コンフォートマンションから第一中学校まで続く道。

 まだ、朝早い時間だと言うこともあって、日差しは、さほどきつくは無いが、それでも軽く汗ばむ。

 車道と反対側に植えられた木々が作りだす、木陰の涼しさが心地良い。

 「学校に行くの、久しぶりね。」

 鞄を後ろ手に持って振り向いたアスカは、自分より1メートルほど離れた所にいたシンジに、

 そう話しかけた。

 「うん、一週間ぶりくらいかな?」

 シンジは、そう答えると、微笑を浮かべると、アスカの横に並んだ。

 並び立ったシンジの腕に、アスカは自分の腕を絡める。

 「今日からはさ、こうやって学校に行こう?」

 「え、ええ!?」

 「フフフ・・・・。
  いいでしょ?
  誰かにからかわれたら、ユニゾンのせいにしちゃえば良いんだし・・・・・・・・ね?」

 そう言って、少し腰をかがめて、上目遣いにシンジを見るアスカ。
  
 そんなアスカの顔を見て、

 『そんな顔で言われたら、断れないじゃないか・・・。』

 と、シンジは思った。



 
 
 REPEAT of EVANGELION
  第15話 『旅行の計画を立てよう!!』                       作『CYOUKAI』


 



 二人が教室に入ると、既にヒカリや数名の生徒が登校していた。

 「おっはよ〜〜〜!!」

 教室に、アスカの大きな声が響き渡る。

 「おはよう、アスカ、碇君。」

 ヒカリは、花瓶を手に持ちながら、そう返した。

 シンジの許を離れたアスカは、ヒカリの許へ。

 残されたシンジは、自分の机へと向かう。

 「ふぅ・・・・。」

 学校が見えて来るまでアスカと腕を組んできたシンジは、席に着くと安堵の溜め息を吐く。

 彼自身、アスカのそういった行動は嬉しいし、自分もそうしたいと思ってはいるが、誰かに見られるかも知れない

 状況で、そう言う事をするのには、抵抗があった。

 まあ、簡単に言うと、照れているのだ。

 『でも、アスカの喜ぶ顔を、いつも見ていたいからなぁ・・・・・。』

 シンジが、何気なく視線を廻らせると、ヒカリと楽しそうに話をする、アスカの姿が映る。

 前世では、楽しそうにしていても、どこか陰りがあったアスカだったが、今はそう言う風には見えない。

 『僕がいるからだって、自惚れても良いのかな?』

 事実、アスカが変わったのは、シンジの存在があるから。

 その反対に、シンジが対人関係で悩む事が無くなったのは、アスカの存在ゆえの事。

 お互いに、持ちつ持たれつの良い関係なのだ。

 シンジは、再び視線を廻らせて外を見る。

 『さて、今日も一日がんばろう。』

 窓の外に広がる青い空は、今日も暑い一日になる事を暗示する様に、青く澄みわたっている。





















 HRの時間が近づくにつれ、教室に生徒が増えてくる。

 「碇君、おはよう。」

 「あっ、おはよう綾波。」

 HRまで、何もする事の無いシンジが、ボ〜っと外を眺めていると、レイが声を掛ける。

 振り向いて、返事をしたシンジは、彼女が微笑んでいる事に気が付いた。

 その、優しげな微笑に、母の面影を見たシンジも、自然と微笑んでしまう。

 そこへ、アスカが現われ、シンジの机の上に腰掛けると、

 「あら、レイ。
  アンタの笑顔、なかなかいけるじゃない!」

 と、レイの笑顔を褒めた。

 「うん、ありがとう。」

 ぎこちなくレイが答える。

 「ね、シンジ! 
  アンタもそう思うでしょ?」

 「え?うん、そうだね。
  綾波の笑顔、良いと思うよ。」

 「・・・・・・・・・・ポ!」

 シンジにまで褒められて、頬を桜色にするレイ。

 昔のシンジなら、此処で終わりにしてしまい、アスカのご機嫌を損ねるのだが、今は違う。

 「アスカの笑顔も、素敵だけどね。」

 机の上に座るアスカに視線を移したシンジが、微笑みながらそう言うと、

 「あ、あ、あったりまえじゃない!」

 アスカは強がった様に顔を逸らし腕組みをするが、彼女の頬もレイ同様の桜色になる。
 
 そんな、二人の美少女を、少し離れた所にいたケンスケは、被写体として狙っていた。

 『惣流と綾波のあの顔!!
  こ、コレはうれるぞ〜〜〜!!』

 数人の男子生徒を盾として、ケンスケはアスカとレイに気付かれない様に撮影を続けるが・・・・・。

 『ん?なんだ・・・・。』
 
 「ぐあぁ!!」

 “ゴン!!”

 突然、ケンスケがファインダーが暗くなった事を認識した瞬間、大きな声を上げて倒れる。

 床に当たった後頭部から響く音が、彼に相当な衝撃を与えた事を教えてくれていた。

 その声に、彼の周りにいた男子生徒が振り向くと、その顔に張り付く上履きが二つ。

 「フン!!アタシの画像で商売しようなんて、100万年早いのよ!!」

 「パパラッチの殲滅を確認・・・。」

 どうやら、アスカとレイが、自分の上履きを片方投げたようだ。

 「ふぅ・・・・相田君!
  いい加減、学校に必要ないものを持ってくるの止めたら?」

 ケンスケの顔から、二人の上履きを剥がすと、ヒカリは冷たくそう言った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 もちろん、後ろに倒れた事で後頭部を床に打ちつけた事で、意識を三途の川の淵まで飛ばしている

