策士策に溺れる?



 ゼーレとの最終決戦に辛くも勝利してから4年、
ネルフはまだ存在していた。
 それは、国連内で軍を統括できる組織が無かった事と、かろうじて全損を免れた初号機の存在が、
いまだ大国意識を持つ国家への保険になるとの判断からであった。
 そんな中、あの二人は相変わらず、酒と堕落をむさぼる保護者の元で共同生活を続けていた。













 「シンジ、明日加持さんとデートなんだけど、どの服がいいと思う?」
 アタシは、部屋の中からリビングにいるであろう同居人に声をかけた。
 「そんなの、僕に聞かないでよ。」
 期待通りの答え。
 「良いからさっさと来る!!」
 少し、声を大きくする。
 「全く、大体なんで僕がアスカのデートの服を選ばなくちゃならないんだよ。」
 小声でブツブツと文句を言っているようだ。
 「なんか言った?」
 「いえ、何でもありません。」
 アタシが少し目つきを尖らせると彼はそう言って、あたしの前に座り込んだ。
 「素直でよろしい。
  で、なんだけど、こっちのピンクのワンピースとこっちのブラウンのスーツ、
  どっちがいいと思う?」
 「・・・・・・・・・・・・・。」
 おそらく、無言の抗議であろう。
 「どっちなのよ、黙ってちゃわからないでしょーが。」
 「じゃあ、茶色のスーツ。」
 「じゃあって何よ、じゃあって。」
 全く鈍感なやつだ。
 乙女心がわかって無い。
 「解ったわ、あんたの意見は参考としておくから、もうあっちへ行ってもいいわよ。」
 「全く、何なんだよ。」
 そう言って彼は部屋から出て行った。
 「ふぅ〜。」
 アタシはため息を吐く。
 あの戦いが終わってから、アタシ達の関係はいっこうに進展していない。
 近頃、アタシの事をどう思っているのか、わからなくなる事がある。
 おそらく好意は持ってくれているのであろう。
 しかし、それを言葉にしてくれない。
 アタシの方は、彼、碇シンジに恋心を持ている。
 いつからかは解らない。
 あの航空母艦の上で出会ったときなのか、それともマグマの中から助け出してくれたときなのか・・・・・。
 だから、明日もシンジの心を揺さぶるために、保護者の思い人と出かけるのだ。
 「アイツがこんなに鈍感だとは。」
 5月に入ってからの連休。
 アタシは、その男、加持さんと毎日のように会っている。
 理由はこの関係を進展させるための相談。
 彼は、アタシ達の保護者に思いを寄せている。
 「加持さんには悪いと思うわ、本当に。」
 それもコレもシンジが鈍感だから悪いのだ。
 そんな事を考えていると、ふすまの向こうから、
 「アスカ、僕はもう寝るよ。
  明日デートなんだったら夜更かししないで早く寝なよ。
  じゃあ、オヤスミ。」
 と、シンジが声をかけて来た。
 「ウッサイわね、解ってるわよ。」
 おそらく、聞いていないだろうシンジにぶっきらぼうに答える。
 「全く、誰のために苦労していると思ってんのよ。」
 最近、独り言が増えていると自分でも思う。
 シンジの事を考えると、つい口に出してしまう。
 最初は、さえない奴と思っていたんだけどなぁ。
 「さて、寝坊して加持さんを待たせても悪いから、もう寝ますか。」
 アタシは、シンジが選んだスーツをタンスの取っ手にハンガーごと引っ掛けると、ベッドに入った。











