何万という兵士がある一箇所に向かって、大移動している。

その場所とは黄巾党の本拠地である場所だ。

黄巾党とは、太平道なるものを信じるオカルト集団のようなものだ。

そして頭に黄色い頭巾を被っている事からそう呼ばれ、各地の山賊達もその団体に

集まり始め、村を襲い始めたり、暴動を行い始めたため、このような討伐隊がかり出され

たのだ。

そして、その軍の中にはあの関羽もいた。

軍は着々と目的地に向かっていく。

さあ、戦いの幕開けだ・・・・。






           
     第四話


あの大移動も終わり、兵士は4手に別れていた。

まずは、総大将と共に本陣で待機するもの、東から攻める隊、西から攻める隊

中央から攻める隊の計4つである。

この場所の地形は山々で囲まれているために、他の場所からの攻撃が難しいので

必ずこの3つのいずれかからでないと相手の本陣までたどり着けないのだ。

なので、攻撃を3手に分けて一気に攻め立てるのだ。

劉備たちの隊は西を攻める隊だ。

ちなみに相手の総大将は張角。

まあ、この男については後々紹介するとしようか。

さあ、こんな事を話してないで関羽たちの様子を見てみようか。

























本陣からおよそ北西の方向に2km程はなれたところに劉備たちの

部隊はいた。

「兄者。」

馬を走らせながら関羽は劉備を呼ぶ。

「どうした?雲長。」

「何故、翼徳を本陣に置いていったのだ?」

二人は馬のスピードを落とすことなく、何千といる兵士たちの先頭を

馬で駆けている。

「ああ、それは相手の出方を窺うためだ。」

「どういうことだ?」

「つまり、こちらは隊の勢力を完全に三分割したが、あちら側はそうとは限らない。

極端な話で例えると、こちらには兵を一人も置かずに東側に兵士が全員集結していたら

まず間違いなくその部隊は壊滅だ。だから、翼徳の部隊にはその動きを察知次第

動いてもらうのだ。」

「なるほど。さすが兄者だ。」

「なに、ただの猿の浅知恵に過ぎんよ。」

そういって苦笑しながらも体は自然に馬を走らせている。

そんなやり取りをしていると、耳が痛くなるような雄叫びと地面を何かが叩く轟音が

鳴り響いてくる。

これが戦闘開始の合図だと知るのにそう時間は掛からなかった。

向こうから黄巾の兵士たちが行進してくるのを発見したからだ。

しかも数が半端ではないときている。

少なく見積もってもこちらの5倍はいるだろう。

「突撃!!!!!!!!!!!!!!〜〜〜〜〜〜」

あちらもこちらを見つけたらしく、こちらにも聞こえるような大声で命令を

出している。

その命令の後、物凄い怒鳴り声と共にこちらに兵士たちが向かってくる。

こちら側の兵士は、その圧倒的な戦力にビビリ気味だ。

気迫で負けていては、この戦負けるという事に気付いてない証拠であろう。

つまり、実践慣れしていないという事に他ならない。

何人かは逃げ出そうとさえしている始末だ。

そんな、さなかであった。

「沈まれ!!!!!!!!!!」

劉備が怒声を張り上げ、兵士たちを静める。

「御主らは何の為にこの場所にいるのだ!!!!!弱い民を守るためであろうが!!!

その御主らが戦わずして逃げるとは何事か!!!!!恥を知れ!!!!

奴らは所詮盗賊の落ちこぼれ。まともに生きる事を自分から拒否した愚か者だ!!!!!

そんな奴等に俺たちの志が負けると思うか!!!!!いや、思うな!!!!!!

