第4話 世界で一番の愛を伝えた言葉?



 
 「死亡宣告。3月10日13時25分、患者霧島マナの死亡を確認します。」 
 僕の隣にいた中年の医者は事務的な感情の無い声でそう告げた。
 「皆さん、御愁傷様です。」
 彼は一礼すると部屋を出て言った。


 しばらく僕達はマナを見つめていたが、
 「あなた達はもう帰りなさい・・・・・・。ミサトも一緒にね。」
 とリツコさんが言うと、僕達は病室から出た。
 「じゃあ、ワタシは車を廻してくるから、二人とも玄関ロビーで待ってて。」
 ミサトさんは足早にエレベーターに乗り込んだ。
 「アスカ、行こうか。」
 「ウン。」
 僕はアスカの手を握り締め、階段をゆっくりと降りて行った。
 エレベーターを使わなかったのは、少しでも永くココに居たかったからかもしれない。
 もしくは、アスカの手を離したくなかったからかもしれない。
 それは、今でも解らない感情だ。
 それから僕達は、ミサトさんの運転する車で家路に付いた。
 この日のミサトさんは、コップの水もこぼれないような優しい運転をしていた。
 



 マンションに戻ると、
 「それじゃ、ワタシはちょっとネルフに用事があるから。
  多分今夜は帰れ無いと思うからよろしくね。」
 そう言って、ミサトさんはすぐに出かけて行った。
 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
 しばらく二人を包む沈黙。
 アスカの様子を見ると、悲しみを押し殺しているようだった。
 「とりあえず、ゴハンにしようか。」
 僕は沈黙を破るように、そう言ってキッチンへと入った。



 1時間ほどして食事の準備が完了し、僕達は遅い昼食を始めた。
 食事の間、僕達に会話は無かったが、重苦しい感じはしなかった。
 ゆっくりと時間を掛けて食事を終えると、帰宅から2時間が経っていた。
 後片付けを終え、僕が自分の部屋で音楽を聞いていると、不意に部屋の戸の向こうからアスカの声がした。
 「シンジ・・・・・。」
 「アスカ?」
 「ウン。ちょっと外へ出ない?」
 少し寂しそうな声。
 「いいよ。」
 僕は、何も迷わずにそう答えた。
 
 

 マンションを後にすると、僕達は近くの公園に向かった。
 二人で並んで公園へ向かう間、沈黙が続いていた。
 

 公園へ付くと、僕達は大きな木の下にあるベンチへ腰掛けた。
 並んで腰掛けるアスカは、何かを考えていたようだった。
 しばらく続く沈黙。
 先に口を開いたのはアスカだった。
 「シンジ、ゴメンね。」
 何に対して謝罪しているのかいまいち把握出来ないでいると、
 「シンジに告白してもらったあの日、アタシはとてもうれしかった。
  だから、逆に緊張していたのかもしれない。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 「ヒカリにその事を相談したらね、手紙を書いてみればって言ったの。
  だから、お返事は手紙にしたの。
  でも、なんだか渡す自身が無くて。
  だから、2年の男の子を強引に引き出して、練習台にしたの。
  なんだか、バカみたいよね。
  その事で、シンジに誤解されて、離れ離れになって。」
 「アスカはバカじゃないよ。勘違いした僕がいけないんだ。」
 「ううん。アタシがバカだったのよ。
  でね、シンジがいなくなってしばらくしてから、相田にこの写真を見せられたの。」
 そう言ってアスカは、一枚の写真を僕に見せた。
 「コレって。」
 そこには、マナと腕を組んで歩く僕が写っていた。
 「コレを見せられたとき、アタシは驚いた。
  そして、自分のバカさ加減にあきれたわ。
  なんで、シンジ腕を組んでいるのがアタシじゃ無いんだろう。
  なんで、一緒に笑っているのがアタシじゃ無いんだろう。
  そう思ったの。」
 「でも、コレは・・・・・・・・・・。」
 「知ってる。ミサトがさっき全部話してくれたから。」
 「ミサトさんが?」
 「そう。病院から迎えに来たミサトに、アタシが行きたくないって言ったら、
  全部話してくれた。」
 「でも、この事でアスカを悲しませたのは僕だ!!」
 僕は、少し語気を強めていた。
 「違うのよ。シンジを信じて上げられなかったアタシがいけないの。
  それでね、アタシだけをシンジが見てくれないのなら、もう全部いらないって思ったの。
  この世界にあるすべてを拒絶したの。
  何度か死のうとも思ったけど、それすら拒絶したの。」
 そう言うアスカの目には、涙か浮かんでいた。
 「でもね、シンジが病院に入院したって聞いたとき、そのアタシの心の殻にヒビが入ったの。
  そして、さっきマナに『私の分まで幸せになって』って言われたとき、
  もうシンジを苦しめてはいけないって、アタシの幸せはシンジの中にあるって思ったの。
  気が付いたのよ!!」
 アスカはそう言うと、涙でグシャグシャになった顔を僕に向けた。
 「だから、アタ「もういいよ、アスカ。君の思いは僕に痛いほど伝わったから。」
 アスカの言葉を僕は遮った。
 そして、アスカを抱きしめた。
 しばらくそうしながら、僕はアスカの背中を優しく撫で続けた。
 「アスカ・・・・・・・・・。」
 「シンジ・・・・・・・・・。」
 僕は体を離すと、アスカの唇を奪った。
 重なる二人の影。
 それは、永遠に続くのでは無いかと思った。
 