 翌日、アタシは駅前にある喫茶店で加持さんを待っていた。
 カラン、コロン。
 ドアに付いている鈴が鳴る。
 「アスカ、待たせたね。」
 「加持さんおっそ〜い。」
 「悪い悪い、ちょっと道が混んでてな。」
 そう言って彼はアタシの向かいに座った。
 「ご注文は?」
 ウェイトレスが、早速注文を取りに来る。
 「君の綺麗な髪のように香る、コーヒーを一つ。」
 気障なセリフをさらっと吐き、加持さんはウェイトレスを見つめる。
 「か〜じ〜さ〜ん。そんなことだから、ミサトにいつまで経っても色よい返事をもらえないのよ。」
 「しかしな、習性と言うか、なんだな女性を前にするとこんな事の一つや二つ言ってみたくなるんだ。」
 「もう、何言ってんですか!!」
 少し声が大きくなる。
 「悪い、ミサトには内緒にして置いてくれ。
  かわりに今日は何でも奢るからさ。」
 「わーい、やったー。」
 「でも、お手柔らかにな。」
 「解ってますって。」
 それから、アタシはいろいろな物を注文しながら3時間ほど、この喫茶店で加持さんを相手に、
シンジとの事を相談していた。
 「と、言うわけなのよ。」
 「そうか、俺とに似たり寄ったりだな。」
 「加持さんと?」
 アタシは、不思議そうな顔をした。
 「俺も、葛城の気を引こうといろいろ試してるんだが、いっこうにダメなんだよ。」
 「まぁ、ミサトも鈍感だからねぇ。
  シンジほどじゃないにしても。」
 「まあ、同じ悩みを持つ物同士と言うわけだ。」
 加持さんの言葉を聞いて、アタシの天才的頭脳に一つのアイディアが浮かんだ。
 「そうだ、加持さん。
  アタシと加持さんで、シンジとミサトの心に揺さぶりをかけましょう。」
 「揺さぶり?」
 「そう、嫉妬心を駆り立てるのよ。」
 「どうやって?」
 「そうね・・・・・。」
 アタシは目の前のパフェを突きながら、少し考えた。
 「そうだ、シンジ達の前で結婚を宣言するのよ。」
 「は?」
 間抜けな声を上げるわね、加持さんらしく無い。
 「だから、結婚を宣言するの。」
 「はぁ、それからどうするんだ?
  まさか、本当に結婚するんじゃ無いんだろう?」
 「当たり前でショ。
  だから、結婚を宣言するでしょ。」
 「ウンウン。」
 「すると、シンジもミサトもビックリするわけ。」
 「それで?」
 「それで、そうね、ミサトなら『アスカ、ワタシの加持君を取らないで』となって、
  シンジなら『加持さんなんかにアスカは渡さない』ってなる訳よ。」
 「そうか・・・・・・・・・・・・・・・。」
 しばらく考え込む加持さん。
 「まぁ、信じてもらえずに終わるほうが可能性大だし、やってみるか。」
 「じゃあ、決まり。
  今すぐ行きましょ。」
 「おいおい、今すぐか?」
 「そうよ、今すぐよ。
  昔から言うでしょ、思い立ったが近日って。」
 「おいアスカ、それを言うなら吉日だろう。」
 「細かい事は気にしないで、さあ、行きましょうよ。」
 そう言ってアタシは加持さんの腕を引っ張った。
 「解ったから、そんなに強く引っ張るなよ。」
 加持さんがお会計を済ませると、アタシ達はマンションへと向かった。




 しかし、このときアスカも加持も気が付いていなかった。
 すでに、自分達の計画が破綻していた事を・・・・・・・。
 普段通りの加持なら、アスカの計画の無謀さはわかったはずだが、
ミサトの気を引きたい一心だった彼は、その計画の危うさを感じ取れずにいた。







