シンジはこの街からいなくなった。
再び、あたしと会うこともなく。





Mail Friend 第十三話 作:ちょ〜さん
季節は巡る。冬から春へ。 気がつけば、校庭の桜の木につぼみが出来ていた。 そしてあたしたちは、大きなイベント向かえる事になる。 それは、中学の卒業式。 「こらぁ、起きろ!起きろって言ってるでしょう!」 シンジがいなくなってから、そろそろ三ヶ月が経とうとしていた。 寂しくない、と言えば嘘かもしれない。 だって、結局あの後もメールを送れなかったから。シンジからのメールも来ないし。 だけど前に比べたら、その寂しさも和らいだような気がする。 今度はなんとなくだけどメールの来ない理由もわかっているし、シンジだってどこかでがんばっているんだし。 あたしも負けないようにがんばらないと!って感じなのよね。 だけど一日に一回はメールが送れるかどうかは試している。 やっぱり、シンジとメールのやり取りをしたいから。 「あんた、いつまでも寝ている気?今日が何の日か知ってるでしょう?!」 「うにゅ、もう少し・・・・・・」 シンジがいなくなって、一番落ち込んだのはレイだったのかもしれない。 離れていた唯一の肉親である、しかも大好きな兄がせっかく近くに来たのに、またいなくなってしまったのだ。 その時のレイは、まるで小学校の頃に初めて会ったレイそのものだった。 明るくはしゃぎ回るなんて以ての外、毎日寂しそうに教室の窓から外を見ては溜め息をついていた。 大人しいとかそういうレベルではなく、何か大切なものを失くしてしまったような感じ。 おかげで、あたしが落ち込んでいる暇がなかったとも言える。 あたしたちは、毎日レイを外に連れまわしては気を紛らわせていた。 冬休みが終わった頃には、レイにも笑顔が戻っていたので安心した。 どうやら冬休み中に、シンジに会ったらしい。 いいなぁ、会いに行けて。 あたしも「会いたい!」って言ったら会わせてくれるかな? 「ほほぉ、このあたしを本気にさせるつもりね。覚悟はいいんでしょうね?」 「ほぇ?」 あたしの周りで、もう一つ大きな変化があった。隣りに引っ越してきた人がいた事。 そしてそいつは今、あたしが起こしに来ているにも関わらず、ぬくぬくと布団の中で惰眠を貪っている。 あたしは布団の端っこに手をかけると、思いっきり引っ張ってやった。 「マナぁ、起きろぉぉぉぉぉぉ!!」 「うひゃぁぁ!」 ずでぇぇぇぇぇぇぇぇん! 「いたい・・・・・・」 「そりゃ痛いでしょうね、これは夢じゃないんだから。ほら、さっさとしないと遅刻するわよ!」 「え〜、もう少し・・・・・・」 マナはまだ未練たらしくあたしの持っている掛け布団を引っ張って取り返そうとしていた。 まったくこいつは・・・・・・ そんなマナにあたしは目覚し時計をつき付けてやった。 「ほら、もうこんな時間よ!卒業式に遅刻なんて洒落にならないわよ!」 「うぅ・・・・・・まだ7時半・・・・・・早いよぉ」 「この後、レイも起こしに行かなきゃいけないんだから、早くしなさよね!」 「うぅ、鬼ぃ・・・・・・」 レイはともかく、マナもこんなに朝が弱いなんて知らなかった。 シンジは毎日こんなこと繰り返していたのかしら? シンジが引っ越す時に、マナだけこの街に留まるように言ったらしい。 マナは反対したみたいだったけど、結局シンジは頑として聞き入れなかったそうだ。 だからマナは引っ越さないでこの街にいるのだけれど、その時に保護者として名乗りをあげたのがうちの親だった。 どうして?って思ったけど、シンジとマナは気にした様子もなくすんなりとお願いしていた。 そしてマナが隣りに引っ越してきた、というよりも元々隣りはマナの家だったからびっくりした。 しかも反対の隣りはシンジの家だと言うからますます驚いた。 二人が日本に戻ってきてこの街に住んでいたのは、そのうち自分たちの家に帰るつもりだったからと聞いた。 あの立派なマンションに住んでいたのはシンジのセキュリティの問題があったからであって、 マナ一人なら普通の所でもいいと言うことで自分の家に戻ってきたという訳。 ということは、シンジもいつかは隣りに引っ越してくるのかな? それはそれで楽しみなんだけどね。 ママが言うには、小さい頃のあたしはシンジ・レイ・マナとよく遊んでいたらしい。 でも、あたしにそんな記憶はない、というか忘れている。 あの夢を見るまでシンジと会った事があるなんて思い出さなかったし。 う〜ん、人の記憶なんて曖昧なのよね。 そのうち思い出すかな?また夢を見れたらいいなぁ。 「うぅ、寒いよぉ・・・・・・」 「そこ、ぶつぶつ言わない!早くしないと朝食も抜きよ!」 「むぅ、それも嫌・・・・・・」 どうしてマナといいレイといい、朝は子供じみた言動になるんだろ? おっと、レイは朝じゃなくても子供っぽいか。 毎朝起こしに来るこっちの身にもなって欲しいわ。 「あぅ、靴下・・・・・・」 「椅子にかかってる!」 「リボン・・・・・・・・・」 「机の上!」 「ブレザー・・・・・・・・・・・・」 「ここ!」 だぁぁぁぁ!早くせんかぁ! 顔を洗ってようやく頭も起きたマナを連れて、いったん自分の家に戻る。 朝食を食べるためなのだが・・・・・・今日は時間がないみたい。 「ほら、マナのパン。もう行くわよ!」 「えぇ、もうちょっとゆっくりしてから・・・・・・」 「誰のせいで遅くなったと思っているのよ!」 