「ねえ、シンジ......」 「ん?」
「キス、しよっか?」 「えっ?!!」
「キスよキス。したことないでしょ?」 「う、うん。」
「じゃあ、しよう。」 「............どうして?」
「..................退屈だからよ。」 「退屈だからって・・・。そんな。」
「お母さんの命日に女の子とキスするのは嫌?天国から見てるかもしれないから?」 「............別に。」
「それとも、女の子とキスするの、怖い?」 「怖くないよ! キスくらい......」
「歯、みがいてるわよね?」 「......うん。」
「じゃあ、行くわよ。」
そして、次第に彼女の顔が近づいてくる。
目をつぶらなきゃ......と思っても、まばゆいばかりの輝きを放つ、その瞳・鼻筋・唇から、目を逸らすことが出来ない。
鼓動が、雷のように高鳴るのがわかる。
いいんだろうか? 取り返しのつかないことをしようとしているんじゃないか?
でも、もう僕の心は決まっていた。
僕はゆっくりと手を伸ばし、意外に華奢なアスカの肩を、しっかりと掴んだ。
「The Epistles」弐周年と弐週間記念
及び
フロッピー(1.44M)ヒット記念
ついでに
「P2A」懺悔企画作品(?)
1st KISS
by 敏芳祥
僕はゆっくりと手を伸ばし、意外に華奢なアスカの肩を、しっかりと掴んだ。
そして、彼女の体を遠ざけた。
「!............どういうことよ。」
「ゴメン............」
「............ハン! 今さら怖じ気づいたってワケ?」
「............そうだね。......甘っちょろいかも知れないけど、その、初めてだから............
本当に好き合った相手と、心を通わせてしたいんだ。」
「............ってことは、アンタには本当に好きな人がいる、のね?」
「うん、まあ............」
「あ、そ..................ほんと、つまんない男ね............。」
その時のアスカが、肩と声を震わせていたように見えたのは、僕の見間違いだろうか?
すぐにいつもの気丈な彼女に戻っていたから、わからなかった。
「あーーあ! よりにもよって、バカシンジなんかにノロケられるとはねえ!」
「の、惚気にならないよ!............だって、片想いだもん............。」
「片想い?! じゃ、アンタが一方的に好きなだけなの?」
「う、うん............彼女は僕のことなんか、何とも思ってない............と思う。」
「............あーーはっははっは! そりゃそうよね! あーーーんな人形みたいな冷血女が、そう簡単になびいてくれるわけないわよね!」
「人形? そりゃあ、フランス人形みたいに綺麗だけど、彼女はとっても感情豊かな娘だよ?」
「............あーそうですか! 『恋は盲目』とはよく言ったものだわ!
愛しの彼女のことになると、無敵のシンジ様ともあろうお方が!!
フン!! ファーストも幸せ者ね!!」
「えっ?!......ち、違うよ! 僕の好きな人は、綾波じゃないんだ............。」
「......へーー、 他にも女が居たなんて、アンタ意外と手が早いのね。」
「だから、片想いだってば............」
「で、一体誰よ、その女? アタシの知ってる人?」
「うん、まあ............よーく知ってるよ。」
「ってーことはクラスの誰かかNERV関係......さあ誰なの? キリキリ白状なさい!!」
「........................。」
「黙秘権の行使?......上等じゃない。このアタシに隠し事なんて、144万年早いのよ!
えい! こうしてやるーーーーーー!!!!!!!!」
「い、いひゃいいひゃい! ひゃめてよハヒュカ!」
「だったらとっとと吐けーーーーーーーーーー!! アンタは誰が好きなのよ?!!!」
「ヒヤダ............」
「............そんなに、言いたくないの?」
「..............................。」
「そう............そんなにその女のこと、大切なんだ......。片想いなのに?」
「..............................ウン。」
アスカが、手を放してくれた。まだ頬がヒリヒリするけど。
「あのウジウジクヨクヨダメダメなアンタが、ここまで我を張るとはね......よっぽど素敵な人なんでしょ?
