シンジは、あの懐かしい学校へと来ていた。

 「今日から、このクラスに転入して来た、碇シンジ君です。
  みんな、仲良くしてあげてください。」

 担任の教師が生徒にそう告げる。

 「じゃあ、碇君、自己紹介をお願いしようかな。」

 シンジは、担任に促され教壇の中心へと立つ。

 「今日からお世話になる、碇シンジです。
  ここへ来る前は、長野に居ました。
  これから、よろしくお願いします。」

 転校生の決まり文句。

 シンジは、その間にクラスを見回して見る。

 そこには、メガネの少年とジャージがトレードマークの少年。
 
 そして、今はまだここに居ない彼女の親友となる、おさげにソバカスの少女。

 彼にとって懐かしい面々が居た。




REPEAT of EVANGELION 
                                                                     
  第7話 『友達』                                  作『CYOUKAI』

 

  シンジが、学校への転入を言い渡されたのは昨日。

 テスト終了後、ミサトのアルピーヌで帰宅をしている途中のことである。

 「シンジ君、突然で悪いけど、明日から学校へ行って貰うわ。」

 シンジにとっては、わかりきった事。

 しかし、多少の時間のズレがある事も確か。

 「学校ですか・・・・・。」

 俯きながら答えるシンジ。

 ミサトは、サングラスの中から視線だけ動かして、その様子を見る。

 「学校は嫌い?」

 「いえ、そう言うわけではありません。」

 この時シンジは学校と言うより、そこに居る人間に不安を覚えていた。

 「なら、明日の朝、レイが迎えに来るから、案内してもらって。」

 「はい、わかりました。」

 シンジはここで、思い切って不安の原因について質問してしまうことにした。

 「あの、ミサトさん。」

 「なぁに?」

 「この前の戦闘で、壊れたシェルターとか、大怪我をした人とかは居ないんですか?」

 シンジの質問に、ミサトは視線を逸らす。

 「居ないとは言いきれないわね・・・・・・。」

 「ミサトさん、正直に教えてください。」

 「シンジ君、それを知ってどうするつもり?まさか謝罪して回るとか考えて無いでしょうね。」

 「そう言うわけじゃありません。
  僕はこれからここで戦って行くわけですよね。
  その事で傷ついたり悲しんだりする人が居ることを忘れてしまえば、この先自信を持って戦え
  無いじゃないですか。
  だから、僕自身のけじめとして、知っておきたいんです。」

 ミサトは、驚きを隠せなかった。

 事前に手渡されていたシンジについての資料。

 そこに書かれていた彼の性格では考えられない発言。

 人間を調査し、それを評価する事は非常に難しいのは知っていた。

 しかし、ここまでずれてしまうとその調査書の信憑性を疑ってしまう。

 『なんなのよこの子。マルドゥックの報告書と全然違うじゃない。』

 ミサトのこの疑問は、後々シンジ達に大きく関わる事になるが、それはまだ先の事。

 「そう。
  じゃあ、正直に話すけど。
  前回の戦闘での死者はゼロよ。
  負傷者は出たけど、重傷者はいないわ。
  当然、入院した人もね。」

 「そうですか、ありがとうございます。」

 シンジは、自分の記憶にある負傷者の事。

 これから通う事になる学校にいるであろう彼のことを思い出していた。

 『トウジの妹は大丈夫だったかなぁ。
  まあ、明日学校へ行って見れば判ることだけど・・・・・。』

 シンジが考え込んでしまったので、車内には沈黙が生まれる。

 その沈黙を破るように、ミサトが口を開く。

 「シンジ君、今日は外食して行きましょうか?」

 「え?」

 沈黙を嫌ったミサトが、話題を転換した。

 「お寿司にする?それともステーキかな?
  お姉さん、何でも奢ってあげるわよん。」

 「お任せします、ミサトさん。」

 「ちょっと、他人行儀ね。
  言い忘れてたけど、住む部屋は違うけど、一応シンジ君の保護者、ワタシになってるから。
  だ・か・ら、遠慮は無用よ。」

 「はい、それじゃあ、ラーメンにしませんか?」

 自分が提示した夕食のメニューとは明らかに違う事を言うシンジに、

 「遠慮は無用って行ったわよね。」

 と、顔を歪めながら念を押すミサト。

 「別に遠慮したわけじゃありませんよ。
  ちょっと疲れているんで、麺類が食べたかっただけですから。」

 「そう。
  それじゃ、いくわよ〜!!」

 突然、スキール音を響かせコーナーを曲がる青いアルピーヌ。

 「わわっ!
  わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 突然の横Gに悲鳴を上げるシンジ。

 しかし、その悲鳴はスキール音にかき消され、ミサトの耳に届くことは無かった。


 





