REPEAT of EVANGELION 
                                                                     
  第8話 『トリオ再び』前編                       作『CYOUKAI』

  
 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ・・・・・・・・・・。

 枕元で、自己主張を始める目覚まし。

 布団の中から、手探りでそれを探すと、自己主張を停止するためのボタンを一押し。

 「ふぁぁぁぁ。」

 身体を起こすとあくびを一つ。

 「良く寝た・・・・・・。」

 未だ、活性化されていない脳細胞。

 暫く、そのままでボーっとしていると、朝の日差しに頭が冴えてくる。

 「さてと、起きるとするか。」

 大抵の人間がそうであるように、彼、碇シンジにとっても、朝のまどろみから復帰

 するには、一種のきっかけのような物が必要となる。

 心地良い二度寝の誘惑に後ろ髪を引かれながら、彼はベッドから身体を起こした。

 




 

 着替えと学校の準備を整えると、時計を見る。

 時間的にはまだまだ余裕のある時間帯。

 朝食と弁当を作りながら、昨日の出来事を思い出す。

 『昨日は色々あったけど、トウジやケンスケとも友達になれたし、いい日だったなぁ。
  それにしても、結局、トウジは妹の事になると、過剰反応起こすんだからなぁ。
  まあ、ケンスケは変わらないようだし、もっと仲良くなれそうだな。』

 事実、トウジの反応に関しては、正直、驚きの方が大きかった。

 他人から見れば“たかが貯金箱”である。

 しかし、彼にかかれば、“妹の大事な宝”になってしまう。

 前回は、怪我をさせてしまったから、殴られるのは仕方がないと思っていたが、今回は

 余りにも理不尽すぎると思ってしまう。

 結果として、前世からの記憶と言うべきか、シンジにとっての、過去の訓練の成果によって、

 痛い思いをしなくても済んだのだが・・・・・・。

 

 一度身体に身に付いた事は、多少の考え事くらいでは滞る事は無い。

 シンジは、考え事をしながらも朝食と弁当の準備を完了していた。

 

