ガバッ
 あまり感じの良くない夢を見ていた彼女、惣流・アスカ・ラングレーは、ベッドから身体を起こした。
 
 「夢か・・・・・・。」
 
 ふと、隣を見る。

 
 「なんだ、バカトウジか。」


 彼女はそう言うと、ベッドから降りて洗面所へ向かおうと床に目をやると、
そこには昨夜脱いだままの姿の洋服とブラが転がっていた。

 「そっか、仕事の帰りに飲んで、またコイツと寝たんだっけ。」


 『最近、会えばやってばっかいるなぁ。男は一度やらせると、いつもそればっかだからなぁ』

 
 「ま、良いか。
  1回やったら、後は100回やってもおんなじだしねぇ。」

 突然、顔を歪めるアスカ。
 足元に散らかる洋服の中から、シャツを見つけ、それ以外をもって洗面所へと向かった。
 



REPEAT of EVANGELION 
                                         作『CYOUKAI』



 第1話 夢幻



 洗面所へと入った彼女、アスカは、持っていた衣類を洗濯機に無造作に入れるとすぐにうがいを始めた。
 
 「うげぇぇぇぇぇぇぇ!
  まだ、口の中に残ってるみだい」
 もう一度口の中に水を入れると、吐き出す。
 「あのバカ、すぐにこうやって、ごまかして。
  その場しのぎだってわかってんのに。」
 そしてもう一度うがい。
 「なぁ〜んかいつの間にかズルズルっとこんな事してんだよねぇ。」
 そう言うと、彼女は洗面台から離れ、トイレへと入って行った。


 昨夜の情事の相手、鈴原トウジは中学時代からの腐れ縁。
 同窓会で会った時から、関係を持っていた。
 

 「あいつ、最近ヒカリとうまく行って無いのかなぁ。」
 
 本来、彼の相手をするはずの女性は中学時代の親友、旧姓洞木ヒカリ。


 「ま、良いか。
  気持ち良いし。」
 
 アスカは、昨夜の情事よりも、このところ見る、夢の事の方が気になっていた。


 トイレを出るとベッドの端の腰かけ、出勤着に着替えながら、アスカは夢の事を考えていた。


 『夢の中に出てくる女の子。
  同僚のレイに似てるよなぁ。
  あの夢、何なんだろ?』


 アスカは、ここ連日、奇妙な夢を見ていた。

 始めは、紅い海。
 そしてオブジェのような巨大な人面。
 その光景が印象に残る不思議な場所。
 そして、いつの間にかアスカの横に立っている青い髪で紅い瞳の少女。
 彼女はアスカにさまざまな話をし、そしてイメージを送り込んでくる。

 昨夜の夢もそんな始まり方だった。




 「アスカ、今日は碇君の話をして上げましょう。」
 「碇?
  だれそれ?」
 「今は知らなくて良いわ。
  そのうち思い出すでしょう。」
 「わかったわ、話して。」
 「そうね、じゃあ、碇君とアスカの出会いから話しましょう。」
 そう言って、青い髪の少女はアスカの額に手を置くと、話を始めた。
 これまでの夢の中での会話で、この夢の中にいる自分の状況は大体飲み込んでいた。
 まず、自分はエヴァンゲリオンと言うロボットの操縦者であった事。
 ドイツから日本へ来た事。
 そして、使徒と呼ばれる敵と戦っていた事。
 その戦いで、心と身体に大きな傷を負った事。
 仲間の少年に淡い恋心を抱いていた事。
 憎しみがそれを拒んでいた事。
 彼に自分を見ていてほしかった事。
 少女が流し込むリアルなイメージと共に、そんな話が語られていた。
 

 そして、昨夜の夢。
 『あの世界で私はあの気弱そうな碇少年と生活していた。
  なんか、懐かしい感じがしたような・・・・・』

 昨夜、夢の中で少女が語った事。
 まず、彼とは空母の上で出会った。
 来日後、作戦のために始まった共同生活を続けていた事。
 彼にはどうでも良いことですぐに突っかかっていた事。
 自分は彼を認めない癖に自分だけを見てくれない彼を憎んでいた事。
 そして、その事で支えを失って行った事。
 実は彼も心を傷つけられていた事。
 それでも、アスカを思い続けていた事。
 『夢の中での話なのにどこか現実味があったわ。』
 アスカは夢の中で見せられたイメージを思い出していた。
 『私が、何とかって言う使徒に完膚なきまでにやられた時、あの碇少年が私の名前を叫びながら木立の間を
  走ってた。
  違う使徒に心を壊された時、彼は私を護るために出撃したいと懇願していた。
  なんか、本当に体験したようなそうで無いような。
  夢なのにリアルだったなぁ。』