力と意思は同意義なのだ!!!!!思えば負けぬ!全軍突撃!!!!!」

そういって鞘から剣を抜き相手の方向に切っ先を向ける。

その劉備の言葉に触発され、志気を上げた兵士たちが馬を操り、陸を走り、相手の

懐に飛び込むために奇声にも聞こえる果敢な怒鳴り声をあげて走っていく。

そんな中この男も軽快に馬の蹄の音を響かせながら相手の兵士たちに突進していく。

「関雲長いざ参る。青龍円月刀の切れ味、しかと見よ!!!!」

馬で相手を蹴散らし、武器が届く範囲にいる敵に肩と腕を撓らせた、容赦ない

円月刀の一撃を放ち、次々と切り殺していく。

「臆するな!!数はこちらの方が多いのだ、囲んで一網打尽にしろ!!」

相手の武将らしき人物が周りの兵士に命令を出している。

「あそこか・・・・遠いな。」

関羽は奴を倒せば、この様な適当に集まってきた烏合の衆は、指揮官がいなくなれば

どうすればいいのか判らずに右往左往するだけの雑魚に成り下がる事を解っていた。

だが、いかんせん相手との距離が開きすぎており無理だ。

猪突猛進するのも1つの手だが、この場面でそれをするのは無能だ。

成功する確率が余りにも少なすぎるし、今のところこちらの兵の志気も落ちていない、い

やそれどころか、どんどん強くなっているだろう。

ここはやはり、雑魚を倒しつつ少しずつ近づくのが得策か・・・。

「むうん!!!!!」

迫力のある声と共に青龍円月刀が咆哮をあげ、敵の胴体を食いちぎっていく。

「だが・・・・きりがないな。」

今は均衡状態が続いているが、このままの状態で時間が過ぎると

明らかに相手が有利になってしまう。

戦闘は数という言葉があるが、まさにその通りだろう。

圧倒的な力を持つものがいても、この人数の前では無力なのだ。

「さて、一体どうしたものか。」

関羽は悩みながらも馬を操作し、確実に敵の戦力を削っていく。

「このままでは均衡状態か・・・。」

互いに戦闘は進んでいるが、決定的に流れを変える要因がないため

完璧な均衡状態に陥ってしまい、このままでは兵の数が少ないこちらの

方が不利か。

そんな時戦況を大きく変える声が響いた。

「弓矢隊前へ!!!!!」

劉備の声と共にこちらの歩兵隊が後退し百人ほどの弓矢隊の一斉攻撃の準備が始まった。

「雲長!!!しばし時間を稼いでくれ!!!」

まだ全員が退却するまでに時間が必要だ。

だから、ここは相手の進軍を少しでも抑えないといけない。

その役目をできる武将は、この関羽を除いて他にいない。

しかも、関羽の乗る馬はこの中で一番の俊足、しかも関羽自身馬の扱いは

他と比べても優れているのだから、これほどうってつけの人材はいないだろう。

「任されよ!!!いざ参るぞ!!黄巾の兵士たちよ!!!」

一目散に相手の首を円月刀で吹き飛ばし、人の何倍もある馬の足の力を最大限に利用した

突進、そして相手の間合いに入らずとも次々と相手は地べたに沈み、弓矢隊のところまで

たどり着いた兵士も劉備たちが食い止める。

まさに鉄壁だ。

「よし、雲長下がれ!弓矢隊、こちらの軍が撤退完了次第、矢を放て!!!!」

関羽はその声を聞くと馬を反転させ、しかもその反転させた勢いで円月刀を振り

自分が背中を見せた隙に切れる距離にいた敵を一掃し、自分の軍の元に

馬を走らせた。

「いまだ!!!射れ!!!!」

劉備の号令と共に何百本という弓矢が相手の兵士たちに降り注いだ。

その姿はまさに矢の雨というに相応しい光景だった。

どう足掻こうが逃げようの無い絶対領域。

この瞬間に劉備たちの軍は勝利を手にした。

よほどの猛将がいない限り、黄巾の兵士たちの志気を盛り上げるのは

不可能だろう。

こうして、しばらくはこの光景が続いたのであった・・・。


























あれから、どれぐらいの時間がたっただろうか?

それを知る者はおそらく誰もいないだろう。

命をかけた戦場にその様なことを気にしている余裕などはないのだから。

そして、相手の戦力が少なくなり始めた、その時だった。

「打つのをやめろ!!!」

劉備が声を張り上げた。

「黄巾の兵士たちよ!!これ以上戦いを続けたとしても、勝敗は明らかだ!!!

