気がつくとあたしは走っていた。


心に芽生えた、寂しさと不安に追いつかれないように・・・



Mail Friend 第四話 作:ちょ〜さん
季節は移ろい、夏から秋へ、そして冬が一歩手前まで迫った頃。 あの二学期の始業式以来、あたしの彼に対する「甘え」は激化の一途をたどった。 ・・・他人に渡してなるものか。 ・・・彼はあたしだけのもの。 ・・・彼だけがほんとのあたしを見てくれるんだから。 ・・・だから渡さない。誰にも・・・ あたしは暇さえあればメールを送った。 彼はすぐにも返事をくれる。遅くても一時間以内には返事が来た。 これだけ送ってれば他の人の入る隙間など無いだろう。 半ば気が狂ったのではないかと思うくらいのメールの量。 1000通は超えたのではないか・・・もう数えるのも面倒くさい。 その内容は・・・夏休みの時よりもひどくなっていた。 寂しいの・・・ 構ってよ・・・ この問題解ける?・・・ 今悩んでることがあるの・・・ そういえば学校でね・・・ この前ママが・・・ ねぇ、話聞いてくれる?・・・ すぐに返事ちょうだい・・・ 意味のないメールが続く。こんなメール読んだって相手が楽しい訳が無い。 それなのに彼は嫌味ひとつ書かずに返事をくれる。 どう見ても楽しい内容とは思えないあたしのメールに、丁寧に返事をくれる彼。 だけど、あたしの胸の痛みは治まらない・・・ しかし、しばらくしてから奇妙なことに気が付いた。 ヒカリも彼とメールをしている。 だが、返事は2〜3日経ってから返ってくるというのだ。 ・・・すぐに返事をくれるのはあたしだけ? そのことはあたしの心に少しだけ安堵感を与えてくれた。 あたしだけが「特別」なのかもしれない・・・ いや、他にも「特別」な人はいるかもしれない・・・ ほんとに少しだけの安堵感。 だからあたしはメールを書き続ける。 あたしだけを見てもらうために・・・ 「しっかしさぁ、レイが朝に強くなったなんてこの世の七不思議よね。」 いつのまにか窓から見える校庭の木は枝だけになっていた。 「レイも心を入れ替えた・・・ってとこかしら?」 あたしの問いかけにヒカリが答える。 二学期に入ってからレイは一回も遅刻をしていないの。 先生すら驚いていた。それだけ遅刻の常習犯だった、ってことだけど。 おかげで何杯の餡蜜を奢ったことか。あたしの財布には一足早く、冬が来ている。 「でもさ、そんなにすぐ人間の生活習慣が変わると思う? 絶対なんか裏があるんだわ・・・」 「そんなこと言っちゃレイがかわいそうよ。友達として喜んであげなくちゃ。」 ほんとにいい人だわ、ヒカリ。 あたしとしては、どうにかして餡蜜の恨みを晴らしたいのだけど・・・ 「マナは何か知らないの?」 マナは毎朝、レイと一緒に学校に来ているから何か知ってるんじゃないかしら? 「そんなにレイちゃんが信じられないの?」 「あったりまえでしょ!だって、あのレイなのよ? 悪巧みについてはあたしよりも頭がよくなるのよ。 ぜ〜ったい、何か裏があるのよ!」 「はぁ、信用ないのね、レイちゃん・・・ まぁ、友達を騙すのもよくないことだし・・・ あれだけ餡蜜食べれば、もういいでしょ。」 マナはやれやれといった感じでため息をついた。 ・・・ということは、やっぱり何かあるのね。 「どういうこと?」 今までレイの味方だったヒカリも何かあると思ったのか、身を乗り出して聞いてくる。 そういえばヒカリの財布にも木枯らしが吹いてたわね。 ちなみにレイは、先生に呼び出されていてここにはいない。 マナはびしっと一本指を立てるとあたしたちの顔の前に持ってきた。 「餡蜜、一週間分で手を打つわ。」 く〜、マナったら完全にレイに毒されてるわ。 「見返りを求めるわけ?」 「レイちゃんに一泡食わせたくないの?」 むむぅ、それもそうだ。 「・・・二人合わせてでいい?」 「まぁ、今のあなたたちの財布の中身じゃしょうがないか。」 あぅ。 「簡単なことよ。毎朝レイちゃんを早めに起こしてる人がいる、それだけ。」 はぁ?それだけ? 「・・・二学期に入ってからずっと?」 「そう、ずっとよ。レイちゃんの朝の”起動”時間を考えると、 多分、五時くらいには起こし始めてるんじゃないかしら。 それから一、二時間くらいは相手をしてるはずだわ。」 ・・・そんな酔狂な奴がこの世の中にいるなんて・・・ 「あ〜、疲れた〜。」 話題の本人、ご帰還。 先生の用事は終わったらしい。 「「レイ!」」 「はひ?!」 あたしとヒカリがいきなり目の前に来たもんだから、レイったら声が裏返ってるわ。 「な、なに、いきなり。どうしたの?」 「どうしたもこうしたもないわ!」 「そうよ!