 アスカが落ち着くまで、僕はキスを続けた。
 “アスカ、ごめんね。こんな情け無い僕だけど、一生君を守りづづけるよ。”
 その時僕は心でそう誓った。
 その思いが伝わったのか、アスカが僕から離れた。
 そして、マナとすごした一週間の事をアスカに伝えた。
 


 夕日が空と公園の木々を赤く染める頃。
 僕達は、寄り添いながら家へと向かった。
 僕は思った。
 “愛するアスカのために、精一杯の気持ちを込めた夕食を作ろう。
 そして今夜、彼女にもう一度この思いを告げよう”と。
 



 二人で人気の無い道を夕日に照らされながら歩いていると、不意に道路へ一つのボールが転がり出てきた。
 そして、それを追いかけるように一人の子供が飛び出してきた。
 その刹那、角から出てきた車が速度を上げ、その子供に迫った。
 「危ない!!」
 子供のもとへ駆け寄るアスカ。
 それに続く僕。
 激しいブレーキの音。
 子供を突き飛ばすアスカ。
 『ドス!』と言う鈍い音。
 アスカに突き飛ばされた子供の泣き声。
 すべてが僕の目にスローモーションで映し出された。
 
 
 車の前でうつぶせに横たわり、動かないアスカ。
 そして、地面には大量の血が流れていた。
 僕はそこへ駆け寄ると、その体を抱き起こそうとした。
 しかし、
 「動かすな!!」
 僕の背後から、ガードの諜報部員の声がした。
 「本部、緊急事態発生。セカンドチルドレンが、事故にあった。
  至急緊急手配を頼む。」
 別の諜報部員の声が、僕に事態の重大性を気が付かせた。
 「アスカぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 僕は動かないアスカを見ながら、そう叫んでいた。
 


 2分としないで救急ヘリが到着し、僕とアスカはヘリで病院へと連れて行かれた。
 病院に付くと、待機していた医師や看護婦が、
 「緊急手術の用意を!!」
 とか、
 「輸血の用意も!!」
 とか言っていたが、僕にはアスカの事しか考えられなかった。
 

 アスカがオペ室へと運ばれる時、僕は最後までアスカの手を握り締めて、
 「アスカっ!目を開けてよ!!死なないでよっ!!」
 と呼びかけ狂ったようにすがり付いていたが、アスカから返事が帰ってくることは無かった。
 その後駆けつけたミサトさんに制止されながら、アスカがオペ室の扉の向こうへ消えて行くのを見ていた。
 「アスカァァァァァァァァァ!!」
 僕の叫び声だけが廊下に響いていた。




 ミサトさんになだめられた僕は、近くの長椅子に座りながら、
 「ミサトさん。アスカ、死にませんよね。また笑ってくれますよね。」
 と、問いかけ。
 ミサトさんも、
 「大丈夫よ、アスカが貴方を置いて死ぬわけ無いじゃない。」
 と、涙声で答えてくれた。
 そして、僕とミサトさんは、本当の兄弟のようにそして親子のように、肩を寄り添いながら『手術中』の
 ランプが消えるのを待っていた。
 しかし、それは1時間経っても消えず、僕はいつの間にか、ミサトさんの膝枕で眠っていた。
 そして、アスカの夢を見ていた。