 一人には広すぎる、リビングのテーブルで寂しく朝食を食べる。

 部屋の中には、彼の咀嚼する音と、コンポのスピーカーから聞こえてくるクラシックの音のみ。

 静かな朝食となった。


 弁当を鞄に入れ時計を見ると、もうすぐ7時40分になろうとしていた。

 この時間に出られれば、学校へは余裕を持って到着できる。

 シンジは、戸締りやガスの元栓等を確認すると、鞄を手に取り玄関を出た。


 シンジがエレベーターを降り、マンションの入り口に向かうと、その外に2、3段ある階段に

 座っている一人の少女が居た。

 「綾波?」

 シンジが不思議そうに声をかけると、彼女はゆっくりと後ろを振り向く。

 「碇君、おはよう。」

 「お、おはよう、綾波。」

 なぜ彼女がここに居るのか理解できないシンジは、少しうろたえる。

 「さあ、行きましょう。」

 そう言って歩き始めるレイ。
 
 「あっ、ちょっと待ってよ。」

 シンジは、先に歩き出した彼女を小走りで追いかける。

 そして、追い付くと彼女に向かって疑問を投げかける。

 「綾波は何で、あそこに居たの?」

 「解らない、ただ何となく碇君と一緒に学校へ行きたかっただけ・・・・・。」

 「そう。」

 「迷惑だった?」

 「い、いや、迷惑じゃないけど・・・・・・。」

 「そう、なら良かった。」

 そう言ってレイは、微笑を浮かべる。

 『綾波って、やっぱり笑うと良い顔してるよなぁ』

 シンジは、彼女の微笑みに暫く見とれてしまう。

 直後、彼の脳裏に浮かぶもう一人の少女の顔。

 『アスカは浮気するなって言ってたけど、これは浮気にならないよなぁ。』

 シンジの脳裏には、怒りを露にしたアスカの顔が浮んだ。

 この事を知られた時の彼女の反応を想像し、身震いを起こすシンジ。

 そんなシンジの変化に気が付いたレイが、

 「碇君、どうしたの?顔色が悪いわ。」

 と言って、シンジの額に手を当てる。

 突然の行為に、シンジは顔を赤くしてしまう。

 「熱は無いようね。」

 「だ、大丈夫だよ。」

 二人は、立ち止まり思わず見詰め合ってしまう。

 そこへ、登校のために通りかかった、トウジとケンスケ。

 「おう、シンジや無いか。」

 「それに綾波も。」

 「二人とも見つめ合っちゃってなんか良い感じやないか?」

 二人はそう言って、静かに彼らの方へ近づいて行く。

 そして、シンジの後ろから、

 「「シンジ、綾波、おはよう(さん)!!」」
 
 と、声をかけた。

 突然、声をかけられ驚くシンジとレイ。

 「あッ!
  ト、ト、トウジ、おはよう。」

 振り向き、挨拶を返すシンジ。

 「なんだ、お前と綾波ってそう言う関係だったのか?」

 「い、いや違うよ。
  僕と綾波は友達と言うか、戦友と言うか・・・・・。」

 シンジがしどろもどろになって答えていると、

 「じゃあ、碇君、私は先に行くから。」
 
 レイは、そう声をかけると、先に歩き出す。

 シンジはその後姿に、

 「うん、また後でね、綾波。」

 と、声をかけていた。

 「さて、碇シンジ君。」

 メガネに手を当て、スゥーッと上げるしぐさをしたケンスケが、口元に笑みを浮かべながら、

 シンジに詰め寄る。

 「な、何かな?ケンスケ君。」

 「お前と綾波レイの関係を教えてもらおうじゃないか。」

 「ぼ、僕と綾波の関係?」

 「そうや、シンジと綾波、良い感じやったやないか。」

 今度は、トウジ。

 「さあ、正直に話してもらおうか?碇シンジ君。」

 再度、ケンスケが詰め寄る。

 「わ、解ったよ。話すからさぁ。
  でも、この話は、他言無用だよ。下手すると命に関わるからね。」

 シンジはそう前置きして、レイとの関係を当たり障り無く、機密に触れないように説明しする。

 二人以外には聞こえないようにボリュームを下げた声で。

 


