!

「シンジ............結局貴方も、アタシの外見を見ていたのね............。」

「そ............そんなこと!!」

「いいのよ、ムリしなくても。
............そうね、病院で言ってくれた言葉も、アタシを元気づけるための優しいウソだったんだね。」

「あ、アスカちょっと......」

「ううん、恨んでなんかいないわ。むしろ、感謝してる。
貴方は、そういう人だから。そういうところが、アタシは......大好き、なんだから。

だから、いいのよ。アタシのことは気にしないで、自由に生きて。
シンジ......貴方の幸せが、アタシの幸せだから。
今まで、アリガトね。束の間の夢だったけど、この思い出を胸に......アタシは生きて行くわ............。」

 

俯いて肩を震わせるアスカを見たら、僕はもう......
ぎゅっと体を抱いて、こう言うしかなかったんです............。

「アスカ、アスカ! そんなこと無いよ、僕が好きなのはたった一人・アスカだけなんだ!
これから先、何があったって! 僕はアスカから離れない、アスカを放さないよ!」

「............ホント?」

「本当だとも!! 僕はアスカをあ、愛してるんだから。」

「証拠、見せてくれる? アタシ達の、愛の証を......」

「何?」

「............『喫茶エヴァーグリーン』の、スペシャルデラックスパフェ。」

「うっ......そ、それはちょっと......」

「............さようなら、シンジ。アタシの愛した、最初で最後の男(ヒト)............」

「(うるうる)わかった、わかりましたよ......。」

........................というワケなんです......。」

シンジ君は、がっくりと肩を落としてうなだれました。

 

さすがはアスカさん。体の動きは鈍くなっても、頭の回転は冴える一方。
シンジ君ごときでは、てーんで相手にならないようです。

リツコさんは深く溜め息をついて、言いました。

「そう............アスカ、そんな手で来るとわね。
こうなったらシンジ君! 『目には目』よ!!」

ごにょごにょごにょ............

いかにアスカさんが天才少女とは言え、こちらにはそりゃもう色んな意味でものすごい軍師がつきました。

策を伝授されたシンジ君は、父親譲りの「ニヤリ」笑いを浮かべ、明日からの戦いの勝利を確信するのでした。

 


 

翌日のお昼休み

 

「ちょっと、何よコレーーーーーーーーーーーー!」

アスカさんは驚きました。お弁当箱をあけてみると、いつもの半分以下の量しか、入っていなかったのです。

「アスカ、アスカには美味しいモノ食べて欲しくて、今日から最高級の食材を使ったんだ!
米所・新潟の最高級コシヒカリ、本場京野菜、丸大豆三年熟成醤油......」

「そ、それはいいケド、何でこんなちっぽけなのよ?!」

「ゴメン、予算オーバーでさ。質は良いから我慢してよ。」

「イヤイヤイヤイヤイヤアアア!!!!!! 」

 

「............そっか。僕の心づかいなんか、アスカにはホントは迷惑......
今まで気づかなくてゴメン。やっぱり僕、出ていくよ......。」

「!............そそそそんなことない! うわー、美味しそう! いただきまーす!」

 

アスカさんはじぃぃぃーーーーっくりと味わってお弁当を食べました。

とても美味しいのですが、いかんせんすぐになくなってしまいます。

これじゃあ足りるはずもありません。しゃーない、肥えた舌には合わないが、購買に行って買い足してこよう。

そう思って立ち上がったアスカさんですが、立ち上がったところを突然後から抱きつかれ、足が止まってしまいました。

「シ......シンジ?!」

「ずっと、こうしていたいんだ。一瞬でもアスカを放したくないんだ!......ダメ?」

「そ、そんなことない......。」

教室、公衆の面前で抱き合う2人。

アスカさんは、シンジ君の想いで胸がいっぱいでした。

対照的にお腹はからっぽのまま、休み時間を終えてしまいましたが。

 

そして、放課後。

「ねえアスカ! 今日デートしようよ!」

いつになく積極的なシンジ君に、アスカさん喜色満面です。

「もっちろんよ! ねぇねぇ、どこに行くの?」

「新しくできたアスレチックジムの招待券を貰ったんだ!」

ゲッ......

