ふにゅ……。

シンジくんが帰って来て嬉しいけど、全然変わってないよ〜。

人をからかって楽しんでるし………。

 

あっ、こんな大事な事なのに、レイちゃん教えてくれなかったっ!

酷い〜、酷い〜。

 

でも………

昔みたいに明るいし、『あの事』吹っ切れたのかなぁ………。

忘れたなんて事は無いよね?

 

 

 

まあ、シンジくんが笑ってるから、いいよね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

第5話 『学校へ行こうっ!〜後編〜』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【放課後になり、舞台は再び二年A組の教室】

シンジはほとほと困り果てていた。

マナがずーっと怒って、こちらを睨んでくるのだ。

それは別に恐くない……というか、カワイイとも言えるのだが、

いかんせん、一言も口を聞いてくれないのだ。

 

「お〜い、マナ。何をそんなに怒ってるんだ〜?」

「………ぷいっ」

「『ぷいっ』って、お前……。口で言うやつはいないと思うぞ」

 

マナはシンジが話し掛けるために正面に来たため、首だけ横に向ける。

その時、効果音を自分で出していたのだ。

呆れるくらい、昔から進歩の無いやつ。シンジは思った。

…ともかく、どんな方法でもいいから、口を開かせなければならない。

折角、久しぶりに会った幼馴染みだ。

喧嘩をしていては面白くない。

 

「………お〜い、俺と『ただならぬ関係』な霧島マナさ〜ん」

「べ、別に、私とシンジくんは『ただならぬ関係』なんかじゃないよっ!」

「おー、やっと口聞いてくれた。それじゃ、俺とお前はどんな関係なんだ?」

「幼馴染みだよっ!」

「幼馴染みはただの関係じゃないだろ?じゃあ、俺の言った事は間違ってなかったな」

「うぅ〜、シンジなんて嫌いだもんっ!」

「ははっ、まあ、そう怒るなって」

「怒らせてるのは誰だよっ!?」

「俺じゃないぞ」

「シンジくんだよっ!!」

 

内心、単純なやつだと思いながら、

これ以上からかうと危険と判断したシンジは物で釣る事に決めた。

単純だからこそ、単純な手に引っかかりやすい。

…とまあ、そういうわけだ。

 

「まあ、そう怒るな。みたらし団子を食わせてやるから」

「許してあげるっ!」

「相変わらず、変わり身早いな……」

「みたらしっ、みたらしっ、お団子っ、お団子っ」

「そのワケのわからん歌も相変わらずだ……」

「私、おいしいお団子があるお店、知ってるよっ」

「ちなみに今日、行くのか?」

「当然だよっ!」

「そうか………」

 

みたらし団子はマナの好物だ。

『みたらし団子があれば、ご飯三杯はいけるよ〜』とは、彼女の談。

団子も元を正せば米なのだから、主食で主食を食べているような物だ。

シンジもその場面は見た事が無いので、事実かは分からない。

ただ、それほど好きだという事だ。

 

「あら、六分儀くん。太っ腹ね。私も奢ってもらおうかしら」

「ずるいで、イインチョ。ワシも団子、食いたいわ」

「もちろん、俺もごちそうになるぞ」

「誰も、お前らに奢ってやるとは言ってないっ!」

「えー、シンジくん、酷いよ……」

「俺か?俺が悪いのか!?」

 

シンジは得意のオーバーアクションで、天を仰ぐ。

セリフを付けるとするならば、『おーまいがっ』ってな感じだ。

シンジがこういう事をすると、何故か絵になる。

そのせいで転校前の学校では、『リアクション芸人』なる不名誉な称号を貰った事すらある。

 

「まあ、それは冗談だけど。一緒に行くのは構わないでしょ?」

「それは困る」

「何でよ?」

「これからマナを連れて、いかがわしい場所に連れ込むからだ」

「な、何言ってるんだよっ!!」

「もちろん冗談だ」

「性質が悪すぎるよ〜」

「……もうそれくらいにせぇへんか?」

「ああ、俺もそう思ってたトコだ。ナイスだぞ、トウジ」

「自分でもそう思うとるんなら、自分で止めんかい………」

「止めたくても止められない時という物があるのだ、男にはっ!!」

「ケンスケが二人になったみたいや……」

「失敬なっ!眼鏡と一緒にするのは止めてもらおうっ!!」

「ぬぐっ!シンジ、貴様、俺に喧嘩を売ってるのかっ!?」

「ふっ、俺はお前に喧嘩を売るほど暇じゃないぞ」

「……シンジ、表に出ろ」

「寒いから、やだ」

「ぐぅーっ!」

「にひひ……」

 

