今この瞬間 君を感じて  怨編 「いつか魅た楽園」

ザワザワ・・・・・・ざわ 少年の血の匂いが香る教室 クラスメイトの耳障りな話し声 その場に、いまだ少年の姿は見えない 「碇、来ないな」 「まぁ、あんだけやればさすがに登校拒否だってしたくもなるだろ」 「ちょっとやりすぎたかな・・・?」 調子のいい態度 「瀬田くんがお弁当を蹴ったりするからよ、あれはいくらなんでも酷いわ」 「そうそう。あれはちょっとね」 第三者に、責任は無い、はずがない 苛立ちの高まり、吐き気と目眩い   あいつ、学校来てないんだ・・・・   まさか・・・・・あの靴を・・・・? 脅しの、つもりだった どれだけ自分が嫌われているか、教えてやれればそれで良かった   まぁ・・・・別に、いいけど・・・?   あんなやつがどうなったって・・・・・・し、知ったことじゃないんだから カタ・・・・・カタ、カタ 心の中の呟きとは裏腹に、体の震えが止まらない 「・・う・・・・く・・・・・」   いなくなる・・・・・目の前から・・・・また、いなくなる・・・・・・? カチカチカチ・・・・・ガチガチ、ガチ・・・ 「・・・・ふ・・・カチ・・・・うう・・・・・・あ・・」 歯がリズムを立てて打ち合う 凍えているように、体を抱きしめて   なによ・・・・シンジなんて、どうなろうと私には関係無いわ・・・・・・   わたしは・・・・・ただ、あいつを罰するために・・・・当然のことをしただけ・・   悪くない・・・・わ、わたしは悪くない・・・・・・・よね 不安を隠しきれない 手に爪が深く食い込むほど握り締める 「はぁ・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」 わずかに残る罪悪感と何かに、胸が締め付けられるような感覚 こんなの身に覚えが無い そんなものは、知らない   きっと、寝てないからだわ   ちょっと休めば・・・・すぐにこんなの・・・・・   あ、あんな・・・・あんな馬鹿なんて・・・・・シンジなんて・・・・・・・ ざわざわ・・・・・・・   うるさい・・・・・うるさい!! 殺したい、それほど憎い   よりによって・・・・・・ 責任を擦り付け合う周りの人間 席にいない同居人   もう、何も考えたくない   私を傷つけるのは・・・・・やめて 迫る恐怖と邪魔なクラスメイトと、得体の知れない感覚から逃れるため 少女は気を失っていった 「う・・・・・・・・んん・・・・・・・・・・・・・・すぅ・・・・・・」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ : : : : : 「アスカちゃん・・?」 金色に輝く髪 「大丈夫?魘されていたみたいだけど」 みつめるブルースフィラの瞳 「あ、ママ・・・・」 私のママ 「怖い夢でも見たのね、汗がびっしょりだわ」 あ・・・・ 手が伸びてきた なぜか少しだけからだが強張った    なんで・・・・・? ママは優しく私の体をハンカチで拭いてくれている 「はい、おしまい!  気分も良くなったでしょう?アスカ」 「うん、ありがと」 サァぁ 涼しげに吹く西風    そっか・・・今日はママがお休みを取れたから 風が気持ち良くて、ついうたたねをしてしまったんだ 「ほら、せっかく来たんだから遊びましょう」 「あ、待ってよママぁ!」 「ふふ・・・・・・」 そうして、ひとしきり遊んで木陰で一休みしていたとき・・・ 「ふぅ、疲れたね」 「そうね・・・  あっ、アスカの一番好きな人形ってこの娘よね?」 そう言って持っているのは、どこか私に似ているフランス人形 「人形じゃないよぉ  名前だってあるのっ」 「あら、ごめんなさいね」 舌を出してママは笑った 「それで、あなたの名前はなんているのかしら・・?」 ママはその人形に向かって訊いた 「あのね、その娘の名前はねっ!」    ・・・・・ぁ・・・・・ラ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・え・・・? 「そう、とっても可愛い名前ね」 今・・私は何も言ってない・・・・・ 「よろしくね?」 