チ、チ、チ、チ、チ、チ・・・・・・・。

 「朝か・・・。」
 
 鳥の鳴く声と、顔にあたる朝日のまぶしさ。
 
 その暖かい光に包まれて、シンジはベッドの上で目を覚ます。

 「アスカ・・・・・。」

 共にこの時に戻ってきたであろう、愛しい少女の名前。

 「綾波・・・・・・。」

 母のクローンであり、時間を遡る事に力を貸してくれた少女の名前。

 シンジは、ベッドの中で二人の事を考えていた。

 「さてと・・・・・。」

 心地良いまどろみからの離脱を決意する。

 『そうだ、ミサトさんに朝ごはんを作ってあげよう。』

 シンジは、着替えを始めながらそんな事を考えていた。





REPEAT of EVANGELION 
                                                                     
  第6話 彼女からの電話                             作『CYOUKAI』



 セカンドインパクトによって、常夏の国と化したこの国でも、朝はそれなりに心地良い。

 まだ、昇りきっていない太陽が、徐々に気温を上昇させて行く。

 「今日も暑くなりそうだなぁ。」

 シンジは、まだ人がほとんど歩いていない道を、一人コンビニへと向かって歩いていた。

 街並みはあの時と変わっていない。

 行き付けのコンビにも、自分の記憶どおりの場所にある。

 その中にいる、見慣れた店員。

 手短に、朝食の為の買い物を済ませると、シンジはコンビニを出た。

 マンションに着くまでに、数人の人とすれ違ったが、その誰もがネルフの息のかかった人間である事が、

今のシンジには理解できていた。

 『あの時も、僕達の周りは監視の目でいっぱいだったんだ。』

 犬の散歩や健康のためのジョギングをする人達。

 それが、全てと言うわけではないが、シンジを監視するための人間。

 ネルフ保安部の職員である事は、一般の人の目にはわからないだろう。

 しかし、未来から戻ってきたシンジには、彼らが何者かわかっている。

 「まあ、僕を監視するだけが目的じゃないから、気にする事は無いけど・・・・。」

 常に、監視の元に生活をすることは、楽な事ではない。

 知らなければどうと言う事は無いが、知っている分周りの目が気になる事も確か。

 シンジは、かつての自分がこのような環境で生活していた事を、改めて実感した。

 「よし、今朝はスクランブルエッグとサラダ、そしてトーストで我慢するか。」

 今日は、食料品を買いに行かなければと考える自分。

 そんな自分の姿が、シンジには懐かしかった。

 






 手際良く朝食の支度をする。

 程なく二人分の朝食が出来上がる。

 そして、ミサトに差入れする分にラップをかけ、食事を始める。

 パンとスクランブルエッグを口の中に入れ、コーヒーで流し込む。

 15分もしないで、食事は終わった。

 「さてと、ミサトさんを呼びに行こうかな。」

 恐らく隣の部屋で、おおよそ女性が生活する部屋には見えない中で、アルコール臭に包まれて、
  
 未だ惰眠を貪っているであろう、葛城ミサト。

 彼女を呼びに玄関から出て行く。




 ピンポ〜ン、ピンポ〜ン。

 
 

 インターフォンを押すが、中からの反応は皆無。



 ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン。



 もう一度、今度は少ししつこい位に、ボタンを押す。

 中の様子を伺うようにドアの向こうへ耳を澄ます。

 しかし、未だ反応は無い。


 
 ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン、ピンポ〜ン。



 さらにもう一度、今度はあからさまにしつこく、ボタンを押す。

 不意に、インターフォンから声がする。


 「は〜い、どちら様ですか?」

 明らかにまだ脳が活性化されて無い事を物語るような気だるそうな声。

 「あ、ミサトさん、僕です、碇シンジです。」

 「シンジ君?」
 
 「はい。」

 「で、用件は何かな?」

 「はい、葛城さん朝ごはんまだだろうと思って・・・・・。」

 「それで?」

 「少し、作りすぎちゃって、おすそ分けに来たんです。」

 シンジは、そう言ってインターフォンに内蔵されているカメラにお盆を向ける。

 「へぇぇ、おいしそうじゃない。
  わかったわ、今開けるから。」

 程なくして、玄関のドアが開く。

 そこには、とてもだらしの無い格好のミサトが立っていた。

 「か、葛城さん、その格好何とかなりませんか?
  非情に目のやり場に困るんですけど・・・・・・。」

 「あれ〜、シンジ君もしかして照れてる?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 顔を真っ赤にして俯くシンジ。