「ご、ごめん・・・・・・」 「じゃ、ママ、先に行ってくるね!」 「おばさま、行ってきます」 「はいはい、また後でね♪」 手をひらひらとさせているママを尻目に、あたしとマナは猛ダッシュ。 これからレイを起こすと考えると・・・・・・頭が痛い。 「今日はどのくらいで起きると思う?」 さっきまで自分がダラダラ寝ていた事を棚に上げ、マナはレイのことを話題にする。 「う〜ん・・・・・・8時までに餡蜜一個」 「じゃあ、私は8時15分に餡蜜二個」 あくる日、あたしはマナに餡蜜を二個奢ることになる。 学校中の生徒が体育館に集まり、卒業式は始まった。 あ、もう泣いている人がいる。早いんじゃないの? 「うぅぅぅぅ、もう中学校も終わりなんだね・・・・・・」 と、マナを挟んで一つ隣りに座っているレイが、ハンカチ片手に泣いていた。 本当だったら、名字の50音順に席についているはずなのに、あたしたちは一番後ろ。 レイが早く起きなかったので、学校にぎりぎりで到着したせいだ。 「別に中学校終わったって、高校でまた勉強は出来るわよ」 「勉強はいいよぉ。それよりも放課後の楽しみが減るから」 「楽しみって?」 「だって、高校の帰り道に甘味処は無いんだよ?」 はぁ、またそれか。 あたしはヒクヒクするこめかみを抑えてレイに言ってやった。 「あのねぇ、また新しいところ探せばいいじゃない?もしかしたらもっとおいしいところがあるかもよ?」 「・・・・・・もう探した」 「高校の近くを?」 「うん」 ・・・・・・もう勝手にして。 高校受験は大変なものだった。 まぁ、あたしはへっちゃらだったんだけど、他の奴らがねぇ。よくみんな同じ高校に受かったものだと思う。 ヒカリはともかく、後の四人があの進学校に受かるとは、余程の奇跡が起こったに違いない。 勉強会を企画してくれたシンジのおかげかもあるかもしれない。それと、あたしたちの教え方が良かったのかな? シンジはもう一つ奇跡を残していった。 ヒカリと鈴原、今では誰もが羨むカップル・・・・・・というよりもバカップルになっちゃったのよね。 あたしが風邪で休んでいる間に色々とあったらしいんだけど、付き合い始めてから二人がここまで豹変するとは思いも寄らなかった。 鈴原は「いいんちょを困らす奴は許さへんでぇ!」とか言いまくってるし、 ヒカリは前にも増してあっちの世界に行きやすくなって、話は鈴原の事ばかり。 あたしたちと一緒にいても、二人の世界でいちゃいちゃしているから参っちゃうわ。 今だってなぜか隣同士で席についているし。席順は名前順じゃなかったの? 学級委員長の役目はどうしちゃったのよ! 「それでは、卒業証書の授与を始めます・・・・・・」 色々と考え事をしていたら、いつの間にか卒業式はかなり進んでいた。 「それでは、A組から・・・・・・相田ケンスケ」 「はい!」 担任の先生が順番に名前を呼んでいく。 うぅ、こういうのって緊張するのよね。 なんで一人ずつ呼ぶのかなぁ。いつものプリントみたいにみんなまとめて渡しちゃえばいいのに。 そこが卒業式の醍醐味なんだろうけどさ。 「・・・・・・綾波レイ」 「は〜い!」 レイは元気の返事をすると、がたっと勢いよく椅子から立ち上がって証書をもらいに行った。 うっ、ステージの上でピースなんてしないでよ、みっともない。 「・・・・・・碇シンジ」 先生がその名前を呼んだ瞬間、体育館の中がざわつき始めた。 そりゃあのネルフの社長の名前が呼ばれれば、気にならない人はいないだろう。 もちろん、あたしだって驚いた。 まさかシンジの名前が呼ばれるなんて夢にも思っていなかったし。 しかも”六分儀”じゃなくて”碇”の名字だったから。 まだこの中学校に名前が残っていたのね。でも、一緒に卒業式に出れなかったのは残念だな。 「はい!」 そうそう、はい、って・・・・・・はぁ? 声のした方を向くと、そこにはシンジがいた。本当だったらレイが座るはずだった相田の隣りの席に。 シンジは何食わぬ顔でステージに上がると、校長先生から証書をもらってまた席に戻ってくる。 その間、体育館の中は不思議な静けさに包まれていた。 シンジの登場に生徒も父兄も唖然としていた、といった感じだ。 あたしはそんなシンジを懐かしむように見ていた。 当の本人は、隣りの相田とこそこそ話をしている。たまに笑顔を織り交ぜながら。 来るなら来るって、連絡の一つでも寄越してくれればよかったのに。 あ、メールは使えないのか・・・・・・電話、は番号を知らないしなぁ。 レイはシンジが来る事を知っていたらしく、やはり隣りであんぐりと口をあけているマナをつんつん突付いて遊んでいる。 まったく、この兄妹は唐突な事が好きよねぇ。 シンジ、元気になったみたいでよかったなぁ。 ん?ここにシンジがいるということは、式が終わったら教室でシンジと話せるのかぁ。 う〜ん、何を話そうかしら?久しぶりだから、話すことがいっぱいだわ。 とりあえずは、メールできないことを問い詰めないとね。 もう三ヶ月も経ったんだから、メールできてもいい頃じゃない? それとも、もうメール交換してくれないのかな? ・・・・・・そんなこと言われたら寂しいなぁ。 その時には一発くらいビンタかまして・・・って、それじゃ逆効果か。 もう、なんでメールができない訳? あ、あと、こ、こここの前聞けなかったこと聞いちゃおうかしら? でも顔を合わせたら、また素直じゃない自分が出てきそうだし。 