シンジ・アスカの育児日記 〜前編〜



 

 「あ、そうだ、わたし明日から二週間ほど留守にするから。」

 ミサトがそう言い放ったのは夕食も終わり、シンジは後片付けを、アスカはリビングでテレビを見て
いた時のことだった。

 缶ビール片手に上機嫌のミサトとは正反対に固まるシンジとアスカ。

 ようやく正気にもどると、アスカはミサトの前までつかつかつかと歩いて来る。

 「えーと・・・」

 こめかみに指をあてて考え込むアスカ。

 どうやら突っ込み所が多すぎてどれから言おうか決めかねている様子である。

 「なあに、アスカ?」

 そんなアスカの思案顔を気にもとめず、呑気に聞き返すミサト。

 アスカは深呼吸のように大きく息を吸い込むと、次の瞬間一気に放出した。

 「なんで今になって明日のこととか平気で言えるのよ普通こう言うことって事前に連絡しとくのが常
識ってーモンでしょうが大体二週間もあたしとシンジを二人っきりになんてよく出来るわねアンタ本当
に保護者の自覚あんのそれに出張なら出張で留守中の指示とかあるでしょうが社会人としての気配りに
欠けてるわよほらシンジあんたも何か言ってやんなさい!!!!!!!!」

 まるで吹き荒れる暴風のようにまくしたてたアスカに唖然とするシンジ。

 「え、えと、あの・・・留守中の電話はどう処理しましょうか?」

 「ワケの分かんない事言ってんじゃないわよ!」

 「仕事の電話はないと思うから適当に受けといてくれる?」

 「ミサトも普通に答えてるんじゃない!!」

 「じゃあ、用件だけメモって」

 「やかましい!!!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 かくして自覚全くなし保護者の決定事項は覆される事無く夜は更けていった。









