時系列は、少し遡る。

 具体的には、エヴァ弐号機が空母オーバー・ザ・レインボーに着艦した時までである。

 「シンジ、大丈夫?」

 シンジの膝の上に乗っていたアスカが、シンジの顔を見上げながら尋ねる。

 「大丈夫だよ。
  それより、アスカは大丈夫だった?」

 聞かれたシンジは、そう言うと優しく微笑む。

 「ええ、大丈夫よ。
  だって、シンジが護ってくれたんだもん。」

 「良かった。
  アスカが怪我でもしたら、大変だからね。」

 「それは、アタシも同じよ。
  シンジにもしもの事があったら・・・・・。」

 「大丈夫だよ・・・・・・ふぁぁあ。」

 何かを言いかけたシンジが、不意に大きなあくびをする。

 「何か、眠そうね?」

 「うん。
  アスカに逢えると思ったら、興奮して良く眠れなかったんだ。」

 「そう・・・・。」

 「ふぁぁぁあ。」

 更に、シンジのあくびが続く。
 
 「実はね、アタシも夕べは良く眠れなかったのよ。
  シンジに逢えると思ったら、なかなか寝着けなくてネ・・・・・。」

 「アスカもそうだったんだ・・・・・。」

 「そう・・・・・アタシも・・・・良く・・・眠れ・・なか・・・・ス〜、ス〜・・・。」

 「疲れちゃったのかな?
  なんだか、僕も眠くなってきたよ・・・・・。」

 シンジは、自分の胸を枕に眠っているアスカの髪を撫でる。

 「アスカの髪、綺麗・・・だなぁ・・・・・・ス〜、ス〜、ス〜・・・・。」

 自分と触れ合うアスカの体温が、シンジを眠りの世界へと引きずり込んだ



REPEAT of EVANGELION 
                                                                     
  第13話 『重なる想い、重なる心』                       作『CYOUKAI』


 「遅い!!!」

 弐号機の前に立つミサトは、そう言うと甲板を一蹴りする。

 「もう待ってられないわ!!」

 腕を組みながら弐号機を見上げていたミサトは、視線を鋭くして機体へと近づいて行く。

 背面からよじ登り、ハッチのスイッチを操作する。

 開かれた、ハッチからエントリープラグがイジェクトされ、LCLが排出された。

 「よいっしょ!!
  え〜い、なんでこんなに硬いのよ!!」

 レバーをまわすミサト。

 その、美しい顔を歪ませ歯を食いしばり、力いっぱいにまわす。

 “ぐるん!”

 不意に、レバーがまわる。

 「きゃっ!」

 ミサトは軽く悲鳴を上げ、崩しそうになった体勢を保つ。

 「危ない、危ない。
  ここから落ちたら、大変な事になってたわ。」

 下を覗き込みながら、ミサトは胸をなでおろした。

 「さて、中で何をやっているのやら・・・・・。」

 ミサトは、誰に言うでも無くそう言うと、ハッチを開く。

 「あら〜ん、良く寝てるじゃない・・・・・。」

 エントリープラグの中。

 そこには、シンジの膝の上で気持ちよさそうに眠るアスカと、彼女を優しく抱きながら寝ているシンジの姿があった。

 『こりゃ、どう見ても初対面じゃ無いんじゃない?』

 ミサトは思った。

 目の前に映る二人の姿は、まさしく恋人同士の物。

 ドイツに居た頃、同年代の男の子には目もくれず、加持を追い求めていた少女の姿ではない。

 さらに、その彼女を抱き止める少年は、自分の手元に来ていた資料とは違っていた。

 対人関係において、人と触れ合う事を嫌い、自分の殻に閉じこもり易い性格。

 報告書にはそう出ていた。

 しかし、今目の前に居る彼は、人付き合いが苦手な様には見えない。

 初対面のはずの少女を抱きながら、幸せそうな顔をして眠る少年。

 その少年に身体を預け、安心した表情で眠る少女。
 
 そのどちらもが、ミサトにとっては違和感が有った

 『何かを隠しているのか・・・・・それともワタシの知らない何があるのか・・・・。』

 しばし、思考にふけるミサトではあったが、すぐにそれを止める。

 とにかく、今はこの二人に出て来て貰わなければならない。

 「シンジ君、アスカ、起きなさい!!」

 プラグ内に、ミサトの良く響く声。

 狭い空間を反射し、それは何倍の大きさにもなる。

 「「!!」」

 アスカとシンジの体が、一瞬“ビクッ”と動いた。

 「ほら、起きなさい!!」

 更に、声を大きくするミサト。

 「うぅぅうぅぅぅぅん・・・・・・・・誰よ。
  アタシの眠りを妨げるのわぁぁ。」

 最初にアスカが、不機嫌そうに目を開けた。

 「ほら、アスカ。
  早く出てきなさいよ、いくらシンジ君の膝が心地良いからって、初対面の二人が
    そんなに密着していいと思ってんの?」

 「!!!!!!!!!!」

 ミサトのからかいに、頬を赤く染めるアスカ。

 慌ててシンジの膝の上から退こうとするが、シンジが抱きしめる手に力を入れたために出来ない。

 「シンジ君も!!
  アスカを抱きしめて幸せそうにしてないで、早く起きなさい!!」

 「ぅうぅ・・・え・・・ダレ・・・・・ミサトさん?」

 「そうよ、ワタシよ。
  二人とも抱き合ってないで、早く出てきて頂戴。」

 ミサトの指摘にシンジが視線を胸元に落とすと、アスカが俯いている。

 さらに、そのアスカを自分が抱きしめている事に気が付く。

 「わぁ!!」

 「きゃっ!!」

 シンジが、慌てて手を離すとアスカが膝の上から転がり落ちそうになる。

 それを、再び抱き込む事で助けるシンジ。

 「はいはい、あんた達が仲がよろしいのは解ったから、早く出てきなさい。
  ワタシは先に降りてるから。」

 「な、なに言ってんのよ!!」

 「そ、そうですよ、ミサトさん!!
  僕達、実際に逢うのは今回が初めてですよ!
  仲が良いとかそう言うんじゃありませんてば!!」

 「そうよ、たまたま疲れて二人とも寝ちゃっただけなんだから!!
  変な勘ぐりは止めてよね!!」

 ミサトの言葉に、顔を赤くして抗議する二人。
 
 「わかったから、早く出てきなさい!!」

 ミサトは、こめかみを押さえながら二人に出てくるように促し、プラグから離れる。

 「「は〜い。」」

 プラグから離れたミサトに、二人は声を揃えて答えた。

 ミサトが離れて行ったのを確認する二人。

 どちらからとでもなく、互いの顔を見つめる。

 アスカは、瞳を閉じると顎を突き出した。
 
 それが何を求める物なのか理解したシンジは、そっとくちづけをする。

 “チュッ”

 唇を触れ合わせるだけのキス。

 「シンジからのキスは、初めてだね。」

 頬を赤くしたアスカは、微笑むシンジにそう言った。







 ミサトが、甲板に降りてから更に20分。

 やっと二人が降りてきた頃、オーバー・ザ・レインボーはゆっくりとその巨体を港に横付けした。

 「もう来るな!!」と言わんばかりの、艦隊司令と副官の視線。

 それもそうだろう。

 先ほどの戦闘で、飛行甲板に係留してあった航空機は軒並み海の中。

 艦内に収容していた機体でさえ、衝撃によって損傷を受けていた。

 「台風より性質が悪い。」

 とは、後日艦隊司令官がネルフに送った抗議文の内容。

 まあ、それでもゲンドウが謝罪をする事は無かったのだが。

 港に横付けされたオーバー・ザ・レインボー。

 そこから、まず最初にケンスケとトウジが降りる。

 「うひょ〜、やっぱりずげ〜ぜ!!
  艦隊の実戦とエヴァの戦闘。  
  やっぱり持つべき物は友達だ!!」

 「ミサトさんはやっぱり綺麗やったな〜。
  ほんま、シンジが居てくれてよかったわ〜。」

 埠頭に降りた二人は、想い想いの事を口にしながら、まだ興奮冷めやらぬといった

  表情で右往左往する。

 ケンスケなどは、埠頭から艦体を見上げる形で撮影を継続している。

 それに続いて、シンジとアスカが降りてくる。

 アスカとシンジは、手を繋いでいた。

 人の気配に振り向いたトウジとケンスケが、それを見て驚きあとずさる。

 「な、なんと!」

 「ぺ、ペアルックや!!」

 「「イヤ〜んな感じ!!」」

 二人は絶妙に声を揃えると、抱き合っていた。

 シンジは、少し照れながら頭を掻いた。

 それに対して、アスカは得意満面である。

 “キキィィィィ”

