緑一色に染まった山の中腹あたりだろうか。

活気ある男女の声が木霊している。

「はああああああああああああ!!!!!」

その周りの風景を見ると後ろに木で建てられた一階建ての家があり

ちょうどそこら辺に生えていた木を使ったようにその辺りだけ木が生えておらず

緑の芝生が広がっている。(広さは10坪ほど 家は40坪ほどだろうか・・・)

いったいどうやって造ったのかは気になるが所詮は小説の中なので気にしないで

いただきたい。

話を戻そう。

その芝生の上で男女が組み手の様なものをしている。

男の方はこの時代とは不釣合いのジーパンにYシャツを着ていて

女の攻撃を受け流したりしてたまに返し技をする程度だ。

女の方は艶のある黒い髪を腰辺りまで伸ばし紫色のスリットの入ったドレス

を着て右手には金色に光る笛を持っている。

その笛を男目掛けて振り下ろしたり、それをフェイントに蹴りを放ったりはして

いるが男には一発も当たっていないようだ。

おっと紹介が遅れたようだ

男の名前はシンジ 女の名前を甄姫という。

さて、この二人以外にも主演はこれから先も出てくるであろう。

では、このぐらいで私はお暇しよう。

私は所詮黒子の様なモノですからね。

舞台から降りる事にしましょうか。

さあ、物語の始まりだ。心行くまでご覧いただこうか。














―甄姫サイド―
「はああ!!」

シンジの顔目掛けて蹴りを放つがシンジはさも当然といった

ように後ろに一歩下がるだけで避け、また一定の間合いを保つ。

「ふう・・・。」

私は少し一息付いてどう出るか考えを張り巡らせる。

シンジ相手に真正面から言っても駄目なのは3年間も一緒にいれば

否応無しにも理解しているつもりですわ。

それにあの人の事を一番知っているのも私。

だからこそ足手纏いが嫌でシンジに武術を教えてもらっていますが

シンジに最初にこの事を言ったときは「本気か?」と聞かれたり「武器はどうする?」

と聞かれたりしたので私は「本気です」とシンジの目を決意の現れた目で見返したところ

シンジが引き下がってくれて私に武術を教えてくれる事を約束してくれました。

その後に武器の話です。

私が選んだ武器は唯一残った家族の形見であり、家宝でもあったこの

笛とそれを生かすための体術です。

この笛は特殊な波長の音で相手の三半規管を麻痺できたり、相手の臓器を音波で直接振

動させ負荷を負わせたりといろいろな事ができる暗殺道具だとしったのはつい最近でした。

最初はこの笛の硬さと頑丈さを利用して鈍器の様に使っていたのですが

笛を閉まっていた包みに白紙の紙が挟まっていてそれをシンジが火であぶると

字が浮かび上がったのです。

シンジが言うにはこれはあぶり焼きというものだそうです。

その紙はこの笛の説明書のようなものでした。

それから私は一生懸命強くなりました。

この人の隣に立っても恥ずかしくないように。

この乱世で二人が生き残れるように・・・。

それに私の本当の気持ちを伝えたいから、ずっと一緒にいたいから

私は頑張れたような気がします。

さて、何時までもこんな事を考えさせてはくれないようです。

シンジが身をかがめたのを見るとそろそろ来るようです。

さっきより一層ピリピリした空気が場を張り詰めたものにさせる。

突けば破裂するような沈黙がしばらく緑の芝生を泳いでいた。

永遠の様な短い時間が二人の間をめぐっていたが、不意に風が二人の髪を

撫でた瞬間に二人が動いた。

私はシンジ目掛けて駆け出そうとすると私の視界には既にシンジの姿はありません

でした。

私はシンジが何処かの木に飛び移ったのだろうと予測し周囲に視線を移していると

何かが掠れるような音が聞こえました。

でも、それは私が予想した場所なんかではなく私の足元から聞こえてきました。

なんとシンジは一足飛びで5メートルほどあった距離を詰めて息を潜めていたようですね。

これがシンジの一番の武器の常人外の脚力です。

どんな間合いからでも自由に切り込み、避けて自分が戦いの主導権を掴み

相手の戦意を奪いつつ自分に有利な体制を作るのがシンジの戦い方だと私は思っています。

当然シンジが黙ってその場に居てくれるわけがありません。

シンジは無言で私の足を払ってきました。

私はあまりの速さに身動きが取れずに草の匂いを嗅がされていました。

だが、何時までもその体勢で居る訳にもいきません。

私が笛に口を付けて音色を鳴らそうとしましたが、シンジは逸早くそれに

気付きまた一足飛びで5メートルほど距離を置き一息つきました。

ですが、まだ負けるわけにはいきません。

私が再び笛を構え攻撃の姿勢をたてるとシンジが不意に話しかけてきました。

「ちょっと今のにはびっくりしたよ。」

のほほんとした声を出しているがシンジはこの話している隙にも飛び込んでくる

事があります。

それ程シンジの足は脅威です。

用心に用心を重ねても足りないぐらいの集中力が必要です。

「そんな事言いながら攻撃の隙を窺ってるんでしょう?」

私は構えをして少し経ってやっと気付きました。

若干さっきシンジに足を払われた足が痺れていて充分に動かない事を。

シンジの攻撃をこの状態でかわすことは不可能。

なので、私はシンジとの会話で時間を引き伸ばす事にしました。

「あなたは何時もそうやって自分を弱く見せます。でも、それはなぜですか?」

その言葉を放ったときシンジの肩がビクッと動いたような気がした。

それは私の気のせいだったのかしら?

