血の繋がりって何だろう?

 

この頃、よく考える事だ。

僕と父さんとの間には、確実に血の繋がりがある。

それが何だというのだろう。

 

僕自身、父さんの考えている事なんて皆目見当もつかないし、父さんだって同じだろう。

『血の繋がり』というものが本当に特別なものだったら、こんなに悩まなくてもいいのかな、と思う。

 

昔、テレビドラマに出てくるような親子に、とても憧れた時期があった。

僕がボールを投げると、父さんはそれを取って僕に投げ返してくれるんだ。

なんて都合のいい夢だったんだろう。

 

結局、僕はこれまで期待と諦めの連続だった。

何かを見ては、それを父さんに期待し、裏切られる。

そして、諦める。

これの繰り返し。

 

僕は『期待』する事を放棄した。

そうしたら、裏切られる事はないから。

僕を満たしてくれるような意外な事は起きないけど、それよりも悪い事は起きないから。

だから、僕は何事にも『期待』しなくなった。

 

でも、ここに来てから、ふと思うんだ。

それじゃ、ダメなんじゃないかって。

 

キャッチボールがしたかったら、どんな事をしてでも父さんに電話すればよかった。

それで断られても、何かは残ったはずだから。

『努力』しないのに、何かを『期待』するのは間違いだ。

 

ここは、第三新東京市は僕に『努力』する事を教えてくれた。

 

いや、ここにいる人たちが、なのかもしれない。

 

ここの風景には『色』が付いている。

前にいた所は『色』が無かった。

すべてが色褪せていて、すべてが薄汚れていた。

多分、僕が色褪せていて、薄汚れていたんだと思う。

 

僕は一歩踏み出すための勇気を手に入れたのかもしれない。

それをくれたのは多分…………。

 

たぶん、キミだよ。

ね、我が侭なお嬢様?

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

『道に迷うと、いつもそこには貴女がいた』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

【コンフォートマンション、葛城家】

現在、夜の九時半。

けっこうな時間だが、寝るには早い。

リビングではアスカが寝転がって、スナック菓子を食べていた。

手には雑誌。

これでよく太らないものだ。

 

「ねぇ、ミサトー。シンジはー?」

「部屋にいるわよ」

「部屋?………アイツ、何か変じゃない?」

「そりゃあ、ね」

「何か知ってるの?」

「アスカが知りたい理由を教えてくれたら、考えないでもないけど」

「な、何よそれ」

「んふふ〜」

「……イヤな笑い方するわね」

 

アスカはシンジの事を心配していた。

本人にそう言ったら、かなり怒るだろうが。

実際のところ、彼女自身も持て余している節がある。

今の気持ちを。

自覚しているのは、シンジの様子が変なので気になる、という事である。

 

「まあ、いいわ。特別に教えてあげる」

「はいはい、ありがと。それで?」

「シンちゃんのお母さんが亡くなってるってのは、知ってるわよね?」

「うん」

「明日が命日なのよ、お母さんの」

「それは初耳……。でも、どうしてそれであんなに落ち込んでるのよ?」

「はあ、アスカも察しが悪いわねぇ。いい?シンジくんのお母さんなのよ?」

「だから、何よ?」

「シンジくんのお母さんってことは、碇司令の奥さんってことでしょうが」

「………あっ」

「まあ、今回はシンジくんは頑張ってると思うわよ?」

「どうしてよ?」

「シンジくんが直接、司令に一緒に行こうって、約束したんだって」

「嘘っ!?」

 

アスカには信じられなかった。

普段の彼の様子を見たら、父親を嫌っているまではいかないにしても、苦手である事は明白である。

それなのに、自分から墓参りに誘うとはどういうことなのか。

ただでさえ弱気な人間である。

それが、『あの』司令に対してそんな事を言えるとは到底思えなかった。

アスカは自分がやれるかと自問してみたが、多分無理だと思った。

 

「それ、ホント?」

「ええ、ホント」

「……そう、聞いて来る」

「あら、そう。行ってらっしゃい………って、ちょっと待ちなさいっ!」

「何よ?」

「シンちゃん、ナーバスになってるからあまり刺激しない方が………」

「何よっ!アタシが行くとそんなに刺激になるって言うのっ!?」

「そ、そんな事ないけどさ………」

 

ミサトは自分の考えをズバリ的中されて、動揺した。

今、アスカに会ったらシンジはどうなるのか。

想像も出来なかった。

 

「行くわよ、アタシはっ!」

「分かったってば……」

 

もう止められないと悟ったミサトは説得を諦めた。

アスカは有言実行の人であったから、言ったからには実行するのだ。

 

「でも、分かってるわね?」

「分かったってば。刺激しすぎるな、でしょ?」

「分かったら、行ってもよろしい」

「はいはい」

 