 そんな、4人の横にミサトの運転するジープが止まる。

 派手なブレーキングで、助手席のリツコが身体を必死になって支えているのはご愛嬌。

 「さて、帰るわよ〜。」

 ミサトが子供達に、車に乗る様に促す。
 
 「「は〜い。」」

 「了解で有ります、一尉殿。」

 「はいな。」

 4人はそれぞれに答えると、車に乗り込んだ。

 (ジープに6人乗れるのかって?・・・・・知りませんそんな事。)

 その中で当然の様にシンジの膝の上に座るアスカを見て、リツコは少し前のミサトとの会話

 を思いだす。





 入港したオーバー・ザ・レインボーから真っ先に降りてくるミサト。

 視線の端にリツコの姿を見つけると、ゆっくりとその方向へ向かう。

 「ミサト、ご苦労様。」

 運転して来た車の前に立ち、リツコは近づいてきたミサトを労う。

 「はぁぁあ、疲れたわぁぁ、ねえリツコ、エビチュ持ってない?」

 「持ってるわけ無いでしょ!
  大体、飲酒運転で事故起こさないのなんて、貴女くらいよ。」

 「へへへへへへ・・・。」

 ミサトは苦笑いをすると、当然の様に運転席に座る。

 「はい、リツコ。
  今回の戦闘のデータよ。」

 助手席に座ったリツコに、何枚かのレポートを手渡した後、ミサトは車を発進させた。

 一通りレポートに目を通すリツコ。

 そして、データを示すグラフを見て、驚きの声を上げる。

 「凄いじゃない、このデータ。」

 「それは、そうなんだけど・・・・・・。」

 「シンクロ率もこんなに高いし・・・ダブルエントリーによる高シンクロ実験、
  やって見たいわね。」

 「まあねぇ・・・・・・。」

 「何よ、浮かない顔をして。
  戦力の充実は、作戦担当としては嬉しい事でしょ?」

 「そうなんだけど・・・・。」

 そう言って、少し表情を曇らせるミサト。

 「だけど・・・・・何?」

 「あの二人、ちょ〜っち変なのよねぇ〜。」

 「変って何が変なの?」

 「何て言うか・・・・以前から顔見知りのような・・・違うわね、それ以上の関係見たいな感じがするのよ。
  あんたも知ってると思うけど、ドイツに居た頃のアスカって男の子に興味ありませんって感じだったでしょ?
  そのアスカがよ、シンジ君に逢った途端に抱き付いてキスしたのよ?
  どう思う?
  アスカはこの前TVフォンで会話した時に、何かを教えてもらったお礼だって言ってたけど、ワタシには
    以前からの知り合いか、そうね・・・・あの感じは恋人って感じだったわよ。
  加持にべったりって感じでもなかったし・・・・。
  それにね、弐号機のエントリープラグの中で、仲良く抱き合って寝てたし・・・。
  とにかくおかしいのよ、あの二人は・・・・・。」

 「そうね、私も少し気になる事があるわ・・・・。
  ほら、マルドゥックの報告書だとシンジ君て、内向的で内罰的で自分が見捨てられない為に他人
  の顔色を伺う、そんな性格だって言ってたでしょ?
  それが、フタをあけて見れば、多少内向的なところはあるけど、司令なんかとサシで話をしたり、
  貴女に対して積極的に関わりを持とうとしたりしてるじゃない。
  まあ、あの時期の子供は成長するのが早いって言うけど、それにしても報告書と違い過ぎるわ。」

 「まあ、思春期の少年がワタシみたいな、ナイスバディの大人の女性に興味があるのは解るけど・・・・・・。
  なんだか、シンジ君見てるとませてるって言うか、すれてるって言うか・・・・・・。
  ホントにマルドゥックの連中はチャント調査したのかしら?」

 「貴女が大人の女性かどうかは置いておくとしても、調査の結果とずいぶん違うのは気になるわね。」

 「あんた、それどういう意味?」

 「あら、そのままに受け取ってくれてかまわないわよ。」

 リツコは、ミサトに微笑みかけた。

 「ふん!
  どーせ、ワタシは子供みたいだわよ!!」
 
 「身体はともかく思考回路は子供に近いわね・・・」

 「ナンカ言ったかしら?赤木博士?」

 「何でも無いわ・・・・・。」

 「ふん!!」

 ミサトは不機嫌な顔になると、思いっきりアクセルを踏み込んだ。

 “キュルキュルキュルキュル!!!!!”

 急加速の為にタイヤが煙を上げる。

 「キャッ!!」

 リツコは、小さな悲鳴を上げると、ミサトを睨んだ。




 

 そして今、ミサトが話していた違和感が、自分の目の前にいた。

 『本当だわ。
  この二人、他人じゃないって言う雰囲気を持ってるわね・・・・・・。
  何か有りそうだわ・・・・。』

 リツコは横目でシンジとアスカの様子を観察する。

 アスカは、シンジの膝の上に乗り上機嫌な顔をしている。

 そのアスカを照れながらも優しい表情で見つめるシンジ。

 とても、内向的で人付き合いが苦手な少年には見えない。

 『これは、注意が必要かも知れないわね・・・・・。』

 リツコは再びレポートに目を戻すとそう考えた。

 



 前にいる大人二人が、そんな事を考えているとは知らずに、後ろに座る子供達は騒いでいた。

 「おいシンジ、なんでその娘がお前の膝の上にいるんや?」

 「そうだそうだ!!
  なんか、いや〜んな感じだぞ!!」

 トウジとケンスケには、今日会ったばかりの二人が親密な関係になった事が信じられないのだ。

 「何よ、アンタ達!!
  アタシとシンジの事で文句でもあるの!!」
 
 シンジとのふれあいを冷やかされたアスカの顔は、不機嫌な物になる。

 「当たり前や!!
  お前の国ではどうかしらんが、日本では考えられんことや!!」

 「まあ、外国はそっちの方も進んでるって言うしなぁ。」

 ケンスケの余計な一言。

 それが、くすぶっていたアスカの怒りに火を点けてしまう。

 「なんですって!!!
  それじゃ、アタシがフシダラな女みたいじゃない!!」

 怒りに、顔を赤くするアスカ。

 その剣幕に圧倒され、腰が引けるトウジとケンスケ。

 「そ、そ、そう思われてもしゃ〜ないやないか!」

 「しょ、初対面でそんなにラブラブになるなんて・・・・。」

 「「ほんと(ま)いや〜んな感じ!!!」」

 再び手を取り合い声をそろえる二人。
 
 「し、仕方ないでしょ、この車狭いんだから。
  アンタ達の膝の上なんて死んでも嫌だし、シンジならアタシに変な事しなさそうだし・・・。
  それに、これから一緒に戦って行く仲間なんだし、信頼関係をつくっておかないといけないし。
  とにかく、アンタ達が考えるような関係じゃ無いんだからね!!」

 しかし、そんな説明で引き下がる二人ではない。

 「そないなこと、信じられるか〜ちゅうねん!」

 「そうだ!!
  お前らエヴァの中で何やら怪しい事でもしてたんじゃないか?」

 そう言って、ケンスケがメガネを上げる仕草をした途端、

 “バチ〜ン!!!!”

 彼の頬に紅葉が出来る。

 「ぐあぁぁ!!」」

 「なにするんや、この暴力女が!!」

 今度は、トウジがそう言ってアスカに掴みかかろうとするが、

 “バチ〜ン!!!!!”
 
