シンジ君誕生日記念SS
Birth−day memories

僕は今まで誕生日という物が好きじゃなかった。
母さんが居なくなってしまう前の記憶は今も殆ど無いし、居なくなってからは思い出したくもなかった。
何故なら僕はずっと独りぼっちだったからだ。
うろ覚えでしかない母さんの葬式の後、一応遠い親戚の叔父夫婦が僕を引き取ってくれた。
でもそれは『引き取って育ててくれた』だけで、触れ合いなどは無くほとんど僕は独りだった。
だから、子供の頃からそう言った物を祝って貰った記憶なんて無い。
…いや、確かにあることはあった。でもそれは、
―形ばかり取り繕ったようなケーキに、想いのかけらも籠もってないおざなりなプレゼント―
毎年毎年そんなものばかり。子供心にもそこに「愛情」なんてない事が理解出来そうなものだった。
父さんからは何も無かった。いや、後に叔父夫婦から聞いた話では相当額のお金だけは貰っていたようだ。
でも、それだけ。
僕はたった一言だけでも良かった。
「シンジ、誕生日おめでとう」
そんな短い言葉でも良かった。
寂しさのあまり幾度か電話を掛けた
でも答はいつも同じ。『今私は忙しい』『すべては叔父夫婦に任せてある』の一点張り。
中学に上がった頃は流石に電話すらしなくなった。
 
 
流されるがままのように10年が過ぎ、14才になった僕はそれまで(意図的なものもあったにせよ)ほとんど
音信不通だった父さんにいきなり呼ばれた。
そこから先は…およそ常識とはかけ離れた世界、忘れようにも忘れられない日々の連続だった。
そんな中、僕はある少女と巡り会った。
抜ける様な青空と吸い込まれそうな青い海、そしてそこに似つかわない多くの灰色のオブジェ。
非現実の塊の様な毎日の中の更なる非現実。
すり減る身体に蝕まれてゆく心。そんな中僕は彼女―アスカに淡い想いを抱くようになった。
悪化を辿る日々の中で唯一『拠り所』として求めようとした。
…でも出来なかった。
それは僕の心の臆病が為したもの。他人を求めるくせに他人と触れ合う事を恐れる僕の臆病が為したもの。
結果それが僕の行動を凍らせ、そして悲劇へと邁進させた。
そして僕の心の臆病が引き起こした最大の悲劇、
―サードインパクト―
全人類が一つの赤い海の中に融けてしまった。
でもそこで僕はアスカの心の内を知った。僕と良く似た物や僕よりも酷かった物。幾つも幾つもあった。
その時初めて僕は自分がアスカにした事に気付いた。
アスカが僕にして欲しかったことに気付いた。
僕は眠ったままのアスカを前に激しく哭いた。そして僕が受けるべき罪を知った。
それはアスカが僕の手を握り返しながら目覚めてくれた後、より強くなって行った。
 
