二人はお互いに愛し合っていた。

その二人には、障害は何も無かったはずなのだ。

 

……だが、状況はそれを許さない。

二人はそれぞれ、違う場所にその身を置かなくてならなくなる。

 

その別れの日。

少女は決心した。

体の距離が離れて、心の距離も離れてしまうのなら、

いっそ、ここでその繋がりを絶ってしまおう………と。

 

それは正しいのかもしれない。

何年かすれば、それもいい思い出になるのかもしれない。

 

でも……

 

でも、それは大人の理論であって、

思春期にあった彼らには彼らなりの理論なり、考え方があるはずである。

それは時に若さ故の過ちと捉えられるかもしれない。

 

しかし、それが若さ故の力強さであり、

大人が成し得ない感情を剥き出しにした行動なのだ。

 

 

 

少年は大人ではないし、それほど人生を生き急いでもいなかった。

ただ、少女が好きで好きで堪らなくて………。

 

 

だから、彼女を放したくないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

第7話 『恋する時に、輝いて…』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【碇家、アスカの部屋】

はふぅ〜。

そんな効果音が聞こえてきそうな感じで、アスカは息を吐き出した。

彼女の手には一冊のマンガ本。

その傍らには、彼女の好物のハンバーガーが置いてあった。

そのハンバーガーが冷め切っている事を考えると、相当集中していたらしい。

 

「……いいなぁ、結婚」

 

陶酔しきっているアスカの口から、そんな言葉が漏れてくる。

どうやら、読んでいたマンガの影響をもろに受けているようだ。

マンガの題名は、『恋する時に、輝いて…』

題名からして、ベタベタの少女マンガである事は予想できる。

事実、表紙の絵も凄い少女チックなものだった。

 

「うぅ……この感動を誰かと分かち合いたいわ。そうだ、シンジに見せに行こ〜」

 

マンガを片手に、アスカは部屋を出る。

冷めたハンバーガーは彼女の口にあった。

 

 

 

 

 

【シンジの部屋】

「読まない」

「ねえ、シンジ。このマンガを一緒に読もう……って、何で先に答えてんのよっ!!」

「お前の行動は読みやすいんだよ」

「あうー……」

 

その一言に半泣きになっているアスカを見て、さすがに言い過ぎたかと思い、

シンジはアスカが持って来たマンガをその手から取り上げる。

それから、数ページをパラパラとめくって読んだが、

次の瞬間にはガックリと肩を落とした。

 

「ねっねっ、面白いでしょ?」

「………この姿を見て、何も思わんのか?」

「感動に打ち震えてるんじゃないの?」

「……得だな、お前のその性格」

 

全く分かってないアスカだった。

普通ならシンジの様子を見て、分かりそうな物だが、

彼女には自分の都合のいいようにしか見えないらしい。

シンジの言う通り、本当に得な性格である。

 

「どうでもいいから、最後までちゃんと読んでよーっ!」

「分かった分かった……。だから、服を引っ張るのは止めてくれ。伸びる」

「あっ、ゴメン…」

「ふむ…。読むとなったら、読み尽くしてやるぞ。セリフの一つ一つに至るまでなっ!」

「そこまでしなくてもいいってば……」

「読むならそこまでしなくてはダメだ。何々……『坊主の頭が、輝いて…』?」

「そんな事、書いてないっ!」

「ちっ、バレたか…。さて、本気で読むぞ」

「今度こそ、真剣に読みなさいよっ!」

「………」

 

アスカはそう言うが、シンジは既に真剣に読み始めていた。

彼女も何回か呼びかけるが、全く反応を示す事は無かった。

ここらへんに、シンジの性格が表れている。

彼曰く、『どうでもいい事に、一生懸命になる性格』なんだそうだ。

どうでもいいが、自分でどうでもいい事って言うのか、普通。

 

 

 

 

 

基本的なストーリーはこうだ。

高校で偶然同じクラスになった二人の男女が色々とあった結果、恋に落ちる。

そして、少年の方から少女に告白して二人は恋人同士になった。

だが、少年は親の仕事の都合で転校しなくてならなくなった。

思い悩む少女。

……まあ、こんな話である。

ちなみに、アスカはこのマンガをマナに借りたらしい。

 