いつの間にか仲良くなった三人とシンジ。

これはシンジの特技だ。

あらゆる環境に瞬時に溶け込む。

人間の環境適応能力の最たる物だ。

 

「そのくらいにしておきなさいよ。六分儀くん、あなたにお客さんよ」

「客?」

 

シンジはヒカリが指差す方を向く。

ドアの向こう、廊下にはレイが立っていた。

親しい者にしか分からない、いやぁ〜な笑みを浮かべながら。

シンジはレイがマナの事を知っていて黙っていた事を思い出し、猛烈に詰め寄った。

 

「………どうしたの?」

「どうしたもこうしたもあるかぁーーっ!お前、マナの事、黙ってただろっ!!」

「そうだよ、レイちゃんっ!酷いよ〜」

「……知らなかったわ」

「絶対に嘘だ。今朝、教室に行ったら驚くって言ってたじゃねぇかっ!

 こうなるのが分かってて、面白がってたんだろっ!!」

「酷い〜、鬼〜、悪魔〜」

「……そんなことはないわ」

 

詰め寄っても全く動じないレイを見て、シンジも追求を諦める。

レイの口からそれを聞けなくても、彼女が知っていた事は明白だ。

彼の隣では、マナがレイに向かって未だ文句をたれていたが。

 

「妹さん?」

「おう、そうだ。碇レイ。俺の妹」

「名字が違うって事は……」

「……両親が離婚してるから」

「そうやったんか」

「まあ、あのクソ親父に甲斐性が無かったって事だろ」

 

シンジもレイもさばさばとしたものである。

シンジは全く離婚に関しては疑問を持っていなかった。

そもそも、あの二人が結婚していた事自体、どこかおかしかったのだと、彼は思っている。

レイも同様だ。

 

「ところでレイ、お前何をしに来たんだ」

「……窓の外。校門の所に誰か、見えるでしょ?」

「校門?」

 

シンジがそう言われて、窓に近づいて外を見る。

彼に習って、他のメンバーも窓側に近づいて行った。

シンジの目に入ったのは、校門の所に佇む、一人の少女だった。

白い雪に覆われたこの景色に映える、紅茶色の髪。

間違いない。

 

「女の子がいるね〜」

「ホント、結構、薄着だけど大丈夫かしら……」

「結構、カワイイな。写真に撮りたいくらいだ」

「あっ、ウチの生徒に絡まれてるで」

「ナンパだな、ありゃ」

 

シンジ以外のメンバーが口々に感想を言っている中、

彼は頭をガラスに強く打ちつけていた。

…さすが、リアクション芸人。

 

「な、な、な、何やってんだ、あの馬鹿はぁーーーーーっ!!」

「……お兄ちゃん、どうする?」

「馬鹿かぁっ!ほっとけるわけねぇだろっ!!」

「あっ、シンジくん、鞄っ!」

「わりぃ、持ってきてくれっ!」

 

シンジはそう言うと、コートも半分、肩にかけたような状態で教室から飛び出す。

マナは自分の荷物と、シンジの鞄を持って、シンジを追いかける。

レイはそんな二人を眺めながら、少しだけ微笑んだ。

 

「なんや、シンジの知り合いなんかな、あの娘?」

「そうなんじゃないか?」

「私たちも追いかけましょ。六分儀くんに奢ってもらわなくちゃいけないし」

「…結構、イインチョもセコイんやな」

「失礼ね、主婦感覚が身に付いてると言ってよ」

「なあ、委員長。それって、高校生の女の子にとって、褒め言葉になるのか?」

「当たり前でしょ」

「ホンマ、イインチョはいい嫁さんになるわ………」

「………かもな」

 

普通の女子高生に『主婦感覚が身に付いてる』と言っても、

喜ばないだろうが、彼女にとっては最高の褒め言葉であるらしい。

ケンスケは普通に変わり者だと思ったが、

トウジは素で『いい嫁さんになる』と思ったらしい。

三人は並んで、歩きながら二人追い始めた。

 

 

 

 

 

