第2話  誤解・氷解




 知らない街で、顔を知っている人に会う事は、とてもうれしい事だ。
 あの時、僕がマナに会ったのは奇跡だったのかもしれない。
 マナは、僕を家へ招待してくれた。
 が、そうなると事の顛末を話さなければいけない訳で、
 「到着〜。」
 マナが、小さなアパートの一室に僕を連れてきたとき、
 “覚悟を決めねば”と思った。
 「ここがマナの家?」
 僕が、マナについて知っている事と言えば、サードインパクト後ミサトさんから聞いていた
 『マナは、戦自の少年兵だったのよ。』
 と言う事ぐらいだった。
 「さあ、入って、入って。」
 「うん、じゃあお邪魔します。」
 そう言って、僕はマナの家へ入った。
 入るとすぐにリビングがあり、その横にはキッチンがあった。
 「今、何か食べるものを出すから、適当に座ってて。」
 マナは、キッチンと言うより台所と言ったほうがいいようなそこから顔を出すと僕にそう言った。
 台所の方を見ると、流しに向かい包丁で何かを切っているマナの後姿が目に入った。
 僕は、ショートパンツから伸びるマナの脚を見ながら、
 “綺麗だな”と思っていた。
 そんな僕の視線に気がついたのか、マナが振り向き
 「なぁに、シンジ君。私の美脚に見とれちゃった?」
 と、いたずらっ子のような微笑を向けてきた。
 「そ、そんな事無いよ。」
 あわてて否定する。
 「なぁんだ。」 
 と、つまらなそうに言うと、マナは料理を続けた。
 1時間ほどかかって出来た料理は、お世辞にもおいしそうには見えなかったが、
一口食べてみると、
 「おいしい。」
 思わず口に出てしまうほど、味は良かった。
 「ねぇ、シンジ君。アスカさんとはうまく行ってるの?」
 おそらくマナは何気なしにそう言ったのだろう。
 「うん、同居人としてはね。」 
 「でも、こんなところにいるって事は、何かあったんでしょ?」
 僕があえて使った『同居人』という言葉が、話を確信へと導いてしまった。
 「力になれるか解らないけど、私に話してみて。」
 「うん。」
 「誰かに話せば気分も少しは楽になると思うから。」
 そう言うマナを見て、
 “本当に同い年なのかなぁ”
 と思ってしまった。
 しかし、せっかく心配してくれている彼女に黙っているわけにも行かず、
僕は今日あった事を全部打ち明けた。
 それを聞いた彼女は、
 「そうなんだ。」 
 と、それしか言わなかった。
 「ま、悩んでたってしょうがないじゃない。ぱぁーっと忘れる事ね。」
 「・・・・・・・・・」
 思わず黙り込んでしまった僕が、視線をマナに向けると、彼女は優しく微笑んでいた。
 しばらく無言で続く食事。
 カチャカチャと、食器の音だけが響いていた。
 重苦しい空気が漂う中、沈黙を破ったのは、またしてもマナだった。
 「ご馳走様でした。さ〜て、寝床の準備でもしますか。」
 そう言って、食器を下げるマナ。
 その後を追うようにして僕も台所へと入って行った。
 「ご馳走様、マナ。後片付けは僕がするよ。」
 「アリガト。じゃあ、私はお布団ひいてくるね。」
 マナはそう言うと、隣の部屋へと入って行った。
 「さてと、片付けますか。」
 僕は、食器を洗い始めた。