「ふぅ、読んだぞ」

「ねっ、どうだった?」

「ベタなお話だな。こんなシュチュエーションなんて、ありえないぞ」

「それがいいのよぅっ!」

「第一、結婚なんて、人生の墓場なんだぞ?」

「うぅー、そんなにアタシの夢をぶち壊して楽しいわけっ!?」

「ただ、お前に現実というものの厳しさを教えてやってるんだ」

 

アスカはシンジに散々言われて、拗ねた様子で立ち上がった。

そして、シンジを一睨みする。

 

「シンジと結婚する人は最悪ね」

「間違ってもお前とだけはしないだろうから、安心しろ」

 

アスカの嫌味にも、シンジはビクともしない様子で返した。

それを聞いて押し黙ってしまったアスカだったが、反撃するために頭をひねっていた。

…すると、一つの妙案が浮かんだ。

 

「ねえ、シンジ。さっき、セリフの一つ一つまで覚えてやる…って言ってたわよね?」

「おう」

「それならさ、覚えたの?」

「もちろんだ。女の方はちょっと怪しいが、男の方はばっちりだぞ」

「それじゃあさ、なりきってみない?」

「はぁっ?」

「シンジがこの主人公。アタシがこのヒロイン。二人で役に成りきるの」

「まあ、暇だからやってやらん事もないが、お前はヒロイン役は似合わん。

 せいぜい、通行人Bとかがお似合いだ。俺は主人公役が大ハマリだけどな」

「うぅー、シンジこそ、主人公役は似合わないわよぅっ!

 せいぜい、この木の役がお似合いよぉっ!」

「ふかー」

「きー」

「……こうやって張り合ってもしょうがない。やるか?」

「よし、やりましょっ!」

 

かくして、シンジとアスカによる『恋する時に、輝いて…』のなりきりが始まった。

シンジは何故か壁に向かってブツブツと呟いている。

どうやら、自分に暗示をかけようとしているらしい。

アスカはムフフと笑いながら、スカートの裾を払って立ち上がる。

やる気は充分のようだ。

 

 

 

 

 

「ねえ、私たち、別れましょう……?」

「何でだよっ!お互い、好きなのに、どうして別れる必要があるんだっ!?」

「私……私はあなたが遠い所に行ってしまったら、

この好きって気持ちが変わってしまいそうで恐いのっ!」

「俺はこの気持ちを変えない自信がある。

 何年経っても、どこにいても、お前を愛していられる自信があるっ!」

「私はそんな自信、無い……。無いよぉ……」

「………分かった。お前に絶対の自信を持たせてやる。

 俺の勇気をお前に分けてやるから、だからちょっとこっちに来てくれ」

「………?」

 

アスカはシンジが手招きする方に歩いて行く。

シンジは彼女が手の届く所に来たのを確認すると、彼女の手を握り、その体を引き寄せた。

すっぽりと収まってしまうアスカの体。

芝居とはいえ、シンジは始める前に自分に暗示をかけていた。

自分が六分儀シンジであると分からないわけではないが、かなりなりきっている。

アスカはと言うと、シンジの腕の中で真っ赤になっていた。

 

「一度しか言わないから、ちゃんと聞いてろよ?」

「………うん」

「絶対に迎えに来るから。

その時は二人で一緒に……結婚しよう。だから、それまで………さよなら」

 

シンジはアスカの耳に口を付け、囁くように言った。

そもそも、シンジは黙っていれば、結構美形である。

それが真面目な顔でこんな事をしているのだ。

アスカはもう頭の中が真っ白になっていた。

芝居である事など、さっぱり頭から消えていたのだ。

 

「………ぁぅ」

「目、つぶれよ……。勇気、お前にやるから」

「………」

 

シンジがそう言うと、アスカはぎゅっと目をつぶる。

そして、シンジの唇がアスカのそれに近づいて………。

 

「あうーーーっ!」

 