 ケンスケがそれに答える事は無い。

 ヒカリは、回収したアスカとレイの上履きを二人に返すと、

 「そろそろ、HRの時間だから、二人とも席に着いたら?」

 と、委員長らしいセリフを口にした。

 「「そうね。」」

 アスカとレイが綺麗なユニゾンで答えると、時を見計らった様にシンジが立ち上がる。

 「はい、どうぞ。」

 シンジがアスカに手を差し出すと、アスカはその手に自分の手を載せて、ポンと机から降りる。

 「????????」

 まるで、どこかの騎士が、お姫様にするようなその行為に、ヒカリの顔が引き攣る。

 「あ、あ、アスカ!
  転校初日に、アスカから碇君が好きだって聞いていたけど、何時の間にそんなに親しくなったの???」

 「「え?」」

 極自然に行動していたシンジとアスカは、ヒカリの指摘に目を丸くする。

 そして、改めて自分達を見直してしまう。

 「あ、あの、その、こ、これは・・・・・・。」
 
 やっと状況を理解したシンジは、言葉が旨く出てこない。
 
 「ひ、ヒカリ!
  ご、ご、誤解しないでよね!!
  コレは、まだユニゾンの影響が残ってるだけなんだから!!」

 シンジから少し遅れて、状況を理解したアスカが、大声で説明をした。

 「そ、そ、そうだったの。
  い、いやだわぁ、私ったら。
  てっきり、この一週間で碇君と急接近しちゃったのかと勘違いしちゃった。」

 「「うっ・・・・・・・・・。」」

 ヒカリのセリフに、顔を赤くして俯いてしまうシンジとアスカ。

 その横では、レイが呆れ顔で二人を見ている。
 
 「え、ええ!!
  貴女達、まさか!!」

 「いや、その・・・・・・。」

 「まあ、・・・・・・ねぇ・・・・。」

 シンジとアスカは、顔を赤くしたままで、お互いの顔を見合わせてしまう。

 「ど、どこまで、進んでるの?」

 ヒカリは顔を真っ赤にして、二人を問い詰める。

 既に、クラス中の生徒が二人の発言に注目していた。
 
 「キ、キ、キスまで・・・・・・・かな。」

 アスカがヒカリにそう答えると、ヒカリは自分の両頬を手で押さえ、頭を左右に振りながら、

 「ふ、ふ、不潔よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」

 と、ガラスが震えるほどの声で叫んだ。

 クラス中の生徒がざわめき立つ。

 「あぁ、俺も惣流を狙ってたんだけどなぁ・・・。」

 「私、碇君って結構好みだったのに・・・・。」

 「よし、コレでライバルが減ったわ!!」

 「俺は、綾波の方が好みだから・・・。」

 など、悲喜交々。

 アスカやシンジを狙っていた生徒達にとっては、悲劇的な内容の会話でも、意中の異性を、
 
 二人に取られない事がわかった会話に、彼らの仲を好意的に受け止める者も少なくない。

 「ヒ、ヒカリ〜〜〜!!
  何も、そんな大声で叫ばなくても良いじゃないのよ〜〜!!」

 アスカは顔を赤くしたままで、ヒカリに詰め寄る。

 その横では、シンジが床に視線を向けていた。

 「あ、綾波・・・・・大丈夫?」

 シンジは、床に横たわるレイを心配して声をかける。

 そのシンジの声に釣られる様に、アスカとヒカリが視線を床に下ろすと、そこには目をグルグルさせて

 倒れているレイがいた。

 「「レイ(綾波さん)!!大丈夫なの〜!!」

 アスカはしゃがみこんでレイを抱える。

 その横では、ヒカリが心配そうにレイの顔を覗きこんでいた。

 「ううううう・・・・・・・・・・超音波・・・・・・・カクッ。」

 レイは、それだけ言うと、意識を失ってしまった。

 「きゃぁぁぁ!!
  保健委員!!早くレイを保健室に連れて行って!!」

 アスカの指示に、保健委員の女子が二人、レイの許にやって来て、彼女を持ち上げると教室を出て行く。

 「「じゃあ、僕(アタシ)達も行くから、委員長(ヒカリ)後はヨロシク!!」

 運ばれるレイの後を追うように、シンジとアスカも教室を出て行った。

 そんな彼らと入れ違いで、教室に二人の生徒が入ってくる。

 「おはようさん!!」

 「おっはよ!!」

 トウジは教室の後ろのドアから、マナは前のドアから、クラスメイトに朝の挨拶。

 トウジは、足元に倒れるケンスケを見ると、

 「なにがあったんや?」

 不思議そうな顔で周りを見渡す。

 マナは、いまだにざわついているクラスメイトに向かって、

 「ねえねえ!!今そこで、碇君達とすれ違ったけど、何があったの〜?」

 と、大声で尋ねた。

 だが、それに答える生徒は誰もいなかった。







 結局、シンジ、アスカ、レイの三人が教室に戻ってきたのは、二時間目が始まる頃。

 ヒカリは、レイの許に行くと頭を下げて平謝り。

 「綾波さん!!ゴメンなさい!!」

 レイは、そんなヒカリに笑顔を向ける。

 「洞木さん、気にしなくて良いわ・・・・・・でも、もう耳元で大声を出さないで。」

 耳を気にしながらも、レイはヒカリの謝罪を受け入れた。

 「ありがとう、綾波さん。」
 
 ただ、シンジとアスカは、ヒカリの声の恐ろしさに、

 『『委員長(ヒカリ)の大声なら、使徒だって倒せるんじゃないかなぁ(ないの)?』』

 などと思っていた。








 二時間目の授業も滞り無く終わり、シンジとアスカは窓際のレイの席付近で、雑談をしていた。

 「ねぇシンジ。」

 「ん?なに?」

 「次ぎの時間、修学旅行の事を話し合うんだって。」

 「ああ、知ってるよ・・・・・・でも、僕達は行けないだろうね。」

 「そうね、きっと本部で戦闘待機だもんね。」

 「でも、アスカは行きたいんじゃ無いの?」

 シンジは、アスカを気遣ったセリフを吐く。

 「そりゃあね、行けるものなら行きたいけど・・・・。」

 シンジの言葉に、少し俯いたアスカは、自分のつま先を見つめる。

 「じゃあさ、父さんに頼んでみようか?
  アスカだけでも修学旅行にいける様にしてくれって。」

