あなたは何も悪い事をしていないのに、友人に殴られたことはありますか?

もし、そんなことがあったとして、あなたはその相手を許せますか?

 

何も訊かずに。

ただ、その相手に笑いかける。

 

そんなことが、あなたにできますか?

 

できると答えたあなたは、おそらくできないでしょう。

本当にできる人が、そんなことをおおっぴらに言えるはずがありません。

 

一年前、その状況に遭遇した少年がいました。

彼は何も分からずに、気付いたら病院のベッドにいたのです。

そして、そこには彼の無二の親友が立っていました。

………今にも泣きそうな顔をして。

 

いえ、泣いていたのかもしれません………。

 

 

 

「トウジ、僕はっ!」

「ええんや。何も言わんでええ。お前が悪いとは思うとらん」

「でもっ!」

「でもやない。お前が理由もなしに行動を起こす人間やないことくらい、

 ワシかてわかっとるわい。せやから、何も言わんでええ」

「………分かったよ。もう言わない」

「ええ、それでええんや」

「……うん。でも、一言だけ言わせてよ。

 ……ありがとう。キミがいてくれて本当に良かった」

「……何、ゆうてんねん………」

 

 

 

そう、彼らは泣いていたのかもしれません。

友人を傷付けたことで、悲しみ。

傷付けられた相手は、気にしていないことを上手く伝えられず、また悲しむ。

少年はその心を感じたことで、喜び。

友人は感謝の言葉を聞いて、また喜ぶ。

そして、彼らは涙を流さずに泣いていたのかもしれません。

 

だから、今も彼らの友情は続いています。

彼らの笑顔とともに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

やさしい風の吹き抜ける、その場所で

Act.4 『理屈じゃないから』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【学校帰り、太陽が低くなり西日に照らされた道路】

何の因果か、トウジとヒカリは一緒に帰っていた。

別に一緒に帰るのが嫌なわけではない。

ヒカリはもちろん、トウジのことが好きであったし、トウジも彼女のことを憎からず思っているのは確かだった。

トウジとしては、気に食わないことが他にあった。

この状況が自分の意志で作られたものでないことだ。

犯人は、彼のお節介な友人たち。

彼ら曰く、

 

「トウジ、そろそろお前も腹をくくれよ」

「告白は好意を持っている相手に対しての大事な意思疎通手段だよ」

「年貢の納め時、だねっ」

 

………だそうだ。

それぞれ好きな事を言っているが、シンジのセリフだけには反発したくもなる。

年貢の納め時?

お前はどうなんや?

というのが、彼の感じるところである。

それは至極、もっともな意見であろう。

 

それとは違う場所で、似たような光景が展開していた。

 

「ヒカリ、往生際が悪いわよ〜〜」

「……そう、もうダメなのね」

 

よく分からないが、赤と青の猛攻を受けていた。

それにしても、レイは何を言いたかったのだろう。

相変わらずの不思議少女ぶりだ。

 

 

 

 

 

「ねえ、鈴原。ちょっと寄って行きたい所があるんだけど、いいかな?」

「……ああ、別にかまへん」

 

どうして男という生き物はこういった時、ぶっきらぼうにしか返事できないのだろう。

そんな自分に自己嫌悪して、トウジは彼女の後をついていく。

しばらく坂道を登ったと思うと、そこには高台の公園があった。

そこはユニゾンの時にシンジがアスカをなだめる時に使った場所。

ヒカリがアスカにトウジのことを相談した場所。

そして、アスカが素直になろうと決めた場所。

 

ヒカリがここに来たのには意味があったのだろうか。

確かにアスカにここでの出来事はのろけに近い形では聞いていたが、

ここに来たのはそれとは関係ないと、自分では思っている。

思ってはいるが、やはり、心のどこかに残っていたのだろう。

 

「眺めのいい場所やなぁ………」

「そうでしょう?アスカに教えてもらったんだけど」

「惣流が?」

「まあ、アスカも碇くんに教えてもらったらしいけどね」

「ほうか……」

 

ヒカリには今日のトウジがやけに大人に見えた。

この前アスカに相談した時、隣にいたシンジの言葉が思い出される。

 

 

 

「トウジは僕なんかよりよっぽど大人だよ。

 多分、洞木さんの気持ちにも気付いてるんじゃないかな?

