奇跡の丘の物語は、一時、その幕を下ろす。

 

そこに、人の温もりを欲するモノがいる限り、喜びと悲しみはいつまでも続く。

それは悲劇なのかもしれない。

所詮、人間と獣は相容れぬ存在。

悲しみが圧倒的に多いのは必然だ。

 

その悲劇の繰り返しの中で、宿命を跳ね除けた者がいる。

 

もし、この丘の物語が史実として残っているのであれば、それは革命的な事だろう。

 

その奇跡の中心にいた人物。

 

 

 

彼は、六分儀シンジと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Neon Genesis Evangelion

Another Story

 

The Fox Tail or The Beautiful Girl

epilogue 『あした』

 

written by ディッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、第三新東京市内にある、とある病院。

そのまたある場所で、二人の男が落ち着き無く歩き回っていた。

その近くにある長椅子には、二人の女性が落ち着いて座っている。

まるで対照的だ。

碇家、六分儀家の面々である。

 

「なんで、男ってのは、こんな肝心な時に限って何も出来ないんだろうな?」

「………それについては同感だ、シンジ」

「俺が生まれる時もそうだったのか?」

「……ふっ、愚問を。お前ばかりか、二度目のレイの時もそうだったさ」

「へなちょこ」

「お前に言えた言葉か、馬鹿息子が」

 

二人の男たちが変な意地の張り合いをしている時、座っている二人は奥にある部屋の方を見ていた。

 

「……落ち着き無いわね」

「まあ、男親なんて、あんなものなのよ」

「……そうなの?」

「ええ、これは女の戦いですもの。男は何もできないから、落ち着かないんでしょうね」

「……そう」

 

そう言うと、二人は再び、部屋へと視線を戻す。

男二人は、未だに言い争っていた。

 

 

 

 

 

「おぎゃぁ〜〜っ!!」

 

その声に、四人とも部屋を見つめる。

ちなみに、一番早く反応したのは、当然の如くシンジである。

シンジはだだーっと走って、部屋の前に立った。

そして、そのドアが開く。

 

「あら?」

「アスカは無事ですかっ!?」

「あらら、奥さんだったら、元気ですよ」

「アスカぁ〜〜〜っ!!」

 

既に走り出していた。

 

「あらあら…」

「……どっちだ」

「はい?」

「私の孫は男か女かと聞いているっ!!」

 

ドカァーーーンッ!!

ゲンドウの頭に長椅子が突き刺さっている。

軌道から見て、その長椅子が投げられたであろう場所には、ユイが軽く笑って立っていた。

 

「ふふふっ、すみませんねぇ……」

「いいえ、とんでもない」

「この馬鹿亭主には厳しく言いつけておきますので」

「あ、それで、さっきの質問ですが、女の子です。とても元気ですよ。お母さんに似たのかしら」

「そうですか、私たちも行きましょうか、レイ?」

「………お父さん、こんな所で寝てると、風邪をひくわ」

「………」

 

レイも一応、それだけ言うと、部屋の中へと入って行く。

ゲンドウはその場に伸びていた。

それを見つめる看護婦さんの目。

 

「大丈夫ですか?」

「………私はいらない父親なのか?」

 

哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

「アスカぁーーーっ!!」

「……あ、しんじぃ」

「大丈夫か?どこか痛い所はないか?」

「心配しすぎ。アタシとシンジの子だもん。アタシを傷付ける悪い子なわけ、ないでしょ?」

「それはそうかもしれんが……」

 

シンジはアスカの顔を見る。

少しやつれて見えるが、いつもの彼女の顔だった。

その時、シンジは大事な事に気付いた。

 

「なあ、男と女、どっちだ?」

「……看護婦さんに聞かなかったの?」

「いや、アスカが心配で、それどころじゃなかった」

「それは、まあ、嬉しいけど。普通、子供の性別ぐらい聞くと思うよ?」

「うぐっ、確かに……」

 

シンジはバツが悪かった。

確かに子供の性別くらいは聞くものだろう。

恥ずかしかった。

 

「あのね、女の子。すっごく元気なの。それで、じゃぁーーんっ!!」

「おおっ!!」

 

アスカは布団の中に隠していた赤ちゃんを見せた。

その子は、青い瞳を持っていて、髪は殆ど生えていないが、黒髪のようだった。

確かに、二人の子であるという、証拠でもあった。

 

「う〜〜ん、カワイイっ!」

「おおっ、可愛すぎるぅ〜〜〜っ!!」

 

早くも親馬鹿だった。

 

「ね、シンジ。名前、考えてくれたんでしょ?」

「ふっ、まあな。聞いて驚けよ。大発表と行こうかっ!!」

 

その間に後から入って来た二人も合流する。

ちなみに、ゲンドウは入り口の所で倒れたままだ。

 