 「いや〜、お姉さんうれしいわ〜。
  こんな、若い子が意識してくれるなんて。」

 さらに顔を赤くするシンジ。

 「ま、良いわ。
  とりあえず、入ってちょうだい。」

 ミサトは胸元を強調しながらそう言うと、シンジを部屋に招き入れた。





 


 「ちょっち、散らかってるけど、気にしないでいいわよん。」

 あの時と同じ状態のミサトの部屋。

 床に散乱するエビチュの缶。

 恐らく、数日前に使用されたと思われるコップには、うっすらとホコリが積もっている。

 廊下は、人が歩くところ以外はホコリが積もり、文字が書けそうなほど。

 『相変わらず、掃除はして無いんだ・・・・。』

 シンジは思わずため息を一つこぼす。

 「シンジ君。」

 「はい。」

 「さっき、ワタシの事、葛城さんって言ってたけど、ミサトで良いって言ったわよね。」

 「はい。」

 「じゃあ、ミサトで良いわ。」
 
 「はい、ミサトさん。」

 シンジは、そう言うと僅かにスペースの残るテーブルの上にお盆を置いた。

 「ミサトさん、掃除はしないんですか?」

 わかっているのに、つい質問をしてしまう。

 「最近、ちょっち忙しくてね〜。
  まあ、問題無いっしょ。」

 「はあ。」

 思わず、浮かんでしまう引きつった笑顔。

 しかし、こんな所でも、『自分は、還ってきたんだ。』と実感してしまう。

 「で、何を作って来てくれたのかなぁ?」

 ミサトは、エビチュを飲みながら、シンジが持ってきたお盆の中身を覗きこむ。

 「はい、スクランブルエッグです。」

 「シンジ君は、もう食べたの?」

 「はい、来る前に食べました。」

 「そう。」

 この会話の間にも、すでに2本目のエビチュを飲み干しているミサトに、シンジは苦笑するしかなかった。

 「じゃ、僕はこれで帰りますから。
  食器は、ドアの外に出して置いてください。」

 「ええ、ありがとう。」

 「それじゃ。」

 シンジが、そう言って部屋を出ようとしたとき、ミサトが何かを思い出したように声をかけた。

 「あ、そうだ。
  シンジ君、今日午後からテストがあるから、14時に迎えに行くわ。」

 「わかりました。
  そうだ、良かったら部屋の掃除しましょうか?」

 「え?」

 「こんな、汚い部屋に女性が住んでるなんて、ミサトさんの株に影響が有りますよ。」

 「そ、そうね、お願いしようかしら。」

 「じゃあ、食事と着替えが終わったら、呼んでください。
  それまで、自分の部屋で荷物の整理をしてますから。」

 「了解。」

 「では、後ほど。」

 そう言い残して、シンジは自分の部屋にもどる事にした。







 
 シンジは自分の部屋に戻ると、早速荷物の整理を始める。

 と言っても、シンジの荷物はそれほど無い。

 家具は、昨日来たときには一通りそろっていた。

 そこへ、持って来た洋服や下着を詰めていく。

 「あ、部屋が余ってるから、チェロ専用の部屋を確保できそうだ。」

 そう言って、シンジはチェロを取り出すと、磨き始めた。

 





 1時間もかからず、荷物の整理が終わる。
  
 「ミサトさん、そろそろかな?」

 経験がそうさせるのか、シンジはミサトがそろそろ来るような気がしていた。


 ピンポ〜ン。

 
 チャイムが鳴る。

 「はい、どちら様ですか?」
 
 「シンジく〜ん、ワタシよワタシ。」

 「あ、ミサトさんですね。
  今行きますから、待っててください。」

 



 玄関に出ると、ミサトが待っていた。

 「じゃ、シンジ君、お掃除お願いするわね。
  それと、お姉さんがいないからって、下着なんかを盗んじゃダメよ〜。
  まあ、シンジ君がその気なら、下着なんかじゃなくて、
  ワタシの身体を見せてあげても良いけどね〜。」

