ココは、コンフォートマンションの一室。

 時間は午前4時。

 一人の少年が、眠れぬ夜をすごしている。

 「ね、眠れない・・・・・。」

 なぜ、彼が眠れないのかと言うと・・・・・・・。
  


REPEAT of EVANGELION 
                                                                     
  第11話 『ある一日の風景』』                          作『CYOUKAI』

 


  この部屋の主、碇シンジはとうとう一睡もせずに目を覚ましてしまった。

 それは、なぜか?

 どうして眠れなかったのか?

 答えは単純である。

 明日は、アスカが来日してくる日だからである。

 「やっと、アスカに逢えるんだ・・・・・。」

 昨夜、ネルフから帰ったミサトが、夕食がてらシンジの家を訪問した時に、アスカの来日を聞かされる。

 明日、ミサトと共に太平洋艦隊まで出向き、セカンドチルドレンとエヴァ弐号機を受領する。

 そのお供に、シンジと先日ひょんなことから初号機に乗ってしまった二人の少年が指名された。

 「トウジとケンスケも一緒で良いんですか?」

 「ええ、いいわよ。
  シンちゃんも、友達と一緒の方が良いでしょ?
  それに、彼らにはこの前の時、怖い思いをさせてしまったしね〜。
  まあ、お詫びも兼ねてるのよ。」

 「そうですか、二人とも喜びそうです。
  特にケンスケなんかは涙流して喜ぶんじゃないかな?」

 「そう言ってもらえると嬉しいわねン。」

 以上が、夕べの会話の要点である。

 それが、全ての始まりだったとは、この時のシンジには知る術が無かった・・・・・・。



 ミサトが、自宅へ帰り夕食の後片付けをするシンジ。

 その間も、頭の中ではアスカの事ばかりを考えていた。
 
 『アスカがもうすぐ来るんだよな・・・・・』

 彼の頭の中は、既にアスカ一色。

 『アスカは今頃何をしているんだろう・・・・・・』

 『アスカ・・・・・アスカ・・・・・アスカ・・・・・。』

 とにかく、アスカの事ばかり考えるシンジ。

 まあ、大体こんな時、人間はミスをやらかす事が多い。

 それは、シンジとて例外ではない。

 この夜の食器洗いでは、大皿2枚、茶碗1個、グラス2個が無残にも重力へ引かれ床へと吸い込まれ、

 儚い命を散らしている。

 そのほかにも、包丁を洗おうとして刃の方を掴もうとするし、シャワーを浴びようと浴室に着衣のままで

 立っていたり。

 とにかく、落ち着きが無かった。

 それでも何とか一日の作業を終了して、床につくがなかなか眠れない。

 少し寝ては醒め、アスカの事を考えてしまう。

 丸で、遠足の前の幼稚園児のようだ。

 そして、冒頭へと繋がるわけだが・・・・・・。

 この日、シンジは何をやっても失敗続きとなってしまうのだった・・・・。

 


 「さて、朝食の準備をしなくちゃ・・・・。」

 そう言ってベッドを降りるシンジ。

 リビングに入って、いつも通り洗面所へ。

 少し隈の出来ている顔を洗い、歯を磨く。

 寝不足の為に手の込んだ物は作れないので、トーストにコーヒーと言う軽めの物を摂る。

 ちなみに、トーストは両面真っ黒。
 
 そんなの食べたら、お歯黒になるんじゃないか?と思うくらいに黒い。

 イチゴジャムのつもりで塗っている物は練り梅だったりする。←普通間違えないって!!