毎朝、起こしてもらってるっていうのはどういうこと?!」 「な、なななな何を根拠にそんなことをおっしゃるわけで?」 「すべて聞いたのよ。マナから。」 「なにが「生まれ変わったレイちゃん」よ!他人を利用するなんて卑怯よ!」 「あ、あう、あう・・・」 もはや反論の余地無し。レイは冷や汗をたらたら流している。 「マナちゃん・・・あのこと言っちゃったの?」 「あら?私は「毎朝レイちゃんのことを起こしている人がいる」としか言ってないわ。」 「マナちゃ〜ん・・・」 レイは観念したようだ。両肩をがっくりと落としている。 「はぅ〜・・・別に騙すつもりでは無かったんだけど・・・」 「ほほぅ、じゃあ今までの賭けはチャラね。」 あたしとヒカリは、レイお得意のニヤリ顔で迫った。 「・・・と、申しますと?」 「今までレイが食べた分の餡蜜を、あたしとヒカリに奢ること。 分割払いでいいわ。」 「しょ、しょんなぁ〜。」 レイは滝のように涙を流している。 あたしとヒカリは「やったね!」といった感じで顔を見合わせた。 「・・・レイちゃん、自業自得ね。」 「マナちゃんがバラしちゃうのがいけないんだよぅ。」 「友達を騙すのはいけないことだもん。」 「だ〜か〜ら〜、騙すつもりは無かったんだって。 それに賭けだってアスカが言ってきたから、その、勢いで・・・」 ん?あたしが悪いって言うの? 「・・・なんでもないです。はい。」 三人のジト目攻撃で黙り込むレイ。 あんたの財布には吹雪を吹き荒らさせてあげるわ。 「そういえばさ、毎朝起こしてくれる人って誰なの?」 先ほどの勢いはどこへやら、目をランランとさせながらヒカリが聞く。 ヒカリはその”目覚ましの人”がレイの恋人か何かだと思っているらしい。 そうよね。綾波のおばさまがそんなことするわけ無いし、おじさまは論外だし。 「ね、ね、誰なの?どこで知り合ったの?わたしたちの知ってる人?」 ・・・こうなったヒカリって、なんかおばさんみたいなのよね。 いつも鈴原のことで冷かされてるから、たまにはいいけど。 「ひ〜み〜つ〜。」 レイ、尋問拒否。 「どうして?わたしたちに教えられないような人なの?」 「レイちゃんには、人に教えられない秘密が108個あるのです。」 それは「煩悩」の数でしょうが。 「何言ってるのよ。素直に教えちゃえばいいじゃない。」 むむ、マナは誰だか知っているというの? 「駄目だよぅ。秘密にするってお兄ちゃんと約束したんだから・・・あっ!」 「「お兄ちゃん〜?!」」 あたしが知ってる限りでは、レイに兄弟などいない。 ではこの「お兄ちゃん」とは、いったい? 「・・・レイちゃん、ばか?」 「うぅ、マナちゃんの意地悪・・・」 レイにもヒカリの自爆癖が感染してたのね。 「ええっとね、親戚のね、大学生のお兄ちゃんなの。 朝早いから、そのときに起こしてもらってるんだ。」 「・・・ま、嘘じゃないわね。」 レイの言葉にマナがうなずく。 マナが肯定するってことは、嘘ではないのね。 しかしこの二人って秘密事が多いのよね。 幼馴染みだからしょうがないのかもしれないけど。 「それにね、ヒカリが考えているような間柄じゃないからね。」 「え、べ、別にわたしは、変なこと、とか考えてないわよ・・・」 本家、自爆炸裂。 「や〜らし〜いんだ〜、ヒカリぃ。」 攻守逆転、レイ攻め、ヒカリ守り。 「な!そ、そ、そんなことないわよ!」 「あ〜、嘘はいけないな、嘘は。」 「な、な、なななんでそうなるのよ!」 そういうふうに、どもっていることが自分を追いこんでるのに気づかないのかしら? 「アスカも大変ね。」 マナがぽんっとあたしの肩に手を置いてきた。 「二人のこと?昔からだから慣れちゃったわ。」 「ま、他にもあるんだけどね・・・」 え?他にって? 「さぁ、帰りましょうか?」 その翌日。 「アスカ、この雑誌、読んだ?」 朝、いつもの待ち合わせの場所に行くと、興奮した感じのヒカリ。 手にしているのは、いわゆるゴシップ週刊誌。 そんなの読んでるから耳年増なのよね。 「読んでないわよ。週刊誌買う人なんて、うちにはいないから。」 「ここよ、ここ。読んでみてよ。」 ヒカリが開いたページには「あの、大企業の天才少年、再び日本へ!」なる題字。 ここでいう大企業というのは「ネルフ」という会社だった。 世界の政治・経済を裏から操っているという噂がある。 優良企業らしく、慈善事業などにも率先して協力している。 戦争被災者の救済、開発発展途上国への援助、孤児院の設立。 国同士の戦争終結の仲裁や兵器密売の調査までやっている。 当然、快く思わない悪者政治家や企業などもいる。 そういう奴らには容赦無く潰しをかけるらしい。 