 ちょうどその頃、ネルフでは・・・・・。
 「加持、アンタ諜報部部長でしょ。まだ、シンちゃんは見つからないの?」
 ミサトは、なじるように加持にそういった。
 「あのな、葛城。諜報とガードのプロが、必死になって探しているのに見つからないんだ。
  最悪の事態も考えておかなきゃならんのじゃないか?」
 真顔でそう答える加持に、
 「最悪の事態って、まさか。」
 「そのまさかだよ。サードインパクトが、成功したのかそうじゃないのかは俺にも解らん。
  しかしだ、混乱した世界をリードしてきたネルフの最重要人物の一人が、ガードを巻いて
  失踪したんだ。どこかの国家が絡んでいる可能性だってある。現に、先週だって・・・・・。」
 そう、サードインパクトによって混乱した世界を導いてきたネルフは、国際的にも最高権力組織となっていた。
 彼らが本気になれば、国の一つや二つ地上から消えて無くなるのだ。
 大きくなりすぎた力は恐怖へと繋がり、つい先週も副司令の冬月が自宅前で襲われそうになっている。
 幸い、諜報部のエージェントのおかげで事前に阻止されたが、今回のシンジはそのエージェント達から逃れて、
 と言うより、振り切って失踪したのである。
 「考えられないことでは無いわ。」
 モニターを凝視していたリツコが感情の無い声でそう言った。
 “ま、真実を今俺が口にしたら、すべてが水の泡なんでな。ゆるせ、葛城。”
 とは、加持の独白である。
 「まあ、良いわ。ワタシは、楽天家なんでね。物事を悪い方へは考えられないの。」
 「そうだな。何も要求が無いところを見ると、案外ひょっこり出てきたりしてな。」
 「そうよ!!」
 そんな大人達の後ろから突然大きな声が響き渡った。
 「アタシのシンジが、死んでてたまるもんですか。」
 「アスカ・・・・。」
 ミサトは、アスカの目に涙が浮かんでいる事に気がついた。
 「「そうね、(そうだな)シンちゃん(シンジ君)は無事よ(だよ)。」」
 加持とミサトは声をそろえてそう言った。
 そういいつつも、“『アタシのシンジ』なんてアスカも大胆ね。”
 そう考えるとミサトは少し意地悪な気持ちが湧き上がってきた。
 「そこでなんだけど、アスカ。」
 正面からアスカに向き直るミサト。
 「何よ。」
 「今日一日、シンちゃんに関わる事を全部話してくれる?」
 ミサトの目が、顔が、少しニヤけてる事に気がついたアスカは、警戒しながら、
 「い、良いわよ。」
 と、今日一日学校であった事を話し始めた。


 
 一通り話を聞いたミサトは、
 「で、アスカはシンちゃんへの答えを手紙に書いて、それを渡そうと思ったわけ?」
 「そ、そうよ。」 
 「そして、その練習をするために力ずくで協力させた後輩を使ったわけ?」
 「そ、そ、そうよ。」
 顔を赤くしてうつむいてしまうアスカ、
 「それって、何時ごろだった?」
 「正確には覚えていないけど、多分3時50分頃だったと思う。」
 そこまで聞いて、なにやら思い当たったミサトは、
 「アスカ、アンタさぁシンちゃんが時間に正確なの覚えてる?」
 「・・・・・・?」
 「アンタ、いつもシンちゃんと待ち合わせするとき自分でなんて言っていたか覚えてる?」
 「いつも、アタシが?」 
 「そうよ、自分の胸にきいてみなさい。」
 「アタシがいつもシンジに言っている事・・・・・・って、それじゃぁ。」
 「解ったみたいね。」
 「じゃあ、見てたって言うの、シンジが。」
 「多分ね。」
 そう言って満足げに胸を張るミサトに、
 「おい、葛城。話の筋が見えてこないぞ。」
 加持が痺れを切らしてそう言った。
 「だからね、アスカはいつもシンちゃんに、『レディと待ち合わせするときは10分前に来るのが
 当たり前よ』って言っていたの。」
 「つまり・・・・・・・・。」
 「シンちゃんは、アスカの練習を見て勘違い、と言うより誤解したのね。」
 「・・・・・・・・・・・。」
 「そうか。で、アスカは手紙になんて書いたんだい?」
 事を理解して、うつむくアスカに、加持は優しく声を掛けた。
 「そ、そんなの決まってるでしょ。」
 「決まってるって?」
 今度はミサトだ。
 「お受けしますって書いたのよ!!」
 「何だ、じゃあ解決は早そうだな。」
 加持が、シンジがすぐに出てくるような雰囲気で言った言葉に二人は敏感に反応した。
 「「加〜持〜(加持さん)なんか知ってるんでしょ!!」」
 ついうっかり口にしてしまった事を後悔し、なんと言い繕おうか苦笑いを加持が浮かべたその時、
 「葛城一佐、大至急司令室まで来るように。」
 と、連絡が入った。
 「加持!帰ってきたら聞くかんね。覚悟しなさい!!」
 そう言って司令室に向かうミサトを
 「へいへい。」
 と、胸をなでおろす加持が見送った。
 その後、アスカの追及をかわすのに加持が1時間を要したのは言うまでも無い。






