人を好きになるのに時間は関係ない。

 

ボクはその言葉を実感した。

自分の身で、それを証明する事になったから。

初恋。

多分、そう呼ばれる物。

 

それからのボクは、自分で考えても凄いと思うぐらい積極的だった。

今思い出すと、恥ずかしい事もいっぱいしたような気がする。

でも、平気。

それは全部、ボクがあの人の事を好きだっていう気持ち。

だから、間違った事はしていないつもり。

 

言わなくても、伝わる事はあるかもしれない。

言わないで、伝わった方がいいかもしれない。

けれど、思うだけでは伝わらない事だってある。

どんなに心の中で強く想ったって、伝わらない時がある。

 

そんな時は…………。

 

そんな時は、

言葉にして、

態度にして、

外に出さなくちゃ、何にも伝わらない。

 

だから、ボクのした事は間違ってない。

 

好きだって気持ちを、言葉で、態度で伝えてる。

どれだけ好きなのか、知って欲しいから。

どれだけ本気なのか、知って欲しいから。

どれだけ想っているか、知って欲しいから。

 

だから、ボクは示し続ける。

 

 

 

 

 

そこんトコ、分かってるのかなぁ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

やさしい風の吹き抜ける、その場所で 外伝

実らないなら、もう一度

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第三新東京市立第壱中学校一年A組の教室内】

その教室は、一年の名物娘が在籍しているクラス。

そこから、一際大きな声が聞こえてくる。

もちろん、洞木ノゾミ嬢だ。

今日も名物娘振りは健在のようである。

 

「えぇーーーっ!!それってホント、アキちゃんっ!?」

「ええ、そういった話があるという意味では本当です」

「ど、どうしよう……。ボクって、ケンスケさんが初恋だよぉ………」

「残念でしたね………」

「わっ、ホントに残念そうにしないでよぉっ!!」

 

『恋の暴走機関車』

これが彼女のニックネームである。

もちろん、本人未公認ではあるが。

それに律儀に付き合うのは、鈴原アキ。

苗字を見て分かっていただけると思うが、鈴原トウジの実妹である。

 

「まあ、言い伝えですから、気にしない方がいいですよ」

「でも、ケンスケさんの方は気にするかも………」

「それはありません。

相田先輩はノゾミちゃんに対して、恋愛感情すら抱いていませんから」

「ひぐぅ、そんなに断言しなくても………」

「百歩譲って、可愛い妹というところですね。

『可愛い』の部分には異論の余地がありますけど………」

「………酷いよ、アキちゃん」

 

さっきから、二人が相談している事とは何であろうか。

少し、時間を遡ってみよう。

 

 

 

 

 

【少し前】

ノゾミは親友であり、尊敬するべき人物であるアキの机の前にいた。

尊敬するべき点とは、自分と違って落ち着いているところである。

さもありなん。

 

「アキちゃん、ただいま〜」

「また、相田先輩の所に行って来たんですか?」

「うんっ!そうだよぉ〜」

「時に、ノゾミちゃん。相田先輩が初恋なんですか?」

「えっ、何でそんな事、聞くの?」

「それじゃあ、説明しましょうか。初恋は実らないって、知ってましたか?」

 

ここで、冒頭の場面に戻るわけだ。

回想終了。

 

 

 

 

 

「ひぐぅ、どうしよう………」

「そこまで気にする必要はないと思いますけどね」

「だって、ボクはケンスケさんが初恋なんだよっ!?一大事だよっ!!」

「ただ、そんな言い伝えがあるというだけで………」

「そんな事言ったって、『火の無い所に煙は立たない』だよっ!!」

「普段は難しい言葉を使わないのに、こういう時だけは使いますね」

「わぁ〜、どうしよぉ〜、どうしよぉ〜」

 

ノゾミは頭を抱え始めた。

別に気にしなければいいのだが、彼女の場合はそうも行かなかった。

恋愛以外でならば、気にしないでいる事など、簡単な事だった。

だが、恋愛になると話は別だ。

なまじ恋愛経験がないだけ、不安になってしまうのだ。

しまいには、涙ぐんでいた。

 

「アキちゃぁ〜ん」

「私に何か期待してるんですか?」

「何か考えてよ〜。その頭はかぼちゃじゃないんでしょぉ〜?」

「そんな事言う人、嫌いです。あなたこそかぼちゃじゃないなら、考えてください」

「ひぐぅ、出来たらしてるよぉ〜」

「それじゃあ、かぼちゃですね?」

「ひぐぅ………」

 