でもでも、今聞いておかないと今度いつ聞けるかわからないからし・・・・・・ そうよ、ここはぐっと堪えて聞くべきよ! しかし・・・・・・急にあのこと聞くのも、は、恥ずかしいかなぁ。 でも気になる・・・・・・気になる気になる気になるぅ!! むぅ、なんであたしは素直じゃないのよぉ! ・・・・・・って、自分に聞いても仕方がないか。 メールとかだと素直になれるのになぁ。そのメールも使い物にならないし。 そういえばシンジってこんなところに来ちゃって、また問題とか起きないのかしら? きょろきょろと周りを見てみたら、数人の黒服が所々にいた。 やっぱり警護の人はいるのね。さすが社長、と言ったところかな? でもこんなに黒服の人がいたら、それこそ「要人がいます!」って周りに教えているみたいなもんじゃない? まぁ、何かあったらちゃんと護ってくれるんだろうけど。 「・・・・・・スカ、アスカってば!」 ん?マナがあたしを肘で突付いてぼそぼそと呼んでいる。 何よ、せっかく人がシンジを見て楽しんでいるのに。 「何?」 「何?じゃなくて、呼ばれてるよ?」 「ほぇ?」 「ほぇ?じゃなくて、アスカの番だって」 「番?」 「アスカ、卒業証書いらないの?」 「・・・・・・・・・・・・あ!」 気がつくと、先生があたしのことをじぃっと見ていた。 ・・・・・・・やばい、全然気がつかなかった。 「は、はい!」 慌てたもんだから、ちょっと声が上ずってしまった。 立ち上がった拍子にイスはガタッと大きな音立てるし。 おかげであちこちからクスクスと笑い声が上がっていた。 もちろん、シンジも口に手を当てて笑いを堪えていた。 むぅ、誰のせいであたしがこんな恥かいていると思っているのよ! これは後で制裁が必要のようね。覚えてらっしゃい! あたしは恥ずかしさをこらえて、ちょっと緊張しながらもてくてくとステージの上へと上がっていく。 校長先生にぺこりと一つお辞儀をした。 「卒業証書、惣流アスカ。以下、同文です」 校長先生はそう言うと、あたしに証書を向けた。 「おめでとう」 「ありがとうございます・・・・・・」 あたしは証書を受け取ると、ステージから降りた。 なんというか・・・・・・”卒業した”って感じがするなぁ。 降り立った先に、シンジがいた。満面の笑顔であたしのことを見ている。 なんか・・・・・・シンジのその表情がとても懐かしく感じられた。 ふと、頬が濡れる感触があった。 手で拭ってみると、水がついていた。 水・・・・・・あたしの涙? なんであたし泣いているの? 卒業したことが嬉しいの?寂しいの? 違う・・・・・・シンジの顔が見れたことが嬉しかったんだ。 だって心が暖かいもの。 これ以上シンジの顔を見ていたらもっと涙がこぼれそうだったので、あたしは足早に自分の席へと戻っていった。 「あらあら、アスカでも卒業するのは寂しいってか?」 戻ってきたあたしに、マナが茶化すように声をかけてきた。 「そ、そうね・・・・・・」 まさか”シンジの顔を見たら泣けてきた”とも言えないので、マナには俯いたまま曖昧な答えを返しておいた。 上目遣いにちらっとシンジの方を伺ってみる。 うぅ、だめだ・・・・・・後姿でも涙が出てくる。 今日が卒業式でよかったかも。泣いてても変じゃないから。 だから・・・・・・あたしはちらちらとシンジを見て、静かに涙を流していた。 だって、本当に嬉しかったから・・・・・・・・・ 「卒業生、退場!」 四季も終わり、進行役を務めていた先生が高らかに声をあげる。 がたがたと卒業生たちが席を立ち、A組から体育館を出始めた。 あちこちですすり泣く声が聞こえる。 そんな中、あたしだけ違う意味で泣いているんだけど。 先頭に近かったシンジはもう体育館から姿を消していた。 うぅ、早くシンジと話がしたいのに、なんであたしたちはA組の最後なわけぇ? まったく、これもマナとレイのせい。 早く、早くシンジと話したいのにぃ! しかし、体育館を出てからが大変だった。 入り口には生徒会の手伝いをしている在校生がいて、卒業生に記念品と花束を配っていた。 話し込んでいる生徒もいて、あたしの行く手を遮っている。 しかも、あたしの周りに何人か在校生が来ていた。 「「「惣流先輩!卒業、おめでとうございます!」」」 男だったら張り手の一発でもかましてさっさと教室に行ったのだろうけど、 女の子数人が記念品とか持ってきたものだから無視することもできない。 「あ、ありがとう・・・」 こんな時、学校中に名前が知れ渡っていることが裏目に出た。 最後にこの美少女なあたしと記念を作ろうと、後から後から女の子たちが寄ってくる。 男じゃなかっただけ、まだましかもしれないけど。 「あの、ご一緒に写真、いいですか?」 「え、えぇ、いいわよ・・・」 こんな後輩があたしの前に行列を作ったものだから、いつまで経っても教室に戻れなかった。 シンジも捕まりそうなものだけど、辺りにその姿がなかったところをみると上手く逃げたようだ。 ま、シンジとは後でゆっくり話せるからいいか。 その時、そんなことを考えて後輩たちのお願いを聞いていたのがまたもや裏目に出た。 あたしはたくさんの後輩と写真を撮り終わると、急いで教室に駆け込んだ。 肩で息をしたまま、シンジのことを探す。 だけど・・・・・・なんでシンジがいないのよぉ! 「ちょっと、相田!」 あたしは窓際でぼけ〜っとしている相田に声をかけた。 