 トウジの頬にも紅葉が出来る。

 「ぐはぁぁ!!」

 「汚い手で、あたしに触れないでちょうだい!!
  なんてデリカシーが無い奴らなの!!
  ホント、信じらんない!!」

 目の前で、折り重なる様に失神する、トウジとケンスケ。

 聞こえていない事を理解しながらも、そう言わずにはいられないアスカだった。




 

 トウジ達を降ろすために学校の前にミサトが車を止めた時、ミサトを除く全員が意識を失っていた。

 それもそのはず。

 乗ってきたのは、軍用のジープである。

 その車で、港から学校までの間に、国産、外車、合わせて5台のスポーツカーを抜いてきたのだ。

 激しいシフトワークとブレーキング。

 ストレートでは、アクセル全快。

 どう考えても、空力的にもウェイト的にも劣るジープが速く走るために造られた車達を置き去りにする。

 それは、普通では考えられない事であり、抜かれたドライバー達も我が目を疑った。

 その後、この付近である伝説が生まれる。

 「ネルフのジープには手を出すな。
  アレは人間のドライビングじゃない!!」

 この伝説は、さまざまな憶測を呼ぶ事となる。

 ネルフが造った人造人間が運転しているとか、実験で感覚を麻痺させられた被験者が運転しているなど

 数十の噂が飛び交う事になるのだが、その真相を知る者は、ネルフ内でも限定された人達だけだった。

 そんなわけで、学校の前まで来た時には、ミサト以外の誰も意識を保っていなかった。

 「あれ〜、みんな寝ちゃったの?」

 と、とぼけた事を言うミサト。
  
 なんとも平和な御人である。

 そう言った理由で意識を失ったトウジとケンスケを何とか覚醒したシンジとアスカが叩き起こし、

 学校の前で降ろした後、アスカに叩き起こされたリツコの運転で車はジオフロントへと降りて行く。

 どうやら、ミサトには運転させたくなかったらしい。

 トンネルを抜け、目の前に広がるジオフロント。

 前世と同じその光景に、アスカは目を潤ませる。

 『また、ココへ帰ってきた。
  今度は、うまくやって見せるわ・・・・・。
  シンジとアタシ・・・そして、みんなの未来の為に・・・・』

 知らず知らずの内に、シンジの手を強く握るアスカ。

 その事に気が付いたシンジも、その手を握り返す。

 『僕とアスカ、そして綾波・・・・・・。
  三人で、明るい未来の為に大人達の野望を止める。
  それは、ココに帰ってきた僕達の使命なんだ・・・・・。』

 シンジの想いが伝わったのか、アスカがシンジを見つめる。

 あの頃より、少し凛々しく見えるシンジの横顔。

 ホンの少しだけ、心の持ち方を変えただけでこんなにも変わる少年の顔。

 『きっと、アタシがコイツから目が離せなくなったのは、前世で初めて一緒に戦った時、
  あの横顔を見たからかもしれない。』

 前世で初めて会った時、アスカはシンジの事を冴えないヤツと思った。

 実際、共に弐号機に乗るまでは、完全に冴えないヤツと思っていた。

 しかし、共にエントリープラグの中で使徒の口を開かせようと念じていた時に垣間見たシンジの横顔。

 それまでの、シンジとは違う真剣な表情に、アスカは心臓が高鳴るのを覚えていた。

 『そうだ、アタシはあの時から、コイツを意識していたんだ。』

 良い悪いは別にして、アスカは、常にシンジを意識していた。

 普段は冴えない表情のシンジ。

 それでも、使徒との戦いの時には普段と違う表情をしていた。

 真剣な眼差しと表情。

 そんなシンジに、アスカは何か知らない感情が生まれて行く事に苛立っていた。

 シンジにシンクロ率を抜かれたときに、必要以上に悔しいと思った事。

 実際、母がいなくなったあと、唯一のよりどころとしていたエヴァ。

 自分は一番で無ければならないと言うプライド。

 しかし、そのプライドの下に隠れた、自分でも理解できない感情。

 今となっては恋心と理解出来ているが、あの時はそれを理解するほど自分に余裕が無かった。

 一番に自分を意識して欲しい人が自分の上を行く。

 その事によって、自分が見てもらえなくなる不安。

 それに苛立っていたのだ。

 シンジと共にいる事で、安心している自分の存在を忘れて・・・・・・。

 『でも、今のアタシはシンジへの気持ちを理解している。
  見るほどに、話すほどに、シンジへ惹かれて行っている。
  どうしようもなく好き。
  ママでも加持さんでも無く、シンジが好き。
  この気持ちは、本当の気持ちだと良い切る事が出来る。』

 その、アスカの一途な眼差しを感じたシンジが優しく微笑んだ時、車はネルフ本部へと到着した。





 

 「アスカは、このまま碇司令の所に挨拶に行くけど、シンジ君はどうする?」

 車を降りて中へ入る時、ミサトはシンジにそう尋ねる。

 「僕は、教官の所に行きます。」

 「そう、じゃあその後はトレーニングルームね。」

 「はい、そうなると思います。」

 「じゃあ、アスカも用事が済んだらトレーニングルームへ行かせるから、その後彼女を寮まで送って行ってくれる?」

 「解りました。」

 「それじゃあ、行きますか・・・・アスカ、こっちよ」

 ミサトは、リツコとアスカを連れてエレベーターに乗る。

 「じゃあね、シンジ。」

 「うん、また後でね。」

 エレベーターの中で手を振るアスカ。

 シンジは、ドアが閉まるまで、それに笑顔で答えていた。

 「さて、教官のところへ行きますか・・・・。」

 シンジはそう言うと、別のエレベーターへと乗り込んだ。







 港から今まで、ずっと着ていたプラグスーツから、トレーニングウェアに着替えたシンジは、 

 松崎が使っている執務室に着くと、シンジは襟を正しドアをノックする。

 “コンコン”

