〜1月の青い月〜
    作:daiki





あの事件から10年が過ぎようとしている1月のある寒い日
LCLと化した人類は再び実体化し、何も無かったかのように暮らしている
シンジは私の首を絞めた後どこかへ消えてしまった
「僕はアスカと一緒に暮らせない」
そう言って私の前から消えてしまった
私は毎日が退屈だった
恐ろしくつまらなかった
そして今日もその退屈な一日が終わろうとしていた




「ねえねえ、そこのキミ」
もういやというほど聞き飽きた言葉
私は無視した
 どうせこの容姿を見て声をかけてきたのだから
私はそう思いそのまま無視したまま家に帰ろうとした
 「あっ待ってよ、アスカ」
 「えっ」
 「やっぱり。惣流 アスカ ラングレーだね?」
 「あっあんた、誰よ?なんで私の名前を知ってるのよ?」
 私は驚いた
 今まで声をかけられたことなら何度あっただろうか
 でも相手が自分の名前を知ってると言うのは、初めてだったのだ
 「僕だよ。シンジ、碇 シンジだよ」
「・・・・・・うそ」
「うそじゃないよ、僕の名前は碇 シンジ」
「・・・・・・」
私は声が出なかった
「僕はアスカと一緒に暮らせない」と言い自分の前から消えてしまったシンジが
10年間ずっと行方不明だったシンジが目の前にいる
身長はあの時とは違いかなり高くなっていたが顔つきはあまり変わってなかった


パシッ
私はシンジの頬をひっぱたいた
そして私の目から一滴の涙がこぼれ落ちた
「ごめんね、いろいろあってね」
「・・・・・・馬鹿」



あれからいろんなことを話し合った
仕事のこと、昔のこと、最近のこと・・・
楽しかった、久々に笑ったかもしれない
もしかしたら私はシンジが好きだったのかもしれない
その気持ちはまだ変わってないだろう
もっと自分に素直になっていれば良かった




あれ?
「・・・でね・・・だったんだ」
なんか・・・ちがう
「ねえアスカ、聞いてる?」
なんだろう?
「・・・・・・」
「アスカ?」
「あんた誰よ?」
「へ?」
「あんた誰よ?って言ってんのよ」
「なっ何言ってんだよアスカ」
「あんたシンジじゃないわね」
「そっそんなわけ無いだろう」
「じゃあ、あんた自分はシンジだって証明してみなさいよ」
「なっ」
「出来ないでしょう、でも私にはわかる、根拠は無いけどあんたはシンジじゃないってね」
「・・・・・・」
「何か言いなさいよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

しばらく沈黙が続いた
私にはその沈黙がとてもながく感じた
一時間、一日、一年それ以上にながく感じた

「ふぅ〜」
シンジ―と名乗る男がため息を吐いた
「・・・・・・」
「もうばれちゃったか―いつかばれると思っていたけどまさかもうばれるとは」
「・・・・・・」
「たしかにアスカの言うとうり僕は碇 シンジじゃない」
「なっじゃあ、あんたは・・・」
「ちょとついてきて」
「・・・・・・」
そう言って男歩き始めた
私は黙ってついていった


雨が降り始めた
朝の天気予報では『一日中晴れ』って言ってたのに
だけど私は気にせずついていって
今この男を一瞬でも目をそらしたら消えてしまいそうな気がした


気がつくと私達は今にも取り壊されそうなビルの前にいた
そのビルは汚く黒ずんだ廃墟だった
無言で男はそのビルに入っていった
続けて私も入っていった

ビルに入り上へ向かうための階段を上った
二階から三階へ行こうとしたとき一つの旋律が聞こえた
その旋律は聞き覚えがあった
そうあのときシンジが弾いていたあの曲だった
あの曲とは、10年前友達にさそられたデートから私が帰ってきたときにシンジが弾いていた曲だった
私達はある部屋の前で立ち止まった
中からチェロの旋律が響いてる
「アスカ、この扉君が開けてくれないか?」
「・・・・・・」
「いやなら別にいいよ」
「・・・・・・」
私は無言でドアノブを握った
ガチャ
そんな音を立てドアは開いた
部屋の中に居たのはチェロを持った青年が一人
青年は白い綿シャツにGパン、髪は適当に切り揃えてある
私が入ってきたのに気がつかないのか、青年は演奏し続けている
私はその演奏を静かに聞いていた