だって、ヒカリは鈴原といちゃついてて声がかけられそうになかったんだもの。 きっと相田も同じような理由で一人でいたみたい。 「なんだ・・・・・・シンジか?」 「ど、どうしてそうなるわけ?」 相田のにやり顔に、あたしは一歩身を引いてたじろいだ。 「そりゃあ、惣流が俺に話し掛ける他の理由が見つからなかったからだよ」 「そ、そう・・・・・・」 「で、シンジのことだろ?」 「・・・・・・うん・・・・・・」 他に答えようもなく、あたしは素直に相田の問いかけに頷いた。 くぅ、相田、侮り難しだわ。 「シンジなら帰ったぜ」 「え?」 素っ気なく帰ってきた言葉に、あたしは一瞬、相田が何を言っているのか理解できなかった。 ・・・・・・帰った?シンジが? 「ど、どういうことよ!」 「どういうことって・・・・・・言ったまんまだよ。シンジはさっさと帰っちまった」 がぁぁぁぁぁぁぁん・・・・・・ なんでぇ、なんでよぉ。 あたし、まだ一言も喋ってないのに・・・・・・ 「な、なんで引き止めておかなかったのよ!」 「な、ちょ、ま、まて、惣流、ぐへっ・・・・・・」 あたしは相田の胸倉を掴むと、前後にぐいぐいと揺さ振った。 がくがくと相田の顔が揺れ、何か言っているのも当然無視する。 「あ、あ、あそこに、ま、まだ、い、いるだろ・・・・・・」 揺さ振られながらも、相田は窓の外を指差した。 その先には、校門に止まっている黒い車があった。 そしてその横にシンジの姿が。 「さっさと言いなさいよ!」 「ぐぉっ!」 あたしは相田を床に放り出すと、急いで窓から身を乗り出した。 「「「きゃー、碇せんぱ〜い♪」」」 と同時に、頭の上から黄色い声がした。 むっ、上の階ということは下級生ね。 シンジにそんな声かけるんじゃないわよ! シンジもシンジよ!手を振り返すんじゃない! なんとなくむかついたあたしは、シンジの気を引くべく、こう叫んでやった。 「こらぁ、バカシンジ!!」 上から「は?」という声が聞こえたが、無視、無視。 あたしはぶんぶんと拳を頭の上で回転させる。 と、シンジもこっちに手を振り返してくれた。やった! だけど、あの肩の揺れはぜったい呆れたように笑っているわね。 これで貸しは二つに増えたわ。今度会った時が楽しみね♪ しばらくすると、隣にいた黒服の人に何か言われてシンジは車の中に消えた。 軽快な音を立てて走り去っていく車。 あたしはその車が見えなくなるまで、ずっと窓の外を眺めていた。 また・・・会えるかな? 今度会ったときには、たくさん話をしたいな。 そして・・・その時には素直になれていればいいな。 きっと、また会えるよね? 「おぉ、大漁、大漁♪」 「レイちゃん、それは貰い過ぎなんじゃ・・・」 ・・・・・・むむぅ、人がせっかくシンジとの別れに浸っているというのに、ムードぶち壊しにして! 振り返った先には、教室に入ってくる呆れ顔のマナと両手いっぱいに記念花を持つレイがいた。 そういえば・・・この二人にはしなきゃいけないことがあったっけ♪ 「あ、アスカ。シンジと話せた?」 「そりゃ、もちろん・・・・・・」 両手に拳を握り締めて、あたしはそこでいったん言葉を止めた。 マナはそんなあたしの様子に勘違いしたらしく、にこにこと笑顔で語りかけてきた。 「そう、よかったわね」 「・・・よくないわぁぁぁぁぁぁ!!」 「へ?」 あたしは拳をマナのこめかみに当てると、ぐりぐりと締め付けた。 「ちょ、い、痛いって、ア、アスカ、痛いってば!」 「そりゃ痛いでしょうね〜、あたしはそのつもりでやっているんだから!」 「な、何があったって言うの、ね、やめて、やめてってば〜」 「あんたたちが、あんたたちが寝坊なんてするからぁぁぁぁ!!」 「ふぇ〜ん・・・」 何とか逃げ出そうとするマナを机に押し付け、なおも両手に力をこめる。 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり・・・・・・・・・ 「アスカ、どうしちゃったの?」 隣りで暴れ始めたあたしたちを見て、レイが相田に問い掛ける。 「シンジは惣流と入れ違いで帰っちゃったんだよ。だから、惣流はあいつと一言も喋ってないんだ」 「あ、そうか。今日はあの日だもんね」 むっ、レイはシンジが帰った理由を知っているの? これは白状させる必要があるわね。 ある程度マナに制裁を加えたところで、今度はレイに目標を定める。 「レーイー、何逃げ出そうとしているのかしら?」 「あ、いや、他のクラスの友達に挨拶に行ってこようかな?なんて。ははははは・・・・・・」 「ふぅん、そう・・・」 「じゃ、じゃね!」 しゅたっと音が出そうなほど手を直角に振りかざすレイをあたしは後ろから捕まえた。 もちらん、手は握り締めたままだ。 「ア、アスカ、手がグー・・・」 「そうよ〜、何のためかわかっているわよね〜?」 「・・・ドラ○もん?」 「違うわぁ!」 「ひょぇぇぇぇぇぇ!!」 マナと同様、レイにもぐりぐりを味あわせてやる。 レイは手足をばたばたさせて逃げ出そうとするが、もがけばもがくほどこめかみに拳がのめりこむ。 「ひ〜ん、ゆ、許してよぉ」 「あんたが一番、寝坊したんでしょうが!」 「ね、寝坊って・・・普通だよ〜」 「ほほぉ、どこの世界に卒業式に遅刻するような時間に起きる中学生がいるというの?」 「・・・ここ」 「なめとんのかぁぁぁぁ!!」 「うひぇぇぇぇぇぇ!!」 