 中から、松崎が「どなたですか?」と返事をしてきたので、

 「教官、碇シンジです。」

 と、名乗りを上げる。

 「入ってくれ。」

 その声の後、ドアのロックが外れる音がする。

 「失礼します。」

 シンジが、そう言って部屋の中に入ると、松崎が食事をしている所だった。

 「教官、遅い昼食ですね。」
 
 「ああ、今日は会議が有ってな、食事をする時間が無かったんだ。」

 シンジを気にする事も無く、カツ丼をかきこむ松崎。

 「それはそうと、今日は太平洋艦隊に行ったんだってな。」

 「はい。」

 「セカンドチルドレンはどうだ?
  うまくやっていけそうか?」

 「そうですね、うまくやっていけそうです。」

 「そうか・・・・。」

 「はい。」

 「で、今日の用件は?」

 「ああ、アスカが・・・セカンドチルドレンの事ですけど、司令室に挨拶に行ってるんで、
  その間トレーニングをやろうと思いまして。」

 「そうか、関心だな。」

 「で、教官に付き合っていただこうと・・・・。」

 「解った、10分後に行くから、先に行っていてくれ。」
 
 「了解です。」

 シンジは、その場で頭を下げると、ドアへ向かう。

 「ああ、そうだ。
  セカンドチルドレンは可愛かったか?」

 「ええ、最高に可愛いですよ。」
 
 その問いに、振り向いて満面の笑みで答えるシンジ。

 「惚れたな?」

 「きょ、教官!!そんな事どうでも良いじゃないですか!!」

 「いやいや、好きな女を護る時こそ、男は最も強くなるもんだ。」
 
 「そうなんですか?」

 「そうだ、そう言うもんだ。」

 「そうかもしれませんね、僕も彼女を護りたいと思います。」

 「なおさら、訓練に力が入るってもんだろ?」
 
 「はい、一日も早くスキルアップしたいです。」

 「良い心がけだが、焦りは禁物だぞ。」

 「わかってますよ。」

 「なら良いが・・・・・。
  とにかく、頑張れよ。
  お前が頑張るなら、俺はトコトン付き合ってやる。」

 「ありがとうございます。」

 シンジは、再度頭を下げると、松崎の部屋を後にした。






 
 シンジが、松崎の部屋を訪れいている頃、アスカは司令室にいた。

 途中、ミサトの案内で更衣室に寄りプラグシーツから私服へと着替え、その後司令室に向かう。

 司令室の前で、ミサトが入室の許可を取り二人は中へ入るが、相変わらずの異様さに嫌気が射した。

 『相変わらず暗い部屋なのねぇ。』

 そう考えつつも、明るい表情をするアスカ。

 共に入ってきたミサトは、冬月に外で待っている様に指示され、すぐに退室して行った。

 ミサトを見送った後、アスカは視線を再び正面に戻すと、胸を張り、朗らかに挨拶をする。

 「惣流・アスカ・ラングレーです。
  ただいま、ドイツ支部より着任いたしました。」

 暗い司令室にアスカの声が響く。

 いつも通り、机に肘をついた姿勢で目だけを動かしたゲンドウは、一言、

 「うむ、ごくろう。」

 と、答えただけだった。

 『相変わらず、無愛想なのね、この人は。
  まったく、この人がシンジのパパだなんてて信じられないわ・・・・・。』

 前世と少しも変わらないゲンドウの姿に、アスカは表情を曇らせる。

 ゲンドウの横に立っていた冬月は、そのアスカの表情から、ゲンドウへの不快感を感じとり、

 代わりに言葉をかける。

 「セカンドチルドレンの活躍に期待する。」

 「ありがとうございます。」

 「それでは、下がってよろしい。」

 「はい。」

 冬月は、既にゲンドウの関心が、アスカに向いていない事を悟り、彼女を退室させる。

 「では、失礼します。」

 ドアを出る際に、再びゲンドウ達の方に向き直り、アスカは深々とお辞儀をした。

 「加持君、そろそろ出てきたらどうだ?」

 アスカがドアの向こうに消えるのを確認した冬月が、部屋の隅にいる加持を呼ぶ。

 「いやぁ、助かりました。」

 「全く・・・・、葛城君が怖いのなら、彼女達の後に報告すれば良い物を・・・・。」

 「いやいや、届け物は迅速に・・・・がモットーでしてね。」

 「まあ良い、君も下がりたまえ・・・・良いな、碇。」

 「ああ、問題ない。」

 「それじゃあ、失礼させて頂きます。」

 加持は、そう言って部屋を出て行った。

 「彼も、苦労するな・・・・。」

 「フッ。」

 「お前も、ユイ君に怒られるような事は止めたほうが良いぞ・・・・。」

 「フッ、問題ない。」

 『本当に問題ないのだろうか?』と思わずにはいられない冬月だった。





 アスカが通路に出ると、ミサトがファイルを持って近づいて来る。

 「おつかれさま。
  どうだった?碇司令の第一印象は?」

 そう言って微笑むミサト。

 「どうだったって、なんか無愛想な親父って感じよねぇ〜あの人。」

 アスカの率直な意見。

 それを聞いたミサトは、

 「まあ、特務機関の司令官だから、そう簡単にニコニコ出来ないんじゃないかなぁ?」

 とりあえずフォローを入れてみたりする。

 「じゃあ、アンタは碇司令の笑顔なんて見た事あるの?」

 「ないわねぇ。」
 
 「でしょぉ。
  あの親父は、そう言う人間なのよ!」

 「まあ、シンジ君もあまり表情を表に出さないからねぇ・・・。」

 シンジは表情を表に出さないと言う、ミサトの言葉。

 それを、シンジを馬鹿にした様に聞こえたアスカが一瞬表情を変えるが、腹を立てても仕方ないと

 思い直す事にした。

 「それより、シンジは何処にいるの?」

 とりあえず、話題を転換しようと、アスカが話しを振る。
 
 「ああ、シンジ君ならトレーニングルームで松崎一尉と訓練中だわ。
  行って見る?」

 「当たり前でしょ!!
  シンジに寮まで送ってもらわなくちゃいけないし・・・・・。」

 そう言って、アスカは腰に手を当て、胸を張る。

 「そうだったわね・・・・じゃあ、行きましょうか?」

 「さっさと案内しなさいよ!!」
 
 「解ってるって、なんたって、愛しのシンジ君だもんねぇ・・・。」

 ここでミサトは、少しカマをかけて見る。

 『コレくらいでボロを出すとは思わないけど・・・・。』

 アスカもそのセリフが自分にカマをかけてきている事を理解し、無難に答える。

 「そんなんじゃないわ、ただ、戦友として好意は持っているけどね。」

 『ミサトのヤツ、何か感じている見たいね・・・・。
  早いうちに、味方になる大人を確保しておかないと・・・・。』

 アスカは、先を行くミサトの背中を見つめながら、誰を味方に引きこむべきか考え始めた。

 この時、アスカとミサトの後ろで、加持が反対方向に向けて走っていたのだが、二人とも

 気が付く事は無かった。

 『ひゃ〜、助かったぜ。』

 彼は、まだ知らない。

 その安息が一時的な物でしか無いことを・・・・・。






 アスカは、ミサトの案内でトレーニングルームへ着く。

 とは、言っても、前世の記憶から目を瞑っていても来る事が出来るのだが、此処では初めて

 来た事になっているので、おとなしく着いてきた。

 ちなみに、ミサトは此処に来るまでに4回道を間違えている。

 『ホント、方向音痴は変わらない見たいね・・・・。』

 と、前世の記憶との合致点を妙なところで見つけてしまい、思わず顔がほころぶアスカではあったが・・・。

 トレーニングルームの前に立つと、中からシンジの物と思われる声が聞こえる。

 「もう一本!!」

 その声を聞き、シンジが前世では嫌っていた格闘訓練をしている事が解る。

 「うわぁぁぁぁ!!」

 『シンジ!!』

 恐らく、教官役の職員に投げられたのであろう、シンジの悲鳴が聞こえる。

 「まだまだ・・・もう一本!!」

 前世のシンジからは想像できない言葉。

 アスカの記憶では、シンジは格闘訓練にこれほど打ち込んではいなかった。

 『何かが、シンジを変えたんだ・・・・・。』

 アスカは、シンジの変化を頼もしく思っていた。

 「アスカ、此処にシンジ君がいるはずよ〜。
  入って見る?」

 「うん、入る。」

 ミサトは、アスカが頷くのを見ると、部屋のドアを開ける。

 その先に広がる、畳の敷いてある広い部屋。

 そこのほぼ中央で、シンジと少し色の黒い男が組みあっていた。

 「松崎一尉、ちょっと良いかしら?」

 ミサトの声に、シンジと松崎が視線を入り口に向ける。
 
 「ああ、葛城一尉。」

 ミサトの存在に気が着くと、松崎はシンジと組んでいた手を解き歩みよる。

 「トレーニング中にスミマセン。
  こちらが、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーさんです。」
 
 紹介されたアスカが、一歩前へ出てお辞儀をする。

 「惣流・アスカ・ラングレーです。
  よろしくお願いします。」
 
 アスカの自己紹介に、松崎が笑顔で答えた。

 「自分は、サードチルドレン専属トレーナーの松崎肇一だ。
  階級は、葛城さんと同じで一尉。
  まあ、知っての通り此処で階級はあまり意味がないがな。」

 「松崎一尉、これからは、このセカンドチルドレンのトレーニングも貴方の管轄となります。
  よろしくお願いしますよ。」

 「了解です。
  それにしても、可愛いお嬢さんだ。
  碇が一目惚れしたのも頷けますなぁ。」
 
 『やだ、この人。
  アタシの事、カワイイだって・・・。
  でも、どんなにお世辞を言っても駄目よ!
  アタシは、シンジ一筋なんだから!!。』

 松崎の可愛いという一言で、顔を赤くするアスカ。

 その、アスカの前にシンジが歩いて来る。

 「ミサトさん、終わったんですか?」
 
 「ええ、終わったわよ。」

 「で、アスカ。
  父さん、どうだった?」

 ミサトを見ていた視線をアスカにうつっすシンジ。

 「どうって、無愛想だったわよ。」
 
 「そうか・・・無愛想だったのかぁ。」
 
 シンジはため息をつく。

 そして、一度松崎の方へ顔を向けると、トレーニングの終了許可を求める。

 「教官、ありがとうございました。
  僕は。これから彼女を寮まで送らなきゃいけないんで、これで失礼します。」
 
 その、シンジを見た松崎は、もう一度微笑むと、
 
 「解った。  
  訓練を終了する。
  碇、ちゃんと惣流君を、エスコートするんだぞ!」

 シンジの背中を叩くとそう言った。

 「痛!!
  教官、酷いじゃないですか、いきなり殴るなんて・・・・。」

 「何を言ってるんだ、気合を入れてやったんだ。
  彼女をしっかり護れる様にな。」

 そう言う松崎の顔には、悪戯っ子のような笑顔が浮かんでいた。

 「そうですか?
  まあ、良いや・・・それでは上官、失礼します。」

 「ああ、また明日な。」

 「はい。」
 
 シンジは短く答えると、アスカを伴ってトレーニングルームを出て行った。



 

