洞木ヒカリは、こめかみを押さえていた。

赤い髪の親友の、あまりにも分かりやす過ぎる素直じゃなさに、呆れたのである。

 

「くおのバカシンジ!!」

バッチーーン...........

 

今日も今日とて彼女の親友は、おなじみのBGMを轟かせていた......。

 

 

真実のLAS

by 敏芳祥

 

「..............で? 今日はなあに?」

「見てみなさいよ! これこれ、このシミ!」

「えーーーと........この豆粒みたいなの?」

「そうよ! アイツったら、このアタシの制服をこんなにもぞんざいに洗ったのよ! 万死に値するわ!!!」

 

..............はぁーーーーーーーーー。

 

「アスカ........そのシミって、昨日アスカが派手にソースこぼした時の、だよね?」

「そうよ。」

「それをたった一日でここまで目立たなくした........そもそも毎日毎日文句も言わず洗濯をやってくれる碇君に対して、有無を言わさず公衆の面前で罵倒の上暴行に及んだワケね..........。」

「な、なによ! それじゃアタシがわがまま言ってるみたいじゃない!!」

 

「みたい」じゃないわよ.........

洞木ヒカリ嬢は、再度頭痛を覚えた。

 

「あーあ、いいのかなー? そんなんじゃ、碇君に嫌われちゃうよ?」

「な! べ、べべべべ別にバカシンジなんかに嫌われようとどうってことないわよ!!
あ、あああアタシはあんなヤツのことなんか、何とも思ってないんだからね!!」

 

こんな言葉を文字通り受け取る者など、第壱中.....いや、第参新東京市全体で見ても、例の3分の2バカくらいのもんだろう。

洞木ヒカリは、自分と親友の想い人のマヌケづらを思い浮かべて、またもため息をつくのであった。

 

「ふーーーん。まあアスカがそう言うならいいけど。..........でもホントに良いの?
碇君って、優しいしおとなしいし家事万能だし結構美形だから、意外と隠れファン、多いのよねー。
.......誰かさんがいるから、みんな遠慮してるけど。」

ピクッ!

「へ、へーーーーぇ、よ、世の中には物好きもいるのね!.......あーーーんな陰々滅々グジグジナヨナヨぼけ男の、どこがいいのかしら?
...............そうよ! みんなアイツのこと知らないから、外ヅラの愛想良さに騙されているんだわ!
 あ、アタシは一緒に暮らしているもん! アイツのことなら何でも知ってるもん! だ、だから騙されないのよ!!」

 

...............いい加減、自分の発言の意味に気づいてくれないだろうか? いやもう、気づかせてやるしかない!

疲労困憊した精神にむち打って、ヒカリは誘導を開始した。

 

「そーねー、碇君って、あの無邪気な笑顔で結構女子を騙すのよねー。」

ピクッ!

「その気もないくせに誰にでも優しくするから、女の子の方が勘違いしちゃうんだよねー。」

ピクピクッ!

「でも碇君って見るからに意志が弱そうだからー、積極的に迫られたら、そのまま流されてズルズル.........」

ピクピクピクピクッ!

「.......まあそれでも、きっと今とは違って優しくしてもらえるだろうから、碇君にとっては幸せかもねーー!」

メラメラメラメラメラメラ...........!

 

.........そろそろ我慢の限界。あと一押しだ!

とその時。2人の視界の中に、話題の少年が現れた。手に何か持っている。そしてとことこと、蒼い髪の少女に近寄ってゆく。

 

「あ、綾波ー! 新しくできたサラダ専門店の招待状をもらったんだ! 2枚あるから........」

ギロッ!

少年は、身震いした。

おそるおそる振り返ってみる。するとそこには.............