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり・・・・・・ レイは逃げ出すのを諦めたのか、今度はあたしの手をこめかみから引き離すべく掴みにかかっていた。 ふん、力であたしに敵うと思っているのかしら? あたしはますます力をこめて、おもいっきりぐりぐりをしてやる。 「痛い〜、頭が割れる〜」 「割れればいいでしょ!」 「お、鬼〜、悪魔〜」 「うるさぁい!あたしはシンジと話したかっただけよ!」 「ひ〜ん、許してよぉ」 「じゃあ、シンジが何で帰ったのか教えてくれる?」 少し力を緩め、さっき聞こうとしていたことを口にした。 レイの顔はこっちからじゃ見えないけど、きっと安堵の表情をしていたに違いない。 「そ、そのくらい・・・え、えとね、今日はマスコミの記者会見があるんだって」 「ふ〜ん、それで?」 「だ、だから、準備とかのために早く帰った、と・・・」 「何時から?」 「えと、えと、18時」 「テレビでもやるの?」 「多分、やるんじゃないかな?」 「そうなんだ・・・」 「そ、そうなの。だ、だから、このグーを・・・」 「・・・・・・甘い!」 「のぉぉぉぉぉぉ!!」 これくらいであたしの気が済むわけもなく。 レイにはもう少し地獄を見てもらいましょ♪ 「うぅ、これって八つ当たりよね」 「あぁ、まったくだな」 マナと相田がとてつもなく失礼なことを言っている。 これは八つ当たりじゃなくて、おしおきなのよ、お・し・お・き! 「いいじゃないのねぇ、シンジと話せなかったくらい」 「それだけ惣流はシンジにらぶらぶ〜、な訳だな」 そうして二人は大笑い。 先生が最後のHRに来た時、教室には3つの生ける屍が転がっていた。 「ただいま〜」 「あら、おかえりなさい。早かったのね?」 「うん、ちょっとね」 あたしは打ち上げに途中まで参加して、ある程度のところで帰ってきた。 もちろん、シンジが出るテレビ番組を見るため。念のため、ビデオ録画も忘れていない。 いつものメンバーに茶化されたけど、あそこで言い合いを始めたら間に合わなくなりそうだったので黙って帰ってきた。 あいつら、高校も同じとこだってわかってやっているのかしら? 新学期早々、血を見るわね、まったく・・・ 着替える時間も惜しかったので、制服のまま居間へと足を向けた。 新聞を覗くと、18時からのニュース番組はすべてシンジの記者会見特番になっていた。 そういえば、今朝は遅刻しそうで新聞見ている暇がなかったんだっけ。 結局、遅刻しちゃったけど。 こういう時は、N○Kが一番いい場所を取っているのかな? まぁ、どこでも同じか。CMが無いぶん、1チャネルでいいかな? 新しいビデオディスクを開けて、デッキを操作して録画予約完了! うふふ、これでいつでもシンジの顔が見られるのね。 プッ、プッ、プッ、ポ〜ン! 18時の時報が鳴り、ニュース番組が始まった。 でかでかと”ネルフ社長 碇シンジ緊急記者会見”のテロップが映し出される。 「アスカ、そんなに近くでテレビを見てると、目が悪くなるわよ」 「今日だけ、今日だけだから!」 ママは呆れたようにため息を漏らし、台所へと戻っていく。 つまらない前置きをアナウンサが喋った後、とうとう記者会見場の場面に変わった。 早く、早く、シンジ、出てきなさいよぉ! しばらくすると、テレビの中の記者たちが騒がしくなった。 カメラが入り口の方に向けられる。 うわ、シンジったらスーツ・・・ な、なんか大人っぽいわね。 だけど、シンジの後ろにいる人を見て、あたしは驚いてしまった。 な、な、ななななななんでパパがシンジといっしょにいるわけぇ?! あたしは慌てて台所に向かった。 「マ、ママ!」 「なぁに、さっきから騒々しい・・・」 「パ、パ、パ・・・・」 「パ・・・・・・パリ?」 「リ・・・・・・りんご」 「ゴリラ」 「ライオン」 「あらあら、アスカの負けね♪」 「むぅ・・・・・・じゃなくて!パ、パパがテレビに映ってて・・・」 「ちゃんとビデオに撮っているんでしょう?」 「そ、それが、シンジと一緒にいて・・・」 「当たり前でしょ。アスカ、どうかしたの?」 「へ?当たり前って・・・」 「パパはシンジ君と同じ会社なんだから」 「・・・・・・嘘?」 「ほんとよ。アスカに嘘ついてもしょうがないでしょ?」 ママはそれだけ言うと、また夕飯の支度に取り掛かっていた。 そういえば、シンジがうちに来た後も、うちの親は何もなかったかのように普通にしてたっけ。 ママはあたしの看病をシンジとマナに任せて、寝てたくらいだし。 マナの保護者になるのもうちの親が言い出したことだし。 何がなんだか・・・・・・ 「・・・・・・なんでパパがネルフの社員だってあたしに言わなかったの?」 「だってアスカはパパの仕事のことなんて聞いた事なかったじゃない?」 「そ、それはそうだけど・・・・・・だ、だけどさ、何でシンジと一緒に記者会見に出てるわけ?」 「あら、パパはあれでもネルフの専務よ♪」 「・・・・・・はぁ?」 「言わば、シンジ君の片腕ってとこね」 「・・・・・・そ、そう」 とりあえず居間に戻ってきた。あたしの頭の中は混乱が混乱を呼んでいた。 テレビではシンジが記者たちの質問に応じていた。どうやら、ネルフ社長としての世間へのお披露目のようだ。 ちょっと緊張気味だったけど、前みたいに怯えたりはしていなかった。 きっと、シンジはすごいがんばったんだろうな。 