美人で、おしとやかで、慎ましくて、健気で、優雅で、華麗で......とか............」
「とんでもない!!!」
僕は、ついつい興奮してしまった。
「全然そんなんじゃないよ! カワイイ顔に似合わずすぐ手を出すしワガママ放題だし、食事を作ってあげてもお礼の一つも言いやしない! 何かってーと人のことバカにするし、僕のことを下僕か何かかと思ってるとんでもないヤツだよ!!!............ハァ、ハァ......」
「そ、そりゃ酷い女ね......。そんな女のどこがいいの?」
「........................。」
「その話だと、外見だけはいいみたいね。......やっぱりシンジも男だから、色香に迷って......」
「確かにそれもある。否定はしないよ。......でも、僕が彼女に惹かれたのは、それだけじゃない............。
彼女はね、僕の持ってない、凄い輝きを持っているんだ......
いつも前向きで、自信に満ち溢れていて............見ているこっちまで、元気にしてくれる。
そんな、明るい華のようなコなんだ!」
「........................。」
「............でも、その輝きも、自他共に認める天才ぶりも、ちゃんと影で努力しているから、なんだ。
本人は、絶対認めようとしないけどね。
血のにじむような努力をしてきたから、普通の女の子が味わってきた、幸せを知らない。
だからこそ、余計に人とのふれ合いに貪欲なんだよね。不器用だけど。
そんな、一所懸命なところや..................
意地っ張りなところや..................
寂しがり屋なところや..................
時折見せる弱さ............
彼女の見せる何もかもが、僕にはたまらなく愛しいんだ!!」
自分でも、驚いてしまうくらい饒舌に語っていた。
自分の想いを、余すところなく、熱く。
「..........................................
..........................................ふーーん............よく、見てるのね。」
「ウン............彼女のこと、護りたい............けど、僕じゃあとてもムリだからね。
............せめて、見守っていたいんだ。ずっと。」
「........................。」
「........................。」
「........................でもさ。」
「何?」
「.................そんだけアンタが......熱心に見てるんだから............か、彼女もアンタの想いに気づいてるんじゃない?
アンタに意地悪したりワガママ言ったりするのもさ、
アンタだけに心を許してる............つまりさ、案外彼女もアンタに気がある、ってことじゃ......」
「............それは、ないよ............だって彼女、好きな人いるもの。」
「あらま。」
「男の僕から見ても、格好良くて、優しくて............本当の大人の男だよ。
............とてもかなわない。彼女が僕みたいなガキを、選ぶワケないさ............」
こんなこと言って、同情買おうとしているのかも。
自分で言ってて、情けなくなってきた。おのずと空気が暗くなってくる。
「........................。」
「........................。」
「............それ、彼女に直接聞いたの?」
「............聞けるワケないよ............そんな、分かり切ってること。」
「........................へーえ、大した自信ね。」
「どこがだよ! いつ嫌われるかって、いっつもビクビクしているのに!!」
「......だってさ、アンタ、聞かなくても彼女の気持ちが分かる、ってんでしょ?」
「........................!」
「アンタ、彼女と出会ってからどのくらい?」
「半年も、経ってない............」
「それなのに、なんにも言わずに分かっちゃうての?
冗談じゃないわ! 他人の気持ちがそんなに簡単に読めるなら、言葉なんて発達してないわよ!
............心がわからないから、人と人とは誤解しあい、傷つけ合うわ。
でも、だからこそ面白いんじゃない! 何が起こるかわからなくてさ。
............だからアンタも、諦めずに彼女に気持ちを伝えてみなさいよ!!
そうしてみないと、何も始まらないわよ............」
「........................。」
「........って、なんでアタシがアンタの恋愛カウンセラーしなくちゃなんないのよ!あーバカらしい!!
..................ちょ、ちょっとアンタ?! どうしたの? なに涙ぐんでんのよ?!」
「.ハハ............やっぱりアスカだ、って思ってさ..................。」
「な、なによそれ............」
嬉しかった。
彼女のことは、大抵知っているつもりだったのに。
そうさ、彼女の言うとおりだよ! まだまだ、お互いに知らないところが、いっぱいあるんだ。
でも、彼女の知らなかった一面は............やっぱり輝いていた。素敵だった。
だから、本当に自然と............涙が、溢れてきた。
僕は..................この人を好きになって、良かった。
だから............だから..................
「あのね、アスカ............」
「なに?」
「僕は、実は............」
fin.
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