 玄関の前に立って、最後の打ち合わせをする。
 「じゃあ、良い?」
 「おぅ、じゃあ行くか。」
 アタシは、加持さんの腕にしがみつくと、二人で並んで玄関へ入って行った。
 「たっだいま〜。」
 「あ、お帰りアスカ、それといらっしゃい加持さん。」 
 「ああ、シンジ君、元気そうだな。」
 「やだなぁ、昨日会ったばかりじゃ無いですか。」
 緊張のあまり、変な事を口走る加持さん。
 その腕を、軽くつねりながらアタシは視線を飛ばす。
 「それよりシンジ君、葛城は?」
 「ミサトさんですか? 
  ミサトさんなら、そこですよ。
  加持さんの後ろ。」
 それを聞いて、アタシと加持さんは後ろを振り向く。
 「あっら〜、アスカに加持君ラブラブねぇ。」
 「あったり前じゃない。
  ミサト、シンジよぉ〜っく聞くのよ。」
 「何?」
 そこでアタシは大きく息を吸い込み、声高らかに宣言した。
 「このたび、アタシ、アスカ・ラングレーと加持リョウジは結婚する事になりました!!」
 「まあ、そう言うことだ。」
 やった〜、言っちゃったよ〜。
 これで後は、シンジの「加持さんなんかにアスカは渡さない」的な言葉を聞けば完璧ね。
 「そぉ、よかったねアスカ。」
 「加持君、アスカを大切にして上げるのよ。」
 へ?
 なによぉ〜もぉ、信じて無いのね。
 「加持さんこの二人しんじてないわよ〜。」
 アタシは、加持さんに助けを求めた。
 素直に受け止められたら、元も子もないじゃない。
 「おい、シンジ君、葛城、嘘じゃ無いんだぞ。」
 「解ってますよ加持さん。
  アスカ、初恋が叶って良かったね。」
 「あ、ありがとぅ。」
 ちょ〜っと、何言ってるのよアタシは。
 しかも、シンジったらあんなにさわやかな笑顔まで浮かべちゃって。
 「加持さん、アスカは僕の・・・・・・・・・・。」
 待ってました。
 そうよ、シンジ。
 言って上げなさい。
 いや、いってちょうだい。
 アスカは僕の一番大切な人だって。
 「僕の大切な家族です。
  不幸にしたら、承知しませんよ。」
 そうそう、大切な家族ってどう言う事よ。
 「な、な、な、何ですってぇぇぇぇ。」
 取り乱してしまったわ。
 ここは作戦変更と行かなくちゃ。
 「ちょっと加持さん、こっちに来て。」
 アタシは作戦変更のために、自室に加持さんを連れ込んだ。
 「加持さん、どう言う事なのよ〜。」
 「おいおい、俺に聞くなよ。」
 「う〜ん。」
 アタシはしばらく考え込んでいた。
 すると、一つの結論が出た。
 「解ったわ、二人とも私達をからかってるのよ。
  そうに違いないわ。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 「それなら、こっちにも考えがあるわよ。」
 「おい、アスカそろそろやめたほうが・・・・・・・・。」
 「何言ってんのよ、加持さん。
  傷つけられたプライドは、10倍にして返すのよ。」
 「ハァ。」
 「相手の考えがわかれば後は簡単だわ。
  加持さん、ちょっと耳を貸して。」
 10分間の作戦会議の後、アタシ達は再びリビングに出た。
 「待たせたわね。
  話を進めるど、良い?」
 アタシは、リビングでお茶をすするシンジとミサトに向けて胸を張った。
 「結婚式は1ヵ月後。  
  場所は、ネルフ大会堂よ。」
 「ちょ、ちょっと。
  それって本気?」
 ミサトがあわてた態度を取った。
 やっぱりね、アタシの読みどおりだわ。
 アタシをからかおうなんて、100年早いのよ。
 「本気だけど、何か問題でも?」
 「そりゃぁねぇ。」
 加持さん、良かったね。
 ミサトが心を開き始めたわよ。
 「着る物とか、ご祝儀とか、アスカの両親の事とかいろいろあるでしょ。」
 ズルッ
 危うくコケる所だったわ。
 なんて、意地っ張りなんでしょう。
 「僕も困るよ。」
 あぁ、やっぱりシンジだわ。
 アタシの結婚が困るのね。
 「そうだ、ミサトさん明日デパートに行って服かいましょう。
  僕のスーツも見立ててください。」
 「そうねン、シンちゃんを立派な紳士にして上げましょう。」
 「そうと決まれば・・・・・。
  アスカ、冷蔵庫に夕食入ってるから。
  加持さんも良かったら食べてってください。
  アスカの料理に比べたら、味も落ちるでしょうけど。」
 そう言って、シンジは部屋へ入って行った。
 「じゃあ、ワタシも明日早いから。
  もう寝るわね。
  オヤスミ、アスカ、加持君。
  それと、一応うら若き乙女と青少年がいるんだから、あんまり激しくしないでねン。」
 ミサトもそう言って部屋へ入って行った。
 「お、おい、葛城。」
 どうしよう。
 アタシが加持さんの方を向くと、加持さんも困惑した顔をしていた。
 「加持さん、どうしよう。」
 加持さんを見上げると、
 「まぁ、明日になれば状況も変わるさ。
  とりあえず、シンジ君の飯でも食べて、俺は変える事にするよ。」
 「はぁ。
  そうね、そうしましょう。」
 しかし、加持さんの読みは違う意味で当たってしまった。