 アスカへの思いやりから出た言葉。

 シンジは、アスカが今まで歳相応の生活をしてこなかった事を知っている。
 
 だからこそ、彼女には普通の学園生活を実感してもらいたかった。

 前世でも、修学旅行には行けなかった事でもあるし・・・。

 『できれば、アスカだけでも修学旅行を体験させてあげたい。』

 シンジは、そう思っていたのだ。

 ただ、横で聞いていたレイは、シンジの発言は少しうかつに思えた。

 『アスカが一人で行きたいと思っているわけが無い事、気が付いていないの?』

 レイは、アスカの想いを読み取っていた。

 アスカとしては、修学旅行には行きたかったが、それはシンジと共に行きたかったのであり、自分

 一人で行きたいわけではない。

 だから、シンジの言葉を聞いた途端に顔を真っ赤にして、
 
 「アンタ!!
  アタシだけが行っても、仕方が無いでしょ!!!」

 と、シンジを怒鳴った。

 「アタシは、アンタと行きたいの!!
  アタシだけ行っても面白くないじゃない!!」

 「ゴ、ゴメン、アスカ・・・・。」

 「全く、少しは成長したかと思ったけど、こう言う処は未だに鈍感なんだから!!」

 「ゴメン・・・・。」

 アスカに怒鳴られて、しょんぼりとしてしまうシンジ。

 そんなシンジに、アスカは擦り寄ると、そっと耳元で囁く。

 「それより、今度の使徒を倒した後の事を考えましょ?
  きっと、あの温泉に行く事になるんだから・・・・ね?」

 耳元で囁くアスカの息遣いと、腕に感じる柔らかさに、シンジは顔を真っ赤にする。

 「う、うん。」

 「じゃあ、次の時間はその事に付いて相談しましょう。」

 アスカはそう言うと、周りを確認してから、シンジの頬にキスをした。

 「ほ〜ら、コレで元気が出たでしょ?」

 「!!!!!!!!!!」

 突然の事に身体を硬直させるシンジ。

 それを見ていたレイは、二人を交互に見ると、

 「イチャつくのは、二人だけの時にして。」

 と、目を細めた。
 
 「「あ、あ、あ・・・・・・・・。」」
 
 レイに指摘された恥ずかしさと、彼女の冷たい視線に、言葉が出ない二人。

 「そろそろ始まるわ。
  席に着いたほうが良いわよ。」

 「そ、そうだね・・・・じゃあ、アスカ。」

 「え?ええ、解ったわシンジ・・・・・。」

 二人はその場から逃げる様に自分の席へと戻った。










 3時間目が始まると、すぐに修学旅行についての話しが始まった。

 まず、日程やお小遣い、持っていく物を印刷したプリントが配られる。

 『ふ〜ん、やっぱり同じなんだ・・・。』
 
 プリントを見たアスカは、日程を見てそう思う。

 『スクーバかぁ・・・・。』

 前世で、沖縄で着る水着を買いに、加持を連れ出した事を思い出す。

 『でも、今回は要らないかなぁ・・・・。』

 沖縄に行かない事が解っている以上、水着を買う必要は無いのではないかと思ったが、

 『あっ、でも、ネルフのプールには行けるんだから、水着は買っておいた方が良いわね・・・・・・。
  それに、水着は別の事でも使えるし・・・フフフ・・。』

 水着は必要になる事を思い出し、新調する事にした。

 その間にも、自分達に関係の無い話し合いが続けられるが、アスカの耳には入っていない。

 今、彼女の頭の中では、シンジとこれから行くであろう、温泉旅館の事でいっぱいだった。

 『はぁ、シンジと温泉かぁ・・・・。
  お邪魔なのがいるけど、楽しい旅行になると良いなぁ・・・・』

 どうやら、アスカの頭の中では、シュミレーションが始まったようだ。

 『とりあえず、ミサトが起きている間は、いつも通りにして。
  夜になってミサトが寝たら、シンジと露天風呂・・・・・・。
  誰もいないからって言って、二人で混浴も良いわねぇ・・・・。』

 シンジと混浴した自分の姿を思い浮かべて、顔の筋肉が緩むアスカ。

 『でも、いきなりじゃ、シンジが嫌がるから、アタシは水着でも着て・・・。
  シンジ、どお、アタシの水着姿は?
  アスカ、綺麗だよ、僕、我慢出来ないよ!!
  きゃぁ!!シンジ!!
  いや〜ん、シンジったらだいた〜ん!!』

 どうやら、とってもいや〜んな想像をしているようだ。

 その間に、議事の方は班決めへと、移っていた。

 突然、立ち上がったトウジが大声で発言する。

 「シンジと惣流は、同じ班がいいんとちゃうか?」

 彼は、ニヤニヤしながら、シンジとアスカと交互に見る。

 その大声で、アスカは妄想世界から帰還した。

 『ジャージ馬鹿のヤツ、何て事を大声で!!
  そりゃあ、シンジと同じ部屋は嬉しいけど・・・・。』

 アスカが、トウジの方を見ると、意味深な表情をしていた。

 「なんと言うても、シンジと惣流はラブラブやからなぁ。」

 どうやら、先程のホッペにチュ!!を見ていたようだ。

 それと同時に、ケンスケも行動に出る。

 「班が同じなら、部屋も同じになるからね。」

 「そうや。」

 トウジはケンスケとアイコンタクト。

 二人同時に頷くと、

 「シンジ、あいしてる〜〜!!」

 「アスカ、ぼくもだよ〜〜!!」

 そう言って、抱き逢うトウジとケンスケ。

 どうやら、シンジとアスカをからかう為に、三文芝居を始めたようだ。

 「あん、優しくして・・・・。」

 「ああ、アスカァァァ!!」

 二人は抱きあったまま芝居を終えると、シンジとアスカの方を向き、お決まりのポーズで、

 「「イや〜〜んな感じ!!」」

 お決まりのセリフを吐く。

 それを、真っ赤な顔で見る、シンジとアスカ。

 シンジは、ただ単に恥ずかしくて顔が真っ赤なのだが、アスカは違うようだ。

 その証拠に、彼女の肩はフルフルと震えていて、その背後には、なにやらオーラが見える。

 「あ、あ、あ、アンタ達ぃぃぃっ!!!!」

 叫び声を上げ立ち上がると、アスカは筆箱をトウジとケンスケに向けて投げる。

 “ばき〜〜ん!!!”