アスカはミサトのシンジに対する気遣いを見ていると、過保護すぎやしないかと思う。

それだからああなるのよ、とはアスカの言葉。

どこらへんが『ああ』だか分からないが。

 

 

 

【葛城家、シンジの部屋(元物置)】

アスカは声もかけずに、襖を開けた。

シンジは顔を少し上げ、そちらを見る。

片方の足を曲げて、その膝を抱えるように座っていた。

耳にはヘッドフォン。

どうやら、音楽を聴きながら物思いに耽っていたようである。

アスカが入ってきたのに、少しも慌てないところを見ると、来るのが分かっていたようだ。

 

「シンジ、聞きたい事があるんだけど」

「ん、何?」

 

シンジは耳からヘッドフォンを外すと、アスカの方に向き直る。

その表情に、怯えた様子はない。

 

「明日、アンタのママの命日なんだって?」

「うん、そうだよ。だから、明日は墓参りに行くんだ」

「司令と?」

「………やっぱり、ミサトさんに聞いたんだ」

「まあね。それよりも大事な事があんのよ。

アンタ、司令に一緒に行くように頼んだんだって?」

「………うん」

 

そう答えたシンジの顔は今までアスカが見たどの表情よりも男らしく見えた。

あくまで彼女の主観で、であるが。

その表情はどう表現したらよいのだろう。

開き直りとも違う、言うなれば覚悟とでも言ったらいいだろうか。

まあ、表現に困るような複雑な表情であることは間違いない。

 

「アタシ、ちょっとアンタの事、見直したわ」

「えっ?」

 

シンジは心底、意外そうだった。

彼女に誉められた事など、数えるほどしかない。

それに、誉められるような事をした覚えもなかった。

彼にしてみれば、父親に母の墓参りを一緒に行こうと言っただけなのだ。

 

「何で、意外そうな顔してるのよ?」

「いや、だって」

「アタシだって、アンタにとっては、あの司令にそうやって話し掛ける事さえも大変な作業だって知ってるわよ。だから誉めてやったんじゃない」

「アスカ………」

 

シンジは嬉しかった。

自分の身近にいる人間が、自分を少しでもいいから理解してくれている事が。

それが、あのアスカなら喜びも倍増するというものだ。

彼女が本当は優しい事ぐらい、シンジにだって分かっている。

ただ、それを表に出すのが苦手なだけということも。

それでも、そう誉めてくれたのだ。

本当に心の底から自分を誉めてくれているに違いない。

 

「でもさ、どうしてそんな事する気になったのよ?」

「うん。まあ、理由はあるんだけどね」

「聞いてやろうじゃない」

「うん、アスカなんだよ」

「へ?」

「僕が父さんにそう言おうと思ったのは、アスカのおかげなんだ」

「えっ?」

 

アスカにとっては全くの寝耳に水だった。

まさか自分にあのシンジの奇行(アスカにとってはこれくらいインパクトのある出来事だった)を引き起こさせる原因があったとは思わなかったからだ。

 

「アタシが何、したのよ?」

「別に特別な事したってわけじゃないんだ。ただね、僕とアスカが言い争ってさ、

僕が口篭もる時あるじゃない?」

「アンタの得意技だもんね。何か言いたい事ありそうなのに、そんなの見てるとムカついてくるのよ」

「そうでしょ?そういう時にさ、決まって言うじゃない」

「何を?」

「『言いたい事があるんなら、言いなさいよ』って」

「まあ、言うわね」

「だからさ、考えたんだ。僕、ずっと言いたい事があったんだよ、父さんに」

「へえ………」

「でさ、アスカにさっきの言葉を言われる度に考えてたんだ。言いたい事って、言ってもいいのかな………ってさ」

「どういう事よ」

「僕はね、多分、無意識の内に考えてるんだ。相手を怒らせないようにしよう。

 僕がちょっと我慢すればいいんだから、ってね」

「アンタらしいわ」

 

アスカは軽く溜め息をつく。

やっぱり、コイツはバカシンジだ、と。

 

「でもね、それじゃダメだと思ったんだ。アスカが言ったみたいに、言わない方が相手に迷惑がかかる場合もある。言わなけりゃ傷つけることもある」

「………うん」

「それなら、言いたい事を全て言った上で、相手を怒らせてしまったら、

誤解ならそれを解くように一生懸命、話してみる。

事実だけど、相手にとって不快な事だったら、それについてまた話す。

たったこれだけでいいんじゃないかって」

「そんなの、当ったり前じゃん」

 

アスカにとって、それは当然の事であった。

相手に遠慮して、自分が折れる事なんて考えた事もなかったし、これからもそんな気はさらさらない。

彼女の場合、言った後のアフターケアが抜けているような気もするが。

 

