第5話 参考はあくまでも参考


 「と、言うこと何だけど、参考になったかな。
  やっぱりケンジも自分の言葉で伝えたほうが良いよ。」
 シンジは話しを終えると、ケンジそう告げた。
 「解ってるよ。
  第一、パパ達と俺とじゃ環境が違うしね。」
 頭をかきながら答えるケンジ。
 すると突然、
 「アンタ、バカぁ?
  シンジとアタシは、つらい戦いの中で愛を育てて行ったの。
  第一、環境が違うも何も、アタシ達のユニゾンに適うわけないでしょ!!」
 と、シンジの隣で話を聞いていたアスカが、ケンジの頭をひっぱたいた。
 「イテッ。解ってるよ。
  パパもママもいまだに熱々カップルだもんね。」
 ケンジの言葉に、シンジとアスカは顔を赤くした。
 「それしても、パパとママってそんな事があったんだ。」
 「そうよ。だからね、ケンジもマナもママの次に愛されてるんだから
  しあわせにならないとね。」
 「う〜ん。ママの次ってのが気に食わないけど、私はそれでいいわ。
  だって私は、世界で一番パパを愛しているから。」
 「ちょぉっと、マナちゃん。
  それは、どう言う事かしら?」
 「だから、今の所パパ意外の男の人に興味がないって事。」
 「ダメよ!!シンジはアタシんだからね。
  あげないわよ。」
 「パパ〜。ママが怒った〜。
  私に優しくして〜。」
 マナはそう言うと、シンジに抱きついた。
 「ちょっと、マナ!!
  そこはアタシの指定席よ!!
  どきなさ〜い!!」
 「また怒った〜。」
 さらに強くシンジに抱きつくマナ。
 そのマナへ、
 「マナ、苦しいよ〜。
  大丈夫、マナにもすぐにいい人が見つかるよ。」
 と、シンジは優しく語り掛けた。
 「それと、アスカ。
  いい加減、自分の娘にやきもち焼くの止めてよ。
  僕は死んでもアスカ以上に愛する人なんていないんだから。」
 「解ってるわよ。」
 「うん。」
 しばし見詰め合う二人。
 そのアスカの視線に、いまだシンジに抱きつくマナの姿が入った。
 「マナ!!
  いつまで、シンジに抱き付いてるの!!」
 アスカはそう言うと、マナを引き剥がしシンジに抱きついた。
 「アスカぁ、みんなが見てるよ〜。」
 「良いじゃない。
  見せ付けて上げれば。」
 「そんな事を言ったって。
  恥ずかしいよ〜。」
 シンジがそう言うと、アスカは目に涙を浮かべて、
 「シンジぃぃ。
  アタシを嫌いになったのぉ?
  グスッ。
  いやぁぁぁ。
  嫌いにならないでぇぇ。」
 と、より強くシンジに抱きついた。
 「アスカぁぁぁぁ。
  そんなこと無いって。」
 シンジはアスカの顔を見つめると、そこへ唇を寄せた。
 その光景を見ていた観衆はと言うと、
 「イヤァァァァァァァァ!!
  アスカ、碇君不潔よォォォォォォォォォ!!」
 とか、
 「センセ、ラブラブやなぁ。」
 とか、
 「シンちゃんやるわね。
  リョウジ、負けてられないわ。
  やるわよ。」
 とか、
 「独身者には、目の毒だわ。」
 なんて事を言いながら見ていた。


 




 「あのぉ、お二人さん?
  周囲の視線が熱いのですが?」
 そういったのは、ケンジだった。
 それを聞いて、自分達の周りの状況が読み込めた二人は、飛びのくように体を離した。
 そして、
 「あんた達、なぁに見てるのよー!!」
 と、顔を赤くしたアスカが叫んでいた。