トラウマ克服してがんばってるんだ。 でも、あたしの手の届かないところに行ってほしくないな。 ん? さっきのママとの会話を思い出してみる。 ”パパはシンジ君と同じ会社なんだから・・・・・・” ・・・ということは、パパに頼めばいつでもシンジに会えるかも? なんたって、ネルフの専務だもんね。ちょっとくらい、娘の我が侭を聞いてくれるでしょ。 ふっふっふ、早速今日からパパに優しくしなくては! そんなこと考えていたら、テレビの中のパパが小さなくしゃみをしてた。 へぇ、うわさをするとくしゃみが出るっていうのは本当だったんだ。 『最後に、一つご質問いいですか?』 ほぼ質疑応答も終わり、会見もそろそろ終了というところで一人の記者がシンジに質問を投げかけていた。 『今まで姿を隠していたのに、どうして急に表に出てきたのでしょうか?』 『それは・・・・・・』 その質問に、シンジは明らかに狼狽を示していた。 そんなことこと聞くんじゃないわよ! あたしはその記者をぶん殴ってやりたくなった。 『・・・元々、僕が中学を卒業するまでは身の危険を考えて、姿を隠していたんです』 シンジは頭の中で整理がついたのか、淡々と言葉を紡ぎだしていた。 『でも、それは一つの理由であって・・・実は、僕にちょっとしたトラウマがあって表に出られなかった、というのもあります』 ば、ばか!なんでそんなことまで話しちゃうの? 喋らなければ、わかりっこないじゃない! 『今考えてみると、僕はこそこそとして逃げていたのかもしれません。 表に出れば、誰かに狙われたり普通の暮らしができなくなるんじゃないかって。 でも、そんな僕を叱って励ましてくれた人がいたんです』 え?え?それって・・・・・・ 『僕は、彼女に救われたような気がします。この先、ずっと逃げていたらネルフは信用を失っていたでしょう。 こうやって僕が表に出ることで、協力してくれる人もいるでしょうから』 『社長、彼女ということは女の人ですか?』 『えぇ、それ以外にいないでしょう』 『それは、社長のいい人ととって構わないのでしょうか?』 きゃ〜!きゃ〜!きゃ〜! な、なななんて質問してるの、このおっさん! 『ははは、ここで”はい”と答えたら彼女に迷惑になっちゃいますよ。でも、大切な人に違いはありません』 そう語るシンジの顔は、いつかの笑顔を満面に浮かべていた。 嬉しかった。 あたしを”大切な人”と言ってくれたことが。 そしてシンジがあんなに大勢の前で、あの時と変わらぬ笑みを浮かべていることが。 シンジ、やっぱりあんたはすごいわ。 でも、そんなたくさんの人の前であたしの話するなんて・・・・・・お、大バカよ! その後、何事もなく記者会見は終わり、あたしは今撮ったばかりのビデオを持って自分の部屋に帰ってきた。 まだ制服のままだったっけ。着替えるためにカバンとテープを机に置こうと思ったら、その机には四角い物体が横たわっていた。 何、これ?ノートパソコン?学校の端末に似ているけど・・・ちょっと大きいわね。 仕方がないので荷物はベッドの上に置いて、その机の上のものをじっくり観察した。 表には、ちょっとかすれて入るがNERVのロゴ。 NERV・・・・・・ネルフ?もしかして、ネルフ社製のパソコンとか。 はは、そんあことあるわけないか。 ・・・・・・いえ、あるはずがあるのよ! だだっと再び台所に向かい、火に掛けたお鍋に向かって鼻歌を歌っているママの背中をちょんちょんと突付いた。 「ん?どうしたの?」 「あ、あのね、あたしの机の上にこれが乗っかってたんだけど。これってパパの?」 「あぁ、それね」 ママはぐるぐるとお鍋の中身をかき回しながら、あたしにこう教えてくれた。 「それはね、私たちからの中学卒業祝いと高校入学祝いよ。 学校の端末だけだと何かと大変でしょ?卒業したら、あまり使い物にならないし」 「じゃあ、これって・・・あたしのなの?」 「そうよ、ママが卒業式終わってからきれいにセットアップしておいたから、すぐにでも使えるわ」 「・・・メールも?」 「えぇ、もちろん。お古だけど、許してね」 ママってば、パパよりこういうのいじくるのが好きなのよね。 こういうときだけ、そんなママがとっても尊敬できる人に見えた。 「・・・ところでママ、お鍋の中身が少し黒いんだけど」 「え?な、なんで早く言ってくれないのよぉ!」 ・・・こういうところはとってもお間抜けだと思う。 でも。 「ありがとね、ママ♪」 お鍋の中を見てしくしくと嘘泣きしているママに一言かけて、あたしは台所から出て行った。 「あぁぁぁぁぁ、今晩のおかず・・・・・・」 ・・・今日は外食に決定かな? 部屋義に着替えると、あたしは早速パソコンの電源を入れてみた。 ネルフのロゴが画面に出てきた後、いつもの見慣れた画面になった。 基本的には学校の端末と使い方は変わらないみたい。 ある程度の設定はあたしもできるけれど、そんなのはとっくにママが済ませていた。 「ん?」 見慣れた画面の中に、一つだけ見慣れないものが混じっていた。 なんてことはない、普通のファイルを示すアイコンなんだけど、ファイル名が”Dear.eml”。 アイコンの形から、どうやらメールのようなんだけど・・・・・・ メーラーからはみ出ているのはどうして? ちょっと怖かったけど、あたしはそのファイルにカーソルを合わせてクリック。 そして、あたしの前でそのメールが画面いっぱいに広がった。