 「なんや、綾波もネルフ関係やったんか。」

 「そう、つまり僕と綾波は同僚って事になるんだよ。
  だから、トウジやケンスケが思うような関係じゃないよ。」

 「そうか、もしシンジと綾波がそう言う関係だったら、良い被写体になると思ったんだけどなぁ。」

 少し、残念そうなケンスケ。

 それを見てシンジは思う。

 『ケンスケって、やっぱり女の子の写真を売ってるんだ。』
 
 「ま、そう言うことだから。
  それより、早く学校へ行こうよ。
  遅刻しちゃうよ。」

 「おう、そやな。」

 トウジがそう答えると、三人は学校へ向けて走り出した。




 退屈な午前中の授業が終わり、昼休みになる。

 シンジは、手製の弁当を取り出すと机の上に出す。

 「シンジ、ワイらと一緒に食おうや。」

 そう言う声に顔を上げると、そこにはトウジとケンスケが立っていた。

 「うん、良いよ。」

 シンジがそう答えると、彼らは近くの椅子を持って、シンジの机に集まる。

 彼らは、購買で販売されているパンを大量に持って居る。

 「なんや、シンジは親に弁当作ってもらってるんか?」

 シンジの弁当箱を見たトウジが、そう言う。

 「違うよ、大体僕に弁当を作ってくれる親は居ないから。
  これは、自分で作ったんだよ。」

 「そうか、スマン。」

 「いいって、誤らなくても。」

 少し重くなる空気。

 それを、解消したのは、その場に居たもう一人。
 
 相田ケンスケだった。

 「まあ、いまどき親が居ないなんて珍しくも無いだろ。」

 「そうだね。」

 「シンジもトウジも気にする事無いんじゃないか?」

 「ケンスケの言う通りや、なんか辛気臭くなってもうたが、飯は楽しく喰わなあかん。」

 「そう言う事。
  それじゃ、食べようか。」

 そうして、食事は始まった。

 自分の弁当を丁寧に食べるシンジ。

 それとは対照的にパンを貪り食うトウジ。

 普通に食事を進めるケンスケ。

 その間に繰り広げられる他愛の無い雑談。

 そうして、食事が終わろうかと言う時、ケンスケがおもむろに口を開く。

 「なあ、聞いてくれ。
  オレのつかんだ情報だと、近いうちに転校生がまた来るみたいだ。」

 「なんや、シンジが転校して来たばかりやないか。」

 「まあ、そうなんだが、この時期に転向してくると言う事は、ネルフ関係者としか思えないじゃないか。」

 「そうやな、シンジの例も有るからな。
  どうやシンジ、なんか聞いとらんか?」

 「いや、別に聞いて無いけど。」

 そう言ってシンジは不思議そうな顔をする。

 『アスカが来るのはまだ先だしなぁ。
  綾波なら知ってるかなぁ?』

 そう思ったシンジは、レイの方に目をやる。

 既に食事が終わったのか、レイは文庫本に目をやっている。

 『後で、聞いてみよう。』

 「ジ・・・・ンジ・・・シンジ!!」

 「え?ああ、何?」

 自分が呼ばれている事に気が付いたシンジが視線を戻す。

 「シンジ、熱心に綾波を見てた様だけど、やっぱりお前、綾波に気が有るのか?」

 「ち、違うよ。
  ただ・・・・・・・・・。」

 「ただ、なんや?」

 「ただ、ネルフの事は僕より綾波の方が詳しいから、後で聞いてみようと思っただけだよ。」
 
 「ほんまかぁ?」

 「ホントだって。」

 こうして、シンジは朝の事も蒸し返され、トウジとケンスケの追求をうける事になった。





 シンジへの追求は、午後の授業の開始を告げるチャイムが聞こえるまで続けられ、シンジにとっては

 つらい時間となってしまった。

 
 午後の授業も滞り無く終わり、最後のホームルームが終わると、シンジはレイの机へと向かう。

 「綾波さ。」
 
 「何、碇君。」

 「転校生が、また来るみたいだけど知ってる?」

 「私は知らないわ。」

 「そうなんだ。」

 突然のシンジの質問に、不思議そうな顔をするレイ。

 「何で、私にそんな事を聞くの?」

 「いやぁ、ケンスケがこの時期の転校生はネルフ関係者じゃないかって言うから・・・・。」

 「でも、アスカが来るのはもう少し先でしょ。」

 「それは、そうなんだけど、ちょっと気になったから。」

 「そう、でも私は知らないわ。」

 「じゃあ、ただの転校生かも知れないね。
  変な事を聞いちゃってゴメンね。」

 シンジは、そう言うと微笑む。
 
 至近距離でその笑顔を見てしまったレイの顔が赤くなる。

 「い、碇君が謝る必要は無いわ。
  じゃあ、私、先にネルフに言ってるから。」

 そう言うと、レイはシンジの顔を見ないようにして、教室を出て行く。

 『碇君の笑顔を見ると、胸がドキドキする。
  アスカには悪いかもしれないけど、私は碇君がやっぱり好き。』

 報われる事の無い恋心と知りつつも、シンジに惹かれるレイ。

 その胸の内を明かすことは、無いのかもしれない。




 その頃、新しく用意されたアパートに居を移していたマナは、少し前に渡された資料に目を通していた。

 その資料とは、戦自の諜報が入手したサードチルドレンの調査報告書。

 そこに有る顔写真は、先日ジオフロント内で確認した物と同じだった。

 「彼、碇シンジって言うんだ・・・・・。
  結構、好みかも・・・・・・。」

 写真を見ながらの独白。

 「住んでるところは・・・・・・ああ、ここね。
  え〜と、コンフォートマンションかぁ。」

 マナは、この資料と同封されて来たもう一つの書類を見る。

 そこには“霧島マナ殿”から始まる指令書があった。

 内容は以下の通り。

 “霧島マナ殿

  先日の進言を見当の結果、第3新東京市立第壱中学校へ転入する手続きが整いました。

  転入は、5日後とします。
 
  必要な物は、後日郵送いたしますので、それまでは第3新東京クリーニングにおいて、

  現状を維持して下さい。

  なお、転入後も当初の計画通り行動して頂く事となります。

  大変でしょうが奮闘努力して下さい。

                                    鈴木 四郎”


 ちなみに、鈴木某なる人物は、戦自の使う偽名である。

 「5日後か・・・・・・・・。」

 マナは、シンジとの対面に心を踊らせていた。







 そして、時間はアッと言う間に流れて、マナの転校初日。

 2年A組の生徒は、ケンスケの情報により、転校生が女子である事。

 さらに、ケンスケの主観ではあるが、そこそこの美少女出る事を聞かされていた。

 「ケンスケ、ほんまにカワイイんやろなぁ?」

 「ああ、間違えない。
  綾波ほどとは言わないが、かなりの美少女だそうだ。」

 「そうか、楽しみやなぁ。」

 「ああ、楽しみだよ。」

 トウジとケンスケは顔を歪めながらそう言った。  
 


 担任に付き添われ、教室へと向かうマナ。

 『碇シンジ君、どんな子かな?』

 これから、対面するであろう少年の事を考えていた。

 『任務とは別に、本気でアタックしちゃおうかなぁ?』

 写真のシンジを思い出しながら、ニヤニヤとさせるマナ。

 そのマナの様子を不思議そうに見ながら、担任が話しかける。

 「霧島さんは、呼ばれるまで廊下で待っていてください。」

 「はい!」
 
 顔を、真剣な表情に戻すと、マナは元気良く答える。

 それを見て、担任教師が教室へと入って行く。

 『マナ、しっかりやるのよ。
  第一印象が大切なんだから!!』

 


