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 作者注:この文章は、他の Waiting for you.....とは
     全くの別物です。
     ストーリー自体に関連性は全くございませんので、ご注意ください。
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 アタシは、待っている。

 今、目の前で眠り続けるコイツが起きるのを。

 起きたコイツに、一言「好き」と言える日が来る事を。

 そして、コイツと一緒に笑って暮らせる日が来る事を。



 アタシは、いつまでも待っている。

 シンジが目を覚ます日を・・・・・・・・。



 Waiting for you......(Ver.ASUKA 2)
                                  作『CYOUKAI』






 「シンジ、今日も良い天気よ。」

 アタシは、ベッドで眠るコイツにそう声をかけると、そっと頬を撫でる。

 アタシが原因で、眠り続ける彼。

 いつの間にか、自分の家に居る時間よりこの病室に居る時間の方が長くなってしまった。

 「今日ね、学校で面白い事があったんだよ。
  なんと、あの相田に彼女が出来たのよ!!
  どう?驚きでしょう?
  しかも、その相手は何を隠そう、あの戦自の霧島マナなのよ!!元戦自だけどね。
  初恋の相手が親友に取られる気分はどう?
  悔しいかな?それとも・・・・・・・?」

 シンジの病室に来るとまず始める作業。

 本日の出来事の報告。

 話しかけることしか、彼を目覚めさせる方法は無いと、主治医に言われてから始めた作業。

 「ねぇ、シンジ。
  アタシ、シンジに話したいことがいっぱいあるのよ。
  伝えたい事がいっぱい・・・・・・。
  だからさ、寝てばっかり居ないで、早く起きてよ。
  シンジが居ないと寂しいよぅ。
  家事も覚えたんだよ。
  シンジが起きたら、重奏しようと思ってバイオリンだって覚えたんだよ。
  全く、いつまで寝てるのよ。
  無敵のシンジ様が・・・・・・・・。」

 頬に伝う涙を拭く事も忘れ、シンジの心に届くように話しかける。

 彼をこんな状態にしたのは、アタシ。

 アタシのどうしようもない嫉妬心のせい。

 あの日。

 そう、3年前のアタシの誕生日。

 その日、シンジは長い長い眠りに入ってしまった。










 三年前の12月4日。

 サード・インパクトから2年が過ぎ、この年ネルフは国連の中心組織に形を変えた。

 未だ、アタシ達はチルドレンとして登録はされているが、ほとんど予備役。

 あの赤い海から帰還した大人達は、アタシ達の前でこう謝罪した。

 「君達子供に、負担を押し付けた事を、とても恥ずかしく思う。
  出来るだけ早急に安全なダミープラグを実用化し、君達に普通の子供としての生活を
  返して上げたいと思う。
  もちろん、それが完成した後も、ネルフとして君達を出来る限りバックアップして行く。
  すまないが、完成するまでもう暫く我慢して欲しい。」