送信元:Shinji Ikari

宛て先:Asuka Souryuu

件  名:待たせて、ごめん

やぁ、久しぶり。元気にしてた?
それとも、今日の卒業式で僕と話せたのかな?
このメール、卒業式の前日に書いてるからどうなるのかわからなくて。
もしかしたら、アスカは僕に平手の一発でもお見舞いしてるかもね。

ずっとメール交換ができなくて、ごめん。色々と忙しかった・・・って、これじゃ言い訳だね。
別に忘れてた訳じゃないんだ。ただ、またアスカに迷惑掛けるといけないから、どうしようか悩んでただけで・・・

このパソコン、気に入ってくれた?実は、僕が今まで使っていた物なんだ。
お古になっちゃうけど、怒らないでね。惣流さんには”新しいの買っていいよ”って言ったんだけど、
”娘にはこれで十分!”って言われちゃって。”逆に喜んでくれるさ!”なんて言っていたけど、そうなの?
とりあえず、惣流さんの言葉を信じて渡しちゃってけど・・・ほんと、怒らないでね。


学校、楽しかったよ。アスカとはいつも口喧嘩ばかりしていたけど、それが一番楽しかった。
普通の中学生でいられた、そういうふうに接してもらえたのが嬉しかったんだ。
アスカだけじゃなくて、他のみんなにもお礼を言わなきゃいけないんだけど、
僕のメールはあのウィルス騒ぎがあったせいで、
当分は社内でしか使えなくなっちゃったから他の人のところにメールが送れないんだ。
ケンスケには言ったんだけど、トウジと洞木さんはどうも近寄りがたくて言えなかったんだ。
だから、二人にはアスカから言っておいて貰えるかな?
マナやレイに頼んでもよかったんだけど、僕としてはアスカに頼みたいんだ。
何か意味があるわけじゃないんだけど、そうしたいな、なんて思ってさ。
ね?よろしく頼むよ。


あと、このパソコンにアスカのメールアドレスが入っているけど、
これはネルフのメールアドレスだから僕とメール交換はできる。
アスカさえよければ、もう一度メール交換してくれないかな?
やっぱりさ、アスカのメールが来ないとなんか落ち着かないんだ。
なんていうか・・・物足りないっていうか、寂しいっていうか。
その、なんだ、変な意味で取らないでほしいんだけど。

でも、アスカが迷惑と思うのなら返事はくれなくていいよ。
僕は女の子に説教されるくらい情けない男だからね。
返事が来なくても仕方ないって思うよ。


それと、テレビは見たのかな?
もしかしたら、まだ記者会見前にこれを見ているかもしれないね。
僕が記者会見の時に言う言葉は、僕の本当の気持ちだよ。

僕は君のおかげで普通の中学生に戻ることができた。
そのきっかけをくれたのがアスカだから。

僕は君のおかげで表舞台に出ることができた。
それはアスカが叱ってくれて、僕にやらなきゃいけないことを教えてくれたから。

僕の方がアスカを助けているつもりが、いつのまにか僕のほうが助けられていたのに気がついたんだ。

ありがとう、本当にありがとう。
これが最後のメールになったとしても、僕は君のことを忘れないよ。

本当だったら、他にも言いたいことはたくさんあるんだけど、それはアスカから返事が来てからにするよ。


どうか元気でいてください。変わらずに、いつまでも前向きに。
・・・ちょっと素直になった方がいいかな?




































メールを読んでいるうちに、なんとも言えない心地よさに包まれた。

これはシンジの使っていたパソコン。
これでずっとあたしとメール交換してくれてたんだ。
パパも気が利いてるわよね。シンジのお古を貰ってくるなんて。
これはサービスをうんとしてあげないと。

だけどねぇ、このメールの内容は何なの?
あいつ、まるであたしのことわかってないじゃない!
まったく、いつもいつも生意気な口利いているくせに、乙女心ってもんがわかってないのよね!

あたしは早速返事を書くことにした。
・・・・・・なんて書いてやろうかしら?




































送信元:Asuka Souryuu

宛て先:Shinji Ikari

件  名:おっそ〜い!!

”久しぶり”じゃないわよ!
あたしがどれだけあんたからのメールを待っていたかわかってるの?
さっさとこのパソコンを譲ってくれていれば、あたしはこんなにヤキモキする必要がなかったのよ!

それに何?あのメール。
まるでもうあたしがあんたとメール交換しないような書き方して。
迷惑?返事が来なくても仕方ない??
あんたって本当に乙女心のわからない奴ね!

あたしだってね、あんたのメールが来ないと、その、寂しいのよ。
今まで散々待たせた分、きっちりと返してもらうからね。
そのつもりでいなさいよ!

でもね、ちょっぴり嬉しいかな?
もうメール交換もできないと思ってたし、会えないと思ってたし。
そういえば卒業式、どうしてさっさと帰っちゃたの?
少しでもあたしと話す時間は取れなかったの?
そりゃぁさ、シンジは忙しいだろうから仕方がないんだろうけど、せめて挨拶くらいはして欲しかったな。

それとヒカリとジャージ馬鹿にはシンジがお礼を言ってたって伝えておくわ。
でも、この先あの二人にメール送ることなんてないんじゃない?
二人ともと上手くいったんだし。もう相談を受けることもないんでしょ?
だいたい、あんなバカップルしたのはあんたでしょう?
ちゃんと最後まで責任とってほしいわよ、まったく。
こっちはあのラブラブぶりに、これからも付き合っていかなきゃならないって言うのに・・・・・・

それとね、シンジが他の子とメールするのは、あたしはちょっと・・・妬いちゃうかな?
だからシンジが他の人とメールできないのにはちょっと安心してたりするんだ。
あ、でも変な勘違いはしないでよね!

それと記者会見は見たわ。
あの大切な人って、もしかしてあたしのこと?だとしたら、それも嬉しい・・・かな?
なんていうのかな、あたしでもシンジの役にたったっていうのが嬉しい、あ、いや、そうじゃなくて・・・
あのときのあたしはね、ただシンジに元気になってもらいたかっただけだったの。
言い方は酷かったかもしれないけど、ま、結果オーライってとこかな?

これからシンジはますます大変になるんだよね。
ねぇ、またいつか会えるかな?
会えないって言っても、パパに頼んで会いに行っちゃおうかな〜。
その時は、ちゃんと名前で呼んでよね、”アスカ”って。
あたしも”シンジ”って呼ぶから。
メールで言えるんだから、顔合わせて言ったって別にいいと思わない?