 いつもなら、シンジが起こしに来る時間。
 でも、シンジは来ない。
 「昨日は、散々だったわ。
  今日のうちに、何とかして置かないと。」
 そう言って体を起こす。
 もしかしたら夢かも、そんな淡い期待を抱きながら、リビングに出る。
 リビングに出ると、朝食と書置きが置いてあった。
 「ナにナに?」
 “ネルフに行って、その後ミサトさんとデパートに買い物に行ってきます。”
 「ハァァ。」
 夢じゃないのね。
 そんな事を思いながらテレビを見ていると、電話が鳴った。
 トルルルルルルル、トルルルルルルル、トルルルルルルル、トルルルルルルル。
 めんどくさいなぁ、今それどころじゃ無いのに。
 とは言ったものの、大事な用事だといけないので、電話に出る。
 「ハイ葛城です。ってヒカリじゃない。どうしたのこんなに早く。」 
 電話の主は親友のヒカリだった。
 『全く、どうしたのじゃ無いわよ。
  アスカ、何でそんな大事な事私に黙ってたのよ。』
 「何の事よ。」
 『加持さんと結婚するんでしょ。』
 あぁ、もう。
 誰から聞いたのよ。
 「誰から聞いたの?」
 『鈴原が、さっき電話して来た。』
 「ジャージが?」
 『そう、碇君から聞いたって。
  それより、式には呼んでくれるんでしょ。』
 「あのねぇ。」
 『うらやましいなぁ。
  私もいつかは鈴原と、って何言わせるのよ、アスカったら。』
 「だからね、その事なんだけど。」
 『え、何。
  ちょっと待ってね。
  な〜に、お姉ちゃん。』
 「・・・・・・・・・・・・・・。」
 『あ、アスカゴメン、ちょっと用事が出来ちゃった。
  学校始まったら追求するからね』
 「あ、ヒカリ。」
 『ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、』
 アタシは電話を置くと
 「はぁぁぁ。」
 と、少し長めのため息を吐いた。
 それからが大変だった。
 鈴原に相田、挙句の果てにファーストまで電話してきて、
 「おめでとう。」
 と、判を押したような祝辞を述べる。
 どこで、計画が行き違ったんだろう。
 早く誤解を解かなければ、アタシとシンジの人生が狂ってしまうわ。
 そう決心すると、アタシはネルフに向かった。







 はぁ、だけどネルフに着いても現状は変わらず。
 と言うより、悪化してたわ。
 リツコにマヤ、オペレーターの二人に司令、副指令までも、
 「おめでとう。」
 と、来たもんだ。
 途中で、加持さんに会ったんだけど、
 「こっちも大変だったよ。」
 と、疲労を隠せないでいたわ。
 そんなこんなで、逃げるようにネルフを後にしたアタシと加持さんは、
どこでボタンをかけ違えたのかを検討していた。













 しかし、時が流れるのは速い。
 あっという間に、ネルフ主導で式の日取りが決まり、今日は前日。
 昨日からミサトとシンジは松代で実験が有るとかで、いない。
 一人で食事を済ませ、自室に戻りベッドに横になる。
 「なんでこうなっちゃったんだろう?」
 アタシが素直じゃないから?
 変な作戦を立てたから?
 全く見当が付かないわ。
 アタシが好きなのは、シンジなのに。
 加持さんが好きなのは、ミサトなのに。
 この一ヶ月間、アタシと加持さんは嘘に気が付かせるために色々やった。
 「シンジぃ、このままじゃアタシ、加持さんのお嫁さんになっちゃうよぉ〜。」
 いつの間にか涙が流れていた。
 そして、アタシは眠ってしまった。