 シンジのリクエストで中華料理店に入り、そこで食事を済ませる。
 
 ちなみに、シンジは味噌ラーメン、ミサトは醤油ラーメンにあれこれトッピングした物。

 ミサトのラーメンが運ばれてきたとき、シンジは思わず目を疑う。

 『ミサトさんの味覚は相変わらずのようだ。』

 またもや、自分の記憶との合致点を見つけたシンジ。

 しかし、今回だけは感動以外の感情が混ざったものだった。

 『ミサトさんが手料理を作ると言ったら、どんな事をしてでも止めよう。』

 決心を新たにするシンジであった。







 店を出た二人はまっすぐ帰宅。

 途中、煽りを入れてきた国産車をブッちぎり、パトカーを突き放したが、ミサトは平然とした顔であった。

 ちなみに、助手席のシンジはかなり早い段階で意識を飛ばしていたが・・・・・・。



 

 「それじゃ、おやすみ、シンジ君。」

 「おやすみなさい、ミサトさん。」

 二人はミサトの部屋の前で別れる。

 そのまま、シンジは自分の部屋に入るとベッドに横になる。

 『明日は、学校か・・・・。
  そう言えば、綾波が迎えに来るって言ってたなぁ。
  そうだ!学校へ行くまでの間に少しは綾波と話しが出来るじゃないか。
  色々話してみよう。』

 考えがまとまると、シンジはベッドから身体を起こし、シャワーを浴びるために浴室へと向かう。

 シャワーを浴びた後に、再びベッドの上に戻ると、シンジはすぐに眠りへと落ちていった。







 そして、二回目の転校初日。

 8時丁度に迎えに来たレイと共に、学校への道を歩く。

 迎えに来たレイは、腕と頭に包帯を巻いていた。

 「私が怪我して無いと、碇君、ここには呼ばれないから・・・・・・。」

 怪我の理由をそう語ってくれたレイ。

 「そうだったんだ。
  でも、あんまり無理しないでね。
  アスカも悲しむからね。」

 「ええ、そうするわ。」

 シンジの心遣いに答えたレイの顔は、とても綺麗な笑顔だった。

 シンジとレイは少ない言葉ではあるが、他愛の無い会話を楽しむ。

 一見するとただの談笑に見えるその会話の中で、これから自分達がどうするべきなのか。

 また、自分達以外の人にどの段階で事実を伝えるべきなのか。

 昨日、電話でアスカと語り合った内容を、シンジがレイに伝えていた。

 




 程なくして、学校へ到着する二人。

 「じゃあ、私は教室に行くから。」

 「うん。」

 職員室の前までシンジを案内した後、レイは短くそう言うと教室へと向かう。

 その背中にシンジは、

 「綾波、ありがとう。」

 と、声をかけた。

 突然声をかけられたレイは、顔を赤くしていた。

 「と、突然何を言うのよ。」

 恥ずかしさに視線を合わせられないレイは、俯いたままそう答える。

 「とにかく、ありがとう。
  それと、これからもよろしくね。」

 シンジは笑顔を浮かべながら、そう言い残すと職員室の中へ入って行った。

 廊下に取り残された形となったレイ。

 いまだ、頬を赤く染めている。

 「これが、恥ずかしいという気持ち?
  でも、碇君の顔を見てるとなんだか暖かい感じがする。」

 他人に聞こえないほどの小さな声で、自分の気持ちに整理をつけようとするレイ。

 さらには、頭を二、三回横に降ると、

 「でも、ダメ。
  碇君はアスカを選んだのだから・・・・。」

 自分に再び湧き上がってしまった、淡い恋心を必死になってレイは否定しようとしていた。

 「でも・・・・・・・・・。」

 その先が、レイの口から漏れる事は無かった。





 職員室に入ったシンジは、担任に連れられて教室へ入る。

 担任からの短い紹介の後、これまた短い自己紹介を終えて、今は自分にあてがわれた机で授業を聞いている。

 
 『そろそろだな・・・・・。』

 シンジがそう考えた直後、端末にメールが届いた事を告げるランプが点く。

 “碇君があのロボットのパイロットってホントですか?  Y/N”