 それでも、炭化したパンの苦味に味はほとんど無いに等しい。

 ただし、今のシンジにはそれすら感じられないようだが・・・・・・。

 『アスカ、またあのワンピースなのかな?
  スカートが風に吹かれて・・・・・・・・・』

 自分の記憶をたどり、当時の光景を思い浮かべたシンジの顔は真っ赤っかである。

 そんなこんなで、朝食が終わり、学校へと向かうシンジ。

 その途中でも、やはり考える事はアスカの事。

 『また、アスカと一緒に暮らせるんだぁ』

 そう思っては、ニヤリ。

 『今度は、アスカと一緒に料理でもしたいなぁ』

 と思っては、ニヤリ。

 道の向こうでシンジを見かけたトウジとケンスケが声をかけようとしたが、その不気味さに

 躊躇してしまう。

 「なぁ、ケンスケ、シンジの奴なんか有ったんやろか?」

 「知らないよ。」

 「なんか、不気味やで、あのシンジ・・・・・。」
  
 「まあ、ほっとこうぜ。」

 「そやな、今のシンジはなんや、近寄りがたいわ。」

 二人は、シンジを一定の距離を保ちながら学校へ向かって行った。

 まあ、それからも色々あったわけで・・・・・。

 


 朝のHR。

 「それでは、出席を取ります・・・・。」

 いつも通り出席を取る担任の教師。

 「はいっ。」
 
 「綾波。」

 「はい。」 

 「碇。」

 「・・・・・・・・・。」

 「碇、いないのか?」

 「・・・・・・・・・・。」

 「碇!!!!」

 「は、はひ!!」

 大きな声で呼ばれ、不意に裏返る声。

 その、滑稽さに、教室に笑いがこだまする。

 それを、聞いて真っ赤になった顔を俯かせるシンジ。

 「碇、考え事も良いが、休み時間だけにしてくれ。」

 「はい。」

 この後シンジは、一時間目の授業が始まるまでからかわれる事になる。

 
 そして、その一時間目。

 授業は日本史。

 内容は、飛鳥時代。

 教科担任の口から「飛鳥」と言う単語が発せられるたびに、シンジは向こうの世界に行ってしまう。

 「じゃ、碇。
  この飛鳥時代の、代表的人物を一人答えてくれ。

 「アスカ!!」

 「はぁ?」
 
 教師は、突拍子も無いシンジの声に呆れ顔。

 「だから、飛鳥時代の代表的人物だぞ。」

 「あ!!」

 「あのなぁ、碇。
  確かに、アスカ言う名前の人はいるだろうが、この時代の代表的人物じゃないだろ。」

 「す、スミマセン。」

 『アスカのことばかり考えてたら、声に出ちゃった・・・・。恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ。』

 「じゃあ、答えてくれ。」

 「は、はい。
  聖徳太子です。」

 「そうだ。座ってよろしい。」

 「はい。」

 顔を紅くして座るシンジに、トウジが追い討ちをかけるように、

 「なんや、シンジ。
  アスカっちゅうのは、どこぞのオナゴか?」
 
 と、からかう。

 「し、知らないよ!!!」

 声を荒げてしまうシンジ。

 「碇!!
  何だ、何か有ったのか!!」

 「え?」

 「突然、大声をだして。
  授業に集中でいないのだったら、廊下に立ってろ!!」

 とうとうシンジは廊下に立たされてしまった。

 シンジが廊下に立たされてから10分ほどした時。

 「あっれ〜、碇君。どうして廊下に立ってるの?」

 「あ、霧島さん。」
 
 「なになに?
  居眠りでもしたのぉ?」
 
 「あ、いや、その・・・・・」

 霧島マナが、遅刻して来たのだ。

 シンジに声をかけるマナの声に気がついた教師が、ドアから顔を出す。

 「霧島、もう授業はとっくに始まってるぞ!!
  遅刻の理由は聞いてるから、さっさと教室に入れ!!」
 
 「はい、解りました。」

 マナは、そう答えると、再びシンジの方へ向き直り。

 「また、後でね。」

 と、笑顔を浮かべ中に入って行った。

 結局、そのまま授業が終わるまで、シンジは廊下で立たされる事になってしまう。

 『ダメだ、少し落ち着かなきゃ。
  それに、3時間目からは授業は家庭科の調理実習だしな。
  集中しないと、怪我しちゃうからな。』

 何とか平静を取り戻したシンジは、この後の2時間目の授業を何とかこなし、3、4時間目に予定されている

 調理実習に備えた。



 