 教室に入った教師が、教壇に立つと、

 「起立!礼!!着席!」

 委員長の洞木ヒカリが号令をかける。

 「「「「「おはようございます!!」」」」」

 「はい、おはようございます。
  え〜、早速ですが、今日付けで転校して来た転校生を紹介します。
  霧島さん、入ってきて下さい。」

 廊下で待っていたマナは、

 『良し、行くわよ!!
  待っててね、碇シンジ君!!』

 と、決意を固め、教室へと入って行った。

 


 「はい、こちらが今日から皆さんと共に勉強する霧島マナさんです。
  では霧島さん、自己紹介をお願いします。」

 そう言って教壇の前から教師が移動し、そこへマナが立つ。

 「私、霧島マナは、碇君の為に、本日第壱中学校へ転入してきました!!」

 『やった、言えたわ!!
  これで、シンジ君に印象良く見てもらえたはず。
  なんと言っても、私みたいな美少女が、彼だけの為に転入して来たんだから!!』

 「「「「「「ぶ、ぶぶ、ぶぶぶっ」」」」」」

 『え、なになに?
  この、クラスの人たちの反応は!!』

 「「「「「「ぶゎはははっはははっははっははっはは・・・!!!!!」」」」」」

 『なんで、笑うのよ〜!!
  おかしく無いでしょ!!』

 「え〜、霧島さん、言いにくい事なんですけど碇君は今日欠席なんです。」

 「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 顔面を真っ赤にして叫ぶマナ。

 『なによ、シンジ君今日来てないの〜!!
  私の一世一代の挨拶が〜〜〜〜!!
  は、は、恥ずかしい〜〜〜〜!!』

 「ま、まあ、こう言う事は長い人生多々ある事ですから、気にすることも無いでしょう。
  それより、碇君とはお知り合いてすか?」

 当然の質問。

 今日、転校してきたばかりの少女がクラスの人間を知っている事はありえないからだ。

 その質問は、マナを慌てさせた。

 「え、ええ、知り合いでは無いんですが、先日この学校の前を通ったときに見かけて、
  好みの人だなぁなんて思ったんで、近くに居た生徒さんに聞いたんです。」

 作り笑いを浮かべながら答えるマナ。

 顔はそうでも無いが、背中は汗でびっしょりだった。

 『なんで、この先生はこんなに鋭いのよ〜〜!!』

 「そうですか、解りました。
  それでは、そこの席が開いてますので、そこに座ってください。」

 「はい。」

 マナは、自分の失態により爆笑の渦を起こしている生徒の間を歩き、教師に指示された

 席に着いた。

 彼女は、この日一日休み時間の度に質問攻めに遭う事になる。






 なぜ、この日シンジが登校して居なかったかと言うと・・・・・・・。


 
 ここは、ネルフ保安部が使用するトレーニングルーム。

 射撃、格闘の訓練が行える施設である。

 この日シンジは、戦闘のための訓練を受けるため、学校を休みネルフに来ていた。


 「碇シンジ君、今日からここで君に格闘訓練と射撃訓練を教える事となった、
  教官の松崎肇一尉だ、よろしくな。」

 「はい、松崎教官。」

 「それでは早速だが、君の基礎体力を知りたい。
  とりあえず、握力、背筋力、瞬発力、持久力の順番でテストさせてもらう。
  1時間の休憩の後に、今日は格闘の基本をやってもらおうと思う。」

 「はい、解りました。」

 「それじゃあ、早速始めよう。」

 シンジの教官に充てられた、この松崎なる男は、大学卒業後、戦略自衛隊に入隊し、

 特殊部隊に所属していた。

 その後、国連軍に出向し、アメリカ、ロシア、イギリス、フランスにおいて、各国の

 特殊部隊と交流がてら訓練に参加し、国連軍でも一目おかれる存在であったのを、

 ゲンドウが、と言うよりミサトが国連軍から引き抜いたのである。

 シンジが、ミサトに訓練に付いての相談に行った時、彼女がまず思い浮かべたのは、

 彼の存在だった。

 そこで、ミサトは作戦課長として、松崎にシンジの教官役を依頼したのである。

 