 レーザービームの様に二人へ向かった筆箱は、ケンスケの眉間を直撃。

 「がぁ!!」

 「な、なにすん・・ぐわぁ!!」

 倒れたケンスケに代わって、アスカに文句を言おうとしたトウジの顔面に、今度はアスカの携帯電話が直撃する。

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・。」

 肩で息をするアスカ。

 シンジ、レイを除いた生徒の動きが停止する。

 いまだに、トウジの顔面では、壊れた携帯電話がパチパチとスパークを上げていた。

 「フン!!
  アタシ達は、ネルフで戦闘待機だから、修学旅行には行かないのよ!!!!!」

 沈黙するトウジとケンスケを見下ろし、腰に手を当て彼らを指差すアスカ。

 すると今度は、それを聞いたマナが立ち上がる。

 「ええぇぇ!!シンジ君、修学旅行に行けないのぉぉぉ!!!」

 「そうよ!!
  アタシとシンジとレイは、ネルフで戦闘待機なの!!
  アンタは、沖縄で便器でも磨いていると良いわ!!!」

 マナの声に振り返ったアスカが、今度はマナを指差してそう言った。

 その後ろから、そ〜っと近づいてきたシンジが、

 「霧島さん、そう言う事だから・・・・。
  あと、今のトウジとケンスケが悪いと思うよ・・・・・。」

 と、哀愁を帯びた顔で言う。

 その間、レイは何をしていたかと言うと・・・・・・・・・・・・・・寝ていた。

 「Zzzzz・・・・・・ジイさんは用済み・・・・・・・。」

 ヒカリの指示で、トウジとケンスケを廊下に放り出すと、2年A組みは平穏を取り戻す。

 マナは、アスカの指摘に完全に腐っていた。

 「いいもん、いいもん・・・・・トイレ掃除だって沖縄に行ければいいもん・・・・。」

 ちなみに、このHRで、マナは旅行中の清掃責任者に抜擢されていた。

 どうやら、このクラスでも、マナの清掃能力が認められたようだ。

 と、そんな事はさておき。

 アスカは、頬杖をつきながら、自分達の旅行計画を考えていた。

 『え〜と、今回も前回同様の使徒が現われるとしたら、行き先も同じ所になるわよねぇ・・・。』

 前世での出来事を思い出していたアスカは、シンジにマグマの中で助けられた時の事を考えていた。

 『そう言えば、あの頃からなのよねぇ・・・・シンジが本格的に気になり始めたのは・・・・・。』

 あの頃のアスカは、自分自身も〔加持命〕と言っていた様に、シンジなどは恋愛の対象になるとは、

 思っていなかった。

 ただ、自室などで加持の事を考えていると、時折シンジの事が浮かんだ。

 ダブルエントリーした時のシンジの凛々しい顔。

 ユニゾンの時に、自分を追いかけて来てくれたシンジ優しさ。

 双子の使徒と戦っていたときの安心感。

 今思えばそれが恋の始まりだという事がわかるが、あの時のアスカはそれを否定し続けた。

 ただ、シンジがミサトやレイに笑顔を向けただけで、無性に腹立たしくなり、その怒りをシンジにぶつける

 だけだった。

 シンジへの気持ちが確定している今では、それが嫉妬心である事は一目瞭然。

 あの時、その事に気が付いていれば、サードインパクトは起きなかったかも知れない。

 少なくとも、自分が心を閉ざす事は無かったであろうと思う。

 『まっ、今更そんな事を考えても仕方ないか。』

 アスカは気を取り直すと、自分の端末に向かい、今後の予定を考え始めた。

 『まずは、使徒をさっさと倒して・・・・・・。』

 前回は、使徒自体は何とか倒せたが、その後が悪かった。

 『今度は、使徒の倒し方も解ってるから、シンジを危険な目にあわせる必要も無いし・・・・。』

 前回、使徒は殲滅直前に、アスカの弐号機と地上とを結ぶ命綱を切断した。

 切り離された弐号機は、アスカ共々マグマの中へ沈降して行く。

 「やだなぁ・・・・ここまでなの?」

 使徒との戦いで命を落す事をある程度覚悟していたアスカは、意外と冷静にそう呟いていた。

 ただ、頭上に目を向けて、自分の死を受け入れようとしていた。

 今のアスカでも、その後、死に直面した時に、自分がどう取り乱したかは予想が出来ない。

 一つだけ解っている事は、断末魔の叫びすら上げられずに、マグマに溶けて消えてしまったであろう事だけ。

 だが、アスカは死ななかった。

 なぜなら、シンジが通常装備のままで、マグマに飛び込んできたからだ。

 この事は、アスカを驚かせた。

 シンジの身体には、エヴァを通してマグマの熱がダイレクトに伝わっていたはずだからだ。

 恐らく、飛び込んだ瞬間に、リツコがシンクロ率を最低限の所まで落したのであろうが、それでも、熱が伝

 わらない訳ではない。

 もし、それだけで遮断できるのならば、弐号機に不恰好なD型装備を施す必要は無いのだ。

 だから、自分を捕まえた初号機を見た時に、アスカの口からは自然と、

 「バカ・・・無理しちゃって・・・・・。」

 と言うセリフが漏れていた。

 それと同時に、両眼を輝かせている初号機の姿にシンジが重なり、安堵した事も事実。

 『あの後、ちゃんとお礼が言えたら、アタシとシンジは付き合ってたかもしれないわねぇ・・・。』

 自らの危険を顧みず、マグマの中に飛び込んできたシンジに、あの時のアスカはお礼を言う事は無かった。

 引き上げられた後、表面が真っ黒になった初号機から飛び降りてきて、自分に笑いかけながら、

 「アスカ!!大丈夫だった!!」

 と、心配するシンジに、ただ短く、

 「大丈夫よ!!」

 と答えただけだった。

 『でも、今回は違うわ!!
  シンジに危険な事をさせないで、使徒を殲滅して見せる!!』
 
 キーを叩きながら、アスカは心にそう誓う。

 『使徒を殲滅した後は、当然、温泉旅館ね!』

 使徒殲滅後、ミサトとシンジと共に宿泊した温泉旅館。

 疲れた身体を癒してくれたあの旅館は、今でも心に残る良い思い出だ。

 『でも、ペンペンをなんとかしなくちゃ。』

 前回、出撃前に加持に預けられたペンペンは、どういうわけか、宅急便で旅館に贈られて来た。

 あの時は、なんとも思わなかったが、今回は邪魔になりそうだ。

 『ミサトだけでも邪魔だって言うのに、ペンペンまで来たら大変だからね。』

 ミサトとペンペンがどう邪魔なのかは解らないが、とにかく計画に支障をきたすようだ。

 『フフフ・・・・。
  ミサトは当然、お酒飲んですぐに寝ちゃうだろうから、夜になったらシンジを露天風呂に誘って、混浴って
  言うのも良いわねぇ。』

 アスカは、自分の計画を思い浮かべて、頬をほんのり赤くする。

 ニヤァ〜っとアスカが表情を緩めた時、
 
 “ピッ、ピッ、ピッ・・・・”

 と、メールの着信音が鳴った。

 『ん?誰よ、今いい所なのに!』

 アスカは、思考を遮ったメールに少し御機嫌斜めになるが、送り主を見て機嫌を直す。
 
 『あっ、シンジからだ!』

 慌てて、メールを開くと、そこにはシンジからのメッセージが現われる。

 メールには、

 [さっきから、落ち着かないようだけど、気分でも悪いの?
  もしそうだったら、一緒に保健室行こうか?]