 「ミ、ミサトさん!!」

 顔を真っ赤にして声を上げるシンジの様子がおかしかったのか、ミサトは声を上げて笑っていた。

 「はははははははは!!
  シ、シンジ君、ゴメンゴメン。
  じょ、冗談だから、気にしないで、ちょうだい。」
 
 そんなミサトを、恨みがましい目で見るシンジ。

 「ミサトさん、笑えない冗談、やめてください。
  怒りますよ。」

 「だから、ゴメン。」

 年齢が年齢だけに、愛くるしいとは言えないが、いたずらっ子のような目をして誤るミサトの姿に、

 シンジは、
 
 『この人って、本当は子供見たいな人じゃなくて、子供なのでは?』

 と、思ってしまう。

 「はぁ、わかりましたよ。」

 シンジは半ば呆れ顔で、ミサトにそう言った。

 「良かった、ご機嫌が直った見たいね。
  じゃ、これ、部屋のカードキー。
  掃除が終わったら、戸締りしておいて。」

 「はい、わかりました。」

 「カードは後でネルフに来た時に返してくれれば良いわ。」

 「はい、そうします。」

 「じゃあね、ワタシはこれから仕事だから。」

 そう言って、踵を返すミサトの後姿に、
 
 「ミサトさん、行ってらっしゃい。」

 と、シンジは声をかけていた。

 一瞬、ビクッと身体を振るわせた後に、ミサトは顔だけをシンジの方へ向けて、

 「行ってきます。」

 と、一言残してエレベーターに乗り込んで行った。




 ミサトが乗ったエレベーターが降りて行くのを確認したシンジは、

 「では、早速始めますか。」

 そう言って、ミサトの部屋に入って行く。

 今朝、確認したのと同じ状況のミサトの部屋。

 リビングから掃除を始めたシンジではあったが、それでもリビングの掃除だけで2時間。

 その間に、ごみの下から発掘(?)された物。

 それは、過去に食べ物と言われた物体の成れの果てであったり、恐らく飲み物が入っていたであろう

 コップの中には、液体が蒸発し湿度を失うまでは生息していたであろうカビの乾いた物。

 散らばる空き缶から時折出てくる、数百万年間姿を変えていないと言われる、茶褐色の昆虫。

 そして、彼らの亡骸と子孫繁栄のための黒い豆状の物。

 思わず赤面してしまう、下着の数々。

 読み捨てられた雑誌は、古本屋が開けるのでは無いかと思えるほどの、量と種類。

 さらには、恐らく機密に関わるであろう右隅に“部外秘”と書かれたレポート。

 この様な、本職のハウスキーパーでも職務を放棄してしまいそうなリビングの惨状を、

 僅か2時間で正常と思われる形にしてしまったシンジは、

 『将来、こっち系に進もうかなぁ。』

 と、本気で考えてしまった。

 

 一段落を終え、キッチンの掃除に取りかかろうとしたシンジは、そこに蠢く黒い影に思わず後ずさりしてしまう。

 「ここは、マンションのキッチンだよな。」

 シンジが目にした物体。

 それは、キッチンのいたるところを徘徊していた。

 「殺虫剤じゃ足りない。でも、殲滅しなくちゃ。」

 シンジは、そう言うとコンビニに向け全力疾走を始める。



 15分後、ミサトの部屋に戻ってきたシンジの手には、バル○ンが握られていた。



 コンビニからかって来た、最終兵器(笑)を発動させたシンジは、一回自宅に戻り、体力と精神力の回復を図る。

 その間にも、ミサトの部屋から発掘した衣料品を洗濯機の中に放り込む。

 洗濯が終わりそれを干し終えた頃、最終兵器もその役目を終え、静かに活動を停止していた。




 そんなこんなで掃除も一通り終わり、シンジが時計を見上げると、すでに開始から4時間が経過していた。

 「まいったな、お昼作ってる時間が無いや。」

 シンジは、自宅のリビングの椅子に座ると、そう呟く。

 「仕方が無い、パンとホットミルクで我慢するか。」

 キッチンに入ると、朝の内の買っておいた牛乳を温め、パンを焼く。

 それらを腹に流し込み終えたとき、迎えが来た事を示すチャイムが、部屋に鳴り渡った。

 