 では、シンジがなぜこの様な行動に出たかと言うと。

 サードインパクトの原因は、自分の脆さと自信の無さから来ていると言う答えを導き出し、

 それを、出来るだけ補うために、積極的に訓練を受けようと思い立ったからである。

 これは彼にとって重大な決意だった。

 元来、彼の性格からして、他人を傷つけるスキルを身に付ける事は最も嫌うところである。

 しかし、それは自分が逃げている事になる、と言う事に気が付いた。

 出来れば、使徒との戦い以外でこのスキルを使いたくは無いが、身につけておいて損は無いはず。

 また、未だ来日していないアスカの存在も大きかった。

 彼女がいくら訓練を積んでいて、腕に自信が有るといっても、女性である事には変わりは無い。

 『もしもの時に、彼女を護りたい!!』
 
 と言う、彼の気持ちの表れでもあった。

 ちなみに余談では有るが、シンジは使徒戦を通じて、この訓練を続ける事になる。

 そして、シンジ達を護衛する保安部の職員も舌を巻くほどの実力を付ける事になるのだが・・・・。



 
 午前中の基礎体力測定が終わり、シンジと松崎はネルフの食堂で昼食を摂っていた。

 「碇、君の測定結果を見ると、瞬発力や柔軟性は高くてその他が平均値、持久力については平均以下だ。
  とりあえず、今日から訓練と平行してランニングをやろう。」

 「はい、教官。」

 「それと・・・・」

 松崎はそう言うと、テーブルの下から紙袋を取り出し、その中から牛乳を取り出した。

 「今日から、食後にこれを4本飲んでもらう。」

 「牛乳を4本ですか?」

 「そうだ、これ一本で200mlだから4本で800mlだな。
  毎食後では無くて良い。
  朝食の後に飲んでくれ。」

 「はい・・・・・・・・。」

 シンジは、そう言うと少しうなだれてしまった。

 「暗い顔をするな。
  今から飲んでおけば、身長も伸びるぞ。」

 そう言いながら、豪快にカツ丼を食べる松崎を、シンジは、ただ唖然として見て居るしかなかった。

 こうして始まったシンジの訓練は、一日おきに行われる事となる。

 つまり、学校とネルフに一日おきに顔を出す事になる。

 予想される学業の遅れは、ネルフ職員の中から選ばれた講師数名により補われ、その講師の中になぜか

 赤木リツコの名も記されていた。

 また、それ以外に、持久力を着けるために毎日5Kmのマラソンが、自主トレーニングとして

 付け加えられた。

 「じゃあな、碇。
  トレーニングは、明日から始めるようにな。
  それと、牛乳を忘れるんじゃないぞ!!」

 「了解です、教官。
  それでは、失礼します。」

 午後の訓練が終わった後、シンジはトレーニングルームで松崎と別れた。

 「さてと、シャワーを浴びて帰りますか。」

 シンジは、そう言うとシャワールームへ向かった。







 その、シンジを追いかける、おなじみマナさん。

 彼女は、学校が終わった後、清掃員の仕事として、ネルフに来ていた。

 『シンジ君、今日はネルフだったんだ。』

 今日こそは、シンジと会話をしようと、後を追いかけるマナ。

 『さてと、何処へ行くのかなぁ?』

 マナは、無言でシンジを追う。

 『あ、あそこは・・・・・・・』

 シンジが入った部屋に、急ぎ足で近づくと、そこはチルドレン専用シャワー室(男子用)。

 『うふふふふふ・・・・・。
  今日ほど、この仕事が役得だと思った事は無いわ。
  私は清掃員。
  男子シャワー室に入っても、掃除のためと言い訳が出来る。
  うまく行けば、シンジ君の一糸纏わぬ姿が・・・・・・・・。
  うふふふふふふふふ・・・・・・・・。』

