僕には『恋』という物がよく分からない。
人を好きになれば、それが『恋』なのか、
『恋』をしたから、その人を好きになるのか………。
僕には分からない。
ただ、一つ確かな事がある。
それは………
曖昧な態度、
受身で居続ける事は、絶対にキミを傷付けるという事。
分かっているのに、分かっていたはずなのに………。
どうして、僕はキミの気持ちに気付いてやろうとしなかったっ!?
Neon Genesis Evangelion
Another Story
やさしい風の吹き抜ける、その場所で
Act.8 『あなたに伝えたい 〜後編〜』
written by ディッチ
【遊園地内、とんでもない急なカーブの付いたジェットコースター】
シンジはメリーゴーランドの後も、色々な物に乗せられた。
おそらく、お化け屋敷の仕返しだろう。
シンジの苦手そうな物ばかりに乗った気がする。
彼が苦手というと、絶叫マシーンか、めちゃくちゃ少女趣味な物だ。
それにしても、お化け屋敷が好きなのに、なんで絶叫マシーンがダメなんだろう?
「アスカさん?これは何でしょうか………」
「えっ、知らないの?この遊園地の目玉『カサブランカ』よ」
「……ネーミングセンスがよく分からないんだけど、とにかく恐そう」
「恐いから、絶叫マシーンなのよ」
「それじゃ、アスカいってらっしゃい」
「アンタもね」
そう言うと、アスカはシンジの首根っこを捕まえて、そのまま乗り場まで連行する。
シンジはシクシクと泣きながら、ドナドナを歌っていた。
「ドナドナドナぁ〜〜、子牛をのぉ〜せぇ〜てぇ〜〜」
「楽しみっ、楽しみっ♪」
シンジのドナドナもアスカの耳には届かない。
アスカは熱中しだすと、止まらないのだ。
「不幸………なんだろうか、僕は?」
彼の呟きに答える者はいない。
「はぁ〜、楽しかったぁっ!」
「胃の中がかき回された………」
数分間の後、彼らは再び乗り場から出てきた。
アスカはいきいきとした顔で。
シンジは死にそうな顔で。
「ちょっと、シンジ大丈夫?」
「………大丈夫じゃない」
「わっわっわっ、ちょっと、休もっか?」
「そうしてくれると嬉しいです………」
「それじゃ、そこのベンチで横になってて。何か冷たい飲み物買ってくるから」
「うん、ありがと……」
シンジはふらふらとベンチに辿り着くと、そこに横になった。
かなりやばかったのだろう。
横になると、意識が遠のいていく。
数分後、シンジは浅い眠りについていた。
【数十分後、ジェットコースターの近くのベンチ】
(何か気持ちいいなぁ………。もしかして、僕寝てたのかな?
それにしても、何だろ、この気持ち良さ………)
シンジはそのまま眠っていた。
ベンチにはシンジとアスカ。
そう、アスカもいるのだ。
えっ?どこに?
(あれ、僕が寝たとして、ここはベンチのはずだよな………。
どうして、頭のとこに枕があるの?)
至極、当たり前の疑問である。
ベンチに寝ているのであれば、枕などあるはずもない。
しかし、現に、頭の下に柔らかい物があるのだ。
「あ、起きた?」
「あ、えっ?………わぁーーーっ!!」
(アスカの膝枕ぁーーーーーーっ!!?)
そうである。
シンジの頭の下にあったのは、枕などではなく、アスカの太ももだったのだ。
いわゆる『膝枕』の状態である。
「ご、ごめんっ!そんなつもりじゃ、えーーっと、その……」
「別にいいわよ。アタシが勝手にしたんだし………」
「あ、う〜、だぁ〜〜っ!!」
パニック状態のシンジは、何を言っていいか分からなかった。
実際、変な言葉しか口から出ていない。
一方、最初は何も気にしていなかったアスカも、
シンジの慌てぶりで自分のした事を思い返し、顔を赤くしていた。
(アタシってば、アタシってば、アタシってばぁ〜〜〜〜っ!!)
パニックだ。
シンジもパニック。
アスカもパニック。
どうにも収拾がつかない。
得てして、こういう時、頑張らなければいけないのは男なのだ。
「えっと、あ、うん。次、いこっか?」
「………うん」
いくらか、パニック状態から抜け出した二人は、歩き始めた。
シンジが先を行き、アスカがその後ろを付いて行く。
シンジは真っ赤な顔を見られたくなくて、上を見たまんま。
さっきから、『逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ』と繰り返している。
何から逃げちゃダメなの?
