行けなかった場所 〜それぞれの一歩〜 【前編】

                          フラスコ


一年、全てが終わったあの日から一年が過ぎた。

各地では復興活動が進み、再び人々が活気を取り戻していた。

そして、新たな道を歩もうとしていた。

そんな中、未だその距離を縮められない人々がいた。

『一歩』が踏み出せないのだ。

『一歩』踏み出せば変わる距離。

そんな状態を保って今まで来た、そんなある日。

 

 

シンジは司令室の前にいた。突然の呼び出しに驚いたし、戸惑いもした。

しかし、最近両親とよく電話で喋るようになった一人の少女が背中を押してくれた。

 「親子なんでしょ。びくびくする事ないじゃないの。行って来なさいよ。」

その言葉でここまで来れた。シンジは思う。この少女がどれだけ自分にとって大切なのかを。

 「碇シンジです。」

 「お待ちしておりました。どうぞ中へ。」

ガードをしている職員に促され中へ入る。あいも変わらず無機質な部屋。

そこに彼の父、ゲンドウはいた。

 「……父さん、用って何?」

 「とりあえず座れ。」

言われるままにソファーに腰を下ろす。それを確認するとゲンドウは引き出しから何か取り出した。

そして、それをシンジに手渡す。沖縄行きの航空券とホテルの住所。

 「これは?」

 「見てわからんのか。航空券と住所だ。」

 「だから何でこんなものを。」

 「セカンドチルドレンと行って来い。」

 「えっ?ど、どうしてアスカと。」

シンジはうろたえた。なぜアスカなのか。どうして沖縄なのか。なぜ今こんな事をするのか。

ゲンドウの真意が見えなかった。

 「誰が二人でと言った。保護者同伴だ。葛城君にも渡してある。」

 「あっ、そうなんだ。でもなんで…」

 「可笑しいか?」

 「えっ?」

いつもとは決定的に違うゲンドウの雰囲気。それにもましてその次の言葉が気になった。

 「可笑しいか?」

再度ゲンドウが問う。

 「ううん。可笑しくないよ。ただなんでこれを?」

 「修学旅行だ。」

 「えっ、修学旅行?」

 「行けなかっただろう。行って来い。行きたくないなら行かなくてもいい。」

シンジは気付いた、ゲンドウの真意に。嬉しさがこみ上げ顔がほころぶのを感じた。

 「うん。わかった。行ってくるよ。」

 「そうか。」

 「あの…父さん。」

 「何だ、まだ何かあるのか。用は済んだぞ。早く知らせに行ったらどうだ。」

 「う、うん。それじゃあ。」

言いにくかった。だが無駄にしてはいけない、このチャンスを。

自分にとって一番大切な人のあの言葉を。

ゲンドウが踏み出した『一歩』を。

そして少年は『一歩』を踏み出した。

 「父さん。」

 「何だ。」

 「ありがとう。……また来てもいいかな?」

 「……ああ。」

そっけない返事。だがシンジにはとても暖かいものに聞こえた。

司令室を後にする。シンジはこれからは今までと違う、新しい何かがはじまっていく気がした。

 

 

コンフォート17、葛城家の玄関。それを越えるとあの少女がいる。

 「ただいま。」

 「おかえり。大丈夫だったでしょ。」

 「うん。でもどうしてわかったの?」

 「シンジ、ずいぶんと嬉しそうだもん。一目でわかるわ。」

そうなのだ。今のシンジは周りから見ても何かいい事があったとわかるほど嬉々としたものだった。

 「うん。アスカ、ありがとう。アスカのおかげだよ。」

 「別に気にする事ないわよ。それで、どう言う用だったの。」

 「う、うん。その事なんだけどさ。リビングに行かない。」

急に態度が変わったのを、不審に思いながら頷いてリビングに移動する。

 「それで?」

 「あのさ、僕達修学旅行行ってないよね。」

 「ええ。正確には‘行けなかった’だけどね。それがどうかしたの?」

 「あの、これ。」

そう言って差し出したのはあの航空券だった。

 「えっ?これって……」

 「アスカ、一緒に行かないかな?」

 「…………………。」

じっと航空券を見つめたまま押し黙ってしまうアスカ。

その様子にどうして言いか解からないシンジ。

 「えっ、えっと。これ、父さんにもらって『行って来いって』それで……」

 「…………………。」

 「も、もちろん二人っきりじゃなくてミサトさんも来るんだけど。」

 「…………………。」

アスカは迷っていた。司令が絡んでいるとは言え、シンジが一緒に行こうと言っているのだ。

シンジの誘いを受ける。

傍から見れば簡単な事でも、今まで距離を置いた関係を保ってきた二人にとってその距離を縮めてしま 

うかもしれない、アスカはそれが怖かった。

 「そう、やっぱり今更だよね。じゃあ父さんには行かないって行っておくよ。」

シンジが諦めようとしている。

今、目の前の少年はありったけの勇気をふりしぼって、自分を誘っているに違いない。

今まで彼と一緒に暮らしてきた少女にはそれが手に取るようにわかった。

アスカはそれに答えるべく『一歩』を踏み出した。

 「……行くわ。」

 「えっ?」

 「誰も行かないって言ってないでしょ!司令がだしてくれるんなら思う存分楽しむわよ。

  わかったわね、シンジ。」

 「うんっ!」

 「じゃあ早速買い物行くわよ!」

 「ええっ!今から行くの。」

 「不言実行!さっさと用意しなさいよ。」

 「ううっ。わかったよ。」

アスカ、難しい熟語もだいぶ使えるようになったんだな。と思いながら着替える為に部屋に戻る。

 

こうして二人(とおまけの一人)は行けなかった場所へと旅立とうとしていた。

 

                                          続く


                                       

 後書き

フラスコです。連載途中でいきなり別の話。しかもたぶん前後二段です。

修学旅行行ってた時に思いついてすぐ書きたくなって書いたんです。

とりあえず予告で次は沖縄です。一応今回みたいな感じでLASにする予定なんですが……。

うまく出来るかどうかとっても不安です。

ついでに『マネーハンター』は後編が終わってからってことで。

結構、横暴かも。許してくださいね。って読んでる人いるんでしょうかね?


マナ:いいなぁ。わたし沖縄行ったことなーい。

アスカ:チルドレンとして頑張ったんだから、これくらいのご褒美当然よっ!

マナ:沖縄行ってみたーいっ! みたーいっ! みたーいっ!

アスカ:自費で行けばぁぁ。(ー.ー)

マナ:そんなお金無いもーんっ!

アスカ:沖縄くらいバイトかなんかでなるでしょうがっ。

マナ:1人で行ってもつまんないもーんっ!

アスカ:ンなことまで知らないわよっ!

マナ:アスカだけずるーいっ! ずるーいっ!

アスカ:ほれほれ、うらやましいでしょうぉ。(チケットひらひら)

マナ:えーいっ! わたしの名前書いちゃえっ!(カキカキ)

アスカ:わっ! なっ、なんてことすんのよっ!(ドゲシッ!!)

マナ:だって、行きたかったんだもん・・・。(・;)

アスカ:あーーーん。アタシのチケットがぁぁぁぁっ! シンジのと交換しちゃおっと。
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