おとなしく投降しろ!!!そうすれば命までは獲らん!これ以上の血の流し合いは

不要だ!!」

劉備は声高々に黄巾の生き残りの兵士約200人ほどに語りかけた。

そうすると相手側から一人の男が前に歩み出てきた。

「私の名は波才!!!西方の守りを張角様より命ぜられたものだ!!!

他のものはどうか知らぬが私は貴様らのような愚物に屈する気などさらさらない!!

だが、勝てるとも思っておらん・・・。しかし、朽ちていった同士のためにも

一矢は報いてやる!!!関雲長!!!私と一騎打ちで勝負せよ!!!」

そういって頭に黄色の頭巾を被り、少し痩せ気味の波才という男が

関羽に向かい剣を立てた。

「いいだろう。我が青龍円月刀の唸りしかとご覧頂こうぞ。」

「雲長。」

関羽が前に歩み出て行こうとしたその時、不意に劉備が関羽を呼び止めた。

「言っておくが、お前が負けそうになっても手助けなどする事はないからな。」

「あたりまえです。私は兄者の弟である前に1人の武人。その様な姑息な真似を

するぐらいなら、この喉を切り裂いた方がまだましだ。」

「そうか・・・・ならいい。勝って来い。それだけだ。」

そう言って劉備は軽く微笑んだ。

関羽はそれを見ずとも解っているのか、軽く右手を上げるだけで一度も振り返ることなく

波才の方に向かっていった。

しばし風の音だけが流れた後に

「さあ、参ろうか。」と関羽が円月刀を構えた。

「ああ。」

波才もそれに応え剣を構える。

「いざ!」

「尋常に!」

「「勝負!!!!」」

ドゴオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!

その試合開始の声と同時に中央の山から、火柱が盛大に上がった。

その真っ赤に燃え上がるそれは、まるで龍を想像させるような猛々しさと

神秘的な要素を兼ね備え、見ているものを吸い込み圧倒するような輝きを

放っている。

「あれは!!!?????」

劉備や他の兵たちはそのあまりにも不可思議な光景のほうに気をやっていた。

だが、その一瞬で勝負は決まっていた。

関羽のたった一振りによる勝利。

あの、誰もがあの轟音と明るさに目を奪われたそのとき。

関羽と波才の二人だけはその音に一切神経をやらず、戦いに集中していた。

そして、関羽の先制の一撃。

一歩大きく踏み込み、体全体のバネを使った、正に人間凶器とも言えるほどの

破壊力の一撃。

だが、決して避けられない速さではなかった。

波才の間違いはその一撃を交わすではなく、受け止めようとした事だ。

関羽の一撃は波才の剣を叩き折り、その胴体までを真っ二つに切り裂いた。

彼は断末魔の悲鳴すらも、その火柱に飲み込まれていった。

それが、あたかも火柱が波才の魂を喰らった様な感慨さえも与えたような

感じだった。

彼の緑色の服には至る所に返り血がこびりつき真っ赤に染まっていた。

でも、彼の一番のトレードマークである長い髭には、返り血がたった一滴も

付着していなかったのだ。

これは偶然なのだろうか。

いや、そんなはずがない。

これは、関羽が意図的にやったことなのであろう。

そうとしか考えられない。

そうでないと、こんな奇跡みたいなことが起きるわけないのだ。

そんな神業をやってのけた男は、何万という死体が倒れている血の風呂の中で

また自慢の髭を撫で始めていた・・・。

こうして、西方の戦いは劉備軍の勝利で幕が閉じた。
















その戦いを遥か上の崖から見下ろす男がいた。

その男の外見を紹介するのはここではしないでおこう。

これは後々の楽しみという事だ。

その男は関羽の戦いを見ても眉1つ動かさずに見続け、そしてこう呟いた。

「コイツ・・・イチバン・・・チガウ。」

そういって、さっき火柱の上がったほうを見て、ニヤリと微笑み、その場所が見れる

崖のほうへ走って移動していった。

「ツヨイヤツ・・・ミツケタ・・・タブン・・・コイツ・・・イチバン。」

そういって呟いた後、最後にもう一言付け足した。

「ソイツ・・・コロシタラ・・・オレ、イチバン。」

「タ・・・ノ・・・シ・・・ミ」


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