『・・やめて・・・・・人形なんかに話し掛けないで・・・』 「アスカの友だちだもんね?仲良くしましょうね?」 『人形なんかに・・・・・微笑まないでよ・・っ・・!!!』 キッと人形をにらみつける でも、そのときに見えたもの・・・・それは・・・・・・ ドクッ 「フフ・・・」 にたぁ、と嫌な笑いを浮かべて、まるで日本人のように髪を黒くして私を見ていた。 それが、あの人形・・・・・が? 「ね、アスカ?」 「うん、ママ  ありがと。これでこの娘も喜ぶわ!」 えっ・・・・? なんであなたがそこにいるの なんでママは私を置いてその子を抱いているの 「来てよかったね、アスカ」 「また来ようね」 「ええ、きっと」 そう、きっと・・・・・ ・・・また来よう、ママ 今度はこんな人形要らない 絶対に持ってこない もう二度と私の場所を取らせたりしない ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・・・・ザワザワ、ザワ やけに騒がしい周囲   あ・・・・・・・そっか、教室で寝てたんだ・・・・ 「・・・ん・・・・と」 気付くと、激しく運動でもしたように汗をかいていた すう・・・・・と首筋から滴が流れる 「なにか・・・・・悪い夢でも見てたのかな・・」   でも、そんなに気分は悪くないのに 「着替えないと、このままじゃ最悪ぅ」 ガタッ、勢いよく立ち上がると彼女は振り向きざまに言った 「シンジぃ!あんたのシャツ、ちょっと貸し・・・・・・あ・・・・・・」 ズキッ   そ、そっか・・・・・・あいつ、来てないんだっけ・・・ 「惣流さん、碇君になにか用なの?」 「あ、そんなんじゃないの。あんな奴にようなんてあるはずないじゃない」 訝しげに尋ねる友人に、気軽い口調で返す 今のシンジに話しかけるなんて、自分で自分の首を締めるようなものだ 「あ・・・・は、はは、失敗しっぱい。私としたことが」 ふぅ 溜め息をついて、席に座りなおした   ・・・・・・・・あいつ、本当にどうしたんだろう   登校拒否・・・・あいつが・・・? それは違う、違うと思う なら・・・・   自殺・・・ 昨日のことが頭によぎる   ま・・・まさか、ね それでも、昨日のあのシーンが妙に印象に残る もしあの手を自分が止めてなかったら・・・・・ ドクッ 「は・・・・・・あ、あほらしい・・・・」 また新しく、冷や汗が浮かぶ   だいたい、なんであの馬鹿がいないくらいでわたしがこんなに動揺してるの・・・?   ふざけないで・・・・・・冗談じゃない 「あんな自虐マゾのことは早く忘れるにかぎるわ」 カタ、カタ・・・ そう言いつつ、手の震えは止まっていなかった 顔まで青ざめて、まるで病人のように血の気が無い   うわ・・・なによこれ・・・気持ち悪い・・・ 不安と、なぜか首を締めつけられるような感覚 あるいは昔のことを体が覚えているのかもしれない 「げ・・・・げぇ・・・・・はぁ、はぁ・・・・」 はあ・・・はあ・・・・ 息が乱れて、途絶え途絶えになって まるで何かに縋るようにアスカは無意識に少年の机の方を見るのだけど・・・・・・ ドクッ   いない・・・・何でいないのよぉ・・ 「嫌・・・・いや・・・・・だれか・・・・」 汗に交じって、涙が滲んだ 顔を俯いていて周りの人間には見えない 彼ならあるいは気付いたかもしれないけど   いない・・・いない・・・・?   私は独り・・・・・私はいらないの・・・・・・・? けほ、けほ、と咳き込んでじっとシンジの机を見る そこには・・・・あのときの、血がこびりついていた ドクッ 「っ・・・!!!!」   フラッシュバック、あのときの、あのママが自殺したときの、あの口からとぽとぽと・・・   シンジの腕から・・・・あれは、私が・・・・・・   私の所為・・・・?   私が・・・・・刺した・・っ!! 