そういうアキにも名案らしい名案はなかった。

本当はこんなにムキになって考える事ではないはずだ。

それでも、ノゾミと一緒にいると巻き込まれてしまう。

だが、嫌じゃなかった。

むしろ、楽しいのだ。彼女といると。

そう思えるから、この二人は親友なんだろう。

 

「あっ!」

「どうしたんです?」

「いい事、思いついちゃったよっ!!」

 

その時のノゾミは、誰もが見惚れる程、綺麗な笑顔だった。

それほどまでに会心のアイデアが浮かんだんだろう。

同姓のアキですら、ぼぅっとしてしまうような笑顔だったのだから。

 

 

 

 

 

【放課後、校門前】

この頃のケンスケはここで立っている事が日課になっていた。

理由は簡単。

ノゾミが来るから。

なんだかんだ言っても、楽しいのである。ケンスケも。

本人に言えば、そんなわけないと一蹴されてしまうであろうが。

 

「ケンスケさぁ〜〜んっ!!」

「おう、ここだ」

「あのね、今日は行きたいトコがあるんだけど、一緒に来てくれる?」

「………別にいいけど?」

 

ケンスケはノゾミに手を引かれて、なすがままになっていた。

ノゾミの様子が少し変なのには気付いたが、そのままにしておいた。

本当に困った時には相談して来るだろう、というのがケンスケの気持ちである。

そうなるまでは、自分は干渉するべきではない、と。

 

 

 

 

 

【このシリーズでは定番となりつつある、高台の公園】

ノゾミは姉であるヒカリからこの場所は聞き及んでいた。

ケンスケもシンジやトウジから、この場所の事は聞いていた。

決意をする場所。

想いを伝える場所。

そんな場所らしい。

 

(俺とノゾミには似合わんだろ、ここは)

 

それが彼自身、偽りの無い気持ちだ。

そもそも自分にはシリアスは似合わないし、ノゾミにしたってそうだ。

それくらい分かってるだろうに、何なんだろう。ケンスケは思う。

 

「ケンスケさん、ここの事知ってる?」

「まあな、ここでシンジが惣流に告白したんだろ?」

「うん、そうらしいね。ヒカリ姉もここで告白するつもりだったんだって」

「……だけど、しなかったんだろ?それに、トウジもな」

「うん、それでもヒカリ姉は良かったって言ってた」

「委員長がそう言うなら、そうなんだろうな」

「うん………」

 

ここに来て、ノゾミの異常さは顕著になってきた。

大人しすぎるのだ。

どうもおかしい。

 

「おい、ノゾミ。お前、どうした?」

「えっ?」

「元気ねぇじゃねぇか。何か、あったか?」

「えっとね、今日はここで言いたい事があるんだよぉ〜」

「はぁっ?まさか告白じゃねぇだろうな?

お前の求愛なら死ぬほど聞いてるからもういいぞ」

「違うんだよ。一つ、頼み事があって来たんだよ」

「何だ、頼みって?内容によっては叶えてやらん事もない事もないかもしれない」

「叶える気ないでしょ?」

「………そんな事はないぞ」

「………うそつき」

 

ノゾミは一旦顔を下げて、もう一度上げる。

そして、ケンスケの顔を直視した。

その瞳には決意の色が見て取れた。

 

「ボクの願いは………」

「………おう」

「………ボクをふってください」

「………」

「………」

「はぁっ?」

「聞こえなかったの?」

「いや、聞こえた」

「それじゃ、分かるよね?ケンスケさん、ボクをふって」

「何故に?………というか、付き合った覚えもないけどな」

「ふったら教えてあげる」

 

ノゾミはそう言って、にっこり微笑む。

ケンスケにしてみれば、何を言っているかさっぱり分からない。

ただ、悲壮な覚悟で言った。というわけではなさそうだ。

 

「分かった。これからふってやるから、心して聞けよっ!」

「うんっ」

「え〜、私、相田ケンスケは一身上の都合から、洞木ノゾミをふる事をここに宣言する」

「何かよく分からないけど、結果オッケーだよ」

「それで、これに何の意味があるんだ?」

「あ、その前にやる事があるんだよ」

「何だ?」

「ボクはふられて、ケンスケさんを一度諦めたけど、また好きになりましたっ!終わり」

「何だ、そりゃ?」

「初恋は実らないんだよ」

「はしょりすぎだ。もうちょっと詳しく話せ」

「ケンスケさんはボクの初恋なの。

けど、一度ふられて、もう一度好きになったら初恋じゃなくなるもん」

「つまり、そのために俺にあんな事を言わせたってのか?」

「そうだよ。これで、ケンスケさんはボクの初恋の人じゃなくなったよぉ〜」

「そんな事か、馬鹿らしい………」

「ひどぉ〜いっ!これでも、ボクは真面目に言ってるんだよっ!!」

「そんな事は分かってる。だから、バカなんだ」

「ひぐぅ、酷いよぉ………」

 