「女の子なら、これって決めてたんだ」

「ふんふん、それで?」

「『茜』って書いて、『アカネ』って読むんだ」

「……いいね、それ。アタシの名前からも取ってるし」

「でも、シンジ。あなたはいいの?あなたの名前からは取ってないみたいだけど」

「まあ、次に期待だな。男が出来たら、俺の名前を入れる事を考える」

「………お兄ちゃんの名前から取ったら、ひねくれた子供になってしまうわ」

「レイからも取りたくねぇな」

「……私からもお断りよ、お兄ちゃん」

「ふっふっふ……」

「ふふっ……」

 

二人の間に険悪なムードが流れる。

ユイはそれを察し、レイを連れて、部屋から出て行った。

残されたのは、シンジとアスカ、二人だけ。

 

「ねえ、シンジ。アタシね、不安だったんだ………」

「自分が人間じゃないから、子供も……とかか?」

「……どうして」

「お前の事で分からない事なんざあるもんか。二人で寝てる時でも、お前は寂しがってる。だからな、俺でもそれくらいの事は分かるさ」

「ふぇ……」

「泣いてもいいぞ。今日は許す」

「ふぁぁーーーーんっ!!」

 

シンジはアスカを抱き締め、背中をポンポンと軽く叩いてやる。

しばらくすると、泣き声も収まってきた。

 

「お前は人間なんだ。アカネを見て、分かっただろ?」

「……うん」

「アカネもいい子に育つといいな……」

「うんっ」

 

アスカがその時見せた笑顔は、今までで最高の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【十数年後……】

再び、この街に雪の季節が訪れる。

白一色の世界。

その街の一軒の家から、一人の少女が飛び出した。

腰ほどまである黒髪をルーズな三つ編みにしている。

全体的に見ても、美少女と言って差し支えない少女だった。

その目立つ容姿の中でも、特に目を引くものがある。

サファイアのような、ブルーアイズ。

これは、彼女にとって、母親の娘であるという誇りだった。

 

「わぁ、遅刻しちゃうよぉ〜〜っ!!」

「ぬおっ、遅刻してしまうっ!!」

「二人とも、ギリギリなんじゃない?」

 

少女に続いて、一人の男性も飛び出した。

その二人を玄関から呆れたように見る紅茶色の髪の女性。

先程の少女の母親なのだろう。

青い瞳の持ち主だ。

 

「よしっ、行って来るぞアスカっ!」

「行って来まぁ〜〜すっ!!」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

二人は同時に走り出すと、その時、家の中から子供の泣き声が聞こえた。

女性は家の中に戻り、その子供を抱きかかえる。

 

「まぁ、まぁ〜」

「はいはい、泣かない泣かない。男は泣いちゃいけないのよ、シンヤ」

「まぁ〜」

「ふふっ、分かってるの?」

 

泣いていた子供は泣き止み、既に笑っていた。

女性は窓から空を見上げ、目を細める。

 

「今日もいい天気……」

 

洗濯物がよく乾きそうだった。

 

 

 

 

 

父親と別れた少女は、学校へ全速力で走っていた。

学校まで後少しという所で、一人の同い年ぐらいの少年が立っていた。

少年は、彼女の母親と同じ紅茶色の髪と青い瞳を持っていた。

少年は鋭い視線を少女にぶつけている。

 

「誰?」

「………た」

「えっ?」

「やっと見つけた」

 

少年は少女を見据え、言う。

その少女の名、その名を六分儀アカネと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡の丘の物語。

それはいつもでも続く、悲劇の物語。

けれど、六分儀シンジが起こした奇跡の後、悲劇という名の歴史は繰り返されていない。

それは、狐が人と関わりを持たなくなった故なのか、他の理由による所なのかは分からない。

 

ただ、六分儀の家には代々語り継がれるお話がある。

 

親から子へと語り継がれる、奇跡を起こす狐のお話。

 

 

 

そして、幸福を齎す、狐の物語………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The End………

 

 

 

 

 

<後書きplusα>

エピローグ、終わりました。

うーむ、どうなんでしょうね、これは。

自分でも何を書いてるんだか……。

アカネちゃんはお気に入りだったりしますが。

ちなみに、モデルになったキャラはいませんよ。

 

とりあえず、これでおしまい。

 

最後のシーンはまあ、おまけです。

ただ、狐によって不幸になった人はもういません。

 

私事で恐縮ですが、次回作も用意中です。

舞台は夏。

安直ですね。

まあ、お暇なら待っていて欲しいです。

 

それでは、ここまで呼んでくださった方々。

どうもありがとうございました。

 

ディッチでした。


マナ:赤ちゃん生む時ばかりは・・・男の人はねぇ。

アスカ:まさに女の戦いね。

マナ:生命の誕生に関しては、どんな男の人も無力だからね。

アスカ:最高のハッピーエンドだったわ。。

マナ:涙ものね。

アスカ:でもさ、赤ちゃんを産む感動を味わえないなんて悲しいわね。

マナ:そうかも・・・。

アスカ:あら、アンタもでしょ?

マナ:どうしてよっ!?

アスカ:アンタが結婚できるはずないもん。

マナ:な、なんですってーーーーーっ!(ーー#
作者"ディッチ"様へのメール/小説の感想はこちら。
cdn50010@par.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system