 『また、正直に答えるしか無いのかなぁ・・・・・』

 と考えつつも、メールに一文字だけ“Y”と書いて返信する。

 「「「「「「「え〜〜〜!!!」」」」」」」

 その答えに驚き、クラス中から声が上がる。

 ざわめく室内。

 「みんな!!授業中よ!!!」

 ただ一人、委員長の洞木ヒカリが皆に声をかけるが、その効果は無し。

 授業を淡々と進める老教師。

 ただ、窓際に座るジャージの少年、鈴原トウジだけが表情を硬くしてシンジを睨んでいた。





 放課後。

 次々と質問攻めに合うシンジは、全て「機密だから」と言って切り抜けた。

 唯一、彼らに知らせた情報は「あのロボットはエヴァンゲリオンって言うんだ。」と答えただけである。

 そんなシンジが、帰宅の準備を急いでいると、突然背後から声がかかった。

 「転校生、ちょっと顔貸さんかい。」

 振り向くと、そこにはジャージを着た少年が立っていた。 

 「いいけど・・・・。」

 そう言って、後に従うシンジ。

 『また、理不尽な理由で殴られるんじゃないんだろうか?』

 シンジは、少し不安になっていた。




 彼に連れられるまま、シンジは体育館裏にいた。

 「転校生、ワイはお前を殴らなあかんのや。」

 前回同様、何の説明も無く突然の宣言。

 「何で?」

 シンジの当然とも思える質問に答えたのは、ジャージ少年の少し後ろに立つメガネの少年だった。

 「この前の戦闘で、コイツの妹が大切にしていた豚の貯金箱が壊れたんだ。」

 その答えに唖然とするシンジ。

 「ちょっと待ってよ。
  じゃあ何、僕はそんなことで君に殴られなきゃいけないの?」

 これまた、当然の答えである。

 「当たり前や。
  ワイの妹が大切にしていた豚の貯金箱。
  しかもその中身まで、貴様のせいで全て無くなってしもうたんや。
  だから、ワイは妹のために貴様を殴らなアカンのや。」