 身支度を整え、マンションの下で待っていた黒塗りのネルフの車に乗り込む。

 しばらく何も考えずに、窓の外の風景に目をやる。

 そこには、自分が行った戦闘行動によって破壊された、ビルが無残な姿をさらしていた。

 『そうだ、シェルターに被害が出てないか、後でミサトさんに聞いてみよう。』

 一回目の時は、シェルターに軽微ではあるが被害が及んでいた。

 その結果、これからまた通うであろう学校の同級生から、手痛い仕返しを受ける事になる。

 出来れば、被害が出ていない事を願うが、そうでなければ被害を受けた人たちに謝罪をせねばならない。

 この時シンジは、そう考えていた。






 ジオフロントにある、本部に到着すると、すぐにミサトが迎えに来た。

 「シンジ君、ご苦労様。」
 
 歩み寄るミサトに、シンジはポケットから出したカードキーを差し出す。

 「掃除、終わってますから。」

 「サンキュー。
  じゃ、早速訓練始めましょうか。」

 「はい。」

 シンジはおとなしくミサトの後に従う。






 「シンジ君、目標がセンターに入ったら、スイッチを押してくれれば良いわ。」

 聞こえて来たのは、リツコの声。

 「わかりました、リツコさん。」

 「じゃあ、シュミレーション始めるわよ。」
 
 「はい。」

 シンジが短く答えると、目の前には前回の戦闘から作られた映像が現れた。

 『センターに入れてスイッチ、か。』

 シンジは、慣れた手付きで現れる目標を撃破していく。

 『でも、実際はこんなにうまく行かないんだよなぁ。』

 記憶に残る経験。

 シンジは、この後現れるであろう使徒との戦闘を思い出す。

 『トウジとケンスケを乗せて戦いたく無いな。』

 未だ、再会していないかつての親友の事を思い浮かべる。

 『今度も友達になれるかな?』

 そんな事を考えていると、

 「シンジ君、お疲れさま、戦闘シュミレーションはこれで終わりよ。」

 と、リツコが訓練の終わりを告げる。

 「はい、わかりました。」

 そう答えると、シンジは大きく一つ息をついた。





 

 シュミレーションが終わり、コントロール室に戻ると、ミサトがニヤニヤしながら近づいてきた。

 「シンジ君、お疲れ様〜。」

 「ありがとうございます。」

 「それでね〜、お疲れの所悪いんだけど・・・・・。」

 「なんですか?」

 「ええ、ドイツ支部にいる、セカンドチルドレンが、貴方と話をしたいそうよ。
  どうする?」

 ドイツに居るセカンドチルドレン。

 その言葉に、シンジの心は動揺した。

 と言っても、悪い意味での動揺ではない。

 早く逢いたい。

 逢って話しをしたい。

 思い焦がれた、相手からの申し出。

 断る理由は何一つ無い。

 「わかりました。
  で、何処で話しが出来るんですか?」

 「今から、案内するからね。
  でも、気をつけたほうが良いわよ。
  セカンドチルドレンは女の子なんだけど、とっても気が強いのよ。
  口も悪いし・・・・・・。
  見た目はかわいいんだけどね。」

 「・・・・・・・・・・・・・・。」

 「まあ、そんなに思いつめなくても大丈夫よ。
  さあ行きましょう。」
 
 「はい。」

 ミサトの先導で、シンジはコントロール室を後にした。








 「はい、ここよ。
  とりあえず、向こうの意向で会話は一人でお願いするわ。
  盗聴とかも無いから安心してちょうだい。
  ま、盗聴されて困るような会話は無いと思うけどね。」