 なぜかは知らないが、恐らく何処の学校でも、調理実習はお昼前の授業になっていると思われる。

 昼食にあわせているのだろう。

 ここ、第3新東京市立第一中学校でも例外ではない。

 2時間目の授業が終わると、各自、自前のエプロンを持って実習室に向かう。

 シンジも、トウジ、ケンスケと共に廊下を歩いて行く。

 その後ろから、マナがヒカリ、レイと共について行く。

 『さて、調理実習で、シンジ君に女らしい所を見せなくちゃ。
  私の愛情料理で、ハートをゲッツしなくちゃね。』

 マナは、シンジの背中を見つめながら頬を紅く染める。

 ヒカリはヒカリで、

 『なぜかしら、鈴原にお料理を食べてもらえると思うと、胸がドキドキする・・・。
  この気持ちはナンダロウ?
  もしかして・・・・・・・恋?
  きゃー、心臓が飛び出そうなくらいドキドキしてる!!
  きっと、これが恋なのね・・・。』
 
 などと、考えていたりする。

 
 休み時間の間に、全員が家庭科室に移動する。

 全員が、そろったところで教壇に立った教師が今日のメニューを発表した。

 お題は“カレー”。

 事前に各実習台の上に並べられた材料の中に、カレールーの元があれば誰でも判りそうな物だが、

 一部の人間を除いて全く気が付いていなかったようだ。

 鈍すぎるぞ、このクラス・・・。

 教師による開始の合図と共に実習が始まった。

 シンジは、器用にたまねぎをみじん切りにして行く。

 マナは、米を研ぐ。

 トウジは、ジャガイモやニンジンの皮を剥く。

 ヒカリは、その横でそれらを適当に切っている。

 ケンスケは、ここぞとばかりにシャッターを切りまくる。

 レイは、我関せずで文庫本を読んでいる。

 

 若干2名が、全く関係の無い行動を取っているが、それ以外はおおむね順調に進んでいるかに見える。

 ただ、シンジはたまねぎを切りながら、

 『アスカと一緒にやりたかったなぁ。』とか、『たまねぎを刻んでると、ハンバーグの事を思い出すなぁ』

 とか、『アスカ、ハンバーグ好きだもんなぁ。』などと思い出に浸っていたりする。

 そんな、シンジの横に、米を研ぎ終わり後は炊くだけとなったマナが寄ってきて、

 「シンジ君、みじん切り上手だね。」

 と、話しかける。

 「ああ、霧島さん。」

 「シンジ君ってお料理するの?」

 「自炊してるからね。」
 
 「へぇ〜、えらいんだ〜。
  そうだ、今度夕食つくりに行ってあげる。」

 「え?いいよそんな事。
  僕は、自分で出来るから。」

 「いいじゃん、いいじゃん。」

 「でも、僕一人じゃないし。
  ミサトさんもいるから・・・・・。」
 
 「だれ、ミサトさんって?」
 
 「ああ、僕の保護者なんだけど、家事全般が全くダメなんだ。
  僕の隣の家に住んでるんだけど、夕食は僕の家で食べるんだよ。」

 「へぇぇ〜。
  じゃあさ、その人の分も私が作るからさぁ。
  良いでしょ?」

 「ええと・・・・。
  少し考えさせてくれる?」

 「いいよ。」

 『まいったなぁ。
  アスカに知れたら、ビンタどころじゃすまないし・・・・・・。
  どうやって断ろうか・・・・。』
 
 もともと優柔不断なシンジである。
 
 しかも、人の善意を無碍に断れるほど強くない。

 最も、

 『これで、私とシンジ君が恋仲になれれば、任務も遂行できるし私も嬉しいし・・・。
  一石二鳥だわ。』

 などと考える、マナの思考を読み取れれば、断る事も簡単なのだが・・・・。

 『こうして話をしていると忘れちゃうけど、マナは戦自のスパイなんだよなぁ。
  気を付けないと・・・・・。』

 何だ、解ってるんじゃないか?と思われた貴方!!