 と、書かれていた。
 
 『もう、心配性なんだから・・・・。』

 そうは思ってみたものの、シンジが自分を心配してくれた事に嬉しくなるアスカ。

 急いで返信ボタンを押して、

 [大丈夫よ、何でも無いわ。
  それより、最高の旅行計画を組んであげるから、期待しててね。
  それと、心配してくれてありがとう。]

 と打ち込むと、送信ボタンを押す。

 そして、少し首を動かしてシンジの方を見た。

 シンジは、アスカが送ったメールを読むと、アスカの方を見て微笑む。

 『フフ・・・。
  シンジって、ホント優しい・・・・。』
 
 初めて出逢った時から、シンジの優しさに包まれていた事を知っているアスカ。

 あの頃は必死に否定していた感情に、素直になる事で、新しい自分に生まれ変わったような気がする。

 そんな、アスカの様子を教壇から見ていたヒカリは、

 『さっきから、アスカの様子が変だけど、大丈夫かしら?』

 と、心配していた。

 ヒカリは、先程からクルクルと表情の変わるアスカの様子に注意を払っていた。

 ボ〜ッとしたり、少し機嫌が悪そうな顔をしたり、突然嬉しそうな顔をしたり・・・・・。

 そのアスカがシンジの方を向いた後、正面に向き直った時の顔は、ヒカリがドキッとするほどに、優しげで

 嬉しそうな顔をしていた。

 『アスカと碇君って、なんだかいい感じに見えるわよねぇ・・・。』

 今朝のHRの時に、アスカとシンジの関係を不潔と言ったヒカリではあったが、内心では、そんな二人が羨ま

 しかったのだ。

 『まぁ、静かにしていてくれるんだから、注意するほどの事じゃないわよね。』

 本来なら、議題に真剣に取り組んで貰いたいのだが、先ほどアスカの口から、彼らが修学旅行に不参加である事を

 告げられていた。

 そんな彼らには、関係の無い事を話し会っているにも拘らず、静かにしていてくれる事に感謝するヒカリ。

 「じゃあ、次ぎは、飛行機の座席割りを決めたいと思います。」

 ヒカリは、アスカに向けていた視線を全体に向けると、議事を進めるのだった。




















 4時間目も潰してのHRは、昼食を告げるチャイムで終了した。

 終わると同時に、全員が席を立つ。
 
 ちなみに、3時間目の始めに廊下に廃棄されたトウジとケンスケは、4時間目になって教室に復帰。

 多少の茶茶を入れながらも、概ね真剣にHRの議題に取り組んでいた。

 「はぁ、飯や飯!」

 トウジは、そう言って勢い良く立ち上がると、教室を出て行く。

 「トウジは、今日もパンか・・・・・。」

 ケンスケは、登校の途中、コンビニで買って来たオニギリを鞄から取り出すと、机の上に並べた。

 そんな彼の目の前を横切り、誰かがシンジの所へと走って行く。
 
 「??????????」

 ケンスケがその影を目で追うと、シンジの机の横に立つマナの姿が見えた。

 「シンジ君!!」

 「なに?霧島さん。」

 そう言って視線をマナに向けたシンジに、マナが一つの包みを差し出す。

 「シンジ君の為にお弁当を作ってきたの!!
  食べてください!!」

 「え?」

 「だから、シンジ君のお弁当を作ってきたんだってばぁ!!」

 マナは、シンジの顔の前で包みを動かした。

 そのマナの後ろから、アスカが近づいてきて、

 「し〜んじ、お弁当を一緒に食べましょ?」

 と、シンジをランチに誘う。

 「ちょっと!!
  私が先にシンジ君を誘ったんだから、邪魔しないでよ!!」

 「何言ってんのよ!!
  アタシは、朝からシンジに一緒にお弁当を食べようって言ってあるのよ!!
  今頃言ったって遅いわ!!」

 アスカの言葉に、

 『そんな約束したかなぁ?』

 と思うシンジだが、シンジ自身、アスカと弁当を食べるつもりだったから、特に気にしない。

 「朝からって、そんなの嘘に決まってるわ!!
  大体、同じ屋根の下にでも住んでいない限り、そんな事は無理に決まってる!!」

 「あ〜ら、アタシとシンジは、ほとんど一緒に住んでるのと一緒よ?」

 「う、嘘よ!!」

 「あら、だってアタシはミサトの家に住んでるし、シンジは隣だし。
  ユニゾンの訓練の時に、部屋を繋いだから、同じ家と言ってもいい状態よ?」

 「だ、だって、アスカさんは訓練の為に仕方なく同居したって・・・。
  訓練が終わったらすぐに出て行くって、聞いたわよ!!」

 「あんら〜?誰にそんな事を聞いたのかしら?」

 「そ、それは・・・・・。」

 『フフフ・・・。
  マナがどう言うつもりでシンジに接近しようとしているか?なんて、お見通しなのよ!!』

 アスカは、言葉に詰まったマナに、ニヤリと笑って見せた。

 『な、何なの?あの余裕は?
  まさか!!私の任務がばれてる?』

 マナは途端に不安になる。

 アスカが訓練後に、すぐに出て行くと言う情報は、マナの稚拙では有るが地道な諜報活動の成果。

 ただ、それを怒りに任せて口にしてしまったのは、彼女自身、失敗だったと思うが、後の祭り。

 それでも、にらみ合ってシンジの占有権を競う二人。

 その横で、シンジを含めた三人の様子を見ていたケンスケは、

 『はぁ、惣流に綾波に霧島・・・・・。
  何でシンジばっかり・・・・。
  一人ぐらい分けてくれても良いと思うんだけどなぁ・・・。』

 三人の美少女に好意を持たれているシンジに、少し嫉妬するのだった。

 未だに言葉が出てこないマナを横目でチラリと見たアスカは、シンジに笑顔を向ける。

 「さあ、シンジ。
  お弁当を食べに行きましょ。」

 「うん・・・・・・それじゃあ霧島さん、僕行くから・・・。」

 シンジはマナにそう告げたが、アスカがの発言が気になっているマナはそれどころではない。

 『ばれるような行動はしていない筈なのに・・・・・。』

 シンジの腕に自分の腕を絡ませ、楽しそうに教室を出て行くアスカの背中を見送りながら、マナはこれまでの

 自分の行動を振り返っていた。 