 「そうですね、初対面の相手と秘密の話しは出来ませんからね。」

 「そう言う事。」

 「時間はどれくらいですか?」

 「一応、1時間取ってあるけど、それ以上でも問題ないわ。」

 「わかりました。」

 そう言って、中に入って行くシンジを見るミサトは、

 『きっと、彼女にやられるわね。』

 と思っていた。





 部屋の中に入ると、事務用の机の上にTVフォンが一台置いてあった。

 受話器を取ると映像が写り、そこには待ち焦がれた彼女が写っていた。

 『アスカだ!』

 「もしもし、始めまして。
  サードチルドレンの碇シンジです。」
 
 初対面の相手にする、お決まりのセリフを吐く。

 「貴方がサードチルドレンね。
  アタシは惣流・アスカ・ラングレー。
  アスカで良いわ、アタシもアンタの事シンジって呼ぶから。」

 「アスカ・・・・・・。」

 思わず、涙がこぼれそうになる。

 「あんた、泣いてるの?」

 そう言う、アスカの目にも涙が浮かんでいるのがわかる。

 『嬉しくてね。』

 口だけを動かして、相手にそう伝える。

 それを見たアスカの口も、
 
 『アタシもよ。』

 と動く。

 「そっちは、うまく行ってる?」

 「うん、うまく行ってるよ。」

 「アタシもすぐにそっちに行くから、待ってなさいよ!」

 「うん。」

 「それと・・・・・・・。」
 
 不意に言葉を止めるアスカ。

 「どうしたの?」

 シンジが呼びかけると、アスカは顔を真っ赤にして、

 「浮気するんじゃないわよ。」

 と、蚊の鳴くような声で言う。

 「そ、そ、そんな事、するわけ無いじゃないか!」

 思わず声を、大きくしてしまったシンジは、辺りを見回す。

 「なに、きょろきょろしてんのよ!!」

 「あ、なんでもないよ。」

 「そう、なら良いわ。」

 「そう言えばさ・・・・・・・・。」

 それから、二人は2時間の間会話を続けた。

 自分達が未来から戻ってきた事。

 初対面では無いことを回りに悟られないようにするための打ち合わせや、

 何気ない近況報告。

 そんな会話を続けているうちに、タイムリミットが来てしまった。

 「シンジ、どうやら時間みたい。
  アタシこれからシンクロテストだから、行くわね。」

 「うん、頑張ってね。」

 「じゃあ。」

 アスカはそう言うと、モニターに顔を近づけた。

 画面いっぱいに広がるアスカの顔。

 シンジは、それが何を求めているのかすぐに理解し、行動に写す。

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」

 モニター越しのキス。

 別れ際に、
 
 「今度は、あった時にネ。」

 アスカはそう言って、電話を切った。






 通話が終わると、シンジはすぐに部屋を出る。

 ミサトは、部屋の前で2時間待っていたようで、

 「シンジ君、電話長かったねぇ。」

 と、ひやかしてきた。

 「そんなこと無いですよ。
  実戦を経験した僕に、彼女から質問されただけです。」

 「でも、2時間よ?」

 「それは、僕が説明するのが下手だから・・・・・・・。」

 「ま、そう言う事にしておきましょう。
  で、どうだった、彼女の印象は?
  かわいかったでしょう。」

 「そ、そうですね。」

 とたんに顔を赤くするシンジ。

 それを見たミサトはいたずら心をくすぐられた様で、

 「シンジ君、惚れちゃった?」

 ミサトの言葉を聞いたとたん、さらに顔を赤くして俯くシンジ。

 「まあ、もうしばらくすれば、彼女も来日するから。
  その時、実物を見られるわよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 シンジはこの後休憩室に移動して2時間、ミサトの攻撃を受ける事になる。