紅い波動に身を包む、この世のものとは思えない美少女の姿があった。

決して微笑みを絶やさない。だから余計に恐ろしい。

鈍い鈍いといわれている彼〜碇シンジでも、生命の危機を察知する動物的直感は、持ち合わせていたようで。

 

「に、2枚あるから、アスカを誘って行こうと思うんだ! い、いいでしょ!」

「???」

なんでわざわざ自慢話を聞かされるのかわからない、といった表情の綾波嬢。

一方紅の美少女は、「にへらー」という音が本当に聞こえてきそうなほど、顔を崩していた。

そこにすたすたとやってくるシンジ。

 

「あの...........そ、そういうことなんで。あ、アスカ.........僕と一緒にこの店行かない?」

 

ここで素直に「ウン!」と言えれば、微笑ましい少年少女の恋愛未満物語なのだが。

そこはそれ、天下の惣流・アスカ・ラングレー様。

はい、そうですかとホイホイ誘いに乗るわけには、いかないじゃないか。

 

「なによアンタ! ご機嫌取りのつもり?!
大体サラダ専門店って、アタシをキリギリスかなんかだと思ってんの?!
どうせなら『豪華フレンチフルコース!』くらいの甲斐性は持ちなさいよね! まったくバカシンジなんだから...........」

「そ、そうだね、ゴメン! 今のこと、忘れてよ.......。」

「あ..........................」

 

とぼとぼと去って行くシンジ。背中に哀愁が漂う。

 

アスカは、その背中に向け伸ばしかけた手を所在なげに宙に漂わせ、ポツリと呟いた。

「なによ、意気地なし........『でも、もったいないから行ってあげるわ! 感謝しなさいよね!』って、今言おうと思ってたのに........」

「今からでも遅くないわよ! アスカ、早く碇君を追いかけて! 素直に『連れてって』って言うのよ!」

「..........う、うん!! ヒカリ、ダンケ!!」

 

こんなきっかけではあるが、少女は一つ殻を破った。

少年への想いを、認めることが出来た。

だからあとは.........ストレートに、偽りのない心を彼にぶつけるだけ..........

 

だったのだが。

 

 

元来、碇シンジは間の悪い星の下に生まれていたようで。

まぁ彼としては、実に普段通りの彼らしい行動をとっていたに過ぎないのだが。

 

「茶毛、その荷物重そうだね。僕が半分持..............!」

 

少年は、身震いした。

おそるおそる振り返ってみる。するとそこには.............

紅い波動に身を包む、この世のものとは思えない美少女の姿があった。

決して微笑みを絶やさない。だから余計に恐ろしい。

鈍い鈍いといわれている彼〜碇シンジでも、生命の危機を察知する動物的直感は、持ち合わせていたようで。

 

「...........持たなくても大丈夫だよね! 茶毛は強いもんね、鋼鉄で出来ているもんね!! あは、あはははは......」

 

茶毛って誰? と言う方はこちらを見ていただくとして。

せっかくの軌道修正の努力も、今回は虚しく..............

 

「くおの女たらし!節操なし!浮気者!バカシンジ!!」

バッチーーン...........

 

洞木ヒカリは、こめかみを激しく押さえていた。

 


 

「............反省、した?」

「ウン......................」

哀れな少年を保健室に運び込んだ帰り、委員長な少女は加害者に詰め寄っていた。

「わかっているとは思うけど、このままでは碇君に愛想尽かされるのも時間の問題よ。冗談抜きで。」

「ウン......................」

「アスカには、素直に自分の気持ちを伝える練習が必要ね。」

「...............それが出来たら、苦労しないわよ。」

「だーいじょうぶ! 絶好の教材があるんだから!!」

「???」

「ふっふっふー、アスカは知らないでしょ? あなた達世界を守るチルドレンが、今やヒーロー・ヒロインとして語り継がれているのを! 全世界にファンがいて、密かな憧れの的であることを!」

「なにそれ?」

「つまりね、あなた達のイメージが一人歩きしてるわけ。そしてネットなんかを通じて............」

「んな?! あ、あああアタシとシンジのラブラブ小説ぅ?!」

「そ! 俗に言う LAS ってお話が、いーーーーっっぱい出来ているのよ!
世界を救うヒーローヒロインは、恋愛面でも憧れの対象なわけ!」

「な、なななななななんでまたアタシとシンジがよりにもよって恋愛小説の主人公で...........」

「それだけ、2人がお似合いってことよ。読んでご覧なさい、面白いわよー!」

「や、やーよそんなの! は、恥ずかしいじゃない........。

「素直なアスカや格好いい碇君がたくさんいるから、参考になるわよー。とにかく! URL教えておくわね!」

「ひっ、ヒカリがそこまで言うなら、ま、気は進まないけど見てみるわ。なになに? http://www6.big.or................」

こうしてアスカは、渋々その世界へのパスポートを手にしたのである。

 


まっしぐらに帰った、葛城邸・ASUKA'S ROOM には........