 そんな事が起きていたとは露知らず、僕はマヤの家で一夜を過ごす事となった。
 「シンジ君、お布団は一式しかないんだけど。」
 「うん。」
 「さてここで究極の選択。やわらか〜いお布団で、私霧島マナと寝るのと、私の部屋のソファーで寝るの、
 どっちが良い?」
 「そ、そんなの決まってるだろ。ぼ、僕はソファーで寝るよ。」
 「なーんだつまんないの。せっかく、下着まで替えたって言うのに。」
 「な、何言ってんだよ。そ、それより早く寝ようよ。」
 「そうね。シンジ君、今ならまだ間に合うよ。」
 そう言って、布団の中から手招きするマナ、
 「じ、じゃあね。お、オヤスミ。」
 顔を真っ赤にして、僕はソファーに顔をうずめ。、
 「オヤスミ、シンジ君。」
 僕は眠れそうにも無かった。
 




 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
 僕は、隣から聞こえる音で目が覚めた。
 「ッ・・・・・・ッ・・・・・ッ・・ッ」
 苦しそうなうめき声だった。
 僕はソファーから体を起こし、隣の部屋をのぞいた。
 「ゴホッ、ゴホッ。」
 なにやらうずくまり、苦しそうに咳をするマナ。
 「マナ、大丈夫?」
 そう言って近づいた僕が目にしたものは、口から血を吐き咳き込むマナの姿だった。
 「!!」
 僕はあわてた。
 すぐさま彼女を抱きかかえると、台所へと連れて行った。
 「ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ!!」
 何度も血を吐くマナの背中を僕は優しく撫でてあげた。
 「あ、ありがとう。シンッ、ゴホッ、シンジ、ゴホッ、君。」
 「救急車、すぐに呼ぶからね。待ってて。」
 そう言って彼女の傍らを離れようとする僕を、
 「待って、ハァ、ハァ。そばにいて、すぐに収まるから。」
 「病院に行った方が良いよ!マナ、死んじゃうよ!!」
 「大丈夫・・・落ち着いて・・・きたから。」
 そう言って、力の無い微笑を僕に向けた。
 僕は、彼女を抱き上げるとリビングへ運び、血まみれになったパジャマを着替えさせた。
 「シンジ君に、裸見られちゃった。」
 おどける様に言う彼女の言葉には力が無かった。
 「すぐにここ片付けるから、そこで横になってて。」
 そう言って、床やテーブルに残る吐血の痕を僕は掃除した。
 「ゴメンね。こんなところシンジ君には見せたくは無かったのに。」
 「何言ってるんだよ、それよりいつからなの。」
 「うん、もう半年になるかな。病院にも何度か行ったけど原因は全く不明なんだって。」
 「不明って。じゃああの薬は?」
 「多分、気休め。無いよりはマシってところでしょう。症状は結核に似てるしね。」
 そう言って、マナは力無く微笑んだ。
 その笑顔を見て僕は、心臓がドキドキしているのが解った。
 しばらく、沈黙した後、
 「じゃ、もう寝よう。」
 と、僕はまなに声をかけたが、すでにその時マナはもう寝ていた。
 「こんな所で寝たら風邪ひくよ。まったくしょうがないな。」
 僕は「よいしょっと」と何気なくつぶやき、マナを抱いて布団へと運んだ。
 「ふぅ。じゃあ、おやすみ。」
 その後、僕はソファーで眠りについたが、マナの事が気になってほとんど眠れなかった。
 







  それぞれが不安な夜をすごしていた。
 が、先ほどまで司令室で事の真相を聞かされていたこの人だけは、
 不安より自分がのけ者にされていた事への怒りがこみ上げていた。
 「全く、何なのよ。加持もリツコも知ってて私に内緒だったなんて。」
 当然、独り言である。
 「それに、司令と副司令も何を考えている事やら。」
 つい、数時間前の事を思い出しながら、一気に『えびちゅ』あおるミサト。
 「ゲフッ。問題ないですって〜。ど〜こが問題ないのよ。アスカの気持ち考えた事あるのかしら。」
 しかし、口外無用の厳命を受けている限り、ミサトはこの事をばらすわけにもいかなかった。
 「ホントだったら、アスカに真っ先に伝えちゃうんだけどな〜。」
 そんな事をつぶやきながら自室の時計を見るとすでに午前3時。
 部屋を見渡すと『えびちゅ』の空き缶が散乱している、
と言うより床一面『えびちゅ』の空き缶が敷き詰められている、と言ったほうが正しいだろう。
 部屋を出たミサトは、アスカの部屋の前まで来て彼女が寝ている事を確かめると、玄関から外へ出た。
 その手には、小さなメモが握られている。
 「今夜にでもこの番号に連絡を取ってみてくれ。」
 ミサトは冬月からこのメモを受け取ったとき、つい
 「司令のプライベートナンバー?」
 「違う。」
 「碇、ちゃんと説明せんからだ。お前はどうも昔から話の要点を飛ばして話をする癖がある。直したほうが良いぞ。
 葛城君、それは今シンジ君がいる所の番号だよ。」
 「じゃあ、司令達はシンジ君の居場所を知っていると?」
 「ああ、先ほども言ったが加持一尉を中心とした特別チームがそこを見張っている。」
 「加持君には、生命の危機以外には手を出すなと厳命しているんだよ。」
 「それで、加持は知らないふりをしていると。」
 「そう言うことだ。」
 「ですが、アスカの気「以上だ、下がりたまえ。」」
 ミサトは、意見を途中で止められ司令室を後にした。
 つまり、追い出されたのだ。
 「全く、司令たちも何を考えているのやら。」
 ミサトは、愛車のアルピーヌの中で独り言をつぶやいていた。
 「でもね〜、こんな時間に電話するのも非常識だしね〜。」
 普段の生活が非常識なミサトも、この程度の常識は持ち合わせているようだ。
 「後3時間、待ちますか。」
 そう言って、シートを倒すとそのまま寝入ってしまった。