 「で、ですねぇ。」
 と、恐る恐るシンジに声を掛けるマナ。
 「何だい?」
 「アタシの名前が霧島マナさんと同じなのは何故なの?」
 「あっ、話して無かったね。」 
 「ぶぅ〜。」
 少し膨れた表情でシンジを見つめるマナ。
 その顔を見ながらシンジは、
 「それはね。
  アスカがマナを身ごもったときに、『マナ』の夢を見たんだって。」
 「夢?」
 「そう。
  そこで、『マナ』はアスカにこういったんだって。」
 そう言って目を閉じるシンジ。
 『貴女達は幸せになったのね。
  私の分まで。
  今、貴女のおなかの中に宿っている子供は、女の子。
  貴女の優秀さと私の元気良さを持ったフランス人形のような優しくてかわいい子になるわ。
  だから貴女は、もっと、もっと幸せになれるよ。』
 「ってね。
  だから、それを聞いたとき、名前はマナしか無いと思ったんだ。
  パパが愛した人が、パパの一番大切な友達を生む。
  パパとママが、その人の思いを覚えている限り、この子は幸せになる。
  だからね。」
 「じゃあ、私はパパの一番大切な友達の名前をもらったんだ。」
 「そうだよ。
  だから、マナは僕達以上に幸せにならなくちゃいけない。
  いや、幸せになれるんだ。」
 「うん。」
 「だからね、早く自分の一番愛せる人を見つけなくちゃね。」
 そう語ったシンジの目は、とても優しかった。
 「うん、そうする。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
 そう言うマナの顔を見て、シンジは驚いた。
 その顔は、自分とアスカを繋いでくれた、あの優しい少女の顔に瓜二つだったのである。
 そう、霧島マナに・・・・・・・・・。



 「で、パパに質問なんだけど。」
 今度はケンジである。
 「何だい?」
 「ママの性格からして、パパが18になったら結婚しようとするはずなのに、
  何で、20になるまで結婚しなかったの。」
 「それは、その・・・・・・・。」
 「何?」
 「だから、あれだ・・・・・・・・。」
 しどろもどろになるシンジ。
 それを見てアスカが、
 「アンタが出来たからに決まってんでしょうが。」
 「ま、そう言うことだ。
  パパは大学を卒業するまでは、と思っていたんだが。」
 「コウノトリが早く来すぎたのねぇ。」
 「はぁ、じゃあこういうこと?
  俺が出来なかったら、結婚はもう少し先だった。」
 「まあ、そう言う事ね。」
 「俺っていったい・・・・・・・・・・。」
 「何を辛気臭い顔をしているのよ。」
 「そうだぞ、少なくともパパとママにとって、お前は要らない子供じゃない。
  逆に言えば、お前が出来たからこそマナが生まれて幸せな家族が出来たんだ。
  だから、そう悲観するな。」
 シンジは、少し父ゲンドウに似た声色でそう言った。
 
  








 
 トイレに行きたくなったシンジが廊下に出ると、
 「センセ、話は終わったようだな。」
 突然、後ろからトウジが話し掛けてきた。
 「ああ、終わったよ。
  それより、これからもよろしくね。」
 「そのことかいな。
  それなら、こっちのほうこそや。」
 トウジはそう言うと、
 「フシダラナ娘ですが、よろしくおね『バキッ!!』
 トウジの言葉をさえぎるように後ろから拳が振り下ろされた。
 「あなた!!」
 そう叫ぶのは、ヒカリである。
 「なんや、ヒカリ。
  グーで殴らんでもいいやろ。」
  “委員長も変わったなぁ”
 「それを言うなら、不束なでしょ!!
  自分の娘をフシダラなんて言う父親がどこに居るんですか!!」
 ヒカリは、顔を赤くし烈火のごとく怒っていた。
 「ああ、そうか。
  なんや、勘違いしてもうたわ。」
 「碇君ゴメンね。
  家の亭主、バカだから。」
 そう言って頭を下げるヒカリを見て、シンジは笑うしかなかった。
 それを見て、ヒカリが笑い出しそれに続いてトウジも笑い出した。
 しばらく、我を忘れて笑いこける三人。
 そこへ、
 「シンジ〜。
  ファーストたちが着いたわよ〜。」
 と、アスカの声が聞こえた。
 「解ったよ、今行く。」
 そう答えるシンジ。
 「綾波たちが来たなら、ワシらも行こうか?」
 そう言ってヒカリのを、トウジが引っ張った。
 「ヒカリ。
  センセ達とも、一生付き会う事になってしもうたなぁ。」
 「良いじゃない、退屈しなくて。」
 「そやな、あの二人を見てると退屈せんでいいわ。」
 そんな二人に顔には笑顔が浮かんでいた。