 アタシ達の前で、あの碇司令がサングラスを外した素顔で、深々と頭を下げた事に、

 驚きを隠せなかった。
 
 さらに驚いたのが彼の息子、碇シンジの変化である。

 かつてのオドオドした所が減り、何事にも前向きに取り組む様になっていた。

 「僕も、変わらなきゃいけないって思ったんだ。
  つらい事、苦しい事から逃げちゃダメだってね。」 
 
 そう言うシンジの顔は、すごく輝いていた。 

 そして、その彼が突然口にした言葉。

 「アスカ、僕とお付き合いしてください!!」

 その言葉を聞いた時は、正直面食らってしまった。
 
 しかし、その瞳に射抜かれたとき、アタシは小さく頷いていた。

 「アタシだけを愛して。
  アタシを一人にしないで。
  アンタの心を頂戴。
  アタシの心をあげるから・・・・・。」

 シンジの胸に飛び込むと、アタシはそう彼に告げた。

 「うん、わかった。
  アスカだけを愛するよ。
  アスカを一人にしないよ。
  僕の心をあげる。
  だから、いつもそばにいて欲しい。」

 シンジの言葉に、アタシは彼のシャツを涙で濡らしていた。
  




 そして運命のあの日
 
 その日、いつものように何事も無く学校が終わり、アタシとシンジは共に下校した。

 校門を出て暫く歩く。

 「ねぇ、シンジ。
  アタシの誕生日の今日は、どんな料理でもてなしてくれるのかなぁ?」
 
 「そうだなぁ、アスカの大好きなハンバーグは作るとして・・・・・・・。」

 「ハンバーグだけ?」

 「違うけど、後は出てからのお楽しみ!!」

 「そうね、楽しみにしてるわよ。」

 「うん、楽しみにしてて。
  それじゃ、僕は買い物してから帰るから!!」

 「気をつけてね。」

 これが、アタシとシンジの最後の会話。

 それから今日まで、彼の声を聞いてはいない。



 いつもならそのまま家へ帰るはずのアタシは、ちょっとしたいたずら心から、シンジの後を尾行した。

 「買い物の途中でいきなり後ろから声をかけたら、アイツどんな顔をするだろうか?」

 不意に思いついたいたずら。

 商店街を歩くシンジの後ろを、彼に気づかれないように付いて行く。

 「何処で声をかけるかが問題ね。」

 そう考えていると、彼が立ち止まり手を上げた。

 「なに?誰かいるの?」

 シンジが手を上げた相手が気になり、物陰に身を潜め様子を伺う。

 その、シンジのもとへ見慣れた青い髪の少女が現れる。

 「ファーストが何で?」

 状況を見定めるため、暫く静観する。

 今思えば、この時声をかけていれば良かったかもしれない。

 少なくとも、そうしていれば、彼が眠り続ける事も無かったはず。

 アタシの居たところから見えるのは、シンジの姿と建物の陰から半分だけ見えるファーストの背中。

 「何を話しているんだろう?」

 にこやかに会話を続ける二人を、アタシは黙って見ていた。

 不意に、ファーストが下を向く。

 そのファーストの頬に手を当て、シンジが彼女の顔を上に持ち上げる様にする。

 そして、覗きこむように顔を近づけて・・・・・・。

 「キス、してるの?」

 アタシはその光景が信じられなかった。

 自分に隠れてファーストと浮気をするアイツ。

 「なんで・・・・なんでよ!!!」

 頭の中が真っ白になったアタシは、その場を駆け出していた。





 何処をどう歩いたのか解らなかったが、アタシはあの公園へ来ていた。

 「なんで、アタシを裏切るのよ。
  アイツが言った事は嘘なの?
  アタシだけを愛してくれるんじゃなかったの?」

 ベンチに膝を抱え座るアタシは、泣いていた。
 
 「解ったわよ、アンタがそう言うつもりならアタシだって・・・・。」

 アタシは、涙を拭うと公園を後にした。





 繁華街をぶらつき、一人で食事を済ませ、自棄酒とまでは行かないがアルコールを

 口にし、日付が変わる頃アタシは帰宅しようとしていた。

 家に帰るために駅へ向かう途中、交差点で事故があったらしく、遠回りを強いられ、

 自宅に着いた時には、日付が変わっていた。

 

 ドアを開けるために、カードキーを差し込もうとした時、鍵が開いている事に気が付く。

 恐らく、食事もせずに待っているであろう、シンジに嫌味の一つも言ってやろうと無言で
 
 部屋に入る。

 しかし、リビングに入った時、アタシを出迎えたのは、シンジでは無く親友のヒカリだった。

 

