遊園地で、アタシはシンジに告白した。

 

シンジの答えは、『YES』でも、『NO』でもない。

 

『分からない』

 

聞いて、むかついたり、悲しくなったりしたけど、

何か、コイツらしいって思えた。

多分、コイツはその事で落ち込んで、けれど絶対に答えを出してくれるはず。

ずっとシンジの事を見続けているアタシには信じられる。

 

けどね、アンタは分かってない。

アタシだって女の子なんだよ………。

女の子は凄く傷つきやすくて、弱いんだから。

 

ねえ、お願い。

早く、早く助けてよ………。

 

 

 

しんじぃ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

やさしい風の吹き抜ける、その場所で

Act.9 『バカは死んでも治らない』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ネルフ本部内、リツコの研究室】

そこには、ミサトとリツコがいた。

リツコはモニターを見て、時折何かを打ち込んでいる。

ミサトはというと、彼女の仕事の邪魔にならないように、

部屋の壁に寄りかかってコーヒーを飲んでいる。

すると、リツコが振り返り、ミサトの方を向く。

 

「ミサト、用事があるなら言いなさい。無言でいられる方が迷惑よ」

「………相談があるの」

「あなたが、私に?」

「……そう、リツコに。いえ、シンジくんの母親としてのあなたに」

「相談って、シンジくんの事なの?」

「ええ」

 

リツコは最初こそ厳しく言ったが、ミサトの様子がおかしい事には気付いていた。

だからこそ、最初にキツイ言い方をして様子を伺ったのだ。

いつもなら、「リツコ〜、そんなにキツイ言い方しなくてもいいじゃない」

ぐらいは言うはずだ、長年の付き合いから見ても。

余程、深刻な悩みがあるに違いない。

 

「シンジくんがどうかしたの?」

「リツコ、あなた加持くんに頼まれて遊園地のチケット、取ったわよね?」

「ええ、何でもシンジくんとアスカの仲を進める切り札だ、とか言ってたけど」

「それがね、何かおかしいのよ……」

「どういう事?」

「確かに加持くんがシンジくんにチケットを渡して、アスカを誘って遊園地に行ったわ。

 それからね、あの二人の様子が変なのよ」

「どういう風に?」

「アスカは無理して明るくしてるような感じだし、

シンジくんはあからさまに落ち込んでるみたいなのよ」

「そう、何かあったのね………」

「私じゃもうどうにも出来ないし、頼れるのはまがいなりにも母親のアンタしかいないの」

「そうね、分かったわ。今夜、シンジくんをこっちの家に来るように言ってくれるかしら?

 ゲンドウさんには、私の方から説明しておくわ。あの人はシンジくんの父親ですからね」

「ありがと、お願いね」

 

ミサトは少し、落ち着いた様子で部屋を後にする。

部屋にはリツコだけが取り残される。

その顔には苦渋の表情が見て取れた。

 

「私に相談してくるって事は、相当重症なのね。

 私には多分、どうにもできない。ゲンドウさんだけが頼りか………」

 

すると、今夜の事を相談すべく、部屋の電話から司令室へと電話をかけた。

 

 

 

 

 

【その日の夜、碇家】

その日の夕食は静かだった。

シンジは無理して笑っているのが、痛いほどよく分かる。

せっかく招待されたのに、自分が暗い顔をしていてはいけないという気持ちからだろう。

それが分かるだけに、余計痛々しい。

 

「ごちそうさまでした。おいしかったです、リツコ母さん」

「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

(本当にこの子は強い。ホントは今にも泣きたくてしょうがないだろうに……)

 

シンジが食事が終わり、席を立とうとすると、その肩を掴む手があった。

ネルフ総司令、碇ゲンドウである。

だが、ここではただの父親にすぎない。

サードインパクトを経て、シンジにもそれくらいは分かるようになった。

 

「どうしたの?父さん」

「シンジ、少し外でも歩かないか?」

「えっ?別に構わないけど………」

「そうか……。リツコ、少し出るぞ」

「ええ、ごゆっくり」

 

