僕は本当にバカだった。

 

自分の気持ちなのに。

他の誰でも無い、僕の気持ちなのに。

 

その気持ちの事も満足に分かってなかった。

 

こんなにもキミを好きでいる自分に。

こんなにもキミを抱き締めたいと思っている自分に。

こんなにもキミを独占したいと思っている自分に。

 

どうして気付かなかったんだろう。

 

………だから、キミを傷付けた。

 

でも、もう決めたんだ。

絶対にキミを傷付けたりしない。

絶対にキミを独りにしたりしない。

 

どんなに辛い事があっても。

どんなに悲しい事があっても。

どんなに苦しい事があっても。

 

ずっと、キミのそばにいる。

 

悲しい時には、僕がなぐさめてあげる。

楽しい時には、一緒に笑ってあげる。

僕はずっと、ここにいる。

もう、どこにも行かない。

 

だって………。

僕は、アスカの事が本当に好きみたいだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

やさしい風の吹き抜ける、その場所で

Act.10 『風の辿り着く場所』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【葛城家、シンジが泊まりに行ったので、誰もいないはずのキッチン】

そう、シンジが碇家に泊まるという事はこの時間、ここには誰もいないはずだ。

だが、そのキッチンで朝食を作っている人物がいる。

かなりの手際の良さ、この葛城家にはここまでの事が出来るのは彼しかいない。

いるはずのない人間、碇シンジだ。

 

「う〜ん、大根がいいかなぁ………」

 

どうやら、味噌汁の具の事らしい。

本当は朝食を作る予定ではなかったので、冷蔵庫にある物で作らなくてはならない。

むしろ、そこから食べられる物を作れるというのが、料理の上手な人という事になる。

とどのつまり、シンジは料理が上手なのだ。

 

その味噌汁の匂いにつられて、部屋からミサトが出てきた。

寝ぼけ眼で、シンジを見ると、ぎょっとした顔になる。

 

「シンちゃんがどうしているの?」

「あっ、ミサトさんおはようございます。

朝ご飯出来るまで時間ありますから、アスカを起こして来てくれますか?」

「……分かったわ」

 

ミサトはこれ以上詮索しても無駄だと気付き、素直にアスカを起こしに行く。

ただ、シンジの目。あれは開き直ったような目じゃなかった。

言うなれば、何かから開放されたような、そんな感じ。

 

(信用していいのよね、シンジくん?)

 

ミサトはアスカを想う。

自分の大切な妹。

泣きたいのに、泣かない娘。

 

「入るわよ、アスカ」

 

まだ寝ているだろうが、一応断って部屋に入る。

案の定、アスカはベッドの中だった。

 

「アスカ、朝よ」

「………ん」

 

その時、ミサトは気付いてしまった。

アスカの枕が濡れている事に。

 

(泣いてたの、アスカ?)

 

「………やだよぉ……」

「んっ?」

「……しんじぃ……おいてかないでぇ……」

 

まるで、迷子になった子供が親を探しているかのようだった。

それほどまでに、弱々しく、悲しげだった。

 

 

 

数十分後、シンジとアスカは無言のまま学校へと向かった。

 

 

 

 

 

【三年A組の教室内、アスカの机】

アスカはここ最近、ぼーっとして過ごす事が多くなった。

ヒカリは心配して、話し掛けるのだが、返事はあまり芳しくない。

アスカとしては、普段の自分を装っているつもりだったが、全くの失敗だった。

彼女の瞳が光を取り戻すには、黒髪の少年の言葉しかないのだ。

ヒカリはそう確信していた。

 

(今日こそ、碇くんに聞いてみなくちゃ。何があったか)

 

「あっ、洞木さん、ちょっといい?」

「えっ、碇くん?」

「いいかな?」

「え、ええ」

 

ここ数日間、おかしかったのは何もアスカだけではない。

シンジもどこかおかしかった。

でも、今日のシンジは違う。

前にも増して、大人びて見えた。

何か、一皮剥けたように………。

 

「あのさ、一つ頼みたい事があるんだけど………」

「何?」

「今日の放課後にさ、アスカを………に呼んで欲しいんだ」

「………に?…………碇くん、私の目を見て?」

「んっ?」

 

ヒカリがそう言うと、シンジは優しげな、かつ強い意志を持った目をそちらに向けた。

それは以前、自分を病室のドアから退けた強い意志の光。

何事にも打ち負けない鉄の信念。

自分の親友はこの瞳を見てこの人を好きになったのだろうと、彼女は思う。

そして、分かる気がするなあ、とも。

 