 「どうもいつもの癖が直らないな。」
 僕は眠い目をこすりながら体を起こした。
 同じ部屋で眠っているマナを見ると、穏やかな寝息を立てて眠っているようだ。
 「しょうがない、朝ごはんでも作るかな。」
 部屋を出た僕は、台所へと向かった。
 「アスカ達、朝ごはん食べてるかなぁ。」
 少し心配になったが、
 「まぁ、大丈夫でしょ。」
 と、無理やり納得した。
 “僕は、自分の気持ちをはっきり伝えた。その答えがあんなひどい方法だった。だから、もう帰れない。
 だから、もう忘れよう。僕はアスカには必要の無い人間なんだから。”
 思考が悪い方へ向いてるときには、人は普段しないようなミスをするらしい。
 その時の僕もそうだった。
 簡単な料理のために簡単に包丁を使う。
 ただそれだけなのに、
 「痛っ!!」
 指先を切った。
 流れる血を止めようともせず、僕は他人事のように眺めていた。
 『ポタ、ポタ、ポタ.........。』
 僕の赤い血がとめどなく流しへと流れて行く。
 “赤い血、血の海、あの人々が溶けていたLCLの海みたいだ........。”
 僕はあの時の赤い海を思い出していた。
 無気力に自分の指を見つめる僕の後ろから、
 「あ、おはようシンジ.........って、何してるの!!血が出てるじゃない!!!」
 台所に入ってきたマナが大声をあげていた。
 「あ、ああ。おはようマナ。」
 「おはようじゃ無いよ。指、血が出てるよ!ちょっと、ほら!!」
 マナは僕のそばへ駆け寄ると、血の出ている指を咥えた。
 「あ、ゴメン。気がつかなかった。」
 「あのねぇ、シンジ君らしくないよ。何か考え事でもしてたの?」
 「ゴメン、ちょっとボーっとしてただけだから。」
 「ごまかしてもダメ。ちゃんと話してくれなきゃ。」
 マナはそう言って僕をリビングへと引っ張って行った。
 「ほら、指出して。」
 「うん。」
 「絆創膏巻いてあげるから。」
 「うん。」
 「全く。どうせ、昨日の事でも考えていたんでしょ。」
 「・・・・・。」
 「許せないなぁ。シンジ君をここまで苦しめたアスカさんが。」
 「マナ?」
 「・・・・・・・・・。」
 「マナってば。」
 「・・・・・・・・・・。」
 「マナさん?」
 「そうよ、それが良いわ。シンジ君、忘れなさい。」
 「へ?」
 「いいえ、私が忘れさせてあげる。」
 マナはそう言って、僕に顔を寄せてきた。
 触れあう唇。
 それは、とても短いものだった。
 「忘れさせてあげるわ。」
 マナは微笑んでいた。