先代の社長はその恨みを買って、事故死したという噂も流れたくらいだ。 あたしのパパはその社長と付き合いがあったので 一緒にお葬式に行ったのだが、あまり覚えていない。 あたしは記事を読んで驚いた。 なんと先代が亡くなった後、会社を引き継いだのがあたしたちと同い年の少年だったのだ。 その少年は今まで日本から離れていたらしいのだが、夏に帰ってきていたらしい。 そしてその名前が・・・ 「・・・碇シンジ?」 「そう、そうなのよ。」 碇シンジ・・・彼と名前が一緒? そういえば、彼のアドレスは・・・ s_ikari@nerv.com ドメインが「ネルフ」・・・姓が「イカリ」・・・ まさか・・・同一人物? 「彼が・・・「シンジ」が・・・この「碇シンジ」なの?」 「やっぱりアスカもそう思う? わたしたち、とんでもない人とメル友になってたのね。」 ヒカリは喜びと興奮を隠しきれないようだ。 あたしは・・・なぜか彼の存在が遠くなった感じがした。 記事には「碇シンジ」なる人の経歴も載っていた。 両親が亡くなった後、しばらく孤児院で生活。 その後一年ほどで日本から離れて海の向こうへ。 外国の飛び級制度をフルに利用し、12歳にして大学入学。 それと同時に、先代社長の片腕だった冬月という人から 会社の運営を全て譲り受けたのだそうだ。 あたしは目の前が真っ暗になった気がした。 自分はただの中学生。 彼は・・・12歳にして世界トップ企業の社長。 世界が違いすぎる・・・ 「アスカ?」 「あ・・・なに?」 「大丈夫?なんか悪いことでも書いてあったの?」 ヒカリが言うには、そのときのあたしはこの世の終わりみたいな顔をしていたらしい。 「ううん・・・今日は朝から調子が悪かったの・・・ ちょっとぼぅっとしただけ。」 「そう?風邪かしら?最近、急に寒くなったから。 無理しないほうがいいんじゃない?」 「そうね・・・うん、帰ってゆっくり休むわ。」 「そのほうがいいわね。先生には私か伝えておくから。」 「うん、お願い・・・」 ヒカリに嘘をついたことに気がひけたが、 この時ばかりは親友の気遣いを受け入れることにした。 「じゃあ、お大事に。気をつけて帰ってね。」 「うん・・・」 ごめんね、ヒカリ・・・ あたしはほんとに風邪でもひいたような足取りで家に帰った。 家には誰もいなかった。両親が共稼ぎだから当然なんだけど。 あたしは自分の部屋に入ると着替えもせずに端末を取り出した。 端末を回線につなぎ、メーラーを立ち上げる。 さっきのこと、聞かなくちゃ・・・ だが、あたしはものすごく後悔することになった。 なぜ、あの時、あんなメールを出してしまったのか、と・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 名前: アスカ From a_souryu@daiichi.jh.jp To s_ikari@nerv.com ねぇ、シンジがあのネルフの社長なの? それがほんとなら14歳で社長なんてすごいじゃない。 しかも大学に通ってるんでしょ?あたしにはとても真似できないわ。 でもさ、そんなに若くて仕事なんてできるの? ・・・なんであたしみたいなのとメル友になったの? お願い、正直に答えて・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その後、彼から・・・「シンジ」から返事がこなくなった。 <続> ======================================== あとがき ども、ちょ〜さんです。 とうとう「シンジ」の秘密が明らかに・・・ いえいえ、おいらはこの程度じゃ終わらせません。 アスカさんには、もちっと苦しんでもらいましょうか・・・(にやり) 次こそシンジくん、登場としたいのですが・・ キャラが素直じゃないからなぁ。頼むから暴走しないでね。 ではでは、続きでお会いしましょう! ========================================


アスカ:いやぁぁぁぁっ! マナっ! どうしよぉっ!(TOT)

マナ:いきなり泣き叫ばないでよ。

アスカ:シンジが怒っちゃったよぉーーっ!(TOT)

マナ:怒ったんじゃないんじゃないかしら?

アスカ:ほんと? ほんとにそう思う?

マナ:メールを出せない理由なんていくらでもあるじゃない。

アスカ:そ、そうよね。

マナ:シンジはきっと、マナちゃん一筋に生きることにして、他の娘にはメール出さなくなっただけよ。

アスカ:ぶっ殺す!(ーー#
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