一度目は偶然。

 

二度目は奇跡。

 

三度目は必然。

 

 

 

最初、青い瞳の狐に出会ったのは、本当に偶然だろう。

そして、次に青い瞳の少女と出会ったのは、彼女が命と引き替えに起こした奇跡。

ならば、三度目は、何だろう?

 

 

 

三度目は、必然。

俺とアスカ姉ちゃんの間で交わされた、約束。

俺はそれを必ず守ると決めた。

だから、アスカ姉ちゃんがそう願った以上、俺は叶える義務がある。

その願い、それは………。

 

 

 

 

 

もう一人の私が、シンジくんと一緒にいられますように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

最終話 『奇跡の丘の物語』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【暖かな風が吹く、校門前】

暖かな風が吹き抜ける。

その風が、春の訪れを感じさせた。

穏やかな日々。

その風の中、シンジは一人の少女を待っていた。

悲しみを秘めた、黒髪の少女を。

 

「……六分儀…さん?」

「よぉ、山岸。帰り、一緒にいいか?」

「……構いません」

「そうか、じゃ、行くか」

「ええ、そうですね」

 

実の所、シンジがマユミと一緒に帰るのは、そう珍しい事でもない。

同じ傷を持つ人間。

確かに、安心できた。

 

「……約束は守ってくださっているみたいですね」

「まあな。空元気は得意な方だ」

 

二人の間に交わされた約束。

それは、強くある事。

どんなに悲しくても、強くあり続ける事。

シンジはそれを忠実に守っていた。

 

「それは良かったです」

「いや、冗談だから、流されるとちょっと困るぞ……」

「知ってますよ」

「知っててやられると、更にキツイぞ……」

 

本当に困ったようなシンジの顔を見て、マユミは微かに笑う。

根っから明るいシンジに影響を受けているのだろうか。

それはそれでいい傾向のような気がした。

 

「それにしても、変わりました」

「何が?」

「六分儀さんが、です」

「俺?」

「はい」

 

確かにシンジは変わった。

アスカの事を想うと少し辛いが、それ以外の時はとても落ち着いて見える。

マナの一件の後、それは顕著になっている。

友人にも、それが分かるほどである。

 

 

 

「六分儀くん、ちょっと変わったわね?」

「シンジ、お前、何か大人びて見えるぞ」

「まるで、嫁はんをもらったみたいやなぁ」

 

 

 

最後のトウジの意見はかなり的を射ていた。

シンジの心には、既に一生決めた相手が住んでいるのは、もう変えようの無い事実だったから。

 

「そう、かもな………」

「そうですよ……」

 

気持ちのいい風が二人の間を抜けるように吹いていく。

マユミはその風を辿るように、ある方向を眺める。

この物語の始まりの場所。

奇跡の起こる丘、せいもくの丘を………。

 

「今頃、あの子たちは……あの丘を走り回っているんでしょうか」

「……だろうな」

「そうして、小さな営みの中で、また新しい命が生まれて育つ。その中には、また、人のぬくもりに憧れる子が出てくるんでしょうね……」

「そうかもしれないな」

「……でも、それは仕方ないですね。あの子たちの性分ですから」

 

人の目のあまり届かない丘から、人々を見下ろす物の怪。

想う力の強さから、本来は人と触れ合う事は望めない獣。

……それでいて、人を求めずにはいられない獣。

それが、せいもくの丘に住む妖狐。

 

「確かに、昔話になるだけの事はあるよな」

「そうですね………」

 

二人は揃って、丘を眺める。

それだけで、二人の気持ちは通じたはずだ。

 

「なあ、山岸。一つ質問があるんだが……」

「何です?」

「渚カヲルという名前に覚えはあるか?」

「………はい」

「そうか、やっぱりな………」

 

シンジは本来は誰も気付かないぐらいのマユミの動揺に気付いてしまった。

それは、同じ傷を持つが故のものかもしれない。

 