 

「ぐふ、ぐふっ、ぐふふ..................」
(げるぐぐ、ざくれろ、ぼりのーくさまーん!!)

長い髪をゆさゆさ揺らしながら、にやつきまくってる少女がいた。

むさぼるように画面をスクロールさせては、身をくねくねしている。

 

「シ、シンジがこんな気障なこと言うなんて!........現実にはありえないわ! ありえないひひいーーーー!」

「アタシもこんなふうに抱きついたりキスを迫ったりなんかしないわよおおぉぉぉ!(ポッ)(ポッ)」

 

真っ赤に頬を染め、時折文句をたれながらゴロゴロ転がっている。

椅子に座りながら転がるって、どうやるんだ?

そこはそれ、座ったまま激しい戦闘を行っているEVAパイロット。不可能ではない。

なんにせよアスカは、ものの見事にハマっていたのである。

 

「せ、世間様がアタシとシンジにこういう関係を望んでいるのなら...............
ま、まぁアタシとしては不本意なのよ! 不本意ながらも.......期待に応えるのはやぶさかでない次第でありまして........」

 

姿の見えない誰かに答弁しているアスカさん。

なんとも春めいたテンションが、部屋中を支配していた。

と、そんなとき............

 

ガサガサガサ

「ただいまーー。」

両手に買い物袋を下げた、【お嫁さんにしたい少年No.1】こと?、もう一人の主役さんが帰ってきた。

 

ダダダダダダ............

「お、おかおかおかおかえり、シンジ!」

「た、ただいま............?」

 

息せき切って出迎えて、妙に力の入った挨拶。心なしか紅潮した顔。

明らかに普段と違う。おかしい。しばし、息苦しい沈黙が流れる。

シンジは怪訝な表情でこのお姫様の様子をうかがっていたが、とりあえず無難に(いつものように)、お得意の態度で口火を切ることにした。

 

「あ、あのアスカ............今朝はゴメンね、その......シミが取れなくて」

「ううん、いいの! シンジは、一生懸命やってくれたんだもの!
アタシの方こそごめんなさい!............叩いたりして............」

「?????!!!!!!」

「シンジは、こんな乱暴な女、嫌いよね............?」←上目遣い。

「そ、そんなことないよ!」

「ほんと?............うれしい............(うるうる)」

 

プシューーーーーーー!!

 

マジでそんな効果音が聞こえてきそうなほど、2人は真っ赤になっていた。

(ど、どうしたんだろうアスカ? こんな反応、初めてだよ............)

(こ、こここっぱずかしすぎるーーーー!! ダメ。アタシにはできないわよぉーーーー!)

 

その後も、何ともぎくしゃくしたやりとりが続く。

アスカは時折甘え、拗ね、熱のこもった眼差しでシンジを見つめてくる。

(アスカ.............熱でもあるのかな?.............それとも、よっぽど激しく怒っているの?!)

言いようのない恐怖がシンジを襲う。

そして、普段の彼からは考えられないことだが、とうとう決意した。

このままじわじわとなぶり殺されるよりも、一挙に片を付けよう、と。

 

「ねえ、アスカ。どうしたの?................その、今日はいつもと違うような気が、するんだけど.......?」

びくっ

(シ、シンジでも気づいたか.............。)

そりゃあねぇ。

(こうなったら仕方ないわ.........これ以上「フリ」を続けるのも大変だし。正面突破よ!)

 

「あ、あのさあ、シンジ..............」

「なに?」

「シ、シンジはその...........LASってどう思う?!」

「えっ?!」

「べ、べべべ別に他意はないのよ、他意は!............ただ、純粋にLASってものが好きか嫌いかってあのそのゴニョゴニョ.....