そうして、ゲンドウはシンジを促して外に出る。

今日はいい天気だったので、空には無数の星が輝いていた。

だが、その光でもシンジの心を照らす事は出来ない。

その心を照らす事が出来るとすれば、この世でただ一人。

青い瞳の少女しかいないはずだ。

だが、それはシンジ自身にも分かっていない。

 

「シンジ、何か悩み事でもあるのか?」

「えっ、どうしてさ?」

「………ふぅ、だからお前はバカ息子だというんだ。

 お前、今の自分の顔を鏡でも使って見てみるがいい。

 苦痛に歪んだ顔をしてるぞ。おもいっきりな」

「………まだまだ、だね。隠そうとしてダメみたいだ」

「何があった?これでもお前の倍以上、無駄に生きている。

 愚痴を聞くぐらいなら出来るはずだ」

「父さん…………」

 

シンジは驚いて、ゲンドウの顔を見る。

確かに和解はしたものの、未だ両者の間には溝がある。

それでも、ゲンドウは自分を息子として見て、相談に乗るとまで言ってくれている。

不覚にも悩み事を忘れて、涙が出そうになった。

 

「言い難い事か………」

「まあ、ね………。アスカの事なんだけどさ………」

「アスカくんか……。何かあったのか?」

「告白されたんだ……。この前の日曜日」

「ふむ……。そうか……」

「驚かないんだね………」

「当たり前だ。おそらくお前だけだぞ、彼女の気持ちに気付いていなかったのは」

「そ、そうなの?」

「バカか、お前は?あそこまでされて、何故気付かん?」

「そんな事、言ってもさ……」

 

ゲンドウはシンジの少し前を歩いている。

シンジは少し、気持ちが楽になった事に気付いていた。

今なら全部を話せそうな気がした。

 

「それで、お前はどう答えた」

「……分からない、って」

「…………このバカ息子が」

「だって、分からないんだ。人を好きになるって事が」

「ふぅ、そうか………」

 

それを聞いたゲンドウは心底呆れたように、溜め息を吐く。

シンジはシンジで、俯く。

すると、その時、ゲンドウが立ち止まると、横を見た。

シンジもそれに習い、立ち止まって横を向く。

そこには、川が流れていた。

 

「もし、アスカくんがお前以外の男と並んで歩いていたらどうする?」

「えっ?」

「仮定の話だ。もしそうなったら、お前はどう思う?」

「………多分、嫌だと思う」

「もし、アスカくんがお前以外の男と腕を組んでいたらどう思う?」

「………嫌だ」

「もし、アスカくんがお前以外の男とキスをしていたらどう思う?」

「………嫌だ」

「もし、アスカくんがお前以外の男と一夜を共にしたとしたらどう思う?」

「………嫌だ」

「もし、アスカくんがウエディングドレスを着て、

その隣にいるのがお前以外の男だったらどう思う?」

「………絶対に嫌だっ!!」

「これで、分かったか?」

「何が……………あっ」

 

シンジは何かに気付いたように、ゲンドウの顔を見る。

ゲンドウはシンジを引っ掛けられて、至極満足そうだ。

急速にシンジの顔が真っ赤になる。

今頃になって、自分の言っていた事に気付いたらしい。

 

「ここまでせんと、分からんとはな……。つくづく鈍感だな、お前は」

「………ほっといてよ」

「いいか、さっきお前が嫌だと思った理由は何だ?」

「それは………」

「ここで誤魔化してもお前のためにならんから言っておく。

 それは世間一般では、『嫉妬』と呼ばれるものだ」

「僕が、嫉妬?」

「嫉妬をするということは、アスカくんを独占したいという気持ちがあるという事だ。

 これが何を示すか分かるか?」

「………」

「………」

「僕は………アスカの事が好き?」

「………そういう事だ」

 

シンジの答えに満足したのか、ゲンドウはニヤリと笑った。

自分で言っておいて、シンジは動揺していた。

それもそうだ。

今まで全く知らないことに気付かされたのだから。

 