 「碇君、遅れてごめんなさい。」
 そう言って頭を下げる色の白い女性は、
 かつて、ファーストチルドレンとしてシンジ達と共に戦った『綾波レイ』である。
 彼女は、サードインパクトの後その体質を改善し、当時作戦部のオペレーターであった、
 『日向マコト』と結婚し、今は『日向レイ』と名乗っていた。
 「日向さん、レイ、ありがとう。
  父さんもよろこんでいると思うよ。」
 「ごめんな、シンジ君。
  それとこれ、相田君から預かってきた。」
 そういって、彼は小さな封筒をシンジに渡した。
 「日向さん、これいつ受け取ったんですか?」
 シンジが、そう尋ねた。
 それは、当然の事だった。
 かつての『三バカ』の一人『相田ケンスケ』は、流浪の戦場カメラマンとして、世界中の戦場を駆け巡っているからである。
 彼の書いたエッセイ『流浪人ケンスケ』は世界中で大ヒットし、人々に戦争の悲しさを伝えている。
 最近、第二作めが発表されるのではないかとも噂されているのだ。
 「先日、アフガンに調停に行った時にたまたまカブールで出会ったんだ。
  そこで、コレを受け取った。
  多分、今日の事は知らなかっただろうけど、こっちも忙しくて渡しにいけなかったんだ。」
 と、マコトが言うと、
 「だから、今日、持って来たの。」
 と、レイが続けた。
 「そうですか。
  まあ、入ってください。」
 シンジはそう言うと、広間に向かいながら早速封筒を開けてみた。
 そこには、一枚の手紙と二枚の写真が入っていた。
 その手紙には、
 『シンジ、惣流、元気にしてるか?
  毎日、痴話げんかが続いていると俺もうれしい。
  世界の人々がお前達のように、思いやりのある喧嘩をしてくれると
  平和になるんじゃないかと思う。
  さて、俺は今カブールに居る。
  ココの紛争も、シンジ達のおかげでやっと終わりそうだ。
  この次は、イラクかイスラエルに行こうと思う。
  全く、宗教とか思想とかが人命より優先されるんだから、人間はどうしようもないと思うよ。
  もっと、他人同士が解りあえれば良いのにな。
  でも、お前達チルドレンが苦しみながら守った世界だ。
  いづれ平和になると思う。
  俺もその手伝いだ少しでも出来るといいと思っている。
  それでは、健康に気を付けて。
  時間があったら日本に戻るから、その時は連絡する。
  みんなで一緒に酒でも飲もう。
  では、再開を願って。                            
                                      流浪人相田ケンスケ
  追伸
   ネガの整理をしていたら、あの頃のシンジと惣流の写真が出てきたので、同封します。      』
 
 と、綴られていた。
 一通り読み終わると、シンジは写真に目を向けた。
 そこには、マナの最後の日に公園で抱き合うシンジとアスカの写真と
 アスカが目覚めた日に、抱きながらキスをするシンジとアスカの写真があった。
 「こんなもの、いつ取ったんだろう。」
 写真を見ながら、シンジが不思議そうな顔をしていると、
 「ああ、この写真なぁ、
  惣流が目覚めた日に、お見舞い行ったやろ。
  そん時とったんや。」
 「え?
  じゃあ、あの時覗いてたの?」
 「そうや、ワシとヒカリとケンスケでな。」
 「ひどいや。
  トウジもケンスケも。」
 「まあ、そんな顔をしないで。
  あの日その光景を見たから、この人も私に告白してくれたんだから。」 
  いつの間にか写真を覗きこんでいるヒカリが、シンジにそう言った。