アスカはそんな叫び声とともに目を開けた。

キスをされたと思ったからだ。

だが、アスカが目を開けた時、彼女に見えたのは、

彼女の唇に指を押し付けているシンジと、その意地悪い笑顔だった。

 

 

 

「にっひっひっ、ホントにすると思ったか?」

「あ、あうー、最低よぅっ!乙女の心を傷付けたーっ!」

「まあまあ、怒るな」

「うぅー、シンジなんて大ッ嫌いっ!!」

 

アスカはそう言うと、シンジの机の上に置いてあったマンガ本をひったくるように取って、

部屋から出て行った。

シンジはその後ろ姿を見て、一つ息を吐くと、ベッドにボスっと横になった。

少し目を瞑ってみる。すると、あの時のアスカの顔が思い出された。

 

「あんなに一生懸命に目を瞑られたら、何もできねぇよ………」

 

目を開けると、今度は体を起こして、前かがみになった。

端からは、彼を表情は伺えない。

 

「アイツ、あんな顔も出来るんだなぁ………」

 

前髪の間から覗いたシンジの顔は少し赤くなっていた。

ただ、その目は複雑な色を湛えていたが………。

 

「危なかったな、俺……。もう少しで本当にするところだった」

 

シンジは顔を上げて、天井をぼーっと眺めた。

そして、何を思ったか、ベッドに拳を叩きつけた。

 

「アイツ、この頃どんどんと似て来やがる。

 俺は、アイツに姉ちゃんを重ねてるってのか………?

 そういう事はしちゃいけねぇ、いけねぇんだよ………」

 

彼の目には、涙が輝いていた。

それは何を示す物だったのだろう。

哀しみ、怒り、そして……悔しさ。

 

 

 

 

 

 

カチリ………。

鍵がまた一つ、音をたてて開けられた。

本人の意思の預かり知らぬ所で………。

 

 

 

その日、シンジは初恋の女性の夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED………

 

 

 

 

 

<後書きplusα>

にゃはは、これは何でしょう。

現時点では、これには何の意味もありません。

ただ、後々の伏線になるとだけ答えさせていただきます。

う〜む、久々にちょびっとだけLASって感じでしたね……。

第7話 『恋する時に、輝いて…』 お送りしました。

 

メインキャラも殆ど出てきて、やっと話が動かしやすくなってきました。

今出てきてない人は……あと数人ですかね。

いや、一人は名前が出てないだけなんですけどね。

この前のあの娘です。

あの娘が誰だかは分かりましたよね。

 

さあ、物語も加速し始めて、僕自身、どうなるか心配です。

ただ、一つだけ言っておきましょう。

シンジくんとアスカは幸せになります。

それだけは保証しておいて、次回予告、行ってみましょうかっ!

 

 

 

毎日毎日、遊んでばかりのアスカを見かねたシンジは、

彼女にバイトをさせようと画策する。

ユイの紹介で保育園でバイトをする事になったアスカ。

根がお節介焼きのシンジは言葉とは裏腹に、心配でならなかった。

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

次回、第8話 『チャイルド・パニック』

「そうだな……。後、十五年したら、考えてやってもいいぞ」

 

また、シリアスじゃなくなるんだな………。

 


マナ:なに”ごっこ”してんのよ。

アスカ:失礼ねっ。お芝居よ。お芝居。

マナ:あわ良くば・・・なんて考えてたんじゃないのぉ?(ーー)

アスカ:うっ・・・。

マナ:シンジが、しっかりしてて良かったわよ。

アスカ:変なとこだけ、しっかりしてんだから・・・。

マナ:なにか言った?(^^#

アスカ:べーつにぃぃ。

マナ:ん? なにそれ?

アスカ:これがまた、面白いのよ。

マナ:あーっ! また少女マンガ読んでるぅ。

アスカ:感動よぉ。(^O^)

マナ:”禁じられた、めくるめく愛”・・・何? この危なそうなタイトル。

アスカ:今度は、これでシンジとお芝居すんのよぉぉっ!(^○^)

マナ:没収ーーーーーっ!!!!!!
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