 着替えが終わると、ベッドに横たわる男に声もかけず、アスカは部屋を出て行った。




 長い一日が終わり、部屋へ戻る。
 
 そこには昨夜の彼はもういなかった。

 軽い食事を済ませ、小1時間ほどテレビを見ると、アスカはベッドに横になった。


 『また、あの夢を見るのかぁ。
  まあ何も見ないより、楽しいし。』

 アスカは、夢の中の少女に再会するために眠りに落ちて行った。



 「アスカ、今日が最後よ。
  彼が今どうしているか。
  なぜ、そうなのかを教えてあげるわ。」
 青い髪の少女はそう告げると、アスカの額にいつもどおり手を置き語り始めた。


 「碇君は、ある大異変の中心で人と人とが互いに生きて行く事を願った。
  それは、彼が恐れた他人を受け入れ、共に生きて行く事だったの。
  そして彼は、人と人とが融合する赤い海から戻ってきた。
  もともと、他人との融合を望んでいなかった貴女と共に。
  しかし、疲れ果てていた彼はアスカがまた自分を拒絶する事を恐れた。
  そして貴女を殺そうと、首に手をかけた。
  でも、出来なかったの。
  なぜなら、貴女が彼の頬を優しく撫でたから。」
 
 アスカの中に流れ込むイメージ。
 それは、制服姿の少年が紅いウェットスーツの様な服を着た自分の首を絞めている光景。
 
 「なぜ、彼はそんなことをしたの?」
 「それはね、貴女がいつも彼を否定し続けていたから。
  そして、疲労によって正常な判断が出来なかったから。
  だから貴女を殺そうとした。
  でも出来なかった。」
 「私が頬を撫でたから?」
 「そう、あなたがそうしたから。
  はじめて、彼にもわかる優しさを出したから。
  でもね、その事を喜び、自分の行為を恥じて泣き崩れる彼に貴女はこう言ったの。」
 
 撫でていた手を下ろすと不快感を示すような表情で何かを呟く自分のイメージが浮かぶ。
 
 「キモチワルイって。
  だから彼は貴女の前から姿を消した。
  そして、あなたの幸せのために自分は罰を受け、その代償としてこの世界を作った。
  それは碇君がイナイ世界。
  だって彼はこう考えたから。
  自分がいない世界でしか貴女の幸せは手に入らないって。」

 そして、紅い槍に胸を貫かれ、崖に磔になっている少年のイメージが、アスカの頭の中に浮かんでくる。
 
 「彼、死んでるの?」
 
 アスカは少女に問いかける。

 「死んではいないわ。
  ただ、時が止まっているだけ。」
 
 もう一度、アスカは問う。

 「どうすれば、彼は解放されるの?」
 
 再び少女は答える。
 
 「貴女が、彼の名前を思い出すこと。
  そうすれば、再び彼の時間は動き出す。
  そして、時間を遡りもう一度やり直すことが出来る、今の記憶を持ったまま。」
 
 アスカは彼女が言った、「やり直す」と言う事が理解出来なかった。

 「やり直すってどう言う事?」

 「やり直す。
  つまり、貴女を唯一同年代の少女として見てくれる碇君ともう一度出会い、
  戦い、そして大異変を止める事。
  そうすれば、貴女にも本当の幸せが訪れる。
  今のような怠惰な生活とは違う、愛と夢のある生活。」

 「今のままではダメなの?」

 「あなたがそれを望むのならそれでも良い、でも貴女をこの宇宙で一番愛してる人。
  それが、彼。
  そしてこの世界は、彼が止まった時間の中で見る夢。
  本当の世界は貴女の見る夢。
  この悲惨な世界。
  だから、お願い。
  碇君の事を思い出して。
  そして、彼の名前を呼んであげて・・・・・・・・・。」