 「バカシンジ、なに辛気臭い顔してるのよ。」
 いつもの調子で話し掛けるアスカ。
 「だって、アスカがあんな事に・・・・・・・・・・。」
 「あんたバカぁ?アタシを誰だと思ってるの!!
  天才、アスカ・ラングレー様よ!!
  こんな事で死ぬわけ無いでしょ。」
 そう言うアスカは、いつもの自身たっぷりのあのポーズをしていた。
 「でも、あんなに血が出てたし。」
 「ウルサイ!!アタシが死なないって言ったら死なないの!!」
 「でも・・・・・・・。」
 「デモもストもな〜い!!」
 「うん、そうだね。アスカは死なないよね?」
 「そうよ!!第一、バカシンジを残して死ねるわけ無いじゃない!!
  だからね、そんな悲しそうな顔をしないで。お願い。」
 「解ったよ。」
 僕がそう答えると、アスカはニッコリと笑ってくれた。
 ・
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 ・
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 ・
 ・
 「・・・ジ君」
 「・・ンジ君」
 「シンジ君、起きて。」
 僕は、ミサトさんに揺り起こされていた。
 「・・・・・・・・・。」
 「シャッキとなさい!!シンジ君!!」
 「あ、ミサトさん。」
 そう言って体を起こすと、
 「終わったみたいよ。」
 と言って、ミサトさんはオペ室のドアの方へ視線を動かした。
 「アスカは、大丈夫ですよね。」
 僕は、自信を持ってそう言った。
 「大丈夫よ。きっと手術も成功しているわ。」
 ミサトさんも、自信を持ってそう言っているようだった。
 「ミサトさん。今、僕はアスカの夢を見ました。」
 「シンジ君も?」
 「え?」
 僕は、ミサトさんの言葉に驚いていた。
 「実はワタシも見たのよ。」
 「ミサトさんも?」
 「ええ。夢の中でアスカが言ってたわ。
  バカシンジを残して死ねないって。」
 「僕にもそう言ってました。」
 「だから、大丈夫。」
 「そうですね!大丈夫ですよね!!」
 僕がそう言った時、オペ室のドアが開き、そこから出てきた医師が、
 「手術は大成功です。幸い脳の損傷はありませんでしたし、腹部の損傷も軽いものでした。
  ただ出血がひどかったので時間はかかりましたが、もう大丈夫です。
  後は患者さんが意識を取り戻すのを待つだけです。」
 と、僕達に伝えてた。
 その後ろから、穏やかな寝顔のアスカがストレッチャーに乗せられて運び出されてきた。
 僕はアスカのもとへ駆け寄ると、
 「アスカ、良かったね。」
 と、涙で歪んで見えるアスカの顔を見ながらそうつぶやいていた。





 アスカが病室に移されてから、4日後。
 僕は、アスカの横にいた。
 「アスカ、早く目を覚ましてね。」
 僕は、このところ毎日アスカに同じ事を言うと、そっとキスをしていた。
 そして、面会時間ぎりぎりまで、病室で付き添うと、
 「碇さん、面会時間終了ですよ。」
 と看護婦さんが声を掛けるまで、アスカの手を握っていた。