 それは、甘いです。
 
 シンジが想像するスパイとは、某国諜報部のエリートの様に7つ道具を駆使してデータや

 機密文書を掠め取り、相手の兵士と銃撃戦を繰り広げ、一見普通の自動車からミサイルなんか

  が出てくるようなそんな展開が目白押し、見たいな姿を想像してるわけで・・・・・。

 『僕に近づいたところで何の特にもならないんだけどなぁ』

 と、自分の立場を忘れているシンジに、本来の地味な諜報活動など想像できるわけもなく・・・・・。

 『ま、良いか。
  それより、明日アスカが来たら何を話そうかなぁ・・・』

 実に平和な性格してるなぁ。

 



 で、そんなシンジではあるが、思考の最中でも手は動き、あっという間にたまねぎ3個をみじん切りに

 してしまう。

 まな板から、そのたまねぎをフライパンに移し少しバターを落として炒め始めると、辺りになんとも

 言えない香りが漂い始める。

 『碇君、やるわね・・・。』

 ヒカリはその腕前に驚き、トウジはその良い香りに鼻を動かす。

 『シンジの奴、なかなか上手やないか。』

 そんな、周囲をよそに、ひたすら炒め続けるシンジ。

 そのシンジの目に、文庫本を読むレイの姿が写る。

 「綾波、ちょっと来てくれる?」

 「なに碇君。」

 「これを、焦げないようにゆっくり炒めておいてくれるかな。」
 
 「解ったわ。」

 「じゃ、おねがいするよ。」

 シンジは、たまねぎ炒めをレイに託し、次の作業へと移る。

 これで、班員のほとんどが調理に参加した。
 
 それでも約一名、ひたすらシャッターを切りまくる者がいた。

 相田ケンスケである。
 
 「売れるぞ〜!!
  これは、売れる!!」

 こうなった彼を止められる物は・・・・・・・・。

 「相田君!!!」

 「は、はい、委員長、なんでしょうか?」

 居た。

 学級委員長、洞木ヒカリの本領発揮である。

 「相田君は、このお米を鍋に入れてコンロにかけて頂戴。
  言っとくけど、しっかり炊けなかったら、相田君の分は無しよ!!」

 「え、炊飯器を使うんじゃないの?」

 「何を言ってるの。
  相田君は趣味の野営で飯盒使ってるでしょ。
  要領は一緒だからお願いね。」

 「解りました、委員長殿。」

 自分の趣味が理解されたと勘違いしたケンスケは、張り切っていた。

 「じゃあ、僕はサラダでも作ろうかな。」

 シンジがそう言うと、

 「私も手伝うわ。」
 
 マナが横に並びそう言う。
 
 「じゃあ、一緒にやろう。」

 シンジの何気ない言葉。

 しかし、それはマナに期待を持たせるには十分だった。

 『行けるわ、シンジ君のハートをゲッツよ!!!』

 気合の入るマナ。

 「じゃあ、まな「痛!!」」

 「へ?」

 シンジが、「まな板の上に野菜を置いておいて。」と指示しようとした所に、

 トウジが指を切って声を上げる。

 ケンスケがそれに気が付き、視線をマナの胸の方へ。

 吊られるように、シンジもマナの胸へ・・・・・。

 『アスカの胸は・・・・・・・ボン!!』

 いらぬ想像をしてユデダコ状態のシンジ。

 「マナイタ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ケンスケの呟きに、何を言おうとしたのか理解したマナは言葉を失う。