 ネルフを出た二人は、手を繋ぎながら薄暗くなった道を歩いていた。

 「やっと、日本に、シンジの所に来れたのね・・・・。」

 嘗て見慣れた街並みを見ながら、アスカは誰に言うとでも無く口を開く。

 「そうだよ、アスカ。
  やっと、スタートラインにみんながそろったんだ。」

 スタートライン。

 サードインパクトの悲劇を食い止めるための出発点。

 『僕達は、そのために戻ってきたんだ・・・。』

 全てが一つとなったあの紅と黒と白の世界。

 自分達以外に誰もいない。

 一時は、アスカですら、シンジの創り出す偽りの世界で安住していた。

 『あの世界にいたら、アタシはどうなっていたんだろう・・・・。』

 シンジだけがいない世界。

 誰もシンジを知らない世界。

 自分ですら、シンジを知らない世界。

 全ての責めをシンジ一人が背負う代償として、創り出された世界。

 『アスカに幸せになって欲しい。』

 その想いだけで創造された、ぎこちない世界。

 『もしあの時、レイがシンジの事を想い出させてくれなかったら・・・・・。』

 突然不安に襲われたアスカが、自分の両肩を抱きしめる。

 その様子を見ていたシンジが、彼女を安心させるかのように肩を抱く。

 「アスカ、何にも不安に思わなくて良いんだよ。」

 「シンジ・・・・。」

 「君も僕も此処にいる。
  僕はもうアスカを離さない・・・・。
  だからさ・・・・一緒に頑張ろうよ。」

 「そうね、一緒に頑張りましょ。」

 そう言って見詰め合う二人。

 互いに視線を逸らそうとはしない。

 その場の時間が止まったかのように、辺りを静寂が包む。

 そして、二人の影が重なる・・・・・・はずだった。

 突然、二人は背後から声を掛けられる。

 「碇君、アスカ!」

 その声に驚き慌てて身体を離すシンジとアスカ。

 声のした方に視線を向けると、そこには淡い青の髪を持つ一人の少女が立っていた。

 「「綾波(レイ)!!」」

 「こんばんわ。」

 レイは、微笑むと、シンジとアスカに近づく。

 「「こんばんわ、綾波(レイ)。」」

 「貴方達、道の真ん中でそう言う事は止めたほうが良いわ。」

 「あ・・そ、その・・・・・。」

 顔を赤くして必死に言い訳を探すシンジ。

 隣にいたアスカは、顔を赤くして俯いている。

 「まあ、良いわ。
  それより、アスカ。」

 「な、何よ!」
 
 「おかえりなさい。」

 「え?」

 「おかえりなさい、アスカ。」

 突然、思ってもいなかった言葉をかけられたアスカは、返答に迷う。

 「え・・あ・・・その・・・・・た、ただいま!」

 しどろもどろになりながら、やっとの事でアスカの口から言葉が紡ぎだされる。

 「これで、みんな揃ったわね。」

 「そうだね。
  僕とアスカと綾波。
  あの世界を創らせないために、僕達はここに帰ってきた。」

 「そう、それが私達の目的。
  それに、碇君。
  もう一人忘れてるわ・・・。」

 「もう一人?」

 「そう、もう一人・・・・。」

 もう一人、帰還を果たしている人間がいる。

 その言葉に、シンジは驚く。

 「レイ!
  そのもう一人って誰よ!!」

 真っ先にレイに問いかけたのは、アスカだった。

 「碇君は知ってる人。」

 「シンジが知っている人?」

 「そう・・・・。」

 「綾波、それってもしかして・・・・・・カヲル君?」

 シンジの頭によぎった人物。

 前世で、自分に好意を寄せてくれた少年。

 使途であったにも拘らず、自分こそ生きて行くべきだと言ってくれた少年。

 そして、自分の手で殺した少年。

 渚カヲル。

 シンジの身体は、小刻みに震えていた。

 「シンジ・・・・。」

 震えるシンジの肩を抱き寄せるアスカ。

 アスカは、その少年を知らない。

 自分が精神崩壊していた時に、代わりにチルドレンとして来た少年。

 その少年をシンジが自らの手で殲滅した事は、彼から聞いてはいた。

 シンジが心を壊す原因となった少年である事も・・・・・。

 「大丈夫よ、シンジ。
  アタシがいるから・・・・・。
  アンタと一緒に、アンタの傍にいるから・・・・。」

 自分の胸にシンジの頭を寄せながら、アスカは優しくそう告げる。

 「アスカ・・・・・・。」

 未だ、小刻みに震えるシンジがやっとの事で顔を上げ、力無く微笑む。

 「そうだね・・・・・アスカがいるよね。
  強くなったと思ってたのに・・・・・やっぱり僕は駄目だな。」

 シンジの内気な部分が顔を出す。

 少し怯えたような瞳。

 その瞳を見つめるアスカ。

 「なに言ってんのよ! 
  アンタが弱いのは知ってる。
  アタシも弱い。  
  だからこそ、互いに助け合っていかなくちゃいけないんでしょうが!!」

 「うん・・・・。」

 「それにね、アンタは自分で思っているほど弱くはないのよ。」

 少し照れたのか、視線を逸らしながらそう言うアスカ。

 その様子に、シンジも顔を赤くする。

 「もう、その辺で良いでしょう、アスカ、碇君。」

 再び二人はレイを見る。
 
 そこには、少しあきれた顔をしたレイがいた。

 「そ、それより、何でレイが此処にいるのよ!」

 気まずくなったアスカが、声を大きくする。

 「ああ、そうね。
  忘れてたわ・・・・。」

 それを聞いて、今度はアスカが呆れ顔になる。

 「あんたねぇ・・・・。」

 「ごめんなさい、用件を言うわ。
  葛城一尉から伝言。
  明日から、アスカも学校へ行けとの事よ。」

 「学校かぁ。」

 アスカは、前世での事を思いだす。

 日本に来て、初めて同年代と生活する事を知った。

 あの頃は、何故そんな事をするのか不思議だったが、今では嬉しく思える。

 勉強自体は、簡単でつまらない物だったが、親しい友人が出来た。

 こういう世界もあったのだと、初めて知った。

 使徒との戦いも順調で、シンジとの関係も良好。

 全てが終わっても、この国のこの場所で生きていたいと思ったあの頃。

 「解ったわ、アタシも明日から学校へ行けるのね。」

 シンジは、微笑みながらそう言うアスカを見て思う。

 『やっぱり、アスカにはこういう顔が良く似合うよ・・・・。』

 その後、シンジとアスカはレイを団地まで送り、少し遠回りになったが、寮へと向かった。

 レイの団地に言った際には、

 「全くあの髭親父はなに考えてるのかしら!!
  こんな所にレイを住まわせるなんて、常識を疑うわね!!」
 
 と、文句を言っていたが、

 「そうだね、こんな所に住んでちゃ危ないよ。
  今度、父さんにあったら言っておくね。」

 シンジが、ゲンドウに談判すると言った事で、その怒りを収めることにした。

 シンジに文句を言っても仕方ない事なのだ。

 

