お母さんが入院した。

 

お父さんは私が小さい頃に死んじゃったから、私は一人。

凄く寂しかった。

どうしたらいいか、分からなくなった。

それでも、悲しそうな顔をしたらお母さんが悲しむから、お見舞いの時は無理して笑った。

………辛かった。

 

でも、私にはいつも元気付けてくれる人がいた。

 

その人はお見舞いの帰り道、いつも私の前に現れる。

仕草はそっけないけど、凄く優しい。

他の人には分からないだろうけど、私には分かる。

『幼馴染み』だから。

 

だけど、あの人が一番苦しんでいた時、私にはどうする事も出来なかった。

 

 

 

ねえ、シンジくん。

私はあの時、どうしたら良かったのかなぁ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

第4話 『学校へ行こうっ!〜前編〜』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【学校へ向かう道の途中】

シンジもレイも年齢から言って、高校生。

つまり、学校には行かなくてはいけないわけで…。

今、二人は高校に向かっていた。

………それはもう、短距離走のようなスピードで。

 

「だぁーーーっ!どうして転校初日から走らにゃならんのだぁーーーっ!!」

「………お兄ちゃんがお寝坊さんだから」

「あの目覚し時計で起きられるかっ!」

「………変える?」

「他にあるのか?」

「………無い」

「どうしようもないだろうが」

 

シンジはまだ『あの』目覚ましを使っていた。

あれで起きるという方が無理というものだ。

それが原因で、今日は遅刻ギリギリになっているのだ。

 

「それにしてもだなぁ………」

「……何?」

「変、いや……妙な制服だな」

「……そんな事ないわ。人気、あるもの」

「まあ、女の子という人種はそういった物を好むんだろうが……」

「……男子の制服もカッコいいと思うわ」

「いや、カッコ悪くはないと思うが、男はあまり制服にはこだわらないからな。

 女子は制服で学校を選んだりするらしいけど」

「……実際、そう言う理由でウチの学校を選ぶ人は多いらしいわ」

「男でそんな奴はいないだろうな……つーか、いない事を祈る」

 

シンジが今日、三学期の始業式から通う高校の制服は妙に力が入っている。

レイが着ている女子の制服は、深い赤のワンピースの上から白いケープに大きなリボン。

ケープのリボンの色は学年カラーで、彼女は一年だから緑色だ。

指定のソックスなどは無いが、レイは黒のオーバーニーソックスをはいている。

実はこの姿を見た時にドキっとしてしまったのは、シンジだけの秘密だ。

 

シンジが着ている男子の制服は、黒のタートルネックのインナーに白のワイシャツ。

その上から青の上着を着て、下は普通の黒のズボンだ。

寒がりだからというわけではないが、彼はその上からマフラーと黒のコートを着ている。

初めて袖を通したというのに、ここまで着こなすのは彼の天性の才能だろう。

 

「レイ、学校までどれくらいだ?」

「……あと、十分ぐらい。このスピードで行けば」

「ギリギリか。転校生は職員室に行かねばならんというのに……」

「……職員室は下駄箱から入って、右に行けば着くわ」

「相変わらず、マイペースだな………」

「……クラスに行ったら、驚くと思うわ」

「何でだ?転校生いじめで、カツアゲでもされるのか?」

「……知らない。私、三人目だから」

「また逃げたな……」

 

レイはそれきり、前を向いて何も喋らなくなった。

ただ、シンジには、その口元に微かに笑みを見た。

普通の人が見れば、カワイイと思うだろうが、彼は彼女の兄である。

その笑みがどれだけ危険な物か知っている。

何かを企んでいるに違いない。

そんなトコだけ、父さんに似なくてもいいだろうに。シンジは思う。

彼の学校へと向かう足は、より一層重くなって行った。

 

 

 

 

 

【二年A組の教室】

新学期も始まり、教室内はざわざわと騒がしい。

その中で、数人のグループが輪を作って話していた。

どうやら、眼鏡をかけた少年が何か話しているらしい。

 

「へ〜、この時期に珍しいね〜」

「ああ、そうやな。もう来年は受験やし、大変やなぁ、そいつ」

「そうね。結構大変よね、勉強も進みが違うでしょうし……」

「それよりも、性別がどちらか調べられなかったのは残念だ」

「別にどっちでもいいやんけ……」

「馬鹿か、トウジ。それは大きな違いなんだぞ?