 ―――翌朝。

 「それじゃあ行ってくるけど、二人っきりだからってアスカとヘンな事しちゃだめよ♪」

 「ななな何言ってるんですかミサトさん!!」

 朝一番からストレートなからかいを受けて狼狽するシンジ。

 およそ保護者の言う事とは思えない忠告を残してミサトは出張の旅路へと発った。


 アスカが起きてきたのは、シンジが二人分の朝食を作っている最中のことだった。

 「おはよう、アスカ。」

 「うう〜・・・ミサトのやつぅ、本当に行きやがったのね・・・。」

 まだ眠そうな声を出すアスカ。

 「仕事なんだからしょうがないよ。」

 苦笑するシンジにアスカが勢いよく歩み寄ってビシッ!と指をつきつける。

 「あんた!二人っきりになったからってアタシに変なことしたら承知しないからね!!」

 目の前に突き出された優雅な指先を泳いだ眼で見つめるシンジ。

 「そ、そんな事しないよ・・・命かけてまで・・・。」

 「なんですって!!何か言った!?」

 「何も言ってないよ、いいから早くお風呂入ってきなよ、用意できてるから。」

 「言われなくても入るわよ!!」

 そう言ってアスカは風呂場に入っていった。

 「大変な二週間になりそうだな・・・。」

 アスカが風呂場に入ってしまったのを確認してからシンジは嘆息しつつ一人呟いた。

 予想を上まわる「大変」なことが待ち構えているとも知らずに・・・。




 
 家で二人っきりだからと言っても、学校にいる間は何の不都合も無い。

 ミサト不在の事情を知ったヒカリやトウジたちに色々とからかわれたが、まあ予想できた事だった。

 そして平穏な一日の授業も終わり、放課後。

 「アスカ、僕は夕食の買い物してから帰るから先に帰ってて。」

 「はいはい、シンジも主夫業で大変ねえ〜。」

 「・・・誰のせいだと思ってるんだよ・・・。」

 アスカはいつもと変わらない調子で家路に着いたのだった。







 ―――考えてみれば少し期間が長いだけでミサトがいないことなんて初めてじゃないのよね。

 リビングに寝そべってボンヤリとテレビを見ながらアスカは考えていた。

 別に今さら確認することでもないと思うのだが、二週間もシンジと二人っきりだと思うとどうしても
妙に意識してしまう。

 ―――でも、二週間かあ・・・そんな根性ないだろうけど、シンジがヘンな気を起こしてもおかしく
ないような気もするわね・・・。

 いつの間にやらテレビそっちのけでゴロゴロと思案にふけるアスカ。

 ―――シンジがいきなりお風呂上りのあたしに抱きついて「アスカ・・・僕もう我慢できない」とか
言って来たりして・・・おもむろにあたしの唇を・・・唇を・・・・・。

 そこまで想像していきなり素に返ったのか、アスカは顔を真っ赤にして手をパタパタ振り、そこまで
の想像図を振り払った。

 「もう、あたしは何考えてるのよ!なんであたしがバカシンジなんかと!!」

 一人で騒いでいる自分の姿に気付き、決まり悪そうに立ち上がるとアスカは頭を冷やそうと冷蔵庫に
向かった。

 「あたしとしたことがヘンな想像しちゃったわ・・・牛乳でも飲んで落ち着こう・・・。」

 冷蔵庫から牛乳のパックを取り出し、コップに注ごうとしたその時。

 アスカは「その感覚」に気付いた。

 全身の皮膚がピリつくような感覚。

 部屋中の空気が小刻みに震えている。

 「何・・・何なの?」

 部屋中に広がるさざめき。

 しだいにそれはある一点に集まり始める。

 まるで圧縮された積乱雲のように、集まった「それ」は小さな光を無数にこぼす。

 「何・・・・・これ・・・・・?」

 その現実離れした光景を、アスカは呆然と眺めていた。

 そして―――。

 凄まじい突風が吹きぬけた。

 一瞬よろめき、床の上にペタンと腰を落としてしまったアスカが我に返ると先ほどまで「何か」があ
った中空にはなにも無かった。

 「幻覚だったの・・・?」

 まだボーっとする頭で状況を把握しようとする。

 部屋の中にはもやがかかり、夢を見ているような感覚が強い。

 と、なにかがアスカの来ているシャツの裾を引っ張るのを感じた。

 「ひっ・・・!」

 小さな悲鳴をあげ、恐る恐る後ろを振り向くと・・・。






 「はあ!?」

 そこには、一〜二歳くらいの小さなお子様がニコニコと笑ってアスカのシャツを掴んでいた。

 「な・・・・・ななななな何なのよあんたは!」

 パニックを起こし、相手が小さな子供だということも忘れて大声で問い掛けるアスカ。

 一方のお子様はというと、そんなアスカを不思議そうな顔で見つめている。

 やがて何かに気がついたような顔をすると、またニコニコと笑ってアスカの方にすり寄ってきた。

 ヨチヨチ歩きで。

 がしかし、パニック状態のアスカは突然現れた得体の知れない子供に恐怖を感じていた。

 「いやあ!来ないで!!こっちに来るなあ!!!!」

 すり寄ってこようとするお子様から飛びのくように後ろへ下がったアスカ。

 その反応を見て、お子様は再びキョトンとした顔になる。

 そして・・・・・。

 「びえええええ〜〜〜〜〜〜〜〜んんん!!!!!!」

 アスカのヒステリーなど問題にもならないほどの大音量で泣きはじめたのである。

 突然の事にうろたえるアスカ。

 「わかったわよ!あたしが悪かったから泣かないで!!」

 ともあれ、このままにしておく訳にもいかず、何が何だか分からないままに謝ってみる。

 途端にお子様が泣き止んだ。

 まるで小型の嵐が過ぎ去った後のようにアスカは呆けていた。

 お子様は泣き止みはしたものの、まだ不安げにこちらを伺っている。

 