 
そして僕は15才になった。
今日はアスカの退院の日。
そして僕がアスカから断罪を受けるべき日だった。
 
退院の道すがら思い出の公園に寄った僕等は向かい合っていた。
今までに無いほど強い意志を持ってアスカに断罪を求めた僕を前に、まるで苦虫を噛み潰したかの様な渋い顔で
しばし考え込むような姿勢をとった後、腰に手を当てたポーズで仁王立ちしたアスカは『あのポーズ』で僕にこう言った。
「そう!じゃぁアタシがアンタに判決を言い渡すわ!」
何事にも前向きで強く見せていた、懐かしくも思うそんなアスカからの判決は思いもよらない物だった。
「バカシンジ!アンタはこれからアタシの為だけに生きなさい!」
「………え?」
「アタシの為だけに美味しい食事を作り、アタシの為だけに家事をこなし、アタシの為だけに日々の生活をしなさい!」
「ア、アスカ?」
「毎日アタシに『おはようのキス』する事!食事が終わる度に何処に居ようとアタシを抱きしめて優しくキスをする事!
 それからアタシと毎晩一緒にお風呂に入って、アタシを毎晩優しく抱きしめて寝る事!」
「÷♀$&☆◎※?!」
そう叫ぶように言うとアスカはいきなり僕を絞め殺さんばかりに抱き付いた。
あまりもの感触に僕は声にならない叫び声をあげてしまった。
しかし、大胆な行動とは裏腹にアスカの様子は変だった。
僕に抱き付いたままのアスカの身体が微かに震えていた。やがて何かを言おうとしたときアスカが口を開いた。
「絶対に逃がさないわよ…もう絶対に独りになんかなりたくないし…させないんだから…」
そう言いながら身体だけではなく声すらも微かに震わせるアスカを見て、僕は「人生最高のプレゼント」を得たことを確信した。
そう、有り得るはずのない、断罪を申しつかるべき最愛の人物からの「赦し」を。
きっとアスカはあの「赤い海」の中で僕がそうであった様に僕の心に触れたのだろう。
僕のすべてを知ったんだろう。そしてそこで僕が何に苦しんでいるのかを知ったんだろう。
その上でアスカは僕を赦してくれたのだろう。
軽い嗚咽を交えながら尚も体を震わせ続けるアスカを抱きしめつつ、僕はそう考えていた。
そしてある事に気が付いた。僕は初めて「心のこもったプレゼント」を貰った事に。
その事実が僕の心奥に秘めていたアスカへの想いを一気に爆ぜさせた。
そっと、でも力強くアスカの身体を抱きしめた僕は、愛の告白と共にアスカにある誓いを立てた。
 
 
そして16才になった僕はアスカと2人っきりで暮らしていた。
勿論、隣の家にはEVAのコアの中から復活してきた僕の母さんやアスカのお母さん―惣流キョウコツェペリンさん―も住んでるし、
母さんからかなりのお仕置きの後「特赦」を貰えた父さんも、そして正式に養子縁組を交わした綾波―いや妹のレイも住んでる。
最初はお互いの「親」と一緒に住む事も考えた。
多少は割り切れている(と自分では思ってる)僕はともかくとして、完全に復活しているとは思えないアスカの「精神状態」のためには
その方が良いと思っていた。
でもその考えはあの日の「誓い」によって却下された。
 
「わかったよアスカ…僕のすべてをアスカに捧げる…償いには全然足りないかも知れないけど、僕の持ってるすべてをアスカに捧げるよ…」
「絶対…絶対だからね…嘘付いたら……ゆ、許さないんだからぁ………!」
 
あの日僕は『僕のすべて』をアスカのために捧げる事をアスカと自分自身に誓った。
アスカもそれを受け入れてくれた。清く純粋な雫ととろけそうになる程柔らかな口唇を伴って。
以来僕はその誓いのままにアスカの側に居る。アスカと2人っきりで。
ただ、長い間僕等と離ればなれだった母さん達の望みもあった。
―出来るだけ子供達のそばに居たい―
おそらく母さん達にも「償い」の気持ちがあったのかも知れない。僕等もその心だけは理解出来ていた。
そこで折衷案―と言う訳じゃ無いけど、部屋の空いていたコンフォート17に全員越して来ている。
3日に一度は夕食を共にする。急用がない限りは月に一度は家族のコミュニケーションのために全員でピクニックに行く。
等々、そんないくつかの取り決めだけはして、以来今の様な「スープの冷めない距離」が決まりになっている。
母さん達は寂しそうだけど、お互いにそれ程干渉し合わない今の状況を僕もアスカも気に入っている。
 
 
アスカと愛を育んで2年が経った。解り合えるようになっても喧嘩もしたしそれを上回る仲直りもした。
そうしてゆっくりと、でも確実に僕等は想いを愛を育んだ。
今日はその集大成の日だ。
僕の18回目の誕生日、そしてアスカを永遠のパートナーにする記念の日。
 