アスカはアスカで、やっぱり真っ赤な顔を見られたくなくて、下を向いている。
先程からしきりに、『膝枕しちゃった、どうしよ、どうしよ』と呟いている。
いいじゃん、膝枕ぐらい。
【同じく遊園地内、夕日のきれいな少し高い位置に作られた観覧車】
既に、日は沈みつつあって、西の空には夕日が眩しかった。
シンジが半パニックのまま、アスカを連れてきたのは観覧車。
おそらく、「シンジくん、遊園地の最後は観覧車で決まりだっ!!」
という、彼の師匠の言葉が強く残っていたためだろう。
そこで、幾分パニックから抜け出したシンジは振り返って、アスカを見る。
「アスカ、最後だけど。これ……観覧車で、いいかな?」
「……うん、いいよ」
「そう……行こうか?」
「………うん」
アスカの返事を聞いて、シンジは乗り場の方へ向かう。
この時間になると、やはり、カップルが多く、少し待たされたが、意外にすんなり乗れた。
シンジは気付いているのだろうか。
観覧車はしばらくの間、完全な密室になるということを。
………もちろん、気付いているはずがない。
【観覧車内】
夕日に包まれた、観覧車の中。
アスカは、その夕日に照らされたシンジの顔がなんだか大人びて見えて、
なかなか直視する事が出来なかった。
そんな中、シンジは純粋に景色を眺めていた。
まったく、キミは………。
「ねぇ、アスカ?」
「……えっ?」
すると、突然シンジが窓からの景色を眺めながら、アスカに話し掛けてきた。
当然、シンジの顔を見ようか見まいか、思案中だったアスカはびっくりする。
そんなアスカを不思議そうに眺めた後、シンジはアスカから再び景色へと視線を移す。
「……今日さ、楽しかった」
「……うん、アタシも」
「………そっか、それなら良かった」
「……えっ?」
「いや、半ば強引に誘った感があったからさ。楽しくなかったらどうしようかなって」
「……来たくなかったら、来ないもん」
「うん、そうだね」
「ありがと」
「何で、アスカがお礼を言うのさ?言うなら僕の方だよ」
「………いいの」
そのまま、嫌じゃない静寂が辺りを包む。
聞こえる音といえば、観覧車が動く、ガコンガコンという音だけ。
それ以外は全くの無音だった。
そんな中、アスカは一つの決心を固めていた。
言わなくちゃ。
今、言わなくちゃ。
そういう想い。
純粋で、真っ直ぐな想い。
「ねえ、シンジ」
「んっ?」
「アタシってさ、きれいだと思う?」
「………ああ、きれいだと思うよ」
「アタシってさ、ワガママだよね?」
「………うん」
「アタシってさ、素直じゃないよね?」
「………どうだろ?よく分かんないや」
「アタシって、アタシって………」
「?」
「…………」
「……どうしたの?」
シンジはアスカの様子が少し変な事に気付いて、
窓から視線を戻し、アスカの様子を見る。
アスカは俯いていて、表情は伺えない。
ただ、寒い時のように、自分の体をきつく抱き締めるようにしている。
「アスカ、大丈夫?」
「………しんじ」
「……何?」
「アタシは………」
「………えっ?」
「惣流アスカラングレーは、碇シンジの事が好きです。
きっと、世界中の誰よりも…………」
「っ!!」
「………返事、聞かせて?」
アスカは使徒と戦っている時とはまた別な、真剣な表情をしていた。
それとは逆に、シンジの方は戸惑っている。
当たり前である。
予想もしていなかった出来事が眼前で展開しているのだから。
「僕は…………」
「………」
「僕はよく分からないんだ。人を好きになるということが。
だから、ごめん…………。今の僕には答えられない。
答えたら、嘘なんだと思う。
本当に……ごめん……………」
「………分かった」
そのまま、観覧車は回っていく。
二人を乗せて………。
「………本当に、ごめん」
最後に呟いた少年の呟きは、誰に向けてだったのか。
それは誰にも分からない………。
そう、言った本人にさえ…………。
いいのかなぁ、続けちゃっても……。
<後書き……もしたくないなぁ>
らしからぬ展開。
そうお思いの事と思います。
ディッチです。
これには色々と事情がありまして。
僕の物語の構成には、一つの原則があります。
ハッピーエンドの前には、一度落とさなくてはならないっ!!
……とまあ、そういった理由からです。
つまり、ハッピーエンドにはなります。
これは僕が全責任を持って、保証します。
ちなみに補足をしておくと、シンジに他に好きな人がいるというわけじゃないです。
ただ、ねえ?
まあ、この後の展開に期待してください。
あ、予定は立ってますので、予告してお開きにしましょうか。
それでは、次回、『バカは死んでも治らない』でお会いしましょう。
さようなら〜。
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