 

他意しかないような気もするが。

ともかく、思いきって言ってしまったアスカは紅く俯いて沈黙。

衝撃の告白を受けたシンジは...........なんと応えて良いのか分からない、と言った表情でこれまた沈黙。

またも2人の間を渦巻く、静寂の時間。

 

(.................ハ!)
「ね、念のため言っておくけど、LASって L●●g●-●● A●b● Sh●●●r●のことじゃないわよ!」

それって何? と言う方はこちらを見ていただくとして。

さすがは天才少女アスカさん。2度同じオチは許さないのだ。..........チェッ。

 

「わかってるよ..........LASでしょ?」

そう言って顔を上げたシンジの表情は............苦渋に満ちた、心底哀しそうなものだった。

 

「ゴメン...........僕、どうしてもLASは............好きになれないよ。」

 

(..........え?

今、なんて言ったの?

ウソでしょ?........ねぇ、ウソだと言ってよ!)

 

「そりゃあ、LASはいっぱい出回っているけど.........僕は、あっちゃいけないものだと思っている。
第一、不自然じゃないか!」

 

(そ、そんな..............)

 

衝撃。あまりの衝撃。

予想だにしないシンジの強い拒絶に、アスカは言葉を失った。

反論したい.......でも、できない。

当事者のシンジの思いは、そのまま真実なのだから。

涙をためて、縋るような目でシンジを見つめるしか.............なかった。

 

「.........アスカの気持ちも分かるけど............そんなに LASにこだわらない方がいいよ。
.........とにかく、僕は絶対 LASを認めない!!」

「な、なんですって...........」

 

決定的な言葉。聞きたくなかった言葉。

知らなければ、昨日と同じように振る舞えたのに。聞かなければ、いつもの2人でいられたのに。

もうアスカには、沸き上がる、いつもとは違う色の感情を抑えることが出来なかった。

 

「!......アンタなんか、アンタなんか!!!」

 

シンジはぎゅっと目をつむる。

............しかし、いつまで待っても予想した衝撃は、来なかった。

不審に思い、おそるおそる目を開くと...............

ぽろぽろと涙をこぼし、振り上げた腕を力無く降ろす、弱々しい彼女の姿があった。

 

「嫌いよ..............」

 

「あ、アスカ!」

 

駆け出すアスカ、閉じられたドア、所在なげに立ちつくすシンジ。

いつもは喧噪に包まれている葛城邸に、空虚な風が舞い込んでいた。

 

「アスカ................」

 

(これで、良かったんだ..............)

シンジは、おのれに言い聞かすように、下唇を噛みしめた。

 


 

洞木ヒカリは、当惑していた。

赤い髪の親友の、普段とは正反対の落ち込んだ様子に、戸惑ったのである。

突然やって来て、部屋の隅で体育座り。ときおり嗚咽を漏らしている。

これは、ただごとではない。

 

「ねえ、どうしたの、アスカ?」

「.......................。」

「..........碇君と、何かあったの?」

「!!!」

「(やっぱり。)......ねえ、話してごらんよ。ちょっとは楽になるよ?」

 

 

洞木ヒカリは、激怒した。

ポツリ、ポツリと漏らす彼女の親友の話は、恋する乙女にとってあまりに残酷な内容。

あの少年の優しげな微笑みが、偽りのものだったなんて!

 

「碇君、非道い!! アスカの気持ちを踏みにじって!!」

 

「いいのよ、ヒカリ............それが、アイツの本心だったんだから。

.............アタシ、結構自信あったんだよ。アイツのすべてがアタシのものになるって。

アタシのわがままなら、アイツはなんだって聞いてくれるって..........。

........笑っちゃうよね。肝心の、アイツの心だけは...........手に入らない、なんてさ............。」

 

しゃくり上げるアスカ。

蒼い瞳が、みるみる滲んでゆく。赤みがかった金髪が、透き通るように輝く。

その姿は、あまりにも儚くて........はっとするほど美しかった。

ヒカリはいたたまれずに、そっと彼女を抱きしめた。

 

(恋愛の基準は人それぞれだから、無理に付き合え、なんて言えない............

でも、こんなに可愛いアスカを、こんなに泣かせた碇君は許せない!!)