「彼、何か言っていましたか?」

「人になった狐が消えてしまうのは、昔から決まってる事なんだとさ。くだらねぇ」

「……そうですか。彼がそう言う以上、それは正しいんです」

「だから、くだらねぇんだよ。細かい事なんてどうでもいいだろう?会いたいから、会う。それだけでいいはずなんだ。本当はな……」

「そうかもしれません。私にそれだけの強い気持ちがあれば、それだけで上手くいったのかも……」

「……それで、いいのか?行けば、会えるかもしれないのに」

「いいです。あの時、六分儀さんのようにがむしゃらになれず、諦めてしまったのは、私の罪なんです。

だからこそ、私はあなたに過ちを犯して欲しくはなかった………」

「……ああ、そうだな。お前がいなかったら、間違ってたかもしれない」

 

シンジはマユミの顔を見る。

別に変わったところは見られない。

彼女の中で、過去の事は既に清算されているのだろう。

そして、彼との絆は残っているのだ。

彼女の心の中に、永遠と……。

 

 

 

ふいに、マユミは話し出す。

 

「もしもの話ですよ?」

「んっ?」

「もしも、あの丘に住む妖狐たちが、皆、不思議な力を持っているのなら……」

「……なら?」

「たくさん集まれば、とんでもない奇跡が起こせるかもしれませんね」

 

シンジは一瞬あっけにとられて、マユミの顔を凝視してしまった。

時々、この少女は突拍子も無い事を言い出す。

もしかしたら、こんな夢見がちな一面こそが、彼女の本質なのかもしれなかった。

 

「……例えば、空からたくさんのお菓子が降ってきたり」

「何だそりゃ」

「空からお菓子が降ってきたら、素敵だと思いませんか?」

「全然。降るなら、金の方がいいぞ」

 

その答えを聞くと、マユミは溜め息を漏らす。

確かにマユミの意見は突拍子も無かったが、シンジの意見は夢が無さ過ぎる。

まあ、それが男と女の違いというやつなのかもしれない。

 

「六分儀さんは現実的すぎます」

「そうでもないって。一般論だよ」

「もう少し、夢を持って生きた方がいいですよ」

「………ああ、そうかもしれないな」

 

シンジがそう言って眺めたのは、丘。

今頃は春の花も咲いているかもしれない。

シンジとマユミはあの丘の風が運ぶ夢の中にいて、そこから帰って来た人間だった。

夢はいつか覚めるもの。

……けれど、夢は実現できるものでもある。

シンジは夢を実現させようとする人間であった。

 

「じゃあ、もしも六分儀さんだったら、何をお願いするんです?」

「俺は、お願いはするけど、狐には頼まないぞ」

「えっ?」

「願いは人が人のために叶えるものだ。努力もしないで、お願いするのは筋違いってもんだろ」

「そうかもしれません……」

「まあ、狐がその願いを叶える手伝いをしてくれるってんなら、大歓迎だけどな」

 

シンジは軽く笑いながら、空を見上げる。

雲一つ無い青空だった。

それこそ、彼が彼女と別れた、あの日のように………。

 

「………それで、何を願うんです?」

「そんな事、決まってる。俺の願いは………」

 

自分の少し先を歩くマユミの方を向き直して、言いかけたその時。

彼の視界に、見慣れていたはずの人物が入って来た。

シンジの様子に気付き、マユミもその方向を見る。

その瞬間、彼女の動きも止まった。

 

「うそ………」

 

思わず漏れてしまった一言だった。

それはある意味、しょうがない事なのかもしれない。

真実を知る者には、信じられない事だったのだから。

驚きのあまり、口をぽかーんと開けたままだ。

 

「山岸、俺の願いはな………」

 

シンジは一歩、歩き出す。

すると、青空のはずの空から、雨が降って来た。

まるで、あの時のように、二人を祝福するかのように………。

 

「俺の願いはアスカと一緒にいる事だっ!ずっと、いつまでもなっ!!」

 