後悔先に立たず。

茫然自失となるアスカさんを(なんとか)引っ張ってって、2人は大いに汗を流しました。

 

 

そのまた翌日。

アスカさんがどこかへ行こうとすると、必ずシンジ君がついていきます。

特に食べ物を売っている方面に向かおうもんなら、昨日みたいにぎゅっと抱きしめて、

「ゴメン、アスカを感じていたくて......我慢できなくて............。」

ってなもんですから。

当然アスカさんには、うっとりと身を任す以外の選択肢はありませんでした。

 

お弁当は昨日と同じ感じ。シンジ君の上げ底技術は相当なモノです。

アスカさん、ひもじい思いを放課後まで耐えました。

そして............

「アスカ、デートしようよ!」

ぎくぎくぎく!

「ど、どこに行くの?」

「NERVのプールで泳ごうよ!」

イヤーンな予感的中。

すきっ腹に水泳は、大変効きそうです。

「ご、ごめんシンジ! 今日はちょっとヒカリと約束が......。」

「そうなの? 委員長。」

「え? (アスカさんのあつーーーい脅迫まがいの視線が突き刺さります。)そ、そうなのよ......。」

「そっか............アスカは、やっぱり女の子同士の約束の方を、優先するんだね。
男女間の想いなんて、軽いモノなんだ............。
じゃあ僕も、男同士の仲を大切にしようかな。カヲルくーーーーーーん!!!」

「やっとわかってくれたねシンジ君!
さあ僕のコウイを受け入れておくれ!
僕と一緒にめくるめく快楽の世界へ......」

アスカちゃんハイキーーーーック!!!!!!!!

「し、シンジ!! アタシ行く!!!」

ニヤリ。

こうして2人は、思いっきり泳ぎまくりました。

 

更に翌放課後。

「アスカ、エアロビクスに......」

「お腹が痛い!」

「そう......じゃあ、綾波ぃ! 一緒に」

「治った! アタシ行く!!」

 


 

そんなこんなで、アスカさんはしっかりカロリー消費し続け日曜日。

それはいいことですが、どうも目つきがヤバイ感じです。

シンジ君、朝から一所懸命に何かお料理に励んでいますが、ソファーにもたれるアスカさんを放って置いていいんでしょうか? 「殺してやる!」寸前な雰囲気ですよ。

(ああ............串カツが空を飛んでる......違う? あれは白トカゲ!
............焼いたら美味しそうね......ジュルジュル。)

あ、危ないです。切羽詰まってます。血に飢えた獣のようです。シンジくーーん、なんとかして。

 

「やった、できた! アスカー、ご飯だよ!」

のそのそとアスカさんが起きあがります。

食卓に乗ってるシンジ君の自信作は......

「丹波産丸大豆を使った、特製冷や奴だよ! さあ食べよう!」

ぷち。

「............イヤ。」

「どうしたの? アスカ。早く座りなよ。」

「いやよイヤイヤ!! こんなの人間の食生活じゃないわ! アタシは肉が食べたいのやぉ!!」

「そ、そんなぁ......僕が精魂込めて作ったのに......やっぱりアスカは、僕のことなんか......」

「シンジは大好きよ!
でもシンジの作るハンバーグも唐揚げもトンカツも好きなのよお! なんで? なんで作ってくれないの?」

「そんなこと言わないで食べてみてよ。豆腐も美味しいよ。薬味のショウガがアクセントで......」

「意地悪しないで!! はんばーぐが食べたい!
はんばーぐがいいの! ねぇはんばーぐ!!」

「......ワガママ言うなよ! 僕はアスカのためを思って」

「なにが『アタシのため』よ! こんなもの!!!」

がしゃーーーーーん!

