サードインパクト。

 

確かに、それは起こったのだ。

 

ただ、それは災いではなく、祝福をもたらした。

もちろん、『老人たち』の言うようなものではない。

世界は一度、一つになったのだ。

LCLになど戻らずに、その姿のままで。

 

その時刻、寝ていた人はこう言う。

 

「赤い瞳を持った天使が、夢に出てきた」

 

その時刻、起きていた人はこう言う。

 

「赤い瞳を持った天使が、目の前に現れた」

 

そして、世界中の意識が繋がれていったのだ。

赤い瞳を持った、二人の天使の手によって。

二人の天使の使命はただ一つ。

 

―――碇シンジの想いを世界中の人々に届ける―――

 

たった、それだけ。

そして、意識の繋がった世界中の人々の頭には、シンジの心からの想いが流れ込んで来た。

 

 

 

片意地張って、生きたくないんだ。

好きにしてたいんだ。

失敗して、落ち込む事もあるけれど、

僕はそんな自分でいいと思ってる。

だから、だからみんな、もっと楽にしよう?

そんなにいがみ合っても、楽しくないよ………。

 

 

 

その言葉が人々の心に直接響いた時、世界は光に包まれた。

その光は世界中を満たし、心の壁をほんの少し、ほんの少しではあるけれど、薄くした。

そして、今もその光は世界中の人々の心の奥底で輝き続けている。

その光………。

それは、『アンチ・ATフィールド』

人に好意を持った神様、リリスの置き土産。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

やさしい風の吹き抜ける、その場所で

Act.2 『赤い瞳の向こう側 〜前編〜』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ネルフ内、リツコ専用研究室】

そこには白衣を着た女性と、青みがかった銀髪を持つ少女がいた。

女性の名は旧姓、赤木。

現在の名は、碇リツコ。

少女のかつての名は、リリス、もしくは綾波レイ。

現在の名は、碇レイ。

二人とも、碇家の一員である。

 

「レイ、これまでよく我慢してくれたわね。今日で全ての検査は終了したわ」

「……結果は?」

「そんなに思い詰めた顔をしないで。大丈夫、あなたは人間よ」

「………私の体は人間?」

「そうよ。元々、あなたの体は半分、碇ユイさんの遺伝子を持っていたわ。

 もう半分は使徒、リリスのもの……」

「はい………」

「そして、検査の結果わかったことは、そのリリスの部分の遺伝子パターンがごっそり入れ替わっているということ。サードインパクトの影響でね」

「……その半分はどうなったのですか?」

「意外な盲点だったわね。そのせいで検査が長引いてしまったのだけれど。

 ……ゲンドウさんのよ。あなたは、正真正銘の娘ってことになるわね」

「私が碇司令の本当の娘?」

「そう、つまりシンジくんはあなたの実の兄、ということになるわね」

「碇くんが私の兄?」

「これからは、シンジくんのことは『お兄ちゃん』と呼ぶのよ?」

「………はい」

 

レイは相変わらずの無表情ではあったが、彼女をよく知るものにはその変化が見て取れた。

微かにではあるが、微笑んでいる。

エヴァを通してしか絆を持てなかった少女が、一番確かな絆を手に入れることができたのだから。

『血の絆』

それは切り離しようのない、最高の絆である。

 

「レイ、これからは遠慮せずに、私やゲンドウさんを親と思っていいのよ。

 特に、ゲンドウさんは本当の父親なんですからね」

「……はい、お母…さん」

 

それを聞いたリツコは本当に嬉しそうだった。

すんなり言ったように聞こえたが、レイの顔は恥ずかしさで真っ赤だった。

リツコはレイを抱き締める。

レイは驚いたように、体をビクっとさせたが、やがてその暖かさに身を任せた。

母親の胸の中で、彼女は初めて嬉し涙を流した。

 

(本当に嬉しい時も涙が出るのね。いか……お兄ちゃんの言う通り)

 

やっぱり、急にお兄ちゃんは難しいようだ。

 

 

 

 

 