 シンジを伴って屋上へやって来たアスカは、自分の持っていた弁当箱をシンジに差し出す。

 「はい、シンジのお弁当。」

 「ありがとう、アスカ・・・・。
  じゃあ、これ。
  アスカのお弁当だよ。」

 「アリガト、シンジ。」

 シンジはアスカに弁当箱を渡すと、辺りを見回す。

 『あの辺が良いかな?』

 アスカの手を引っ張って、壁際の日陰に行くと、シンジはポケットからハンカチを出して、それを屋上の床に敷く。

 「はいアスカ、座って。」

 シンジに促されたアスカは、

 「うん。」

 と小さく頷いて、肩に下げていた水筒を置くと、ハンカチの敷かれた所に座る。

 それを見て、シンジも正面に座った。

 「それにしても、シンジも気が効く様になったわよねぇ。」

 「まあね。」

 アスカは、それが自分だけに向けられたものだと言う事を知っていた。

 シンジの優しさの大半は、アスカに向けられているのだ。

 考えてみれば、前世からそうだった様にも思えるが、あの時はシンジを召使的に考えていたし、自分に優しくする

 男は、みんな下心があると思っていたから、そう言う行動に素直になれなかった。

 好きでもない異性に、毎日弁当を作ってきたり、身の回りの世話をしたりする事が出来るような器用な人間ではない

 シンジの好意に、知らず知らずの内に甘えていたのかも知れない。

 「わぁぁ!今日も頑張ったね。」

 アスカが作ってきた弁当を見て、シンジが驚きの声を上げる。

 「だって、シンジが食べてくれるんだもん。」

 シンジの褒め言葉に、モジモジとするアスカ。

 「あ、あ、アスカ・・・・。」

 アスカの可愛い仕草を見たシンジは、その衝撃で口がうまく動かない。

 シンジにとっても、戻ってきてからのアスカの変化は、驚き意外の何物でも無い。

 自分に向けられる素直な好意。

 腕を組んだり、手を繋いだり、キスしたり・・・・・。

 二人だけで家にいる時は、いつもシンジに甘えるアスカ。

 シンジは、それがアスカの本当の姿だと知っている。

 『アスカって、本当は甘えん坊なんだよなぁ。』

 自分に擦り寄ってくるアスカを受け止める度に、シンジはそう思っていた。

 肉親からの愛情をほとんど受けてこなかったシンジだからこそ、アスカの気持ちが解るのだ。

 シンジがボ〜ッとアスカを見ていると、アスカもシンジが作ってきた弁当の蓋を開けた。

 「わぁお!唐揚げがこんなに・・・。」
 
 「アスカの喜ぶ顔が見たかったからね。」

 シンジは微笑みながらそう言うと、アスカも笑顔で返す。

 「うん、嬉しいよ、シンジ。」

 「喜んでもらえて、僕も嬉しいよ。」

 二人は見つめ合ったまま、頬を桜色にする。

 周りでは、何人かの生徒が食事をしていたのだが、二人の作りだす特異な空間に近寄る事は出来ない。

 羨ましそうに見る者、極力意識しない様に勤める者、そそくさと立ち去る者。

 シンジとアスカのほんのりと甘い空気は、周りに色々な影響を与えていた。

 「さ、食べようか?」

 「そうしましょ。」

 二人はそう言うと、同時に箸を取る。
 
 「「いただきまぁぁす!!」」
 
 声をそろえてそう言うと、弁当を食べ始めた。

 すかさず、アスカは水筒のコップにお茶を注ぐ。

 「はい、シンジ。」

 「ありがとう、アスカ。」

 「どういたしまして。」

 二人のまるで夫婦のような雰囲気に、屋上の人口が減っていく。

 「あら、静かになって来たみたい。」

 「みんな、ご飯を食べ終わってグランドで遊ぶんじゃ無いの?」

 「そうかもね。」

 どうやら、自分達が原因だとは思わないようだ。

 シンジは、アスカが作った弁当のおかずを一口食べる度に、

 「アスカってお料理上手だよね。」

 とか、

 「本当に美味しいよ。
  これなら、何時でもお嫁さんになれるよね。」

 とか言って、アスカを赤面させた。

 『もう、何を言うのよ・・・・・。
  決まってるじゃない、アタシはシンジのお嫁さんになるんだから。
  この前も言ったでしょ・・・・・、ア・ナ・タ!』

 美味しそうに食べるシンジを見ると、自然と表情が緩んでしまうアスカだった。
 
 それでも、シンジの弁当を食べる手が止まらないのが、アスカの凄い所。

 『ふむ、ふむ、この揚げ具合・・・今度シンジに教えてもらおう。』

 「モグモグ、モグモグ・・・・・・・ゴクン!」

 『え〜と、この玉子焼きは・・・・・・うん、コレなら少し練習すれば出来る様になるわ!!』

 「モグモグ、モグモグ・・・・・・・ゴクン!」

 『唐揚げに玉子焼き・・・・・・、もっとレパートリーを増やさないと、良い妻にはなれないわね。』

 「モグモグ、モグモグ・・・・・・・ゴクン。
  ふぁぁ!!美味しかったぁぁぁ!!」

 弁当の蓋をパタンと閉めて、お茶を一口。

 丁度同じ頃、シンジも弁当を食べ終えて、お茶を一口。

 「「ごちそうさまでした。」」

 未だに、抜けないユニゾンで、二人は昼食を終えた。

 弁当箱を、横に置いたアスカは、ポケットの中から1枚の紙切れを取り出し、シンジに渡す。

 「なにこれ?」

 不思議そうなシンジに、内容を読んでみてと促すと、彼は綺麗に折りたたまれた紙切れを丁寧に開いた。

 暫く、書かれた内容を読んで、顔を揚げたシンジは、

 「温泉旅行の計画って・・・・・・・僕ら使徒を倒しに行くんだよね?」

 と、少し呆れ顔だ。

 「だって、アタシ達だけ修学旅行に行けないんだから、温泉旅行くらい楽しまなくちゃ・・・・・・ね?」

 「そうは言っても・・・・・。
  大体、本当に火山で使徒が見つかるかどうかわからないんだよ?」

 「え、どうして?」

 「アスカには言って無かったっけ?
  どうも、歴史に少し変化が有るみたいなんだ。」

 「変化って?」

 「たとえば、前はアスカが来る前に、ジェットアローンって言うロボットが暴走したんだけど、それが無かっ
  たし、マナだって本来よりも早く登場しているし・・・・・。」

