P 2 A 2
by 敏芳祥
Caution! この作品は精神汚染を引き起こす危険性があります。 必ず前作P2Aをご覧になり、恐れるものなど何もなくなってからお読み下さい。 |
神話になった、男の子がいました。
世界を、ヒトを新生させる、神様の力を手に入れたのです。でも............
「いや......僕は戻るよ。
ここにいれば、確かに傷つくことはない。みんな一つなんだから。
でも.........それじゃあ寂しいよ。他人だからこそ、分かり合えないからこそお互いを求めるんだ。
たとえ傷つき傷つけあったとしても、僕はみんなに会いたい。」
男の子が求めたのは、平和で平凡な生活。そして............
なによりも、たった一人の女の子でした。
戦いに傷つき、眠りについた女の子。しかし............
「ゴメン......さっきから謝ってばかりだけど、最後にこれだけ許してね。
卑怯だとは思うけど、僕の『まごころ』だから............。」
万感の思いを込めて、そっと唇を重ねた。
男の子の口づけによって、奇跡は起こりました。
女の子が眠りから覚め、2人は失われた時を取り戻したのです!
男の子の名前は、シンジ君。
女の子の名前は、アスカさんと言いました。
辛い戦いを乗り越えて、気弱だったシンジ君は、ちょっぴり逞しくなりました。
そしてアスカさんは、張りつめたところが無くなって、素直にシンジ君に甘えるようになりました。
これは、そんな2人のごく普通の恋物語。
ただ一つ、普通と違うところと言えば...................
アスカさんの人間が、丸くなったことでしょうか。
In Other Words,
アスカさんは............
太ってしまったのです!!!
Puyo Puyo Asuka-chan
2
〜マツリノアト〜
「ゴ、ゴメン................」
..........................................。
「許してよ.............。」
...........................................ギロ!
毎度おなじみ葛城家。噂の2人は、どうやらいつものケンカ中のようですね。
ただ、ちょっちいつもと違うのは....................
「ねえ、ごめんってばぁー! シンジィ.............」
そう、謝っているのがアスカさんで、怒っているのがシンジ君だったことです。
「アスカ.............がっかりだよ。」
「お願い、シンジ許して.............」
ハァーーーー
シンジ君は、ソファーに座って俯いている、もう1人にも言いました。
「委員長も............あれほど頼んだのに.................」
「ゴメンね、碇君! アスカがあんまりに熱心だったから、つい..............」
なんとも重苦しい空気が、葛城家のリビングを席巻しています。
果たして何があったのでしょうか?.........ちょっち時間を遡ってみましょう。
「お願い、ヒカリ! 教えて!!」
「う、うん.......」
頭を下げて頼み込むアスカさん。
以前なら考えられないことです。
しかもそれが、愛しいシンジ君の為..........と言うのですから.......
恋する乙女の守護者・ヒカリさんには、断れるはずはありませんでした。
「じゃあ教えてくれるのね! チョコレートの作り方!」
そうです。アスカさんは、バレンタインデーに手作りチョコを渡すつもりなんです。
「料理なんて、この超絶美少女のする事ではないわ!」
なーんて意地をはってたことが嘘のよう。アスカさんは、愛するシンジ君のために心のこもった、少しでも美味しいものを食べさせてあげたい.............そう願っているのです。
(わかったわ.........頑張って、アスカ!)
こうして洞木家のキッチンは、お料理教室へと早変わりしました。
「........そうそう、直接火にかけるんじゃなくて湯煎して...........」
「こ、こうね?」
アスカさん、不器用な手つきながらも一生懸命覚えていきます。
ヒカリさんはその真剣な姿に目を細めました。
(アスカ.............ホントに素直になっちゃって...........)
こうして2時間後、ちょっと不格好ながらも想いのこもったチョコが出来上がりました。
「やったじゃない、アスカ! 初めてにしては上出来よ!」
「...............違う...........。」
「え? 何が?」
「こんなんじゃダメよ! アタシのシンジに対する想いが、こんな程度だと思われちゃ困るわ!」
ぱきーーーん!
「ちょ、ちょっとアスカ! 何もそこまでこだわらなくても........」
「いーえヒカリ。2/14は乙女の聖戦! 妥協は許されなくてよ!