【翌日、三年A組の教室】

そこには、数日ぶりに登校した銀髪の少年がいた。

ウォークマンで音楽を聴きながら、教室のドアを開けた。

鼻歌混じりで、シンジたちの方に向かってくる。

 

「やあ、シンジくん……と、他二名」

「他に二名ってなんやねんっ!?」

「俺たちはおまけかっ!」

「うん、おはようカヲルくん」

「何、流してんねん、シンジ!」

「そうだぜ。シンジ、俺たちの友情はどうしたんだ!」

「演歌はいいねぇ。日本人が生み出した文化の極みだよ。

 そうは感じないかい、シンジくん」

「さあ、どうなんだろ」

「「……って、演歌かいっ!!」」

 

この四人は朝っぱらから何をしているのだろう。

さっきから、クラスじゅうで笑いが起こっているのが分からないのだろうか。

完璧にお笑いグループだ。

『4バカカルテット』の名にまさしくふさわしい。

 

そこに、アスカが近寄ってくる。

カヲルは少し、首を傾げる。

 

(はて、惣流さんってこんなに大人しかったかな?

 ………そうか、何か拾い食いでもしたんだね)

 

とっても失礼だった。

アスカはシンジの制服を掴むと、クイっと引っ張った。

『ちょっと、こっちに来て』の合図だろう。

 

「あ、うん。廊下でいいの?」

「………うん」

 

そう言うと、シンジはアスカを促して、廊下に出て行った。

カヲルは、呆然としてそれを見ている。

トウジはさすがに数日も続けば、馴れができてくる。

ケンスケに至っては、こうなるのが遅すぎるとも考えていた。

シンジは、まだアスカの気持ちには気付いていないらしい。

………報われないね、アスカちゃん。

 

 

 

「あ、あれはどういうことなんだい?」

「どういうて、言われてもやな………」

「何日か前から、惣流はあんななんだよ。シンジはあまり変わんないけどな」

「もしかして、もしかするわけなのかい?」

「ああ、そうなんやないか?」

「ああ……っていうか遅すぎんだよ、あいつらの場合」

「………でも、シンジくんは気付いてないんだろうね」

「ああ、シンジやしな」

「あいつの場合、惣流の気持ちだけじゃなくて、自分の気持ちにも気付いてないんだよ」

「なるほどね……。多分、キミの意見は正しいんじゃないかな、ケンスケくん?」

「ふんっ、シンジやトウジが鈍すぎんだよ」

「ワイが?なんでやねん?」

「委員長を大事にしてるか?」

「洞木さんをちゃんとデートに誘ってるかい?」

「な、なんやねん。それは!」

「ふぅ、お前なぁ………」

「キミやシンジくんは女心というものをもう少し勉強した方がいいね……。

 男たる者、女性をあまり待たせてはいけないよ?」

 

カヲルはそう言うと、遠くの空を眺めた。

隣ではトウジがなにやらぶつぶつ言っているが、聞こえない。

彼は自分に不都合なことは任意でシャットアウトすることができるのだ。

 

「キミはどうするんだい?僕と同じ運命を持つキミは………。

 ねえ、綾波レイ……いや、碇レイだったね………」

 

その空は彼が思い浮かべた少女の髪の色と同じく、澄んだ水色だった。

 

 

 

 

 

【同時刻、教室に向かう廊下】

その廊下をレイは歩いていた。

久しぶりの学校だ。

この前行ったのは、一週間前だった。

彼女は学校に行くのが、とても好きだった。

友達がいて。

そして、今は自分の兄になった人がいて。

こんなにも人と会話を交わす事が楽しいなんて思いもしなかった。

 

(私は人間。……今は家族もいる)

 

それは、今の彼女の最大の強み。

もう、無に帰りたいなどとは思いもしない。

 

「死にたく………ないっ」

 

それが今の望み。

どんなにみっともなくても。

どんなに惨めでも。

自分は人間なのだ。

最後の最後まで生き抜く。

 

「あれ?綾波?」

「あっ、レイ」

 