 「言われて見ればそうよねぇ・・・・。
  アタシも、転入して来た時にマナの姿を見て、何で?って思ったもの。」

 「だからさ、今度はあの落ちてくる使徒が先かもしれないし。
  もしかしたら、僕が初号機に取り込まれたときの使徒が来るかもしれない。
  下手すると、アスカが心を覗かれた使徒かもしれないんだよ?」

 「そうか・・・・。」

 アスカは、シンジの言葉に少し不安に思った。

 自分が前世で全く歯が立たなかった使徒が、先に現われる可能性がある事に気が付いたからだ。

 「そっか・・・・。
  でも、一応、もし火山の使徒、確かあの頃はサンダルフォンって言ってたっけ?あれが現われて、温泉に
  いける様になったら、その時はその計画表通りに行動すればいいじゃない?
  計画しておいても損は無いわけだし・・・・・。」

 「そうだね。
  それに、今の所、使徒は前回同様の順番で出現しているから、今回もそうかもしれないよ?」

 シンジは、少し不安げなアスカを元気付ける様に、そう言った。

 アスカにも、シンジの気遣いが感じ取れて、それが嬉しい。

 『シンジ、アリガトね。』

 アスカは体勢を少し変えて、シンジに背中を向けると、彼の胸に体重を預けた。

 「ア、アスカ?」
 
 「少しだけで良いから・・・・。」

 「うん、わかった。」

 シンジはそう言うと、後ろから肩越しに前へ腕を廻し、アスカを包む様に抱いた。

 「シンジ・・・・。」

 「ん?」

 「やっぱりアンタは優しいわ・・・。」

 「そうかな?」

 「そうよ。」

 そう言ってアスカは、シンジの腕に頭を乗せる。

 「アタシが不安を感じた事を察してくれたもん。」

 「だって、大好きなアスカの事だからね。」

 「うん、だから、アンタは優しいのよ。」

 「アリガト、アスカ。」

 恐らく此処が学校で無ければ、このまま濃厚なキスへと移行していたかもしれないが、その辺りの常識は

 持っているようで、そのまま、甘い雰囲気を醸し出したまま、二人は昼休みの終わりまで過ごした。

 そんな二人の様子を、校内に入る鉄製のドアの影から見ている人達がいた。

 「いや〜ん、アスカったら。
  碇君とあんなに密着しちゃって・・・。
  不潔よ、不潔!!」

 ヒカリはそう言いつつも、傍にいるトウジの体温を感じて心臓が飛び出しそうなくらい激しく動く。

 「あんなに身体を密着させおって。
  シンジも惣流も、いや〜んな感じやなぁ・・・。」

 トウジは、シンジを羨ましく想いつつも、いつか自分もミサトとああ言う事をしたいと思っていた。

 「おおぉ!!
  コレは売れるぞ!!あんなに緩んだ惣流の顔は初めて見た!!
  この写真を売れば、大繁盛間違い無しだ!!」

 ケンスケは、この写真で一儲けできると確信し、独自の販売ルートを思い浮かべる。

 「クソ〜!!
  あの時、あの赤毛女が邪魔しなければ、私がシンジ君と甘い時間を過ごせたのにぃぃぃぃ!!!
  キィィィ!!くやし〜〜!!」

 マナは、どうやってシンジをアスカから奪還するかを考えるが、自分の秘密を知っているような素振りの

 アスカを、まずはどうにかしなければいけないと、頭を悩ませていた。

 「碇君とアスカ、幸せそう・・・・。
  なに?碇君とアスカがああしているのを見ただけで、私の胸が苦しくなるの・・・。
  これが、嫉妬心なのね・・・。」
 
 レイは、前世で自分がシンジに抱いた気持ちが、再び表に出ようとするのを抑えるのに必死だった。

 











 昼食の時間が終わり、午後の授業が始まる少し前。

 「ふぃぃ・・・スッキリしたわ〜〜・・・ん?」

 トイレに行って帰ってきたトウジは、シンジがいない事に気が付く。

 「なんや?シンジは帰ったんか?」

 通り道にいたアスカに、トウジはそう尋ねた。

 「ええ、ネルフで訓練だから。」

 そう答えたアスカの表情は、少し寂しそうに見える。

 そんなアスカを、ニヤリと笑ったトウジが、

 「旦那がおらんと、さみしいやろ〜〜?」

 と、からかった。

 「な、何言ってんのよ!!」

 「鈴原!!
  あんた、少しデリカシーが無いわよ!!」

 「そないなこといったかてなぁ・・・。」

 トウジは、ヒカリにまで怒鳴られて、少し腰が引けてしまう。

 「なぁ、ケンスケ。」

 救援を求められたケンスケが、席を立ちトウジの横に立った。

 「ああ、そうだね。
  昼休みの光景を見せられたら、惣流が寂しがるだろうって、誰だって思うよ。」

 「なんと言っても・・・・なぁ?」

 そう言ってアイコンタクトをしたトウジとケンスケは、

 「シンジ・・・・。」

 「ん?」

 「やっぱりアンタは優しいわ・・・。」

 「そうかな?」

 「そうよ。」
 
 と、寸劇を始めた。

 「あ、あ、あ、アンタ達!!見てたの〜〜〜〜!!」

 アスカは二人に向かって怒鳴るが、顔を真っ赤にしていたので、その迫力は半減してしまう。

 「真昼間から、あないなもんを見せられたら、誰だってからかいたくなるわな。」

 「そうそう。」

 ケンスケはそう言うと、ハンディカムを取り出して再生する。

 そこには、昼休みに一緒に食事をする、シンジとアスカの姿が映っていた。

 それを見たアスカは、耳まで真っ赤にすると、ケンスケの手からハンディカムを取り上げる。

 「わぁぁ!!なにすんだ!!」

 「フン!!
  コレは没収よ!!」

 そう言って、ハンディカムからテープを取り出すと、それをポケットに入れる。

 「コレは返すわ!」

 アスカは、用済みになったハンディカムをケンスケに投げた。
 
 「うわぁ!」

 突然投げられたケンスケは、お手玉をしながらも何とかキャッチ。

 「ほんまに、凶暴な女やなぁ。」

 「なんですって!!」

 “バチ〜ン!!”