 満点の星空の下、シンジとアスカは手を取り合いながら歩く。

 『あの頃も、こうして素直になれてたらなぁ・・・・。』

 素直になれていたら・・・・・。

 そうしていたら、自分が心を閉ざす事も、シンジが心を壊す事も無かった。

 サードインパクトが起きる事も・・・・・。

 『でも良いわ、あの時はあの時、今は今。
  アタシは、シンジの事がどうしようもないくらいに好き。』

 アスカは、それを確かめる様に握っているシンジの手に力を入れるのだった。



 ネルフの女子寮に着いた二人は、当然の事の様に互いに見つめ合い唇を重ねる。

 「いよいよ明日からね・・・。」
 
 「うん、そうだね。」
 
 「じゃあ、明日、学校で逢いましょ。」

 「解ったよ、アスカ。」

 「じゃあ、おやすみなさい、シンジ。」

 「おやすみ、アスカ。」

 そう言ってもう一度キスを交わした後、シンジは家路へと着いた。





 翌朝、いつもより早く起きてしまったシンジは、いつもより少し多めに弁当の下準備をする。

 自分の弁当箱とその横に並んで置かれた容器に同じように盛り付けをする。

 あまった食材で、自分の分とミサトに差入れをする分の朝食を作り、ミサトの分にラップを掛ける。

 「さて、出かけるかな・・・。」

 シンジは、自分の弁当箱ともう一つの容器を鞄に入れると、ラップの掛かった皿を持って部屋を出る。

 エレベーターに行く途中でミサトの部屋に寄り、まだ眠そうな彼女に皿を渡すと学校へと向かった。

 そして途中で、トウジ、ケンスケと合流する。

 「「シンジ、昨日はおおきに(アリガトな)。」」

 一般人では絶対に出来ない体験をさせてもらった二人。

 『やはり、持つべき物は友達だ』

 と、思わずにはいられなかった。

 「それにしても、あの女。
  いけすかんヤツやったなぁ。」

 「ホント、暴力的と言うか、なんと言うか・・・・・。
  黙ってれば可愛いんだけどなぁ・・・。」

 昨日、強烈なビンタをくらい、異世界を垣間見た二人のアスカに対する印象は最悪。

 意見が違うのは唯一人、シンジだけ。

 「そうかなぁ・・・そんな事は無いと思うんだけどなぁ・・・・。」

 前世での、アスカの初対面時の印象は最悪だったシンジではあったが、それが彼女の

 本当の姿では無いと知っている今では、それすらも可愛く思ってしまう。

 「アスカは、十分魅力的な女の子だよ。」

 「な、な、ナンヤと〜!!」

 「シンジ、やっぱり何かあったんじゃ無いか?エヴァの中で。」

 「そんな事は無いよ。
  ただ、アスカはあれで良いんだよ。
  僕にはそれが解るんだ。」
 
 何時に無いまじめな表情でそう言うシンジ。

 その姿を見て、トウジとケンスケは声を上げる。

 「「イヤ〜んな感じ!!!」」





 そんな彼らが、歩道橋にさしかかった時、不意に背後から声を掛けられる。

 「グ〜テンモ〜ゲ〜ン、シンジ!!」

 三人が振り向くと、自分達の学校の制服に身を包むアスカの姿が目に映る。

 「おはよう、アスカ。」

 固まる二人とは対照的に、シンジが挨拶を返す。

 そのシンジにニッコリと微笑むと、さも当然だと言わんばかりにシンジの腕に

 自分の腕を絡ませるアスカ。

 「ちょ、ちょっとぉぉ、恥ずかしいよぉ。」

 「何言ってんのよ!
  アタシと腕を組むのは嫌なの?」

 少し上目遣いでそう言うアスカ。

 『か、カワイイ・・・・・。』

 顔を赤くしながらも、その愛らしい顔からシンジは視線を外せない。

 「そ、そんな事は無いよ、ウン、そんな事は無い。」

 「なら良いじゃない。」

 「そ、そうだね・・・・・・じゃあ行こうか?」

 「うん、行きましょ!」

 腕を組んだシンジとアスカは、未だ石と化している二人を残してその場を後にする。

 歩道橋を降りると、下ではレイが二人を待っていた。

 「「おはよう、綾波(レイ)。」」

 「おはよう、碇君、アスカ。」

 レイは、そう言ってアスカの隣に立つと、

 「さあ、行きましょう。」

 と、二人に微笑みかけた。

 その笑顔に、二人とも頬を赤らめてしまう。

 『『綾波(レイ)って、こんなに綺麗な笑顔で笑うんだ・・・』』

 二人にとっては、新鮮な事。

 アスカは、レイが自分達の前で笑った記憶が無い。

 シンジは、自分が前世で「笑えば良いと思うよ。」と言った時よりも自然な笑顔に見える。

 「何を、止まってるの?
  遅刻するわ、行きましょ。」

 以前の冷徹な雰囲気のあるレイとは違い、今は温かみさえ感じる。

 「「そ、そうだね(ね)、行こう(行きましょ。)」」

 三人は、再び並ぶと学校へと歩き出した。






 その三人の様子を、背後の木陰で盗み見ていた人物がいる。

 霧島マナだ。

 「な、な、何よぉぉぉぉ!!
  何なのよ、あの女!!
  馴れ馴れしくシンジ君と腕なんて組んじゃって!!」

 怒りにまかせて、街路樹を殴る。

 “メキメキメキメキ”

 マナに殴られた街路樹が、音を立てて倒れた。

 それでも怒りのオーラを消さない彼女に、同じ道を学校へ向かっていた生徒達が膝を

 震わせながら歩いていた。






 学校へ到着したシンジ、アスカ、レイの三人。

 下駄箱で、レイが先に教室へ向かうと、シンジはアスカを職員室まで案内する。

 「まあ、知ってると思うけど、ここが職員室だよ。」

 周りにいる生徒に不信感を抱かせない様に、シンジはアスカにそう言った。

 「アリガト、シンジ。」

 アスカは、廊下を見渡した。

 丁度その時、偶然にも廊下に生徒の姿が見えなくなる。
 
 それを確認したアスカは、シンジの頬に口づけた。
 
 「ここまで案内してもらったお礼よ・・・。」

 突然のアスカの行動に、言葉を失うシンジ。

 「あわあわあわあわ・・・・・・。」

 「こら、何フリーズしてるのよ!!」

 どうやら、アスカも恥ずかしかったようで、頬を赤くしている。

 「じ、じゃあ、僕は教室にいるから!」

 「うん、解ってる。」

 「それと、アスカのお弁当も作ってきたからね。」

 「ホント〜!!
  嬉しいよ、シンジ。」

 「じゃあ、後でね。」

 「うん、後で・・・。」

 シンジは、アスカが職員室に入るのを確認すると教室に向かった。




 

 職員室で担任に面会した後、アスカは教室へと案内された。

 「きり〜つ、きょーつけ、れ〜い。」

 教師と共に中へ入ると、懐かしい顔が並んでいた。

 『ヒカリだ!!今回も仲良くなれるかなぁ・・・。
  あっ、あの“ぺちゃパイ”マナもいる・・・なんで?』

 ヒカリとの再会は嬉しいが、マナがいる事に疑問を覚えるアスカ。

 しかし、後でシンジに聞けば良いと思い平静を保つ。

 「え〜、本日より、皆さんと一緒に勉強する、惣流・アスカ・ラングレーさんです。
  みなさん、仲良くしてください。」

 教師がそう言ってアスカを紹介すると、彼女を壇上へと呼ぶ。

 アスカは、それに従い壇上に上がると、黒板に向かい自分の名前を書き始める。

 それが、終わると生徒達の方へ向きなおり、自己紹介を始めた。

 「惣流・アスカ・ラングレーです。
  ヨロシクね。」

 そう言って、笑みを浮かべた彼女に、クラスの男子が声を上げる。
 
 「「「「「「「わぁぁぁぁっ!!」」」」」」」

 ただ、アスカの本当の性格を知っている、トウジとケンスケは窓の外に目を向けたまま。

 アスカが来た事に喜びを隠せないシンジは、アスカを見つめ、優しく微笑んでいる。

 シンジの事でアスカに怒りを覚えていたマナは、敵意むき出しの顔でアスカを睨む。

 「さて、惣流さんの席ですが・・・・・。」

 騒ぎが一段落したのを見計らって、教師がアスカに席を指示しようとした時。

 「アタシは、あそこが良い!!」

 と、シンジの隣を指さすと、教師に言い放った。

 「ええと・・・・。」

 すでにシンジの隣には別の生徒が座っているため、困惑する教師。

 「良いったら、良いの!!」

 その教師に詰めよるアスカ。

 その勢いは、今すぐにでも殴りかかりそうな勢いだった。

 「わ、解りました・・・・・。」

 勢いに押された教師は、シンジの隣の席に座る生徒に場所を代わる様に指示する。

 「解りゃ良いのよ、解れば!!」

 そのあまりにも強引な方法に、校庭を見ていたトウジが立ち上がる。

 「ほんま、強引なやっちゃなぁ!!」

 そこまでは、良かった。

 ただ、その後の一言がアスカに火を点けた。

 「やっぱり、性格ブスや・・・・・。」

 “ブチン”

 後に、教壇付近の生徒は証言する。

 「何かが切れる、鈍い音がした。」

 トウジの言葉に理性のタガが外れたアスカ。

 「な、な、なんですって〜!!」

 電光石火の早業で、トウジに近づくと渾身のビンタ。

 “バチ〜ン!!!”