「……分かったわ。頼まれてあげる」

「良かったぁ〜」

「ただしっ!……一つ、条件があるわ」

「………言わなくてもいいよ、分かってるから。

 ………明日にはいつものアスカに戻してみせる。約束するよ」

「『信用』して、いいのよね?」

「僕としては、『信頼』してほしい」

「………お願い。アスカを、よろしく」

「言われるまでもないよ。それに、これは自分自身のためでもあるんだから」

「自分自身?」

「そう、アスカを好きな気持ち。それを伝えるのは、僕の願いだもの」

「………碇くん」

「それじゃ、よろしく」

 

シンジは少し、微笑むと自分の席へと帰っていった。

彼の手は、何かを決断した時と同じく、強く握られていた。

彼の強い意志が込められているかのように………。

 

 

 

 

 

【放課後、全ての始まりにして、おそらくは終わりになる場所】

夕焼けに包まれた街。

赤く染まるアスファルト。

何度も通った坂道。

お気に入りの場所。

……今は、見たくない場所。

 

アスカはそこにいた。

おそらくは全ての始まり。

少年にほのかな想いを抱いた場所。

素直になろうと決めた場所。

そして………。

そして、今、何をしにここに来ているのだろう。

どこか、もの寂しげな風が彼女を包む。

 

「何、してるのかな………あたし」

 

そうして、彼女は街を見渡せるこの場所。

高台の公園にやって来ていた。

 

「ヒカリ?」

 

アスカは約束したはずの親友の名を呼ぶ。

彼女が約束を破るはずはない。

遅れるなら、電話ぐらいよこすはずだ。

 

「……洞木さんなら来ないよ」

「!!」

「………アスカ、話がある」

「……しんじ」

 

確かに、彼女は約束を破らなかった。

シンジとの約束を……。

 

 

 

アスカはもう嫌だった。

少年の事が好きで好きで堪らないが故に、少年の声が聞きたくなかった。

少年の口から、自分を傷付ける言葉が出てくるのが嫌だった。

好きだから。

本当に大好きな人だから。

その人をこれ以上、嫌いになりたくなかった。

 

「アスカ」

「来ないでっ!!」

「僕の話を聞いて」

「話なんか、聞きたくないっ!!」

 

アスカは走り出していた。

耳を塞ぎ、目を瞑り、五感全てを閉じてしまうかのように。

でも、そんな事は出来ない。

彼女を包む光があるから。

いつもいつも、彼女には暖かい、やさしい風を運んでくれる人がいるから。

そう、彼女の手をシンジは強く握り締めていた。

 

「離してよぉっ!!」

「………嫌だっ!」

「アタシはアンタの話なんか聞きたくないっ!!」

「………絶対に離さないっ!!」

「お願い、だからぁ……。もう嫌なのぉ……」

 

そのままアスカは俯く。

こうしていたら、また彼に甘えてしまいそうで。

それを望んでいる自分がいて。

それを嫌がる自分がいて。

 

「僕はもう、この手を離さない!ずっと、離すつもりはない!!」

「えっ?」

 

アスカはシンジの言った言葉を聞いて、顔を上げる。

彼の目は強い意志を持って、アスカを貫いていた。

それと同時に、やさしい風も彼女の体を吹き抜けていく。

 

「僕は、アスカが他の男の隣にいるのを見たくない!

 他の男に笑いかける姿を見たくない!

 他の男と手を繋いでいるのを見たくない!

 他の男とキスをするなんて考えたくもないっ!!

 ……だから、この手は離さない。ずっと、アスカは僕のそばにいさせる。

 僕の事だけを見させる。もう、どこにも行かせない」

「シン……ジ?」

「僕はキミの事が好きだ。言葉だけじゃ足りないくらい」

「………ほんと?」

「嘘なんかであんな事を言えるほど、僕は器用な人間じゃないから。

………それくらい、キミだって知ってるだろ?」

「……しんじていいよね?」

「うん。待たせてごめん」

 

シンジはそう言うと、思い切りアスカを抱き締める。

折れてしまいそうなほどにきつく、強く。

自分がここにいる事を示したいから。

アスカがここにいる事を確かめたいから。

 

