それから3ヶ月、なんだかんだいって「シンジ」とのメールのやり取りは続いた。



Mail Friend 第二話 作:ちょ〜さん
メール交換を始めた頃、「シンジ」はあたしにとって「よき喧嘩友達」だった。 どんなに難しい問題を与えてもすぐ解いてしまう。 皮肉や嫌味を言っても怒りもせず、のらりくらりと言葉を選んでかわしてくる。 「シンジ」は人を傷つけるような言葉は絶対使わなかった。 それどころか、今まであたしが表に出さなかった「あたし」を表にさらけ出させていた。 周りの人曰く、あたしは 「容姿端麗」 「成績優秀」 確かに、同い年の女の子に比べればスタイルもいいし、かわいいとも思う。 でも、これを維持するのだって結構大変なのだ。 成績だって、何もしていないわけではない。しっかり勉強していればこそ、トップを守れるというものだ。 こんなあたしをねたむ奴は多かった。 そういう奴に対抗するため、あたしは強くなった。 付け入る隙を与えないため、強気な態度をとった。 力でくる奴には力で対抗した。 学校で、 「高飛車」 「暴力女」 こんなこと裏で言われているのをあたしは知っている。 いつもみんなの前では虚勢を張っていた。 正直疲れることもあった。 でも、ここで気を緩めたら自分を守るものが何も無くなりそうで怖かった。 小さい頃からずうっとそう思ってた。 だから、あたしは本当の自分を隠し、強くありつづけた。 でも「シンジ」は違った。 「シンジ」が持つあたしの人間像。 それをあたしが知ったのは・・・そう、夏休みに入ったばかりの頃。 何度も説教まがいのメールを送ってくる「シンジ」にあたしが切れて、 怒りのメールを送ったときのことだった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: アスカ From a_souryu@daiichi.jh.jp To s_ikari@nerv.com あんた、何様のつもり!あたしが強がってるですって? はん!会った事も無いくせに何がわかるっていうのよ! あたしは強いの。誰にも負けないの。 独りでだって生きていけるんだから! −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− このときのあたしは相当、焦ってたんだと思う。 強気の自分を否定される、それはあたしにとって恐怖以外のなにものでもなかったから。 ここまで暴言を書いたのだから、「シンジ」からの返事はもう来ないだろう。 そう思ってたのに。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: シンジ From s_ikari@nerv.com To a_souryu@daiichi.jh.jp まったく、どこまでも認めないんだね。 でも、自分ではわかっているんでしょ?自分が「嘘」をついてることに。 僕が何も考えずにメールを読んでいると思ってるの? アスカさんのメールを読んでいるとね、「あたしは強がってます」っていうのが言葉の端々に見えるんだ。 おかしな話かもしれないけど、僕にはそう思えるよ。 それとも僕の勘違いなのかな?そうだったとしたら誤るよ。ごめん。 でもね、僕にはアスカさんが「寂しがりやのあまえんぼう」に思える。 それと、きつい言葉の裏の「優しさ」もね、僕には見えるんだ。 ・・・ははは。やっぱり変だよね。メールだけでそんな風に思うのも。 気を悪くしたなら返事はくれなくてもいいから。 怒ってまでやり取りする必要無いでしょ? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「寂しがりや」 「あまえんぼう」 「優しい」 今までこんな言葉を異性から言われたことが無い。 いや、同性の友人でも言ってくれるのはヒカリとレイくらいだろう。 なぜ、顔も合わせていないのにあたしのことがわかるのだろう? 「言葉の端々に見える」? なんでそれだけでわかるっていうの? このメールを読んだとき、あたしの心の壁に亀裂が生まれた。 ほんとのあたしを見てくれているというの? 隠さなくてもいいの? 「シンジ」は・・・わかってくれるの? あたしの「シンジ」に対する態度が変わったのは、それからしばらく経ってからだった。 