 「どわぁぁっ!!」

 ゲルマン忍術?を駆使した張り手にトウジの身体が少し浮かび上がる。

 「アンタは少しそうやって反省してなさい!!」

 窓の外に上半身を投げ出し、縁に引っかかりながら意識を失っているトウジにそう言い放つ。

 さらに、その彼女にカメラを向けながら、

 「怒った顔もなかなかイイ・・・・売れる、売れるぞ〜!!」

 と、呻いているケンスケを見つけると、そこまでダッシュ。

 「アンタも反省なさい!!」

 “バキ〜ン!!!”

 カメラごと、顔面を殴った。

 「ぎゃァァァァァ!!」

 教室に響き渡るケンスケの悲鳴。

 あわれ、ケンスケはカメラを顔面に食い込ませながら意識を失う。

 呆気にとられる生徒達。

 ある者は膝をカタカタと震わせ。

 またある者は、椅子から転げ落ちる。
 
 女子生徒に至っては、座ったまま意識を失う者もいた。

 「学級委員、一時間目は時間を貰っておいたから・・・・。」

 そう言い残して、教室から脱出する教師の膝もまた、ブルブルと震えているのだった。





 教師がいなくなると、アスカの周りに人だかりが出来る。

 その中で、一番最初に口を開いたのは、委員長のヒカリだった。
 
 「私、学級委員の洞木ヒカリ、ヨロシクね。」

 ヒカリはそう言うと、アスカに手を差し出した。
 
 「こちらこそヨロシク、洞木さん。」

 差し出された手を握り返しながら、そう言うアスカ。

 「ヒカリで良いわよ。」

 「じゃあ、アタシもアスカで良いわ。」

 どうやら、今回も友情は結べそうだをと、嬉しく思うアスカ。

 ヒカリが話しかけた事で、緊張のほぐれた他の生徒達が話しかけてくる。

 一通り、女子生徒が話し掛け終わると、今度は男子生徒が話しかけてくる。

 「惣流さん、学校の中を案内しましょうか?」

 とか、

 「解らないことがあったら、僕に聞いてくれ、君のためならどんな事でもしてあげるよ。」

 などと、明らかにアスカの気を惹こうとする言葉をかけて来る。

 しかし、そんな彼らに対してアスカは、

 「アタシの気を惹こうとしても無駄よ。  
  好きな人がいるんだから!!」

 と、シンジに視線を送りながら答える。
 
 朝の一件を目撃していた何人かの生徒が、それに気が付き探りを入れてくる。

 「惣流さん、その人ってもしかして・・・・碇か?」

 「そうよ、ナンカ文句ある?」

 冷たい視線を浴びせながらそう言い放つアスカ。

 一言で言えば殺気。

 平穏な生活をしている生徒達がそれを浴びせられて平気で居られるはずは無い。

 アスカを取り巻いていた男子生徒達は、それ以上アスカに話しかける事は出来なかった。

 こうして、アスカ2回目の転校初日は特にトラブルも無く(若干二名が死線を彷徨ってはいたが・・・・。)

 過ぎて行くのだった。

 元々相性が良かったのか、ヒカリとは前世と同様すぐに仲良くなる事が出来た。

 それは、アスカにとってシンジとの再会に次ぐ嬉しい出来事。

 『ヒカリや他の友達の為にも頑張らなくちゃ!
  シンジとの結婚式の時には、友達が沢山来てくれたほうが嬉しいからね。
  だから、サードインパクトを防いでみせる!!』

 そう心に誓うアスカだった。


 

 放課後。
 
 シンジとレイと共に下校するアスカの提案で、街を見下ろせる公園へ立ち寄る。

 3人は、眼下に見える第3新東京市を見ながら、それぞれの想いを言葉にする。

 「僕は、サードインパクトの悲劇を防ぐためにもう一度ここへ戻ってきた。
  アスカと綾波と一緒に、大人達の野望を防ぐために・・・・・。」

 「アタシは、アタシに関わる全ての人を護るためにここへ戻ってきた。
  あの時には否定していた、シンジへの気持ちと共に。
  シンジとレイと一緒に、バカな大人達の思惑をぶち壊してやるために。
  未来は、アタシ達が護る。
  アタシ達子供が、夢を描ける未来を護る。
  人が全て一つになる未来なんて許さない。」

 「私は、私に関わる全ての絆を護る為にここへ戻ってきた。
  私は人形じゃない。 
  私は、人だもの・・・・・。
  碇君とアスカと一緒に、絆を護る。
  そして、人として生きて行きたい。」

 「僕達には、未来があるんだ。」
 
 「そうよ、アタシ達には未来がある。」

 「それは、全ての子供達の権利。」

 「だから、父さん達の計画を止めなきゃいけない。」

 「大人の勝手で、未来を無くされるのはイヤ!」

 「補完に必要なのは、人類の融合ではなく他人を理解しようとする心。」

 「「「だから、サードインパクトを防ぐ!!!」」」

 シンジがアスカの手を握る。

 アスカがレイの手を握る。

 レイがシンジの手を握る。

 「「「みんなと一緒に生きて行きたい!!!」」」

 シンジがアスカとレイを見る。

 アスカがシンジとレイを見る。
 
 レイがシンジとアスカを見る。

 「「「その気持ちは、本当の気持ちだから!!!」」」

 声をそろえて、宣言する3人。

 その瞳には、何の迷いも無かった。

 シンジとアスカ、そしてレイの想いは一つ。

 サードインパクトの悲劇を大人達に起こさせない様にする事。

 「「「フフフッ・・・・・。」」」

 誰からでもなく沸いてくる笑顔。
 
 この時、確かに3人の想いは重なっていた。

 確かに、3人の心が重なっていた。

 「補完の真実を知る僕達が、心と想いを一つにすれば、きっとサードインパクトは防げる。」

 「「うん(ええ)。」」

 それぞれに笑顔を浮かべる。

 シンジは思った、彼女達の笑顔を無くしてはいけないと。

 アスカは思った、愛する人と笑っていける未来を残さなくてはと。

 レイは思った、この絆を失ってはいけないと。

 この日、3人は日が落ちるまでこの公園で語りあった。

 それは他愛の無い会話だったが、彼らに絆を再認識させるには十分だった。





 アスカが合流し再び学園生活が始まった矢先。

 シンジとアスカは初号機、弐号機と共に使徒迎撃に出ていた。

 「アスカ、本当にやるの?」

 「もちろんよ。
  昨日も帰りに話したでしょ。」

 「了解。
  だけど、怪我だけはしないでよ。」

 「アンタ、誰に向かって言ってんの!!
  アタシは天才なのよ!!
  ボケボケ〜ッとしているアンタとは違うの!!
  アンタはそこで見ていなさい!!」

 「何だよ!!
  人がせっかく心配してやってるのに!!
  解りましたよ!!
  僕は此処でバックアップしてますよ!!
  ピンチになってたすけて〜なんて言っても助けてやら無いからな!!」

 「だ〜れが、アンタなんかに助けを求めるもんですか!!」

 浜辺に並ぶ初号機と弐号機。

 その間で交わされる会話は、口喧嘩その物だった。

 実はこの喧嘩、昨日の内にシンジとアスカの二人の間で話し合われた演技だった。

 アスカとしては、なんとしてもシンジとの同居をしたい。

 シンジとしても、いつも傍にアスカを感じていたい。
 
 今の自分達なら、何の練習も無くユニゾンでこの分裂使徒を倒す事は容易だが、

 此処で倒してしまうと、同居は無理になる可能性が高い。

 更に、ミサトが何かを感じ始めている。

 この辺りで、そんなに仲が良いわけでもない所を見せて置かないと、後々面倒になる。

 そう考えたアスカの提案にシンジが修正を加えた結果が、この口喧嘩の演技になった。

 その口喧嘩は、当然の事ながら指揮車に居るミサトの耳にも入る。

 オペレーターからは、使徒が接近している事が告げられていたし、それが出す水しぶきは

 すでに、目視で確認出来てた。

 あまりにもクダラナイ口喧嘩に、ミサトはこめかみを押さえながら通信を開く。

 「ちょっとあんた達、いい加減にしなさい!!
  使徒はそこまで来てんのよ!!」

 ミサトの怒鳴り声に、シンジとアスカが驚いた様な表情になる。

 さらに、言葉を続けようとしたミサトだったが、それを止めた。

 なぜなら、目の前に使徒が現われたからだ。

 「弐号機・・・いっきま〜す!!」

 「初号機、バックアップ。」

 使徒に向かい突進する弐号機とそれをライフルで援護する初号機。

 使徒の目の前に飛び込む弐号機。

 「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 アスカの叫び声にあわせて、弐号機がその手に持つスマッシュホークで一刀両断にする。