 「お帰りなさい、アスカ。
  こんな時間まで、何処で何してたの?」

 まるで、夜遊びをした娘を問い詰めるようなヒカリの言葉。

 「関係ないでしょ。」

 「関係有るわよ。」

 「何でよ!」

 「アスカ、このテーブルの上のお料理みて、なんとも思わないの?」

 「どうせ、あのバカが作ったんでしょ。
  そんな物、見たくも無いし、食べたくも無いわ。
  捨てて頂戴!!」

 少し語気を強めるアタシ。
 
 「どうして、そう言う事を言うの。
  これは、碇君がアスカの為だけに作ったお料理なのよ!!」

 アタシに対抗するように語気を強めるヒカリ。

 「ウルサイ!!
  あんな、浮気者の作った料理なんて食べたくないわよ!!」

 「浮気って・・・・・。」

 まるで、アタシの言葉の意味を理解しできないようなヒカリのリアクション。

 「見たのよ!!
  今日、商店街でアイツがファーストとキスするのを!!」

 悔しさをこめて、ヒカリに言葉をぶつける。

 「商店街って、夕方?」
 
 「そうよ。」

 「スーパーの近く?」

 「そうよ。」

 「碇君が綾波さんの顔を見つめていた・・・・と。」

 「そうよ!!
  もう、思い出させないでよ!!」

 思い出したくも無い記憶を呼び戻されたアタシは、涙を流していた。

 「アスカ、碇君は綾波さんとキスして無いわよ。」

 「なんで、ヒカリにわかるのよ!!
  見たわけでも無いのに!!!」

 「だって、私もそこに居たもの。」

 「うそ。」

 「嘘じゃないわ。
  今日の放課後、商店街でまず綾波さんと会って、一緒に買い物をしながら歩いてたら
  スーパーの近くで碇君に会って。」

 「それで、どうしたのよ!!」

 「暫く話をしていたら、綾波さんの目にごみが入ってしまって。
  ほら、彼女コンタクトしてるでしょ、目を保護するための。
  とっさに目をこすってしまったから、それがずれちゃって。
  それで、碇君が見てあげた。」

 「それだけ・・・・ホントに?」

 「そう、それだけ。」

 「ホントに?」

 「アスカ、私が貴女に嘘言った事ある?」

 いつもよりさらに真剣な表情の彼女が嘘を言っているとは思えなかった。

 「じゃあ、アタシ・・・・・・。」

 「そう、勘違い。
  大体いつものアスカなら、その場に乗り込んでいたでしょうに、何でそうしなかったの?」

 そう、いつものアタシなら、その場に乗り込み、シンジを罵倒したはずだ。
 
 でも・・・・・。

 「怖かったの・・・・・。」

 怖かった。

 もし、シンジがアタシを裏切っていたことが事実だったらと思うと、怖かった。

 『実は、綾波が本命なんだ。』

 そう言われたらと思うと、怖かった。

 「アスカ、碇君のことが信じられなかったのね。」

 その言葉は、何よりもアタシの心に突き刺さる言葉。

 一時でもシンジを疑ったアタシの心。

 それを、見透かしたようなヒカリの言葉。

 「ヒカリ、どうしよう・・・・・・・。
  きっと怒ってるよ・・・・・・・・。
  シンジに謝らなくちゃ・・・・・・。」

 アタシは、すぐにリビングからシンジの部屋へと駆け込む。

 だけど、そこにはシンジの姿は無かった。

 呆然として、後ろを振り向く。

 そこには、涙を目に浮かべたヒカリがいた。

 「アスカ・・・・・。
  落ち着いて聞いてね。」

 何か重大なことを話そうとしているヒカリ。

 その表情から、それが良い話では無いことが伺える。

 「ヒカリ、どうしたの?
  なんでシンジ居ないの?」

 「アスカ、最後まで聞いて頂戴。」

 そして、ヒカリが話し始めた。

 「夕食の時間になっても帰ってこないアスカを探しに行ったんだと思うの、碇君。」

 そう言って、一枚のメモを見せてくる。

 “お帰りなさい、アスカ。
  もし、このメモを見たら、僕の携帯に電話して下さい。”