 

ヒカリが憤りを新たにしているとき、玄関のチャイムが鳴った。

 

ガチャッ

「............碇君......。」

「委員長、アスカ来てるよね!」

「来てるけど。何を言うつもり?」

「もちろん、『一緒に帰ろう』って!」

「............なんでアスカが碇くんと帰らなければならないの?」

「決まってるじゃないか!............アスカは、大事な家族なんだから。」

「中途半端な優しさで、アスカを振り回さないで! これ以上アスカを傷つけるつもりなら、帰ってよ!!」

「そんな.............僕は、そんなつもりじゃ..........」

「意識せずにやっているから、余計たちが悪いのよ! アスカが何を求めているのか、わからないとは言わせないわよ!............なのに、なんで?! なんでなのよ?!!」

「それは.....................」

 

「ヒカリ、いいよ...............。」

 

玄関先で舌戦を繰り広げる2人の間に、アスカが割って入ってきた。

何とか涙をこらえて、俯きながら。

 

「シンジが、好きじゃないのは..........わかったから。...........仕方、ないよ。
............でも、アタシが勝手に想っているのだけは..............許してよね。いつか、2人でLASを、って..........

 

「ゴメン.......やっぱり、我慢できないよ。
アスカ、LASのことは忘れるんだ...............」

「?!!!」

「...............それが、アスカの為でもあるんだ........。」

 

もう、耐えられなかった。

情にほだされて、シンジが前言撤回してくれるんじゃないか........そんな期待は、粉々に砕かれた。

...............もう、これ以上惨めな思いは、味わいたくなかった。

 

ダッ..........

「あ、アスカ!」

少女は、再び逃げ出した。

またも為す術なく、呆然と立ちつくすシンジ............しかし、その時!

バッチーーン...........

彼女の親友が、いつもの彼女の代役を買って出た。

 

「どうして? どうしてアスカの想いに応えてあげられないの?
何が碇君を..........そこまで頑なにさせるのよ?!」

「..........洞木さん.........残念だよ。」

「なにがよ?!」

「................洞木さんなら...........僕の気持ち、わかってくれると思っていたのに。」

「.....................?」

「洞木さんは...............僕と同じ想いだって......信じていたんだ............」

「え?!」

(ちょっとちょっと碇君、それどういうこと?.............それって、ねぇ............まさか............
碇君ってば、LHSな人なの?!

だ、ダメよダメよ! 私には鈴原が...................)

 

「洞木さん?...........どうしたの?」

シンジは、透き通るような眼差しでヒカリを気遣っている。ポッ。

 

(............鈴原が.......なんなんだっけ?
優しいとこ? 碇君も優しいわ。)

 

「大丈夫? 熱はない?」

ぴと。おでこ一次的接触。

 

(碇君の方が優しいわ........ファッションセンスも死んでいないし、おまけに美少年............
は? わ、私は何を考えているの?! いけないわ、アスカに悪いわ!)

 

「ね、ねぇ、本当に辛かったら言ってね?」

 

(.................でも............碇君本人の気持ちが、アスカでなく私に向いているんじゃ............
仕方ないわね、不可抗力よね!............ゴメンね、アスカ。私、友情よりも色恋を取るわ...................)

 

「ほ、洞木さーーーん、聞いてる?」

 

(「碇ヒカリ」!............呼びにくい! でもそこが逆にチャームポイントかも!)

 

「あの............僕、アスカを追いかけるんで............ゴメンね、先に行くよ!」

 

(コダマおねいちゃん、ゴメンね。先に嫁くわ..............)

「うふ、うふ、うふふふ..........」

「..........................。」

いってしまったヒカリのサルベージを諦め、シンジはアスカの元へと駆けていった。

 


 

辛いとき、いつも彼女はここに来ていた。

独りで生きて行く、誰にも頼らずに生きて行く...........そのためには、人知れず哀しみや苦しみを紛らわさねばならなかったから。

この公園の丘から、夕陽を眺めていると.........胸の奥に滞っていたものが、スッと消えて行くように思えた。

 

いつもは。

 

でも今日は、一向に気が晴れない。

胸を締め付けるような痛みが、次から次へと襲ってくる。

 

(そっか..........この公園だから、じゃないんだ.................
あの時も、アイツがいたから............アイツの笑顔があったから...............。)

「情けね......」

(結局、この街に来てから...........アタシの安らぎは、みんなアイツが与えてくれていたんだ.............
それも、もう終わりだけどね。アイツの笑顔見ても、もう辛いだけ...............)