 部屋の窓から、朝日が入ってくる。
 そのまぶしい光で、アタシは眼を覚ました。
 時間は9時。
 「確か、11時だったよなぁ。」
 まだ、ハッキリしない頭で、今日の予定を思い出す。
 「はぁぁぁ。」
 長いため息。
 この一ヶ月間、何回ため息を吐いたのだろう。
 このまま、部屋を出なければ良いのでは、と思ったとき。
 アタシの部屋のふすまが、突然開いた。
 「こんなことだろうと思ったわ。」
 そこにはリツコが立っていた。
 「全く、こんな良い日に何暗くなっているのよ。」
 アタシは、それに答えない。
 「完璧にマリッジ・ブルーね。」
 そう言われて、初めてアタシは体を起こす。
 「ほぉら、顔を洗ってらっしゃい。」
 そう促されて、洗面に向かう。
 なんで、リツコが来るのよ。
 シンジだったら、全部嘘だったって話したのに。
 「ミサト達今日来られないって。
  なんか、実験長引いてるみたいよ。」
 リツコがそう言った。
 「何で、技術部のトップのアンタが知らないのよ。」
 アタシは、どうでもいい質問をする。
 何言ってるのよ、アタシは。
 リツコだけにでも、本当の事を言えば事態は変わるかもしれないのに。
 「それより、「松代の実験はマヤに任せて有るから。」」
 あたしの言葉をさえぎるように、リツコが答えた。
 「でも、意外ね。
  加持君はミサトと思っていたのに。
  やっぱり、若さかしら。」
 独り言のようにつぶやくリツコ。
 「あったり前じゃない、アタシの方が若いからね。」
 半ばやけになって答えた。
 「あらあら、言ってくれるじゃな。
  でも、それだけ元気があれば大丈夫ね。
  早く着替えて頂戴。
  下に車を待たせてあるのよ。」
 このままじゃいけない、リツコに話さなきゃ。
 「ねぇ、リツコ。」
 「なにって、もうこんな時間。
  もう、着替えなくて良いわ。
  行くわよ。」
 ちょっと、あたしの話を聞きなさいよ。
 リツコは、アタシの手を引っ張ると、マンションの下で待っていた車に押し込んだ。
 「私は、戸締りしてから行くから。
  それと、アスカ、今日の貴女、とっても綺麗よ。」
 「ちょっと、あたしの話を・・・・・・・・・・!」
 「行って頂戴。」
 リツコはアタシを無視すると、運転手にそう言った。







 そして、今アタシはドレスを着て、加持さんの隣で目の前の扉が開くのを待っている。
 開かないで欲しいけど、開くんだろうな。
 あれから今日まで、加持さんとはあっていなかった。
 「加持さん、ごめんね。」
 「なぁに、籍は入れて無いんだ。
  式が終わったら、原因を調べよう。
  と、言うより俺にはだんだん解ってきたんだけどな。」
 「え?解ってきたって?」
 「オット、始まるぞ。
  シンジ君や葛城との予行練習だと思って、気楽にやろう。」
 そう言って、加持さんは先に入って行った。
 ドイツにいるパパとママはまだ到着していない。
 どうも、ギリギリまで仕事をしていて、飛行機でこっちに着いたのが今朝だったらしい。
 道が混んでいて、間に合いそうにも無いと連絡があった。
 変わりに、司令が父親役を買って出てくれた。
 何で、こんなに張り切っているのだろう。
 「アスカ君、私は息子より娘が欲しかった。」
 さっき、こんな事を言っていた。
 シンジがかわいそう。
 アタシはそう思った。







 式は滞り無く終了した。
 誓いのキスは、加持さんが気を利かせてくれて、フリだけだった。
 披露宴の最中も、アタシはこの状況の原因を考えていた。
 披露宴が終わるまで考えていたが、答えは出なかった。
 そして、最後にアタシにとってショッキングな出来事が待っていた。
 「ネルフ司令官の碇です。
  今日は皆さんお忙しいところをありがとうございます。
  さて、ここでご報告をしなければなりません。
  先ほど、ネルフの権限を使い、加持リョウジ君、アスカ君の婚姻届が受理されました。
  よってこの時点で、新たなる夫婦の誕生となります。
  皆さん、もう一度新郎新婦に暖かい拍手を頂いて、本日の結婚式ならびに結婚披露宴を終わりにしたいと思います。」
 会場から湧き上がる盛大な拍手。
 ヒカリが、リツコが、ジャージが、相田が、
 その場にいたずべての人たちが祝福していた。
 「か、加持さん。どうしよう。」
 「こ、これは予想外だ。
  俺はともかく、アスカが×一になってしまう。
  司令も余計な事を。」
 怒りに肩を震わせる二人を、会場はうれしさのあまり肩を震わせていると思っていた。
 そこへ、アタシのパパとママがやってきて、
 「加持君、娘をよろしく頼むよ。」
 「アスカ、いい奥さんになるんですよ。」
 と、涙ながらに言ってきた。
 アタシは、いたたまれずに会場からかけ出ていた。
 