 『ムカ、ムカ、ムカ、ムカ、ムカ、ムカ、ムカ!!!』

 「相田君、そ〜れ〜は〜どう言う事かしら?」

 明らかに怒っている。

 顔こそ平静を保っているが、こめかみには血管が浮き出ている。

 「まて、霧島。
  落ち着け!!
  うわぁぁぁぁぁ、シンジも何とか言ってくれ〜。
  悪意は無いんだ、悪意は。」

 「霧島さん、落ち着きましょ、ね、ね。」

  マナの手に握られる包丁に、危機感を感じたヒカリが制止しようとするが、

 「ちょっと黙っててくれる。」

 と怒気を孕んだ視線でマナに言われると、言葉が後に続かない。

 『相田君、ゴメンなさい。
  潔く、散ってね。
  骨は拾ってあげるから・・・・・・。』

 などと、心の中でケンスケに謝罪するヒカリ。

 自分の目の前で仁王立ちになり包丁を振り上げるマナを何とか思いとどまらせようと
 
 「霧島〜、包丁は危ないぞ!!
  それを、俺に向けてどうする気だ!!!!」

 と、必死に命乞いするケンスケだが、

 「私の逆鱗に触れた貴方がいけないの。
  死んでもらいます。」
 
 意に介さず、包丁を振り下ろすマナ。 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 その包丁の切っ先は腰を抜かしているケンスケの股間に向かい・・・・・・。

 “グサッッ!!”

 床に突き刺さった。

 「あわあわあわあわあわあわ。」

 白目を剥き、口から泡を出し意識を失うケンスケ。

 この場にいたクラスメート全員が、今後マナの胸の事は言わないようにしようと硬く誓ったのだった。

 ケンスケが、失神していた頃、
 
 『アスカの胸、アスカの胸、アスカの胸・・・・・・ボン!!』

 いらぬ事をまた考えていたシンジの頭はショートし、サラダを作るためにちぎっていたレタスは必要以上に

 小さくなり過ぎて、サラダがいつの間にかコールスローになっていた。


 その後、空想世界の住人となったシンジがルーの入れ時を間違えたり、ケンスケが失神した為に炊いていた

 ゴハンが大変な事になったりしたが、何とかカレーライスが完成して、いよいよ試食と相成った。

 「それでは、各自カレーがいきわたりましたね。」

 「「「「「「は〜い。」」」」」」

 「では、いただきます。」

 「「「「「「いただきま〜す。」」」」」」

 それぞれの力作を胃の中に収めて行く生徒達。

 教師にも、少量ずつ各班の力作が届けられる。

 『洞木さんの班が一番おいしいと思ったけど・・・・・。
  ゴハンは焦げてるし、ルーも少し粉っぽいし、まあ、味は流石ね。』

 教師は、彼らの班で何があったのかは知らないので、当然の評価となる。

 後に、調理実習の成績が意外に低かった事でヒカリが落ち込むのは別の話し。

 で、シンジ達のテーブルに目をやると。

 黙々と食べ続けるトウジ。

 そのトウジを幸せそうな目で見るヒカリ。

 器用に肉を外しながらカレーを食べるレイ。
 
 椅子にも座らせて貰えずに床に正座でカレーを食べるケンスケ。

 シンジの口に、「あ〜ん。」とか言いながらカレーを運ぼうとするマナ。

 その事に気が付かずに、延々と『アスカに逢えるのかぁ・・・・・嬉しいな。』などと、

 明日に思いを馳せるシンジ。

 それぞれが、それぞれの思いを抱えてカレーを食べていた。


 

 調理実習の時間が終わり、昼休みとなる。

 シンジ達3人が、窓際のトウジの机の周りで話をしている。

 その最中も、シンジはアスカのことばかり考え、トウジ、ケンスケの話など聞いてはいない。

 「おい、シンジ。」

 「・・・・・・・・。」

 「シンジ!」

 「・・・・・・・・。」

 「碇シンジ!!!」

 「アスカ!!」

 「だから、アスカって誰やねん。」

 「ち、ち、違うよ。
  ぼ、ぼ、僕が言いたかったのは、明日葛城さんが太平洋艦隊に出かけるんだけど、トウジとケンスケも
  誘って良いって言うから、その事を話そうと思ったんだよ。
  ウン、そうだよ、あすかつらぎさんが・・・・・・・。」