そうなのだ。

この二人がレイにもたらしたことは大きい。

少年は生きる事の大切さと、ほのかな恋心を。

少女はありとあらゆる感情をレイに伝えた。

 

「………おはよう」

「おはよ。もういいの?」

「……ええ」

「……あんたは体が弱いんだから、気をつけなさいよっ」

「……うん、ありがとう」

「べ、別に礼を言われる筋合いはないわよっ!」

 

この少女はいつもこうだ。

感情を素直には表せない。

それはいつものことだが、ちょっと違う。

レイには、彼女がなぜか眩しく見えた。

しばらく見ないうちに、何か言い表す事は出来ないけれど、変わったように見えた。

 

「アスカ」

「何?」

「……何か、あった?」

「!!」

 

明らかにアスカの表情に変化が見られた。

レイはちょっと首を傾げ、シンジを見る。

彼はちょっと困った顔をしていた。

彼にはアスカの好意が恋愛感情を示していることには気付いていなかったが、彼女がうろたえている理由は分かった。

それでも、レイには、なんとなく分かっていた。

彼女は心の動きには敏感なのだ。

アスカがシンジを想っていることぐらい分かっていたし、彼女がここまで狼狽することなんて、シンジがらみしかないとも気付いていた。

 

(……そう、そうなのね?)

 

「もうすぐ、朝のホームルームが始まるわ。教室に入りましょう」

「そ、そうねっ」

「う、うん」

 

レイは二人に声をかけ、教室に入る。

さも、何事も無かったかのように。

それでも、彼女の顔には何かもやもやとしたものが浮かんでいた。

彼女にもそれが何であるか、分からなかったが。

 

三人が教室に入る時、廊下に聞き耳を立てていた人物がいる。

赤い瞳の貴公子、渚カヲル。

その人であった。

 

「これだから、リリンはリリスに気に入られたんだよ。

 キミは好意に値するね、碇レイ?」

 

彼の呟きは誰の耳にも聞こえない。

ただ、聞こえた者がいたとすれば………。

 

世界を見守る光。

リリスの魂。

その光は、かつての自分を見守るかのようであった。

 

「大丈夫だよ。彼女は人間だから、強い心を持っているもの。

 でも、心配は心配だね。……分かってるさ、僕がなんとかしてみるよ。

 だから、貴女はそこで見守っておいでなさい、リリス………」

 

カヲルがそう言うと、そこには微かに風が吹いた。

そう、とてもやさしい風……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回へ続くはずさ、そうに決まってるっ!

 

 

 

 

 

<後書きというか、中書きでしょう>

ディッチです。

長いっす。

終わってないっす。

前後編になるはずです。

それで終わるのか、僕っ。

 

サードインパクト時のシンジのセリフ。

僕のパターンから、もう読めたでしょう。

これ、元ネタありです。

 

途中で、だらだらと書くのはマズイですね。

後にしましょう。

 

それでは、後編がアップされるように祈っていてください。

こんな作品でも読んでくれる人がいるみたいなので………。

ディッチでした。

 

何か、テンション低いぞー。

大丈夫なのかーー?

 


マナ:綾波さん、いい娘ねぇ。

アスカ:シンジの妹になったのね。うんうん。いい娘かもしれないわっ!

マナ:違うわよっ! アスカなんかのこと、心配してるみたいじゃない。

アスカ:なんかとは何よっ!

マナ:全く、あんまり綾波さんに迷惑ばっかりかけちゃ駄目よ。

アスカ:アタシがいつ迷惑かけたってのよ。

マナ:いっつもじゃない・・・。でも、渚くん何考えてるのかしら。

アスカ:アイツはいっつも怪しいのよ。僕がなんとかしてみるよ。って何するのかしら。

マナ:そうだわっ! 迷惑なアスカには愛想つかせて、わたしを呼び戻してくれるのねっ!

アスカ:アンタバカぁっ!?

マナ:どうしてよっ! アスカよりずーーーっと素直な良い娘よぉっ!

アスカ:カヲルとアンタって、面識ないじゃん。

マナ:うっ! そ、そういう問題が・・・あったのね。(・;)
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