 ただ、中途半端な気持ちじゃ答えられないから、何も言わないんだと思う。

 大丈夫、時期が来たらちゃんと言ってくれるよ」

 

 

 

ヒカリは告白するつもりで、ここに来たのはいいが、躊躇していると、トウジが先に口を開いた。

それは全く予想もつかないような内容だったが。

 

「なあ、イインチョ。ワシ、話したことあったかなぁ?エヴァに乗った時のこと」

「え?」

「何やよう分からんうちに、ワシは病院のベッドに寝とった。

 どこも怪我はしとらんかったし、病院におらんかったら夢やと思うところやったわ」

「私は………」

「病室の前にいてくれたんやろ?」

「!!」

「まあ、後で惣流に聞いてな……。あいつは確かにええ奴や、誤解しとったけどな」

「……うん、最高の友達」

「それで分かった事がある。

シンジがワシの見舞いに来てくれた時の顔の叩いた跡、あれはイインチョやな?」

「……ええ、そうよ」

 

 

 

 

 

「……洞木…さん?」

「……碇くん」

「……いいかな、病室に入っても」

「………どういうつもりよ?」

「………」

「鈴原があんな風になったのはあなたのせいなんでしょう!?

 どうして平気な顔でここに来れるのよ?」

「確かにトウジが怪我をしたのは、僕のせいだ。

 だからこそ、僕は今、ここに来た。

 そうじゃなくちゃ、間違ってもトウジを親友とは呼べなくなるから」

「親友だっていうなら、何で鈴原があんな風になるようなことをしたのっ!?

 どうしてっ!どうしてっ!!」

「………ごめん、入るよ」

「っ!!」

 

ほとんど人のいない廊下に、乾いた音が鳴り響く。

それは確かに、ヒカリがシンジの頬を叩いた証拠だった。

その一撃はシンジを一時、横にずらすことに成功したが、

その次の瞬間には彼は元の位置に戻っていた。

そして、その顔はヒカリを真っ直ぐに見つめていた。

 

その顔に少しでも自分への憎しみの感情が浮かんでいるなら、良かった。

少しでも怒りの感情が出ていれば良かった。

でも、その顔は澄んでいて、純粋で。

自分に対する憎しみの感情など、一片もなかった。

逆に、その顔にはすまなそうな表情すら伺える。

それは、彼の口癖をそのまま表しているかのようで。

 

―――ごめん―――

 

ヒカリが少しの間、呆然としていた。

シンジが自分をかわして、病室に入ったことにも気付かずに。

 

 

 

彼女が呆然としていると、そこには彼女の親友と呼べる少女がいた。

しかし、そこにいる少女の表情は険しくて、厳しくて。

今にも自分に対して、怒りをぶつけてきそうだった。

けれども、その中に悲しみを感じたのは、ヒカリの思い違いだろうか?

 

「……アスカ」

「ヒカリ、アンタが自分を見失っているのは分かってる。

 だから、アタシはアンタに怒れない。アンタの行為が間違っていても。

 でもね、これだけは言わせてもらうわ。シンジのやったことは間違っていない。

 アタシが鈴原が乗っているから攻撃するのに躊躇した時、

アイツは鈴原本人に恨まれることを覚悟して、攻撃したわ。

それが一番、あの熱血バカを救うことになると分かっていたから。

………泣いてたのよ、あのバカは。戦闘中なのに」

「………」

「で、でもっ!」

「お願いだから、シンジを責めないでよ………。

 本当に責められるべきはアタシ。一番近くにいて、攻撃できなかったアタシ。

 だから、だからお願い。シンジを責めないで………」

「アスカ………」

 

 

 

 

 

ヒカリは自分がいままで生きて来た中で、一番悔やんでいることに触れられた。

冷静さを失っていたとはいえ、なんてことをしてしまったのだろうと思う。

そんなことからか、彼女の顔は次第に曇っていく。

トウジはそのへんを察して、ヒカリの肩に手を置いた。

 

「ワシは別に責めてるわけやない。ワシかて妹のことでシンジを殴った事があるしのう」

「……でも」

「でもやない。イインチョのことや、その後すぐに謝ったんやろ?