「う・・・・げ・・・・げぇ・・・・・」 嗚咽、心臓の異常な鼓動 まるで麻薬常用者のように狂っている   嫌・・・いやなの・・・・   謝るから、なんでもするカラ・・・・・・   独りジャナイ・・・・・独りハイヤ・・・・   ・・・・・・・・独リニ・・・シナイデ・・・・・ ドクッ 「・・ハ・・・・・ア・・・・・アアァ・・・・・ア・・・」 ガラッ 教室の扉が開く 「皆さん、席に着いてください」 入ってきたのはあの年老いた教師だった わらわらと生徒は自分の席に戻る 「う・・・うぅ・・・・・はあ、はあ・・・・」 乱れた呼吸が収まらない 「アスカ、大丈夫・・・・?」 親友の学級委員の彼女 「あ・・・・・ひ、ヒカリ・・・・・・」 目を見開いて、まるで初めて見るように驚愕していた 「あ、アスカ・・本当に大丈夫なの?」 そう戸惑ったように聞く相手に、徐々に瞳を元に戻していく 「と、うん・・・・・平気・・・ふぅ・・・・」   落ち着いて・・・・ フゥゥゥ・・・・・ 深呼吸 少しずつ、少しずつ高まった鼓動は静かになっていった 「ごめんね、ヒカリ」 「うぅん、元気ならそれでいいのよ」 トク、トク、トク・・・・・・ 正常に脈打つ 今、この場だけでも誰かがそばにいて・・・・    良かった、独りじゃない・・・・ そう、自分に言い聞かせて正気を保つ 未だに消えていない首の感覚、誰かの手が這いずり回るように気持ちが悪くて それでもとにかく、自分の隣に誰かが・・・・ と、そのときに カタン、とその相手は席を立った 「起立、礼」 ガタッ 一瞬、自分のそばを離れた・・・・   いなくなった・・・・? ガタガタガタガタ・・・・・・ 体が異常に震えて、またぽたぽたと冷や汗が流れる 「・・・・・・ヒカリも・・・・裏切るの・・・・?」 「着席」   裏切るのね・・・ママと同じように・・・・シンジと同じように・・・・   シンジ・・・・?   そういえば、あいつは・・・・どこに・・・どこ・・・・ 気が動転して、何がなんだかわからない もはや目の前さえ見えなくて、ただ彼の机だけを凝視して   いた・・・・シンジだ 良かったぁ・・・・と、安心して息を吐く 彼が自分に何をしたのかさえ、もう忘れてしまったんだろう とにかくそれでも、今まで自分と長く一緒にいた存在だから、 ただ安堵したはず・・・・・・だけど   シンジぃ・・・・・ 彼がいつ来たかって・・・・・・そう、来ていない この教室にはいない 幻を見ているにすぎない 「シンジ・・・・シンジ・・・・・」   独りじゃない・・・・私にはあいつがいるから・・・   だから 「さて、HRを始めます。今日の欠席は・・・・・碇シンジくんだけですね」 「え・・・?」   何言ってるの・・・・?   いるじゃない、そこに   ほら・・・・・ほら   ほらっ ドクンッ そう、自分に言い聞かせるのだけど・・・・・ フワァとその彼の現像は空気中に溶けていくように消えていった・・ 「ッ・・・・・・・・・・・・・・」 フゥゥ・・・・・・・ガンッ・・!! まるでスローモーションのように、あの学級委員の彼女には見えた 横を流れるように、視界から消えていくように、ゆっくりと倒れていった あの栗色の髪がすぅ・・・・と弧を描いて・・・・・・   シン・・・・・・・ジィ・・・・・・・・・・・・ 「・・・・アスカ・・・・・アスカ?アスカ!しっかりして!」 「これはいかん、早く保健室へ!」 「救急車よ!電話で・・・・・」 ざわざわざわ・・・・ 周りでかすかに聞こえる、蝿が飛ぶような耳障りな音に彼女はまったく気付かずに   シンジ・・・・シンジ・・・・・・私ノ・・・・ ドクン、ドクン、ドクン、ドクン 延々と続く脈と、首を誰かの手が締めつけていくような感覚と共に 気を失っていった 「あ・・・ッ、アスカァァアアッ!!」 親友の彼女の声も、今はもう届かない                                                          憎編へ


マナ:やっと、シンジのありがたみがわかったみたいね。

アスカ:後の祭りとはこのことだわ。(ーー;

マナ:アスカは、どうなっちゃうのかしら?

アスカ:精神病院に行ったりしないでしょうねぇ。

マナ:このまま精神崩壊?

アスカ:それだけはイヤーーーー!!
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