 それに、突然の転校生は美少女と相場が決まってるんだっ!!」

「そうなんだ、初耳〜」

「……んなわけないやろ」

 

どうやら、このクラスに転校生が来るという事らしい。

このグループは四人。

なかなかの個性の集まりだ。

会話を傍観している感のあった、少しウェーブがかった茶色味のある黒髪の少女は、

すくっと立ち上がり、熱弁を振るっていた眼鏡の少年にいやぁ〜なプレッシャーをかける。

 

「……相田くん?」

「な、なんでしょうか、委員長」

「………美少女でなくちゃいけないわけ?」

「あはは……」

「別に、あなたが誰を好きになろうと私には関係ないけど……」

「は、はひっ」

「……ノゾミを泣かせたら容赦しないわよ」

「そ、それは分かっております、はいっ」

「……そう、それならいいわ」

 

少女の体から発せられる嫌なプレッシャーが掻き消える。

少年はそのまま椅子にだぁーと脱力する。

 

「ケンスケ、お前もこりんやっちゃな」

「………うるさい。お前には男の浪漫という物が分からんのだ」

「普段のイインチョは優しいけど、ノゾミちゃんが絡んだ時はどうなるか、

お前かて充分、分かっとるやろ?」

「……ふっ、男という生き物は常に浪漫を追い求めるものなのだ。

 そのためには、分かっていても分かってはいけない時という物があるのだっ!」

「ワイにはよう分からん………」

 

短髪の少年が心底呆れたように、溜め息を一つ吐くと、

窓から見える職員用の駐車場に一台の青い自動車が飛び込んで来る。

 

「わっ、ミサト先生、今日も派手な登場だね〜」

「そうね……。そして、今日も遅刻するってわけね」

「ミサトセンセ、今日も教頭から説教やな………」

「でも、転校生も来るし、始業式もあるし、説教はひとまずお預けなんじゃない?」

「マナ、意外と鋭いわね」

「ああ、意外や」

「よく分からないけど、もしかして二人ともひどい事言ってる?」

「そんなことないわよ」

「ああ、そんなことはないで」

「怪しいよ……」

 

鷲色の少し癖のあるショートヘアに、同じ色の瞳を持った少女が口を尖らせる。

少女をからかった二人は顔を見合わせ、苦笑する。

彼女はこういった子供っぽい仕草が、

男子どもに人気が出る原因になっている事に気付いていない。

それどころか、異性を認識しているかも怪しいところだ。

ただ、彼女の親友である、委員長と呼ばれた少女だけは、彼女の心を知っている。

異性を認識していないのではない。

ずっと昔から、ただ一人だけを一途に思い続けているのだ。この少女は。

 

「このボケボケ娘がそんな大恋愛をしてるなんて、誰も信じないでしょうね……」

「ふにゃ、ヒカリ、何か言った?」

「別に何でもないわ。ただの独り言」

「ふ〜ん、そうなんだ」

 

少女はまだ何も知らなかった。

再会の時は、すぐそばまでやって来ているのにも関わらず………。

 

 

 

 

 

【十数分後、同じく二年A組の教室】

このクラスの担任教師、葛城ミサトは教壇に出席簿を叩きつけた。

教室がうるさいためだ。

けして、遅刻の理由をうやむやにするためではないはずだ。

ただ、その顔はほんの少し引き攣っていた。

………教頭に釘を刺されたのかもしれない。

 

「はいはいっ!始業式に行く前に、転校生を紹介するわよーーっ!!」

「はーい、先生っ!男と女、どっちですかっ?」

「うーん、いい質問ねぇ。男子諸君には悪いけど、男よ」

 

一人の男子生徒、言うまでも無く、眼鏡をかけた相田ケンスケ少年だが、彼が質問する。

男だと知った途端、あちこちから溜め息が出る。

その一方で、女子はその瞳を輝かせていた。

つくづく、ノリのいいクラスである。

担任の影響だろうか?