 それでええんやないか?シンジはそんな細かいことを気にする男やない」

「それでも私は碇くんのことを誤解して、あんなことをっ!」

「それは心配してくれたからやろ、ワシのことを。

 ホンマ、嬉しいんや。そこまで想ってくれてな」

「わ、私は……」

 

ヒカリがトウジを見ると、彼は本当に優しい顔で自分を見ていてくれた。

そんな目で見られると、どうしてか泣きたくなってしまう。

どうして、この人はこんなにも人に優しくできるのだろう。

そのまま、彼女はトウジの胸に頭をつける。

もう、どうにもならなかった。

ただ、この人に泣き顔はみせたくなかったのだ。

 

「ど、どないしたんや、イインチョ?」

「……お願いだから、このままで」

「………分かった。好きなようにしたらええ」

「………ありがと」

 

 

 

 

 

先程から時間が少し経って、太陽も西の空に沈もうとしている。

二人はずっと同じ体勢のままだった。

すると、ヒカリが顔を上げる。

涙の跡を見られたくないのだろう、目をゴシゴシとこすりながら。

 

「……あのね、私、今日、言いたいことがあったの」

「……奇遇やな、ワシもや」

「……でもいいの。今は言うべきじゃない気がするから」

「……ほうか。ワシもや」

「そうなんだ………」

「ワシは多分、イインチョが言いたいことはわかっとる。

 そう言われたら、返す言葉も、や。

 それでも、今は言うべきやないと思うし、聞くべきやないと思うとる。

 今、言われたら、中途半端な返事しかできへん。

 それじゃあ、イインチョを傷付けるやろうし」

「……うん、待ってって。私も待ってるから」

「もう少し、もう少しやと思う。もう少し、ワシが大人になったら答えられるさかい……」

「………うん、いいの。それが鈴原だって知ってるから」

「……おおきに」

 

 

 

人の心。

それは言葉で押さえ込むことなどできない。

理性ではなく、本能だから。

人を本当に好きになることは、理屈ではないのだから。

だから、多分この二人は分かっている。

自分はこの人が好きなんだろう、ということを。

そして、相手も自分を好きでいてくれることを。

それでも、その気持ちを伝えられないのはなぜなのか。

 

……それは理屈じゃないから。

……言葉ではないから。

……『好き』という気持ちは理性が支配するものではないから。

 

でも、一番の理由は。

 

 

 

あなたが本当に大切な人だから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐあっ、続くのか?

 

 

 

 

 

<後書きという名の、反省>

すいません、何を書いているのか自分でも分からなくなってきました。

ディッチです。

 

今回はトウジくんとヒカリちゃんです。

本当はここでくっつけちゃおうかな、と思っていたのですが、

この二人はそんなに簡単な関係じゃないだろうと思い直し、こんな中途半端な形になりました。

この二人に関しては後々、どうにかしましょう。

多分、トウジくんが男のケジメを見せてくれるでしょう。

 

それではこんなところで。

予定では、次あたりにギャグ要素満載なお話が挿入されるはずです。

お話の中心は………だれでしょう?

お楽しみに〜

 

えっ、知りたい?

あの人しかいないでしょ?

 


マナ:洞木さんの鈴原くんへの想いが、とっても感じられるわね。

アスカ:まぁ、あの熱血バカもことヒカリのことになると優しいしねぇ。

マナ:思うんだけどさぁ。いい加減、「イインチョ」って言うのやめたらいいのに。

アスカ:それが、アイツがバカなとこなのよ。

マナ:ま、鈴原くんらしいといえば、らしいけど。

アスカ:もうちょっと、人生気楽に考えたらいいのにねぇ。

マナ:あぁいう子だから、洞木さんも好きになったんでしょ。

アスカ:なんだか、面白みの無い家庭を築きそうなカップルね。

マナ:堅実でいいじゃない。アスカと違って。

アスカ:アタシは真面目よっ!

マナ:家事できるの?

アスカ:さって、おしまいおしまい。
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