あたしも素直になるからさ、シンジもあたしに弱いところ見せてもいいんだよ?
そしたらあたしがシンジにまたお説教してあげる。
な〜んて書いたら、シンジのことだから強がっちゃうだろうね。

大丈夫、ちゃんと優しくしてあげるわよ♪
・・・きっとここ読んで、シンジは笑い出しているんでしょうけどね!

上にも書いた通り、これからシンジには待たせた分の貸しを思う存分返してもらうわ。

まず、あたしに必ず一日一通以上、メールを送ること!
これはあたしがメールを送ろうが送るまいが関係なし!
たまにはシンジから書いてもらうのも悪くないしね〜。

それと、あたしには隠し事は厳禁!
マナやレイにも話せないようなことは、あたしに話すこと。
あたしも隠し事しないからね?
まぁ、女の子には人に言えないような秘密もあるから、そこらへんは妥協してね。

あんたは全部話すのよ!いい?

もし上の約束を破ったら・・・・・・わかってるんでしょうね?
会った時が怖いわよ?その前に、メールを三桁くらい送ってあげるけど。

もっと書きたいことはあるけど、それは返事が来てからにするわ。
せっかくの春休みだし、また夏の時みたいにバンバンメールするから覚悟しておきなさい!

シンジ・・・・・・これからもがんばってね。
いつでもあたしが悩みとかに聞いてあげるから。
身体も壊さないようにね。

早く返事書くのよ!




































・・・・・・むむぅ、なんか恥ずかしいことも書いているような。
書いている内容も支離滅裂な気がするし。
むむむむむ・・・・・・やっぱりちゃんと考えて書かないとだめかな?

ま、ここまできたら何書いても一緒か。
どうせ考えて書いてら、素直じゃなくなるのは目に見えてるし。
せっかくメールできるようになったんだし、また甘えたいし・・・・・・


・・・ええぃ、送ってしまえぇぇ!


送信ボタンを押すと、学校の端末と違って音もなくメールは送られていった。


早く返事来ないかなぁ。
もっともっと書きたいこといっぱいあるんだから、さっさと返事よこしなさいよね!

そういえば、あのこと聞いてないな。
急に聞かれたらシンジはなんて答えるだろ?
だけど、もしあたしが考えているのと逆の答えが返ってきたらどうしよう。
・・・だめだめ、会う前にはっきりさせておきたいのよ。
まだ面と向かって素直に聞けないから、メールで聞いてみるしかないしね。
また今度でいいかなぁ。


・・・・・・ううん、早く知りたい。
シンジがあたしのこと、どう想っているのか。
もし他に好きな人がいたら、あたしとメールしているのも悪い気がするし。


・・・聞いちゃう?
聞いちゃおうかな?


でも、なんて聞いたらいいかな。
う〜ん、う〜ん、う〜ん・・・・・・・・・


こう、なんとなく聞く方法はないかしら?
なんとなく・・・・・・そうだ、これならどうかな?
これだったら、別にあたしから告白しているようには思えないし。
やっぱり、告白は相手からじゃなくっちゃね!



あたしはふっと頭に浮かんだ言葉を、新しいメールに書き込む。
どうか、この返事があたしの思った通りの言葉でありますように。
そんな願いを込めて、あたしはメールを書く。

あたしの想いがシンジに届きますようにと。
そして、シンジもあたしと同じ想いを抱いていますようにと。

全ての想いを込めて、メールを送る。
だって、離れていてもシンジがあたしにとって大切な人になったことに変わりはないから。
そしてシンジが言っていた大切な人が、あたしであってほしいから。

無機質でデジタルなメールかもしれない。
でも、そこにはいつでもシンジの暖かくて優しい想いがこもっていた気がする。
そして、あたしの気持ちも。






この想い、どうか彼に伝えて。






あたしは心を込めて、送信ボタンを押した。




































送信元:Asuka Souryuu

宛て先:Shinji Ikari

件  名:P.S.

あたしのこと、好き?




































<終>




































後書き
ども、ちょ〜さんです。

とうとう、というか、やっと終わりました・・・・・・(ふぅ)・・・・・・ん?そこ、ディスプレイを叩かないように!(爆)

「次は最終回だぁ!」と言った手前、分割することも出来ずにだらだらと書いてしまいました。
長かった・・・今回はいつもの2〜3倍のサイズになっちゃいましたから(笑)

「これで終わりなのぉ?!」という方もいるかもしれませんが、
そこらへんの細かいことは作家のコーナーに書いておきますので、そちらをお読みください。

最後まで読んでくださった読者さん、本当にありがとうございます。
催促なども受けてしまいましたが(苦笑)、ここまでやれたのも読者さんがいたからだと思います。

また、この作品を快く掲載してくださったタームさんにも厚く御礼申し上げます。
処女作ということで「こんなの投稿していいのかな?」と思っておりましたが、
これだけ人の目に触れさせることが出来たのも、このサイトとタームさんの「うちで掲載しようか?」の一言のおかげです。
本当にありがとうございます。

では、また次回作(あるのか?(汗))でお会いしましょう!


マナ:ちょ〜さん、最終回ありがとうっ。

アスカ:最後は、このお話にぴったりのエンディングね。(^ー^v

マナ:メル友に始まって、メル友に終るって感じ?

アスカ:メールで始まった話だもんね。とってもいい終わり方ね。

マナ:そうそう、そしてあなたとシンジはメル友のまま終ったのでしたぁ。

アスカ:ぶっ! バカ言ってんじゃないわよっ! メル友の時代が終ったってことよっ!

マナ:じゃ、次は何? チャッ友?

アスカ:アンタバカぁっ!? これからは、直接会うのっ!

マナ:では、次回は、Chat Friendでーすっ。

アスカ:いい加減にしなさいよねっ!(ドゲシっ! ドゲシッ グシャッ!)(ーー#

マナ:いたいぃぃぃ。(TT)いたメールだしてやるぅぅ。
作者"ちょ〜さん"様へのメール/小説の感想はこちら。
chousan@pk.highway.ne.jp

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