僕と違って和解出来なかった父親の代わりに冬月さんが父代わりになって緋色の敷布の上を歩くアスカ。
眩しく輝くように映える純白のドレスがアスカのすべてを更に引き立たせる。
やがて荘厳な幕が上がり、僕等は永遠では足りないほどの愛を誓い合った。
結果、僕にとっての「人生で最高のプレゼント」はその記録をあっさり更新してしまった。
―すべてに絶望を抱えてた、あの頃の僕が今の幸せに包まれた僕を見たらどう思うだろう?―
あまりの緊張からそんな訳の分からない事を思い浮かべていた僕を目の前の清白の天使が現実に引き戻してくれた。
そして、僕等はいつものKISSとは違う「誓いの口づけ」を交わした。
高らかに鳴り響く鐘の音、響き渡る知己達の歓声、そして降り注ぐ幾種類もの花弁。
最愛の女性をお姫様の様に抱きかかえる僕に祝福が浴びせられた。
そして僕は心のままに妻となった腕の中のアスカに数回目のKISSを捧げた。
 
 
そして―
「頑張ってアスカ!もうすぐだよ!」
「奥さん頑張って下さいもう少しです!」
「クゥッ!シ、シンジィ…うぁっ」
………
オギャァッオギャァッオギャァッ
ふぎゃっふぎゃっふぎゃっふぎゃっ
「おめでとう御座います!元気な男の子と女の子の双子ですよ!碇さん」
僕の19回目の誕生日の朝、アスカは僕にさらなる最高のプレゼントを贈ってくれた。
それは「あの時」までの僕等が欲していた『家族』。
僕とアスカのかけがえのない『子供』
それが2人もだ。これが幸せでなければ僕には史上最大級の罰が当たってしまう事だろう。
僕はぐったりしてしまっている最愛の妻アスカの手を優しく、だけどしっかりと握り締めこう伝える。
「有り難うアスカ…よく頑張ってくれたね。生まれたんだ、僕等の子供だよ」
そして看護婦から渡された我が子達を母となったアスカに見せる。
「私今すっごく幸せ…だってシンジの愛する人の子供が産めたんだもの…」
涙を流しながらやややつれ気味のアスカは、我が子の頬をそっと撫でるとこう言ってくれた。
僕も泣いていた。それもみっともないくらいの泣き笑いで。
『不遇』としか言いようのない幼少時、『異常』としか言いようのないあの1年。
そして『幸せがインフレーション』していた今までの日々。
すべてが走馬燈の様に回る。でもまだ終わった訳じゃない。このインフレはまだ続いているのだ。
「最高のプレゼントだ、愛してるよアスカ」
 
これからも忘れられない誕生日が続くのだろう。
この笑顔が僕のために送られ続ける限り。
 
「誕生日おめでとう、シンジ!」
 
 
fin
 
 
                                      (ver.2 2002-06-08 up)

ども、壊れた「LASマニア」の富嶽震電です。先日某所にフルシリアスなLAS作品を投稿して以来、頭の
 
中がシリアスチックになってます。
 
しかし、考えてみれば私の「同人デビュー作」ってシリアス系パラレル作品だったんだよなぁ…最近激甘なの
 
しか書いてないから気が付かなかった(笑)
 
次回は多分甘いでしょう。書きたいって思っている数多くのネタもほとんどが『甘系』ですから(笑)
 
さ〜て、どのLASから書こうかな(爆)
 
あ、遅くなりましたが(笑)シンジ君誕生日おめでとう。アスカ嬢からとびっきりのプレゼント貰ってね(爆)
 
で、それが何か教えておくれ(核爆)どんなHな内容でも良いから(切腹)


マナ:子供の頃のシンジ・・・可哀想。(;;)

アスカ:シンジとはちょっと違うけど、アタシも似たような子供時代だったから、よくわかるわ。

マナ:シンジが1番欲しかったのは愛情だったのね。

アスカ:どう? シンジの誕生日プレゼント。素敵だったでしょ?

マナ:求めてた愛情を貰えて嬉しかったんでしょうね。

アスカ:シンジの幸せそうな顔を見たらわかるでしょ?

マナ:もうちょっと待っててくれたら、マナちゃんの愛情をあげたのに。

アスカ:それは迷惑だからやめなさい。

マナ:迷惑じゃないわよっ! って、それはおいといて、素敵な誕生日記念作品だったわね。

アスカ:シンジっ! ハッピーバースデーっ!

マナ:お誕生日おめでとうっ!
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