 
 仕事に一段落ついたリツコが休憩室に入ると、顔を赤くして俯くシンジと
 
 それをからかって喜ぶミサトの姿があった。

 「ミサト、あなた何やってるの?」

 呆れ顔で、ミサトに尋ねる。
 
 「ちょっと、シンジ君とコミュニケーションをね。」

 「コミュニケーションね・・・・・・。
  どうでも良いけど、シンジ君かわいそうよ。
  そろそろ開放してあげたら?」

 「そうね、じゃ、これで終わり。」

 ミサトはそう言うと、シンジの頭を優しくなでる。

 そして、

 「じゃ、帰りましょうか?」

 シンジに帰宅をうながした。

 やっと開放されたシンジは、顔を上げると、

 「はい、ミサトさん。」

 と言って、微笑んでいた。


 『やだ、この子こんなに良い笑顔するの?』

 リツコはその笑顔を見て、ときめいている自分に気がつく。

 『でも、だめね。
  彼は子供だもの。』

 自分が行っている仕事が、彼ら子供達を死の淵に追いやっている事。

 その自分が、彼らに感情を持つことは許されない。

 非情でなければ、この仕事は出来ないと言う事を、誰よりも知っているリツコだった。

 「それじゃ、リツコ。」

 「さようなら、リツコさん」

 二人がそう言って出て行くのを、複雑な心境で見送る。

 そして、その背中に、

 「ミサト、シンジ君、またね。」

 と声をかけた。









 ミサトの愛車アルピーヌが止めてある駐車場に向かうシンジとミサト。

 その後を追う、清掃員姿の少女。

 「今日こそ、彼の家を突き止めなくちゃ。」

 モップを手にした彼女は、自分が場違いな場所に迷い込んでいる事に気がつかない。

 「お〜い、そこの掃除屋さ〜ん。」

 施設内を巡回してた警備員が彼女に気がつく。

 前方を歩く二人に夢中で、彼女はそれに気がつかない。
 
 ゆっくりと、彼女に近づく警備員。

 「おい、君!」
  
 突然、肩をつかまれた彼女は、軽く悲鳴を上げる。

 「キャ!」

 「ここは、入っちゃダメだよ。」

 「あ、すみません。」

 とっさに頭を下げる彼女。

 「一応規則だから。
  名前、教えてくれる?」

 そう言って、携帯端末を取り出す警備員。

 「はい、新東京クリーニングの霧島マナです。」

 それを聞いて端末を操作し、照合する警備員。

 「はい、霧島さんね。
  確認取れたから・・・・・。
  そうだ、ここまで来たついでだから、保安要員詰め所のトイレ、掃除して置いてくれる?」

 「え?」

 「最近、滅多に掃除して無くてね。」

 「は?」

 「かなり汚れてるから、よろしく!」

 「へ?」

 「じゃあ、案内するからね、着いてきて。」

 そう言って、彼女、霧島マナを連れて行く警備員。

 『ちょっと、離してよぉぉぉぉぉぉ!!
  今日こそ、サードチルドレンの居場所と名前を確認しなくちゃいけないのにぃぃぃぃぃ。』

 心の中でそう叫ぶが、警備員は素知らぬ顔。

 「はい、着いたよ。」

 ドアが開かれると、悪臭立ちこめる男子トイレが現れる。

 「じゃあ、よろしく!!」

 「はぁ。」

 『もう嫌!!
  なんで毎日トイレ掃除しなくちゃいけないのよぉぉぉぉぉ。
  しかも、鼻が曲がりそうなこの臭い。
  絶対、配置換えしてもらうから!!
  こんな事じゃ、仕事が進まないじゃないのよ!!』

 とは言うものの、やらないと疑われてしまうわけで。

 泣く泣く、マナさんはトイレ掃除を開始。

 1時間かけて、誰も文句の言えないほど綺麗に掃除をした・・・・・・かどうかは、誰も知らない。


 「もう、トイレ掃除はイヤァァァァァァァァ!!」

 少女の絶叫は、トイレの中に響き渡った。 
  


















 次回予告:非日常の世界と日常の世界が交差する。
      ミサトに学校へ通うように指示を受けるシンジ。
      そこには、懐かしい顔ぶれがそろっていた。
      感慨にふけるシンジ。
      果たして、シンジはトウジに殴られるのか、
      それとも・・・・・・。
      次回『友達』
      


      真の補完は未だ終わらない・・・・・・・・・。
 






 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      やっと、名前が判りました。
      掃除屋さんの女の子。
      でもあんなことで、めげてちゃいけません。
      これからも、いろんな所を掃除してもらいますから。
      そのうち、同じ学校にも通えるかも知れませんけどね。
      でもしばらくは、掃除屋さんで行こうと思います。
      では、今回もキングオブ駄文に付き合っていただきき
      ありがとうございます。
      それでわ、また 


アスカ:シンジと2時間も話しちゃった。(*^^*)

マナ:わたしは、1時間もトイレ掃除しちゃった。(ーー#

アスカ:今の世の中、発達した通信手段があるから便利よね。

マナ:今の世の中、発達したトイレ掃除用品があるから便利よね。(ーー#

アスカ:よかったじゃん。(^^v

マナ:よくないっ! どうしてシンジに会えないのよっ!

アスカ:アンタは仕事で忙しいからよ。(^^v

マナ:トイレ掃除は、わたしの仕事じゃないっ!!!(▼▼#

アスカ:モップ片手に似合ってあるわよ? もっと、いろんなとこ掃除してね。(はーと)

マナ:CYOUKAIのヤツっ! 燃え足りなかったようね。 完全にわたしを怒らせたわねっ!(▼▼# (ジャキーーーーン!)
アスカ:なんか、ヤバくなってきたから、アタシは帰るわっ。さよならっ!(ぴゅっ!)

マナ:真っ白な灰になるのよっ! CYOUKAI! 火炎放射器発射っ!(ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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