「................イヤだよぉ.....」

 

アスカの足下だけ、土が湿って行く。

じわじわと広がる黒いシミは、アスカの心の写し鏡のよう。

俯いた頭が重い。なかなか、顔を上げられなかった。

 

ハア、ハア、ハァ...........

........................!

 

そのアスカを包み込むように、突然伸びてきた影。

恐る恐る顔を上げてみると、

求めてやまなかった、それでいてもっとも見たくなかった少年が来ていた。

 

「なんでよ..........なんでアンタ、ここに...........」

「ハア、ハア..........僕がアスカのために何かするのは、当たり前じゃないか.................」

「どうしてそう言うこというの? アタシ、アタシ勘違いしちゃうじゃない!
アンタが..............私のモノになるって........思っちゃうじゃない.......。」

「勘違いじゃないよ............アスカのためだったら、僕のできること、なんでもするよ......。」

「ウソ! LASを認めてくれないじゃない!」

「............アスカのためなんだ.......LASに頼ってちゃ、ダメだよ.......」

「いやよ! アタシ、LASが好きなの! 身も心も洗われて、キレイになるの!!」

LASでなくても、ちゃんとキレイになるよ.....」

「イヤ! ウソ! 聞きたくない!!」

「本当だよ! 石けんだって、ちゃんと汚れは落ちるんだ!」

 

「............はい?」

 

「だから、石けんでも付け置きして丁寧にこすれば、洗浄力は変わらないんだよ!」

 

「...........なんの話?」

 

「今朝の制服のシミのことでしょ?.....時間がなかったから、完全には取れなかったけど........
でも今週末にちゃんと洗うから、LASじゃなきゃダメ! なんて言わないでよ!!」

 

「???.............あのぉーーーー、LASって、なあに?」

 

「何言ってるんだよ、アスカ。LASと言ったら
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムに決まってるじゃないか!」

 

「はい?!」

 

「だからあ、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムだよ!

合成洗剤に含まれている界面活性成分でね、そりゃあ良く落ちるけど、環境とか人体への影響を考えたら、使うわけには行かないよ。」

「.....................。」

「だってさ、もしLASで洗濯して、アスカの肌が荒れたりしたら.........イヤだよ、そんなの。」

「.............................。」

 

放心するアスカを後目に、シンジはLAS=直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの危険性を蕩々と語った。

なお余談ではあるが、シンジ君は先程の買い物の時も、袋を持参しているエコロジストである。

どうでもいいことだが、これらは自然保護団体に参加している青葉シゲル氏の影響だったりする。

いやホント、どうでもいいことだが。

 

呆然とシンジのナチュラルライフ講座を聴講していたアスカさん。

そりゃあ、「シンジ.......アタシの身体のこと、心配してくれたんだ..........」って乙女モードにも、入りかけたけど。

でもやっぱり...........返ってきた反応は...............ねぇ。

 

「くおのウルトラ鈍感バカーーーー!!!!」

バッチーーン...........

 

シンジは、お星様を探しに旅立った。

 


 

 

 

読むと後悔するおまけ

 

ガバッ!

シンジが目覚めて見たものは、結構見知った天井。

いつもの病棟。何故か上半身裸だったりする。

 

「あら、気が付いた?」

 

そこにいたのは、NERVが誇る天才科学者・赤木リツコ博士だった。

まさに万能知恵袋。一体いくつの博士号を所持しているのか、誰も知らない。

 

「大丈夫? いつもよりアスカのビンタが強力だったようだから、脳しんとうの度合いが30%大きいわ。
まだ寝ていた方がいいわよ。」

この口振りからして、医師免許も所持している様子。ならば、言語学にも精通しているだろう.........
勝手にそう決めたシンジは、リツコに相談を持ちかけることにした。

 

「.................というワケで、アスカが泣き叫んで............こうなったんです。一体、何故なんでしょう?
............ねえリツコさん、LASってなんなんです? 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム以外の意味があるんでしょうか?」

目を潤ませ、縋るように尋ねるシンジ。

ハァーーーーーーーーーーーーーー。

(鈍い鈍いとは思っていたけど.......ここまでとはね............)