「そう、当たり前なんだ。そんな当たり前の事に気付くのに随分と遠回りしちゃったよ」

「分かったなら、それでいいんじゃないの?結局はそれが実行に移せるかでしょ?」

「うん、分かってるよ」

「アンタの場合、それが心配なのよね………。

 分かったんなら、前に進まなきゃ。そうじゃなきゃ、意味ないでしょ?」

「うん、そうだね」

 

シンジは自然に微笑んでいた。

アスカは時々、こういったように内面の優しさ、母性とでも言ったらいいだろうか、そういったものを表に出す。

それは日頃からアスカに『ニブチン』と言われているシンジでさえ、ドキっとさせるようなものだった。

シンジはこの柔らかい雰囲気を出した時のアスカがホントの彼女なんじゃないかと、そう思う時がある。

そして、それは事実とそう変わらないであろう。

 

「ふふっ」

「な、何よぅっ!」

「いや、なんかね、いつもこうだなって思ってさ」

「何よ、それ?」

「アスカはさ、僕が何かに迷ってる時にいつも背中をポンって押してさ、勢いを付けてくれるんだ。多分、無意識だろうとは思うけどね。

 これでもさ、感謝してるんだよ、アスカにはさ」

「なっ、何言ってんのよ!」

 

アスカはふいに顔に血液が上がってくるのを感じた。

シンジはたまにこういった恥ずかしい事を平気で口にする。

それが冗談であったら、対処のしようもあるのだが、それらが全て本音だと分かっているので、尚更始末が悪い。

アスカはここら辺がシンジの魅力であるはずなのに、と思っていた。

『純粋』

これこそが彼の魅力であるはずだ。

この事に気付いている人間はあまりにも少ない。

(もったいないな)

アスカは素直にそう思ってしまう。

 

「……で、どうするのよ、明日は」

「ん、言いたい事を全部、言おうと思ってる」

「あの司令に?」

「………僕にとってはどんな肩書きを持っていようと、父さんは父さんだよ。

 父さんが墓参りに来る以上、その時はネルフ司令、碇ゲンドウじゃない。

 僕の父親、母さんの夫、碇ゲンドウだよ」

「言うようになったわね、シンジ」

「まあね、アスカのおかげだよ」

「なんですってぇーーーっ!!」

「うわっ」

「待ちなさいっ!」

「待ったら、殴られるだろっ」

「それがアンタが生まれてくる前から持っている運命よっ!!」

「んな、無茶なっ!」

「無茶は承知っ!!」

「承知しないでよ〜〜」

 

シンジの部屋ではドタドタという音が聞こえる。

部屋中をアスカが追い掛け回している音だ。

ミサトはビール片手に、そちらを見る。

すこしビックリしたが、その後微笑んだ。

 

「アンタたち、お似合いよ…………」

 

 

 

 

 

翌日の夕方、葛城家のリビングにはチェロの旋律が響いていた。

それはどこか嬉しそうで、暖かい微風のようだった。

 

その後、何が起こったかは二人と、小さな同居人だけの秘密………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<後書き、なのかなぁ?>

えっと、大半の人は初めまして、でしょう。

ここ最近、いろんなところで迷惑かけっ通しのディッチです。

中途半端ですねぇ………。

しょせん勢いですしねぇ………。

はぁ………。

 

知る人ぞ知る、パクリ好きな僕はまたもやりました。

パクるつもりなかったんですが、ちょうど雰囲気に合っていたので、つい。

一つは、2nd Impressionから、山岸マユミのセリフ。

二つ目はどれでしょうね。

うーん、あのシンジくんの悟りきったようなセリフあたりが怪しいですね。

完璧なパクリじゃないんで、分かりづらいかもしれません。

分かった人はメールなり、掲示板(いいですかね)なりで教えてくれると、豪華商品が当たり………ません。

余裕があったら何かするかもしれません。

 

長くなりましたが、この作品を載せてくださった、タームさん。

ありがとうございます。

ディッチでしたぁ〜。

 

………続きそうですけど、続きません。

 


マナ:ディッチさん。投稿ありがとうっ!

アスカ:シンジもやるようになったわねぇ。

マナ:本当ねぇ。こんなに頑張れる様になったら、凄いわねぇ。

アスカ:もう、びっくりしちゃった。

マナ:積極的になったって感じかしら。

アスカ:どんどん攻めるってのはいいことよ。

マナ:攻めるって・・・そこまで言うと、あなたのことみたいよ?

アスカ:あら? アタシは攻めたりしないわよ。守りの体勢だもん。

マナ:よく言うわぁ。攻めの一手のくせにぃ。(^^;

アスカ:攻めるのは、シンジよ。もう頑張っちゃって・・・。

マナ:え? ちょっと・・・。

アスカ:朝まで大変だったんだから。(*^^*)

マナ:な、なんの話をしてんのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!(▼▼#
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