ケンスケは心底呆れたように、公園から立ち去ろうとする。

ノゾミもそれを見て、慌てて追いつく。

彼女は追いつくと、ケンスケの顔を見た。

 

「ねえ、ケンスケさん」

「何だよ」

「もしも………もしもだよ?」

「ああ、どうした?」

「もしも、あんな事をする前に、

ケンスケさんがボクの初恋の相手だって知ってたら、どうしてた?」

「………決まってるだろ?」

「気に…………しないの?」

「ちげぇよ」

「それじゃ、どうするの?」

「取り消してもらうんだよ」

「………何を?」

 

ノゾミはきょとんとして、ケンスケを見る。

どうやら、今の答えの意味が分からなかったようだ。

 

(結構、恥ずかしいんだけどな………)

 

ケンスケは少し先を行くと、恥ずかしさを隠すため、ノゾミに背を向けながら答えた。

 

「お前の初恋の相手が俺だって事をだ」

 

ケンスケはそのまま、スタスタと歩いて行く。

ノゾミはケンスケの言った意味が未だ分かっていなかった。

 

(初恋の相手がケンスケさんだって事を取り消すって事は………あーーーーっ!!)

 

その瞬間、ノゾミの顔が真っ赤になる。

やっと、ケンスケが言った意味が頭に到達したらしい。

顔は真っ赤だったが、とても幸せそうに笑う。

世の中で一番幸せな人のようだ。

実際、ノゾミに聞いたら、世界一幸せだよ。と答えるに決まっているが。

 

「嬉しいよっ!!」

「うわっ!抱きつくなっ!!」

「えへへ〜、ドキドキするでしょ〜?」

「お前の薄い胸じゃ欲情せんと言うとろうがぁっ!!」

「え〜、酷いよ〜」

「があぁーーっ!!離れろぉーーっ!!」

「『ノゾミちゃんの胸の柔らかさで欲情しました』って言うまで、離れてやんないもんっ!」

「そんな事言えるかぁっ!!」

「にゃはは〜」

 

確かに、胸には興奮していなかったケンスケだったが、

ノゾミの髪から漂うシャンプーの匂いに女の子である事を感じて、

ドキドキしてますとは言えなかった。

 

 

 

洞木ノゾミの『二度目』の恋はこれから始まる。

 

 

 

「離れろぉ〜」

「えへへ〜。一生、離れてあげないんだからぁ〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わりだよぉ〜

 

 

 

 

 

<後書きですよ>

【やさしい風の吹き抜ける、その場所で】外伝、第一弾(って、まだやんのかいっ!?)

『実らないなら、もう一度』お送りしました。

皆さんのご期待に添える事が出来ましたでしょうか?

 

反響が大きかったこのケンスケ・ノゾミペアの恋物語です。

一途なノゾミちゃんは可愛いと思います。

まあ、ケンスケの出番が少なかったような気はしますけど、問題ないでしょう。

あと、鈴原アキちゃん、本シリーズ初出演です。

やたら、丁寧な口調で何気に毒舌という設定です。

ちょっとキャラクターが固まってないので、変かもしれません。

そこは鮮やかに流してくださいまし。

 

第一弾とか言ってますけど、さすがにもう話が思いつきませんねぇ。

色々と連載を抱えてしまってるんで、気長にやっていこうと思います。

リクエストなんかありましたら、メールでどうぞ。

詳しいシュチュエーションなんかも書いてくれると嬉しいです。

何でも他力本願なディッチでした。

 


マナ:ここまできたら完全にお熱ねぇ。

アスカ:ヒカリも大変だわ。

アナ:あの様子だったら、家で相田くんのことばかり言ってるんじゃない?

アスカ:付き合うことにでもなったら、どうなるか楽しみね。

マナ:きっと、毎日ノロケ話の連発間違いなしよ。

アスカ:ヒカリ・・・耐えるのよ・・・。(^^;

マナ:それよりさぁ。

アスカ:ん?

マナ:これでさ、本当に相田くんって初恋の相手じゃなくなったの?

アスカ:ンなわけないでしょ。(^^;

マナ:ま、本人が納得してるんだから、いいのかもしれないけどね。

アスカ:そうよっ! 自分が良けりゃ全て良しよっ!

マナ:・・・・・・。それはあなただけでしょ・・・。(ーー)
作者"ディッチ"様へのメール/小説の感想はこちら。
cdn50010@par.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system