 「うがぁ!!」

 「ながぁ!!」

 アスカの張り手を喰らったトウジは、ケンスケを巻き込んで吹っ飛んだ。

 それを見ていたヒカリは、自分もその場にいたとは言えず、ただカタカタと震えるだけ。

 振り向いたアスカが、

 「あら、ヒカリ?
  そんなに震えてどうしたの?」

 と尋ねたが、まともに返事も出来ず、

 「あ、ああ、アスカ。
  もうすぐ授業が始まるから、席に戻るね。」

 と、そそくさと席に戻ってしまった。

 「へんなヒカリ。」

 アスカは、ヒカリの行動に疑問を憶えたが、教科担任が入ってきたので自分の席に着いた。

 ちなみに、マナはバイトの為に帰宅、レイは文庫本を読んでいた。

 結局、教師が入って来ても意識が戻らなかったトウジとケンスケは廊下に廃棄されて、授業が始まった。

 シンジのいない授業はアスカにとっては退屈な時間なので、授業が始まると机に伏せて彼の机を見ていた。

 『あ〜あ、アタシもネルフに行けば良かったかしら?』

 シンジが帰っただけで、学校生活が途端につまらなくなる。

 アスカは早く時間が過ぎるのを祈りつつ、その青い瞳を閉じた。







 丁度その頃。

 午後の授業を休んで、バイト先に向かっていたマナの携帯が鳴った。

 “ピロヒョロリン、ピロヒョロリン、ピロヒョロリン。”
 
 結構マヌケな着信音だった為に、周囲の人の視線がマナに集まる。

 『なにかしら?
  もしかして、私のハイセンスな着信音に、感動しているのかしら?』

 マナ自身は、ハイセンスだと思っているようだ。

 “ピロヒョロリン、ピロヒョロリン、ピロヒョロ、ピッ!”

 「はい、霧島です。」

 マナが電話に出ると、聞こえてきたのは上官の鈴木四郎(仮)の声だった。

 「霧島君、ネルフの潜入調査はしなくてもいいぞ。」

 「ええ!!オヤスミくれるんですかぁぁぁ!!」

 「違う!!
  今日は、迎えをやるから、その者と同道して、ある男と会ってくれ。」

 「はぁ、オヤスミくれるんじゃないんですか・・・・・・。
  解りました、了解です。」

 「それでは、よろしく頼む。」

 鈴木四郎(仮)はそう言って電話を切る。

 マナは、携帯をポケットにしまいながら、

 『はぁ、今日はシンジ君の調査は無しか・・・。』
 
 と、肩を落していた。

 マナがアパートに着くと、黒塗りの車が待機していた。

 『あれが、迎えの車?』

 そう思ったマナが、車に近づくと窓が開く。

 “ウィィィィィン”

 「霧島マナだな。」

 中にいたのは、黒いサングラスをした戦自の士官だった。

 「はい、そうですけど。」

 マナが、姿勢を正して答えると、ドアが開く。

 「乗りたまえ。」

 促されるまま、マナは車に乗り込んだ。

 その後、20分程走った後、車は市街から外れた所にある小さな公園に止まった。

 『はっ、まさか!!』
 
 マナは、寂れた公園を見て、体が震えだした。

 『ここで、私を・・・。』

 確かに、この公園はそう言った事にうってつけの様に見える公園だ。

 「さあ、中に入りたまえ。」

 黒サングラスの士官が、マナの肩を押す。

 『ああ、シンジ君。
  私はここで・・・・・。』

 マナは、的外れな想像をしながら、公園にゆっくりと入る。

 すると、木の陰から、誰かが出て来た。

 「よう、遅かったな。」

 そう言って手を上げる人物の顔が、太陽に照らされる。

 『あの人は!!』

 その人物は、以前マナが見た事のある人物だった。

 『あの人、確か加持リョウジって言ったわよねぇ・・・・。
  女癖が悪くて、何時だったか、葛城ミサトに殺されかけてた・・・・。』

 以前マナは、掃除の途中で偶然、ミサトに追い詰められる加持を目撃していた。

 『はぁ、私にあんな女っ垂らしと何をしろって言うのよ!!』

 以前目撃した加持に、不快感を持っていたマナは、自分が何故此処に連れて来られたのか理解できないでいた。
 
 そんなマナを気にも留めずにに、黒サングラスの士官が、

 「霧島君。
  こちらは、加持リョウジ一尉だ。
  この先、諜報活動で協力してもらう事になっている。」

 と、紹介を始めた。

 「ヨロシクな、霧島マナちゃん。」

 そう言った加持はマナの前に立つ。

 「これから、彼と共同でネルフを探ってくれ。」

 『なんで、こんな人と?』

 「ま、そう言う事だ、ヨロシクな、マナちゃん。」

 『いやぁぁぁ!!
  こんな女っ垂らしと一緒にいたら、私が危ないわぁぁぁぁ!!』

 マナは、心の中で悲鳴を上げていた。

 「それでは、私は帰る。
  加持君、彼女を送って行ってくれたまえ。」

 「了解です。」

 黒サングラスの士官は、そう言うと車で去って行った。

 「さて、マナちゃん。
  俺達も行こうか?」

 「結構です、一人で帰れますから。」

 「そんな事を言うもんじゃないぞ?」

 「良いですから、放っておいて下さい!!」

 そう言い残すと、マナは公園から出て行った。

 「はぁ、何故嫌われたんだ?」

 理由が解らない加持は、一人公園に残されると、そう呟いた。

 
 
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 次回予告:温泉旅行の計画が出来上がったアスカは、シンジを買い物に連れ出す。
      目的は水着!!
      嫌がるシンジを無理やり水着売り場に引き込んで、あの時と同じ水着
      を探すアスカ。 
      丁度同じ頃、ネルフの大人達は、違和感の有る二人に付いて話し合っ
      ていた・・・・・。
      次回「大人達の疑問・子供達の計画 (前)」

       二人の補完計画が、今、動き出す・・・・・。



 あとがき:どーも『CYOUKAI』です。
      今回は頭を悩ませました。
      アニメでは、さくっと、ぽ〜んと進んだ所に、あえて学園生活を挟んで
      みようと思ったのですが・・・・・。
      本当だったら、次回がマグマ君になるはずだったです、それが、どう言
      うわけか、もう二話挟まないといけなくなってしまいました。
      ううぅ、自分の不甲斐なさに、自己嫌悪です。
      元々、計画表どおりに物事を進めるのが苦手なのを思い出しました。

      と言うわけで、今回も小生の駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
      
      それでは、また。


作者"CYOUKAI"様へのメール/小説の感想はこちら。
sige0317@ka2.koalanet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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