家に誰もいなくてすごく寂しかった時「シンジ」にメールを送った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: アスカ From a_souryu@daiichi.jh.jp To s_ikari@nerv.com なんか、誰も家にいないのってすごく寂しい気がするわよね。 独りでいるとさ、このままずっと独りきりなんじゃないかって思えるときない? ・・・ま、バカシンジに言ってもしょうがないかもね。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 今思えば、何が言いたかったのかもわからないようなメール。 それでも「シンジ」に相手をしてもらいたかった。 「シンジ」はすぐに返事をくれた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: シンジ From s_ikari@nerv.com To a_souryu@daiichi.jh.jp 確かにあるかもね。 でもさ、アスカさんは独りじゃないよ。 家族やたくさんの友達がいるじゃないか。呼べばすぐに来てくれるでしょう? 寂しいときは、寂しいって言える人間になったほうがいいと思うよ。 だって、人は言葉にしなきゃ思いが伝わらないから。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− なんか妙に説得力のあるメールだった。 でも、あたしは少し意地悪がしたくなって返事を書いた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: アスカ From a_souryu@daiichi.jh.jp To s_ikari@nerv.com じゃあ、あんたはあたしが「寂しいの・・・」って言ってら、すぐに来てくれるの? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ・・・うげ、いつものあたしの言葉とは思えないわ・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: シンジ From s_ikari@nerv.com To a_souryu@daiichi.jh.jp ごめん、今は行けないんだ。でも、いつか応えて上げられる日がきたら嬉しいな。 いや、僕でよければずっとアスカさんのそばにいてあげるよ。 はは。なんか気障っぽいや。気にしないでね。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「シンジ」の返事を見て、あたしは顔が熱くなった。 こ、これって愛の告白みたいじゃない! ・・・いつしか寂しさは消えていた。 その日は家族が家に帰ってくるまで、ずっと彼とメールのやり取りをしていた。 気づいてみれば、あたしは彼に本音でぶつかっていた。 どんなに「あまえ」ても、どんなに「わがまま」を言っても、彼は応えてくれた。 隠さない自分。それはあたしにとって、すごく嬉しいことだった。 あたしは暇さえあれば彼にメールを送っていた。 きっと夏休みの半分はメールを書いていたに違いない。 彼とのメールのやり取りは楽しくなる一方だった。 だって、あたしだけを見ていてくれてる気がしたから・・・ この夏休みで、あたしの中の「シンジ」は変わっていった。 「よき喧嘩友達」から、「自分を理解してくれてる親友」へ。 そして夏休みが終わる頃、あたしには彼に会ってみたいという気持ちが芽生えてきた。 夏休みも終わり、2学期が始まった。 「なんかいいことでもあったの?」 あたしの顔を見るなり、ヒカリが声をかけてきた。 「ううん、べっつに〜。何でそう思うの?」 「うん・・・なんか、アスカの表情が穏やかになった、っていうのかな? 晴れ晴れしてるよ。」 きっと、「シンジ」のおかげね。最近は夜もぐっすり眠れるもの。 前は浅い眠りだったのが、彼におやすみのメールを送って返事を読むと、 自分でも驚くくらい深い眠りにつくことができるようになったのだ。 やっぱり、睡眠はお肌にいいのね。 「おっはよ〜う!」 そんなことを考えていると、レイが後ろから声をかけてきた。 「あら、レイ、早いのね。いつもは遅刻ぎりぎりなのに。」 「ぷぅ〜、新学期の初日くらい、遅刻なんかしませんよ〜!」 「でも、明日からは遅刻してくるんでしょ?」 レイったら、新学期早々ヒカリにいじめられてるのね。 「へへ〜ん。残念でした。この夏休みで生まれ変わったレイちゃんは、もう遅刻なんかしませんよ〜だ。」 あんたのその自信はどっからくるの? 