 余りにもくだらない理由を力説する彼に、先ほどのメガネ少年も呆れ顔をする。

 「トウジ、やっぱりいくらなんでもそれは理由にならないんじゃないか?」

 「ケンスケはだまっとれ。
  ワイは、コイツだけは許せんのや。
  大切な妹の宝物を壊したコイツだけは!!」

 拳を握り、訳のわからない自論を力説するトウジ。

 『なんで、トウジはこんなに直情的なんだよ。
  だいたい、貯金箱が壊れた位でなんで殴られなきゃいけないんだ?』

 シンジは理不尽な彼の言い分に、あきれ返っていた。

 「転校生、歯、食いしばらんかい。」

 そう言って拳を振り上げるトウジ。

 『しょうがない、軽くいなして、押さえ込もう。』

 シンジは向かってくるトウジの拳を逸らして腕をつかむとその反動を利用してそのまま投げる。
 
 俗に言う一本背負いの変形である。 
 
 そのままトウジの腕を捻り、地面に押さえ込む。

 「うわぁぁぁ、な、な、なんや?」

 自分の身に何がおきたのか理解できないトウジは、素っ頓狂な声を上げる。

 『前は余り乗り気じゃなかった格闘訓練がこんな所で役に立つとは思わなかったなぁ』

 一人冷静に考えるシンジ。

 「え〜と、鈴原君だっけ?
  妹さんの貯金がいくらだったかわからないけど、後で教えてくれないかな。
  弁償させてもらうから。」

 地面に押さえつけられ、首をまわして視線だけを自分に向けるトウジに、シンジはそう言った。

 「お、おう。」

 自分の相手が、考えている以上の行動を取った事に未だ思考が着いていってないトウジ。

 それを傍らで見ていたケンスケは、笑いをかみ殺しながら、

 「転校生・・・・・いや、碇。
  やるじゃないか。
  トウジを押さえ込むなんて。
  見直したよ。」

 と、言った。

 「え〜と、相田君だっけ?」

 「ケンスケで良いよ。」

 「僕もシンジで良いよ。」

 「おい、トウジ。
  お前もなんか言ったらどうだ?」

 そう言って、ケンスケは未だシンジに押さえ込まれているトウジの前にしゃがみこむ。

 「あ!
  ゴメン、今離してあげるから。」

 そう言ってシンジはトウジの身体を開放する。

 身体を起こしたトウジは、手首を押さえて少し照れくさそうにしながら、立ち上がると、

 「転校生、やるやないか。」
  
 と、短く言う。

 「トウジ、それだけか?」

 「うるさい、わかっとる。」

 ケンスケに促され、シンジの方へ手を出すと、

 「ワイは鈴原トウジや。」

 「鈴原君。」
 
 シンジがそう言って手を握る。

 「ワイも、トウジでええ。」

 「じゃあ、トウジ。
  妹さんの貯金、明日にでも教えてくれるかい?」

 「そんなことかいな、それなら、もうええで。」

 「でも・・・・・・。」

 「ワイがええと言ったら、ええのや。」

 「じゃあ、貯金箱だけでも弁償するからさ。」

 「シンジかそうしたいなら、それでもええで。」

 「じゃあ、そうさせてくれる?」

 そう言って、シンジはトウジとケンスケを交互に見る。

 そして一言。
 
 「あのさ、友達になってくれるかな?」

 シンジが、照れくさそうにそう言うと、

 「当たり前やないか、拳を交えたワイらはとうに友達や。
  ケンスケもそうやろ?」

 「そうだね、僕達は友達だ。」

 そう言うとケンスケは、メガネを上げる。

 「ナンヤ、キザッたらしい奴やなぁ。」

 「別に良いだろ。」

 そう言うケンスケの顔が笑っていた。

 それにつられる様に、トウジとシンジも笑い出す。

 「「「はははっははははっはははははっははははは〜〜〜〜!!」」」

 変わらない絆に感謝しながら、シンジは腹の底から笑う。



 『トウジ、ケンスケ、ありがとう。』



 シンジは二人の笑顔を交互に見ながら、心の中で感謝の言葉を繰り返していた。 

 

 
 
 その頃・・・・・・。

 ここは、第3新東京クリーニングの一室。

 住み込みの作業員のために用意されたこの部屋で、霧島マナはとある所へ電話をしていた。

 「こちら、霧島です。」

 質素な部屋には場違いな、TVフォンに写っているのは、戦略自衛隊の士官と思われる男性。

 「なんだ、霧島か。
  定時連絡にはまだ早いと思うが、どうかしたか?」

 表情を変えずに言葉を発する士官。

 「どうかしたか、じゃありませんよ!!!!
  なんで、毎日毎日掃除ばっかりしなくちゃいけないのですか!!
  おかげで、サードチルドレンとは未だ接触出来ないし、仕事が全然進みません!!!
  なんとかして下さい!!!!!!」

 怒りの表情をあらわにするマナ。

 画面の中では、少し怯えたような顔で額に冷や汗を浮かべる士官の顔。

 「し、し、しかたがないだろう。
  ネルフの本部に潜入するにはそれしか方法がなかったのだ。
  我慢してくれ。」

 「いいえ、我慢出来ません!!!
  大体、私とサードを接触させたいなら、学校に転入させるとか、方法があるでしょう!!」

 「そ、そうか、その手があったか!」

 今更ながら気がついたと言うような表情の士官。

 戦略自衛隊、略して戦自。

 その組織の、士官たる物が、一少女でも気がつくことに気が付かなかったとしたら、それはそれで問題がある。

 「で、どうなんです?
  清掃員は辞めさせてくれるんですか?」

 「わかった、転入できるように便宜を図ろう。
  しかし、ネルフ本部内の情報も重要だ。
  君にはもう暫く、そこで清掃員をやってもらう。」

 「嫌です。」

 「君の意思は関係ない。
  これは、決定だ!!」

 「しかし!!!!」

 「この通話は盗聴の恐れがある。よって、これで終わりだ。」

 「ちょっと待ってくだ「ブチ!!ツーツーツーツーツー」」

 一方的に切られる電話。

 画面は既に砂嵐。
 
 唖然とするマナ。

 どうやら彼女は、清掃員の仕事を続ける運命からは逃れられそうにもない・・・・・・合掌。
 




 


 

 
     
  次回予告:変わらない絆を確認したシンジ。
       その時、前回同様の使徒来襲。
       今回も、シンジはトウジ達を乗せて戦うのか?
       それとも・・・・・・・。
       次回『トリオ再び』



     
       真の補完は未だ終わらない・・・・・・・・・。
 






 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      今回は、ケンスケとトウジとの再会です。
      シンジとトウジ、どうやって喧嘩させようか迷ってました。
      あ、くだらない理由とか言って起こらないで下さいね。
      小生にも弟がいるのですが、今回のトウジ同様(と言っても貯金箱じゃないですけど)の理由で、
      友人と喧嘩した事があります。
      まあ、兄と言う者は以外に下の者の事となると単純になり易いのかも知れないですね。
      
      と言うわけで、今回もお楽しみいただけましたか?
      
      それでは、今回も小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

      それでは、また。


マナ:やったっ! 学校に行けるようになったわ。

アスカ:ったく、余計なことを。(ーー)

マナ:よーし。学校へ行ったら、シンジに猛烈アタックよっ!

アスカ:シンジを隔離しなくちゃ、危険だわ。

マナ:スパイ行為は得意だもんっ! 隔離したって、すぐ見つけるもんねっ。

アスカ:よし、トイレに隔離するのよっ!

マナ:ト、トイレはいやぁぁぁぁぁぁぁっ!
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