 次第に冷静になってみると、自分の目の前にいるのは赤ん坊といってもいいくらいの子供なのだと言
う事に今さらながらに気付き、アスカはなんとなく可笑しくなってきた。

 「くすっ、こんな赤ん坊に何ビビッてたんだろ。」

 微笑んだアスカに安心したのか、お子様は再びアスカの方に寄り添ってくる。

 「あ、こら、あたしは子供なんか嫌いなのよ。もう少ししたら面倒見てくれそうな奴が帰ってくるか
らこっちに来るんじゃ・・・。」

 アスカの言葉を意にも介さず―――当り前だが―――お子様はまだ床に座り込んだままのアスカの腰
辺りにギュッ!としがみついた。

 さらに。

 「むぁ・・・まぁ・・・マムァ・・・」

 「ま・・・む・・・マ、ママァ!?ちょ、ちょっと、あたしはあんたのママじゃないのよ!!」

 あまりのことに気が動転して当然のことを口走るアスカ。

 慌ててお子様を持ち上げ、腰から引き剥がす。

 途端にお子様の顔が曇った。

 「あっ!ちょっ!な、泣いちゃダメ!!」

 「むうぅ〜〜〜〜!」

 いまにも泣き出しそうなお子様に、とうとうアスカは諦めて抱き上げてあげることにした。

 こわごわと、だが。

 だがそんな頼りなげな抱き方でもお子様は安心しているらしく、アスカの胸でキャッキャと笑い始め
た。

 「マムァ・・・」

 「だからぁ、あたしはあんたのママじゃないってのに・・・」

 うんざりしたように言うアスカの顔を、お子様の手がなでた。



 ―――あ・・・・。

 柔らかい、小さい手・・・こんなに小さいのにちゃんと、動いてる・・・。


 一瞬、アスカは自らが手にしている命の重みのようなモノを感じた。

 「ママ。」

 今度はやけにハッキリとそう聞こえた。

 ―――かっ・・・・・カワイイ!!

 ・・・アスカ、陥落。




 アスカはそれまで以上にお子様を大事に抱きかかえ、いとおしそうに・・・はしゃいでいた。

 「うんもお、あたしはママじゃないってばあ♪」

 「ママぁ・・・」

 「もお〜〜しょうがない子ねえ〜〜♪」

 はしゃぐあまり、アスカはすっかり失念していることがある。

 「そんなにあたしのこと好きい〜〜?」

 彼女には同居人がいる。

 「しょうがないわねえ〜♪」

 そして、その同居人はそろそろ帰ってくる時間である。

 「ほぉ〜〜ら、ママでちゅよぉ〜〜♪」

 どさっ。








 ご機嫌でお子様をあやしていたアスカの背後で何かが落ちる音がした。

 一瞬、凍りついた時間。

 そして、恐る恐る振り向いたアスカの眼には、すっかりその存在を失念していた同居人である少年
の姿があった。

 その足元には、落下の衝撃に耐え切れず中身を床にばらまいた買い物袋。

 震える指先でアスカの胸に抱かれている「モノ」を指差し、少年はうめくように言った。



 「ア、アスカ・・・何、してるの・・・・・・・?」


















   (続く!!)














 ご挨拶:はじめまして、DOMといいます!
     頼まれもせぬのに勝手に書いてしまいました、タームさんご迷惑かけます!!
     学生結婚した友人のお子様を抱かせてもらっているうちにこんなSSが出てきてしまいまし
    た!!K君夫妻、Tちゃんゴメンなさい!
     とくにTちゃん、嬉しそうに笑ってくれたけど、あたしはこんな禄でもないことを考えなが
    らあなたを抱いていたのです!!

     さて、このSS、実は三つのアニメ作品をモチーフにして書かれています。
     いずれも小さな子供に振り回される、それよりは年長の少年少女たちを主人公にしたホノボ
    ノ作品です。(これで分かった人多いんじゃないかな)
     では、前後編になるか中編が入るかは分かりませんが、よろしくです♪

 BGM:TRFで、「BOY MEETS GIRL」でした(笑)!


マナ:DOMさん、投稿ありがとうっ!

アスカ:赤ちゃんって可愛いわねぇ。(*^^*)

マナ:アスカ・・・いつの間に赤ちゃん生んだの?(@@)

アスカ:アタシが生んだんじゃないでしょうがっ!!!!

マナ:だって・・・ママって。(@@)

アスカ:知らないわよっ! でも可愛いから、いいじゃん。(*^^*)

マナ:きっと、シンジはアスカが生んだんだと思ってるわよ。

アスカ:ずっと一緒にいるのに、そんなわけないでしょうがっ!

マナ:だって、そう勘違いされても・・・。

アスカ:ずっと離れて暮らしてたらともかくっ! アタシのこと毎日見てたんだから、んなわけあるかっ!

マナ:だからじゃない・・・。(ーー)

アスカ:はぁ?

マナ:アスカのお腹が出てる原因が、これでわかったはずよ?

アスカ:誰のお腹が出てるってーーーーーっ!!!(ーー#
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