 「さて〜。
  日向君達も来たみたいだし。
  始めるわよん。」
 宴会となると相変わらず仕切りに入るミサトがそう言った。
 「まず、喪主のシンちゃんから一言。
  それでは、どうぞ!!」
 何かのお祝いのようなテンションでそう言うと、
 「おい、ミサト。
  不幸の席なんだからもうちょっとテンション下げろよ。」
 「何をいってるのよ。
  今日は碇司令の告別式兼旧ネルフの同窓会でしょ。」
 だれが、決めたのだろう。
 会場に居たすべての人たちがそう思った。
 いつの間にセットされていた壇上に上がるシンジ。
 「加持さん、もう良いですよ。
  では、皆さん。
  本日はお忙しい中、故碇ゲンドウのために集まっていただきありがとうございます。
  父は、とてもわがままな人だったと思います。
  自己の目的のためなら他人を不幸にしてもかまわない。
  そんな人だったと思います。
  しかし、今日ここに集まってくれた皆さんは、そんな父の弱い部分を優しく受け止めてくれました。
  あの、使徒との戦いの中で父を支えてくれました。
  父は意地っ張りな人でしたので、皆さんに直接お礼を述べた事もないでしょう。
  ですから、此処で父に成り代わりましてお礼をさせて頂きます。
  本当にどうもありがとうございました。
  それと、今日はネルフの同窓会もかねております。
  乾杯の音頭は、ミサトさんに任せたいと思いますので、よろしくお願いします。
  それでは皆さん、くれぐれも飲みすぎに注意して、若年者は断る勇気を年長者はいたわる優しさを
  お願いいたします。
  特に、そこですでに5本目のエビチュに突入している、元作戦部長さん。
  気をつけてください。
  それでは、これで僕の挨拶を終わらせていただきます。」
 シンジが壇上から降りたとき、会場は笑いと拍手で包まれていた。
 そのシンジに変わって、ミサトが壇上に上がる。
 「はい、乾杯の音頭を承りました、元作戦部長、旧姓葛城ミサトです。
  皆さん、準備はいいですか?
  そこの、青葉シゲル、マナ夫妻。
  日向マコト、レイ夫妻。
  準備はいいかしら〜。
  ちょっと、シンちゃん、アスカ!!
  ワタシを無視して熱々になってるんじゃなぁ〜い!!」
 ミサトがそう言うと、会場の全員がまたも笑いに包まれた。
 「それでは、かんぱぁ〜い!!」
 ミサトはエビチュの缶を高々と持ち上げるとそう叫んだ。
 その声は良く響き渡り、一説によると新増上寺の麓にある八百屋『八百源』まで聞こえたそうだ。
 そして、酒宴が始まった。
 豪快にエビチュを飲み干して行くミサト。
 付き合わされるリョウジ。
 とめるリョウタ。
 その周りを見渡すと、
 マヤにお酌をされながら、ビールを飲むリツコ。
 互いに向き合い手酌で飲むマコトとシゲル。
 シンジを囲んでビールを飲むアスカとレイ。
 部屋の隅で、リョウコと静かに飲むケンジ。
 手当たり次第に料理をむさぼるトウジとそれをうれしそうに見つめるヒカリ。
 そこには人それぞれの幸せの形があった。
 おそらく、ケンジは近くリョウコにプロポーズするだろう。
 遠くない未来、マナにも素敵な伴侶が見つかるだろう。
 この中の誰かが、天寿を全うするかもしれない。
 しかし、この会場には、かつての張り詰めたネルフは無かった。
 そして、その宴は深夜まで続いた。

















 次回予告
     自室でアルバムをめくるシンジ。
     そこには、若かりし頃の自分とアスカが笑っていた。
     写真の中のアスカに話しかけたシンジに、優しい声が聞こえる。
     そしてシンジは・・・・・・・・・。
     次回『エピローグ』思いは永久に・・・。
     ご期待ください。













  あとがき
     やっと、此処まできました。
     忙しい身なので、足早に書き綴ってしまった文章になってしまいましたが、
     どうでしょうか?
     次回はいよいよマナちゃん再来です。
     あと1つ。
     それで最後です。
     いま、外伝も考えています。
     でも忙しい身なのでいつになる事やら。
     しばらくは、諸先輩方の作品を見学するだけにしようかな思います。
     それでは、最後までお付き合いください。 


マナ:なんで、2年も結婚が早くなってるのよっ!

アスカ:(*^^*)

マナ:ったく。やってらんないわね。

アスカ:いいじゃん。幸せまっしぐらって感じだもん。

マナ:幸せが来るのが早すぎるのよっ。

アスカ:そう妬かないの。ちゃんとアンタの名前を子供につけてあげたでしょ。

マナ:きっと、あの娘は名前がいいから幸せになるわよぉ。

アスカ:うっ・・・なんか失敗しちゃったかも。

マナ:なんでぇー!?(ーー#
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