............とは言え食べ物を粗末にしてはいけないわね。ぱくっ。」
この時点で、多くの読者様と同じように、後の展開が読めれば良かったのですが.......
なにぶん人のいいヒカリさん。「アスカ、完璧主義は相変わらずね」なーんて思っちゃいました。
そして...............
「アスカ、今度はいいデキじゃない!」
「ダメ! 色合いが濁っている! ぱくっ。」
「アスカ! 私よりも上手よ!」
「.........! ここ、裏に気泡があるわ! 失格!! ぱくっ。」
「アスカ! 誰がどう見ても完璧よ!」
「.........そうねえ............味見しましょう、ぱくっ。.......ダメ! 甘みが0.2足りないわ!」
「ねぇアスカ............いい加減、そのくらいでいいんじゃない?」
「それがダメなのよ! アタシの和菓子職人の血が騒いで止まないわ! ぱくっ。」
(アスカ......なに訳わからないこと言ってるの? それにそもそもチョコは洋菓子.........)
そんでもって、
肝心の2/14に、シンジ君が見たものは...................
それはもう、申し分ないほど完璧なチョコと.....................
地道な努力でせっかく−5kgまで行ったはずが、見事《乙女の純情!》kgにリバウンドしてしまった、アスカさんの姿だったのです。
ハァーーーー
「い、碇君、そんなに責めないで!......アスカは、貴方のことを想うあまりに.............」
「本当に、そう思う?」
そう言われると、ヒカリさんも二の句が継げません。
(確かに、途中からアスカは食欲魔人だったわ............)
なにせ、「ヒカリ! 貴方のコレも失敗よね?! ぱくっ。」ってな感じでしたから。
ハァーーーー
「.............僕、ちょっと出かけてくるね..............。」
「ど、何処へ?」
「.........アスカの居ないところで、ちょっと頭を冷やしてくるよ...........。」
プシュー バタン!
「あ.............」
冷たくドアが閉まると、見る見るうちにアスカさんの蒼い瞳がにじんできました。
「ど、どうしようヒカリぃ! シンジに嫌われちゃったよぉ..............」
しょんぼり縮こまるアスカさんを、ヒカリさんは慰めます。
「大丈夫よ、アスカ............碇君はこのくらいではアスカを見捨てないわよ!」
「ホント?」
「もっちろん!」
見捨てるつもりならもうとっくに.........とは、口が裂けても言えないヒカリさんでした。
さてさて、シンジ君は一体何処へ行ってるのでしょうか?
えー.........あ、今! かなり大きなお店に入っていきました。
最近シンジ君のお気に入りになった、DVDショップのようです。
その品揃えの圧倒的な質量に惚れ込んで、シンジ君はすっかりこのお店の常連になっていました。
(素敵な恋物語でも借りて、イヤなことは忘れよう..............)
そう思って棚を物色していたシンジ君に、声を掛ける人がいました。
「やあシンジ君、いらっしゃい! 今日は、どんな作品をお探しかい?」
「あ、どうもこんにちは......。」
このお店・『田編堂』の店長さんです。
これだけの大型店にも関わらず、気さくに相談に乗ってくれる店長さんを、シンジ君は頼りにしていました。
だからでしょう。アスカさんとのことを、自然と打ち明けていたのです。
「...........というワケで、アスカは僕の気持ちをわかってくれないんです...............
あれだけ努力してきたのに............アスカにとっては僕との約束よりも、目先の食べ物の方が大切なんですよ!」
「ふーーん..........まぁ要するに、アスカちゃんが『シンジ君ラブラブ』になって、ついでに痩せられればいいんだね?」
「い、いえ別にそこまでは........................実はそうです.....。」
「なら、コレを持って行きなさい。君の望み通りのモノが入っている教習ディスクだよ。........ただ..............。」
そこで、店長さんは言いにくそうに言葉を濁しました。
「覚悟はいいかい? コレをやるつもりなら、最後まで続けないと............大変なことになるよ。」
「...........それって、どういう............?」
「中途半端に途中で止めると、かえって逆効果............それどころか、2人の仲を引き裂きかねないんだ。
劇的な効果がある分、リスクも大きいのさ。」
「................................。」
「2人の想いが、どれだけ真剣なモノかが試されてしまうんだ。
シンジ君............君も、アスカちゃんの全てを、受け止めなければいけないんだよ?