 

「その代わりと言ってはなんだけど、とびっきりの美形よっ!喜べ、女子っ!!」

 

クラスの半分弱が歓声に包まれる。

男子の殆どはふて腐れている。

分かりやすい反応である。

ミサトはなんとか宥めると、教室のドアを開ける。

そのドアから入って来たのは、黒髪の少年、シンジだった。

 

 

 

先程、『マナ』と呼ばれていた少女は入って来た少年に目を奪われた。

別に一目惚れをしたとか、そういった事ではない。

少年の持つ雰囲気が、そっくりなのだ。

彼女が何年も待ち続けた、大好きな少年に。

 

(そんなはずないよ。シンジくんはこの街には戻って来ないはずだもん……)

 

少女は自分にそう言い聞かせるが、

少年の顔を見れば見るほど、疑惑は確信へと変わって行く。

シンジが黒板に名前を書いた時、少女は馬鹿みたいに口をぽかーんと開けていた。

人間、予想も出来ない事が立て続けに起こると、ぼけっとするしかなくなってしまうのだ。

これはそのいい例だろう。

 

「六分儀シンジです。よろしく」

「はいっ!皆、仲良くしてね〜」

 

ミサトがそう言うと、クラス中が喧騒に包まれる。

さしものシンジも、クラス中の視線を感じて、居心地が悪かった。

すると、ミサトは教室を見渡し、開いている席を探した。

気を利かせてケンスケが運んでおいた机が、マナの隣に置いてある。

 

「それじゃ、六分儀くんはあそこの席ね。霧島さん、仲良くして………って、どうしたの?」

「…………ぁ」

 

ミサトはマナの様子がおかしい事に気付き、呼びかけるが、返事が無い。

 

「霧島マナさぁ〜んっ!どうしたのかなぁ〜っ!!」

 

ミサトがマナのフルネームを言った所で、シンジはビクっとする。

どこかで聞き覚えのあった名前だったからだ。

 

(霧島マナ……?どこかで…………あぁーーーーーーーっ!!)

(六分儀って、確かゲンドウおじ様の旧姓じゃ………って事はっ!!)

 

シンジはマナを指差し、マナはシンジを指差す。

マナは既に席から立っていた。

 

「「あぁーーーーーーっ!!」」

「な、何よっ!?」

 

ミサトは事情が読み込めず、立ち尽くしていた。

他の生徒たちも同様である。

ただ、マナの親友たる洞木ヒカリだけは、どこか納得のいった顔をしていた。

ケンスケは何故か、カメラを回していた。

 

「マナがどうしてここにいるっ!?」

「シンジくんこそ、どうしてここにいるんだよっ!?」

「いちゃ、悪いか?」

「そ、そんな事は無いけど……」

「あのぉ……。二人とも、ここがどこか分かってるかしら……」

「「へっ?」」

 

二人はその言葉を聞き、冷静になった。

生徒たちは、シンジとマナの動向を伺っていた。

それはそれは興味津々で、目を輝かせていた。

 

「ぐあっ」

「ふにゃぁ……」

 

マナは顔を真っ赤にして、すとんと席に座り込む。

耳まで真っ赤で、マンガみたいに湯気まで出そうだ。

シンジはそれほど外見上は変わってないが、ばつが悪そうにしている。

ミサトはやっと本来の軽い性格が戻ってきたらしく、いやぁ〜な笑みを二人に向けている。

 