なんと説明しようか............シンジの眼を見つめながら、天才・赤木博士はその優秀な自前のコンピュータをフル回転させた。そして.................

 

「シンジ君..........貴方は、もう少し自分の立場を理解した方がいいわね。
いーい? 貴方達チルドレンは、今や世界中の英雄なのよ。当然ファン達が................」

以下、ヒカリがアスカにしたのと同じような説明を、シンジに施す。

 

「............というわけ。その小説のジャンルが、通常アルファベット3文字で表されるわ。
最初のLoveもしくはその強意語であるLoveLoveのこと。それに続く2文字が、恋愛関係になる2人のイニシャルを表すの。これでわかったわね、LASとは.........」

「え、えぇ.............」

 

「そう! LoveLove Akagi Shinji のことなのよ!!」

「え...........?!!」

 

唖然とするシンジを横目に、満面の笑みを浮かべるリツコ。

...................えー、ここで先程「生体コンピュータ・AKAGI」で行われた計算のソースコードが手に入りましたので、どうぞご覧下さい。

・心拍数・血圧上昇

Subject :碇シンジ捕獲計画

 

 碇ゲンドウ(48)−赤木リツコ(30)=18

 赤木リツコ(30)−碇シンジ(14)=16

 16<18

 問題=0

 冷酷非道髭メガネ<純真鈍感美少年

 

・いてこます?

  AKAGI-B:賛成

  AKAGI-C:反対する理由はない

  AKAGI-M:無条件賛成

 

よって本案は可決されました。

「シンジ君、わかった? 世間の公認カップルが、私と貴方だってことが...........」

「あ、あのそのーーーーぉ.........」

 

「次に多いのが、LRS。もうわかってるわね?............そう、
LoveLove Ritsuko Shinji の略よ!!」

「あうあうあうあうあうあう.................」

「数は少ないけど、LMSなんて言う人もいるわ。失礼しちゃうわよね! 人のことMad だなんて!!

....................そう、世界中の誰もが、私とシンジ君の恋愛関係を望んでいるのよ。それは、とてもいいことなの。

............ねえシンジ君、私と一つにならない? それは、とても気持ちのいいことなのよ...........。」

 

「あ、あわあわわわあわあわああぁぁぁ.............」

 

ベッドに上り、白衣をはだけさせて四つん這いで迫るリツコ。じりじりと後ずさるが、すぐに壁。

密室に2人きり。誰も止めろって言わない............それどころか、世間の皆さんが望んでいるって言うんだから.......。

シンジ、陥落寸前か?!!!!

 

シューーーーーーーーーー

「シンジーーーーー、ゴメンね! さっきはやりすぎた..........わ?!

 

固まる、3人。

 

「シ、シンジ.................アンタ、やっぱりおばさん好みだったの?!」

 

どうしてやっぱりなの? と言う方はこちらを見ていただくとして。

 

............え? この後はどうなるのかって?

...........それを語るには、あまりにも時間が足りない。

 

....................んじゃ、そゆことで。

fin.


アスカ:LASは何処にいったのよっ! なんでこんな結末なのよっ!

マナ:とつとう、名前も出ず「茶毛」だけで終わらされてしまった・・・(TT

アスカ:そんなことどうでもいいでしょっ! リツコの奴ぅ、何吹き込んでんのよっ!

マナ:LMSが、Madだなんて、許せないわっ!

アスカ:ほんとよ。マヤが怒るわよ。

マナ:マヤさんじゃないっ!

アスカ:ミサト? それも困ったわねぇ。

マナ:ちがーーーうっ!

アスカ:マユミ? そういう線もあるわねぇ。

マナ:あなた、わざとはずしてるわね。

アスカ:なにが?

マナ:確かに、Mのイニシャルは多いけど、やっぱり本命はわたしでしょ?

アスカ:は? 何言ってるのよ。

マナ:Mといえば、わたしなの?

アスカ:アンタだったら、LCSじゃない。

マナ:は?

アスカ:LoveLove 茶毛 & シンジ。やーねぇ。

マナ:・・・まだ言う?(TT
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