 シンジ君にキスしちゃった。


 私はアスカさんの様に、彼を苦しめたりしない。
 私はアスカさんの様に、シンジ君を拒絶しない。


 昨日、病院の帰りにあの駅で彼に会えた事は偶然だった。
 私は病院で、あの医者達が話しているのを聞いてしまった。
 「霧島マナは、あと2週間も持つまい。」
 それは、私の病気の事だった。
 逃げ出したい気持ちを抑えながら、続きを聞いている私は、涙を流していた。
 「それにしても、上は何を考えているのやら。あんな娘に過酷な訓練を押し付け、
 挙句の果てに、漏れ出した科学兵器の犠牲にしようとしている。」
 「ワクチンも治療法も無い、彼女の体細胞の8割がすでに癌化している。」
 癌、その病気がセカンドインパクト以前からこの国の死亡率の上位を占めていることは私も知っていた。
 「しかし、それでもまだ生きている。奇跡だぞ、これは。」
 「だが、そのうち脳にも転移するだろう。そうしたら終わりだ。」
 「かわいそうに。まだ14、5の体だぞ。」
 そこまで聞くと、私は病院から駆け出ていた。
 落ち込みながら駅に差し掛かると、そこのベンチに彼がいた。
 私は迷わず声を掛けた。
 「あれ〜?もしかして碇シンジ君?」
 そこにはすべてを悲観したような顔をした彼がいた。
 最後くらいは好きな人と一緒にいたい。
 だから、迷わず彼を誘った。
 半ば強引だったかもしれない。
 でも、私は彼に来て欲しかった。 
 あの一夏の恋。
 任務も忘れて、好きになった彼。
 碇シンジに。





 マナは、僕の指を見つめながら何か考えていたようだった。
 少しうつむいた彼女の顔は、悲しげだった。
 「マナ。」
 「・・・・・・・・・・。」
 「マナってば。」
 「えっ」
 「どうしたの?」
 「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていたの。」
 「そう・・・・・。それより体は大丈夫なの?」
 「えっ?」
 「聞かせてくれるよね、マナの事。」
 「え〜と、バストは78で、ウェストは55で「誰がスリーサイズを聞いてるの?」」
 「まぁ、しょうがないか。じゃあ話してあげる、私の病気詳しい事情。」
 そして、マナは僕と分かれてからの事を教えてくれた。
 実は、存在を隠匿するため、任務を隠すために突然僕の前から姿を消し、あらゆる記録から
姿を消した事。
 その後の訓練で使った、戦自の対使徒用化学兵器によってこうなった事。
 ワクチンも治療法も無い事。
 その他いろいろな事を話してくれた。
 その話は2時間にも及んだ。
 「・・・・と言うわけなのよ。」
 「じゃあ、一生直らないの?」
 「そうみたいね。」
 「そんな・・・・・。」
 「でも、政府から援助も受けてるし、戦自の医官が定期検査とか延命治療とかやってくれてるし。」
 「でも、直らないんだろ?」
 「しょうがないわ、これが私の運命なんだから。あの時シンジ君をだました罰ね。」
 「罰だなんて。僕に出来ることなら何でも言ってよね。協力するから。」
 「アリガト。」
 マナはそう言って、僕に微笑み掛けてくれた。
 その目に涙が浮かんでいた事を僕は気がついていた。
 しばらくの沈黙が続いた。
 その沈黙を破ったのは電話の音だった。
 [リリリリリリ〜ン、リリリリリりリ〜ン・・・・・・・・・。]
 マナの部屋にあるレトロな電話から音が鳴る。
 「あ、電話だ。誰からだろう?ちょっと待っててね。」
 マナが電話の方へ歩いて行くのを見送る。
 「はい、霧島です。」
 と、マナが電話に出ると、
 「はい、霧島は私ですけど・・・シンジ君ですか?いますよ。失礼ですけどあなたのお名前は?」
 “誰だろう?まさか、もうばれたのかな?”
 「葛城さん、ってネルフの葛城ミサト一佐ですか?はい、解りました、いま代わります。」
 “やっぱりミサトさんだ。僕は、ネルフからは逃れられない運命なんだ。”
 「もしもし・・・・・・、シンジです。」