............もしも彼女を重荷に感じているのだったら..............」
「そんなことはないです!! どんなに重くても僕は彼女を支えて生きていきます! そう決めたんです!」
「............わかった。もう何も言うまい。後戻りは出来ないけれど................君たちの素敵な絆になるよう、祈っているよ。」
店長さんから渡された、一本のDVDディスク。
その重みをひしひしと感じながら、シンジ君は帰途につきました。
「ただいま...............」
「お、お帰りシンジ!............その......本当にごめんなさい!」
何度でも素直に謝るアスカさん。なかなか新鮮です。
大丈夫。もうシンジ君は、いつもの彼に戻ってますよ。
「いいんだよ、アスカ。僕の方こそゴメンね、冷たくして..............。」
「シ、シンジィ..................」
見つめ合う2人。今のままでもいいかな?............
そんな想いも頭をかすめましたが、シンジ君は敢えて決意しました。
「............あのさ、もし良かったら..........今からこのディスク、見てみない?」
「何それ?」
「『田編堂』の店長さんが貸してくれたんだ。痩せられて、しかも僕らがずっと仲良くなれるDVDだって。」
「そ、そんな都合の良い物があるの?」
「『田編堂』さんだから、きっとそのぐらいできるさ!
............でもなんだか、途中で止められないみたいなんだ。......アスカが辛いと思うなら、このまま封印............」
「ううん! アタシやってみる!............せっかくシンジがチャンスをくれたんだから。
逃げちゃダメなのよ!! どんなに過酷なダイエットでも、耐えてみせるわ!」
胸を張って、そう答えました。
一番にならなくてはいけない..........そんな張りつめたところは無くなったアスカさんですが、頑張り屋さんなところは変わっていません。
受けた屈辱(自業自得ですけど......)は、10倍にして返します。そのためには、多少のつらさもへっちゃらです。
そんなアスカさんの真剣な眼差しを見て、シンジ君も大きくうなずきました。
いざ、久しぶりの戦闘へ!
2人は手を重ねて、リモコンのスイッチを押しました。
タイトル映像の後、インストラクターと思しき女性が映ります。 亜麻色の長い髪をなびかせた、スタイル抜群の美人です。............でも、どっかで見たような? その女性は肘を曲げ、両手の人差し指をピッピッと右上空高く突き立て、右足をちょこんと前に出しました。 ............そして、おもむろに歌い始めました。 「♪ラーブリ」ピッ! ピッ! 次にコクコクと肯いたかと思うと、指を今度は左空高くに突き立て、左足をちょこんと前に出します。 「♪アースカちゃん」ピッ! ピッ! 「♪しゅきしゅき」ピッ! ピッ!「♪シンちゃん」ピッ! ピッ! 「♪ピュアーなハートは、シンジのものよ」 今度は、両手をグルグル回して、自分の胸に持って行きます。 「♪シンジを見てると、キュン、キュン、キュン」グルグル。 |
「「..................................................。」」
アスカさん・シンジ君とも、しばらく声が出せませんでした。
「な、ななな何よコレーーー!!!」
「..................えーと、『シンちゃんダンス』だってさ。」
「そうじゃなくて!............なんて言うかその.........なんなのよコレーーーー!!!」
決まってるじゃない! 2人の愛のメロディーよ! |
ビク!!
信じられないことですが、DVDの中の女性が答えました。得体の知れない恐怖感が2人を襲います。
シンジは、これができないと甘えさせてくれないのよっ! |
DVDの中の女性が、さらにアスカさんを煽ります。..............会話できちゃってるんだから仕方ありません。もうこの際、『常識』だとかなんとかは、うっちゃることにしました。
「え、えっと..................『♪ラーブリ』......こうかな?」
声が小さーーーーい!! それに、もっとキビキビと動くのよおーーーーーーーーー!! |
「は、はいいいーーーーーー!」
厳しい特訓の末、アスカさんは無事ダンスを体得しました。
良くやったわ! 次は、『倍速シンちゃんダンス』よぉーーーー!!! |
休む間もなく、特訓は続くのでした。
ハア、ハア、ハァ............「♪ラーブリ」ピッ! ピッ!