 

「..................あ............」

お皿が割れて、散乱しています。豆腐もぐちゃぐちゃです。

しばらく2人とも放心して動けませんでしたが、

やがてシンジ君は無表情に、ゆっくりと片づけ始めました。

 

ダダダっ............

いたたまれなくなったアスカさんは、自分の部屋に閉じこもってしまいました。

 

(どうしよう、どうしよう! アタシったら酷いことしちゃったよう!
シンジ、きっと怒ってる............)

アスカさん、本当はわかっていました。

シンジ君がいかにアスカさんのことを大切に想っているかを。

(アタシの健康を考えて、わざとダイエットメニューを出してくれているんだよね......。
それでも飽きが来ないように、美味しくなる工夫を凝らして............)

今日の冷や奴なんか、シンジ君は大豆を摺って煮てにがりを打って......わざわざ手作りです。
生半可な想いでは、できないことです。

(それをアタシは、空腹に目がくらんで............最低だわ。)

アスカさんは、枕に顔を押しつけてすすり泣きました。

 

一方シンジ君は............

(アスカ......だいぶ参ってたな。ゴメンね、ちょっとやりすぎたよ。

そうだよね、好きなモノ食べたいのは当たり前のこと。

もっと、ゆっくりと進んで行けば良かったんだ。

だって僕らには、たっぷり時間がある。もう、生き急ぐ必要はないんだから。............よし!!)

シンジ君は、別のメニューでご飯を作り直し始めました。

そして............

 

 

トントントン

「アスカ、ご飯作り直したよ。出ておいでよ。」

アスカさんはガバッと飛び起きました。

素直に謝ろう! そう思いながら扉を開け、キッチンに行くと............

 

「シ、シンジィ..................」

 

テーブルの上に乗っていた料理を見て、アスカさんは言葉に詰まって泣き始めてしまいました。

それは、シンジ君特製の、とーーっても美味しそうな.................

『豆腐ハンバーグ』だったのです。.

 

fin.

 

 

P.S.

「やっったーーーーーーーーーーーぁ!!!!!」

アスカさん、体重計の上で大喜びしています。

なんと表示は《乙女の純情!−2》kg!

シンジ君も心底嬉しそうに、あったかな微笑みを浮かべています。

 

ふたりの長い旅は始まったばかり。今後ともお互いを支え合い生きて行くことでしょう。

まずは、ふたりのチルドレンにおめでとう。そして、これからも頑張ってね。


アスカ:くぉらーーーーーーーーーーーーーーーっ!! 敏芳祥っ!!(▼▼#

マナ:ちょ、ちょっと、作者さんを呼び捨てにしちゃ駄目でしょー!

アスカ:やっかましーーーーっ! 殺してやるっ! 殺してやるっ! 殺してやるっ! 殺してやるっ! (▼▼#

マナ:アスカっ!? ちょっとっ、アスカぁっ!

アスカ:弐号機起動っ! 目標っ! 敏芳祥っ! ポジトロンライフル発射っ! (▼▼#

マナ:やめなさいってばっ!

アスカ:なーんで邪魔すんのよっ! どきなさいよっ!(▼▼#

マナ:とにかく、落ち着いてっ!

アスカ:落ち着いてられるかーーーーーーーっ!!! こんな嘘っぱちっ! 嘘っぱちっ! 嘘っぱちっ!(▼▼#

マナ:だ、だからね。次回、汚名挽回する作品を書いて貰うようにお願いしておくから。

アスカ:本当でしょうねぇっ!

マナ:ええ。もちろんよ。

アスカ:じゃっ! ちゃんとアタシのことを、美人で、おしとやかで、慎ましくて、健気で、優雅で、華麗に書くのよっ!

マナ:・・・あの・・・嘘っぱちが嫌なんじゃ・・・。(^^;;;;

アスカ:何か言ったっ!?(ギロリ)(▼▼#

マナ:あ、べ、べつに・・・。(^^;;;;
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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