 「お見事!」

 シンジがそう言うと、それが合図になったかの様に、アスカは弐号機を引き下がらせる。

 アスカが真っ二つにした使徒が、そのままの状態で海上に残る。

 それを、不思議に思ったミサトの耳に、オペレーターの声が聞こえた。

 「目標、再び活動を再開します。」

 オペレーターの方に向けていた視線を、再びモニターにミサトが戻した時。

 先ほどまで、一体だった使徒が、二体に増えていた。

 「なんつ〜いんちき!!」

 ミサトはそう叫ばずに入られなかったのだが、それでも冷静さを失わなかった。

 ただ、それぞれに、初号機と弐号機に向かう分裂使徒AとB。

 その攻撃に、二機とも苦戦を強いられていた。

 「シンジ君、アスカ、撤退するわよ!!急いで!!」

 「「了解。」」

 ミサトの指示に返事をした一瞬の隙に、二機が攻撃を受ける。

 「わぁぁぁぁぁ!!」

 「きゃぁぁぁぁ!!」

 投げ飛ばされる初号機と弐号機。

 ただ、前回の様に無様に飛ばされた訳ではなく、何とか落着時に受身を取ることが出来た。

 損傷を防ぐ事は出来なかったのだが・・・・。

 その後、国連軍によるN2爆弾の攻撃で、使徒の侵攻を止める事は出来たが、殲滅には至らなかった。

 



 今回は、前世の様に無様に地面や海に刺さらなかったので、冬月からのお小言は無かったが、エヴァの

 修復に1週間を必要とされた。
 
 まあ、前世同様、使徒の再活動までの時間も1週間だったのだが・・・・。






 自分の執務室で、書類の山を目の前にため息をつくミサト。

 そんな彼女の許へ、友人のリツコが尋ねてくる。

 「あら〜、大変そうね。」

 「嫌味かしら?」

 「まあ、頑張りなさい、責任者は責任を取るために居るんだから。」
 
 「だから、こうして頑張ってるでしょ!!」

 「それと、使徒殲滅の為の作戦立案も頑張ってね。」

 「も〜、苦境に喘ぐ親友を助けてやろうって気は起きないの?」

 「それに付いてなんだけど・・・・・・。」

 何かアイディアがあると言った雰囲気のリツコに、ミサトの表情が明るくなる。

 「なに、なんか良い案あるの!!」

 「コレよ。」

 そう言って、ディスクを差し出すリツコ。

 「ただねぇ〜、これは私のアイディアじゃないのよ。」

 「じゃあ、誰の?」

 「加持君よ。」

 「うぇ、加持の〜。」

 「嫌なら良いんだけど・・・・。」

 そういって、ポケットにディスクをしまおうとするリツコに、ミサトは縋りつく。

 「あ、あ、あ・・・・・。」

 「何かしら?」

 「加持の案でも良いから、それ頂戴。」

 「素直に最初からそう言えば良いのよ。」

 そう言って親友に微笑むリツコだった。




 こうして、シンジとアスカにとって2度目となるユニゾンの訓練が始まろうとしていた。







 時間を少し遡って、アスカが転入した日。

 マナは、大いなる怒りを持ちながら、それでも諜報の為にネルフ内で作業をしていた。

 「全く、何なのよ!!
  あの、惣流とか言う女は!!」

 腹を立てていたマナは、その怒りを便器へと向ける。

 「あの女の顔を、こうやってブラシで擦ってやりたいわ!!」

 ブツブツと文句を言いながら、便器を擦るマナ。

 そのマナの耳に、悲鳴を上げる男の声が聞こえる。

 「やめろ!!葛城!!
  ナンカ、誤解してるぞ!!」

 その声が気になりトイレから顔を出すと、通路をはさんだ反対側の部屋から声が聞こえていた。

 「あんた!!こっちが命をかけて戦っている時に、あんただけ逃げるなんてどう言う了見よ!!」

 「だから、誤解だと言ってるだろ!!
  俺は、任務があってあの場を離脱したんだ!!
  なんなら、碇司令に確かめてもらっても良いんだぞ!!」

 少し隙間の開いて居たドアから中を覗くと、拳銃を男の方に向けた女性が、今にも引き金を引きそうな

 勢いで、男を罵っている。

 「女子供が戦って言うというときに、あんたは空中散歩!
  まったく、情けない事この上無しね!!」

 『この女性は、作戦部の葛城ミサト一尉だわ。』

 マナは、記憶していた情報から、ミサトの事を引き出す。

 『三度の飯よりエビチュが好きって書いてあったわね。』

 「葛城、やめてくれ!!
  俺はお前は愛しているんだ!!
  愛するお前を残してあの場を去らなければならなかった俺の気持ちも解ってくれ!!
  俺の事を信じてくれ!!」

 必死に命乞いをする加持リョウジ。
 
 しかし、“愛してる”の一言が、ミサトの怒りに更に火を点ける。

 「な〜にが、ワタシを愛してるよ!!
  ケイトって言ったっけ?ドイツの女は。
  それとも、サラかしら?
  アスカの護衛を忘れて、毎晩の様に逢瀬を楽しんだそうじゃない!!」

 「それはそうだが、俺の愛しているのは葛城だけだ!!」

 「そんなの信じられるか!!」

 “パ〜ン”

 思わず引き金を引いたミサト。

 彼女の拳銃から放たれた銃弾が、加持の頬を掠める。

 「うわぁぁぁ!!やめろ、葛城!!
  俺を殺す気か!!」

 「そうね、それも良いけど・・・・。
  それより、あんたが変な気を起こさない様に、それを切り取ってやりましょうか?」

 ミサトは、銃口と視線を加持の下半身に向ける。

 その視線が冗談では無いと悟った加持は、慌てて手で押さえる。

 「バカ、やめろ!!
  洒落にならないぞ!!」

 「問答無用!!」

 “パ〜ン!!”

 ミサトが引き金を引くと同時に、加持は白目を剥いて気絶する。
 
 その加持の又の間の床に一つの弾痕が有り、そこから一筋の白煙が上がっている。

 「馬鹿なヤツ。
  ホントにやる訳無いのに。」

 『まあコレで少しは懲りるでしょ。』

 ミサトはホルスターに拳銃を納めると、満足顔でドアに向かう。

 『あっ、こっちへ来るわ。』

 覗いていたマナは、慌ててトイレに戻るとミサトをやり過ごした。

 『あの人、本当に怖いわ・・・・・。』

 ミサトだけは敵にまわさない様にしようと心に誓うマナだった。

 後日、戦自からネルフ内の協力者として加持を紹介されたマナが、嫌な顔をしたのは言うまでも無い。

 その後、トイレ掃除をしながら諜報活動を続けたマナは、定時になると自宅へ戻る。

 自宅に戻ったマナは、対アスカ用の戦略を練るのだった。

 「なんとしても、シンジを私の物にするのよ!!
  あの女には渡さないわ!!」

 アスカにシンジを取られないための作戦を練るマナ。

 そのせいかどうかは知らないが一睡も出来なった彼女は、翌日、目の下にクマを作っていた。

 「ああ!!
  何て酷い顔なの!!
  こんな顔、シンジ君には見せられないわ!!」

 この日マナは無断欠席してしまったのだが、その事を気に止めるクラスメートが皆無だった事を彼女は知らない。



 




  次回予告:いよいよ始まった共同生活。
       再びユニゾンの訓練に臨むシンジとアスカ。
       あまりに息の合う二人に驚きを隠せないミサトは、二人に対する疑念を深めて行く。

       次回「パーフェクトユニゾン」
       

       真実の補完が今始まる・・・・・・。




 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      またまた、時間が掛かってしまいました。
      チルドレン達3人が想いを一つにする様子を表現したかったのですが、
      うまく行っていない様な気がしてます。
      シンジとアスカとレイ。
      補完計画の結果を知るチルドレン達がそれを阻止する為に想いを一つにする。
      それと、今回からマナさんの相方として加持君が登場しました。
      彼等にはコレからも色々とガンバッテ?もらいます。
      掃除に折檻に・・・・。
      
      では、今回も小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

      それでは、また。


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