【校門前】

今日は始業式だけのため、校門付近は大変混雑していた。

そこに、紅茶色の髪と蒼の瞳を持った少女、アスカはいた。

何をするでもなく、ただ一人の人物を待っていた。

理由は簡単。

つまらないから、暇潰しの相手が欲しい。

ただ、それだけ。

 

「………つまんないな」

 

校門の柱の部分に寄りかかると、一人呟く。

今日、彼女は初めてシンジと違う場所で過ごした。

初めてとは、彼女が碇家に来てからである。

つまり、彼女が記憶を失ってからという事でもある。

彼女の記憶の中には、シンジがいつも登場する。

その彼がいなくなっただけで、これだけつまらなくなるとは。

彼女自身、それを認めようとはしないであろうが。

 

「別にシンジを待ってるわけじゃないもん……」

 

意地っ張り。

天邪鬼。

本当にそうだ。

素直さのかけらもない。

…ある意味、素直とも言えるが。

 

「ねえ、どうしたのこんな所で?」

「暇なら、俺らと遊びに行かない?」

「はへっ?」

 

突然の出来事にアスカはパニックだった。

そもそも、シンジに対しては暴虐不尽な彼女だが、本来は人見知りをするタイプである。

それなのに、知りもしない人間から声を掛けられればパニックにもなるというものだ。

 

「ねえ、いいだろ?」

「………ぁぅ」

 

アスカは外見だけはいい(シンジ談)ので、黙っていれば美少女なのだ。

普通、ある程度の容姿を持っている人間なら、

この類の誘いを断る術も身に付けているものだが、彼女の場合は別格である。

なにせ、記憶がないのだから。

レイなどは、『……だめ、ラーメンが呼んでる』などとかわしてしまうだろうし、

ヒカリなどは、『いやよ』の一言でばっさりと切り捨ててしまうだろう。

マナ?……さあ?

 

「わりぃ、待ったか?」

「へっ?」

 

アスカが振り向くと、そこにはシンジが立っていた。

いつの間に着たのだろう。

コートはちゃんと両袖とも通っているし、首にはマフラーが掛けられていた。

どうやら、アスカがあうあうしている内に着たらしい。

 

「何だよ、彼氏待ちかよ……」

「おう、帰ろうぜ」

「ああ」

 

相手がいるとなれば話は別だ。

それに、シンジと比べて自分たちが勝っているとは思えない。

外見だけがいいのは、何もアスカだけではないのだ。

 

「シンジ……」

「この馬鹿が。なんで学校に来たんだよ?」

「だって暇なんだもん……」

「暇だからって……おい、母さんがいるだろうが」

「ユイママは買い物。だから暇だったのっ!」

「はぁ……。堪え性のないやつだな、お前は……」

「別にいいでしょっ!暇だから、付き合ってっ!!」

「やなこった。人に物を頼む時はもっと下手に出るべきだ」

「ううー、いいじゃないっ!シンジだって暇そうじゃないっ!!」

「そんな事はないぞ。俺は今から脅迫されて、みたらし団子を奢る予定になっているのだ」

「えっ、シンジ、誰かに脅迫されてるの?」

「ああ、血も涙もない凶悪犯によってな………」

「アンタも結構、修羅場をくぐってるのね………」

 

シンジとアスカがお互いに頷き合っていると、校舎の方から少女が歩いて来る。

二人の会話が聞こえていたらしく、『酷いよ〜』と言っているのが聞こえる。

 

「あれが今話した凶悪犯だ」

「とてもそうは見えないわね」

「アスカ、人を見た目で判断してはいけないぞ。あれがいい見本だ」

「そうなの?」

「ああ、奴はバイトもしていない俺のような貧乏学生を捕まえて、

みたらし団子を要求するとんでもない極悪人だ。

『守銭奴マナちゃん』と言えば、巷では有名な凶悪犯だぞ」

「ふーん、世知辛い世の中ね〜」

「まったくだ」

「………嘘、教えないで」

 

シンジはその声で振り返ると、すぐそばにマナが立っていた。

頬をぷっくりと膨らませて、体全体で不機嫌さを表していた。

 

「おう、どうした、『守銭奴マナちゃん』?」

「私はそんな名前じゃないよっ!」

「でも、俺にみたらし団子を要求している事は確かだ」

「要求なんてしてないよっ!シンジくん、嘘吐きだよっ!」

「そうよ、シンジは嘘吐きよっ!」

「頼むから、脈絡も無く話に入ってこないでくれ、アスカ」

「……あすか?」

「コイツの名前だ。惣流アスカ、姉ちゃんと同姓同名なんだぜ?」

「………」

 