 そこにはそう書いてあった。

 「それで?」

 「私が葛城さんから連絡を受けたとき、彼、隣駅の近くに居たって聞いたわ。」

 「それって、デパートの有る駅?」

 「そう、そこの交差点で・・・・・。」

 そこで、声を詰まらせるヒカリ。

 「交差点で・・・・・どうしたの?」

 「居眠り運転のトラックに跳ねられて・・・・・・。」

 それを聞いて、1時間ほど前に通り過ぎら交差点を思い出す。

 折れた電信柱。

 そこへ、突っ込み変形しているトラック。

 地面に残る血痕。

 交通整理をする警官。

 現場検証をする警官。
 
 野次馬。

 そこから聞こえる会話。

 「おい、子供が跳ねられたって。」

 「高校生ぐらいの男の子だろ。」

 次々とアタシの脳裏に浮かぶついさっき通った交差点の光景。

 「それって・・・・・・・・・・。」

 「碇君、今病院で治療を受けているわ・・・・・・。」

 「うそ・・・・。」

 浮かんだ光景とヒカリの話。

 跳ねられた少年がシンジである事。

 「うそ、嘘よ!!」

 アタシは頭を振って、否定しようとする。

 「ねぇ、ヒカリ、嘘でしょ。」

 「・・・・・・・・・・・。」

 「ねぇ、嘘って言ってよ!!」

 「・・・・・・・・・・・。」

 両肩に手を置かれ、前後に揺さぶられるヒカリは、何も言ってくれなかった。




 そして・・・・・・・・・・・。




 ミサトに連絡をして病院へ駆けつけた時、シンジは集中治療室の中に居た。

 「アスカ!!」

 アタシを見つけたミサトが駆けてくる。

 「ミサト!
  シンジは!!
  シンジは助かるの!!」

 「アスカ、貴女何してたの!!」

 ミサトが叫ぶと同時にアタシの頬が熱くなる。

 それが殴られた為だと理解するのに、数瞬の時を必要とした。

 「ミサトォォォォォ。」

 嗚咽にも似た声で、アタシはミサトに縋りつく。

 そのアタシの頭を抱えながら、ミサトはそっと髪を撫でてくれていた。



 暫くそうしたあと、落ち着きを取り戻したアタシに、ミサトは小さな箱を渡してくれた。

 「シンちゃんのポケットに入ってたのよ・・・・・。」

 「え?」

 手渡された小箱を開けると、そこには小さな指輪が入っていた。

 アタシの誕生石のラピス・ラズリ。

 それを際立たせるように周囲に飾られた小さなダイヤモンド。

 そして、そこに入っていた小さな手紙。

 “アスカ、僕と結婚しよう。”

 それを見た時、アタシは自分の愚かさを呪った。

 なぜ、彼を信じてあげられなかったのだろう。

 なぜ、あの時、逃げ出したのだろう。

 彼は、シンジはこんなにもアタシを愛してくれていたのに・・・・。


 気が付くと、アタシの瞳からは涙があふれていた。









 「シンジ、貴方のプロポーズ直接聞きたいよぉ。
  ねぇ、起きてよ!
  起きてアタシに貴方の口から結婚しようって言ってよ!!」

 物言わぬ彼の身体を揺さぶりながら、今日もアタシは話しかける。

 そのアタシの指には、青いラピス・ラズリの指輪。

 主治医からは、いつ目覚めてもおかしく無いと言われている。
 
 それは、今日かもしれないし明日かもしれない、1ヶ月後かもしれないし1年後かもしれない。

 そして、今日も目覚める事無く面会時間が終わる。

 
 ベッドの横に置いた椅子を片付け、シンジにキスする。
 
 あれから毎日続けている事。

 自分の気持ちを確認するための作業。

 若しくは、王子様を目覚めさせるおまじない。

 「シンジ、早く目覚めてよ。
  アタシの心と身体で愛してあげるから。
  アタシの全てで愛してあげるから。
  だから・・・・だから・・・・・。」

 いつも、そこから先が言えなくなってしまう。

 感極まってしまって、声にならなくなる。

 
 「シンジ、また明日ね。」

 病室を出るときに、さようならは言わない。

 言ったら、それで最後になってしまいそうで言えない。

 今日も失意の内にアタシは病室を後にしようよした。

 ドアに手をかけ開こうとしたとき、後ろで微かな声が聞こえる。

 「アスカ・・・・・・・・・。」

 きっと、アタシしか聞こえないであろうシンジの微かな声。

 「シンジ?」
 
 そう言って、静かに振り向くと、そこには・・・・・・。

 
 
 「シンジ!!!」







 『2021年6月6日
 
  303号室の碇シンジさん目覚める。』
       
 〈ネルフ中央病院、看護記録より抜粋〉











  あとがき:どうも『CYOUKAI』です。
       今回の短編はいかがだったでしょうか?
       なんか、思いつきでやったので、いつも以上に
       自信が無いです。
       ラストは、ハッキリ言って悩みました。
       シンジ君を目覚めさせるかどうか。
       目覚めなくても良かったような。  
       まあ、どうですかね。
       目覚めさせちゃうところが、小生が甘ちゃんな証拠のような。
       とりあえず、そんなところです。←何が?
      
       と言うわけで今回も、小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
       それでは、また。


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