 ミサトは、最初に出た声が霧島マナであることに驚きを隠せなかった。
 「あ。私はネルフの葛城ミサトです。そちらに碇シンジ君がお世話になっていると思うのですが。」
 そういいながら、マナが素直に電話を変わってくれるか不安だった。
 「葛城さん、ってネルフの葛城ミサト一佐ですか?はい、解りました、いま代わります。」
 携帯のスピーカーから聞こえたその声に、ミサトは安堵していた。
 「もしもし・・・・・・、シンジです。」
 聞きなれた声。
 しかしその声は、最近は全く聞かなくなった出会った頃のシンジの声だった。
 「シンジ君、聞いてちょうだい。」
 「何の事です。」
 「アスカの事よ。あなたは誤解しているわ。」
 「もう良いですよ、忘れますから。」
 「それじゃダメ。良いから聞いて。」
 ミサトは少し語気を強めて言った。
 「解りました。」
 シンジの声には相変わらず覇気が無い。
 「まず、誤解を解いて置くわ。」
 そう言ってミサトは優しく話し始めた。
 シンジが見た事は、アスカがシンジへの返答の練習をしていたところであった事。
 アスカは『Yes』と答えたかったという事。
 ネルフのみんなが心配している事。
 その他諸々を、優しく穏やかに心を込めて、ミサトは話していた。
 「だから、帰ってきてあげて。」
 そして、最後にそう付け加えた。
 「・・・・・・。」
 「シンジ君?」
 「少し時間を下さい。」
 「・・・・・・・・・・・・・。」
 ミサトは少し考えて、
 「解ったわ。じゃあ、連絡はわたしの携帯にしてちょうだい。」
 「解りました。」
 「じゃあね、シンジ君。アスカが待ってるわよ。」
 そう言って電話を切った。
 ミサトは、誤解が溶けた事を確信していた。
 シンジの最後の言葉に、覇気が戻っていたからである。
 「シンジ君。あなたがいないとアスカがアスカじゃ無くなっちゃうのよ。
 アスカの心がまた壊れちゃうのよ。」
 ミサトは愛車の中でそうつぶやいていた。




 僕は受話器を置くと、なぜか胸の内のわだかまりに似た感情が晴れて行くのがわかった。
 “誤解だったんだ。僕は勘違いしていたんだ。”
 そこへ、席を外すために台所へ行っていたマナが
 「葛城さん、何だって?」
 と、尋ねてきた。
 「全部、僕の誤解だって。アスカは僕を待ってるって。」
 僕がそこまで言うと、マナが泣きながら抱きついてきた。
 「イヤ!!帰らないで。」
 「マナ、どうしたの?」
 僕の胸の中で泣くマナは様子が変だった。
 「一人にしないで。私、あと2週間しか生きていられないの!!」
 その言葉は、衝撃的だった。
 “あと2週間だって、どういうことなんだ?”
 僕の思考は停止寸前だった。
 















 次回予告
    マナの突然の告白。
    それは自分は後2週間の命だと告げていた。
    その言葉にショックを受けるシンジは、ある決断をする。
    次回『死。胸に秘めた思いとともに』
      ご期待ください。

















  あとがき
     どうも、またまた『CYOUKAI』です。
     まあ何と、このたび、900万ヒットを迎えたそうで、
     おめでとうございます。
     ちなみに、890万ヒットあたりから、キリ番を踏めるようにがんばっていた小生は、
     踏み遅れて、気がつくと9000027ヒット辺りだったかなぁ、ともかく非常に中途半端な事になってしまいました。
     まあ、今回のは暗いと言うか、明るくは無いですな。
     霧島さん、ごめんなさい。
     実は小生、ショートカットの女性が結構好きです。(まあ、アスカさんには負けますが。)
     でもそれ以上に、気が強いが実は脆い女性が好きなのです。
     まぁ、今度外伝でも書かせていただければ、霧島さんのハッピーな話でも書いてみます。
     でも、シンジが相手じゃないかも。
     シンジ君はアスカさんにベタ惚れじゃないとダメなんですから。
     相手は、相田君か渚君かゲンドウ君かコウゾウ君か日向君か青葉君かそれともオリジナル君かなぁ。
     さて、今回も思ったのですが、文章を書くのってとっても難しいです。
     特に人称が・・・・・。
     あと、小生は『鋼鉄・・・・。』をプレイしていないので霧島さんの生態がいささかあいまいです。
     身近でプレイした事のある悪友の感想がなんとも曖昧なので、かなりいい加減なようです。
     
     それでは、もうしばらくお付き合いいただきたいと思います。


マナ:ちょ、ちょっと待ってよっ! なんでっ!?

アスカ:やかましいっ! シンジにキスしたわねぇぇっ!

マナ:キスどころじゃないじゃないっ! わたし、死ぬのぉぉっ!?

アスカ:ウルサイっ! バスト80未満っ!

マナ:なっ! なんですってーーーっ!!!!

アスカ:シンジは取り替えさせて貰うわよっ!

マナ:渡すもんですかっ!・・・じゃなくて、わたし死んじゃうのぉっ!?

アスカ:取り返したら、死ぬ程キスしてやるっ!

マナ:だから、わたしの大問題も聞いてよっ!!(ーー#
作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system