 アタシ達のためにと用意された部屋で、涙を拭おうともせずに泣いていると、
 「アスカ、シンジ君から電話だ。」
 と、後から入ってきた加持さんが携帯を渡してくれた。
 「シンジ?」
 『アスカ、もう終わったの。
  今日はいけなくてごめんね。』
 「そんなことは、どうでも良いの。
  それより、聞いて・・・・。」
 『アスカ、お幸せにね。
  それと報告。
  僕、ミサトさんと一緒になるから。』
 へ?
 シンジ、今なんて言ったの。
 「何?」 
 『僕は、ミサトさんと籍を入れたから。
  それと、第二に良い物件を見つけたから、あの部屋はアスカと加持さんで使って良いってよ。』
 「何で?」
 『あ、ミサトさん。
  急かさないでくださいよ。
  いま、行きますから。 
  あぁ、アスカ、ゴメンねもう行くから。』
 そういって、シンジは電話を切ってしまった。
 「加持さん、どうしよう。」
 「なんだ?」
 「シンジ、ミサトと結婚しちゃった。」
 「なぁにぃ!!!!!」
 「ねぇ、加持さん、どこで間違ったのかなぁ。」
 「葛城がシンジ君と、葛城がシンジ君と、葛城がシンジ君と、葛城がシンジ君と、葛城がシンジ君と。」
 「加持さん、聞いてるの!!」
 「葛城がシンジ君と、葛城がシン・・・・・。
  ダメだ、葛城は俺の女だ!!!
  シンジ君には渡さないぞ!!!!」
 だめだ、加持さんが壊れた。
 アタシだってシンジをミサトに渡すつもりは無い。
 でも、手遅れだったりして。
 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!」
 そう叫ぶあたしの横には、おそらく顔から出るであろう全種類の液体を出しながら、すすり泣く加持さんがいた。
 「キモチワルイ」

                                              The End




 「こんな、小説書いてみたんだけど。」
 そういって、私はクラスメイトの綾波さんに見せていた。
 「だめ、駄作。
  こんな文章用なし。」
 綾波さんは私の作品を投げ捨てた。
 「ちょっと、やめてよ。
  これでも一生懸命書いたんだから。」
 そこへ、これまたクラスメイトの山岸さんが通りかかったので、彼女にも私の力作を読んでもらう事にした。
 「ねぇ、山岸さん。」
 「なに、霧島さん。」
 「これ、私が書いたんだけど、読んで感想聞かせてくれない?」
 「どれどれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 「どぉ?」
 「そうね、アイディアは良いけど、構文力が足りないわね。
  もっと、読書した方が良いわよ。」
 「へぇ、すごいね、そんなこと解るんだ。」
 「まぁ、なれれば、もっとうまくなるから頑張って。」
 「うん、そうするね。」
 的確なアドバイスと感想を聞かせてもらった私は、モデルになってもらったアスカにも読んでもらう事にした。
 「アスカ、これ読んで感想とか聞かせてもらいたいんだけど。」
 私にはもう一つ作戦があった。
 これを読んだアスカが、
 「ハン、アンタばかぁ。何でアタシがシンジを好きじゃなきゃいけないのよ。
  加持さんと結婚できたほうが良いに決まってるじゃない。」
 って言うでしょ。
 そしたら、なんの気兼ねも無くシンジ君をデートに誘えるじゃない。
 だから、睡眠時間削ってこんな物を書いたんだから。
 「マナ、アタシは忙しいの。」
 「へ?」
 「こんな物読んでる暇無いの。」
 「そんなこと言わずにさぁ、読んでよ。」
 そうよ、意地でも読んでもらうんだから。
 じゃ無いと私の作戦が、台無しじゃない。
 「いらない、読まない、アンタ邪魔。」
 そこへ、愛しのシンジ君がやってきた。
 「あ、マナ、おはよう。」
 シンジ君の笑顔。
 コレを見ると、学校に来て良かったって思うのよねぇ。
 「おはよう、シンジ君」
 「それより、アスカ。」
 「何よ。」
 「今日、あそこに行くんでしょ。」
 「そうよ。
  アンタ忘れてたの?」
 「違うよ、ただアスカのドレス姿創造してたら、堪らなくなっちゃって・・・・・・・・・・。」
 「もぅ、アンタってスケベなんだから。」 
 「ひどいなぁ。」
 「そんなところをひっくるめて、アンタがすきなんだけどね。」
 ちょっとまっちくれ?
 いま、なんていいました、アスカさん?
 「ああ、そうだ。
  来月のコイツの18の誕生日にアタシ達結婚するから。」
 「へ?」
 「だから、アタシとシンジが結婚するの。
  あと、これ招待状。
  気が向いたらきてよね。」
 「みんな、来てくれるとうれしいな。」
 シンジ君、お願いだから違うといって。
 「場所は、書いてあるから。
  トウジ達は来てくれるって。」
 「どうせ、あのジャージ馬鹿は、食べ物目当てでしょ。」
 「あのぉ、それってホントなの?」
 「「うん、ホントだよ(よ)」」
 がくッ!!
 私の作戦はなんだったの?
 脆くも瓦解して行く策略。
 デートに誘うつもりが結婚式に誘われるなんて。
 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 誰か、時間を戻して!!
 私の睡眠時間を返して!!!