「ふぅ」
曲が終わり青年はため息をついた
パチ パチ パチ パチ
私は数回手を叩いた
青年はやっと私に気づいた
「誰?」
青年は小さな声で言った
「私よ、惣流 アスカ ラングレー、あんたはシンジでしょう?」
「そうだよ」
シンジは別に驚きもせずに言った
「いつからここに?」
「さあ?いつからだったけな」
「10年間何してたの?」
「へえー10年もたったんだ、ここでずっとチェロ弾いてたからわかんなかった」
そう言ってシンジは立ち上がり、ゆっくりと窓のほうへ歩いていき窓から外を見た
「アスカこそ何してたの?」
「見てわかんない?」
そうしたらシンジは私を見た
このときの私の姿はスーツ姿だった
「わかんないや」
シンジは微笑しながら言った
私はおかしいと思った
いくらスーツ姿とはいえ他人から見てもまったくわからないと言うわけではない
スーツ姿だったら職業はOLなどと思うのが普通だ
実際に私はOLとして働いている
そこで私は部屋の隅に移動し、シンジを呼んでみた
「シンジ!」
「何?アスカ」
するとシンジはまったく別のほうを向いた
「もしかして、あんた目、見えてないの?」
「なっ何言ってんだよアスカ」
シンジはかなり焦って言った
「じゃあ私はどこにいる?指で指して」
「・・・・・・・」
「私の服の色は?柄は?」
「・・・わからない」
「やっぱり、何時からなの?」
「ここに来た日の朝起きたら目が見えなかった」
シンジは震え、泣きながらそう言った
何で泣いているのかはわからないがそんなシンジを見ていると私はシンジの目代わりになってあげるのを決心した
「シッシンジよく聞いて、シッシンジさえよっ良ければね、わっ私がシンジの目代わりになってあげるわよ。感謝しなさい」
私は赤面しながらそうシンジに言った
「えっ、でっでも・・・」
「ウルサイ!男が細かいこと気にしないの、でYES?NO?」
「・・・・・・・」
シンジは黙り込んだ
そしてシンジはこう言った
「アスカ、また僕はどこかへ行ってしまうかもしれないけど、それでも良いならお願いするよ」
「・・・もうどこへも行かせないはよ。馬鹿シンジ」
「僕も出来るだけ頑張るよ」
「さっ帰るわよ」
「へっ」
「なに寝ぼけてるのよ、さっさと帰るわよ私達の家に」
「・・・・そうだね」
そう言って私達はこの建物から出って行った
「アスカどうやってここまで来たの?ずっと気になっていたんだけど」
「ああそれならあいつが・・・」
「あいつって誰?」
「あれ、どこへ行ったの?」
もしかしたらいなくなったのではなく、最初からいなかったのかもしれない
もし彼がまだいたらお礼を言いたい
「ありがとう」って心からお礼を言いたい
「まあいいや、帰ろうアスカ」
「そうね」

私達が建物から出たら雨はもうすっかり上がっていた
「わっきれ〜」
「どうしたの?アスカ」
「何でもないわシンジ」
空には無数の星と満月が私達を祝福しているかのように青白く輝いていた



〜fin〜


マナ:daikiさん、投稿ありがとーっ! \(^O^)/

アスカ:シンジの元に導いてくれたのは、誰だったのかしら?

マナ:神様かなぁ。

アスカ:そうかもね。そうじゃなきゃ、シンジへの強いアタシの想いかもね。

マナ:碇司令だったりして。

アスカ:違うっ! 絶対違うっ! シンジと一瞬でも間違わないっ! っていうかっ! 見た瞬間、アタシ逃げるっ!

マナ:そこまで、強く否定しなくても・・・。(ーー;
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