とうとう、我慢できずに走り出す。

紅茶色の髪を風に任せてたなびかせている少女は、上着の裾で、顔の辺りを拭っている。

その後、彼女の青い瞳には、涙が溢れていた。

もう、彼女も自分を止められなかった。

感情の迸りは涙に……。

 

「帰って……来たよ。約束通り、帰ってきたんだからぁっ!!」

 

二人は走る。

もう二度と離れたくないから。

この両手で、その存在を確認したいから。

ぎゅっと掴んで、放したくないから。

 

「アスカぁっ!!」

「シンジぃ……っ!!」

 

アスカはシンジの胸に飛び込んだ。

流れる涙も構わずに。

今は泣いてもいい。

彼女の隣には、それを拭ってくれる人がいるのだから。

 

「シンジっ!シンジっ!もう嫌だよぉっ!絶対に離れたくないよぉっ!!」

「分かってるっ!ずっとずっと一緒だからっ!なあ、俺たちは結婚したんだからなっ!!」

「もういいんだよね?我慢しなくてもいいんだよねっ!?」

「ああ、いいんだ。お前はずっと俺の隣にいろっ!絶対に俺のそばから離れるんじゃないっ!!」

「うんっ!シンジが嫌だって言っても、離れないんだからっ!」

「ああ、ずっと一緒だっ!」

 

シンジは力いっぱいアスカを抱き締める。

女の子であるアスカにとって、それは苦しかったが、何故か嬉しかった。

大切にされてる事を実感できるから。

必要とされてる事を実感できるから。

ここにいてもいいと感じられるから……。

 

 

 

せいもくの丘は、ただ静かにその二人を祝福しているようだった。

その証拠に、丘からの風は先程よりも春の匂いを漂わせていたから。

春はもうそこまで来ている。

もうすぐそこまで………。

 

 

 

 

 

これは、妖狐が住むと言われる、せいもくの丘の物語。

天に最も近いとされる、その丘の物語。

そして、これはその物語のほんの一幕。

 

そう………。

 

奇跡の丘の物語の、ほんの1エピソードにすぎない。

 

 

 

彼らがその後、どう過ごしたか。

それはまた違うお話………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Please go to epilogue………

 

 

 

 

 

<後書きplusα>

にゅ……。

疲れたなぁ………。

短いのにね。

はぅ……。

最終話 『奇跡の丘の物語』 お送りしました。

 

ありきたりなエンディングだったと思いますが、どうだったでしょう。

この後のエピローグはおまけに近い内容にしようと思ってます。

いわゆる後日談。

外伝に近いですね。

幸せになったシンジとアスカの姿を書ければと思います。

一応、続きなので、予告をしておきましょう。

 

 

 

奇跡は起こり、少年の隣には少女が。

奇跡の丘、せいもくの丘には春の季節がやってきて、暖かな風が吹き抜ける。

その時、彼らは何を思うのか……。

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

epilogue 『あした』

 

セリフ予告は無し。

だって、全然考えてないもーん。

 


アスカ:感動の最終回だわ。これこそ、愛のなせるわざよ。(うるうる)

マナ:幸せいっぱいのエンディングって感じねぇ。

アスカ:まさに愛の奇蹟とはこのことね。

マナ:最後は人間になれたのね。本当に奇蹟ねぇ。

アスカ:みんなシンジのおかげ・・・。

マナ:山岸さんと渚くんのことがあってこそよ。

アスカ:そうねぇ。ある意味、あの2人には感謝しなくちゃ。

マナ:堂々のハッピーエンドね。

アスカ:ありがとう。ハッピーエンドよぉぉぉっ!

マナ:ん?

アスカ:どうしたの?

マナ:人間になれたのかと思ったら、よくよく見るとお猿さんになってたのね。

アスカ:な、なんですってーーーーっ!(ーー)

マナ:冗談よ。冗談っ。(^^v
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