 かなり怪しい笑みを浮かべながら、ドアを開けようとした、その時。

 「おい、掃除屋さん。
  そこは、今使用中だよ。」

 と、後ろから声をかけられる。

 「うるさいわね、知ってるわよ。」

 「だったら、他を掃除してくれるかな?」

 「今、それどころじゃないんだってば!」

 どうやら、マナは自分の立場を忘れてしまったようだ。

 「おい!!」

 突然、大きな声で怒鳴られるマナ。

 「キャッ!!」

 「君は、日本語が解らないのか?」

 後ろを振り向いたマナの目には、怒りを露にした男性職員の姿が写る。

 「す、す、すみません!!!」

 「誤るなら、さっさと仕事をしろ!
  ここは、使用中だと言ってるだろ!!」

 「は、はい!!」

 「そんなに、シャワー室を掃除したいのなら、こっちへ来なさい。」

 そう言って、マナの腕を取ると、彼は彼女を引きずる様に連れていく。

 1ブロックほど行ったところに、“警備職員用シャワー室”と、プレートが張られた

 ドアの前にたどり着いた。

 「このシャワー室は、2ヶ月前から使っていないんだが、最近カビ臭いと、隣の部屋から
  苦情があってな、掃除の素人の我々では手が着けられそうにも無いからよろしく頼むよ。」

 そう言って、彼は部屋のドアを開く。

 中から出てくる空気は澱んでいた。

 その部屋に、掃除用具一式とマナを放り込んだ彼は、即座に部屋のドアを閉める。

 「ちょっと、開けなさいよ!!
  カビ臭いじゃないの!!!」

 マナは、ドアを叩きながら抗議するが、外にいる彼は知らぬ顔。

 「掃除が終わったら教えてくれ。
  そしたら、このドアを開けるから。」

 「ちょっと、待ってよ!!
  何で、こんなになるまで掃除しないのよ!!!」

 「怒りたい気持ちはわかるが、早くマスクをした方が良いぞ。
  胞子が肺に入ったら、大変だからな!!」

 その声を聞いて、慌ててマスクを装着するマナ。

 「じゃ、そう言う事でよろしく!!」

 男性職員は、外からドアをロックすると、足早にその場を立ち去った。

 「ちょ、ちょっと、待って!!
  終わったらって、どうやって知らせるのよ!!
  大体、何でこう毎回毎回、汚染の激しい所だけを掃除しなきゃならないのよ!!!」

 照明器具までカビで覆われ、薄暗い部屋の中で必死に抗議をするが、聞く物も無く、結局マナは

 5時間かけて、この“警備職員用シャワー室”を完璧に掃除をする事になる。

 しかも、その代償は大きく、疲労と全身筋肉痛で翌日の学校を休む事になり、シンジとの遭遇は、

 その時点で、3日先送りされてしまうのであった・・・・・・・・・・・。

 それさえ、定かな事ではなさそうだ。




 と、マナの事はさておき、翌日シンジが登校すると、早速トウジとケンスケが絡んできた。

 「シンジ、昨日来た転校生やけど、お前に一目惚れしたそうや。」

 「え?」

 「その転校生、霧島マナって言うんだけど、なんか学校の前でシンジを見かけて、一目惚れした
  らしいぞ!!」

 「霧島マナ?」

 「お前も隅に置けんやっちゃのう。」

 「そんなこと無いって。」

 「まあ、謙遜するなよ。」

 「そんな・・・・。」

 交互に、シンジをからかうトウジとケンスケ。

 そんな彼らを見ながら、シンジは他の事を考えていた。

 『マナがここへ来ているなんて・・・・・。
  やっぱり、戦自のスパイなんだろうか?』

 「そういやぁ、霧島、まだ来て無いよな。」

 「そうやな、もうそろそろ来とかんと、遅刻するで。」

 『もし、マナが来たらどうしよう。
  初対面で、スパイをやめろ何て言えないし・・・・・』

 シンジが、悩んでいる間に朝のホームルームが始まってしまった。

 「え〜、霧島さんは、風邪の為本日はお休みです。」

 どうやら、シンジの不安は杞憂に終わったようだ。

 とりあえず、今日の所はだが・・・・・・・。



 その後も、シンジが登校する日に、マナは疲労で欠席が続いた。

 
 「ああ、もうイヤ!!
  なんだって、シンジ君が学校へ来る日に限って体調が悪くなるのよ!!」

 一人の部屋で布団に入りながらそう叫んで見るものの、体調が良くなる訳でも無く、

 逆に虚しい空気が漂うだけであった・・・・・・。


 







 






 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      前回予告した物が前後編の二話になってしまいました。
      申し訳ありません。
      どうも、うまくまとまらなかった物で・・・・・・・。
      
      
      それでは、今回も小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

      それでは、また。


作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system