「どうして………」

「………」

「どうして、僕はこんな簡単な事に気付かなかったんだろう………」

「それは、お前が救いようも無いほどの大馬鹿者だからだ」

「そこまで言う事ないだろ………」

「自分の好きな女が誰かも分からんバカは、ただのバカだ」

「…………そうかも、ね」

 

さやさやと風が吹く。

近くを流れる川の水がシンジの心に響く。

 

「父さん」

「何だ?」

「今日は泊まっていくよ」

「そうか、好きにしろ」

「うん」

 

そう言って、シンジは元来た道を歩き始める。

だが、少し進んだところで立ち止まると、ゲンドウの方に向き直る。

 

「父さん」

「何だ、言いたい事があるならまとめて話せ」

「もう一つ、言っておきたい事があったんだ」

「いいから、早く話せ」

「………本当にありがとう」

「!!」

「それじゃ、おやすみ」

 

シンジは道を走る。

後には呆然としたゲンドウただ一人。

いや、道端に隠れている人も含めて。二人。

 

「………リツコ」

「はい?」

「いつから聞いていた?」

「最初からですけど?」

「………キミには負ける」

「そうでもないです。シンジくんは私の手には負えませんでしたから」

 

リツコはずっと隠れて聞いていたらしい。

さすがはネルフが誇る、技術部長。

……関係あるのか、この場合。

 

 

 

「『バカは死んでも治らない』と言うが、アイツの場合は正にそうだな」

「あら、女心が分からない『バカ』ならここにもいますよ?」

「……誰の事だ?」

「あなたです」

「ふんっ、俺の場合はバカだけでは済まん。

その後ろに、アホやマヌケなんかを付けてもまだ足りん」

「そうですか?」

「ああ、お前を苦しめ続けた俺が、バカだけで済むはずがないだろう?」

「ゲンドウさん………」

「シンジには、そうなって欲しくないな………」

「……そうですね」

 

 

 

 

 

シンジは家に戻ると、彼に用意されている部屋に入った。

元々、彼もここで暮らすはずだったから、一通りの物は揃っている。

その一つ。

ベッドにねっころがると、天井を見つめる。

 

「『バカは死んでも治らない』って事かな…………。

 アスカを傷付けて、僕は一体、何をやってるんだ………。

 ………絶対に、絶対にもう悲しませるもんかっ!!」

 

シンジは独り、気合を入れる。

運命の日まで、あとわずか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次で最後っ、最後だよっ♪

 

 

 

 

 

<後書きぃーーっ!!>

はぁ、やっとここまで来ましたね……。

ディッチです。

 

ここまで来たら、もう言う事はございません。

黙って、次を待っててください。

僕的にはいくつか話の候補があるんですが、まだ決まってません。

今、乗りに乗ってるので、決まったらすぐにでもお見せ出来るはずです。

 

ちなみに、最終話の題名は始める前から決めてました。

続けるつもりも無かったのに、最後まで書くとしたら、これだっ!という感じです。

それでは、Act.10、これが最後になります。

『風の辿り着く場所』でお会いしましょう。

 

……ディッチでした。

 

題名がパクリ?

今更、そんな事気にしないでください。

 


マナ:ここまで鈍感ってのも凄いかも・・・。

アスカ:あの碇司令に諭されてる様じゃねぇ。(ーー;

マナ:碇司令もお父さんらしくなったわね。

アスカ:きっと、リツコのおかげでしょうね。

マナ:赤木博士も幸せになれて良かったじゃない。

アスカ:でもねぇ。髪を黒くしてから、なーんかイメージがねぇ。

マナ:あらぁ。黒髪って綺麗じゃない。

アスカ:そうは思うけど、リツコって感じがしなくてっさ。

マナ:赤毛混じりの金髪よりずっとマシよぉ。

アスカ:リツコに赤い毛なんて混ってなかっけどっ!!!!(ーー#

マナ:そりゅあそうよねぇ。赤毛なんて、ダッサイもんねぇ。

アスカ:(ブチっ!)

マナ:はっ! やばいっ! いつもいつも殴られてちゃたまんないわっ! さよならっ!(ぴゅっ!)

アスカ:あーーーっ! まてーーーーっ!
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