「ろ・く・ぶ・ん・ぎ・くぅ〜ん」

「………何でしょう?」

「私、二人の関係が知りたいなぁ〜って思っちゃったりするんだけど……」

「へぇ、知りたいですか?」

「うんうん。クラスの皆も知りたいはずよ。……ねっ?」

 

教室中で、うんうんと頷いている。

シンジもやっといつもの調子が出てきたようだ。

彼も軽さに関しては、ミサトにひけを取らない。

 

「そうか、仕方ないな………。マナ、いいよな?」

「えっ、あ、うん」

「俺とマナの関係は………」

「関係はっ!?」

 

シンジはその時、マナを見て、ニヤリと笑った。

マナは昔の事を思い出した。

彼は昔から、こういった時にとんでもない事を言い出すのだ。

 

「ただならぬ関係です」

「な、な、な、何、言ってるんだよぉーーーーーーーっ!!」

「「「「おおおおおぉぉーーーーーーっ!!!」」」」

 

始業式が始まる時間まで、この教室から歓声と叫び声と悲鳴が消える事はなかった。

 

その時、学校中に響き渡る大音響を聞きながら、

赤い瞳の少女が邪悪な笑みを浮かべていた事は言うまでも無い。

 

眼鏡の少年と短髪の少年、そして、委員長と呼ばれた少女はそろって窓の外を見る。

 

「平和だねぇ………」

「ホンマ、平和やなぁ………」

「平和っていいわねぇ………」

 

確かにその通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED………

 

 

 

 

 

<後書きplusα>

幼馴染み登場。

正体は鋼鉄少女、霧島マナちゃんでした。

まあ、予想できてた人も多いでしょう。

うがっ、アスカが出てませんね……。

次は出るはずです。

第4話 『学校へ行こうっ!』 お送りしました。

 

この話では珍しく伏線を殆ど張ってない回です、今回は。

まあ、題名前の部分にちょっとありますけどね。

大した事じゃないです。

………伏線張ってないと、後書きで書く事ありませんね。

次回予告はお休みです。

次はこれの中編か後編になる予定です。

 

ちなみに、制服に関しては女子は元ネタから。

男子のものは、あるマンガのものを引用しています。

前者は分かりやすいと思いますが、後者が分かった人はすごすぎます。

マイナーだと思います、多分。

 

あ、そうだ。

言っておきますと、これの元ネタに気付いてメールをくれた人が数人いるんですが、

最後は『アレ』とは一緒にはしないつもりです。

俺、あれで泣いたし……。

ちょっと変えて、明るい方向に行こうと思います。

別に元が暗いわけじゃないですけどね。

ま、あくまで予定です。

 

それでは、次も頑張りたいと思います。

ディッチでした。

 


マナ:やったーーーっ! とうとう来たわぁっ! ディッチさん、ありがとーーっ!(*^○^*)v

アスカ:アタシ・・・出てない・・・。

マナ:あなたは、もう用済みぃぃ。しっしぃぃぃーーーだぁっ!

アスカ:アンタなんか、ただの幼馴染みじゃないのよぉっ!

マナ:ただならぬ関係のねぇっ!(*^^*)

アスカ:ウソよっ! ウソよーーーーっ! そんなの絶対ウソよーーーーっ!

マナ:ほーら、見てみなさーい。シンジがちゃんと、そう言ってるじゃなーーーいっ!(^○^)v

アスカ:こ、この屈辱はっ! くやしーーーーっ!

マナ:とうとう、マナちゃんの努力が報われる時が来たのよーーーーっ!

アスカ:だ、大丈夫よっ!

マナ:なーにーがー?(^^)

アスカ:幼馴染みとは結ばれないってのが通説よっ!(ーOー)

マナ:あなたが、よくそんなこと言えるわね。(ーー;

アスカ:うぅぅぅ・・・。(TT)
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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