 そう言うと青い髪の少女がだんだん透けて行った。

 「ちょっと待って、貴女の姿に似ている人が私の友人でいるのだけれど、
  彼女と貴女はどういう関係なの?
  トウジやヒカリはこっちの世界でもいるの?
  どうなの?
  答えて!!」


 消え行く中、少女が告げた答え。

 「この世界に居る貴女の知り合いは全て彼の知り合い。
  彼の居ない世界で、誰かを彼に置き換えた少し無理のある人間関係。
  そして、貴方の知る綾波レイは3人目の綾波レイ。
  私は、2人目の綾波レイ。
  この壊れてしまった世界において、同じ記憶を共有したモノ。
  リリスより生み出された、人であって人で無いモノ。
  それが私であり貴女の知る綾波レイ。」


 少女が完全に消える直前、
 「アスカ、碇君をお願い。
  そしてまた会いましょう。」
 そう言った。


 

 


 朝の日差しがアスカの顔に射す。
 そのまぶしさに目が覚める。


 「ゆめ?」
 

 アスカは朝の日差しの中、目を覚ました。


 「彼の名前?」

 夢の中で出会った少女、綾波レイが語った言葉。


 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 すぐに思い出せそうで出てこない名前。

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 何度も、その言葉を呟く。 

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」
 
 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」


 ふと目を瞑ると、目の前に浮かぶ優しい笑顔。


 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」

 「碇・・・・・・・・・・・・・・。」


 瞼の奥に浮かぶ少年の顔。
 怯えたような目。

 そして、その彼に自然に声をかけようとしている自分。


 「シン・・・・碇・・・・・・・・シン。」




 「碇・・・・・・・シンジ。」



 「そう、シンジよ、碇シンジ。
  アタシが憎み、恐れ、嫉妬し、好意を持った・・・・・・・・・・・。」


 そう言ってアスカはベッドから降りた。

 そして、

 「そうよ、彼の名は碇シンジ。
  バカで、グズで、どうしようもないけど、アイツと居ると自分を飾らないで居られた。
  アタシの大好きな、バカシンジよ!!」

 
 アスカは、叫んでいた。

 涙を流していた。
 
 そして、世界が輝きだした・・・・・・・・・・・・。



 強い光に目を細めながら、光源へと歩く。
 
 『あの夢は幻では無い。』
 
 『私が本当に居るべき場所の記憶』

 『アイツと過ごした記憶』

 アスカが一歩を踏み出す度に、世界にヒビが入る。

 まるで、卵の殻が割れるように・・・・・・・。

 そしてアスカが光源へとたどり着いた時、今までの世界が光を放ちながら崩れて行った・・・・・・・・・。

 

 次回予告:快楽と堕落の世界。
      苦しみのない世界。
      そんな世界から帰還したアスカ。
      その彼女の足元に、横たわる少年。
      彼と再会を果たしたとき、彼女と彼は・・・・・・・。
      次回 再会そして・・・・。
     
    
      真の補完は未だ終わらない・・・・・・・・・。







 あとがき:ど〜も『CYOUKAI』です。
      まず、読んでくれた皆さんありがとうございます。
      DVDボックス買った方はお解かりだと思いますが・・・・・・・・・。
      許してくださぁい!!
      あれをあれしたときに思い浮かんだ構想なので・・・・・・・・・・・(汗)。
      とにかく、知っている人は黙っててくれるとうれしいです。
      (まだ、買って無い人も居ると思うので・・・。)
      今回は、逆行モノです。
      だから、使徒との戦いも再びです。   
      戦闘の描写は経験が無いので、これからますます駄文になると思いますが、平に御容赦ください。
      それでは、もう一度読んでくれた皆さんに感謝を申しつつお別れとしたいと思います。
      それでは、また。


マナ:思い出しちゃったのね。

アスカ:あったりまえじゃん。アンタの誰だと思ってんの?

マナ:余計なことばっかり思い出すんだから。

アスカ:フッ。アタシの記憶力を舐めんじゃないわよっ!

マナ:じゃ、わたしの貸した500円のことも思い出してね。

アスカ:500円? 借りてないっ!

マナ:都合のいいことしか思い出せない、鳥頭さんなのね。

アスカ:えぇ? ほんとに借りたの?

マナ:うん。うん。

アスカ:しゃーないわね。(チャリン)

マナ:シメシメ。(^O^)\
作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system