空気をつんざくようなキレのある動き、100万ドルの微笑み、愛の波動。
アスカさんは、どこをとっても完璧な『シンちゃんダンサー』になりました。
頑張ったわね............もうアタシが教えることはないわ。だ・か・ら、あとは●●●●●だけよ!! |
「「え、ええーーーーーーーーー!!!」」
アスカさんだけではなく、今度はシンジ君も顔面蒼白になって叫びました。
いったい、どうしたんでしょう?
......コレが出来なければ、アタシ達のように『らぶらぶらぶーー』になるのは夢のまた夢よぉーーー! |
「「.............................。」」
「.........シンジ。」
「いいよアスカ! 無理しなくても............」
「ううん。アタシ、やるわ! ここまで来て、逃げるわけには行かないのよ!!」
2人は、決意を固めた眼差しで、すっくと立ち上がりました。
ざわ、ざわざわ..................
駅前商店街に、人だかりが出来ています。
広場に、いつの間にやらステージみたいなものが設置されているのです。
これは誰か、ゲリラLIVEでもやろうってのかな?
徐々に期待が高まっていきました。
オオォ−−−−−−!!!
ついに本日の主役、登場です。
無事? リフォームされたプラグスーツでむっちりぴっちりと身を包み、
そのスーツと同じくらい、顔を真っ赤にしたアスカさんが、しずしずと舞台に上がりました。
そして!!
「♪ラーブリ」ピッ! ピッ!
「♪アースカちゃん」ピッ! ピッ............
(アスカ............恥ずかしいだろうけど、頑張って!)
舞台裏から、シンジ君が熱い視線を送っています。
自分では何もできない............そんな歯がゆさを、シンジ君は初めて感じていました。
(アスカ............エヴァに乗れなくなった時、君はこんな辛さを味わっていたんだね............)
シンジ君の想いが、背中を押します。間接ユニゾンです。
(シンジ............アリガト!!)
アスカさんは、キッと真剣な表情になります。......でも、それも一瞬。
すぐに満面の笑顔を作ると、何かを吹っ切ったように、朗らかに歌い・踊り始めました。
「♪ラーブリ」ピッ! ピッ!
「♪アースカちゃん」ピッ! ピッ!
「♪しゅきしゅき」ピッ! ピッ!「♪シンちゃん」ピッ! ピッ!
「♪ピュアーなハートは、シンジのものよ」
「♪シンジを見てると、キュン、キュン、キュン」グルグル。×16。
それはもう、非の打ち所の無い『シンちゃんダンス』でした。
『シンちゃんダンス』は、みーーーんな、みーーーぃんなに観て貰わなきゃ意味無いのよーーー!! |
インストラクターさんのご期待には、応えられたようです。
舞台の上で、充実感に身を委ねるアスカさん。そこに、パチパチと拍手しながら............そしてちょっと涙ぐみながら、シンジ君が近寄っていきました。
「良かったよ............素晴らしかったよ、アスカ!!」
「シンジ............」
「やっぱり、アスカは凄いよ! 僕も誇りに思うよ!」
「シンジィーーーー!!!」
2人は、ひしと抱き合いました。
そんな恋人達の世界を、道行く人は遠巻きに眺めるのでした..................
fin.
P.S.
「やっったーーーーーーーーーーーぁ!!!!!」
アスカさん、体重計の上で大喜びしています。
なんと表示は《乙女の純情!−7》kg!
『シンちゃんダンス』自体の運動量もさることながら、冷や汗たらたら発汗作用............そして何より、あれからというもの駅前通りを歩けなくなったことで、遠回りする分のカロリー消費が効いたようです。
シンジ君も心底嬉しそうに、あったかな微笑みを浮かべています。
ふたりの長い旅は、きっとまだまだ続くのでしょう......でも、今後ともお互いを支え合い生きて行けるはずです。
とりあえずは、ふたりのチルドレンにおめでとう。そして、これからも頑張ってね。
おことわり(まったくホントにどうもすみませーーん!) この作品中に、ターム様の傑作:あまえんぼうアスカちゃんEpisode 10 -呪の山-より 『シンちゃんダンス』を引用させていただきました。さあ皆さん、改めて原作に酔いしれましょう。 |
感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構 ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。 |