 「わ、解ったよシンジ。
  明日、葛城さんが、太平洋艦隊に・・・・・って!!
  本当か!!」

 「うん、この前、怖い思いさせたから、お詫びにって言ってた。」

 ミリタリーマニアのケンスケにとっては願っても無い話。
 
 寄航する艦船を見学するのとは違って、航行中の太平洋艦隊に行ける。
 
 マニアなら涎を垂らして喜ぶ話。

 「で、どうかなぁ。一緒に行かない?」

 「行く!!行くに決まってんだろ!!!!」

 「ワイも行っていいんか?」

 「当然だよ、トウジとケンスケを誘うように言われたんだから。」

 「なら、ワイも行く事にする。
  葛城さんとデートって事になるからな。」

 トウジは、以前シンジを迎えに行くために、朝シンジの自宅を訪れた際、たまたま朝食を食べに来ていたミサトと

 玄関で遭遇。

 『えらい、べっぴんさんやなぁ』

 と、一目惚れしてしまっていた。

 『葛城さんと、デートかぁ。ココはきめてかんとなぁ。』

 『太平洋艦隊を見学かぁ。フィルムとメモリを仕入れなければ!!』

 『アスカがやっと日本に来る。また一緒に生活出来るんだ・・・・・・・・。』

 三者三様の思いを胸に、昼休みが過ぎて行った・・・。



 午後の授業。

 シンジ達三人は、明日の事で頭がいっぱいで授業が手に付かない。

 現代社会に授業で「根府川に〜」の老教師が、その風体に似合わず大声を出し、彼らを廊下に立たせたのはお約束。

 当然放課後の掃除にも手が付かず、
 
 「ちょっと、男子!!ちゃんと掃除しなさいよ!!!」

 と、ヒカリが怒声を上げるが効果なし。

 挙句に、シンジがバケツをひっくり返すは、トウジがほうきを壊すはで、とうとうヒカリもさじを投げる始末。

 結局、この日シンジはまともに授業を受けられず、一日「ぼ〜」っとアスカの事だけを考えていた。

 







 そして、お約束。

 マナさんの放課後と言うと・・・・・・。

 今日は、清掃業が完全にオフ。

 一人、家路に着く彼女の頭の中は、シンジの事で占められていた。

 『今日の実習では、シンジ君に私が家庭的なところを余す事無く見せられたし・・・上出来ね。
  今度、シンジ君の家に遊びに行って更にダメを押せば、シンジ君のハートは私の物よ!!』

 思考の仲では既にシンジの心をゲットしたと思っているマナではあるが、実際シンジは今日の学校での事などは、

 ほとんど記憶に無く、授業の事は覚えていても細かい所は覚えていない。

 マナが、家庭的だと言う事など全く気がつく筈も無い。

 「さて、今日は気分が良いし、掃除も無いし、帰ってゆっくりしますか。」

 夕日に向かい歩くマナの足取りはとても軽そうだった。

 “グニュ”

 「うあ、なんか踏んだ・・・・・・・・。」

 恐る恐る足を上げるマナ。
 
 「臭い・・・・・・・。」

 靴底に張り付く謎の物体。

 「だれよ!!
  犬の後始末をしないのは!!!」

 軽かった心を、一気に重くして虚しく夕日に叫ぶマナだったのだ・・・・・・。

  

  

 
  


  次回予告:いよいよ、アスカとの再開の日。
       自然とニヤケル顔を一生懸命に真顔に戻すシンジ。
       ミサトとの空中散歩に浮かれまくるトウジ。
       憧れの艦船に心躍らせるケンスケ。
       そして、見えてくる空母。
       次回、『アスカ、(再)来日』


       真実の補完が今始まる・・・・・・。




 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      思いっきりお茶目にして見たつもりなのですが・・・・・・ダメだ!!
      最近、シリアス思考の魔物に取り付かれ、ちょっとスランプ気味です。
      ああ、誰かこの魔物を追い払ってください!!
      次回から、いよいよアスカ登場です。
      何とか、ラブラブ路線に思考を戻さねば・・・・・・。
      それと、ありがたい事に感想を下さる方々。
      どうもありがとうございます。
      
      
      
      では、今回も小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

      それでは、また。


作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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