マナはアスカを眺めると、記憶にあった彼女にとっても姉であった女性を思い浮かべる。

似ていた。

シンジよりも記憶が確かな分、鮮明に思い出す事が出来た。

髪と瞳の色を黒くしたら、瓜二つだ。

彼女の性格ではそれが不思議な事とは思わなかった。

ただ、一つだけはっきりした事がある。

今、目の前にいる少女は自分の敵だという事。

アスカお姉ちゃんは彼女にとって、信頼できる姉であったが、

同時にシンジを奪っていく最大の敵でもあったのだ。

だから、その女性に似ているこの少女は自分の敵なのだと、そう認識した。

 

マナはシンジを睨んでいた目をアスカに向けて、口を開く。

シンジもマナを意思を読めなかったようで、ぽかーんとしていた。

 

「アスカちゃんっ!」

「な、何よぅ………」

「あなたは、今日から私のライバルだからねっ!!」

「「はぁっ?」」

「シンジくん、みたらし団子を食べに行こっ!」

「い、いや、それはいいんだが、何なんだ、今のは?」

「ライバル宣言だよ」

「何のだ?」

「それは、乙女の秘密だよっ」

 

アスカは茫然自失で、その場に立っていたが、

シンジが行ってしまっているのに気付き、追いかけ始めた。

そのまた後ろには、三人が追いかけてきていたが、

暴走しだしていたマナの目には入らなかったらしい。

 

理由もないライバル宣言が、後に意味のある物になろうとは、

この時、誰が想像し得ただろうか…………。

 

実に恐ろしきは、女の勘という事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED………

 

 

 

 

 

<後書きplusα>

シンジくんの暴走で予想以上に話が膨らみました。

やはり、家では抑え役に回っているせいで、ストレスが溜まってるんでしょう。

アスカがちょい役ですね。

まあ、これでもヒロインですから大丈夫でしょう。

第5話 『学校へ行こうっ!〜後編〜』 お送りしました。

 

マナがアスカにライバル宣言をするには、ある事情があります。

小さい頃、アスカお姉ちゃんがいた頃ですね。

その頃、シンジがお姉ちゃんと遊ぶとマナはシンジと遊ぶ事ができなかったんです。

幼いながらも、嫉妬していたという事でしょうね。

それで、その人に似ているアスカを無条件で敵に指定したんです。

まあ、だからと言って、マナがアスカに危害を加える事はありませんが。

 

次はどうでしょうねぇ……。

とりあえず、信憑性30%ほどの次回予告、行ってみましょう。

 

 

 

シンジが転校してからしてから、数日が経った。

次第に新しい生活にも慣れてくる。

平和な生活の裏側で少しずつ近寄ってくる、破局への足音。

それは、悲しい物語のページがめくられる音なのかもしれない。

それを齎すのは、一人の悲しい目をした少女。

その瞳に映るのは何なのだろう………。

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

次回、第6話 『風は、哀しみを運ぶ』

「……あなたの……お知り合い、でしょうか?」

 

次はシリアス逆戻り。

うぅ、ギャグの方が楽なのに………。

 


マナ:なーんだか、わたしとシンジっていい雰囲気なんじゃない?

アスカ:アタシのいないとこで、何じゃれ合ってんのよっ!

マナ:アスカって、ちょい役なんでしょ? 出番少ないんだから仕方ないじゃない。(^^)

アスカ:ちがーーーうっ! たまたま今は、出番が少ないだけよっ!

マナ:宣戦布告しても、まだわかってないみたいだしぃ。今のうちに、押して押して押しまくれば。(^^v

アスカ:でも、次回からシリアスな展開らしいわよ。(^^)

マナ:それがどうしたのよ?

アスカ:シリアスといえば、きっとアタシがメインになるに決まってるじゃん。

マナ:そんなわけないでしょっ。

アスカ:みたらし団子のアンタには、シリアスは似合わないわっ!

マナ:むぅ・・・。そうよっ! きっと、巨大みたらしがわたしを襲ってくるのよっ!

アスカ:・・・・そこまで無理矢理な展開にしても、コメディーから抜け出せないのね。(哀)

マナ:むぅぅぅ・・・。(TT)
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