 そして、アスカが入院して1週間が経った頃、僕達は中学を卒業した。
 


 「それじゃ、碇君。アスカの事よろしくね。」
 「ほな、センセ。しっかりな。」
 「シンジ、頑張れよ」
 卒業式の帰りに病院へお見舞いに来てくれた委員長達が、
 僕とアスカの卒業証書を病室のテーブルの上に置くと、そう言って帰って行った。
 その、卒業証書を手にしながら僕は、
 「アスカ、早く起きて。
  トウジ達が、コレをもって来てくれたんだよ。」
 と言い、いつもの目覚めのキスをした。
 いつもは、動かないアスカの唇にただ僕がキスをしているだけだったのだが、その日は違った。
 「・・・・・?」
 僕のキスに答えるように、アスカの唇が動いた。
 「あっ。シンジ、おはよ。」
 「アスカ?」
 「何、どうしたって言うのよ?」
 「アスカぁぁ。アスカぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 僕が大声を上げってアスカを抱きしめると。
 「ちょ、ちょっと痛いわよ。
  それよりここはどこなのよ。」
 いまいち状況が飲み込めないと言った表情でアスカがそう尋ねてきた。
 「アスカ。覚えてないの?」
 「何の事よ。」
 「アスカは、小さい子を助けようとして、車にはねられたんだよ?」
 「え?アタシが?」
 「そうだよ。」
 「どうりで、体中に違和感が有るんだ。」
 「アスカ、良かったね。
  僕は、君が事故にあったとき、もうダメなんじゃないかと思ったんだ。
  せっかく思いが通じたのに、心が通じ合ったのに。
  もう僕はアスカの笑顔を見られないんじゃないかって思ったんだ。」
 僕は涙をこらえて肩を震わせると、アスカが僕の頭に手を廻して、
 「バカね。アタシがアンタを置いて、死ぬわけないじゃない。
  ホント、バカシンジなんだから・・・・・・・・・・・・。」
 と言って、優しく僕の髪を撫でてくれた。
 そして、アスカはそっと目を瞑った。
 僕にはそれが何を求めているのかすぐにわかった。
 そして、僕はアスカにキスをした。
 長い、長いキス。
 そして、どちらからでもなく唇を離す。
 「アスカ、愛してるよ。
  世界の誰よりも。
  これから、僕達の間に出来るであろう子供達よりも、僕は君を愛してる。
  そして、君を悲しみからずうっと守って上げる。
  少し頼りないかもしれないけれど、こんな僕を愛してくれますか?」
 「シンジ、愛してるわ。
  世界の誰よりも。
  これから、アタシ達の間に生まれてくるであろう子供達よりも。
  そして、貴方を悲しみからずうっと守って上げる。
  わがままで、素直のなるのには時間が必要かもしれないけれど、
  こんなアタシを愛してくれますか? 」
 僕達は、互いに心の中にある思いを伝えた。
 そして、 
 「「愛します。
  そして愛しています。
  今までもこれからもずっと。」」
 そして、僕達はまた長い長いキスをした。








 おまけ


  そんな二人を、たまたま目撃してしまったミサトとリツコは、と言うと。
 「良かったね、シンちゃん、アスカ・・・・・・・・・・・・・・。
  それにしても長いキスよねぇ。
  アスカが退院したら、少しからかっちゃおうかなぁ。」
 「くやし〜。
  あぁ、碇司令。
  あんな、あま〜い言葉で私に告白してください。
  じゃ無いと、私は百合に囲まれてしまうわ〜。」





 同時刻ネルフ司令部にて
 『ゾクッ!』
 司令室で、書類に目を当していたゲンドウが悪寒を覚えていた
 そして、そのゲンドウの顔色が優れない事に気が付いた冬月が
 「碇、どうした。
  風邪か?」
 「フッ、問題ない。」
 「無理するな、新型肺炎もはやっているしな。
  お前は先週、北京で会議だっただろう。
  早退してはどうかね。」
 「冬月先生、後は頼みます。」
 「ああ解った。病院に行くんだぞ。」
 冬月の言葉を背中に受けて、ゲンドウは部屋を後にした。



 その日碇ゲンドウが悪寒を覚え早退した事は公式には記録されず、真相は副司令の冬月しか知らない。
  


 
次回予告 
     そして、話は現在へ。
     マナとマナの関係は?
     ケンジは参考になったのか?
     次回、参考はあくまでも参考
      ご期待ください。





 




 あとがき
     また、長くなってしまいました。
     どうも、すみません。
     頭の中では後2つです。
     ちなみに小生に友人には、中学の時に集中治療室から生還したつわものがおります。
     その友人は、80Kmくらいのスピードの車にはねられたそうです。
     でも、今もピンピンしてます。
     それに、この話では絶対アスカが事故死するわけありません。
     LASですし、プロローグで生きてるし。
     先にも言ったように、後2つです。
     文章にまとまりはありませんが、もうチョッチお付き合いください。


アスカ:アタシまで死んじゃうかと思ったわよ。

マナ:仲良く2人であの世で遊びましょ。

アスカ:ヤーよっ!!

マナ:自分だけ、ラブラブずるーいっ。

アスカ:今回の事件で、2人の絆はより強くなったのよっ。

マナ:もう、わたしには2人の間に入り込む隙間はないのね。

アスカ:って、アンタもうこの世にいないじゃん。

マナ:いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
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