「ふふ・・・・実際に弱いんだから仕方ないよ。僕は・・・・」

そこまで言うとシンジは口を閉ざしてしまった。

私は自分の失言にようやく気付いた。

確かに時間稼ぎは成功したけど、シンジの傷つくような言葉を言ってしまった。

それに、これも勝つための手段と割りきれる様な器用な人間でも私はない。

この時に既に勝負は決まっていたのかもしれない。

既に先ほどまでの戦意はその時の私にはなかったから。

シンジの姿が草の茂みの中に消えた。

次が本当の最後の一撃です。

私は笛を鳴らす準備をし、神経を研ぎ澄まします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サッ・・・・・・

何かが足元を横切るような予感と草の擦れる音が同時に私の集中力を最高潮に

高めました。

この笛は音楽を吹くときには普通に和やかな音色を聞かせてくれますが

こと暗殺となると、全くの無音の音波を発生させます。

目を見開き笛を鳴らそうとした−その時!!

不意に私の視界は青色で染まっていました。

「相変わらず厄介な笛だね。」

ちょうど私を見下ろすような形でシンジが話しかけてきています。

「そうですか?それよりはその距離から1秒もせずに切り込めるシンジのほうが

よっぽど厄介ではなくて?」

ちょっと悔しかったので意地を張って皮肉を言ってやりました。

その言葉にちょっと苦笑いをしながらも唐突にシンジは芝生に寝転がった。

急なその行動に私は一瞬だが呆けてしまった。

さぞかし間抜けな顔をしていただろうが、誰にも見られずに済んだので

少し安心した。

「ふう・・・疲れた。」

そう言いながらすやすや寝息を立てる青年に私はため息をつく以外に

取る行動が思い浮かばなかった。

でもただ私は「ごめんなさい・・・。」そう呟いて自分も夢の国に旅立った。

それから一時間ほどその辺りには静けさが降り注いでいた。













夢を見ている・・・・・。

ミサトさん、父さん、アスカ、綾波、マナ、母さん、リツコさん

皆死んでしまった。

僕のせいで皆死んだ・・・僕のせいで。

そして自暴自棄になりながらもこの世界に迷い込んだんだ。

何故だろう?

僕は何でこれが夢だってわかったんだろう?

昔の事が繰り返されているから?

よくわからないや・・・。

場面は彼女との出会いだ。

あの時は全てがどうでも良かったはずだったのに・・・。

でも放ってはおけなかった。

もう人が人を殺すのは嫌だから・・・。

でも、僕は人を殺してしまっている・・・。

間接的にではなく、僕自身の手で。

でも、それでもいい。

今の僕の生きる目的は彼女を守る事。

僕みたいな奴が彼女から好かれるわけが無いんだ。

だから、彼女が拠り所となる人を見つけるまで僕が彼女を守る。

それが今の僕の心の支え。

それが終わったら・・・・どうしよっかな?

あれ?真っ暗だ。

さっきまでは昔の景色が見えていたはずなのに。

その瞬間にシンジは光に包まれた・・・・。

いや、それは光だったのかは解らない。

もしかすると、光ではなく闇に包まれたのかもしれない。

光と闇は常に表裏一体であり離れる事は無い。

シンジは結局のところ自分の事を卑下しすぎている。

これが後にどんな影響を及ぼすかは誰も知らないのだ。

「神のみぞ知る」という言葉があるが、それすらも当てにならないであろう。

なぜならば、あの赤い世界を神が望んで作るであろうか?答えは否しかないのだ。

つまり神は存在しない。

そう考えるしかないような気はしないだろうか?














「ん・・・・。」

太陽の光の眩しさに半目で眠そうに目を擦っている。

「ふわ〜〜〜あ。」

口を少し開けて左手で口を隠しながら欠伸をする。

「起きましたか?」

この3年間でいったい何回この声を聞いただろうか?

とても安らげてとても癒されて自分がここに居る実感を齎してくれるこの声。

あまりにも優しくて自分なんかじゃ本当は相手にされないような輝く笑顔が

目の前で咲いている。

それと同時に酷く胸が痛くなる。

僕が彼女を縛り付けているように思えてしまう。

僕みたいな最低の奴が彼女のそばに居る事ですら罪だと思う。

だから・・・・彼女に大切な人ができるまでは僕が彼女を守る。

それが僕の目的であり彼女に対する罪滅ぼし。

絶対に彼女を死なせたりはしない。

そんな決意を込めながら「おはよう。」と満面の笑顔で返した。

そして今日僕たちはこの山を降りる。

この家とのお別れ。

この山との別れ。

3年間もすんだのだから愛着だってある。

でも、僕はこの乱世の世の中で平和を取り戻す。

それが前回の世界ではできなかったことだから、皆見ていてね僕がんばるからさ

精一杯やるからさ。

隣を見たら軽く彼女が笑ってくれた。

そしてこういってくれた。

「何処までも着いていきますわ。」

その言葉が嬉しくも感じ、痛くも感じたがそんな事を彼女に知られるわけには

いかない。

だから僕は彼女に笑いながら言うんだ。

「甄姫。君だけは絶対に守るからね。この命に代えてでも・・・。」

自分に言い聞かせるようにそう言って僕たちは乱世の海原へ足を踏み出した。

彼らに幸あらんことを・・・・・。














山の下では既に事件が始まろうとしていた。

焼き払われる村の煙にシンジが気付くのは後数分後。

そしてここではまた主演が一人増える。

そして後々、とても重大な役目を果たす事にならんでろう者も。

全てはこの乱世に刻まれるであろう物語。

地球の歴史と比べると比べる価値も無いほどちっぽけな物だが

そんなものは関係ない。

人々は生きているのだから。

では、また会える日まで・・・・


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