 朝の教室に響き渡るマナの絶叫。
 失神するクラスメイト達。
 それは、遠くはなれた屋上まで聞こえたらしい。
 

 そして、1ヵ月後・・・・・・・・。
  教会の前に参列者達が集まる。
  そこへ、淡いピンクのウェディングドレスを纏った花嫁が、少しはにかむ花婿と共に現れた。
  「センセ、オメデトサン。」
  「アスカ、綺麗よ。」
  「トウジ、洞木さん、ありがとう。」
  「ヒカリ、鈴原、ありがとう。」
  「シンジ、おめでとう。惣流を大切にな。」
  「「ケンスケ(相田)ありがとう。」」
  「碇君、アスカ、おめでとう。」
  「綾波(レイ)ありがとう。」
  『さて皆さん、これより花嫁がブーケを投げますので、女性陣はもっと前の方へお進みください。』
  司会が、そう告げると未婚女性と思われる人たちが、前に出てくる。
  「いくわよぉ〜、そ〜れ〜!!」
  アスカが高々とブーケを投げる。
  それを追う、女性達。
  しかし、ブーケは一人の女性めがけて落ちて行く。
  「はれぇぇ?」
  「ゲッ!!」
  参列したすべての人が息を飲む。
  ブーケを受け取ったのは、飲んだくれてもまだエビチュを離さない女。
  そう、ネルフが誇る酔いどれ指揮官葛城ミサトだった。
  「はれぇ?か〜じ君。
   今度は、わたしらって。」
  「じゃあ、俺も覚悟を決めますか。」
  そういって、タバコをふかすこの男の名は、加持リョウジ。
  「ミサト、加持さん、がんばってねぇぇぇぇぇ!!」
  それを見たアスカが満面の笑みで叫ぶ。
  その横でアスカに優しく微笑むシンジ。
  
  そう、二人は今、幸せの絶頂にいた。


  「シンジ。」
  「アスカ。」
  「「この幸せを、永遠に続けようね」」





                                  おしまい















 あとがき
  どもCYOUKAIっす
    また、しょうもない物を書いてしまいました。
    ゴメンなさい。
    実は、ゲームセンターでアスカのウェディングフィギュアをとりまして、
    うれしさのあまり、書いてしまいました。
    これ、短編だけど続けようと思います。
    マナちゃんが書いたSSメインのLAS。
    ちょっと、長くて疲れますね。
    最後まで読んでくれた皆様。
    本当にありがとうございます。
    それではまた。


マナ:しょ、小説・・・。(ーー;

アスカ:いったい、どうなるのかと思ったら、小説だったなんて。

マナ:あの小説・・・加持さんが読んだら、絶叫するわよ。きっと。

アスカ:あのオチは、加持さんにしたら強烈だわ。

マナ:これ以上無いってくらい、格好悪い加持さんだったわね。

アスカ:いつも、格好つけてるから、たまにはいいんじゃない?

マナ:そうね。たまには面白いかも。

アスカ:アタシとシンジも、現実の世界じゃラブラブだったし。

マナ:そっちは、面白くなーーーいっ!
作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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