「シンジ、大好きだよぉ………」

「うん、僕も。ずっとね、こうしたかったんだよ、多分」

「アタシもね、ずっとこうしてほしかったんだよ。ずっと、ずっと……」

「待たせすぎちゃったかな………」

「大遅刻よ。けど、許してあげる。アタシのバカシンジだけの特別なんだから」

「ありがと。僕はね、アスカがいてくれてよかったと思う」

「うん。アタシもシンジがいてくれてよかったと思ってるよ」

 

そう言って、アスカは静かに目を閉じる。

しばし、シンジはぼけっとしていたが、その行為を意味を感じ取ると、とたんに動揺した。

アスカは目を瞑っていても、彼の動揺を感じ取る事ができた。

 

(シンジったらおかしい。さっき、アタシに言った言葉の方がよっぽど恥ずかしいのに。

 やっぱり、コイツは鈍感で、どこか抜けてて、バカなほどお人よしで、

 アタシをいつも暖かい気持ちにしてくれる、アタシだけのバカシンジだ………)

 

アスカは少しだけ目を開けると、シンジを見る。

シンジは予想通り、あたふたしていた。

 

「………キス」

「いや、でも、その……」

「シンジがアタシを好きでいてくれる証拠がほしいの」

「アスカ………」

「だから………キス」

「……………うん」

 

シンジは何か、吹っ切れたように真剣な目になると、アスカの頬に手を触れる。

そして、そのまま唇を重ねた。

言葉だけでは足りないから。

触れ合うだけでは伝わらないから。

抱き締めるだけでは届かないから。

だから、唇を合わせる。

僕の気持ちが届きますように。

アタシの気持ちが届きますように。

二人の心が通じ合いますように………。

 

夕焼けが支配する、高台の公園。

そこには二人の影が真っ直ぐ伸びていた。

そして、そこには光の粒子が舞い散る。

祝福するように、二人を囲む。

当然、二人にその光は見えない。

ただ、やさしい風を、その身に感じるだけ。

 

そして、その風が二人を吹き抜けた、その時。

光の粒子はすぅっと消えていった。

自分の居場所を見つけたかのように。

 

 

 

そう、この公園は今日、この日に生まれた恋人たちの始まりの場所。

そして………。

 

 

 

 

 

やさしい風が吹き抜ける……。

その、やさしい風の辿り着く場所。

 

 

 

風はいつも、彼らを見守っている。

いつまでも、ずっと、ずっと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ホントの後書き>

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この、『やさしい風の吹き抜ける、その場所で』はこれでひとまずの完結です。

本当は書きたいことがいっぱいあるのですが、

ここで書いてしまうと蛇足になってしまいますので、やめておきます。

 

初の連載という事で、やる気がある反面、技術が着いて行かずに辛い思いもしました。

今でも、自分の言いたい事が伝わったか、心配でなりません。

僕としては、言いたい事の半分でも、読んだ人に感じてもらえればいいと思います。

それこそが、物書きをする人間の喜びなのですから。

 

一応、これからの予定を申しますと、何も考えておりません。

他のページでは連載を始めてはいますが、このページでは少しの休みをください。

連載を書くにはネタがありません。

メールで催促してもらえれば、これの後日談や外伝なども書くつもりではいます。

……なぜか、ケンスケの話を希望する人が多いのが気になりますが。

 

それでは、しばしのお別れを……。

ディッチでした………。

 


マナ:アスカばっかりいい想いしてーーーっ。(ーー)

アスカ:そうでも無いわよぉ?

マナ:どこがよっ! いいことばっかりじゃないっ!

アスカ:最初の方、かなり悩んでたんだからぁ。

マナ:悩んだって、最後はラブラブになってるしぃぃ。(ーー)

アスカ:わはははははははっ!(^O^v

マナ:笑うなーーーーっ!

アスカ:最高のエンディングよねぇっ!

マナ:わたしなんか、出番も無いじゃなーいっ。

アスカ:最終回に邪魔物はいらないのーっ!

マナ:邪魔ってことないでしょーっ!

アスカ:だって、邪魔なんだもん。

マナ:むーーーっ! いいわよいいわよっ! こうなったら、とことん邪魔してやるーーっ!

アスカ:ちょ、ちょっと・・・(@@

マナ:横恋慕マナちゃんっ! 燃えてきたーーーっ!

アスカ:よけいなものに火をつけちゃったかも・・・。(−−;;;
作者"ディッチ"様へのメール/小説の感想はこちら。
cdn50010@par.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system