「そう、じゃあ賭けでもしましょうか。明日、レイが遅刻するかしないか?」 賭けといってもお金を賭けるわけではない。ネタは餡蜜だ。 「あたしは遅刻するに3つ。」 「じゃあ、わたしも3つかな?」 あたしもヒカリもレイが遅刻しないなんて思ってもいない。 「ふふ〜ん、後で泣いても許してあげないんだから。」 ・・・あくまでも強気なのね。でも、レイのことだから寝坊するのは当たり前だと思うけど。 「アスカもヒカリも忘れないでよ!」 「わかってるわよ。そのかわり、あんたが負けたらあたしたちに3つずつ、わかってるわね?」 「ま、そんなことにはならないから大丈夫だと思うけどね。」 ・・・何か裏があるのかしら?そう聞こうと思ったら、 「そういえば、2人とも夏休みはどこか出かけたの?」 ヒカリが夏休みの話題を出してきた。 「レイちゃんは田舎へ行ってきました!」 あたしは無言で手のひらを上にしてレイに突き出す。 「・・・アスカ、なに?その手は。」 「田舎に帰ったんだったら、みやげの一つでも買ってきたんじゃないの?」 「・・・普通、そういうのは相手が渡すまで待ってるもんだよ。」 「買ったの?買ってないの?」 「買ってきたよ。学校で渡すから。」 「よし。」 レイの田舎みやげはおいしいものが多い。 夏休み明けのレイのおみやげはあたしの中で年中イベントのひとつなのだ。 「アスカはどこにも行ってないの?」 「う〜ん、親が忙しかったからなぁ。近所のデパートに出かけたくらい。」 「シンジ」とのメールが楽しくて出かけなかった、とは言えないわね・・・ 「そういうヒカリは?」 「わ、わたし?い、いろいろとね。うん、楽しかったわ。」 なんか怪しいわ。眼が泳いでるし、手をモジモジさせてるし。 「なにかあったの?」 「べ、別に何も無いわよ。た、ただ鈴原とプールに行ったくらいで・・・」 「「プールぅ!?鈴原(君)とぉ!?」」 「そ、そんな大声で言わないで!・・・て、どうしてわたしが、す、鈴原とプールに行ったの知ってるの?」 ・・・ヒカリ、夏休みボケね・・・いえ、あなたの場合は元からか。 「しっかし、ヒカリも大胆ね〜。いきなりプールとは。」 レイがニヤニヤしだした。これは一日、止まらないわね。 「え、うん。「シンジ」君がね、誘ってみたらって・・・」 ・・・そっか、ヒカリも「シンジ」とメール交換してたのよね。 「どうしたの?急に暗くなって。」 レイがあたしの顔を覗き込んできた。 「う、ううん。なんでもない。それより行こ!せっかくレイが早起きしたのに遅刻しちゃしょうがないからね。」 そう言って、あたしは学校に走り出した。少し、寂しさを覚えながら・・・ 「今日は、転校生を紹介します。それでは、入ってきなさい。」 始業式後のHRが始まると、転校生の紹介があった。 転校生は女の子。元気そうな子だ。 「霧島マナです!北海道から来ました!」 その子は大きな声で挨拶すると、ぺこりとお辞儀をした。 <続> ======================================== あとがき ども、ちょ〜さんです。 今回はアスカが「シンジ」に惹かれるまで、を書いたつもりです。 う〜ん、ちょっと駆け足でいってしまった・・・そんな感じですね。 ・・・マナちゃん登場。あぁ!石、投げないでぇ〜(T T) これから大活躍・・・するのかな? と、ともかくこれで出てきてない主要キャラ(子供たちだけ)はあと一人。 ・・・めがね君?・・・あ、名前も出てきてないや(^^; ではでは、続きでお会いしましょう! ========================================


マナ:いよいよヒロインのわたしが登場ね。

アスカ:まだ最後にちょっと出て来ただけでしょ。どこがヒロインよっ?

マナ:この、かわいい顔。(*^^*)

アスカ:”酷いん”の間違いじゃない?

マナ:むっ!(ーー#

アスカ:まぁいいわ。シンジとも仲良くなってきたみたいだし。

マナ:洞木さんともメール交換してるみたいじゃない。その中の1人よ。

アスカ:でも、アタシは違うのよっ!

マナ:どこが?

アスカ:だって、愛の告白みたいなメール送ってくるし・・・。(*^^*)

マナ:所詮、”みたい”でしょ。

アスカ:いちいちウッサイわねっ! 次でラブラブになってるんだからっ!

マナ:そう上手くいくものかしらねぇ。
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